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行政法過去問解説 第97回

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                ★  【過去問解説第97回 】  ★

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                 PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】 行政法

    
  【目 次】 過去問・解説
              
   
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 ■ 平成24年度問題44・記述式  
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    Xは、A県 B市内に土地を所有していたが、B市による市道の
  拡張工事のために、当該土地の買収の打診を受けた。Xは、土地
  を手放すこと自体には異議がなかったものの、B市から提示された
   買収価格に不満があったため、買収に応じなかった。ところが、B
  市の申請を受けたA県収用委員会は、当該土地について土地収用法
  48条に基づく収用裁決(権利取得裁決)をした。しかし、Xは、こ
  の裁決において決定された損失補償の額についても、低額にすぎる
   として、不服である。より高額な補償を求めるためには、Xは、だ
  れを被告として、どのような訴訟を提起を提起すべきか。また、こ
  のような訴訟を行政法学において何と呼ぶか。40字程度で記述し
   なさい。

 

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 ■ 解説
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 ●  総説

 
 本問では、ズバリ、形式的当事者訴訟について問われている。


 1 形式的当事者訴訟の占める位置

   
  ○ 抗告訴訟(行政事件訴訟法第3条第1項・第
   2項)

  ○ 形式的当事者訴訟(行政事件訴訟法第4条前段)

  ○ 実質的当事者訴訟(行政事件訴訟法第4条後段)

  ○ 民事訴訟

 
  以上の訴訟形態の中において、中心的なテーマになるのは、抗告
 訴訟・実質的当事者訴訟・民事訴訟である。

  
    その区別は以下のとおりである。
    
   
   ▲   行政「処分の取消しの訴」は、「行政庁の公権力の行使に関す
      る不服の訴訟」である抗告訴訟である(行政事件訴訟法第3条第
      1項・第2項)から、「行政主体と一般市民との間における対等
       当事者としての法律関係に関する訴訟]ではない。※1

   ▲  「行政主体と一般市民との間における対等当事者としての法律関
   係に関する訴訟」のうち、公法上の法律関係に関する訴訟が実質
      的当事者訴訟であり、私法上の法律関係に関する訴訟は民事訴訟
      となる。※2

   
    ※1「対等当事者としての法律関係」とは、「公権力を行使し
        ない」行政主体との関係というほどの意味として捉えるべきで
        あろう。   

    ※2 その具体例

     行政指導は、一般に「公権力の行使」に該当しないので、「処
        分の取消の訴」の対象にはならない。したがって、行政指導が違
        法である場合には、行政指導の違法の確認を求める訴訟形態を認
        める必要がある。これが、行政事件訴訟法4条後段で規定される
       「実質的当事者訴訟」なのである。

     以上に対して、「例えば、水道料金のような私法上の債務の不
        存在確認訴訟(民事確認訴訟)」(読本 参照)は、「私法上の
        法律関係に関する」ものとして、民事訴訟になる。

     (本講座メルマガ 2011/ 12 /26・107号を要約した)

  ▲ 以上のメンテーマに比較して、形式的当事者とは、特殊・例外的な
   訴訟形態である。

    後掲書「読本」によると、以下のような記述により、その説明が省
   かれている。あえて、そこを、記述式によって、突いてくるところに
   本試験の特徴があるといってもよいのかもしれない。

    ・・この訴えが実質的に見ると「公権力の行使に対する不服の訴訟」
    つまり「抗告訴訟」としての性質を持っているのだけれども、法形
    式の上では対等な当事者の間での訴訟というかたちになっている、
        ということなのです。ただ、こういった例」はそもそもほんとうに
        例外的にしか認められていませんし(例として、土地収用法133
        条3項、特許法については略 藤本)、行政法入門の段階では、こ
        ういうものがあるということについてあまり気にする必要はないと
        思います。

  
 2 形式的当事者訴訟(行政事件訴訟法第4条前段)

   行政事件訴訟法第4条前段が規定する。この訴えは実質的にみると
    「公権力の行使に対する不服の訴訟」つまり「抗告訴訟」としての性
     質を持っているが、法形式の上では対等な当事者での訴訟というか
     たちをとる(入門)。

   代表例としては、土地収用の場合において土地所有者に支払われる
    損失補償に関する争いである。訴訟の対象は、都道府県に設けられて
    いる収用委員会の裁決という行政処分であるため、この争いの実質は、
   「抗告訴訟」である。ところが、土地収用法は、「損失補償に関する
    訴訟は、損失補償の法律関係の当事者つまり土地所有者と土地所有権
    を取得し補償の義務を負担する起業者との間で行われるべきものとし
    ている」(読本)

  (本講座メルマガ 2011/ 12 /26・107号から抜粋)

   
     参照条文としては、土地収用法133条2項・3項 が重要である。
  


   ●  本問の検討

    前記総説 2 をそのまま、あてはめればよい。
  
    
   すなわち、

   損失補償の法律関係の当事者(土地収用法113条3項)
   
   X=土地所有者

   B市=土地所有権を取得し補償の義務を負担する起業者

   
   どのような訴訟=A収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する
           訴え(同法113条2項)・具体的には、「損
           失補償の増額請求の訴え」

   このような訴訟を行政法学において、形式的当事者訴訟と呼ぶ
  (行政事件訴訟法第4条前段)。

    したがって、本問の正解例は、次のとおりになる。

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     B市を被告として、損失補償の増額請求の訴えを提起すべきで、
   これを形式的当事者訴訟と呼ぶ。(44字)

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       つまり、(1) B市を被告とすること (2)損失補償の増額
   請求の訴え (3)形式的当事者訴訟 の三つの記載がされていれ
   ば満点になるのだろう

  
   ●  付言 

   (1) 本問に関しては、当該本試験前において、前述のとおり、
      メルマガ107号で解説が実施されていることに、私は、
      ほっとしている。

   (2) 当事者訴訟とくに実質的当事者訴訟については、論点は多
      岐に渡っているので、将来の本試験対策として、メルマガ135号
     の「オリジナル問題出題・解説」において、詳述した。
          


     ★  参考図書

     
       行政法入門 藤田宙靖 著 ・ 行政法読本 芝池義一 著

      ・有斐閣発行

 

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 【発行者】 司法書士 藤本 昌一

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