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★ 【過去問・解説 第115回】 ★
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PRODUCED BY 藤本 昌一
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【テーマ】 行政法
【目 次】 過去問・解説
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■ 平成25年度問題16
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いわゆる申請型と非申請型(直接型)の義務付け訴訟について、
行政事件訴訟法の規定に照らし、妥当な記述はどれか。
1 申請型と非申請型の義務付け訴訟いずれにおいても、一定の処
分がされないことにより「重大な損害を生ずるおそれ」がある場
合に限り提起できることとされている。
2 申請型と非申請型の義務付け訴訟いずれにおいても、一定の処分
をすべき旨を行政庁に命ずることを求めるにつき「法律上の利益を
有する者」であれば、当該処分の相手方以外でも提起することがで
きることとされている。
3 申請型と非申請型の義務付け訴訟いずれにおいても、一定の処分
がされないことによる損害を避けるため「他に適当な方法がないと
き」に限り提起できることとされている。
4 申請型と非申請型の義務付け訴訟いずれにおいても、「償うことの
できない損害を避けるため緊急の必要がある」ことなどの要件を満た
せば、裁判所は、申立てにより、仮の義務付けを命ずることができる
こととされている。
5 申請型と非申請型の義務付け訴訟いずれにおいても、それと併合し
て提起すべきこととされている処分取消訴訟などに係る請求に「理由
がある」と認められたときにのみ、義務付けの請求も認容されること
とされている。
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■ 解説
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★ 本問は、前回(114回)のオリジナル/応用問題に対して、
理解が行き届いていれば、正解が得られるであろう。
◎ 総説
(1)本問の解答必要な条文は、行政事件訴訟法第3条6項・3
7条の2・37条3であって、その連関が把握されていれば
よい。
(2) 非申請型(直接型)義務付け訴訟は、行訴法第3条第6項
第1号に該当する場合であり、申請型義務付け訴訟は、同法
同条同項第2号に掲げる場合である。
(3)前回のオリジナル問題に照らせば、違法な建築物を建設した
Aの隣接地に居住するBが、行政庁に対して、当該建築物に対
して、違法な点を是正するよう是正命令を出すこと求めるとき
が、非申請型義務付け訴訟であり、建築確認を申請したAが建
築確認を得られなかった場合において(※)、行政庁に対して、
建築確認を義務付けるときが、申請型義務付け訴訟となる。
※ ここでいう「建築確認を得られなかった場合」とは、「申
請不応答」と「拒否処分」があることに注意。
○ 各肢の検討
1について。
〜〜〜〜
行訴法37条の2は、第3条第6項第1号に掲げる場合である
ので、非申請型義務付け訴訟についての規定であり、37条の3
は、第3条第6項第2号掲げる場合であるので、申請型義務付け
訴訟についての規定でる。両者を比較すると、「重大な損害を生
ずるおそれ」の要件があるのは、37条の2の非申請型義務付け
訴訟のみである。
したがって、本肢は妥当でない。
※ 本肢に関連する箇所を前回のオリジナル問題から引用すると、
下記のとおりである。
非申請型義務付け訴訟については、第三者が義務付けるた
め(第三者訴訟)、厳格な要件が要求されているのに対して、
申請型義務付け訴訟については、不作為違法確認訴訟・取消
訴訟・無効確認訴訟の併合提起が要求されているものの第3
7条の3第3項)、非申請型のような厳格な要件が要求され
ていないことに注意せよ。
2について。
〜〜〜〜〜
申請型義務付け訴訟の原告適格は、「申請」した者に限ら
れるので(37条の3第2項)、申請型義務付け訴訟におい
ても、「当該処分の相手方以外でも提起することができるこ
ととされている」本肢は、妥当でない。
なお、第三者訴訟である非申請型義務付け訴訟における原
告適格については、行訴法9条2項の「法律上の利益」の有
無の判断が重要であるのは、前回詳述したとおりである。
3について。
〜〜〜〜〜
肢1における「重大な損害を生ずるおそれ」と同様に「他に
適当な方法がないとき」の要件があるのは、37条の2の非申
請型義務付け訴訟のみであるので、これに反する本肢は妥当で
ない。
4について。
〜〜〜〜〜
仮の義務付けに求められる「償うことのできない損害を避け
るため緊急の必要がある」いう要件は、申請型・非申請型を問
わず、義務付け訴訟に共通であるので(行訴法第37条の5第
1項)、それらの要件を満たせば、裁判所は、義務付け訴訟の
提起と共に、申立てにより、仮の義務付けを命ずることができ
