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             ★ オリジナル問題解答 《第16回 》 ★

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                    PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  憲法

   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 憲法オリジナル問題 解説
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第102号に掲載してある。

 
 ☆ メルマガ第102回はこちら↓
  
   http://archive.mag2.com/0000279296/index.htm
 
 
 ◆ 参考文献
   
   憲法 芦部 信喜 著  岩波書店


 
 ▲  問題 1

     ◆ 総説

        衆議院の解散決定権については、内閣にその決定権があるこ
    とについては争いはない。

        しかし、これについては、憲法69条のほかの他の条文に明
    文がないため、諸説ある。

       1 憲法69条限定説とも言うべきもので、衆議院の不信任決
     議が可決された場合にのみ、内閣が衆議院を解散できるとい
     うもの。
              
        (条文)
 
          憲法69条・内閣は、衆議院で不信任の決議を可決し、又は
    信任 の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散さ
    れない限 り、 総辞職しなければならない。

          しかし、内閣に自由な解散権を認めるのが、大勢である。

        2 内閣に自由な解散権を求める根拠として、憲法の全体の構造
         (権力分立制・議院内閣制を持ち出す)に求めるもの。

        3  憲法7条の内閣の「助言と承認」は、本来形式的・儀礼的行
     為に対して、行うことが要求されるが、解散などの場合には、
     この「助言と承認」の中には内閣の実質的決定を含むという考
     え方。

  
           この考え方には、「助言と承認」のなかに内閣の実質決定を
     含まないもの(原則)と含むもの(例外)を併存させるという
         問題点もあるが、現に実務では、この7条説により、内閣に自
         由な解散権が 認められている。
            
        (注)なお、7条2号の「国会の召集」についても、この3と
             同様の 考え方に立ち、内閣に実質的決定権を認める。
 
        (注)憲法53条の臨時会には、内閣の召集の決定権が明記さ
             れてい るが、52条の常会、54条の特別会には、内閣
             に召集権のあることが規定されていない。


       ◆ 各肢の検討

        1について

       69条限定説に限定説(A説)に対する批判である。

      2について

       これは、総説2からして、内閣に自由な解散を認めるという
        B説の論 拠である。

        3について

       総説3記述のとおり、慣習化しているのは、B説である。

      4について

      総説3記述のとおり、これはB説の考え方である。

      5について

       総説3において、B説では、実質的決定を含む場合とそう
     でない 場合を併存させることとなるという問題点が指摘さ
        れている。
       したがって、本肢は、B説の問題点であるから、A説から
        B説に対する批判となりうるものであって、B説からA説に
        対する批判としては妥当ではない。


   --------------------------------------------------------------------

        以上により、本問は5が正解である。

   ------------------------------------------------------------------


 ▲  問題 2


        肢1について

     「もっとも、7条により内閣に自由な自由な解散権が認めら
         れるとしても、解散は国民に対して内閣が信を問う制度である
         から、それにふさわしい理由が存在しなければならない」
      (前掲書)
      
          したがって、当該見解を採用しても、内閣の解散権には限界
        がないとはいえないので、本肢は妥当である。

    肢2について

     既述したとおり(本欄  ▲  問題 1 ◆ 総説 3)、当
    該見解を採用した場合には、本肢のような問題点があるので、
    本肢は妥当である。

    肢3について

     憲法69条限定説には、本肢のような問題点があるので、本
        肢は、妥当である。

    肢4について

     内閣の解散権の行使が、憲法の全体的構造に反する場合には、
    解散は許されないので、内閣の解散権に限界がある。
     したがって、本肢は妥当でない。

    肢5について

     「衆議院の解散決議による解散も可能だという説もあるが、
          自律的解散は、多数者の意思によって、少数者の議員たる
          地位が剥奪されることになるので、明文の規定がない以上、
          認められない」(前掲書)。

      したがって、通説によれば、衆議院の解散決議による解
          散は許されないことになる。本肢は妥当である。

    
------------------------------------------------------------------

           以上により、本問は4が正解である。

 -----------------------------------------------------------------

 
 
 ▲  問題 3

 
 ア 憲法58条は、国会の自律権について定めている。

 「自律権とは、懲罰や議事手続など、国会または各議院の内部
  事項については自主的に決定できる機能のことを言う。判例
  は、国会内部での議事手続について裁判所は審査できないと
   している。」(前掲書)

