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民法/「相続させる」旨の遺言と代襲相続ー遺贈との対比を通じてオリジナル問題 第72回 

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            ★ オリジナル問題《第72回》★

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                          PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  民法/「相続させる」旨の遺言と代襲相続ー遺贈と
        の対比を通じて  


  【目次】   解答・解説


    問題は、メルマガ217号に掲載してあります。

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 ■  解答・解説
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 ○ 序説
 
   本件テーマは、従来から学説・判例の対立があったところ、最高裁所
 が平成23年2月22日判決において、その判断を示した。重要度の高
 い当該判決に関しては、本試験においても、出題の可能性は極めて高い。
 そこで、今回、本件論点に焦点を絞り、私がオリジナル問題を作成した
 ので、以下のとおり、解答・解説をおこなう。

 ◎ 各肢の検討

 △  肢1・2について。

  これらの肢は、いずれも遺贈に関するものであって、「相続させる」
 旨の遺言と代襲相続という本件論点とは直接に関係しないが、遺贈との
 対比を通じてという副題に添うものである。

  まず、遺贈とは、遺言による財産の無償贈与である。この場合、受遺
 者は、遺言が効力を生じた時、つまり遺言者が死亡した時に生存してい
 なければならない(同時存在の原則)。遺言者の死亡以前に受遺者が死
 亡した場合には(32条の2の同死の場合を含む)、受遺者たる地位の
 承継(一種の代襲受遺)は認められないから、結局、遺贈はその効力を
 生じない(994条1項)。

    以上の記述によれば、遺言者Aの死亡以前に受遺者Cが死亡した場合
  には、結局、遺贈はその効力を生じないので、Cの子Dの承継は認めら
  れない(994条1項)。換言すれば、Dには、一種の代襲受遺は認め
  られないのである。
      ↓
 
 Ψ したがって、肢1は正しくない。

    遺贈がその効力を生じないとされる場合であっても、遺言中に特に受遺
 者の相続人に承継を認める旨を表示してあれば、それに従う(995条た
 だし書)。
      ↓
 
 Ψ 肢2は、当該補充遺贈に該当するので、受遺者Cの相続人Dの承継
  が認められる。したがって、これに反する記述の肢2は正しくない。

  
 ▽  肢3・4・5について。

    これらの肢では、前述した遺贈と異なり、「相続させる」旨の遺言に
 が主題となっている。この「相続させる」旨の遺言については、遺贈の
 ように民法に明文上の規定はない。しかし、判例では承認されていて、
 遺産分割の方法(民法908条))を指定した遺言であり、遺言者が
 (被相続人)の死亡によって、直ちに相続の承継の効果が生じると考え
 られている(最判平成3年4月19日民集45−4−477参照)。

  そこで問題になるのは、遺言以外の法定相続の場合には、被相続人よ
 り先に、相続人となるべき子供が死亡したときは、その子(被相続人の
 孫)が相続人になるといういわゆる代襲相続が認められている(887
 条2項)のに対して、「相続させる」旨の遺言の場合でも、代襲相続が
 認められるかどうか、ということである。この点については、学説・判
 例の対立があったが、冒頭に掲げた平成23年2月22日最高裁判決は、
 「相続させる」旨の遺言の場合においても、遺贈の場合に、いわゆる代
  襲受遺が認められないのと同様に、特段の事情のない限り、遺言の効力
  は失われて、代襲相続は認められない旨判示した。
    それでは、ここで、平成23年2月22日最高裁判決(民集65−2
 −699)の判決要旨を以下に掲げておく。

 「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとさ
 れた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続さ
 せる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当
 時の事情および遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が当該推定
 相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたと
 みるべき特段の事情のない限り、(遺言の当該条項は)その効力を生じ
 ない。
 
    以上の記述によれば、遺言者Aの死亡以前に推定相続人Cが死亡した
 場合には、結局、遺言はその効力を生じないので、Cの子Dの承継は認
 められない。換言すれば、Dには887条2項の代襲相続は認められな
 いのである。結局のところ、法定相続に適用される887条2項は、
 「相続させる」旨の遺言には適用されないことになるのであろう。
      ↓
  
  Ψ したがって、肢3は正しくない。
 
  前述した判決要旨によれば、「遺言者が当該推定相続人の代襲者・・
  に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情」があ
 れば、遺言の効力は生じるのであって、肢4の記述である「遺言中にA
 が死亡する以前にCが死亡したときはCの子であるDに相続させる旨表
 示がしているとき」が、判決の言う「特段の事情」であることは明らか
 であるので、「Aが死亡する以前にCが死亡したときにはDがAの遺産
 の全部を相続する」という肢4の記述は正しい。
   
      ↓

  Ψ 肢4は正しい。 

  肢5の記述は、「相続させる」旨の遺言はがその効力を生じないとき
 に該当するので、Aの死亡によって相続が開始し、Aの法定相続人であ
 るBは、Aの代襲相続人であるDと同等の相続分に相当する持分を主張
 できる(887条1項・2項 900条4号 901条1項参照 なお、
 本問では、Aの配偶者の存在は、不明であるが、配偶者がいれば、B・
 Dの相続分が異なることに注意。890条・900条1号)。
       
           ↓
 
  Ψ  これに反する肢5の記述は、正しくない。

  
  § 肢3・4・5を比較すると、3と5が、判例の言う「特段の事情」
   がなく、原則どおり、相続させる旨の遺言が効力を生じない場合で
   あるのに対して、4は、判例の言う「特段の事情」がある場合に相
   当する。
  

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   以上のとおり、正解は肢4である。

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 ●  遺贈と「相続させる」旨の遺言との関係ー付言

  ここでは、本問の事例にしたがい、A・B・C・Dの相続関係を前提
 に説明する。

(1)  995条によれば、遺贈が効力を生じないときは、受遺者が受
   けるべきであったものは、相続人に帰属することになるので、C
   が受けるべきであったものは、Aの相続人であるBとD(あるい
   はAの配偶者)に帰属することになる。「相続させる」旨の遺言
   が、効力を生じないときについては、このような明文の規定はな
   いが、遺贈と同様の結果になることは、肢5の解説において明ら
   かである。
(2) 遺贈の場合、遺言者の相続人も受遺者になることができるのは、
   肢1・2によっても、明らかであるが、相続人以外の第三者もま
   た受遺者になることができるのは当然である。したがって、肢2
   において、Aが自分が死亡する以前にCが死亡したときには、相
   続人以外の第三者に遺贈するという補充遺贈をすることも可能で
   あろう。しかし、「相続させる」旨の遺言が、効力を生じないと
   きに第三者に相続させるということはあり得ない。相続人にしか
   相続させることができないのは、自明であろう。肢4を例にとる
   と、代襲相続人であるDではなく、Bに相続させる旨の遺言を行
   うこともできるであろう。さきに掲げた判例が「遺言者が当該推
           〜〜〜〜〜
      定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有し
   ていたとみるべき特段の事情」と述べているのは、その間の事情
   を示している。


 ★ 参考書籍 
  
   民法 3 ・ 我妻榮/有泉亨/川井健 著・勁草書房

  
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 【発行者】司法書士 藤本 昌一
 
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