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民法・取消/解除と登記 過去問解説 第122回

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            ★  【過去問・解説 第122回】  ★

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                        PRODUCED BY 藤本 昌一
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 【テーマ】 民法・取消/解除と登記


 【目 次】 過去問・解説
  
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 ■ 平成26年・問題28 肢1・2
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   Aが自己所有の甲土地をBに売却する旨の契約(以下、「本件売
 買契約」という。)が締結された。この場合に関する次の記述のう
 ち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。 

 1 AはBの強迫によって本件売買契約を締結したが、その後もB
  に対する畏怖の状態が続いたので取消しの意思表示をしないまま
   10年が経過した。このような場合であっても、AはBの強迫を
  理由として本件売買契約を取り消すことができる。(検討済) 

 2 AがBの詐欺を理由として本件売買契約を取り消したが、甲土
  地はすでにCに転売されていた。この場合において、CがAに対
  して甲土地の所有権の取得を主張するためには、Cは、Bの詐欺
  につき知らず、かつ知らなかったことにつき過失がなく、また、
   対抗要件を備えていなければならない。(今回検討分) 



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 ■ 解説
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 (1) 前回は、前記平成26年問題28肢1に関連する過去問をと
      りあげて、考察した。
  (2) 今回は、前記平成26年問題28肢2に関連する過去問とし
   て、次の平成20年・問題29を採用する。

    A・Bが不動産取引を行ったところ、その後に、Cがこの不動産
  についてBと新たな取引関係に入った。この場合のCの立場に関す
  る次の記述のうち、判例に照らし、妥当でないものはどれか。
 
 1 AからBに不動産の売却が行われ、BはこれをさらにCに転売し
 たところ、AがBの詐欺を理由に売買契約を取り消した場合に、C
  は善意であれば登記を備えなくても保護される。 
 2 AからBに不動産の売却が行われた後に、AがBの詐欺を理由に
  売買契約を取り消したにもかかわらず、Bがこの不動産をCに転売
  してしまった場合に、Cは善意であっても登記を備えなければ保護
  されない。 
 3 AからBに不動産の売却が行われ、BはこれをさらにCに転売し
  たところ、Bに代金不払いが生じたため、AはBに対し相当の期間
  を定めて履行を催告したうえで、その売買契約を解除した場合に、
  Cは善意であれば登記を備えなくても保護される。 
 4 AからBに不動産の売却が行われたが、Bに代金不払いが生じた
  ため、AはBに対し相当の期間を定めて履行を催告したうえで、そ
  の売買契約を解除した場合に、Bから解除後にその不動産を買い受
  けたCは、善意であっても登記を備えなければ保護されない。 
 5 AからBに不動産の売却が行われ、BはこれをさらにCに転売し
  たところ、A・Bの取引がA・Bにより合意解除された場合に、C
  は善意であっても登記を備えなければ保護されない。 

  ◎ その考察
  
   前記平成26年問題28肢2を《本題》とし、平成20年問題29
 を《過去問》として、考察することにする。
 
 (1)《本題》は、《過去問》肢1と共通する。

    《本題》については、過去問・解説 第120回において、以
    下のとおり説明した。


             過去問解説・120回はこちら
             ↓ ↓
  
  
    ○ 肢2について。
 
   一部記載省略。
   
   本肢では、甲土地の転得者であるCが、取消をしたAに対して、
  甲土地の所有権を主張するためには、Cは、Bの詐欺につき知ら
  ないことで足り、かつ知らなかったことにつき過失がなかったこ
  とまでは要しない。さらに、判例によれば、対抗要件を得ていな
  いCは、96条3項によって保護される。

   したがって、以上の記述に反する本肢は妥当でない。
  
   参照条文 96条3項

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   ここで、《過去問》肢1に言及すると、《本題》と同様の事例に
  おいて「AがBの詐欺を理由に売買契約を取り消した場合に、Cは
  善意であれば登記を備えなくても保護される」というのであるから、
  前記《本題》の解説に照らし、《過去問》肢1の記述は疑いもなく、
  正しいように思える。この場合において、善意の第三者である転得
    者は善意であれば足り、善意であることに無過失まで要求されない
  ことは、通説であるが、対抗要件を備えていない転得者であっても、
  96条3項によって保護されるというのが、通説・判例といえるか
  どうかは、疑問である。 
   後掲書民法1によれば、《過去問》肢1・《本題》と同様の事例
  において、以下のとおり、述べる。
   Cが転得した不動産について登記をを得ていないときは、AがA
  ・B間の売買契約を取り消した後は、A・Cのうちいずれか早く対
  抗要件を得た者が勝つ。いいかえれば対抗要件を得ていない転得者
  は96条3項によって保護されない。ただし、転得者は登記を必要
  としないという有力な学説がある。判例の態度は不明である。