   ここでいう判例とは、最大判昭和37・3・7民集16−
 3−445) 警察法改正無効事件であり、本肢のように判示
 した。

  したがって、本肢は妥当である。

 
 イ 最大判昭和35・6・8民集14−71206 苫米地事
  件では、解散事由及び閣議決定の方式の問題いずれについて
   も、統治行為に該当するた め、 裁判所の審査権は及ばない
   としている。
 
   本肢は、妥当でない。

 
 ウ   最判昭和52・3・15民集31−2−234 富山大学
  事件によれば、単位授与(認定)行為は、特段の事情の事情
  のない限り、司法審査の対象 にならないと判示したのに対し
  て、本肢の場合には、以下のように判示した。
 
   学生が専攻科修了の要件を充足したにもかかわらず、大学が
    その認定をしなときは(認定には格別教育上の見地からの専門
    的な判断を要しない)、一般市民としての有する公の施設を利
    用する権利を侵害されるので、司法審査の対象となる。

  本肢は、以上の記述に反するので、妥当でない。

 
 エ 最判昭和63・12・20 共産党袴田事件によれば、判例の
   趣旨は、このとおりである。
 

   本肢は妥当である。

 
 オ 最判昭和56・4・7民集35−3−443 「板まんだら」
  事件は、以下のように判示して、裁判所の審査の対象にならない
   とした。
 
      訴訟が当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係に関する
    訴訟 であっても、信仰の対象の価値ないし宗教上の教義に関
    する判断は請求の当否を決するについての前提問題にとどまる
    とされていても、それが訴訟の帰すうを左右する必要不可欠の
    ものであり、紛争の核心となっている場合には、その訴訟は・・
    法律上の訴訟にあたらない。

  
   以上の判示に反する本肢は、妥当でない。


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  妥当であるのは、アとエであるから、正解は1である。

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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              ★ オリジナル問題解答 《第14回》 ★

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          PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  民法
   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 民法オリジナル問題 解説
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第100号に掲載してある。

 
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  ▲ 問題 1

     
 Aの相談について

  昭和37・4・20によると、無権代理人が本人を単独相続し、
  本人と代理人の資格が同一人に帰するに至った場合は、本人が自ら
  法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じると解される。

  以上のとおり、当然有効となるので、Aは当該無権代理行為を追
 認拒絶できない(民法113条参照)。
 
 「できません」に該当する。 

 
 Bの相談について                              

    本人が追認しないまま死亡し、無権代理人が他の相続人とともに本
 人を共同相続した場合に、その相続分について無権代理行為が当然有
 効となるかについて、

  最判平51・21は以下のとおり判示する。

  他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理
  人の相続分においても、当然に有効となるものではない。

  したがって、母の追認がなければ、Bの2分の1の相続分に相当す
 る部分について、本件連帯保証契約が有効になったことを前提とした
 貸金請求に対して、Bは支払いを拒絶できる。

  「できます」に該当する。

 
 Cの相談について
  
    本人が無権代理人を相続した場合に、本人は無権代理人が行った行為
 の無効を主張できるかについて、

 Aの相談でも掲げた最判昭37・4・20は、以下のとおり判示する。

   無権代理人が本人を相続した場合においては、自らした無権代理行為
 につき本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反
 するから、右無権代理行為は相続と共に当然有効となる解するのが相当
 であるけれども、本人が無権代理人を相続した場合は、これと同様に論
 ずることはできない。後者の場合においては、相続人たる本人は被相続
 人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義に反するところはない
 から、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効とな
 るものではないと解するのが相当である。

  したがって、Cは、当然有効として、家屋の明渡し等を求める相手方
 に対し、これを拒否できる。


  「できます」に該当する。
  


 Dの相談について

  最判平10・7・17によると、本人が無権代理行為の追認を拒絶し
 た後に死亡し、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、有効
 になるもではないと解するにが相当であるとした。

  この場合には、本人の追認拒絶により、無権代理行為の無効が確定し
 たからである。Aの相談では、本人が追認拒絶をしないまま にして、
 無権代理人が本人を単独相続した場合、当然有効となるとしたものであ
 り、その違いに注意する必要がある。

 Dの場合には、当然有効になるもではないので、履行を拒絶できる。

   「できます」に該当する。

 

