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民法過去問解説 第117回

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            ★  【過去問・解説 第117回】  ★

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                      PRODUCED BY 藤本 昌一
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 【テーマ】 民法

        
 【目 次】 過去問と判例・解説
  
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 ■  背信的悪意者を巡る二つの判例と過去問の関係
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 1 序説
 
  メルマガ183号において、下記のとおりの掲載をしました。
  なお、一部修正してしております。
  
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           ↓↓↓


                         記

     背信的悪意者を巡る二つの判例と過去問の関係については、後日、
  サイト欄で検討することにする。

  ★ 判例二つ。

  (1)  背信的悪意者からの転得者は、背信的悪意者でない限り、
     第三者に当たる(最判平成8・10・29民集50巻9号
     2506頁)。
  (2) AからB・Cに二重譲渡があった場合において、A・Cの
     売買がBを害するためのような場合には公序良俗違反により
     それを無効とする(最判昭和36・4・27民集15巻4号
     901頁)。
      
  ★ 過去問・平成15年問題40

   次の記述中の[ア](漢字6字)、[イ](漢字3字)に、適当
  な語句を記入しなさい。 

    最高裁判所は、「A所有の甲土地をAがBに譲渡したが、B名義の
  所有権移転の登記が行われていない状況で、当該甲土地をAがCに譲
   渡しC名義の所有権移転登記を経由していても、Cが[ア]である場
   合には、BはCに所有権者であることを登記なしに対抗することがで
   きる。しかし、当該甲土地をCがDに譲渡しD名義の所有権移転登記
   が行われた場合、Bは、Dが[ア]でない限り、Dに対しては所有権
  者であることを登記なしには対抗できない。」という見解に立ってい
   る。上記の最高裁判所の見解は、転得者であるDとの関係では、[ア]
   であるCにも、Aから[イ]が移転しているとの考えを前提としたも
   のといえる。 

 2 論点・解答  
           
  それでは、ここで何が論点になり、その結論がどうなるかを検討し
 てみましょう

   
  a まず、前記 ★ 過去問・平成15年問題40について、図示を
      したうえで検討してみましょう。

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    甲土地
    
         第1
      A  →   B
     

     第2 ↓
 

      C  →   D

   背信的悪意者

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      当該問題文に則して見てみますと、[A所有の甲土地を(第1に)
  AがBに譲渡したが、B名義の所権移転の登記が行われていない状
  況で、当該甲土地を(第2に)AがCに譲渡しC名義の所有権移転
  登記を経由していても、Cが[ア・背信的悪意者]である場合には、
  BはCに所有権者であることを登記なしに対抗することができる」
  というのは、Cが背信的悪意者である場合には、Cは、Bの登記欠
  缺を主張をするにつき正当の利益を有する者ではないため、177
  条の第三者に当たらないとする確立した最高裁判例に照らして、妥
  当です。判例としては、最判昭和31・4・24民集10巻4号4
  17頁、最判昭和43・8・2民集22巻8号1571頁・最判昭
  和43・11・15民集22巻12号2671頁があります。通説
  もこれを支持します。

      引き続き問題文を見てみますと、「しかし、当該甲土地をCがD
  に譲渡しD名義の所有権移転登記が行われた場合、Bは、Dが[ア
  ・背信的悪意者]でない限り、Dに対しては所有権者であることを
  登記なしには対抗できない。」という見解に最高裁判所は立ってい
  るとなっています。これは、前記★判例二つ。(1)に掲げた判例
  (最判平成8・10・29民集50巻9号2506頁)を意味するも
    のと思われます。
   
      その判旨は、前述したとおり、「 背信的悪意者からの転得者は、
     背信的悪意者でない限り、(177条の)第三者に当たる」という
     ことでありました。
       当該判旨をもう少し、具体的に述べますと、以下のとおりです。

   不動産二重売買における背信的悪意者からの転得者は、その者自
    身が第一買主との関係で背信的悪意者と評価されぬのでない限り、
    当該不動産の所有権取得をもって第一買主に対抗することができる。