る。
したがって、本肢は妥当である。
5について。
〜〜〜〜〜
行訴法第37条の3第3項によれば、申請型の義務付け訴
訟においては、それと併合して提起すべきこととされている
処分取消訴訟などに係る請求に「理由がある」と認められた
ときにのみ、義務付けの請求も認容されることになっている
(第37条の3第5項)。しかし、37条の2の義務付け訴
訟では、処分取消訴訟などを併合して提起すべきであるとさ
れていないので、非申請型の義務付け訴訟には本肢は妥当し
ない。つまり、本肢は、申請型の義務付け訴訟にのみに関す
る記述であることになる。
したがって、本肢は妥当でない。
※ 申請型義務付け訴訟は、3条6項2号に掲げる場合であ
り(第37条の3第2項)、この場合には、「申請不応答」
と「拒否処分」があることは、前述したとおりであるが
(第37条の3第1項参照)、申請型の義務付け訴訟にお
いて、それと併合して提起すべきこととされている訴訟は、
「申請不応答」の場合には、3条5項の「不作為の違法確
認の訴え」であり、「拒否処分」の場合には、3条2項の
「処分の取消しの訴え」または3条4項の「無効確認の訴え」
である(第37条の3第3項)。
以上の関係を図示すると、
国民⇒行政庁に対し許認可の申請⇒行政庁
↓
(1)「申請不応答」
(2) 「拒否処分」
国民⇒裁判所に対し許認可を行政庁に義務づける訴訟提起
(1)の場合 当該「義務付け訴訟」に「不作為の違法確認
の訴え」を併合して提起せよ。
(2)の場合 当該「義務付け訴訟」に「処分の取消しの訴
え」又は「無効確認の訴え」を併合して提起
せよ。
以上の図示を見ながら、本肢の記述である「併合して提
起すべきこととされている処分取消訴訟などに係る請求に
『理由がある』と認められたときにのみ、義務付けの請求
も認容されることとされている」を読めば、その意味を把
握しやすくなるであろう。教科書では、この『理由がある』
ことが、本案勝訴要件であると説明されるが、平たくいえ
ば、次のように言えるであろう。
『理由がある』とは、勝訴できることであるから、ぶら
さげてきた(併合した)処分取消し訴訟が勝訴できないな
ら、本体(本案である「義務付け訴訟」)も勝訴(認容)
できませんよということである。
法律用語に徒に振り回されることなく、できるだけ具体
的に考察する訓練を涵養することも、私は、法律学習には
肝要であると思う。
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本問では、妥当であるのは、4であるから、4が正解である。
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★ 参考文献
行政法入門 藤田宙靖 著 ・ 行政法読本 芝池義一 著
・有斐閣発行
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【発行者】 司法書士藤本昌一
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★ 【過去問・解説 第114回】 ★
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【テーマ】 行政法
【目 次】 過去問・解説
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■ 平成25年度問題44 《記述式》
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Aが建築基準法に基づく建築確認を得て自己の所有地に建物を
建設し始めたところ、隣接地に居住するBは、当該建築確認の取
消しを求めて取消訴訟を提起すると共に、執行停止を申し立てた。
執行停止の申立てが却下されたことからAが建設を続けた結果、
訴訟係属中に建物が完成し、検査済証が交付された。最高裁判所
の判例によると、この場合、(1)建築確認の法的効果がどのよう
なものであるため、(2)工事完了がBの訴えの訴訟要件にどのよ
うな影響を与え、(3)どのような判決が下されることになるか。
40字程度で記述しなさい。
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■ 解説
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【過去問・解説 第113回】から続く
4 (1) 末尾
以下、過去問平成18年度問44《記述式》・平成22年
度問42《多肢選択式》・平成24年度問17《五肢択一式》
を取り上げる予定であったが、これらについては、過去問・
解説 第113回の続編として、次回の同114回に掲載す
ることにする。
(2) 過去問平成18年度問44《記述式》
保健所長がした食品衛生法に基づく飲食店の営業許可に
ついて、近隣の飲食店営業者が営業上の利益を害されると
して取消訴訟を提起した場合、裁判所は、どのような理由
で、どのような判決をすることとなるか。40字程度で記
述しなさい。
正解例としては、以下のようになるであろう。
「本件業者は、法律上の利益を有せず、原告適格を欠くの