  Eの相談について
               
  
  最判昭63・3・1によると、無権代理人を本人とともに相続した
 者が、その後さらに本人を相続した場合には、その者は本人の資格で
 無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく、本人が自ら法律行為をし
 たのと同様の法律上の地位ないし効果を生じるとしている。

   したがって、Eは、本人の資格に基づいて、追認拒絶できない
  ため、当該無権代理行為は有効になるので、本件土地の意移転登記
  の抹消を請求できない。

  「できません」に該当する。
 
-----------------------------------------------------------------
  
  以上、「できません」に該当するのは、AとEであるから、2が
  正解である。

-------------------------------------------------------------------

 

 ▲ 問題 2


 ★ 総 説  
   
   遺贈とは、遺言者による財産の無償譲与である。

    遺贈には包括遺贈と特定遺贈とがある(964条)。前者は、積極
   ・消極の財産を包括する相続財産の全部またはその分数的的部分ない
     し割合による遺贈であり(たとえば相続財産の2分の1、または4割
     がその例)、後者は、特定の具体的な財産的利益の遺贈である(勁草
     民法3)。

   ★  各肢の検討

   
  ○ 1・2について

   「包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する」ものとされる
  (990条)。したがって、遺言で定められた割合の相続分を有す
   る相続人が一人ふえたと考えればよい(勁草民法3)。

   したがって、遺贈の承認・放棄についても、相続に関する915
  条ないし940条の適用があり、遺贈の承認・放棄に関する986
  条および987条の適用はない。

    包括受遺者=915条1項 であり、肢1は妥当である。

   包括受遺者に適用されない986条は、特定遺贈において適用され
   るので、肢2も妥当である。

 
  ○ 3・5について

   以下は、包括・特定を問わず、遺贈に共通することに注意!

   受遺者は、遺言が効力を生じた時、つまり遺言者が死亡した時に
    生存していなければならない(同時存在の原則)。
   
   遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合には、受遺者たる地位
    の承継(一種の代襲受遺)は認められないから、結局その効力は生
    じない(994条1項)。

   したがって、この場合、受遺者の相続人がその財産を承継すると
    ことはないので、5は妥当でない。

   次に、胎児は遺贈に関してもすでに生まれたものとみなされる
  (965条・886条)ので、胎児に遺贈することができる。

   3は妥当である。

   ☆ 参考事項

    肢5について、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合
   には、受遺者の相続人はその財産を承継しないが、遺言中に
   特に受遺者の相続人に承継を認める旨を表示してあれば、
   (これを補充遺贈という)それに従うということに注意。

    なお、この補充遺贈のない場合には、受遺者が受けるべき
      であったものは、遺贈者の相続人に帰属するのである(99
   5条)。

     (以上は、勁草 民法 3 参照)

  ○ 4について

   本肢は、特定の不動産の遺贈であるから、特定遺贈になる。
   
   以下の判例がある。

   甲から乙への不動産の遺贈による所有権移転登記未了の間
  に、甲の共同相続人の1人の債権者が当該不動産の相続分の
  の差押えの申立てをし、その旨の登記がされた場合、当該債
  権者は、民法177条の第三者にあたる(受遺者は登記なし
  に遺贈を当該債権者に対抗できない。(最判昭39・3・6
  ・・・・・)

   以上の判例に従えば、本肢は妥当である。


------------------------------------------------------------

 本問については、妥当でないのは、5であるので、5が正解である。

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              ★ オリジナル問題解答 《第9回 》 ★

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  【テーマ】  民法
   
    
  【目次】    解説

              
   
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  ▲  問題 1
 

  ★ 総説
                                


 (1)

                  連帯保証→保証人が主たる債務者
                 と連帯することを保証契において
                 約束した場合
   1,000万円
 B---------------→A      
         主たる債務者
                  共同保証→数人の保証人が同一
          C・D     の主たる債務を保証する関係
         連帯保証人
         共同保証人


 (2) 

   C・Dの共同保証人が、連帯保証人でない場合

 

