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国家賠償法 第42回

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第42回 】★      
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 2009/7/16


             
             PRODUCED by  藤本 昌一
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【テーマ】国家賠償法
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題・解説
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 ● 参考書籍

  行政法入門・藤田 宙靖  行政法読本・芝池 義一
 ともに有斐閣発行

 ● 国家賠償に関する過去問につき、各テーマごとに類似問題を掲げた。
   ○×で答えよ。(例により、一々出典を明らかにしない)。
 
 A 公権力の行使


 【問題】

 
 a群
 
 1 国家賠償法第1条に規定する「公権力の行使」は権力的な行政作用
   に限られ、公立学校における教師の教育活動は「公権力の行使」には
  当たらないとするのが判例の立場である。

 以下もすべて判例の立場からして○か×を問うもの。

 2 公立学校のプールにおける飛込みで事故が起きた場合、国家賠償法
   1条にいう「公権力の行使」とは、「行政庁の処分その他公権力の
  行使に当たる行為」を意味するから、国家賠償法1条は適用 されず、
    民法上の不法行為 として損害賠償を求めることになる。

 3 公立学校における教員の教育活動は、行政処分ではなく体罰等の
  事実行為であっても国家賠償法での公権力の行使にあたる。  

 4 国家賠償法における公権力の概念は非常に広く、法的行為のみならず、
  警察官による有形力の行使の行使等の事実行為をも対象とするが、教育 
  活動や公共施設管理などのサービス行政に関わる行為など民法709条
   の不法行為責任を問うことができる場合については、国家賠償法に基づ
  く責任をとうことはできない。

 b群

 1 国家賠償法第1条第1項に規定する「公権力の行使」は、行政作用に
   限られ、立法作用及び司法作用は含まれない。

 2 裁判官がした争訟の裁判については、当該裁判官の単なる過失では
  なく、違法又は不当な目的をもって裁判をしたなどの特別の事情が
  なければ国 の賠償責任の問題は生じないとするのが判例の立場で
  ある。

 以下もすべて判例の立場からして○か×を問うもの。

 3 国家賠償法は、国・公共団体の個別具体的な公権力の行使の行使に関
   する賠償責任であるから、執行権としての行政機関の行為が対象となる。
  これに対して、議会の立法は抽象的な法規範を定めるものであり、個別
   具体的に個人の権利を侵害するものではないので、そもそも国家賠償法
   に基づく賠償責任の対象とはならない。

 4 裁判官の裁判過程における行為は、司法作用にかかわる行為なので、
   「公権力の行使」には該当しない。

 5 国会議員の立法過程における行為は、国の統治作用にかかわる行為な
  ので、「公権力の行使」には該当しない。 

 c群
 
 以下すべて、判例の立場から○か×を問うもの。
 
 1 国家賠償法は国・公共団体の不法行為責任にかかる一般法であること
   から、国公立病院の医療過誤に関する責任も、民法709条以下の不法
   行為責任に関する法理は適用されることなく、国家賠償法第1条が適用
   される。

 2 国家公務員の定期健康診断における国嘱託の保健所勤務医師による
   検診は、医師の一般的診断行為と異ならない行為なので、「公権力の
   行使」には該当しない。

 3 国による国民健康保険上の被保険者資格の基準に関する通知の発出
   は、行政組織内部の行為なので、「公権力の行使」には該当しない。

 4 勾留されている患者に対して拘置所職員たる医師が行う医療行為は、
  部分社会内部の行為なので、「公権力の行使」には該当しない。

 

 【解説】

 Aa群

 1について

  国公立学校での学校事故については、最高裁判所は、そこでの教育
 活動を「公権力の行使」と見て、国家賠償法1条1項の適用があると
 している。昭和62年2月6日判決は、理由を示していないが、このこと
 をきっぱりと明言しているので、おそらく国公立学校での学校事故には
 同条1項を適用する実務は今後もかわらないであろう(但し、学校事故
 のうち物的設備の欠陥による事故については、同法2条が適用される)。
(読本) ×

 2について

  1と類似 ×

 3について

  1と2に類似 ○

 4について

   前述のとおり、教育活動のような非権力的公行政は「公権力の行使」と
 解する(広義説)のが最高裁の立場。×


 
 Ab群

 1について

  立法権および司法権の行使も国家賠償法1条1項の「公権力の行使」に
 当たる。×

 2について

  判例の立場は、裁判官に対し国家賠償責任が肯定されるには、本肢に
 いう「特別の事情」を要する(最判昭57・3・12・・H21模範六法383頁 
 42)のであり、○

 3について

 1で述べたとおり、立法権も賠償責任の対象になるので、×。
 しかし、例外的に、国会議員の立法行為等が、違法の評価を受けること
 に注意(最大判平17・9・14…H21模六 382頁 5)。

