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特集/行政事件訴訟法


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  ★ 特集/行政事件訴訟法・過去問「10年」を通じて、本試験
   を展望する。

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 1 私の意図は、過去問10年を範囲にして、アトランダムに各肢を
  つなげ、直近の本試験に役立てようとするもである。

    それでは、さっそく、はじめよう。

  a以下の各肢について、体系的な説明を行うことにしよう。
 
 2 まずは、訴訟類型からだ。

 (1)「不作為の違法確認の訴え」
     
      a 不作為の違法確認訴訟は、処分の相手方以外の者でも、不作
    為の違法の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者であれ
    ば、提起することができる。
   b 不作為の違法確認訴訟は、行政庁において一定の処分を行わ
    ないことが行政庁の義務に違反することの確認を求める公法上
    の当事者訴訟である。 
   c 不作為の違法確認の訴えは、行政庁が、法令に基づく申請に
    対して、相当の期間内に申請を認める処分又は審査請求を認容
    する採決をすべきであるにかかわらず、これをしないことにつ
    いての違法の確認を求める訴訟をいう。
   d 不作為の違法確認の訴えは、公法上の当事者訴訟の一類型で
    あるから、法令以外の行政内部の要綱等に基づく申請により、
    行政機関が申請者に対して何らかの利益を付与するか否かを決
    定することとしているものについても、その対象となりうる。

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  ● a〜dについての【解答】

       行訴法3条1項柱書・5項によれば、「不作為の違法確認の訴え」
   は、「抗告訴訟」に該当し、「不作為の違法確認の訴え」とは、
    「行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又
     は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違
     法の確認を求める訴訟をいう」ことになる。

   以上の条文が、きっちりと頭に入っていれば、a〜eの肢が正しい
  か否かは即答できる。
  
   aは、正しくない。当該訴えは、「法令に基づく申請に対し」とな
  っているので、処分の相手方以外の者が、当該訴えは提起できない。
  ただし、以下の二点に注意。第一に、37条に(不作為の違法確認の
  訴えの原告適格)として、ばっちりの規定がある。第二に、9条1項
  ・2項をみれば、本肢は、取消訴訟の原告適格に該当する(3条2項
  ・3項参照)。

   bは、一見して、正しくないことが分かる。当該訴訟は、「抗告訴
  訟」であって、「公法上の当事者訴訟」ではない。ここでいう「公法
   上の当事者訴訟」とは、4条後段の「公法上の法律関係に関する確認
  の訴え」を意味するのだろう。学者は、これを実質的当事者訴訟と言
  う。ちなみに、学者は、4条前段を形式的当事者訴訟と言う。
   また、本肢では、当該訴訟を指して、「一定の処分を行わないこと
  が行政庁の義務に違反することの確認」というが、条文上は、よりシ
  ンプルに「相当の期間内に何らかの処分・・をすべきであるにかかわ
  らず、これをしないことについての違法の確認」となっている。した
  がって、本肢の当該記述も正しくない。

   cも正しくない。bで述べたとおり、条文には、「申請を認める処
  分」などの限定を求める文言はない。

   dも正しくない。第一に、当該訴は、抗告訴訟に該当するため、公
  法上の当事者訴訟の一類型ではではない。第二に、当該訴えの対象は、
  条文上、「法令に基づく申請」であるから、本肢記述である「法令以
  外の行政内部の要綱等に基づく申請」は、その対象にならない。

 § 過去問の多肢選択式問題(平成23年問43)において、「不作為
  の違法確認の訴え」に関して、条文上「相当の期間内」となっている
  ところを空欄にして、下欄の選択肢として、2 速やか 6 相当の
  期間内 17 標準処理期間内 20 合理的期間内 が挙がってい
  たが、この種の問題に対して、答えを誤らないためには、特に、この
  時期に、重要条文を繰り返して読んでおくことが、唯一の有効な対策
  であろう。
 
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  e 平成16年の行政事件訴訟法の改正によって義務付け訴訟が法定
   されたのと同時に、不作為の違法確認訴訟の対象も、申請を前提と
   しない規制権限の不行使にまで拡大された。 
  f(平成16年の行政事件訴訟法の改正によって)法令に基づく申請
   についてのみ認められていた不作為違法確認訴訟が、規制権限の不
   行使についても認められることになった。 
  g Xの家の隣地にある建築物が建築基準法に違反した危険なもので
   あるにもかかわらず、建築基準法上の規制権限の発動がなされない
   場合、Xは、当該規制権限の不行使につき、不作為違法確認訴訟を
   提起することができる。 
    
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   ▲ e〜gについての【解答】

      e・fによれば、  平成16年の行政事件訴訟法の改正によって
   不作為の違法確認訴訟の対象が、申請を前提としない規制権限の不
   行使にまで拡大されたとなっているが、以前として、行訴法3条5
   項では、不作為の違法確認訴訟の対象は、申請に対する不応答のみ
   である。したがって、e・fとも正しくない。そして、申請を前提
   としない規制権限の不行使が具体的に何を意味するかは、gの事例
     によって明らかであるが、当然、この場合には、不作為違法確認訴
     訟を提起することができないので、gも正しくない。 

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   h 不作為の違法確認の訴えについては、取消訴訟について規定さ
      れているような出訴期間の定めは、無効等確認の訴えや処分の差
      止めの訴えと同様、規定されていない。
    i  不作為の違法確認訴訟自体には出訴期間の定めはないが、その訴
     訟係属中に、行政庁が何らかの処分を行った場合、当該訴訟は訴え
     の利益がなくなり却下される。 

