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行政法=行政契約過去問解説 第106回

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            ★  【過去問解説第106回 】  ★

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                   PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】 行政法=行政契約

  【目 次】 過去問・解説
              
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 ■ 平成24年度・問題9
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   行政契約に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。見解が
 分かれる場合は、最高裁判所の判例による。

 1 行政契約でも、その内容が国民に義務を課したり、その権利を
   制限するものについては、法律の留保の原則に関する侵害留保理
   論に立った場合、法律の根拠が必要であると解される。

 2  地方公共団体が、地方自治法上、随意契約によることができな
   い場合であるにもかかわらず、随意契約を行ったとしても、かか
   る違法な契約は、私法上、当然に無効となるものではない。

 3 地方公共団体がごみ焼却場を建設するために、建設会社と建築
  請負契約を結んだ場合、ごみ焼却場の操業によって重大な損害が
   生ずるおそれのある周辺住民は、当該契約の締結行為について、
   当該地方公共団体を被告として、抗告訴訟としての差止めの訴え
   を提起することができる。

 4  地方公共団体の長が、指名競争入札の際に行う入札参加者の指
  名に当たって、法令の趣旨に反して域内の業者のみを指名する運
  用方針の下に、当該運用方針に該当しないことのみを理由に、継
  続して入札に参加してきた業者を指名競争入札に参加させない判
  断をしたとしても、その判断は、裁量権の逸脱、濫用には当たら
  ず、違法ではない。

 5   地方公共団体が、産業廃棄物処理施設を操業する企業との間で、
  一定の期日をもって当該施設の操業を停止する旨の公害防止協定
  を結んだものの、所定の期日を過ぎても当該企業が操業を停止し
  ない場合において、当該地方公共団体が当該企業を被告として操
  業差止めを求める訴訟は、法律上の争訟に該当せず、不適法であ
    る。

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 ■  解説 
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  ★  参考文献

  行政法入門 藤田宙靖 著 ・ 行政法読本 芝池義一 著

    ・有斐閣発行


 ■ 本問の位置づけ

    平成24年度過去問においては、行政法の分野においては、本問
 のほかに、最高裁判所判例と関連付けて、「行政法における信頼保
 護」(問題8)・「行政裁量」(問題26)という大きなテーマの
 出題が行われている。本問もまた、その趣旨に副った出題である。

  したがって、今後とも類似の問題が出題される蓋然性は高いと
 予測されるので、その対策として、本問を通じて、解答の要領を
 取得する必要がある。

  なお、「行政法における信頼保護」については、当サイト10
 2回において解説を行ったが、「行政裁量」については、同じく
 当サイト欄において、将来、折りをみて、解説を行うつもりであ
 る。
 
 
 ■ 本問のポイント

     肢2に注目。

  行政契約に関する肢1〜5の記述すべてについて、正しいか
 どうかの判断を適確に行うことは、かなり困難なことである。

  本問に関していえば、一般的な教科書で説明されている最高
 裁判所判例(昭和62年5月19日判決・民集41巻4号68
 7頁)の知識があれば、肢2の記述が正しいことが即座にわかる
 のであるから、今後とも、普段の本試験の準備段階において、教
 科書に載っている主要判例にはできるだけ目を通しておいて、本
 試験当日において、その判例知識が、頭の隅に留まっているよう
 に心がけたいものである。

   
 ■ 各肢の検討
  
  
 ○ 肢1について。

  侵害留保説・行政契約に関する基礎知識があれば、本肢が
 正しくないことが判明する。

 (1)侵害留保説とは、国民の権利や自由を権力的に侵害す
   る行政についてのみ法律の根拠を必要とする説であるの
    で、その妥当する分野は、権力的行政である。

 (2)これに対して、行政契約とは、行政(国・公共団体)
   が一方の当事者となって締結される契約である。非権力
   的法行為である。
  
   《読本54頁・177頁参照》
 
 (3)以上から導かれる帰結は、侵害留保説によれば、非権
   力的公行政行為である行政契約には、法律の授権は必要
   ない。このような非権力的公行政についても法律の授権
   を要するとする説は、公行政留保説である(読本55頁)。