で、却下の判決をする。」(37字)
《解説》
本問は、行政処分の相手方ではない第三者が起こす訴訟
である第三者訴訟が主題になっている。
この場合においても、「法律上の利益」がキイワードに
なって、「原告適格の有無」が判断され、行訴法9条2項
が焦点になるのは、 前回に詳述したとおりである。
9条2項の新設によって、原告適格が拡げられた後も、
本件 業者にまで「原告適格」が認められないというのは、
教科書の典型例として、散見されるところであるので、
さきに示した正 解例が妥当する。
なお、同種事案の判例としては、以下のものがある。
既存の質屋は、第三者に対する質屋営業許可処分の取
消しを求める法律上の利益を有しない(最判昭34・8
・18民集13−10−1286)。
※ 前回取りあげた、「平成25年度問題44」もまた、
第三者訴訟であるが、本件では、「原告適格」がある
ことは、前提とされ、「法律上の利益」というキイワ
ードは、「訴えの利益」との関係で考察されたのであ
る。その意味において、前回における以下記述によっ
て、条文の連関を再認識されたい。
原告適格は、行訴法9条1項の「法律上の利益」を
有する者であるが、訴えの利益もまた、この「法律上
の利益」に含まれる。以上の点からすると、「『法律
上の利益』の概念は二重の意味を持っていることにな
る。
(3) 過去問平成22 年度問42《多肢選択式》
取消訴訟の原告適格に関する次の文章の空欄[ア]〜[エ]
に当て はまる語句を、枠内の選択肢(1〜20)から選び
なさい。
平成16年(2004年)の行政事件訴訟法(以下、
「行訴法」 という。)改正のポイントとして、取消訴訟の
原告適格の拡大がある。
取消訴訟の原告適格につき、行訴法9条(改正後の9条
1項)は、「処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え
(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消
しを求めるにつき[ア]を有する者……に限り、提起するこ
とができる。」と定めているが、最高裁判例は、ここでいう
「当該処分の取消し求めるにつき『[ア]を有する者』とは、
「当該処分により自己の権利若しくは[イ]を侵害され又は必
然的に侵害されるおそれのある者をいう」と解してきた。
しかしながら、裁判実務上の原告適格の判断が狭いとの批
判があり、平成16年改正により新たに行訴法9条に第2
項が加えられ、「裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の
者について前項に 規定する[ア]の有無を判断するに当たっ
ては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言の
みによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処
分において考慮されるべき [ウ]の内容及び性質を考慮する
ものとする」ことが規定された。そしてこの9条2項は、
[エ]の原告適格についても準用されている。
1 差止め訴訟 2 法律上の利益 3、権限 4 憲法上保護さ
れた利 益 5 事実上の利益 6 住民訴訟 7 実質的当事者
訴訟 8 損害 9 利益 10 法律上保護された利益 11 訴訟
上保護された利益 12 立法目的 13 訴訟上の利益 14 公益
15 うべかりし利益 16 不作為の違法確認訴訟 17 法的地位
18 公共の福祉 19 紛争 20 形式的当事者訴訟
正解
ア=2(法律上の利益) イ=10(法律上保護された利益)
ウ=9(利益) エ=1(差止め訴訟)
《解説》
平成16年(2004年)の行訴法改正としして、9条に第
2項が追加され、取消訴訟の原告適格の拡大がなされたことに
ついては、前回、説明をした。
その箇所を参照すれば、本問は難なく正解に達するであろう。
ここでは、[ア]〜[エ]につき、補足的な説明に行うことにす
る。
[ア]・ 取消訴訟の原告適格とは、、行訴法9条1項の「法律上
の利益」を有する者に該当することは、明瞭であるから、
ア=2(法律上の利益)となる。
[イ]・ 当該「法律上の利益」の解釈としては、「法律上保護さ
れた利益」説が通説である旨説明したが、最高裁判所もまた、
1978(昭和53)年3月14日判決=主婦連ジュース不
当表示事件において、以下のように判示することによって、
「法律上保護された利益」説をとることを明確にした。
当該処分について不服申立てをする法律上の利益がある者、
すなわち、当該処分により自己の権利若しくは「法律上保護
された利益」を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのあ
る者をいう、と解すべきである。
したがって、イ=10(法律上保護された利益)となる。
※ この基準に関する当該判決に関しては、後掲書「読本」
による以下の記述を参照されたい。
この基準は、この判決では行政不服申立資格の基準と
して示されたのであったが、その後、下級裁判所のみな
らず最高裁判所自身によっても、行政事件訴訟法9条1
項の「法律上の利益」の解釈の基準を示すものとして適
