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行政事件訴訟法 第38回
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★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第38回 】★
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2009/6/24
PRODUCED by 藤本 昌一
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【テーマ】行政事件訴訟法
【目 次】問題・解説
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■ 問題
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A 平成18年度過去問・問題17
取消訴訟と審査請求の関係についての次の記述のうち、妥当なもの
はどれか。
1 個別法が裁決主義を採用している場合においては、元の処分に対
する取消訴訟は提起できず、裁決取消訴訟のみが提起でき、元の
処分の違法についても、そこで主張すべきこととなる。
2 行政事件訴訟法は原処分主義を採用しているため、審査請求に対
する棄却裁決を受けた場合には、元の処分に対して取消訴訟を
提起して争うべきこととなり、裁決に対して取消訴訟を提起する
ことは許されない。
3 審査請求ができる処分については、それについての裁決を経ること
なく取消訴訟を提起することはできないとするのが行政事件訴訟法
の 原則であるが、審査請求から3か月を経過しても裁決がなされ
ないときは、裁決を経ることなく取消訴訟を提起できる。
4 審査請求の前置が処分取消訴訟の要件とされている場合には、
その 審査請求は適法なものでなければならないが、審査庁が誤って
不適法として却下したときは、却下裁決に対する取消訴訟を提起すべ
きこととなる。
5 審査請求の前置が処分取消訴訟の要件とされている場合には、その
出訴期間も審査請求の裁決の時点を基準として判断されることとなる
が、それ以外の場合に審査請求しても、処分取消訴訟の出訴期間は
処分の時点を基準として判断されることとなる。
B・Aに関連する問題(例により、過去問の出典を明らかにしない)
○×で解答いてください。
(1) 行政事件訴訟法によれば、取消訴訟は、必ず審査請求を経て
からでなければ提起することができない。
(2) 処分の取消しの訴えと当該処分の審査請求を棄却した裁決の取消
しの訴えとを提起できる場合は、どちらの訴訟においても当該処分
の違法を理由として取消しを求めることができる。
(3)処分の取消の訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決
の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消
しの 訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求める
ことはできない。
(4)処分の取消しの訴えは、審査請求に対する裁決を経て提起する
ことが法律で定められている場合であっても、審査請求があった
日から3箇月を経過しても裁決がないときは提起することができる。
(5)「裁決の取消しの訴え」を「処分の取消しの訴え」と併合して
提起するようなことは、許されない。
(6)取消訴訟について不服申立ての前置が要件とされている処分に
ついては、無効確認訴訟についても、それが要件となる。
C 平成20年度過去問・問題16
不作為の違法確認訴訟に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1 不作為の違法確認訴訟は、処分の相手方以外の者でも、不作為の違法
の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者であれば、提起すること
ができる。
2 不作為の違法確認訴訟を提起するときは、対象となる処分の義務付け
訴訟も併合して提起しなければならない。
3 不作為の違法確認訴訟は、行政庁において一定の処分を行わないことが
行政庁の義務に違反することの確認を求める公法上の当事者訴訟である。
4 平成16年の行政事件訴訟法の改正によって義務付け訴訟が法定された
のと同時に、不作為の違法確認訴訟の対象も、申請を前提としない規制
権限の不行使にまで拡大された。
5 不作為の違法確認訴訟自体には出訴期間の定めはないが、その訴訟係属