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 ▼ h〜iについての【解答】

    まず、不作為の違法確認の訴えでは、不作為状態が継続している限
  り、いつでもこれを提起することができる。また、無効等確認の訴え
 (3条4項)、処分の差止めの訴え(3条7項)もまた出訴期間の定
 めはない(38条において、14条は、取消訴訟以外の抗告訴訟につ
 いて準用されてもいない)。したがって、hは正しい。
  また、不作為の違法確認の訴えは、その訴訟係属中に、行政庁が
 「何らかの処分」(3条5項参照)をすれば訴えの利益がなく却下さ
  れる。したがって、iも正しい。


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 j 不作為の違法確認訴訟を提起するときは、対象となる処分の義務付
  け訴訟も併合して提起しなければならない。
 k 不作為の違法確認の訴えが提起できる場合においては、申請を認め
  る処分を求める申請型義務付け訴訟を単独で提起することもでき、そ
   の際には、不作為の違法確認の訴えを併合提起する必要はない。
  l  法令に基づく申請に対して相当の期間内に何らの処分もなされない
    場合は、原告の判断により、不作為違法確認訴訟または義務付け訴訟
    のいずれかを選択して提起することができる。
  m  不作為の違法確認の訴えの提起があった場合において、当該申請に
    対して何らかの処分がなされないことによって生ずる重大な損害を避
    けるため緊急の必要があるときは、仮の義務付けの規定の準用により、
    仮の義務付けを申し立てることができる。

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 jについて。
   
  まず、3条5項の不作為の違法確認訴訟の提起は、単独で行うことが
 できるのであって、対象となる処分の義務付け訴訟を併合して提起する
 必要はない。したがって、jは正しくない。

  kについて。      ↓

  ただし、不作為の違法確認の訴えが提起できる場合においては、申請
 を認める処分を求める申請型義務付け訴訟を提起する際には、不作為の
 違法確認の訴えを併合提起する必要がある。条文を列記して、説明する。
 37条の3第1項が規定する義務付けの訴えの要件に関して、37条の
 3第1項柱書の言う3条6項2号に掲げる場合には、不作為型と拒否処
 分型がある。そのうち、37条の3第1項第1号は、不作為型に関する
 規定であって、この不作為型の義務付け訴訟を提起するときは、37条
 の3第3項1号が規定するように、当該処分に係る不作為の違法確認の
 訴えを併合して提起しなければならない。したがって、kは正しくない。

 lについて。

  前述したjによれば、この場合、単独で違法確認訴訟の提起ができる。
 kでは、この場合、義務付け訴訟に不作為の違法確認の訴えを併合提起
 しなくてはならない。したがって、lにおいては、併合提起を要する場
 合もあるので、「不作為違法確認訴訟または義務付け訴訟のいずれかを
 選択して提起することができる」としている点が正しくない。

 
  Ж 前述したのは、不作為型申請型義務付け訴訟を提起する場合であっ
  たが、ここで、これと対比すべきであるのは、一つには、拒否処分型
    申請型義務付け訴訟であり、さらには、これらの申請型義務付け訴訟
    に対する非申請型義務付け訴訟である。
   以下において、これらの義務付け訴訟に関して、条文の適用関係を
  明らかにしておきたい。

  (1)拒否処分型申請型義務付け訴訟

    再説すると、37条の3第1項が規定する義務付けの訴えの要件
   に関して、37条の3第1項柱書の言う3条6項2号に掲げる場合
   には、不作為型と拒否処分型がある。そのうち、不作為型について
   は前述したとおりであるが、拒否処分型に関する規定は、37条の
    3第1項第2号であり、この申請型の義務付け訴訟を提起するとき
   は、37条の3第3項2号が規定するように、当該処分に係る取消
   訴訟または無効等確認の訴えを併合して提起しなければならないの
   である。

  (2)非申請型義務付け訴訟

    37条の2第1項がいう3条6項1号に掲げる場合とは、非申請
   型に関する規定であって、この非申請型の義務付け訴訟を提起する
   ときは、37条の2第1項、3項が規定するように厳格な訴訟要件
   が必要とされるのである。
        具体的には、申請を前提としない規制権限の不行使について言及
   した前記e〜gの場合が、ここで述べた場合に該当するが、そもそ
      も不作為の違法確認訴訟の対象は申請を前提としない規制権限の不
   行使に及ばないのであるから、非申請型義務付け訴訟では、申請型
   義務付け訴訟のように、義務付け訴訟に不作為の違法確認の訴えを
   併合提起するということは、想定されない。しかし、非申請型義務
    付け訴訟では、前述したとおり、厳格な訴訟要件が必要とされるて
   いるのである。
  
  mについて。

    37条の5によれば、仮の義務付けは、義務付けの訴えの提起が
   あった場合にのみ申立てにより行われる決定である。いわば、仮の
   義務付けは、義務付けの訴えと一体である。そのような行訴法の構
   造からすれば、不作為の違法確認の訴えの提起があった場合におい
   て、仮の義務付けを申し立てることができるということは、あり得
   ない。また、この際、次の点にも注意をしておきたい。すなわち、
   仮の義務付けの要件は、「償うことのできない損害を避けるため」
   であり、本肢の記述にある「重大な損害を避けるため」ではない。
    したがって、mは正しくない。

          =次回に続く=


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一
 
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