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行政法・行政立法 第22回
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★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第22回 】★
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2009/4/14
PRODUCED by 藤本 昌一
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【テーマ】行政法・行政立法その2
【目 次】問題・解説
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■ 問題
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平成12年度過去問
問題 8
行政立法についての次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1 行政立法は、行政庁の処分と並んで公権力の行使であり、公定力
・不可争力などの効力が認められる。
2 罪刑法定主義の原則により、行政立法で罰則を設けることは、法律
で個別・具体的な委任がなされている場合でも許されない。
3 行政立法は政令、省令、訓令、通達などからなるが、いずれも行政
機関を法的に拘束するものであり、裁判所はこれら行政立法に違反
する行政庁の処分を取り消すことができる。
4 行政立法が法律による授権の範囲を逸脱して制定された場合には、
裁判所はその行政立法を違法とし、その適用を否定することができる。
5 地方公共団体における法律の執行は、その長の定める規則に委任
されるのが原則であり、条例により法律を執行することはできない。
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■ 解説
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▲ 参照書籍・行政法入門 藤田 宙靖著 ・ 行政法読本 芝池
義一 著ともに有斐閣・憲法 芦部信喜 岩波書店
▲ 総括
1 法は、国会によってだけつくられているわけではなく、裁判所に
よってもつくられるし(最高裁判所規則≪憲法77条≫)、行政機関
によってもつくられる。行政機関がおこなう立法(行政立法)は
「命令」と呼ばれて、憲法もまた、その存在を容認している(憲法
81条・98条など)。
2 行政立法には次の2種類がある。
その一つが「法規命令」であってこれは、私人の権利・義務に直接
変動をもたらす効果をもった行政立法。
それ以外の行政立法が「行政規則」。
3 法規命令には法律による授権を要するが、行政規則には要しない。
法律による行政の原理
法律-----------------------行政立法(命令)
(憲法41条)
↓ 法律の授権要
・法規命令(私人の権利・義務に直接変動もたらす)
↓ 法律の授権不要
・行政規則(行政内部)
▲ 本問の検討
1について。
行政立法は、行政行為ではないので、行政行為(行政庁の処分)の効力
として、認められているものは、行政立法には認められない。
妥当でない根拠は、以上のとおりで必要十分であるが、もう少し詳しく
説明する。
私人に直接権利を与えたり義務を課したりするする点では、行政庁の処分
と行政立法(法規命令)は共通する(1)。したがって、「行政立法は、
行政庁 の処分と並んで公権力の行使であり」というのは正しい。しかし、
法規 命令の「定め方は、不特定多数のひとびとを対象とした一般的・
抽象的なものであって、特定の私人を対象とした個別的・具体的のもの
ではありません(2)から、『行政行為』には含まれなことになります」
(入門)。
したがって、行政行為(行政処分)の持つ特別の効力である公定力・
不可争力は、行政立法(法規命令)には存在しない(3)ことになる。
(1) (2) (3)
A・行政立法 -------------------------------×
-------→ ○ ×
B・行政行為(行政処分)---------------------○
(1)権利・義務 共通 (2)特定・不特定 異なる
(3) 特別の効力の存在
注
1 行政内部の規定に留まる行政規則は、ここでは問題にならない。
2 公定力とは「違法な行政行為も取り消されるまで原則として
有効」(入門)とされること。
3 不可争力とは、「法律上定められた不服申立期間・出訴期間をすぎて
しまうことによって、もはやその行政行為の効果を私人が争うことが
できなくなる」(入門)こと。
したがって、1は全体として妥当でない。
2について。
罪刑法定主義の原則によれば、罰則を設けるには、法律で定めること
が要請される(憲法31条)。しかし、行政立法(法規命令)である政令
においては、法律で個別・具体的な委任がなされている場合には、
罰則を設けることができる(憲法73条6号但し書き)。また同様に、
法規命令である省令においても、罰則を設けることができる(国家
行政組織法12条3項)。
したがって、妥当でない。
3について。
以下は、前記総括を参照
行政立法には、2種類ある。
その一つが法規命令であって、政令・省令がこれに該当する
(憲法73条6号但し書き・国家行政組織法12条1項・3項)。
もうひとつが行政法規であって、訓令・通達がこれに該当する
(国家行政組織法14条2項)。
行政機関を法的に拘束するのは、前者の政令・省令(法規命令)
であって、裁判所は、これら行政立法に違反する行政庁の処分
を取り消すことができる。しかし、後者の訓令・通達(行政規則)
は、「もっぱら行政機関を内部的に拘束するだけで、私人に対し
ては法的効力を持たない(つまり私人の権利・義務とは法的に
無関係である)」ので、たとえば、「納税者は通達違反を理由に
課税処分は違法であると主張し、その取り消しを求めることは
できない」(入門)。
違反
所得税法------所得税法施行令(政令)------課税処分
↑
取り消し可
違反
------通達---------課税処分
↑
取り消し不可
(当該課税処分がおおもとの
所得税法に違反しているか
どうかの問題)
したがって、本肢は、訓令・通達には妥当しないので、全体としては、
妥当でない。
4について。
行政立法である政令が法律による授権の範囲を逸脱しているかどうか
争われた事件として最判平成14・1・31・・(芦部 憲法)がある。
児童手当法が、支給対象となる児童の一部に該当する者を政令に委ねて
いるが、この政令が委任の範囲を逸脱しているとされた。この場合、
裁判所は、この政令を違法とし、その適用を否定することになる。
したがって、当該政令の適用により児童手当の受給資格の喪失処分
を受けた母親に対するその処分が取り消されることになる。
裁判所
↓違法 ↓取り消し
政令適用・行政処分
行政庁---------------------私人
したがって、本肢が妥当であって、これが正解。
5について。
条例には、法律の個別の委任に基づいて制定されるものと法律の個別
の委任なしに制定されるものがある。前者が、委任条例・法定条例・
・・・・・・
法律執行条例と言われるものであって、本肢はこれに該当すると
思われる。後者は自主条例と呼ばれる。
いずれにせよ、条例については、「『地方自治の本旨』ないし
『地方自治の尊重』の見地からは、条例の中に示される地方公共団体の
意思ないしは判断はできるだけ尊重されなければならない。・・条例
が適法なものとして存在するための余地・・をできるだけ広く確保
する工夫が要請される」(読本)
以上の趣旨からすれば、本肢にいう法律執行条例が是認されるのは
当然であるとともに、憲法94条の「・・法律の範囲内で条例を制定
することができる」との規定に従って、法律の個別の委任なしに制定
される自主条例が幅広く認められて然るべきである。
以上述べたところより、本肢は明らかに誤り。
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【発行者】 司法書士 藤本 昌一
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