行政書士試験独学合格を助ける講座

民法 第91回

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        ★ 過去問の詳細な解説  第 91 回  ★

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                         PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  民法
   
     ー過去問に関して、登記にまつわる諸問題・その2−
     
     平成10年度以降の登記のからむ肢を順次とりあげ、解説を行い
   ます。本試験準備の有力な武器になることを祈念します。

    
 
  【目次】   問題・解説

           
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      私といたしましては、来るべき本試験と類似する良問に絞った選りす
   ぐりのオリジナル問題を作成・呈示させていただいたつもりであります。

    ひとりでも多くの方が、本誌を活用されることにより、本年度の試験
   に合格されることを祈念いたします。
 


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■  問題集(過去問の出典は省略)・○×を付すること

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 1 A所有の甲地がBに売却され、さらに善意のCに売却された後、AB
  間の売買契約が詐欺を理由に取り消された場合、Aは登記なくしてCに
   取消しを対抗することができる。(  )
  
 2 A所有の甲地がBに譲渡されたが甲地には賃借人Cがいた場合、Bは
  登記なくしてCに対抗することができる。(   )

 3 A所有の甲地がBに譲渡されたが甲に不法占拠者Cがいた場合、Bは
  登記なくしてCに対抗することができる。(    )

 

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■  解説集(判例に関しては、三省堂発行の平成22年度 模範六法
       から引用≪模 、、条1、2、3・・・で表す≫)

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 ◎ 1について

  民法96条3項によれば、詐欺による意思表示の取消しは善意の第
 三者に対抗できないのであるから、Aは登記の有無にかかわらず、C
 に対抗できない。   ×

 ◆ 発展問題

 a 詐欺による取消しに際して、Cが第三者として保護されるためには
  登記を要するか。ここで問題になるのは、対抗要件としての登記では
  なく、資格要件としての登記であることに注意する必要がある。

   もし、この資格要件としての登記を要するということになればどう
  なるか、皆様、よく考えて欲しい。Aが詐欺による取消しを理由にB
  の登記を抹消して自己に回復すれば、もはや、Cは自己に登記を移転
  できないのだから、善意の第三者であるCは保護されない。
   したがって、この場合、AはCに登記がないことを理由にCに対し
  取消しを対抗できることになる。

   「登記必要説の根拠は、96条3項は詐欺にあった被害者の犠牲に
  において、取引安全のため善意の第三者を保護しようというのである
  から、保護される第三者は、権利の確保のためになしうることを全て
  して、ほぼ確定的に権利を取得したといえる程度まで達している必要
  があるのではないか、特に、第三者より先に表意者が登記を回復して
                  (注)
  しまったような場合、いくら善意・無過失の第三者でも、その登記の
  抹消まで要求することを認めるのは行き過ぎではないか、という判断
  である。」(内田 民法一)
 
    なお、一般には、判例(最判昭和49年9月26日)は、登記不要
     説に立っているいるとされるが、内田氏は、登記を不要とする当該判
   決の説示には、事案の関係から、先例としての価値に疑問を呈してお
   られる(前掲書)。

    最後に、当該説に立っても、本肢において、「 Aは登記なくして
   Cに取消しを対抗することができる。」とするのは、×である。
  
   注 内田説によると、96条3項の「規定も権利外観法理の一環で
   あるから、94条2項の解釈論と同様、無過失を要求すべきだろ
   う。」とされる。


      ★ 参考事項

    民法545条1項によれば、解除にも第三者保護規定が設けられて
   いるが、判例によれば、第三者が保護されるには登記を要するとされ
   ていることに注意!!(最判昭33・6・14 摸545条 13)。

 
  b  AB間の売買契約が詐欺を理由に取り消された後に、Bが善意のCに
  売却した場合には、Bを起点とする二重譲渡があったのと同じであるか
  ら、対抗問題となり、登記の先後で優劣を決するのが通説判例である
  (大判昭17・9・30 96条 3・177条 3)。

  しかし、現在では、94条2項類推説が有力に主張されているため、
 むしろ、この説の方が通説とも言えることに注意する必要がある。

  当該論点に立脚したオリジナル問題を末尾に掲げておく。

 
 ◎ 2について 

   他人に賃貸している土地を譲り受けた者は、その所有権の取得に
  つき登記を経ない限り、賃料不払いによる解除を賃借人に主張する
  ことはできない。(最判昭49・3・19 摸六 605条 9)
   
   土地の賃借人として賃借上に登記ある建物を有する者は、その
  土地の所有権の得喪につき、本条の第三者にあたる。(大判昭8・
  5・9 前記判例 177条 22)

   いずれの判例に照らしても、本肢において、Bは登記なくして
  賃借人Cに対抗できないという結論になる。 ×


   ★ 参考事項

   後の判例における「土地の賃借人として賃借上に登記ある建物
  を有する者」に注目されたい。

   民法605条によれば、不動産賃貸借の対抗力として登記を要
  する。したがって、旧所有者から賃借した者が新所有者に当該賃
  借権を対抗するためには、登記を要する。

   しかし、 

   建物保護法によると、土地の上に登記した建物を有するときは、
  土地の賃貸借はその登記がなくても、これをもって第三者に対抗
  することができる(このあたりまでは、本試験の射程距離だ!!)。

   以上のとおり、賃借人側から新所有者に対抗できるのかという
  視点から捉えると、賃借人に土地の賃借権の登記もなく、賃借上
  の建物の登記もない場合は、新所有者に賃借権を対抗できない。
   
