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民法 第79回

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               ★ 過去問の詳細な解説  第79回  ★

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                                  PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】   民法 

    【目次】     問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
     本年9月初頭には、過去問の分析に加え、近時の傾向も取り入
   れた「オリジナル模擬試験問題」(有料)を発行する予定をして
  います。
     とくに、関連部分に言及した解説にも力を込め、よりよいもの
   を目差して、目下準備中です。

 

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 ■ A・平成21年度 問題 27
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  代理に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当な
 ものはどれか。

 
  1 Aは留守中の財産の管理につき単に妻Bに任せるといって海外へ単
  身赴任したところ、BがAの現金をA名義の定期預金としたときは、
    代理権の範囲外の行為に当たり、その効果はAに帰属しない。

  2  未成年者Aが相続により建物を取得した後に、Aの法定代理人であ
    る母Bが、自分が金融業者Cから金銭を借りる際に、Aを代理して行
    ったCとの間の当該建物への抵当権設定設定契約は、自己契約に該当
    しないので、その効果はAに帰属する。

  3 A所有の建物を売却する代理権をAから与えられたBが、自らその
    買主となった場合に、そのままBが移転登記を済ませてしまったとき
    には、AB間の売買契約について、Aに効果が帰属する。

  4 建物を購入する代理権をAから与えられたBが、Cから建物を買っ
    た場合に、Bが未成年者であったときでも、Aは、Bの未成年者であ
    ることを理由にした売買契約の取消しをCに主張することはできない。

  5 Aの代理人Bが、Cを騙してC所有の建物を安い値で買った場合、
    AがBの欺罔行為につき善意無過失であったときには、B自身の欺罔
    行為なので、CはBの詐欺を理由にした売買契約の取消しをAに主張
    することはできない。


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 ■ B・ 平成11年度 問題 27
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   民法上の代理に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。


 1 任意代理人は、本人の許諾又はやむを得ない事由がなければ復代理
  人を選任することはできないが、法定代理人は、本人の許諾を必要と
   せず、その責任において復代理人を選任することができる。

 2 同一の法律行為について、相手方の代理人となり、又は当事者双方
   の代理人となることは、いかなる場合であっても許されない。

 3 代理権は、本人の死亡により消滅するが、代理人の死亡、若しくは
   破産手続開始の決定又は代理人が後見開始の審判を受けたこと、若し
   くは保佐開始の審判を受けたことによっても消滅する。

 4 無権代理人が契約をした場合において、相手方は、代理権のないこ
   とを知らなかったときに限り、相当の期間を定め、当該期間内に追認
   するかどうか確答することを本人に対して催告することができる。

 5 表見代理が成立する場合には、本人は、無権代理人の行為を無効で
   あると主張することができないだけでなく、無権代理人に対して損害
   賠償を請求することもできない。 

  

 
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 ■ 解説
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  ◆  参照書籍

     勁草書房 民法 1
 

  ◆    AとBの問題の対比

   奇しくも、本試験において、10年間をおいて、問題27という同一
  番号で、代理に関して問われている。

   両者を比較して歴然としているのは、前者が、具体的事例に民法の条
   文を適用させるのに対して、後者は主に、単なる条文知識を問うのが主
   力であるということである。

   したがって、正確な条文知識を前提に、実践的な問題の処理能力を鍛
 錬することが、将来の民法に関する対策である。

  以上から、従来型に加えて、新傾向の問題をしっかりと解くことが肝要
  であると結論づけられる。


  ◆ A・平成21年度 問題

 
  ★ 各肢の検討

  
   ○ 肢1について
        
                   
             Aの現金をA名義の定期預金にした
  
   本人A---------妻B

   条文 103条2号

    本条は、代理権が授与されたことは明らかだがその範囲が特に定
      められなかなかった場合についての基準を明らかにしている。本肢
      の場合、財産管理について「単に任せる」となっているので、本条
   に該当する。
    
    この場合、民法103条2号によると「物または権利の性質を変
   じない範囲でそれを利用して収益をはかる行為(利用行為)」は許
      される。

    本肢では、現金を定期預金としたというのであるから、当該利用
      行為に該当するので、代理権の範囲内の行為に当たり、その効果は
      Aに帰属する。

    本肢は、誤りである。

     ☆ 参考事項

      (1)同じ利用行為でも、銀行預金を個人の貸金にするの
        は、危険の度合が大きくなり、性質を変ずるものでこ
        こ含まれない。

      (2)その他権限内の行為として ア 財産の現状を維持
                 する行為(保存行為・103条1号) イ さきの
                 利用行為と同じ範囲で使用価値または交換価値を増
                 加する行為(改良行為)がある。
    