   したがって、以上の記述に反する本肢は正しくない。

  
  ※ 参考事項

    (a)行政契約でも、その内容が国民に義務を課したり、
        その権利を制限するものについては、法律の授権を要
        するものもあるというのは、通説であるが、しかし、
        前述したとおり、侵害留保説によるかぎり、この場合
        でも法律の授権を要しないことになるのである。その
        ことに混乱を生じないことが、肝要である。
   
   (b)少々我田引水になるが、私の散見した範囲では、市販
      の解説書では、(a)に記載した混乱を脱して、侵害留
      保説の定義から導かれる当該自明の理について、明確に
      記されたものはなかった。

      (c)ついでに言っておくと、行政契約の内容よっては、強
     制の度合いの強いものは、法律の授権を要するという
     通説を疎外するのが、侵害留保説となるが、そういった
     定義ひいては理論が硬直した固定観念を生む危険をつと
     に主張されたのが故小林秀雄氏だった。


 ○ 肢2について。

    前記最高裁判所判例(昭和62年5月19日判決・民集
   41巻4号687頁)は、地方公共団体の行政契約の手続
   に関して、つぎのとおり判示した。

    入札手続をとるべきであるにもかかわらずこれをとらず
   随意契約によった公有財産の売却契約は、法令の規定の趣
   旨を没却する特段の事情がない限り、私法上無効ではない。

       本肢は、当該判例に照応するものであるから、正しいこと
   は、歴然としている。

  
  ※ 参考事項

  (a)一般的にいって、取締法規に違反した取引は無効ではな
     いとするのが最高裁の判例だという認識があれば、かりに、
     前記判例知識がなくても、本肢が正しいという結論を導く
     ことができるかもしれない。

  (b)本肢に関しては、その前提として、次のような知識の取
    得が要請される。
     地方自治法234条1項・2項によれば、「原則は一般
    競争入札であり、指名競争入札、随意契約、せり売りは政
    令に定めがある場合にのみ許される。
     しかし、一般競争入札は面倒な手続であるから行政とし
     ては指名競争入札や随意契約をとりがちである。」《読本》

     なお、それぞれの各手続の内容については、過去問平成
    19年度問題24を参考にするとよい。

     その肢1では「指名競争入札とは、・・政令に特段の定
    めのない場合にはこの方法によるものとされる」とあるが、
    前述したところにより、当該記述に相当するのは、一般競
    争入札であって、本肢は誤りであって、本肢が正解となる
    (このような過去問との連動関係を尊重する勉強≪研究≫
     方法を私は、芋づる方式と呼ぶ)。
  
  (c)関連する判例(平成昭和62年3月20日判決・民集41
    巻2号189頁)

         地方自治法施行令によると

     地方公共団体が随意契約よることのできることの要件の一
    つとして、以下のように定める。

      契約の性質又は目的が競争入札に適しないこと

    最高裁判所は、以下の場合、当該要件に該当すると判断した。

    「競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難と
    は いえな」くとも随意契約の方法をとることが「当該契約の
       性質に照らし又はその目的を窮極的に達成する上でより妥当
       であり、ひいては当該地方公共団体の利益の増進につながる
       と合理的に判断される場合」

       《以上は、読本183頁参照)

     以上、本肢の判例では、法令違反の随意契約について、当該
    随意契約によった公有財産の売却契約は、特段の事情がない限
    り、私法上無効ではないとした。
     同時に前記関連判決では、法令で定める随意契約によること
    のできることの要件自体をゆるやか解釈することを認めたとい
    える。

 
    ○ 肢3について。

       地方公共団体が建設会社と結んだ建設請負契約は抗告訴訟の対象
   にならないため、当該契約の締結行為に対して、第三者である周辺
   住民は、行政事件訴訟法3条7号の抗告訴訟としての差止めの訴え
   を提起できない。以上の考え方は、当該行為について「処分」性を
   否定した最高裁判例(昭和39年10月29日民集18巻8号18
   09頁ー東京都ごみ焼却事件判決)に副うものである。

    ここでいう「処分」性については、種々の議論があるようである
   が、本肢については、以上の正確な知識があればよしとして、これ
   以上深入りしない。

    以上の記述に反する本肢は、正しくない。

 
   ○ 肢4について。

       本肢については、判例(最判平18・10・26判時1953−
  122)があって、それによれば、「指名競走入札に長年指名を受
    けて継続的に参加していた建設業者を特定年度以降全く指名せず参
    加させなかった措置の理由として、上記業者が域外業者であること
    のみである場合は違法である」とするものである。
 
