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意思表示の取消し過去問解説 第121回

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               ★  【過去問・解説 第121回】  ★

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                         PRODUCED BY 藤本 昌一
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 【テーマ】 意思表示の取消し

        
 【目 次】 過去問・解説
               
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 ■ 平成26年・問題28 肢1・2
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   Aが自己所有の甲土地をBに売却する旨の契約(以下、「本件売
 買契約」という。)が締結された。この場合に関する次の記述のう
 ち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。 

 1 AはBの強迫によって本件売買契約を締結したが、その後もB
  に対する畏怖の状態が続いたので取消しの意思表示をしないまま
   10年が経過した。このような場合であっても、AはBの強迫を
  理由として本件売買契約を取り消すことができる。 

 2 AがBの詐欺を理由として本件売買契約を取り消したが、甲土
  地はすでにCに転売されていた。この場合において、CがAに対
  して甲土地の所有権の取得を主張するためには、Cは、Bの詐欺
  につき知らず、かつ知らなかったことにつき過失がなく、また、
   対抗要件を備えていなければならない。 
 

 
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 ■ 解説
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 (1) 前回において、平成26年・問題28全体の解説の末尾で付言
     と題して、「本問の解答に要する要点事項に絞って、解説を行っ
     たが、他に言及したい点、関連する過去問については、次回12
    1回に譲りたい。」と述べた。



(2)その約束を果たすために、今回は、前記平成26年問題28肢1・
  2に関連する過去問をとりあげて、考察をすることにする。


(3)そのうち、26年・問題28 肢1 の関連問題としては、平成23
   年・問題27のうち、以下の肢イを採用する。

      無効または取消しに関する次のア〜オの記述のうち、民法の規定
  および判例に照らし、妥当でないものはいくつあるか。 

  イ BがAに騙されてAから絵画を購入し、これをCに転売した場合、
   その後になってBがAの詐欺に気がついたとしても、 当該絵画を第
   三者に譲渡してしまった以上は、もはやBはAとの売買契約を取り
   消すことはできない。

   ◎ その考察
  
    前記平成26年問題28肢1を《本題》とし、平成23年・問題27
  肢イを関連する過去問を単に《過去問》として、考察することにする。

   まず、《本題》においても《過去問》においても、追認(Ж注1)
  の要件である「追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した
  後にしなければ、その効力を生じない』という条文(124条1項)
  が中心になる。
   すなわち、126条が適用される《本題》では、「追認することが
  できる時から」からの不行使であることが規定されているが、それは、
  とりもなおさず、前記124条1項の追認の要件を意味する。以上の
  記述を《本題》にあてはめると、10年続いている 畏怖の状態が消
  滅してから、5年間は、取消権行使し得ることになる(Ж注2)。
  
  Ж注1 取り消すことができる行為の追認とは、当該行為を取り消さな
     いとするこであって、理論的にいえば取消権の放棄である。

  Ж注2 126条によれば、行為の時から20年経過したときも、取消
     権は消滅するが、《本題》では、行為の時から10年しか経過し
     ていないので、取消権は消滅しない。

   それでは、《過去問》ではどうなるであろうか。《過去問》の事例に
  よれば、BがAに騙されてAから絵画を購入し、これをCに転売した場
  合においてBがAとの売買契約を取り消すことができるかどうかが問題
  になっている。この場合は、詐欺による意思表示の取り消しであること
  は明瞭である(96条1項)が、次に、BがCに転売した行為が、12
   5条が規定する法定追認(Ж注3)該当し、Bはもはや取り消すことで
  きないのではないかという論点に気づくことが要請されている。Bの転
  売行為は、125条5号が規定する「取り消すことができる行為によっ
  て取得した権利の全部の譲渡」に該当するからである。
   さらに本事例では、BがCに転売後、Aの詐欺に気がついたという事
  実をどのように評価するかということも検討課題として要請されている。
   この場合も、《本題》と同様に最後の決め手になるのは、追認の要件
  を規定した124条1項の解釈次第である。順序を追って説明すること
  にする。
 (1)詐欺によって、瑕疵ある意思表示をしたBは、取り消すことがで
   きるA・B間の売買行為を追認できる(120条2項・122条)。
 (2)125条本文・同条5号によると、124条1項の規定により
   追認することができる時以後にBに転売行為があったときは、法定
   追認となり、Bはもはや、A・B間の売買を取り消すことはできな
   い。
 (3)124条1項の解釈としては、詐欺の場合には、取消しの原因と
   なっていた状況が消滅した後とは、詐欺による意思表示をした者が
   詐欺をされたことをことを知った後を意味する(後掲書民法一参照)。
   したがって、過去問の事例では、Bの転売時には、BはAの詐欺に
   気づいていなかったのであるから、その転売行為は、法定追認にな
   らない。Bは、詐欺の事実を知った時から5年間、行為の時から2
   0年間はAとの売買契約を取り消すことができる(126条)。
    したがって、過去問である本肢は妥当でない。
   
    Ж注3 取り消すこことができる行為について、相手方や一般第三者
          からみて追認と認められるような一定の行為があるときは、こ
          れを追認とみなし、以後取り消すことができないものとする。
          これを法定追認という。取り消すことをできる行為をなるべく
     早く確定して一般法律関係の安定を図ろうとする趣旨である
    (後掲書民法1・207頁以下)。本文に記したように、法定追
     認行為は、125条各号に規定されている。 

  ◎ 総括 

   《本題》が126条の取消権の期間の制限に関するものであり、
  《過去問》が、125条の法定追認に関する問題であるが、いずれ
   も、124条1項の追認の要件に帰着するところに共通性がある。

           =次回に続く=
   

   ★ 参考書籍 
  
  民法1第三版  我妻榮/有泉亨/川井健 著・勁草書房  

   民法 一  総則・物権総論 内田 貴 著



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 【発行者】 司法書士藤本昌一
 
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