中に、行政庁が何らかの処分を行った場合、当該訴訟は訴えの利益がなく
なり却下される。
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■ 解説
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△ 参考書籍
「行政法入門」藤田 宙靖 著 ・「行政法読本」芝池 義一 著
・ともに有斐閣発行
△ 過去問の検討
今回も前回に引き続き「行政事件訴訟法」を採用した。
A・平成18年度過去問
a 根本問題・用語解説
○不服申立ての前置
「訴願前置主義」
昭和37年に現在の行政事件訴訟法が制定される前の制度である。
行政庁に対して、異義などができる場合には、それを行ってから
でなければ処分の取消訴訟を起こすことはできない。
「自由選択主義」
行政上の不服申立てを先にするかいきなり訴訟を提起するか、両者
を平行して行うかすべて私人の自由な選択に任せるべきである。
行政事件訴訟法8条1項が規定する現在の制度。
同法8条1項ただし書きは、例外を認めている。個別の法が例外を
定めている場合がたいへん多くなっていて、「その結果、現実には
不服申立ての前置という要件がふたたび取消訴訟の重要な訴訟要件
となってしまっているということを否定できない状況」(入門)
である。
○「原処分主義」と「裁決主義」
裁決を経て取消訴訟を提起する場合、最初の処分(原処分)と裁決
のいずれを争いの対象とすべきかという問題である。なお、さきの
「前置」主義とは、直接関係ないと思う。「前置」に基づいて、裁決
を経る場合もあれば、「自由選択」に基づいて裁決を経る場合もある
からである。
たとえば、ある営業許可申請に対して、拒否処分がされたのを不服
として、審査請求をしたところ、これが棄却された場合を想定する。
まず、現行法は、「処分の取消しの訴え」と「裁決の取消しの訴え」
(注) を規定している。(3条2号・3号)。
注・行政不服審査法によると、異義申立てには決定がなされ、審査
請求には裁決がなされることになっているが、行政事件訴訟法では、
両者を含めて、「審査請求」「裁決」という言葉に統一されている
ことに注意せよ。
申請者としては、拒否処分を取り消してもらえばよいことになるが、
考え方として、あとの裁決を争いの対象とし、その中で、最初の処分
が違法であることを裁判所に認めてもらえばよいことになる。しかし、
前述したとおり、法は、「処分の取消し」という独自の方法を認めて
いるのだから、あくまで、拒否処分という 原処分を取消す「処分の
取消し」を提起すべきことになる。これが、行政事件訴訟法10条
2項の規定する「原処分主義」である。原処分主義で目的を達する
ので あれば、「裁決の取消し」は不要ではないかという疑問を生ずる。
しかし、個別の法律において、原処分に不服がある場合であっても、
裁決について取消訴訟を提起することが定められていることがある。
これが、例外として認められている裁決主義である。この場合には、
この訴訟の中で原処分を取り消してもらうことになる。また、原処分
の取消しの外にに審査請求の手続自体に違法があるのでこれを取り
消しておきたいときは、両者の訴えを同時に行うことになる。
(このような説明は、一般の教科書ではみかけないが、それぞれできる
だけご自分で具体的に考察されることを勧める。)
b 各肢の検討。
以上aの記述を前提に解説をする。全体を見ると、1・2が「原処
分主義」と「裁決主義」の問題であり、3・4・5が「前置」の問題
であることが分かる。
1について
これは、まさに例外としての裁決主義であり、妥当である。この知識
が正確に把握されていれば、後の肢はパスして、次の問題に進み、最後
に時間が残れば、2〜5を確認すれば、随分時間の節約になる。
2について
法10条2項の原処分主義のの説明として、前段は正しい。しかし、
裁決に対して同時に取消訴訟を提起できるので、後段は妥当でない。
3について
自由選択主義が原則であるから、前段は妥当でない(法8条1項本文)。
後段については、8条2項1号に注意。この規定は、例外としての
「前置」 の場合に適用されるのである。紛らわしい肢である。
4について
この肢も題意が掴みにくい。審査庁がもともと不適法な審査請求を却下
(注)したときは、その審査請求は適法なものでなければならないから、
前置としての裁決があったとは言えない。しかし、審査庁が誤って
不適法 として却下したときは、却下裁決に対する取消訴訟を経ること
なく、前置 としての審査請求があったものとして原処分の取消訴訟を
提起できる。
同旨の判例があるようである。本肢は妥当でない。
注 不服申立て要件を満たしていない不服申立てに対し、本案の審理を