   これに対して、本試験の立場は、転得者は登記を必要としないと
  いうのが通説・判例であるという立場を貫徹している。
 
   また、後掲書 民法 一によれば、転得者は登記を必要としないと
  すると、AがA・B間の売買契約を取り消した後、AがCより先に
  登記を回復してしまったような場合でも、第三者であるCに対して、
  その登記の抹消まで要求することを認めるのは行き過ぎではないか
  という指摘がされている。
   さらに、対抗要件を備えていない転得者であっても、96条3項に
    よって保護されると判示したとされる判例(最判49・9・26民集
  28−6−1213)は、知事の許可のない農地の売買において、仮
  登記をした転得者を保護したものであるが、同書によれば、現実には
  仮登記があった事案であり、第三者として権利確保のためになすべき
  ことを全て行っていたと評価しうるケースであったのであり、当該判
  例が、一般的に登記不要説に立脚しているとは言い難いとの指摘があ
  る。

   《本題》と《過去問》肢1の背景事情として、以上の議論があるこ
  とを知識として、把握しておくことは、大切であると、私は思料する。 

   こと、本肢に関しては、前述のとおり、本試験の立場が、転得者は
  登記を必要としないというのが通説・判例であるという立場を貫徹し
  ているので、本肢は、妥当であるということになる。
 
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 (2)次は、《過去問》肢2を検討する。前記肢1が取消前の第三に
   対する96条3項による保護の問題であったのに比すると、本
   肢は、取消後の第三者の関係が問題となっている。
    この点について、後掲書民法1から、該当部分を引用すると、
   下記のとおりである(一部本肢の解説に添うように、修正してあ
   る。

    詐欺による意思表示が取り消された後、詐欺によって生じた事
   実が登記の抹消によって復旧されない間に、新たな利害関係を生
   じた者も96条3項の第三者ではない。BからAとCに二重譲渡
   がなされた場合と同じくA・Cのうち早く登記をした者が勝つ
   (大判昭和17・9・30民集21巻911頁)。
    
    したがって、本肢においては、判例によって、二重譲渡として
   処理される場合に該当するので、Cは、善意・悪意に関わりなく、
   登記を備えなければ保護されないことになる。本肢は妥当である。 

 (3)《過去問》肢3・肢4・肢5を一括して検討する。

       各肢を正解に導くためには、以下の知識( 後掲書民法一から抜粋)
   を要する。
    
       第一に、「545条1項但書は、詐欺による取消の場合の第三者
   に関する96条3項と同様な趣旨であるが、第三者に善意が要求さ
     れていない。」(Ж注1)
    第二に、「判例は、解除の遡及効を前提に、解除前の第三者との
   関係では545条1項が適用されるとしつつ、第三者は登記が必要
   だとする。また解除後の第三者との関係では、あたかも解除によっ
   て復帰的物権変動があったように捉えて(取消しに関する判例と同
   じ)対抗問題とする。したがって、結局、解除の前後を問わず登記
   を先に備えた方が勝つということになる。」
    以上を公式化すると、第三者に善意が要求されておらず、且つ、
   解除の前後を問わず登記を先に備えた方が勝つということになる。

    当該公式を肢3・肢4・肢5に当てはめると、第三者である転
   得者「Cは善意であれば登記を備えなくても保護される」とする
   肢3が妥当でないことになる。
    ちなみに、「Cは、善意であっても登記を備えなければ保護さ
   れない」とする肢4・5は妥当である。
    なお、事例を見ると、肢3と肢5が、解除前の第三者との関
  係が問題とされているのに対し、肢4では解除後の第三者との関
  係が問題とされているのが分かる。このいずれ場合も、第三者は、
  登記を備えなければ保護されないということは、繰り返すまでも
  ないであろう。 Ψ注2

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  以上のとおり、平成20年・問題29に関しては、妥当でない
 のは、肢3であるから、正解は3である。
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  Ж注1「その理由は、債務不履行があっても契約そのものは完全
      に有効であり(意思表示に瑕疵があるのとは異なる)、必
      ずしも常に解除されるわけではないから、債務不履行の事
      実を知っている(悪意)だけでは、保護に値しないとはい
           えないからである。
    Ж2 《過去問》肢3・肢4・肢5については、もうひとつ論点が
    ある。それは、肢3・肢4が、541条の履行遅滞による法
    定解除権の発生であるに対して、肢5は、合意解除(解除契
    約)である点である。この後者の合意解除は、前者の民法の
    解除とは異なる。合意解除とは、肢5の記述によって明らか
    なように、契約の当事者が新たな契約によって、前の契約の
    効力をはじめからなかったものとすることであって、これは、
    一方の意思表示だけで効力を生ずることを特色とする民法の
    解除とは異なる。ただし、合意解除であっても、第三者の権
    利を害しえないことはいうまでもない(最判昭和38・2・
    21民集17巻1号219頁)《後掲書民法2参照)。そし
    て、この場合にも、第三者が保護されるためには、登記を備
    えなければならないことになるのであろう。 
   
 

★ 参考書籍 
  
  民法1・2 第三版  我妻榮/有泉亨/川井健 著・勁草書房  

   民法 一  総則・物権総論 内田 貴 著


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 【発行者】 司法書士藤本昌一
 
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