   本肢は、当該判例に基づくものと思われるが、その記述内容が必
  ずしも明確でないこと、さらに一般に疎遠と思われる当該判例の知
  識まで要求されることに違和感があるが、常識に照らして、本肢は
  正しくないと判断せざるを得ないでろう。

  
  ○ 肢5について。

     行政契約の一つとしての公害防止協定は、事業者に対しては安全
  確保などのため義務を課することになるが、違法操業に対して、当
  該協約の当事者の一方である地方公共団体が訴訟で操業差止めなど
  の法的措置を求めることができるかという問題がある。
  しかし、協定は、行政処分ではないため、行政上の強制執行はで
 きないので、民事訴訟を提起せざるを得ないが、当該訴訟が、法律
 上の争訟に該当するかが、さらに問題となる。

  本肢は、以上の問題点を提起した記述であるが、公害防止協定に
  は、契約としての効力があるとして、当該協定に基づく義務の履行
 を求める訴訟を認めたのが最判平成21年7月10日判決のようで
 ある。

  したがって、当該訴訟が不適法であるとする本肢は、以上の記述
 に反するので、妥当でない。

  なお、細かい当該判例知識がないのは、一般的にいって極めて普
 通のことであるから、以上のような訴訟が認められなければ、「協
 定は法的意味を失うであろう」(読本183頁)という法常識(私
 は、これをリーガルマインドと呼びたい)があれば、本肢は正しく
 ないという判断が即座に可能となるであろう。

 ※ 参考判例

 ● 国または地方公共団体がもっぱら行政権の主体として(つまり
   公権力の行使の主体として)行政上の義務の履行を求める訴訟は、
  そういったことを認める特別の規定がない限り許されない(最判
  平14年7月9日民集56巻6号1134頁。いわゆる「宝塚パ
  チンコ条例事件判決」)。《入門173頁》

 ● 本件は、「ある市が、パチンコ店の建築に着手した者に対して、
  条例に基づき建築工事中止命令を発したが、相手方がそれに従わ
  なかったので、さらに工事の続行の禁止を求めて裁判所に出訴し 
  た事件」である。「市としては、法律上も条例上も、行政上の
  強制執行(この事件の場合は直接強制か執行罰)、刑罰、行政
  的措置のいずれも認められていなかったので、最後の手段とし
  て訴訟を提起したのであるが、最高裁判所は、・・現行の法律
  には「特別の規定」が存在しないことを認定して、理屈抜きで
  一刀両断的にこの訴訟が「法律上の争訟」に当たらないとした
  のである(読本141頁以下)。

 ● 「学説。判例は、従来一般に、行政庁であっても、行政法上の
  強制執行手段がないばあいには、私人とおなじように、通常の
  民事執行の手続によって、裁判所の手を借りた強制執行をする
  ことができるのだ、と考えてきました」が、最高裁判所は当該
  判決によって、これを覆したのである(入門173頁)。

 ● 当該判決によると、「訴訟で義務の履行を強制できるのは財
  産上の義務だけである」(読本184頁)ということになる。

  《当該判決は、大きな議論を招いた有名なものであるので、理
   解が深められるように、参考図書から該当箇所を引用し、列
   記した》

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 ◆ 以上の参考判例に対して、本肢の判例では、本件公害防止協
  定(行政契約)については、義務の履行を求める訴訟が認めら
  れたので、裁判所による強制執行が行われることになる。

  私の記憶では、当該参考判例もまた、いずれかの過去問で出題
 されていたように思う。もし、私の記憶に誤りがあったとしても、
 当該判決は、将来の本試験で出題される可能性大であるといえる。
  そういう観点に立った場合、以上で述べた「本肢と参考判例の
 対比」もまた、前述した、過去問の連動関係を尊重する芋づる方
 式勉強方法に相当するであろう。

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  以上によれば、本問の正解は、肢2である。

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 ★ 付 言


  私は、本問の解説には、丸3日間を要したのであり、みなさま
 の熟読を祈念いたします。


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 【発行者】 司法書士藤本昌一
 
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