   この場合、本肢3でいえば、対抗力としての登記を有しない賃
  借人Cは、民法177条の第三者にあたらないことになるので、
  Aは登記なくしてCに対抗できることになる。本肢では、Cが
  対抗力を有していることが前提になっているのだろう。

   
  
  ◎ 3について 

    何らの権原なく不動産を占有する不法占有者は、本条にいう
  「第三者」に該当せず、これに対しては登記がなくても所有権
   の取得を対抗しうる。(最判昭25・12・19 摸六 177
   条  21)

    当該判例に照らせば、本肢は○

  ★ 関連事項

  
   平成21年度記述式問題 46から。

   XはA所有の甲建物を購入したが未だ移転登記は行ってはいない。
  現住甲建物にはAからこの建物を借り受けたYが居住しているが、
  A・Y間の賃貸借契約は既に解除されている。XはYに対して建物
  の明け渡しを求めることができるか。

   【解説】

   本問におけるYは、本肢3における不法占拠者Cとは異なるが、
  賃貸借契約が解除された後も建物を占有する者であるから、前記
  判例に照らせば、何らの権原なく不動産を占有する不法占有者に
  該当するため、、民法177条にいう「第三者」に該当せず、こ
  れに対しては登記がなくても所有権の取得を対抗しうることにな
  る。

   従って、XはYに対して建物の明け渡しを求めることができる。

   本問は、記述式の解答として、判例によれば、「第三者」の
  範囲をどのように定義しているかを40字程度にまとめる作業を
  求めるものであった。

   判例(大連判明41・12・15 摸177条 20)は、
  以下のように判示する。

   本条(民法177条)の第三者とは、当事者もしくはその包括
  承継人ではないすべての者を指すのではなく、不動産物権の得喪
  および変更の登記欠缺を主張するにつき正当の利益を有する者を
  いう。

   従って、正解は、以上の文言を40字程度で表現して、呈示
  することなのであった。必ずしも容易な作業ではない。
  
   「不動産物権の得喪および変更の登記欠缺」という言葉が、手
   元に資料のない状態においては、すっとはでてこないであろう。

   一例を示せば、以下のような表現では、どうであろうか。

   第三者とは、不動産物権変動の登記を欠いていることを主張
   するのに正当な利益を有する者  
          
    41字
   


  ★  末尾 

  《問題》

   AからBに不動産の売却が行われた後に、AがBの詐欺を
 理由に売買契約を取り消したにもかかわらず、Bがこの不動
 産を善意のCに転売してしまった場合において、第三者 (C)
 の取り扱いについては、二つの立場がある。

  甲説(判例の考え方)

  「民法177条の対抗問題の視点を導入する立場」

  乙説(判例に反対する考え方)

  「民法94条2項の類推適用という手段を導入する立場」

   次の記述のうち、乙説の考え方に立つものの組み合わせ
 はどれか。

 
 ア Cがさきに登記をすれば、Aに優先する。

 イ Cが保護されるためには、登記は不要である。
 
 ウ  第三者(C)の善意・悪意や過失の有無を考慮した
   きめこまやかな調整ができる。
 
 エ Aの取り消しの時点で、BからAに所有権の復帰
    があったかのように扱うことができる。

 オ  取り消しによる復帰的変動というのは擬制であって、
  取り消しの効果である遡及効に適合しない。


 1 ア・イ・ウ   
 
 2 イ・ウ・エ   
 
 3 イ・ウ・オ

 4 ア・オ

 5 イ・エ

 
 《解説》

   この事例は、取り消し後の転売ですから、AとCは対抗関係に
  立つというのが、甲説です。
 
    しかし、近時の有力説(乙説)は、94条2項の類推適用説を
 採用します。

      売却  登記   転売
   A−−−−−−B−−−−−−C
      取り消し    94条2項
      121条    登記の外観を信頼した
     初めから無効   第三者保護

  AとBに通謀があったとは言えないため、虚偽表示が適用される
 事例とは言えませんが、「取消後に放置された実体関係に合わない
 登記の外観を信頼した第三者保護」という「権利外観法理」に従っ
 て、94条を類推適用をしようというのが、その主張の骨子です。

  以上のとおり、甲説が前者の対抗関係説ともいうべきものであり、
 後者が乙説の94条2項の類推適用説であることが明らかになりま
 した。

 

 アについて。

 AとCと先に登記した方が優先するというのは、
 「対抗問題」の甲説です。

 イについて

  94条2項の善意の第三者として保護されるには、登記
 を要しないというのが通説です。これは、乙説です。

 ウについて。

  94条2項には無過失は要求されていませんが、権利外観法理
 に従えば、無過失であることを要する、などの議論があります。
 これは、乙説です。

 エについて。

   このように、所有権の復帰(移転)があったと扱うことに
 を前提にした場合に初めて対抗問題とすることができる。
 甲説の立場です。

 オについて。

   取り消しの効果である遡及効(始めから無効)を前提にする
 のは、94条類推適用の乙説です。
 
 
 したっがて、乙説は、イ・ウ・オであり、正解は3です。

 

  ★ 参考文献

  民法 一 内田 貴著  東京大学出版会 発行 

 

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   近時の民法の問題は、難化傾向にありまた事例問題としての出題である
  ため複雑化しているので、本講座においても、過去問の各肢を素材に応用
 力を養成するようにこころがけた。

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

 【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
       
 【E-mail】<fujimoto_office1977@yahoo.co.jp>
 
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