   この記述は、先に掲げた問題文と符合します。
   
   当該判決に関連して、後掲書民法一によりますと、概ね次のよう
    に説明されています。

   Cが背信的悪意者として「第三者」にあたらないとされる場合も、
    AC間の売買契約そのものは有効であり、したがって、Cが所有権
    を取得するための要件はそろっている。ただ、同様に所有権を取得
    できる地位にいるBの登記の欠缺を主張することが、信義則上許さ
    れないに過ぎない。それは、Cに属人的なものであるから、Cから
    の譲受人DがBとの関係で背信的悪意者とされなければ、Dは有効
    に所有権を取得でき、Bとふたたび対抗関係に立つと解すべきだろ
    う(同旨、最判平成8年10月29日・・・)。

   ここで、もう一度問題文に戻りますと、「上記の最高裁判所の見
    解は、転得者であるDとの関係では、[ア・背信的悪意者]である
    Cにも、Aから[イ・所有権]が移転しているとの考えを前提とし
    たものといえる」という記述は、上記後掲書民法一 の説明と符合し、
    納得し得るものとなります。

   以上のとおり、過去問・平成15年問題40に関しては、アが[背
    信的悪意者]なり、イが[所有権]になることが明らかになりまし
    たが、ここで問題とするのは、その先です。

 b 前記の ★ 判例二つ(2)によりますと、前記の図示に従うと、
    当該判例(最判昭和36・4・27民集15巻4号901頁)におい
    ては、A・Cの売買がBを害するためのような場合には公序良俗違反
    によりそれを無効とするというのですから、当該事例においては、
   「Cにも、Aから所有権が移転しているとの考え」が通用しなくなり
    ます。したがって、この場合において、Dという転得者が、出現した
    とすると、Dが善意であろうと悪意であろうと、はたまた背信的悪意
    者でなかろうと、Dには所有権を取得する余地がなくなります。A・
    C間の糸は切断されたことになりますから、一度切れた糸は、C・D
    間で繋がることはありません。一方、依然として、第一の譲受人であ
    るBの糸は繋がったままですから、Bは無権利者であるDに対して、
    登記なくして、 所有権を主張できることになります。

  c  再論を恐れず、以上を総括しますと、最高裁判所の判例には、一
     つには背信的悪意者理論に立つものがあります(前記★ 判例二つ。
   (1)の最判平成8・10・29のほか前に掲げた最判 昭和31・4
     ・24 /43・8・2/昭和43・11・15)。これらによります
     と、転得者が生じた場合、第1譲受人である背信的悪意者はその者に
    「属人的なもの」として、背信的悪意者でない転得者に所有権の取得
     を認めること になります。
    これに対して、もう一つの判例(前記★ 判例二つ。(2)の最判
   昭和36・4・27)によれば、二重譲渡が第1の譲受人を害するた
   めになされたため、90条違反で無効になりますから、この場合に転
   得者が生じたとしても、転得者が所有権を取得することはありません。
 
   d ここで考えるべきことは、、二つの潮流をもつ最高裁判所の判例に
   どのような違いがあうかということです。具体的には、判例の事案を
   見較べるしかありませんが、本試験の準備としては、そこまで要求さ
     れていません。
   ただ言えることは、公序良俗違反による無効判決の事案も第1譲受
  人が背信的悪意者である一場合であって、その点では、背信的悪意者
  理論に立つ判決と変わりはありません。あるいは、無効判決は背信性
  が強度なのかもしれません。いずれにせよ、将来の本試験に関連づけ
  てみると、平成15年過去問とは異なって、第1の譲渡が無効である
  ために転得者が所有権を取得しない場合を想定した問題が出されるこ
  ともあり得るということを指摘しておきたいと思います。

  e  私見としては、事案によって、結論を異にする弊害を避けるためには、
  背信的悪意者に対する第1の譲渡については、民法90条違反として、
  無効とし、背信的悪意者からの転得者は所有権を取得しないことにすべ
  きだと思います。理由は二つあります。一つは、条文上の根拠があるこ
  とです。もう一つは、結論に具体的妥当性があるということです。
   しかし、最高裁は、一度樹立した「背信的悪意者」理論を放擲しない
  でしょうから、私見に過ぎない「背信的悪意者に対して、全面的に90
  条を適用する考え方」が、最高裁判所によって採用される見込みは、ま
  ずあり得ないでしょう。
  
  
 ★ 参考書籍 
  
  民法一 内田 貴 著・東京大学出版会
    
   民法 1 ・ 我妻榮/有泉亨/川井健 著・勁草書房  



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 【発行者】 司法書士藤本昌一
 
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