行政書士試験独学合格を助ける講座
民法オリジナル問題 第65回
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★ オリジナル問題解答 《第65回》★
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PRODUCED BY 藤本 昌一
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【テーマ】 民法
【目次】 問題・解説
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■ 問題 多数当事者の債権および債務
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(1) 買主の代金債務の保証人は買主の有する同時履行の抗弁権(533
条参照)を主張できるか。
(2) 連帯保証人が数人あって、保証人間に連帯の特約がない場合におい
て、債権者が保証人の一人の債務を免除したときは、他の連帯保証人
の債務にその効果は及ぶか。
※ 本問は、【行政書士試験独学合格を助ける講座】第177号 におい
て、「平成23年度問題31」の検討を行った際に、関連質問として
出題したものである。
☆ なお、メルマガ第177号はこちら
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■ 解答
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○ 問題(1)について
(ア)この設問に対して、ズバリ当てはまる条文はありません。また、
この場合に該当する判例もありそうにありません。
(イ)関連する条文としては、457条2項に保証人の相殺権があり
ます。この規定について、教科書では、「連帯債務者相互の場合と
同一 趣旨である(436条2項)」と述べられています。それで
は、その趣旨とはどのようなものでしょうか。
3,000万円の連帯債務者B・C・Dの連帯債務者のうち、D
が反対債務を有するとしよう。
図示しますと、以下のようになります。
A
3,000 万円 ↓ ↑(Dが2,000万円の反対債権を有する)
B・C・D 連帯債務者(負担部分は平等とする)
★ その1 436条2項を適用した場合
Cが弁済を請求されたときには、Dの負担部分1,000万円だ
けはDの反対債権で相殺し、残額2,000万円だけを支払えばよ
いことになります。
★ その2 Cが436条2項の援用をしない場合
3,000万円を弁済したCは、Dに対し、Dの負担部分1,0
00万円について、求償し(442条1項)、これに応じたDは、
Aに対する相殺の機会を失することになり、反対債権2,000万
円がそのまま残ります。
★ 両者の比較
その1で記した、436条2項の適用の結果をみてみますと、
C・D間の関係がおのずから決済されたことになりますので、当
該規定は、その2で記述したような無用の迂回を回避をするため
に設けられた便宜に基づく特則であるということになります。こ
こにおいて、436条2項の趣旨が明らかになりました。
それでは、Cが、3,000万円の主たる債務者Bの債務を保証
した場合、Bが債権者Aに対して3,000万円の反対債権を有す
るとしよう。
図示すると、以下のとおりです。
A
3,000万円↑↓ 3,000 万円
B 保証人C
★ その1 457条2項を適用した場合
保証人CがAから3,000万円の請求されたとき(446条1
項)、保証人の相殺権ををAに対抗すれば、その後、主たる債務者
Bに対する求償もなくなるため、B・C間の関係がおのずから決済
されたことになります。
★ その2 Cが457条2項の相殺権ををAに対抗しない場合
3,000万円を弁済したCは、Bに対して求償することになり
ます(459条以下)。これに応じたBは、Aに対する相殺の機会
を失いますので、BのAに対する反対債権3,000万円が残りま
す。
★ 両者を比較すれば、その1では、その2におけるような求償を回
避し、B・C間の関係がおのずから決済されたことになります。こ
こにおいて、457条2項の保証人の相殺権は、436条2項の連
帯債務者相互の場合と同一 趣旨であることが判明しました。
※ 459条以下を見てみますと、保証人の求償の範囲は、委託を受
けた場合と委託を受けない場合とで異なっていることが分かります。
委託を受けた場合には、459条2項により、442条2項の連
帯債務者の求償権の規定が準用されています。また、この場合には、
事前の求償権もあります(460条)。これに対して、委託を受け
ない場合には、462条により限度が設けられています。ここで、
相殺と求償権の 関係について規定した462条2項について説明し
ておきます。ここでは、委託を受けない者が、主たる債務者の意思
に反して保証した場合が規定されていて、この場合には、主たる債
務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有すること
になります。
以上を前提にして、相殺と求償権の関係について、前に示した図
で説明しますと、3,000万円を弁済したCがBに求償したとこ
ろ、Cの弁済によって、免責されたBがその免責以後求償の時まで
にAに対して3000万円の反対債権を取得したときは、Bは、現
に利益を受けている限度の求償権で足りますので、この3,000
万円でAに対して相殺し得ることを対抗できます。その結果、Cは
求償権を失い、BのAに対する3,000万円の反対債権を行使し
うることになります。ここで、702条3項の規定を見てください。
事務管理における管理者の費用償還請求においても、同趣旨の規定
があることが分かります。
(ウ) それでは、これから、保証人が主たる債務者の有する同時履行の
抗弁権を行使しうるかという本題に入ります。いままでは、関連す
る条文である457条2項の保証人の相殺権とこれと同一 趣旨で
ある連帯債務者相互の場合の規定・436条2項の説明を詳しく行
いましたが、これらの知識は、本試験対策としても、知っておいて
損にはならないと思います。もう一度要約しますと、これらの規定
は、当事者の関係がおのずから決済されたことになるような結果を
をもたらす便宜に基づく特則であるということになります。
これに対して、 買主の代金債務の保証人は買主の有する同時履行
の抗弁権(533条参照)を主張できるかという場合、これを肯定
