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意思表示の取消し過去問解説 第120回
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★ 【過去問・解説 第120回】 ★
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PRODUCED BY 藤本 昌一
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【テーマ】 意思表示の取消し
【目 次】 過去問・解説
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■ 平成26年問題 問題28
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Aが自己所有の甲土地をBに売却する旨の契約(以下、「本件売
買契約」という。)が締結された。この場合に関する次の記述のう
ち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
1 AはBの強迫によって本件売買契約を締結したが、その後もB
に対する畏怖の状態が続いたので取消しの意思表示をしないまま
10年が経過した。このような場合であっても、AはBの強迫を
理由として本件売買契約を取り消すことができる。
2 AがBの詐欺を理由として本件売買契約を取り消したが、甲土
地はすでにCに転売されていた。この場合において、CがAに対
して甲土地の所有権の取得を主張するためには、Cは、Bの詐欺
につき知らず、かつ知らなかったことにつき過失がなく、また、
対抗要件を備えていなければならない。
3 AがDの強迫によって本件売買契約を締結した場合、この事実
をBが知らず、かつ知らなかったことにつき過失がなかったとき
は、AはDの強迫を理由として本件売買契約を取り消すことがで
きない。
4 AがEの詐欺によって本件売買契約を締結した場合、この事実
をBが知っていたとき、または知らなかったことにつき過失があ
ったときは、AはEの詐欺を理由として本件売買契約を取り消す
ことができる。
5 Aは未成年者であったが、その旨をBに告げずに本件売買契約
を締結した場合、制限行為能力者であることの黙秘は詐術にあた
るため、Aは未成年者であることを理由として本件売買契約を取
り消すことはできない。
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■ 解説
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◎ 意思表示の取消しに関する要点
1 瑕疵ある意思表示は取消し得る。民法は、強迫による意思表
示は取り消しうるとした(96条1項)。
強迫とは害悪を示して他人を畏怖させる違法な行為であって、
この畏怖によってする意思表示が強迫による意思表示である。
当該畏怖によってした意思表示をした者すなわち瑕疵ある意
思表示をした者はその意思表示を取り消すことにより、当該意
思表示に基づく法律行為を無効にすることができる(120条
2項・121条)。
取消権には期間の制限が設けられている。126条によると、
取消権は追認することができる時から5年、行為の時から20
年の、どちらか早く経過したほうによって消滅する。この追認
することができる時というのは、取消しの原因となっていた状
況が消滅した後を意味する(124条1項)。
2 詐欺による意思表示は、瑕疵ある意思表示として、取り消し
得る(96条1項)。詐欺とは欺罔行為をし、よって他人を錯
誤に陥れる違法な行為であるが、その他人がこの錯誤によって
意思表示をすれば詐欺による意思表示である。この場合も、詐
欺による意思表示をした者は、これを取り消すことによって、
その行為を無効にすることができる(120条2項・121条)。
しかし、その取り消した結果を善意の第三者に対抗できない
(96条3項)。ここでいう善意の第三者である転得者は善意
であれば足り、善意であることに無過失まで要求されない。ま
た、判例(最判49・9・26民集28−6−1213)よれ
ば、対抗要件を備えていない転得者であっても、96条3項に
よって保護される。
3 強迫による意思表示については、96条2項に該当する第三
者の強迫に関する規定がないので、相手方以外の者が強迫を行
った場合、、相手方がその事実を知らなかったときでも、96
条1項に基づき、強迫による意思表示は、取り消すことができ
る。
4 前記3に対して、詐欺による意思表示については、96条2
項が適用されるので、意思表示の相手方以外の者が詐欺を行っ
た、いわゆる第三者詐欺の場合には、相手方が詐欺の事実を知
っていたときにだけ取り消しうる。
5 民法は、未成年者、成年被後見人、被保佐人または被補助者
は、これを制限行為能力者(20条1項)とするという形式的
な基準を定め、これらの者が単独でした法律行為は一定の要件
のもとにこれを取り消すことができるものとした。しかし、制
限行為能力者が相手方を欺いて行為能力を有すると誤信させた
場合には、もはやこれを保護する必要はないから、その行為は
取り消しえないものとされる(21条)。
◎ 各肢の検討
○ 肢1について。
前記要点1に対応する。もう一度読み返してほしい(この、
フレーズは繰り返さない)。
本肢では、AのBに対する畏怖の状態が10年続いていたの
で、この状態が消滅してから、5年間は、Aは取り消し得る。
また、 本肢では、Bの行為の時20年経過していない。
したがって、AはBの強迫を理由として本件売買契約を取り
消すことができるので、本肢は妥当である。
参照条文 126条・124条1項
○ 肢2について。
前記要点2に対応する。
本肢では、甲土地の転得者であるCが、取消をしたAに対して、
甲土地の所有権を主張するためには、Cは、Bの詐欺につき知ら
ないことで足り、かつ知らなかったことにつき過失がなかったこ
とまでは要しない。さらに、判例によれば、対抗要件を得ていな
いCは、96条3項によって保護される。
したがって、以上の記述に反する本肢は妥当でない。
参照条文 96条3項
○ 肢3・肢4について
前記要点3・4に照らせば、肢3においては、相手方以外のDが
強迫を行った場合には、相手方であるBがこの事実を知らなくても
Aは、強迫による意思表示を取り消すことができるし、肢4におい
ては、第三者であるEが詐欺を行った場合には、相手方であるBが
その事実を知っていたときに限り、Aは詐欺による意思表示を取り
消すことができる。
以上の記述に反する肢3も肢4も妥当でない。
○ 肢5について
前記要点5に照らせば、未成年者(4条)は、制限行為能力者に
該当するので、法定代理人の同意なしにした法律行為はこれを取り
消すことができる(5条1項・2項)。本肢の本件売買契約は、5
条1項の「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」に該当しな
いし同条3項にも該当しないので、例外なく取り消すことができる
が、前記要点で言及したとおり、21条に該当するときは、取り消
すことができない。しかし、以下の判例があるので、制限行為能力
者であることの黙秘は詐術にあたらないため、Aは未成年者である
ことを理由として本件売買契約を取り消すことができる。
黙秘も他の言動などと相まって詐術に当たることもあるが、単純
な黙秘は詐術に当たらない(最判昭35.5.24民集14−7−1
154)。
したがって、本肢は妥当でない。
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以上妥当であるのは、肢1であるので、本問の正解は、肢1である。
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◎ 付言
本稿では、本問の解答に要する要点事項に絞って、解説を行った
が、他に言及したい点、関連する過去問については、次回121回
に譲りたい。
★ 参考書籍
民法 1 我妻榮/有泉亨/川井健 著・勁草書房
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【発行者】 司法書士藤本昌一
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