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民法 第95回

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         ★ 過去問の詳細な解説  第95回 ★

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                        PRODUCED BY 藤本 昌一
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【テーマ】  民法


【目次】    問題・解説

            余禄          
     

 

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 ■ 平成22年度・問題46(記述式)
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   以下の【相談】に対して、[  ]の中に適切な文章を40字程度で
 記述して補い、最高裁判所の判例を踏まえた【回答】を完成させなさい。


 【相談】

  私は、X氏から200万円を借りていますが、先日自宅でその返済に関
 してX氏と話し合いをしているうちに口論になり、激昂したX氏が投げた
 灰皿が、居間にあったシャンデリア(時価相当150万円相当)に当たり、
 シャンデリアが全損してしまいました。X氏はこの件については謝罪し、
 きちんと弁償するとはいっていますが、貸したお金についてはいますぐに
 でも現金で返してくれないと困るといっています。私としては、損害賠償
 額を差し引いて50万円のみ支払えばよいと思っているのですが、このよ
 うなことはできるでしょか。

 【回答】

   民法509条は「債務不法行為によって生じたときは、その債務者は、
 相殺をもって債権者に対抗することができない。」としています。その
 趣旨は、判例によれば[     ]ことにあるとされています。ですか
 ら今回の場合のように、不法行為の被害者であるあなた自身が自ら不法
 行為にもとづく損害賠償債権を自動債権として、不法行為による損害賠
 償債権以外の債権を受動債権として相殺することは、禁止されていませ
 ん。

  


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 ■ 解説
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 ●  序論


  1 本問においては、全体として考察すれば、【相談】内容に目を通す
   必要がない。

   【回答】欄において、「今回の場合ように 不法行為の被害者・・
   が自ら不法行為にも とづく損害賠償債権を自動債権として、不法行為
   による損害賠償債権以外の債権を受動債権として相殺することは、禁止
   されていません」として、相談内容を要約したものが呈示されているか
   らである。

    したがって、わざわざ、時間を費やして、以下のように図示して、
   【相談】内容を解明する必要性に乏しい。


             ・
                       X

        
         200万円    150万円
          
         ↓ 貸金債権   ↑ 損害賠償債権

        (受動債権)   (自動債権)
             
                      私
                        ・

   2 ここでいう判例とは、「本条≪民法509条》は、不法行為に基
    づく損害賠償債権を自動債権とする相殺までも禁止する趣旨ではな
    い。(最判昭42・11・30民集28−9−2477)」

     模範六法 1059頁 509条 1 ▽ 参照

     一般的知識としては、通常このあたりまでの認識はあるであろう。
          
     しかし、
     
          このことを本問の解答として、記載しても、蛇足であるから、点数
    にはならない。

 ◎ ズバリ回答としては、

    前記最高裁判所の要旨を要約したものとなるであろう。
    
  
    その要旨

    民法第509条は、不法行為の被害者をして現実の弁済により損害の填補
   をうけしめるとともに、不法行為の誘発を防止することを目的とするもの
   であり、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし、不法行為による
   損害賠償債権請求権以外の債権を受働債権として相殺をすることまでも
   禁止するものではないと解するのが相当である


    その要約としての本問の回答

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    不法行為の被害者に現実の弁済に
    よる損害の填補をうけさせるとと
    もに不法行為の誘発を防止する。

                45字

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 ○ 付言

  
   1 ズバリ回答をゲットしようとすれば、この問題を予想し、予め、最高裁判所
   図書館もしくは国立国会図書館所蔵の「最高裁判所民事判例集第21巻9号2
  477頁」を見て、暗記した希有な者に限られるであろう。

  2 それでは、判例の暗記という観点を離れて、標準的な法律書を基に本問を
   考察してみてみよう。

   民法509条によって、不法行為債権を受動債権として相殺が禁じられる
  のは、「不法行為の債務は必ず現実に弁済させようとする趣旨である」から
  である。

   もう一つは、仕返しを回避するためである。分かりやすく言えば、頭をぼこ
  にした相手に対し、自分も相手のかしらを同程度にボコボコにして帳消しにし
  ようとすることが許されないのである。
   あるいは、「任意に履行履行しない債務者に対して債権者が自力救済その他の
  不法行為をしたうえで、それによって相手方が取得する損害賠償債権を受動債
  権として相殺をもって対抗するようなことを許さないというねらいも含んでいる。」
             ・
   したがって、受験者の頭の隅に「現実弁済」とか「自力救済の禁止」という
  言葉が浮かべば、さきの最高裁の判例の要旨を知らなくても、何とか正解に達
  する可能性が開けてくるのである。

   以下は、【余禄】欄に譲る。

   
 ▲ 参考事項

  以下の判例あるので、参考までに掲げておく。

  双方の過失に基づく同一交通事故による物的損害の賠償債権相互間でも、
 相殺は許されない。(最判昭49・6・28 民集28−5−666)

 《22年度模範六法・民法509条 2 ▽ 》

  当該判決の判旨によれば、「民法509条の趣旨は、不法行為の被害者に
                       ・
 現実の弁済によって損害の填補を受けさせること等にあるから、およそ不
 法行為による損害賠償債務を負担している者は、被害者に対する不法行為に
 よる損害賠償債権を有している場合であっても、被害者に対しその債権をも
 って対等額につき相殺により右債務を免れることは許されないものと解する
 のが相当である」。
 