するとすれば、主たる債務者である買主と保証人間の関係が決済さ
れるという前述した観点に立つものではないことは確かです。頼り
にするべき条文もなく、判例も見当たらないとすれば、前述した観
点以外の他の理論によるしかありません。みなさまにすれば、何を
勿体ぶったことを言っているのだ、保証債務の付従性から当然では
ないかということになりそうです。そう言われると、確かに、その
とおりです。
(エ) しかし、保証債務の付従性といっても、その具体的内容は、さま
ざまですが、本問では、保証人が主たる債務者の抗弁権を援用しう
ることも付従性の一内容とされるということを明確に把握に把握す
る必要があります。このことを我妻民法から引用すれば、「保証債
務は、(主たる債務とは)別個の債務だとしても、主たる債務を履
行することが目的なのたから、主たる債務の効力を制限する抗弁権
は、保証人もまたこれを援用してその債務を制限することができる
と解さなければ、保証債務の付従性に反することになる・・」。
この観点からすれば、「保証人が主たる債務者の有する同時履行
の抗弁権を行使しうることはいうまでもない」ことになります。
したがって、本問においては、買主の代金債務の保証人は買主の
有する同時履行の抗弁権(533条)を主張できることになります。
※ 以上に関連する判例として、以下のものをあげておきます。
(a)主たる債務が時効で消滅したときは、保証人は、自分に対す
る関係で、これを援用して保証債務の消滅を主張することがで
きる(大判大正4・12・11民録21−2051)。
したがって、主たる債務者が時効の利益を放棄するときは、
保証のない債務となります。参照条文 145条
(b)無能力者の債務を保証した者は、保証人の資格においては、
右債務の原因たる無能力者の行為につき取消権を有しない(大
判昭20・5・21民集24−9)。
現在では、「無能力者」とあるのは、「制限行為能力者」
とされる(20条参照)。
参照条文 120条・449条
※ なお、以下の議論は少し、混乱を生ずることなので、読まなく
てもよいとも言えますが、一応、触れておきます。
我妻説によりますと、457条2項に関し、「保証人は、主た
債務者の有する反対債権を処分する権限をもつのではなく、相殺
によって消滅する限度で、単に弁済を拒絶する抗弁権をもつと解
するのが正当であると考える」となっています。これは、どうい
うことかということを、457条2項に関する以下の図示を再度
提示することによって、説明します。
A
3,000万円↑↓ 3,000 万円
B 保証人C
最初に注意すべきは、我妻説は、いままで述べてきた通説・判例
に反する考え方だということです。457条2項に関して、前に述
べたことを再説しますと、保証人CがAから3,000万円の請求
されたとき、保証人の相殺権ををAに対抗すれば、その後、主たる
債務者Bに対する求償もなくなるため、B・C間の関係がおのずか
ら決済されたことになるというものでした。この通説・判例の立場
は、保証人が、主たる債務者の有する反対債権を処分する権限をも
つことを基礎にしています。だから、B・C間の関係が決済された
効果がもたらされることになるのです。これに対して、我妻説は、
保証人が反対債権を処分する権限をもつのではなく、相殺によって
消滅する限度で、単に弁済を拒絶する抗弁権をもつというものです。
そうすると、どうなるでしょう。Cによって、弁済を拒絶された
Aは、仕方なく、Bに請求し、そこでA・B間において相殺が行わ
れることになります。通説・判例の考え方によれば、保証人が反対
債権を処分する権限をもつのですから、CがBに代わって相殺の効
果を生じさせる機能を与えられたことになります。我妻説によりま
すと、本条の立法趣旨からいって、弁済を拒絶する抗弁権で充分で
あり、それ以上、他人の債権を処分する権限を与える必要がないと
ということになるのでしょう。そうなると、通説・判例では、この
457条2項の規定は、当事者関係の決済の便宜に基づく特則であ
るということでしたが、我妻説によれば、弁済を拒絶する抗弁権を
もつことであって、これは、保証人が主たる債務者の債権による相
殺という抗弁権を行使することを意味するのですから、本条の趣旨
としては、本問の同時履行の抗弁権の行使と同様に、付従性の一内
容とされることになります。
なお、この理論は、457条2項と趣旨を共通にする436条2
項について、その趣旨を考察する場合にも、そのまま当てはまりま
す。これについても、再度、図示を提示し、説明しておきます。
A
3,000 万円 ↓ ↑(Dが2,000万円の反対債権を有する)
B・C・D 連帯債務者(負担部分は平等とする)
この場合に436条2項を適用すると、通説・判例では、以下の
ようになりました。
Cが弁済を請求されたときには、Dの負担部分1,000万円だ
けはDの反対債権で相殺し、残額2,000万円だけを支払えばよ
いことになります。
これは、請求されたCが、Dの反対債権を処分する権限をもつこ
とを基礎にしていますが、我妻説によりますと、相殺によって消滅
する限度で、単に弁済を拒絶する抗弁権をもつというものですから、
Cは、1,000万円の限度で弁済を拒絶することになります。
そうすると、弁済を拒絶されたAは、その後、Dに対して、請求
し、A・D間において、相殺が行われることになります。
しかし、我妻説は、436条2項・457条2項の文言に反する
こと、通説・判例では、当事者の関係がおのずから決済されたもの
になるのに、我妻説ではそのようにならないことを理由に、私は、
我妻説に賛同できません。
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以上、殊のほか、(1)の本問につきまして、時間を要しました
ので、(2)の解説は、追って、次回といたします。
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◆ 参考書籍
民法三 内田 貴 著・東京大学出版会
民法1・ 2 我妻榮/有泉亨/川井健 著・勁草書房
新訂債権總論 我妻榮 著 岩波書店
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【発行者】司法書士 藤本 昌一
【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
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