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★ 【過去問/応用問題・解説 第110回 】 ★
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PRODUCED BY 藤本 昌一
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【テーマ】 民法 無権代理人の責任/取消し
【目 次】 過去問/総則・応用問題 解説
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■ 平成25年度 過去問 問題 45 《記述式 》
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問題
Aは、Bに対し、Cの代理人であると偽り、Bとの間でCを売主と
する売買契約(以下、「本件契約」という。)を締結した。ところが、
CはAの存在を知らなかったが、このたびBがA・B間で締結された
本件契約に基づいてCに対して履行を求めてきたので、Cは、Bから
その経緯を聞き、はじめてAの存在を知るに至った。他方、Bは、本
件契約の締結時に、AをCの代理人であると信じ、また、そのように
信じたことについて過失はなかった。Bは、本件契約を取り消さずに、
本件契約に基づいて、Aに対して何らかの請求をしようと考えている。
このような状況で、AがCの代理人であることを証明することができ
ないときに、Bは、Aに対して、どのような要件の下で(どのような
ことがなかったときにおいて)、どのような請求をすることができる
か。「Bは、Aに対して、」に続けて、下線部について、 40 字程
度で記述しなさい(「 Bは、Aに対して、」は、40字程度の字数
には入らない)。
Bは、Aに対して、
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■ 解説
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● 条文
(無権代理人の責任)
第117条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を
証明することができず、かつ、本人の承認を得ることができなか
ったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害
賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有
しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知
らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能
力を有しなかったときは、適用しない。
● 問題文の事例の図示
以下の「本人」「相手方」は条文の用法による。
同条2項の「他人の代理人として契約をした者が代理人を有しない
ことを相手方をが知っていたとき、若しくは過失によって知らなか
ったとき」に該当しない場合を以下において《善意・無過失》とし
て、表示した。
「本人」 無権代理人 「相手方」
《善意・無過失》
C=========A==============B
←--------------------------------------------→
売主 売買契約(本件契約) 買主
● 本問の検討
1 本問は、無権代理人の責任を規定する117条の規定を熟知し
ていることを前提に、問題文の事例を117条に当てはめる作
業(117条の解釈)を要求している。最初に、問題文の内容
を順次、検討する。
第1に、問題文をみると、本件契約がAの無権代理行為である
ことは「Aは、Bに対し、Cの代理人であると偽り、Bとの間で
Cを売主とする売買契約(以下、「本件契約」という。)を締結
した。ところが、CはAの存在を知らなかった・・」という文言
によって、明瞭に示されている。
第2に、問題文によると、「Bは、本件契約を取り消さずに、
本件契約に基づいて、Aに対して何らかの請求をしようと考えて
いる」とあるが、この文言によって、Bは、115条による無権
代理の相手方の取消を利用しないで、Aに対して、117条の無
権代理人の責任を追求しようとしていることが明らかになる。
第3に、117条は、Aが無権代理人の責任を負う要件として
以下のとおり、定めている。
その(1)は、Aが自己の代理権を証明できるときないときであ
るが(117条1項)、問題文では、「AがCの代理人であること
を証明できない」とあるので、これに該当する。
その(2)としては、117条2項によれば、は、Bが善意・無
過失でなかったときは、同条1項を適用せず、Aは責任を負わない
ことになるが、、問題文では「Bは、本件契約の締結時に、AをC
の代理人であると信じ、また、そのように信じたことについて過失
はなかった」とあるので、Bが善意・無過失であったことにより、
Aは無権代理人の責任の責任を負う。
2 以上の問題文を前提として、本問の設問に応じて、前記以外の
Aが無権代理人の責任を負う要件を検討すると、条文上二つ存在
することが分かる。
第1は、「本人の追認を得ることができなかったとき」(11
