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行政法 第93回
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★ 過去問の詳細な解説 第93回 ★
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PRODUCED BY 藤本 昌一
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【テーマ】 行政法
【目次】 問題・解説
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■ 平成22年度 問題44(記述式)
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Y組合の施行する土地区画整理事業の事業地内に土地を所有していたX
は、Yの換地処分によって、従前の土地に換えて新たな土地を指定された。
しかし、Xは、新たに指定された土地が従前の土地に比べて狭すぎるた
め、換地処分は土地区画整理法に違反すると主張して、Yを被告として、
換地処分の取消訴訟を提起した。審理の結果、裁判所は、Xの主張のとお
り、換地処分は違法であるとの結論に達した。しかし、審理中に、問題の
土地区画整理事業による造成工事は既に完了し、新たな土地所有者らによ
る建物の建設も終了するなど、Xに従前の土地を返還するのは極めて困難
な状況となっている。この場合、裁判所による判決は、どのような内容の
主文となり、また、このような判決は何と呼ばれるか。40字程度で記述
しなさい。
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■ 解説
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○ 参考文献
「行政法入門」 藤田 宙靖著 ・「行政法読本」 芝池 義一著
いずれも有斐閣発行
◆ 行政事件訴訟法・条文
(特別の事情による請求の棄却)
第31条 取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、
これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合に
おいて、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程
度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取
り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、
請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文に
おいて、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならな
い。
2項以下省略
★ ズバリ、本問の解答
1 問題文の事例が、この条文の要件に該当することを素早く見抜く。
2 この条文に基づいて行われる判決のことを「事情判決」という。
3 条文から本問に関連する箇所を抜粋すると、「請求を棄却」・
「当該判決の主文において、処分・・・が違法であることを宣言」
となる。
1・2・3を総合すると、
・
条文の処分を「換地処分」と具体的に言い換えて、設問に答えると、
◎ 主文では、換地処分が違法であることを宣言し、請求を棄却する。
この判決は、事情判決という。
44字。
☆ 「事情判決」の知識を明確にするため、前記○ 参考文献「入門」
から抜粋
(事情判決)とは、裁判所が、行政処分が違法であることを認め
めながら、行政処分を取り消すことが公共の福祉に適合しない場合
に、原告の請求を棄却するという判決である。従って、請求棄却判
・・
決の一種であるが、特殊なものである。行政事件訴訟法31条に規
定がある。 ー中略ー この事情判決は、行政処分が違法
であるけれども公共の福祉のためにそれを取り消さないもので、も
・・・ ・
ともと例外的な制度であるから、事情判決が行われることはそう頻
・・・・・・・・・・
繁にあるわけではない。
《藤本 加入・ ここから著者は、ズバリ、本問の事例説明に相当
する内容を展開されている。》
事情判決が行われる一つのケース土地区画整理事業である。
土地区画整理事業とは、街づくりの一つの方法で、一定の地域にお
いて、土地の区画を整理することを本来の目標とするものである。そ
の過程で換地処分というものが行われる。これにより、例えばAさん
は、それまで持っていた土地とは別のところに土地を取得することに
なる。Aさんがこの換地処分に不服があり、取消訴訟を提起したとす
る。その後、判決までに何年かの時間がかかることがあるが、その間、
土地区画整理事業を終えた土地で新しい街づくりが進んでいることで
あろう。その場合、裁判所が、Aさんに対する換地処分が違法である
と考えても、もしその換地処分を取り消すと、せっかく進んでいる街
づくりをご破算にしなければならない。そのようなことはあまりにも
もったいない、公共の福祉に適合しないと考えると、裁判所は、事情
判決を下すことが許されるのである。
△ 参考事項
憲法問題
最大判昭和51年4月14日判決によれば、衆議院議員定数不均衡事
件において、「・・約5対1の較差は、・・選挙権の平等の要求に違反
すると判断し、配分規定は全体として違憲の瑕疵を帯びる、と判示した。
しかし、選挙の効力については、選挙を全体として無効にすることによ
って生じる不当な結果を回避するため、行政事件訴訟法31条の定める
事情判決の法理を『一般的な法の基本原則に基づくもの』と解して適用
し、選挙を無効とせず違法の宣言にとどめる判決を下した」(芦部信喜
著・岩波書店 参照)。
▲ 付 言
1 本問は、前記抜粋の文章にもあるように、特殊・例外的・頻繁でな
いこと等からすれば、普段の勉強では軽視しがちな分野かもしれない。
抗告訴訟を正面から問う出題からみれば、支流に属するのかもしれ
ない。
2 「事情判決」に焦点を合わせた準備をしていれば、容易に正解が導
きだされたとは思うが、この論点を外せば、お手上げという向きも
あるかもしれない。
3 しかし、参考事項にもあるように、憲法問題としても、重要なテー
マであるから、お手上げではすまされないかもしれない。
4 市販の「直前模試」の類をみると、ズバリこの問題が、記述式とし
て呈示されているところからすれば、試験委員の手の内が読まれてい
た可能性もあろう。
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【発行者】司法書士 藤本 昌一
【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
【E-mail】<fujimoto_office1977@yahoo.co.jp>
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