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民法・催告 第87回
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★ 過去問の詳細な解説 第87回 ★
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PRODUCED BY 藤本 昌一
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【テーマ】 民法・催告
【目次】 問題・解説
【ピックアップ】
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■ 平成21年度 問題30
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催告に関する次のア〜オの各事例のうち、民法の規定および判例に
照らし、正しいものの組合わせはどれか。
ア Aは成年被保佐人であるBとの間で、Bの所有する不動産を購入す
る契約を締結したが、後日Bが制限行為能力者であることを知った。
Aは1ケ月以上の期間を定めて、Bに対し保佐人の追認を得るべき
旨を催告したが、所定の期間を過ぎても追認を得た旨の通知がない。
この場合、その行為は追認されたものとみなされる。
イ CはDとの間で、C所有の自動車を、代金後払い、代金額150万
円の約定でDに売却する契約を締結した。Cは自動車の引き渡しを完
了したが、代金支払期日を経過してもDからの代金の支払いがない。
そこでCはDに対して相当の期間を定めて代金を支払うよう催告したが、
期日までに代金の支払いがない。この場合、C・D間の売買契約は法
律上当然に効力を失う。
ウ Eは知人FがGより100万円の融資を受けるにあたり、保証(単純
保証)する旨を約した。弁済期後、GはいきなりEに対して保証債務の
履行を求めてきたので、Eはまずは主たる債務者に催告するよう請求し
した。ところがGがFに催告したときにはFの資産状況が悪化しており、
GはFから全額の弁済を受けることができなかった。この場合、EはG
が直ちにFに催告していれば弁済を受けられた限度で保証債務の履行を
免れることができる。
エ Hは甲建物を抵当権の実行による競売により買い受けたが、甲建物に
は、抵当権設定後に従前の所有者より賃借したIが居住している。Hは
Iに対し、相当の期間を定めて甲建物の賃料1ケ分分以上の支払いを催告
したが、期間経過後もIが賃料を支払わない場合には、Hは買受け後6
ケ月を経過した後、Iに対して建物の明け渡しを求めることができる。
オ Jは、自己の所有する乙土地を、その死後、世話になった友人Kに無
償で与える旨の内容を含む遺言書を作成した。Jの死後、遺言の内容が
明らかになり、Jの相続人らはKに対して相当の期間を定めてこの遺贈
を承認するか放棄するかを知らせて欲しいと催告したが、Kからは期間
内に返答がない。この場合、Kは遺贈を承認したものとみなされる。
1 ア・イ
2 ア・ウ
3 イ・エ
4 ウ・オ
5 エ・オ
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■ 解説
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☆ 参照書籍
民法 2・3 勁草書房
◆ 各肢の検討
○ 肢アについて
本肢は、20条の制限行為能力者の相手方の催告権に関する条文
の適用問題である。
この場合は、被保佐人であるBに対する催告であるから、20条
4項が適用適用される。
すなわち、被被保佐人がその期間内に保佐人の追認を得た旨の通
知を発しないときは、当該不動産の売買契約を取り消したものとみ
なすことになる。したがって、これに反する本肢は誤りである。
★ 参考事項
制限行為能力者とは、未成年者・成年被後見人・被保佐人・
被補助人をいう(20条1項)。
これら制限無能力者に対する催告権の効果に一定のルールがあ
るので、把握しておきたい。
1 制限行為能力者が行為能力者となった後に、その者に対する
催告に確答なし→ 追認 (20条1項)
2 ただし、だれかの同意を得るなどの特別の方式を要する場合
その方式を具備した通知を発しない→取り消し(20条3項)
3 法定代理人・保佐人・補助人に対しては、1・2と同様で
ある(20条2項)。
4 被保佐人・被補助人に対する催告に通知なし→取り消し(20
条4項)=本肢の事例
≪成年被後見人は含まれないことに注意・9条によれば、成年被
後見人に関しては、日常生活に関する行為は有効であると同時
にその他の行為は、常に取り消すことができるので、追認の余
地はなく、催告は想定し難いからである。≫
○ 肢イについて
本肢は、541条の契約解除の要件を満たすので、Cは、Dに対
して相当の期間を定めて代金を支払うよう催告したが、期日までに
代金の支払いがない場合には、Cは、Dに対して、C・D間の売買
契約を解除できる。
したがって、この場合、C・D間の売買契約は法律上当然に効力
を失うのではなく、契約の有効を前提として、売買契約を解除でき
ることになるので、本肢は誤りである。
★ 参考事項
1 同時履行の抗弁との関係について
この場合、DがCに対して、自動車の引き渡しについて、533
条の同時履行の抗弁権を有すると、Cは自動車の引き渡しという債
務の履行を提供しなくては、契約の解除をできないことになる。
