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民法過去問解説 第118回
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★ 【過去問・解説 第118回】 ★
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PRODUCED BY 藤本 昌一
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【テーマ】 民法
【目 次】 過去問と判例・解説
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■ 平成26年度・問題27
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A、B、C及びDは、共同で事業を営む目的で「X会」という団
体を設立した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定およ
び判例に照らし、誤っているものはどれか。
1 X会が権利能力なき社団であり、Aがその代表者である場合、
X会の資産として不動産があるときは、その不動産の公示方法
として、Aは、A個人の名義で所有権の登記をすることができ
る。
2 X会が民法上の組合である場合、X会の取引上の債務につい
ては、X会の組合財産がその債務のための責任財産になるとと
もに、組合員であるA、B、CおよびDも、各自が損失分担の
割合に応じて責任を負う。
3 X会が権利能力なき社団である場合、X会の取引上の債務に
ついては、その構成員全員に1個の債務として総有的に帰属し、
X会の社団財産がその債務のための責任財産になるとともに、
構成員であるA、B、C及びDも各自が連帯して責任を負う。
4 X会が民法上の組合である場合、組合員であるA、B、C及
びDは、X会の組合財産につき持分権を有するが、X会が解散
して清算が行われる前に組合財産の分割を求めることはできな
い。
5 X会が権利能力なき社団である場合、構成員であるA、B、
CおよびDは、全員の同意をもって、総有の廃止その他X会の
社団財産の処分に関する定めのなされない限り、X会の社団財
産につき持分権を有さず、また、社団財産の分割を求めること
ができない。
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■ 解説
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▲ 本問のポイント
本問は、「権利能力なき社団」と「民法上の組合」との本質的差
異が把握されていれば、一発で、正解に達する。
まず、後掲書2における「民法上の組合」に関する記述を抜粋す
ると、以下のとおりである。
民法の組合は、・・団体個人の個性の強い結合体であって、組合
員の脱退・加入は全員の同意を要し、代表者の行動は全員の代理人
としての行動とみられ、ことに財産は全員の共有であり、債務は全
員の無限責任である。
次に、「権利能力なき社団」に関する判例(最判昭48・10・
民集27−9−1129)の要旨を掲げておこう。
権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務
は、その社団の構成員全員に、1個の義務として総有的に帰属する
ものであり、構成員各自は、取引の相手方に対し、直接には個人的
責任を負わないと解すべきである。
以上の記述に照らせば、肢2に対応するのが、「民法上の組合」
に関する記述であり、肢3に対応するのが、「権利能力なき社団」
の判例の要旨である。
前者の記述によれば、(取引上の)債務について、構成員である
組合員が責任を負うのに対して、後者の記述によれば、『構成員各
自は、取引の相手方に対し、直接には個人的責任を負わない』ので
あるから、肢2は、正しくて、肢3は明らかに誤りであることにな
り、本問の正解は肢3になる。
なお、ここでは、知識を明確にするため、「権利能力なき社団」
を「民法上の組合」と対比したが、「権利能力なき社団」の構成員
各自は、取引の相手方に対し、個人的責任を負わないということが
はっきり認識されていれば、肢3の誤りに即座に気付くことになる。
※ かつて、学者は一般に、法人でない団体はすべて組合として
民法の組合の規定の適用を受けるとしたが、たとえば、社交的
なクラブについてまで、債務が全員の無限責任であるというこ
となどの民法の組合の規定を受けることは、納得できないため、
その後の学説および判例は、このような団体を「権利能力のな
い社団」と呼び、民法の組合とは本質を異にするものと考える
に至った(後掲書1参照)。
本問では、肢2・3の背景に以上の沿革を読み取ることがで
きれば、肢3が誤りであることに納得できるであろう。
△ 各肢の検討
○ 肢1について
以下の判例(最判昭47・6・2民集26−5−957)に照
らし、本肢は、正しい。
権利能力なき社団の資産たる不動産については、社団の代表者
が、社団の構成員全員の受託者たる地位において、個人の名義で
所有権の登記をすることができるにすぎず、社団を権利者とする
登記をし、または社団の代表者である旨の肩書を付した代表者個
人名義の登記をすることは、許されないものと解すべきである。
※ なお、判例(最判昭39.10.15民集18−8−1671)
によれば、「権利能力のない社団」の定義は以下のとおりであ
る。
権利能力のない社団というためには、団体としての組織を備
え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が