拒否する門前払いとしての「却下」裁決がなされる。これは、本案
の審理を行ったうえで、言い分を認めない「棄却」裁決と異なる。
5について
これも即座に題意がつかみにくい。本肢にいう「それ以外の場合」とは
前置が処分取消訴訟の要件とされていない場合において、いきなり処分
取消訴訟を提起しないで、審査請求を選択した場合に相当する。
換言すると、「自由選択主義」に基づいて、行政上の不服申立てを先行
させた場合である。審査請求があったときの出訴期間に関する14条3項
の規定は、前置の場合に限っていないので、「それ以外の場合」にも適用
されることになり、この場合にも、処分取消訴訟の出訴期間は裁決の時点
を基準として判断されることになる。おそらく、当該規定は、裁決の結果
をみて、原処分の取消訴訟を提起しようとする相手方の意思を尊重した
ものであろう。そうであれば、なおさら前置に限定する必要はない。
妥当でない。
なお、これは、教科書では一般に触れられていないもので、常識によって、
解答を導くことになるだろう。
1が正解である。4とか5の紛らわしさを考慮すれば、1の正確な知識が
切め手になる。
B 関連問題
(1)について
法8条1項の「自由選択主義」に反する。×
(2)について
法10条2項の「原処分主義」に反する。×
(3)について
法10条2項の「原処分主義」のとおり ○
(4)について
法8条第2項1号のとおり。○
(5)について
原処分の取消しの訴を提起するに当たり、裁決の手続に違法性がある場合
には、「裁決の取消の訴」を併合することが許されるというのが、「原処分
主義」の帰結である(19条1項参照)。 ×
(6)について
法8条第1項ただし書きによれば、不服申立ての「前置」は「処分取消し
の訴」 に該当する。法38条は、法8条1項ただし書きを無効確認訴訟に
準用していない。無効確認訴訟については、まさに「前置」といった制限
を設けず、いつでも起こせる抗告訴訟であるところにこそ、この訴訟の
ほんらいの意味があるからである。(入門参照)したがって、個別の法
において、前置の規定があっても、無効確認訴訟には適用がない。
C 平成20年度過去問
1について
行政事件訴訟法第3条第5項によれば、この訴訟は、不作為一般に関する
訴訟ではなく、「法令に基づく申請」が行われたにもかかわらず行政庁が
応答しない場合に認められる訴訟である。例えば、許認可の申請や年金の
給付の申請をしたが、行政庁の応答がない場合、その違法の確認を求める
ための訴訟がこの不作為の違法確認訴訟である(読本)。したがって、
処分の相手方以外の者は提起できない。正しくない。
2について
法3条6項2号の「申請型不作為」に対する義務付け訴訟にあっては、
不作為違法確認訴訟も一緒に起こさなければならない(法37条の3第3項
第1号)。しかし、不作為の違法確認確認訴訟は、単独で提起できる。
(24号オリジナル問題1肢3・36回過去問A肢3参照)正しくない。
不作為の違法確認訴訟だけでは効果が薄いので、これを補充するために
・・・・・・
義務付け訴訟が認められるという理屈が分かっていれば、義務付け訴訟
提起にあって、不作為違法確認訴訟を併合して提起しなければならない
ことが自然に導かれる。本肢は逆である。
3について
法3条5号に規定される不作為違法確認訴訟は、「抗告訴訟」である。
正しくない。
4について
平成16年改正法により、「義務付け訴訟」(そして「差止め訴訟」)
が「抗告訴訟」として法定されたというのは正しい。しかし、現在も
法3条6項1号の「直接型不作為」(申請を前提としない規制権限の
不行使)は、不作為違法確認訴訟の対象にならない。この「直接型
不作為」に該当する事例としては、過去問36回A肢1の「違法建築」
オリジナル24号の問題1肢1の「公害」を参照されたい。
本肢は正しくない。
なお、平成18年度過去問18 肢1において、本肢と同様のこと
を問うている。
5について
法14条の出訴期間の定めは、処分などがあったことを前提にして
いるから、不作為違法確認訴訟については、そもそも行政処分がない
場合が問題になるから、出訴期間の定めがなくて当然である(入門)。
後段については、処分がなされたのであるから、「裁判所が裁判を
するに値する客観的な事情ないし実益が」(読本)ない場合に相当
し、訴えの客観的利益を欠く。訴訟要件を欠くことになり、門前払
いである却下がなされる。正しい。
本問は5が正解である。
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【発行者】司法書士 藤本 昌一
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