しかし、本事例では、代金後払いの約定でCは自動車の引き渡し
を完了しているので、同時履行の抗弁は考慮しなくてもよい。
2 応用問題について
履行遅滞による解除権と同時履行の抗弁の関係について、メルマ
ガ有料版第7号において、オリジナル問題を出題したので、末尾に
正誤を問う当該肢と解説を転載しておく。
○ 肢ウについて
本肢は、催告の抗弁に関する452条・455条の条文適用問題で
ある。そのまま条文を適用すればよいが、ただし、454条で連帯保
証に適用されないことになっていることに注意する必要がある。
本肢では、(単純保証)であるとされているので、条文どおりであ
り、正しい。
★ 参考事項
保証債務はその従たる性質から、債権者に対して第二次的の地位に
あり、主たる債務者の履行しないときに、はじめて履行すればよいの
が常である(446条1項参照)。
これを保証債務の補充性というが、その法律的な現れの一つとして、
催告の抗弁権があることになる。
もう一つが、検索の抗弁権である(453条・455条)。これも
また、連帯保証には適用されない(454条)
以上により、連帯保証には、補充性はないことになる。
(以上、前掲書2参照)
なお、検索の抗弁について、以下の判例に注目
「検索の抗弁のためには、主債務者の執行容易な若干の財産の存在の
証明があれば足り、これによって得られる弁済が債権全額に及ぶこ
との証明を要しない。」(大判昭8・6・13・・・)
○ 肢エについて
本肢は、抵当権設定後における抵当権者に対抗できない賃借権者
(競売の手続開始前から使用又は収益する者)の引き渡しの猶予に関
する395条の適用事例である。
本件では、同条2項の適用により、同条1項の6ケ月の猶予がない
場合に相当する。
以上に反する本肢の記述は誤りである。
○ 肢オについて
受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告について規定する987条
の条文適用問題である。
本事例では、987条の適用により、「承認したものとみなされる」
ので、本肢は正しい。
★ 参考事項
遺贈とは、遺言による財産の無償贈与である。
遺贈には包括遺贈と特定遺贈がある(964条)。
前者は、積極・消極の財産を包括する相続財産の全部またはその分数的
部分ないし割合による遺贈であり(たとえば相続財産の2分の1、または
4割がその例)、後者は、特定の具体的な財産的利益の遺贈である。
両者はその効力において全く異なることを注意すべきである。
(以上、前掲書3参照)
本件では、特定の土地を無償贈与するというのであるから、以上の記述
に関しては、「特定贈与」であることを、この際、はっきり認識する必要
がある。
したがって、
包括遺贈は、相続人と同一の権利義務を有する(990条)ので、遺贈
の承認・放棄についても、相続に関する915条ないし940の適用があ
・・・
り、本件の「特定遺贈」の承認・放棄に適用される986条および987条
は適用されないことに注意せよ!
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以上のとおり、ウとオが正しいので、正解は4である。
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◎ 末尾記載の応用問題
【肢】
AはBとの間で、A所有の自動車を代金額120万円の約定でB
に売却する契約を締結した。Aは、引き渡し期日を過ぎても、約束
の引き渡し場所に、自動車を引き取りに来ないBに対して、自動車
の引き渡しの準備を完了したことを通知するとともに、相当の期間
を定めて代金を支払うよう催告したが、期日までに 代金の支払い
がない。この場合、AはA・B間の売買契約を解除できる。
【解説】
関係する条文数は、6つである。主題は、履行遅滞による解除権と
同時履行の抗弁である。
それでは、順次検討する。
1 民法573条によれば、自動車の引き渡し期日を定めたときは、
代金の支払いについても同一の期限を付したものと推定される。
この場合における代金の支払い場所は、その引き渡し場所で
である(民法574条)。
したがって、Bは、引き渡し場所において代金を支払う義務が
ある。
2 以上に従えば、代金の支払いを遅滞する(民法412条1項)
Bに対して、Aは民法541条1項に基づき、相当の期間を定
めて履行の催告をしたうえで、契約の解除をすることができる。
しかし、本肢の場合、Bの代金支払いは、自動車の引き渡し
と同時履行であるから、Bには民法533条の同時履行の抗弁
権がある。
このように、相手方が同時履行の抗弁権を有する場合には、
解除しようとする者は、自分の債務を提供しておかなければ
解除できない。「厳格な理論からいえば、解除しようとする者
は、催告後の相当期間の間中この提供をしつづけなければなら
ないことになる。」(勁草書房 2)
3 しかし、この場合には、民法493条の規定に従えば、その
提供の方法は、本肢のように、自動車の引き渡しの準備を完了
したことを通知することで足りるので、相当の期間を定めて
代金を支払うように催告した後に行う本件の解除は有効である。
(大判大14・12・3が同旨)
したがって、本肢は正しい。
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【発行者】司法書士 藤本 昌一
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