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行政法=信頼保護に関する判例過去問解説 第102回

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           ★  【過去問解説第102回 】  ★   
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                 PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】 行政法=信頼保護に関する判例

        
  【目 次】 過去問・解説
              

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 ■ 平成24年度・問題8
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   行政法における信頼保護に関する次の記述のうち、最高裁判所
 の判例に照らし、正しいものはどれか。

 1 地方公共団体が、将来にわたって継続すべき一定内容の施策を
 決定した後に、社会情勢の変動等が生じたとしても、決定された
  施策に応じた特定の者の信頼を保護すべき特段の事情がある場合
  には、当該地方公共団体は、信義衡平の原則によりー度なされた
  当該決定を変更できない。

 2  公務員として採用された者が有罪判決を受け、その時点で失職
   していたはずのところ、有罪判決の事実を秘匿して相当長期にわ
   たり勤務し給与を受けていた場合には、そのような長期にわたり
   事実上勤務してきたことを理由に、信義誠実の原則に基づき、新
   たな任用関係ないし雇用関係が形成される。

 3 課税処分において信義則の法理の適用により当該課税処分が違法
  なものとして取り消されるのは、租税法規の適用における納税者間
   の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお、当該課税処分に係る
   課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するとい
   えるような特別の事情が存する場合に限られる。

 4 課税庁が課税上の取扱いを変更した場合において、それを通達の
  発出などにより納税者に周知する措置をとらなかったとしても、そ
   のような事情は、過少申告加算税が課されない場合の要件として国
   税通則法に規定されている「正当な理由があると認められる」場合
   についての判断において考慮の対象とならない。

 5 従来課税の対象となっていなかった一定の物品について、課税の
   根拠となる法律所定の課税品目に当たるとする通達の発出により新
  たに課税の対象とすることは、仮に通達の内容が根拠法律の解釈と
  して正しいものであったとしても、租税法律主義及び信義誠実の原
   則に照らし、違法である。

 

 

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 ■  解説 
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 ★  参考文献

  行政法入門 藤田宙靖 著 ・ 行政法読本 芝池義一 著

    ・有斐閣発行
 
 

 ◆ 本問の分析

 
 ア 本来、本問が主題にした「行政法における信頼保護」の原則
  とは、行政の活動を信頼したところ、それが反故にされて不利
  益を蒙ったという場合に、救済を認めようという原則である。
  《読本 63頁》 

   これにピッタリと該当するのは、肢1であり、肢4もまた、こ
  れに関連するといえる。
   その他の肢は、「行政法における信義誠実の原則」が主題にな
  っている。

 イ 本問において掲げられている最高裁判例すべてに通暁(つうぎ
  ょう)している稀な人を除けば、各判例の比較衡量に推定を重ね
  ることによって、かろうじて、正解に達するしかないであろう。

   しかし、2・3・4の判例とくに4の判例は、一般の教科書で
  は一般に取りあげらていないので、厄介である。
                             ・・
 ウ 以上の観点にしたがって、みてゆくと、突破口は、まず、肢5
  である。当該判例(最判昭33・3・28民集12−4−624)
  は、「通達の内容が根拠法律の解釈として正しいものであ」る以
  上、課税処分は法の根拠に基づく処分と解するに妨げないとする。

   憲法の教科書でもよくとりあげられ、ポピュラーだ。

   まず、本肢は×に確定。

      ・・
  エ 次は、肢1の判例(昭56・1・27民集35−1−35)に
   ついては、前述した「行政法における信頼保護」の原則の典型例
   として教科書でとりあげられているので、以下の判旨が記憶にあ
   ればよい。

   村長が製紙工場の建設についての協力を言明していたが、選挙
  で村長が交代し、この言明が守られなかったときに「工場を設置
  しようとした者に侵害を与えることは違法な加害行為に当たり、
  地方公共団体の不法行為責任を生ぜせしめる」としているのであ
  って、当該判例は、その「特定の者を保護すべき特段の事情がある
  場合には、ー度なされた当該決定を変更できない」とまでは言って
  いない。

   本肢も×

  オ そうすると、あとは、2・3・4の判例の当否の問題になるが、
   これらのの判例について知識がないた場合には、その内容を比較
   衡量することになるだろう。
     ・
     まず肢2の判例(最判平19・12・13判時1995−57)
  であるが、「長期にわたり事実上勤務してきたことを理由に、信
  義誠実の原則に基づき、新たな任用関係ないし雇用関係が形成さ
  れる」というのは、常識的にみて、おかしいというべきだろう。

   判例もまた、そのように考えるので、本肢も×

  カ 残るは、3と4の比較という作業である。

    肢3の判例(最判昭62年10月30日判時1262号91頁)
  と肢4(最判平18・10・24判決)を比較する場合には、
 「信義誠実の原則」・広い意味での私人の「信頼保護」が基準とさ
 れることになる。
              ・
  このような観点に立つと肢4では、課税庁が従来の取扱いを変
 更しようとする場合に納税者に周知する措置をとらないことは、
 過少申告加算税が課されない場合の要件として国税通則法に規定
 されている「正当な理由があると認められる」場合についての判
 断において考慮の対象とされることが、 「信義誠実の原則」・私
 人の「信頼保護」に照らし、妥当であるということになる。

  これに反する肢4は×
         ・
  これに対し、肢3では、当該課税処分に係る課税を免れしめて
 納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別
 の事情が存する場合には、 当該課税処分を違法なものとして取
 り消されるべきことになる。ただし、当該課税処分は租税法規に
 適合する課税処分だとすると、租税法規の適用における納税者間
  の平等、公平という要請を犠牲にすることになるのであるから、
 当該課税処分が違法なものとして取り消されるのは、前記「特別
  の事情が存する」場合に限定されることになる。

  本肢3は○

  この間の事情については、下記の記述を参考にされたい(入門
 71頁)。                                
  ・・・ばあいによっては、私人の信頼保護のために租税法律主義
 の方が引っ込まなければならないこともありうる、ということは、
 すくなくとも一般論としては、こんにち、最高裁の判例によって
 も認められるようになってます(参照 最判昭62年10月30
 日判時1262号91頁)。

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  本問では、正しいものは、3であるから、正解は3である。

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 ■ 付言

   こんごとも、本試験において、出題される判例を事前に把握して
 おくことは、現実には、厖大な判例集が存在するのだから、至難の
 ことである。
  この解説で試みたように、出題された判例のうちポピュラーな判
 例をとっかかりにして、比較衡量・推定を駆使して正解に達する
 ことが肝要である。
  
   また、たとえば、本試験において、この問題を後回しにしていて、
 時間がなくて、臨んだばあい、当日、勘が冴えていて、3の肢が浮
 かびあがってきて、3を選択することもあるかもしれない。

  その意味において、どのような状況下においても最後まで諦めな
 いで、粘りぬくことこそが、一番大切なことかもしれない。  
 

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 【発行者】 司法書士藤本昌一
 
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