 4・5について

 これらは、いずれも、平成20年度の肢であるが、それ以前の過去問
 1・2・3により、いずれも×は明白である。

 
 Ac群

 1について

  国公立病院での医療事故については、民法の規定を適用するという
 実務が、最高裁判所昭和36年2月16日判決=東大病院梅毒輸血事件以来
 定着している(但し、予防接種被害については、国家賠償法1条1項が
 適用されている。東京高等裁判所平成4年12月18日判決)。(読本)
   以上により×。

 2・3・4について

   これらは、難問であると思えば、いずれも平成20年度の同一問題
 の中の肢三つである。行政書士合格講座>行政書士試験の過去問分析
 のサイトを引くと、2は、最判昭和57・4・1 3は、最判平成16・1
 ・15 4は、最判平成17・12.8の判決文がその出典であるとのことで
 る。しかし、いずれも、模範六法にも掲載されてない。
   したがって、無数にある判決の中で、これらの判決について、受験
 前に頭に入れておくことは、至難の技である。この肢の中に○がある
 として、どれを○にすべきかで考えてみよう。
   1で見たとおり、国公立病院での医療事故については、民法の規定
 を適用するという実務が定着している。これに準じて、2が○。
 そのとおりです!! したがって、3 4は×。

   3については、「公表が『公権力の行使』に当たるとして国家賠償法
 1条1項を適用する裁判例もあるが、民法を適用する裁判例もある」
 (読本)
   そして、3は、実は、「公権力の行使」には該当しないとする判決
 であるが、その理由とする「行政組織内部の行為なので」というところ
 が×だ!!!というのである。(前掲サイト解説参照)。当該実務の
 担当者が研究熱心で、この判決文を隅々まで読んでいたとして、
 初めて正解に達するという筋合いの問題だ。

 4については、拘置所職員たる医師による医療行為は、3と比較する
 と「公権力の行使」と見るのも自然である。

 

  
  B 公務員

 
 【問題】


 1 国家賠償法第1条第1項に規定する「公務員」は、国家公務員法又は
   地方公務員法に基づく公務員に限られ、公庫、公団などのいわゆる特殊
   法人の職員は含まれない。

 2は、判例に照らした場合○か×で答えよ
 
 2 国家賠償法の責任は、公務員の違法な公権力の行使についての制度で
  あることから、行為者は国家公務員法もしくは地方公務員法上の常勤の
   公務員であることを要する。これに対し、一時的に公務を行う非常勤
   公務員の行為に起因する損害は、民法の不法行為責任の対象となり、
   国家賠償責任の対象外である。  

 
 【解説】

  国家賠償法1条1項を見ると、加害者が正規の公務員であることが
 公権力行使責任が認められるための要件であるように見える。しかし、
 裁判例ではそうは考えられていない。加害行為が行政の仕事、つまり
 公務であればよいと考えることができる。(読本)
   したがって、特殊法人の職員であっても、公務に従事していれば、
 法1条1条1項の「公務員」に該当する。1は×。
   以上の趣旨に従えば、判例は、一時的に公務を行う非常勤公務員
 を法1条の「公務員」とみるので、この者の行為に起因する損害は、
 国家賠償責任の対象である。2も×。


  C 公務関連行為・外形主義

 
 【問題】


 1 国家賠償法第1条第1項に規定する「公務員がその職務を行うに
  ついて」には、公務員が私人として行った行為は、それが客観的に
  みて職務行為の外形を備えている場合には、含まれる。 

  以下、判例に照らした場合、○か×で答えよ。

 2 非番の警察官が、管轄区域外で犯罪を行った場合でも、それが職務
   執行に名を借りて行ったものである以上、当該警察官の行為は国家賠
   償法第1条にいう職務の遂行につきなされた違法な公権力の行使であり、
   当該警察官の所属する地方公共団体が賠償責任を負う。95−5

 3 職務を行うについてという要件の範囲は非常に広く、勤務時間外に
  行われた、公共団体にとってはおよそ直接監督することのできない、
   職務とは 関わりのない行為でも、それが制服を着用していたり、公務
  であることを騙ったりして、外見上職務であるように見えれば、国家
   賠償法上の職務関連行為として認定されることがある。

 4  公務員が主観的には職務権限行使の意思を有しなかったとしても、
  客観的に職務行為の外形を備える行為であれば、国家賠償法第1条
   の職務を行うについてという要件をみたし、損害が発生している場合
   には、国または公共団体は損害賠償責任を負担する。

 5 警察官でない者が、公務執行中の警察官であるかのような外観を
   装い、 他人を殺傷した場合、当該被害者ないしその遺族は、いわゆる
   外形理論 により国又は公共団体に対して国家賠償法1条に基づき損害
   賠償を求めることができる。