存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管
理等団体としての主要な点が確定していることを要する。
● 肢2について
まず、民法上の組合である場合、組合の債務は、組合員全員に
合有的に帰属する。その債務は第一に、金銭債務のように可分で
あっても、数額的に分割されずに、全額が組合員に帰属し、組合
財産を引当てとする合有的債務である。つまり組合債務は本来組
合財産で弁済されるべきものである(大判昭和11・2・25民
集15巻281頁)。(後掲書2参照)
したがって、本肢の前段は、以上の前段の趣旨に沿うものであ
って正しい。
しかし、第二にさきに述べた「本来組合財産で弁済される、組
合財産を引当てとする合有的債務」と並んで、各組合員は、個人財
産を引当てとする個人的責任を負担する。(後掲書2参照)この点
が、▲ 本問のポイントで述べたとおり、構成員各自が直接には個
人的責任を負わないとする権利能力なき社団との違いである。この
個人的責任は、各自が責任分担の割合に応じて負うものである(6
74条参照)。
したがって、本肢後段も正しい。
※
(1) ▲ 本問のポイントでのべたとおり、当該個人的責任に基
づく債務は組合員全員の無限責任である。したがって、この
各組合員がその個人的財産を引当てとして負担する責任は、
組合財産で弁済されれば、それだけ消滅することはいうまで
もないが、そうでない限りーその組合員が脱退しても、組合
が解散しても、免れることはできない。その意味で、組合員
は組合債務について自己の負担する割合内で出資義務に制限
されない無限責任を負う(後掲書2参照)。
(2) 民法は、債権者がその債権を取得するときに組合員の損失
分担の割合を知らないならば等しい割合でその権利を行うこ
とができると規定する(675条)。
(3) 本来組合財産で弁済される債務と個人的責任に基づく債務
にかかわるこの二つの請求権は理論上は、その間に主従の差
はなく、債権者はいずれを行使することも自由だといわねば
いわねばならない(実質的に組合的性質を有する合名会社の
債務については、この二つの責任の間には法律的にも主従の
関係がある(会社法580条参照)【後掲書2参照】
◎ 肢3について
▲ 本問のポイントに掲げた「権利能力なき社団」に関する判
例(最判昭48・10・民集27−9−1129)の要旨を
以下のとおり、再説しよう。
権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の
債務は、その社団の構成員全員に、1個の義務として総有的に
帰属するものであり、構成員各自は、取引の相手方に対し、直
接には個人的責任を負わないと解すべきである。
したがって、本肢の後段である構成員各自が連帯して責任を
負うという記述が誤っている。端的にいって、たとえば、社交
的クラブやある学校の関係者だけの自治会において、構成員が
連帯責任を負わされるのは、耐えがたいことである。
○ 肢4について
組合の積極財産は総組合員の共有である(668条)。しかしこ
の共有は、普通の共有と異なり組合の共同目的(667条1項参照)
のために拘束されて団体的性質を加味すりる一種の合有である。そ
の限りにおいて、組合員の固有の財産と区別された、ある程度まで
独自性のある組合財産というものができる(後掲書2参照)。
このような観点から、本肢をみると、組合員は、(組合の共同目
的のために拘束された)組合財産に対する持分権を有するが、組合
員は、清算前に組合財産の分割を求めることができない(676条
2項・256条参照)。したがって、本肢は全体として正しい。
※ なお、組合員は、持分の処分を制限される(676条)。
● 肢5について
「権利能力のない社団の資産は構成員に総有的に帰属するものであ
って 、その社員は当然共有持分権・分割請求権を有するものではな
い」と判示する判例(最判昭32・11・14)は、具体的には、
本肢の記述のように、「全員の同意をもって、総有の廃止その他社団
財産の処分に関する定めのない限り」という限定つきで、社団財産に
持分権を有さず、社団財産の分割を求めることができないと述べる。
したがって、本肢は正しい。権利能力なき社団=総有ということ
が頭にあれば、当該判例を正確に知らなくても、本肢が正しいとい
うことを察することはできるであろう。
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以上のとおり、本問では、3が誤りであるので、肢3が正解である。
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▽ 参考事項
本問の解説では、共有・合有・総有という概念が示されたが、民法
では、これらを共有という概念でくくっている。いわゆる249条以
下の規定する狭義の共有は、共有者の間に何らの団体的統制がないが、
組合財産の共同所有の形態である合有においては、組合員は、持分権
を有するもののそれは、共同目的のためにある程度の制約を受けるこ
とになる。さらに、総有にあっては、権利能力のない社団の資産にみ
られるように、原則として、構成員は社団財産につき持分権を有さず、
社団財産の分割を求めることができないのである。
本問の解説を通じて、以上の連関を把握しておくことも大切である
と私は思料する。
★ 参考書籍
民法 1 ・2 我妻榮/有泉亨/川井健 著・勁草書房
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【発行者】 司法書士藤本昌一
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