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国家機関の実質的権限 第55回

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第55回 】★      
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                               PRODUCED by 藤本 昌一
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【テーマ】 国家機関の実質的権限


【目次】  問題・解説

 

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 ■ 平成20年度問題5
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   国家機関の権限について次のア〜エの記述のうち、妥当なものをすべて
 挙げた組合せはどれか。

 ア 内閣は、実質的にみて、立法権を行使することがある。

 イ 最高裁判所は、実質的にみて、行政権を行使することがある。

 ウ 衆議院は、実質的にみて、司法権を行使することがある。

 エ 国会は、実質的にみて、司法権を行使することがある。

 1 ア・ウ

 2 ア・イ・エ

 3 ア・ウ・エ

 4 イ・ウ・エ

 5 ア・イ・ウ・エ
  
 
 
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 ■ 解説
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 ○ 参考図書

 芦部信喜著 憲法 岩波書店
 
 
 ○ 序論

  「実質的」な考察は、は、前回の問題と共通性があるので、ここでとり
 あげた。

 
 ○ 本論

   肢1について。正

  立法の意味について、形式的意味の立法と実質的意味の立法という二つ
 の意味がある。
 形式的意味の立法とは、規範の中身が何であるかを問わず「法律」と
 いう形式だけを問題にする。
  実質的意味の立法は、規範の形式が法律であると命令であるとを問わず
 中身を問題にする。
  憲法41条が規定するのは、実質的意味の立法であるため、不特定多数の
 の人に対して、不特定多数の事件に適用される法規範は、国会が定立する
 ことになる(前掲書)。
 しかし、憲法のもとでは、内閣の発する政令によって、法律を執行する
 ためのもの(執行命令)ないし法律の具体的は委任に基づくもの(委任命令)
 を 定立することができる(憲法73条6号)。
 したがって、「内閣は、実質的にみて、立法権を行使することがある」と
 いうのは正しい。
 
 ここで、以上記述したところを要約するとともに、関連事項を述べておき
 たい。

 (1)実質的意味の法律の概念は、もともと「国民の権利を直接に制限し、
    義務を課する法規範」と考えられてきたが、現在では、前述したように
   「不特定多数の人に対して、不特定多数の事件に適用される法規範」である
   というように広く解釈されるようになった(前掲書)。
 
              ↓

 (2)したがって、以上のような実質的意味の法律は、国会において、法律
   という形式でしか定められないというのが、国会は、唯一の立法機関
     であるとする憲法41条の帰結である。
 
              ↓

 (3)しかし、法律の個別的・具体的な委任があれば、 その限度で政令
 (委任命令)において、実質的意味の立法を行うことを憲法が許容して
   いる。


 派生原理

 (1)(2)と民主・自由の結びつき

 「国民が権力の支配から自由であるためには、国民自らが能動的に統治に
  参加するという民主制度を必要とするから、自由の確保は、国民の国政
  への積極的な参加が確立している体制においてはじめて現実のものとなる」
 (前掲書)。
 
   その他、憲法31条の「罪刑法定主義」・憲法84条の「租税法律主義」
 憲法29条2項の「財産権の法律による一般的制限」も(1)(2)から
 の帰結。

 (3)の政令との関連では、条例による財産権の制限が許されるかが争点
    になったものとして、奈良県ため池条例事件(最大判昭和38・6・26)
    がある。なお、これは、憲法29条2項も関連する。

  次のとおり判示。

   本条例は堤とうを使用する財産上の権利の行使をほとんど全面的に
    禁止するが、これは当然に受忍されるべき制約であるから、ため池の
  破損、決かいの原因となる堤とうの使用行為は、憲法・民法の保障する
  財産権の行使のらち外にあり、そのような行為は条例によって禁止、
    処罰することができる。

   これに関連する学説として、「条例は住民の代表機関である議会の
    議決によって成立する民主的立法であり、実質的には法律に準ずるもの
  であるという点に、条例による(財産権の)内容の規制も許される根拠が
  ある、と解するのが妥当である」とするものがある(前掲書)。

      後記に連動
     ↓
   その他に、条例によって罰則を定めることができるか否かが争われた
  ものとして、最大判昭和37・5・30がある。

  次のとおり、判示。

     刑罰を法律の授権によって法律以下の法令で定めることもできる
  (憲法73条6号但し書の政令)としたうえで、条例は、法律以下
   の法令といっても、公選の議員をもって組織する地方公共団体の
  議会をを経て制定される自治立法であって、行政府の制定する命令
   等とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもって組織する
  国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例に
  よって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的
   であり、限定されておればたりると解するのが正当である。

  ここでは、次の点に注目。

  委任命令の場合には、前述したとおり、「法律の個別的・具体的な
  委任」を要するのに対して、条例については、「法律の授権が相当な
 程度に具体的であり、限定されておればたりる」とされる。

  
   肢2について。正


   最高裁判所は下記の司法行政事務を行う。
  
 下級裁判所の裁判官指名権(憲法80条第1項)・下級裁判所および
 裁判所職員を監督する司法行政監督権(裁判所法80条。裁判官会議の
 議によって行う。同12条)《前掲書》

 なお、これらは、明治憲法では司法省(現在の法務省)の所管に属して
 いた行政事務であって、裁判作用とあわせて行政事務を行使する点で、
 最高裁判所の地位と機能は、戦前の大審院と大きく異なる(前掲書)。

   したがって、肢2は明らかに正しい。

   肢3について。 正

  議院の機能の一つである内部組織に関する自律権として、議員の資格
 争訟の裁判権(憲法55条)がある。これが、実質的にみて、司法権
 の行使であることは疑いない。肢3は正しい。
  
   なお、次の点に注意。

   当該裁判権は、議員の資格の有無についての判断をもっぱら議院の自律的
 審査に委ねる趣旨のものであるから、その結論を通常裁判所で争うことは
 できない(前掲書)。

  肢4について。正。疑問あり。

  これは、弾劾裁判(64条)を問題にしていることは、疑いない。しかし、
 次の指摘には、注意を要する。

  国会の権限に属するのは、弾劾裁判所を設けることだけであって、弾劾裁判
 を行うのは弾劾裁判所の権限であり、弾劾裁判所は、国会の機関ではないこと
 は注意を要する(清宮四郎著・憲法1・有斐閣発行)。

  ここに注目すると、実質的にみて、司法権を行使するのは、国会ではなくて、
 国会の設置した弾劾裁判所ということになる。
 しかし、国会において、両議院で組織された訴追委員会が、裁判官の罷免を
 訴追することになっている(国会法126条)。これも司法権の行使だとみれば、
 この肢は正しいことになるのだろうか。あるいは、弾劾裁判所の設置自体も
 実質的にみて、司法権の行使になるのだろうか。いずれにしても、疑問の残る
 肢である。

  全体としては、全部正しい肢となるので、5が正解である。

 ○ 付言

   前回と同様、このような圧縮した肢については、正誤の判断に苦慮
 することになるが、受け身に立つ者としては、どこかでスパッと割り切る
 必要がある。そこで、出題者の意図と食い違えば、仕方がない。
 もっと、正統なほかの問題で正解を重ねればよいと、こちらの方でも、
 割り切りが肝要。

  ただし、本問については、自然な流れからすれば、諸機関は、実質的には、
 他の機関の行使し得る権限を行使し得るという出題意図も読み取れるので、
 正解としては、全部の肢が正しいということになるのだろう。

 

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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