用されてきている。この主婦連ジュース不当表示事件の
最高裁判決により、取消訴訟の原告 適格について、
「法律上保護された利益」説が確立したと言ってよいで
あろう。
[ウ]・9条2項の条文に照らし、 ウ=9(利益)となる。
※ 前回、行政事件訴訟法9条2項は「法律上保護され
た利益」説に立ちつつ、「法的な保護に値する利益」
説も取り入れていると見ることができる旨記述したが、
その間の消息については、後掲書「読本」による以下
の記述を参照されたい。
「主婦連ジュース不当表示事件の最高裁判決が提示
した「法律上保護された利益」説は、訴訟実務の中
では、とくに地方裁判所や高等裁判所のレベルおい
てであるが、原告適格を否定するために用いられ、
猛威を振るってきたと言ってよいほどである。この
状況を打破するため、2004年行政事件訴訟法で
は、同法9条に」2項の規定が付け加えられたので
ある。
前記の行訴訟9条2項は「法的な保護に値する利益」
説も取リ入れたという記述も、後掲書「読本」の引用
であるが、同書の著者は、「法的な保護に値する利益」
説も取リ入れたことによって、追加された行訴訟法9
条2項が、原告適格を拡げたという主張をされるので
あろう。
[エ]・差止め訴訟については、行訴訟3条7号に規定があり、
その要件は37条で規定されているが、同条4項におい
て、「法律上の利益の有無の判断については、第9条第
2項を準用する」旨規定されている。したがって、エ=
1(差止め訴訟)となる。
※ 「今後は許認可を第三者が差し止めようとする訴訟も
出てくる可能性がある」(後掲書・読本)とされるが、
そうなれば、第三者訴訟に適用される9条2項が、差止
め訴訟に準用される機会が増加すると思われる。
なお、9条2項は、義務付け訴訟にも準用されている
(37条の2・4項)ことにも注意せよ。この場合にも、
差止め訴訟と同様に第三者訴訟として、提起されること
が多くなるであろう。
(4) 過去問平成24 年度問17《五肢択一式》
行政事件訴訟法9条2項は、平成16年改正において、取消
訴訟の原告適格に関して新設された次のような規定である。次
の文章の空欄[ア]〜[エ] に入る語句の組合せとして正しいも
のはどれか。
「裁判所は、処分又は裁決の[ア]について前項*に規定する法律
上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の
根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の
[イ] 並びに当該処分において考慮されるべき[ウ]を考慮する
ものとする。この場合において、当該法令の[イ]を考慮するに
当たつては、当該法令と[エ]を共通にする関係法令があるとき
はその[イ]をも参酌するものとし、当該[ウ]を考慮するに当た
つては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してさ
れた場合に害されることとなる[ウ]並びにこれが害される態様
及び程度をも勘案するものとする。」
ア イ ウ エ
1 相手方 趣旨及び目的 公共の福祉 目的
2 相手方以外の者 目的とする公益 利益の内容及び 趣旨
性質
3 相手方 目的とする公益 相手方の利益 目的
4 相手方以外の者 趣旨及び目的 利益の内容及 目的
び性質
5 相手方以外の者 目的とする公益 公共の福祉 趣旨
(注)* 行政事件訴訟法9条1項
正解
本問は、解説するまでもなく、行訴法9条2項の語句を文
章の空欄[ア]〜[エ] に入れると、4となる。
※ 本問に関しては、行訴法9条2項が、行政処分の相手
方ではない第三者が起こす訴訟である第三者訴訟の原
告適格についての規定であるという認識があれば、ア
が「相手方以外の者」である2・4・5に絞られるの
で、以後の作業が楽になるであろう。
いずれにせよ、この9条2項は重要な規定であるの
で、折りにふれ、何度も熟読しておくべきであろう。
5 前回において、以下のように述べたので、順次考察する。
なお、本問である平成25年度問題44をもう少し、掘り下げ
て 、第三者訴訟(後記オリジナル問題とも関連する)・本問の
記述である「執行停止」のもつ意味についても、次回において考
察してみたい。
(1)第三者訴訟
本問では、建築確認を得たA以外の隣接地に居住するBが
当該建築確認の取消訴訟を提起したというのであるから、当
該取消訴訟は、行政処分の相手方ではない第三者が起こす訴
訟である第三者訴訟である。本問では、論点になっていない
ため素通りしたが、行訴法9条2項の適用によって、Bに原
告適格が認められるということが前提とされていることも認
識すべきである。
(2)執行停止
本問では、原告は、処分の取消しの訴え提起と共に執行停
止の申し立てを行っている。原告としては、建築確認が違法
であれば、当該建築物の建築を阻止したり、違法な点を是正
できることを期待して、執行停止の申し立をしたものと思わ
れる。もし、原告のこの期待が正当であれば、執行停止の申
し立てが却下されたとしても、建築工事の完了した後におい
てもなお、建築確認が違法であることを理由に建築確認を取