7条1項)である。
第2は、117条2項によれば、無権代理人が「行為能力を有
しなかったときは」同条1項を適用しないことにより、責任を負
わないことになるので、無権代理人が行為能力を有していること
が、無権代理人が責任を負う要件になる。
● 本問の解答
既述したことの理解があれば、本問を正解に導くことができるが、
文言の修正など整理すべきことがある。ポイントは、二つある。
第1は、設問では、要件として、(どのようなことがなかったとき
において)という文言がわざわざ提示されていることからすると、本
人の追認がないという要件は、いわば積極的要件であるから、そのま
ま記載しても差し支えない。しかし、無権代理人が行為能力を有して
いることは、いわば消極的要件であって、解答としては、「なかった
とき」という否定形に改めなくはならない。ここが、本問の一番難し
いところだ!行為能力を有しているということは、制限行為能力者で
ないということである(20条参照・私に誤解がなければ、民法上、
制限行為能力者の定義があるのは、当該条文のみだと思う)。従っ
て、解答欄では、この表現を用いるのが適切であると思う。
第2は、117条1項の無権代理人の責任は、履行又は損害賠償の
責任であるが、設問では、相手方から無権代理人に対する請求という
表現にしなくてはならない。
したがって、解答例としては、つぎのようになる。
Cの追認がなく、Aが制限行為能力者でなかったときは、履行
または損害賠償の請求をできる。
43字
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■ 総則・応用問題 解説
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BがAに騙されてAから絵画を購入し、これをCに転売した場合、B
がAの詐欺を理由としてAとの売買契約を取り消すことができないのは、
どのような場合であって、これは何と呼ばれるかについて、40字程度
で記述しなさい。
● 該当条文の摘出
(追認の要件)
124条1項 追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した
後にしなければ、その効力を生じない。
(法定追認)
125条 前条の規定により追認することができる時以後に、取り
消すことができる行為について次に掲げる事実があったと
きは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめた
ときは、この限りでない。
5号 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又
一部の譲渡
● 図示
騙されて絵画の購入 絵画の転売
A------------------B-------------------C
● 本問の検討
(1)BはAに騙されて絵画を購入したのであるから、96条の適
用により、Bは、詐欺による意思表示を取り消すことできるの
で、当該売買契約を取り消すことができる。
(2)しかし、125条5号によって、絵画を転売した後は、追認
したものとみなされるので、以後取り消すことができない(1
22条参照)。しかし、ここでは、125条柱書は、考慮しな
いことにする。
(3)ただし、125条は、124条の規定により追認することが
できる時以後に、取り消すことができる行為によって取得した
権利の譲渡であったときは、追認をしたものとみなすとしてい
る。本問は、詐欺の事例であるから、124条に関しては、同
条1項の適用を受けることになる。
● 本問の解答
本問では、BがCに転売した行為が125条の規定する法定追認
に該当することを前提にして、「BがAの詐欺を理由としてAとの
売買契約を取り消すことができないのは、どのような場合」かが問
われているのだから、転売の時に焦点を合わせる必要がある。すな
わち、124条1項の規定を表現することが重要になる。
併せて、「これは何と呼ばれるか」という設問については、「法
定追認」を明記する必要がある。
以上の考察にしたがって、解答例を示すと、
◆ Bが、Aの詐欺の状況が消滅した後、絵画をCに転売した
場合であって、法定追認と呼ばれる。
なお、124条1項の「詐欺の状況が消滅した後」というのは、
具体的には、詐欺による意思表示した者が詐欺を知った後を意味
するので(後掲書 民法 一 参照)、これを表すと、以下の解
答例になるであろう。
■ Bが、Aの詐欺を知った後に絵画をCに転売した場合であ
って、これは、法定追認と呼ばれる。
※ ちなみに、字数はともに43である。
● 参考事項
本問は、平成23年度問題27肢イを基に作成したものであるが、
本肢を解説した書物などでは、、私のみる範囲においては、論点を
適確に把握して解説を行っているものに、遭遇しなかった。私の以
上の個人的体験が、当該オリジナル問題の作成動機になっている。
★ 参考書籍
民法一・二・三 内田 貴 著・東京大学出版会
民法1・2・3 我妻榮/有泉亨/川井健 著・勁草書房
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【発行者】 司法書士藤本昌一
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