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行政調査・行政計画 第57回

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  ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第57回 】★      
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                               PRODUCED by 藤本 昌一
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【テーマ】 「行政調査」「行政計画」


【目次】  問題・解説


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 ■ 平成21年度問題8
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  行政計画に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

 1 土地利用を制限する用途地域などの都市計画の決定についても、侵害
   留保説によれば法律の根拠が必要である。

 2 広範な計画裁量については裁判所による十分な統制を期待することが
   できないため、計画の策定は、行政手続法に基づく意見公募手続の対象
   となっている。

 3 計画策定権者に広範な裁量が認められるのが行政計画の特徴であるので、
   裁判所による計画裁量の統制は、重大な事実誤認の有無の審査に限られる。

 4 都市計画法上の土地利用制限は、当然に受忍すべきとはいえない特別の
   犠牲であるから、損失補償が一般的に認められている。

 5 多数の利害関係者に不利益をもたらしうる拘束的な計画については、
  行政事件訴訟法において、それを争うための特別の訴訟類型が法定
   されている。

 

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 ■ 解説
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 ● 参考図書

 行政法読本・芝池義一著 行政法入門・藤田宙靖著 / 有斐閣発行 
 
 
 ● 序論

   総括的には、前回説明したので、本題に入る。


 ● 本論

   全体として、「行政計画」には以下の前提知識を要する。

 a 「行政計画とは、行政機関が行政活動を計画的に行うために作成・決定
   (策定)する計画である。都市計画法に基づく都市計画がその代表例で
   ある。」(読本)

 b 「行政計画」は、「行政調査」と同じように、権力的に行われることも
    あれば、非権力的に行われることもある。また、法行為にあたるものも
  あれば、事実行為に当たるものもある(読本・前回にも述べた)。


  肢1について。妥当。

   この肢の要点は、「侵害留保説」である。これは、国民の権利や自由を
 権力的に侵害する行政についてのみ法律の授権を必要とする説である。
 (読本)。
 
  bによれば、「行政計画」は権力的に行われることもあり、aで代表例
 として挙げられた「都市計画」の決定による「土地利用を制限する用途
 地域」の指定は、「国民の権利や自由を権力的に侵害する行政」に該当する。
 この場合には、法律の授権が必要になるといのうのが、「侵害留保説」
 の帰結である。したがって、肢1は正しい。
 
  もし、「行政計画」について、甘い知識しかなく、漠然と非権力的に行
 われ、事実行為に該当すると思っていれば、1を読み飛ばして3に飛びつく
 ことになるのかもしれない。ご用心を!!
 しかし、逆に正確な知識があれば、もう第1段階の肢1の正で決まりだ。

 注 ここでは、これ以上立ち入らないが、法律の授権の要否については、、
 「侵害留保説」のほか「権力作用留保説」「公行政留保説」があるが、
  いずれにおいても、肢1に該当する侵害的行為は、法律の授権を要する。
 (読本)

  肢2について。妥当でない。

   前段はそのとおりであるが、後段が誤りである。
                      ・・・・
   行手法39条1項によれば、意見公募手続は、命令等を定める場合に問題
 になり、「行政計画」の場合には、対象にならないので、誤りである。

   ここで、この際、把握しておくべき点がふたつある。
 ・・・・
   命令等の概念は何か。2条8号をみよ。それらは、以下のものであり、
 「行政計画」は入っていない

   法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む)・審査基準・処分基準
  ・行政指導方針 

 もうひとつ。3条3項をみよ。「・・意見公募手続について定める行政手続法
 6章の規定は、地方公共団体の機関の命令等(規則も入る)の制定行為には適用
 されない(読本)。

  肢3について。妥当でない。

   これは、最高裁判所大法廷(平成20)年9月10日判決が参考になる。
  
   従来、最高裁判所は「事業計画は『いわば当該土地区画整理事業の青写真たる
 にすぎない一般的・抽象的な計画にとどまる』」(読本)ことを理由に
 行政訴訟の対象にならないとしてきたが、前記判例がこの先例を変更したので
 ある。この判決は、前記事業計画について、宅地所有者等の法的地位に変動を
 もたらすものであって、抗告訴訟の対象になるとしたのである。