り消すことによって、当該建築物の違法な点を是正できるこ
となる。ということになれば、建築工事完了後に建築確認を
取り消す実益があることになり、当該訴訟に「訴えの利益」
があることになる。実は、本問の執行停止には、そのような
意味もこめられていて、引いては、そのことが建築工事完了
後の建築確認取り消しに関する「訴えの利益」の問題を考え
させる契機にもなっていると推定される。
しかし、最高裁判所は、前記是正命令を発するかどうか
は、行政庁の裁量であって、建築確認が存在していても、
是正命令を発することができるし、建築確認が取り消され
ても、是正命令を発すべき法的拘束力を生じるものではな
く、「建築確認は、それを受けなければ建築工事ができな
いという法的効果をもつにすぎないから、当該工事の完了
により訴えの利益は失われる」という判断を示したのであ
る。
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■ オリジナル/応用問題・解説
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《問題》
Aが建築基準法に基づく建築確認を得て自己の所有地に建物を建設し
始めたところ、隣接地に居住するBは、当該建築物に対して、違法な点
を是正してもらいたいため、当該建築確認の取消しを求めて取消訴訟を
提起すると共に、執行停止を申し立てた。しかし、裁判所によって、執
行停止の申立てが却下されると共に当該取消訴訟は、本件建築工事が完
了したために、訴えの利益が消滅したことを理由に、却下された。この
場合において、Bの取消訴訟以外の訴訟提起の可能性に言及した次の文
章について、空欄[ア]〜[エ]に入る語句の組合わせとして正しいものは
どれか。
行政庁が、問題の当該建築物を建設したAに対して、違法な点を是正
するよう是正命令(建築基準法9条1項)を出すこと求めるには、Bは
[ア]を提起することになるが、この場合の用いられるべき[イ]の[ア]は、
訴訟要件が厳しく使いにくいものであることにも留意が必要である。そ
の訴訟要件については、行政事件訴訟法第37条の2第1項に規定があ
るが、それによると、「一定の処分がされないことにより[ウ]を生ずる
おそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に[エ]がないとき限り、
提起することができる」旨定めてある。なお、同条2項には、同条1項
に規定する [ウ]を生ずるか否かの裁判所の判断基準が定めてある。
(行政法読本 芝池義一 著 ・有斐閣発行を参照しながら、作成した)
ア イ ウ エ
1 義務付け訴訟 非申請型 償うことので 適当な方法
きない損害
2 差止訴訟 非申請型 重大な損害 適当な方法
3 不作為違法 申請型 相当の損害 相当な方法
確認訴訟
4 無効確認訴訟 申請型 償うことので 相当な方法
きない損害
5 義務付け訴訟 非申請型 重大な損害 適当な方法
《解説》
◎ 本問は、前記5(2)執行停止 を読んだ後、当該解説に進んで
ほしい。
当該最高裁判所判例によって救済されないBが、是正命令を求め
るために「義務付け訴訟」を提起する場合の記述が、本問の文章で
ある。
○ したがって、ア=義務付け訴訟 になる。
● 当該義務付け訴訟は、行訴法第37条の2第1項によれば、第3
条第6項第1号に掲げる場合であるので、イ=非申請型となる。
※ 申請型義務付け訴訟は、行訴法第37条の3によれば、第3条
第6項第2号に掲げる場合であるので、本問に照らせば、Aが建
築確認が得られなかった場合において、行政庁に対して、建築確
認を義務付けるときである。
◎ 当該義務付け訴訟は、行訴法第37条の2第1項によれば、その
要件は、「重大な損害」を生ずるおそれであるから、ウ=重大な損
害となる。
△ 同様に、条文上その要件として、「適当な方法」がないときに限
りが該当するので、エ=適当な方法となる。
※ 非申請型義務付け訴訟については、第三者が義務付けるため
(第三者訴訟)、厳格な要件が要求されているのに対して、申
請型義務付け訴訟については、不作為違法確認訴訟・取消訴
訟・無効等確認訴訟の併合提起が要求されているものの
(第37条の3第3項)、非申請型のような厳格な要件が要求
されていないことに注意せよ。
※ なお、「償うことのできない損害」は、仮の義務付け等に求
められる要件である(行訴法第37条の5第1項)。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
以上の記述により、本問は、5が正解である。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
▲ 付言
本問の出題・解説は、行政事件訴訟法の体系的理解という本講座
の趣意に添ったものである。
★ 参考文献
行政法入門 藤田宙靖 著 ・ 行政法読本 芝池義一 著
・有斐閣発行
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【発行者】 司法書士藤本昌一
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