    ◎(1)は、連帯保証と共同保証をからめた問題である。
   これを(2)と比較した場合の検討が本問である。


 ★ 各肢の検討


  ○ 肢アについて

    民法457条は、普通の保証にも連帯保証にも適用されるので
  債務の承認による時効中断の効力(147条3号)は、いずれの
  場合も、保証人C・Dに及ぶ。
 
   主たる債務者に生じた事由は、保証人に及ぶのが原則。
 しかし、時効は各別に進むのが原則。

   そこで、民法は、債権者の立場を考慮して、時効中断の効力は保証
 人に及ぶとして、立法的に解決。
   以上の思考過程は、大切である。
 
    誤り。


 ○ 肢イについて

   保証人に生じた事由は、主たる債務者に影響を及ぼさないのが原則。
 しかし、連帯保証に関しては、458条・434条により、主たる
 債務者に及ぶ。
 
   したがって、普通の保証では、Aに対して、請求による時効中断の
 効力が生じないが、連帯保証では、その効力が及ぶ(民法147条
 1号)。
 
   誤り。
 

 
  ○  肢ウについて

  この問題は、普通の保証、連帯保証を問わず、「保証」の特質から
  論じられる問題。
 
  主たる債務者について生じた事由は、保証人についても効力を生じる
 という付従性の原則からすれば、Aの時効の利益の放棄(146条)の
  効果はC・Dに対しても及ぶようにも思える。

  しかし、時効は各当事者について別々に進行すべきだという原則に照
  らせば、Aが時効の利益を放棄しても、C・Dの債権消滅時効の進行は、
 各別に進行することになる。
  
  判例もまた、以下のとおり判示する。

  主債務者が時効利益を放棄しても、保証人に効力を及ぼさない
    (大判大5・12・25)。

  また、民法448条の法意からすれば、従来の保証人の負担が、
  主債務者の時効利益の放棄により加重されるべきでないといえる。

  したがって、本肢は正しい。

  
 ○ 肢エについて

   その前提として、共同保証人が主たる債務者に対して求償することは
  当然であるので、CがAに求償することは問題ない。

   問題は、連帯保証人間の求償であるが、465条1項(各保証人が
   全額を弁済すべき特約とは共同保証人が連帯保証人でである場合も
   含む取扱である) の適用により、共同保証人間の求償も認めら
  れている。
  
    なお、普通の保証でも、適用条文が異なるだけで、共同保証人
   間の求償が認められている(465条2項・462条)。

   いずれの場合も求償できるので、本肢は正しい。


 ○  肢オについて
 
   普通の共同保証では、各保証人は債務額を全保証人間に平分して
   その一部を保証することになっている(456条)。これを保証人の
   分別の利益という。

   しかし、連帯保証は、この分別の利益を持 たないことを特徴に
   している。

     保証人間に連帯の特約があるとき、主たる債務の目的が不可分な
   ときは分別の利益はない。
   この場合と同様、判例は、連帯保証人が数人あるときも、保証人
   間において、分別の利益を有しないものとした(大判大6・4・28)。

   従って、連帯保証では、Cは1,000万円を返済する義務があるが、
    普通の保証では、分別の利益があるので、平分した額500万円を支払
    えば足りる。

   本肢は誤りである。

 
 《参考事項》

   問題が複雑になるので、ここは飛ばしてもらってもよいが、以下の
   記述に注目せよ!

  連帯保証人が数人ある場合は、各保証人は分別の利益を有しないが、
  保証人間に連帯の特約があるか、商法511条2項の適用がある場合
  でなければ、連帯債務ないしこれに準ずる法律関係は生じない。
  したがって、債権者が保証人の一人の債務を免除しても、他の連帯
  保証人の債務には何の効果も及ぼさないとされる(最判昭和43・11
  15)(勁草書房 2)。(民法437条)


   以上、妥当であるのは、ウ・エであるから、正解は4である。
 

 

 ▲  問題 2
 
  
   ◆ それぞれ長文になっているが、ポイントを押さえれば、正解を導く
   くのは、困難なことではない。各肢について、要点を解説する。


  ◆ 各肢の検討

 
  ○ Aの相談

   時効を援用することのできる者は、時効によって債務を免れた者
  である。これが、本来、民法145条の「当事者」の意味である。

   この当事者について、判例はかつて一般的に狭く解していたが、
  「これらの義務に基づいて義務を免れる者を広く包含する」。
 (勁草書房)
  
  この見地からすれば、物上保証人も、自分の負担する抵当権の
  基礎としての債務の消滅時効を援用して、抵当権を消滅させる
  ことができる(最判昭和42・10・27 最判昭和43・9・26)。