 
 【解説】

  国家賠償法1条1項の「公務員が、その職務を行うについて」という
 規定は、加害行為が厳密に公務そのものに該当しない場合であっても公務
 との間に一定の関連性を持つ行為(公務関連行為)による被害についても
 公権力行使責任が認められるという意味である。(読本)
   最高裁判所はその適用の場面として、「客観的に職務執行の外形をそな
 える行為」について、国・公共団体の賠償責任を認めるという外形主義の
 考え方をとる。(読本)判例としては、最判昭31・11・30・・(H21模
 六法382頁 20)がある。
  
   したがって、1は○。2も外形主義の考え方であって、○。3も○。
 4も○。

   この外形主義による国・公共団体の賠償責任が認められるためには、
 加害公務員が正規の公務員でなければならないし、また加害行為はその
 公務員の職務の範囲内でなければならないとするのが定説である。
  したがって、正規の公務員でない者が警察官を装って私人に損害を
 与えても、都道府県の責任は認められない。(読本)
   5は、この場合に該当するので、外形理論により、損害賠償を求める
 ことはできない。×。

  また公務員ではあるが警察官ではない者が警察官を装って損害を与えた
 場合も都道府県の責任は認められないことにも注意せよ(読本)。

 

 D  国賠違法と取消訴訟

 

 【問題】


 1 違法な行政庁の処分に対し国家賠償請求訴訟を提起して勝訴する
   ため には、あらかじめ当該処分に対して取消訴訟または無効確認
   訴訟を提起し、取消しないし無効確認の判決を得て、当該処分が
   違法であることを確定しておかなければならない。

 2 行政事件訴訟法は、行政庁が取消訴訟の対象となる処分をする
  場合には、当該処分の相手方に対し、取消訴訟と併せて国家賠償法
  1条に基づいて国家賠償訴訟を提起することができる旨教示する義務
  を規定している。   

 3は、判例に照らして、○か×で答えよ。

 3 行政処分の違法性を理由とする国家賠償法上の訴えを提起するに
   あたって は、その前提としてあらかじめその行政処分の取消または
   無効確認の判決を得ておく必要はない。   

 
 【解説】

  1と3については、本講座では何度もとりあげている。基本は、行政
 処分の公定力が働く範囲を拡大させないためという目的があるが、再説
 しない。第2コース第36回A肢5解説・参照。
   1が×であり、3が○である。なお、1は直近の平成20年度の肢
 である。

  2については、行政事件訴訟法が定めているのは、取消訴訟等の提起
 に関する事項の教示であって、国家賠償法の提起の教示は含まれていない。
 (行政事件訴訟法46条)。考えてみると、行政事件訴訟法の定めである
 から、自らの法律によって規定される訴訟類型に限るのは当然であろう。
  惑はされてはならない。×
  ちなみに、本肢も20年度の肢である。
 


  E 加害公務員の特定の要否

 
 【問題】


 以下、判例に照らして、○か×で答えよ。

 1 国家賠償法第1条の責任は、公務員の違法な公権力の行使があった
   場合について国・公共団体が代位する責任であることから、違法な
   公権力の行使がなされたとしても、その公権力の行使者たる公務員
   が特定されない場合には、国家賠償責任が成立することはない。

 2 国家賠償法1条に定める公共団体の責任とは、公共団体自体の責任
  を問うものではなく、加害公務員の責任を代位するといういわゆる
 代位責任であるから、具体的に損害を与えた加害公務員の特定が常に
  必要とされる。


 
 【解説】

  「代置責任説は、公権力行使責任を、加害者である公務員が負うべき
 賠償責任を国・公共団体が代位したものと捉える。この説によると、国・
 公共団体の賠償責任が認められるためには、加害公務員を特定しその
 公務員に過失があったことを証明する必要があると言えそうである。
   他方、自己責任説(公権力責任を本来的に国・公共団体が負うべき
 責任として理解しようとする説)に立つとこの必要性はない。ここに、
 代置責任説と自己責任説の対立の一つの意味があると言える。
   もっとも、今日では、・・過失は客観的に捉えられ、組織過失・・が
 認められるようになっているので、代位責任説に立っても、加害公務員
 を特定してその公務員に過失があったことを証明する必要はないだろう。
 (読本)。判例も同様の立場に立つ。最判昭57・4・1・(H21模六385頁 
  95)

   1・2は、いずれも、代位責任説に引っ張られたたものであり、判例
 では加害公務員の特定を要しないとするから、1・2とも×。

 

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

 【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
       
 【E-mail】<fujimoto_office1977@yahoo.co.jp>
 
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