      (以上 前掲書 参照)


   ○  肢2について
         

     A(未成年者)

        ↓代理行為 建物に対する抵当権設定契約    
     
     B(法定代理人)-----------------------C(金融業者)


            条文 民法826条

        親権を行う母(B)とその子(A)との利益が相反する
             行為(Bの借金のために、Aの所有不動産に抵当権を設定
             する行為)については、家庭裁判所で選任された特別代理
             人が代理行為を行うことになっているから、BがAを代理
       するのは、(818条・824条参照)、無権代理になる。

        したがって、Aに効果が帰属しないので、本肢は妥当
              でない。

        なお、本件は、A・B間の法律行為について、BがAを
              代理するという自己契約ではないが、実質的にみて、利益
              が相反するのである。、「自己契約に該当しないので、そ
              の効果はAに帰属する」と言う文言に惑わされないように。

 


    ○ 肢3について
 
                  
        本人A------------代理人兼買主 B

  
    条文 108条

    本肢は、本条の禁止する自己契約に該当し、同条ただし書きに
      も相当しないので、Aに効果が帰属しない。

      同条の禁止する自己契約も双方代理も、「代理の理論からみて
    不可能なわけではない。しかし、このような行為を無条件で許す
   と本人の利益が不当に害されるおそれがある。そこで民法は原則
      としてこれを禁じた。」(前掲・勁草書房)

     本肢は妥当でない。

 

      ○ 肢4について


       未成年者  
  
       本人A--------代理人B----------相手方C

      条文 102条

     本条の意味するところは、未成年者の行った代理行為も相手方C
    との関係では完全に有効であって、民法5条2項に基づ いて、取り
     消しうるものではない、とうことである。

     その理由→「代理人はみずから行為するものであるが、その効果
    はすべて本人が受けるのであるから、代理行為が判断を誤って行わ
   れても代理人自身は少しも損害を被らない。・・・未成年者が代理
   人であっては本人は損失を被ることになるかもしれない。しかし
    それは本人がこの者を代理人に選んだのであるから自業自得である。」
   (前掲 勁草書房)

      したがって、Aは、Bの未成年であることを理由にした売買契
    約の取消しをCに主張することはできないので、本肢は妥当であ
   る。
    
   ☆ 発展問題

    この場合に未成年者が本人との間の委任契約を取り消して
      はじめからなかったことにすると(5条・121条参照)、
   これに伴う授権行為も翻ってその効力を失うことになれば、
      どうなるか。
    そうすると、すでになされた代理行為も無権代理行為にな
      って、相手方が不測の損害を生じ、102条の趣旨が生かさ
      れなくなる。そのため、学者は、委任契約の取消しは過去の
      代理関係に影響しない、すなわち、代理関係は将来に向かっ
      て消滅するが、すでになされた代理行為には影響しないと解
      することによって、その不都合を解消しようとしている。
   (前掲書 参照)

 

   ○ 肢5について


                 詐欺 
   
    本人A-------代理人B---------相手方C

    条文 101条1項

      代理行為は代理人自身の行為である。本人の行為とみな
          されるのではない。詐欺というような、法律効果に影響
     を及ぼす法律行為の瑕疵の有無はことごとく代理人に自
          身について定めるべきであって、本人について定めるべ
          きではない。(前掲書・参照)
    
     したがって、本肢において、本人であるAが善意無過失
    であっても代理人Bから欺罔行為を受けたCは、Bの詐欺
        を理由に当該売買契約を取り消すことができる(民法96
        条1項)。

          以上の記述に反する本肢は、妥当でない。


 
         以上からして、正解は4である。
 


         
   ◆ A・平成11年度 問題
 
  
   ○  肢1について

    民法104条と106条の対比により、正しい。しかも、
   これが、正解である。実に、あっさりとしたものである。


     ○  肢2について

       民法108条のただし書きにより、正しくない。


   ○ 肢3について

        民法111条1項2号には、保佐開始の開始の審判をを受け
      たこと(11条参照)は、掲げられていない。 正しくない。

    ○ 肢4について

      民法114条によれば、悪意の相手方にも催告権が認められる。
   正しくない。

     なお、悪意の相手方には取消権が認められないことに注意
     (115条)。

  ○  肢5について   

      前段については、109条・110条・111条の規定の基づき
      本人は無効を主張できないが、この場合、本人が、無権代理人に対
   して、債務不履行ないし不法行為に基づき損害賠償を請求できるの
      は、当然である(415条・709条)。


      正解は、1である。

 
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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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