  以上の理解さえがあれば、この問題は正解しうる。

    「できます」に該当する。


 注 関連事項


 (1) 民法166条1項・167条1項により、債権は、権利を
      行使することができる時から10年間行使しないときに時効
   消滅するから、本肢においては、当該債務は、弁済期から
   12年経過になっている。

(2) 民法147条の時効の中断事由があれば、時効は成立しない
    ので、本肢において、その該当事実がないことが記されている。
 

 ○ Bの相談

   民法167条2項によれば、所有権は消滅時効にかからない。
  以上を前提とした下記判決がある

  不動産の譲渡による所有権移転登記請求権は、右譲渡によって生
 じた所有権移転に付随するものであるから、所有権移転の事実が
  存する限り独立して消滅時効にかかるものではないと解すべきで
 ある(最判昭和51・5・25)。

  したがって、私は、知人を相続した乙氏に対して、移転登記を
 求めることはできる。

 関連事項

  同旨判決として、以下のものがある。

  遺留分権利者が減殺請求によって取得した不動産の所有権に基づく
  登記手続請求権は時効によって消滅することはない(最判H7・6・9)。

  これを主題に出題されたのが、平成21年度問題28の「Cの相談」
  である。

  ここで、この判例と「Cの相談」をよく対照されれば、最近の
  本試験の特徴を把握できるであろう。

 
 ○ Cの相談

    本肢は、民法第158条第1項の条文適用問題である。
 
 平成21年11月20日が時効の期間の満了日であるが、その前の
  6箇月以内の間に父に成年後見人がいない。後見人である母が同年
  7月10日死亡したため、後見が終了しているからである。
  この場合には、娘である私が後見人に就任した時から6箇月を
  経過するまでの間は、時効が停止する。私は、同年11月25日
  後見人に就任し、今年の1月20日に返済を求めているから、
 時効停止期間中の返還請求であるから、本肢は「できます」に
  該当する。

 ○ Dの相談

   「Aの相談」と連動する。

  抵当不動産の第3取得者も、自分の負担する抵当権の基礎としての
 債務の消滅時効を援用して、抵当権を消滅させることができる(最
  判昭和48・12・14)
 
 「できます」に該当する。

 その他の解説は、「Aの相談」に譲る。

 ○ Eの相談
 
   本肢は、民法162条1項の取得時効の援用の問題である(民法
145条)。
 
  なお、本肢では、2点に注意すべきである。一つは、土地の時効
 取得者が私に地上権を設定させていたのであるから、162条に
 いう「占有」は、代理占有である(民法181条)
 
  もうひとつは、本肢の中の、これまで紛争になることもなかった
 という記載により、162条の「平穏・公然」が示されている。

   しかし、以上の点は、本肢の前提になっているのであるから、
 実際の本試験では、こだわる必要はない。
 
  本題に移る。

   民法145条の援用の当事者を広く包含するという立場からは、
 以下のように論述される。

 「この見地からは、取得時効につてみると、たとえばAの所有地を
 時効によって取得するBから地上権等の設定を受けたCにはBの
 取得時効の援用権がある。つまり、この場合Bが援用しなければ、
 Cは独自にBの取得時効を援用して、Aに対し、当該の土地の上
 に地上権等を有することを主張できることになる。」(勁草書房)

 
  本肢は、この論述と同じ事案であるから、私は独自に甲氏の取得
 時効を援用して、乙氏の相続人である丙氏に対し、当該土地の上
 に地上権を有することを主張できることになる

 私は土地の明け渡しを拒否「できます」となる。

 関連事項

  この地上権が、賃借権であっても、おそらくは結論は変わらない
 だろう。しかし、平成21年度問題28「Bの相談」のように、
 アパートの賃借となると、時効取得の主張は認められないことに
 なる。

   つまり、当該土地に建物に家を建てた者と当該土地の上に建って
 いる家を借りた者との違いだ!!