  
 ★ 参考文献

  民法 2 ・ 我妻栄/有泉亨著・勁草書房
   
    


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  ■ 余禄・先生と美里さんの会話(メルマガ配信から抜粋)

     《平成22年度問題 46 を巡って》

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 永宗美里さんの紹介

 花の独身・28歳・瞳がきらきら輝き、活発・行政書士受験歴2回・
 3回目に挑戦中。

 先生の事務所に勤務・先生の姪にあたるが、事務所内では、伯父を
 先生と呼ぶ。
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              どちらが先生?
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 先生「平成22年度・問題46については、当日どう回答した?」

 美里「あまり答えたくありませんが、・・・【相談】の事例を読めば、
    受動債権が 貸金債権であって、不法行為による債権ではありま
       せんので、民法509条に照らして、相殺が可能だと考えまし
       た。」

 先生「それは、当然だ。例の最高裁の判決要旨は知らなかったんだね」

 美里「今では、その存在は分かっていますが、試験日には、その要旨に
    ついて、全然頭にありませんでした」
 
 先生「それも当然だ。その点、君は悪くない。それを知っていろという
    のは要求過多だ。それでは、なにを書いた?」

 美里「はい、509の立法趣旨として、不法行為の被害者に実際に弁済
    する必要があるから、相殺が禁止されていることは知っていまし
    たので、この場合は、自動債権が損害賠償債権ですから、相殺可
    と思い、そのことを書きました」
 
 先生「それはそれで、正しい」

 美里「でもね、先生。『不法行為の被害者に現実に弁済する必要がある』
    と書くと、空欄が半分なんです。仕方がないから、これに続けて、
   『・・・から、不法行為による債権を自動債権とするのは可』と
    かなんとか、書いたと思います。」

 先生「後半が蛇足だ」

 美里「分かってます。これは、まずいと思って、書いたんですから・・
    蛇足だと思って、空欄を埋めただけですから」

 先生「『自力救済の禁止』という文言は浮かばなかったんだな」

 美里「ちらりと、頭をかすめましたが、事例をみれば、受動債権が不法
   行為ではないわけですから、自力救済は関係ないと思ったんです」

 先生「なるほど。しかし、いまは、そのからくりはわかっているね」
   
 美里「先生。わたしが説明いたしますわ。まかせてください」

 先生「君が先生だ!どうぞ」

 美里「つまりですね。【相談]の事例によっても、受動債権が不法行為
    でなくて、貸金債権であることがポイントですね。【回答】でも、
   『不法行為による・・債権以外の債権を受動債権として』相殺可
   となっていますよね」
 
 先生「裏から言えば・・・・」

 美里「(みなまで言うなと制するように・・)受動債権が不法行為で
    ある場合には、自力救済禁止、判例によれば、「不法行為誘発
    防止」のため、相殺不可であるから、そのことも[  ]欄に
    記載しておく必要があるということですね」

 先生「Exactly! 最後に一言。じっくりこの問題をながめて
    ほしい。【回答】欄の記載だけで回答できる。かえって、【相談】
    の事例にひっぱられると、現実弁済しか念頭にうかばないことに
    なる。もうひとつ・・・・」 
             
      
       ↓    続き( 一週間後・・)

 

          
           二丁拳銃と二刀流
       ーーーーーーーーー


 美里「先生、もうひとつとはなんですの。1週間も待たされたんです
    もの。先生あんまり勿体ぶらないで!」

 先生「そんなつもりはない。ただ誌面の都合でそうなっただけだ。
    つまり、私の言いたかったことは、この問題の採点基準につい
    てだ。前に掲げた最高裁判所の判例(最判昭42・11・30)
    の判旨を機械的に当てはめて、そのとおりかどうかを基準にし
    てほしくないということだ」

 美里「そうですね。『現実弁済』のほか、『自力救済の禁止』『仕返し
    の禁止』でもいいわけですよね。現実の弁済による損害の填補
       とか、不法行為の誘発防止でなければ、減点というのは、お笑
         ・
    い草ですよね!}

 先生「君も八つ当たり気味だね。そんな草は見たこともないが・・。
    いずれにしても、採点者が、この事案を咀嚼し、柔軟に対処
    できるかどうかが鍵だと思うな」

 美里「例えば、『不法行為の被害者に現実の弁済をさせるとともに、
    自力救済を禁止する』(33字)でもいいわけですよね」

 先生「私には、減点の対象が見当たらない。自力救済・・が仕返し
    の禁止であっても、一向にかまわないじゃないか」

 美里「わたし、古い西部劇で、二丁拳銃で、一度に同時に二人を殺す
   場面見ていて、この問題を連想しましたわ」

 先生「なるほど、正面の敵は、現実弁済の自動債権だ」

 美里「横には、自力救済禁止という敵ですね」

 先生「面白いね。敵は、不法行為の衣を被っている。・・それでは、
    チャンバラ映画の二刀流は、どうだ」

 美里「先生、同じことですわ。蛇足です」

 先生「(むっとして・・)もう止めておこう」

 

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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 【E-mail】<fujimoto_office1977@yahoo.co.jp>
 
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