   しかし、実際に当該判決の知識まで求められているわけではないと、私は
  思う。つまり、「行政計画は、権力的に行われることもある」という知識
  さえあれば、行政訴訟の対象になるであろうし、裁判所の審査が重大な事実
  誤認に限られるというのは、それこそ、「事実誤認」だという解答がスッパ
  とでてくるであろう。

 肢4について。妥当でない。

  損失補償は、適法に行われる権利(たいていは財産権)の侵害に与えられる
 金銭給付である。土地収用が代表例。一般法は存在せず、個別法の定めるとこ
 ろに委ねられている。(読本参照)。
   個別法である都市計画法には損失補償の規定はない。
 また、損失補償については、国家賠償法のような一般法もないので、
「損失補償が一般的に認められている」 というのは、誤りである。
 
 なお、個別法に規定がなければ、憲法29条3項により損失補償を請求できる
 余地があるが(最大判昭43・11・27)、都市計画法上の土地利用の制限に
 ついては、損失補償は必要ではないと一般に考えられている。
   このように考えると、本肢には論点がいっぱい、つまっている。
 
   多岐選択式により、損失補償を正面から問うてきたのが、平成20年度問題
 42である。この際、この問題を考究しておくのも一考。
 20年度・21年度と当該問題にこだわるのも本試験の傾向といえるかもしれ
  ない。

   肢5について。妥当でない。

   行訴法に特別の訴訟類型は、法定されていない。誤りである。
  
   このような唐突な問題の背景には、出題者の出題意図が見える。

   最高裁判所1982(昭和57)年4月22日判決が問題になる。
   これは、本肢にいう「多数の利害関係者に不利益をもたらしうる
  拘束的な計画」が問題になった。
  これもまた、肢3と同様、行政計画が権力的に行われる「都市計画法に
  基づく用地地域指定」が焦点になったが、肢3の「土地区画整理事業」が
  行政処分と認められ、抗告訴訟の対象になったのに比して、これは、
  処分性を否定して、抗告訴訟の対象にならないとしたのである。
  
  その理由として、大略つぎのようにいう。
   
 用途地域指定によって、建築物について、制限を受ける者は、
 建築基準法に基づく「建築確認が用途地域指定との関係で
 拒否された段階で、建築確認に対して取消訴訟を起こし、
 その訴訟の中で用途地域の違法を主張すればよい・・」
 
 つまり、「この判決は、用途地域の指定に対して訴訟の可能性を否定し、
 後続の処分である」建築確認において訴訟提起すればよいというのである。
(続本)
 
        1         1の定着       2
 用途地域指定→訴訟不可----------後続の処分・建築確認→訴訟可

                1の関係で2の申請拒否⇒取消訴訟の提起
                           (1の違法主張)
 

  しかし、学者は、「用地地域指定指定から10年経ってから建築確認を
 拒否された場合に、それに対して訴訟を起こし10年前に定められた
 用地地域指定の違法を主張しても、裁判所は耳を傾けてくれないであろう。
 
 その10年の間に用途地域指定 は定着しているからである。」と
 この判決を批判する。(読本)
  
  そうなると、用地地域指定について取消訴訟を認めるべきだということ
 なるが、その場合「誰に原告適格を認めるかという問題があり、またそれに
  関連して、各地域の住民ひいては当該都市の住民全体が取消訴訟を起こす
  ことができるようになってしまうおそれがある。」(読本)
 
  したがって、当該訴訟を認めるためには、要件を明確にするため、本肢
  でいうように、「行政事件訴訟法において、それを争うための特別の
  訴訟類型を法定」する必要があるが、現在それは法定されていない。
   長い叙述(引用)になったが、私のいわんとすることは、皆さんに通じた
  でしょうか。

    
 ● 付言

 本問は、「行政計画」に関しての問いでありながら、実は、肢2では、
 意見公募手続について聴いている。
 肢4では、損失補償、肢5では、行政訴訟法の訴訟類型を問題にしている。

  このように、近年の本試験では、全体的ないし横断的な理解を求めている
 のが一つの特徴であるので、注意を要する。


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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