   以上のとおり、本問は、いずれも「できます」に該当するので、
 正解は5である。

 ◆ 付言

  いずれについても、素早く事実関係を把握し、論点の抽出・
 ないし適格な条文の適用にに到達しうるよう、日々訓練を行う
 ことが 望まれる。


  ◎ 以上参考書籍 
  
  民法 ・内田 貴 著・東京大学出版会
   
   民法  ・ 我妻栄/有泉亨著・勁草書房

 


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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               ★ オリジナル問題解答 《第7回 》 ★

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                       PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  行政法
   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 行政法・オリジナル問題 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  
 
   問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第93号に掲載してある。

 ★ メルマガ第93回はこちら↓
   http://archive.mag2.com/0000279296/index.htm
 


 ☆サイト第41回・第43回 参照
 ⇒第41回はこちら↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/854713.html

 ⇒第43回はこちら↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/870899.html

 

 ◆  本問の解説


 ○ 肢1について

   審査請求の審査庁が、処分庁の上級庁である場合には、私人の申立
    をまたず職権によっても執行停止をすることができる(行審法34条
  2項)。

   これに対して、審査庁が処分庁の上級庁でない場合およおび裁判所
  の場合には、職権によって執行停止を行うことはできず、申立による
 (行審法34条3項・行訴法25条2項)。
 
   これは、処分庁の上級行政庁である審査庁は、処分庁に対して、一般
  的指揮監督権を有するから、職権に基づく執行停止も一般的指揮権の発
  動として正当化されることに基づく。

   本肢は、妥当である。

  
   ○ 肢2について

   行審法は、審査請求がなされたとき、執行不停止の原則を採用して
  いる(34条1項)。同様に、行訴法もまた、処分取消の提起のとき、
  執行不停止の原則を選択を選択している(25条1項)。
 
   その根拠は、行政処分の公定力に基づく公益重視にある。

   しかし、国税通則法105条1項のように、個別法において、執行
  不停止の原則に修正が加えられている場合もある(過去問2007年
  問15参照)。

   その根拠としては、行審法第1条第2項における「他の法律に特別の
  定めがある」場合に該当する。


     以上の記述に反する本肢は、妥当でない。


  ○ 肢3について

    執行停止の要件は、以下のとおり、審査庁と裁判所の場合で異なって
   いる。

    審査庁の場合は、「必要があると認めるとき」が要件になっている
   (行審法34条2項・3項)。

    裁判所の場合は、処分等の「続行により生ずる重大な損害を避ける
      ため緊急の必要があるとき」が要件になっている
   (行訴法法25条2項)。

      ただし、次の点に注意せよ。

      審査庁の場合にも、「重大な損害」等が掲げられているが(行訴法34
  条4項)、これは、義務的であるための要件である。裁判所の場合が、執
    行停止発動の要件であるのとは、異なる。

   
   執行停止可 ○ 不可 ×
       
 
               審査庁     裁判所
 
 「必要があると認める」    ○        ×

 「重大な損害等」       ○(義務的)   ○(発動の要件)

  以上を総括して、「入門」より、以下の文章を記しておく。

  「行政上の不服申立てのばあいには、争いを裁断するのは裁判所では
    なくて行政機関ですから、不服申立てに対する審査も、いわば、行政
    組織内部でのコントロールとしての性格を持つことになります。そう
    だとすると、取消訴訟のばあいには、司法権としての裁判所の立場上、
    そうかんたんに認められなかった例外としての執行停止も、かなり
    ゆるやかに認めてもよい、ということになるのでしょう。」

     以上の記述に反する本肢は、妥当でない。


  ○ 肢4について

   ここでは 申請拒否処分として、生活保護却下処分をとりあげる。

  裁決によって、当該処分が取消されると、処分庁は、裁決の趣旨に従
 って、生活保護決定をしなければならない(法43条1項・2項)。
   
     それでは、この裁決の前に審査庁が執行停止を行ったら、どうなるか。
 
  処分庁は、生活保護決定を義務付けらるのではないというのが、実際の
  取扱であるから、拒否処分についての執行停止の決定はやっても意味は
  なく、結局、執行停止の申立の利益がないということになる。
  もし、裁決の前に、義務付け(生活保護決定)をさせるためには、仮
  の義務付けを認める必要がある。(以上「読本」参照)
 
   以上の前提知識を基に本肢を検討すると、

  行審法では、仮の義務付けの制度はない。これは、行訴法において規定
 されている(37条の5)。本肢は、行訟法の説明である。
  申請拒否処分に対する審査請求については、仮の義務付けの制度がない
 ため、執行停止の申立の利益がないことになる。
 
 《以上の記述は、やや、こみいっているが、この際、その関係を正確に
  把握しておくべきである》

   以上のとおり、本肢は、妥当でない。


 ○ 肢5について

  執行停止の申立があった場合、内閣総理大臣は、裁判所に対し、異議を
 述べることができるが、審査庁に対しては、異議を述べることはできない。

  行訟法によって、当該異議が認められ、この場合、裁判所は、執行停止
 をすることができず、その決定をしているときは、これを取り消さなけれ
 ばならない(27条1項・4項)。

  しかし、内閣総理大臣の異議という制度は、行政不服審査法にはない。

  以上の記述に反する本肢は、妥当でない。

----------------------------------------------------------------------
  
   肢1が妥当であるので、正解は1である。

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    ☆ 参照書籍

    行政法読本 芝池 義一著・行政法入門 藤田 宙靖著
  /有斐閣
 

 

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         ★ 過去問の詳細な解説  第 94 回  ★

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                      PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  民法
   
    
  【目次】    問題・解説

           
 
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 ■  平成22年度問題45(記述式)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   Aは、Bから金銭を借り受けたが、その際、A所有の甲土地に抵当権が
 設定されて、その旨の登記が経由され、また、Cが連帯保証人となった。
 その後、CはBに対してAの債務の全部の全部を弁済し、Cの同弁済後に、
 甲土地はAからDに譲渡された。この場合において、Cは、Dを相手に
 して、どのような権利の確保のために、どのような手続を経た上で、ど
 のような権利を行使することができるか。40字程度で記述しなさい。
 
  
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  

  ● 図示
                    B 債権者兼抵当権者

         ↓     ↓

    C 連帯保証人    A 債務者兼抵当権設定者

                         甲土地 →  第三取得者 D

 ○ ポイント

    1 連帯保証人Cの債務者Aに対する求償権

    「CはBに対してAの債務の全部を弁済し」たのだから、Cは、
    Aに対して求償権を有する(459条以下・ただし、連帯は問題
       にしなくてよい))。

   2 弁済者CによるBの有する抵当権の行使(500条 ただし、
    Cは≪連帯≫保証人であるから、法定代位になることに注意!
    ・501条本文)

     弁済による代位または代位弁済により、弁済者Cの求償権を
    確実にするため、弁済を受けた債権者Bの有する抵当権を代位
    できるのである。

   3 代位の付記登記

    ア 「保証人の弁済後に第三取得者が生じたときは第三取得者の
         出現前に代位の付記登記をしておかなければ、保証人は第三
         取得者に対して代位できない(501条但書1号・「あらか
         じめ」とはこのような趣旨と解されている)。保証人が弁済
         したから抵当権は実行されないと思って買った第三取得者を
         保護するためである」【後掲 内田民法 参照】。

    イ 弁済の後、付記登記前に、第三取得者を生じたときは、もは
     や代位の付記登記はできない(昭和11・5・19)

    ウ 第三取得者の出現後に保証人が弁済したときは、付記登記は
     不要とされる(昭和41年11月18日)。抵当権付で不動産
         を取得した第三取得者は、もともと抵当権の負担を覚悟してい
     るべきだからである。【後掲 内田民法 参照】。

 

        B Cの代位          時の順序
                 
                 ア 弁済→付記登記→Dの出現
        ↓
                 イ  弁済→Dの出現→付記登記不可

                 ウ Dの出現→弁済→付記登記不要
    C   A  →  D  

    弁済
 

  
  ◎ 本問の解答


      本問の事例は、前記 ○ ポイント 3 イ によれば、付記登記
   不可に該当する。
            ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・
    本問において、「求償権の確保のため、代位の付記登記手続を経た
   ・・ ・・・・・・・・・・・・・・
   上で、抵当権を行使することができる」という解答を求めるならば、
   事例自体を 前記 ○ ポイント 3 ア に変更しなくてはならな
   い。

    つまり、付記登記に関していえば、
    
    Cの弁済後に、甲土地がAからDに譲渡される前に、Cはどのよう
   な手続きを経る必要があるかということが問われなくてはならない。

    もし、

     弁済後、第三取得者Dが出現すれば、この後、付記登記はできないの
    だから、付記登記は、Dの出現前に行うことは当然の前提であるという
       のであれば、正解は前述した、・・・・・・・ということになる。

    しかし、
   
    前述したように、時の順序は本問では重要な論点であるのに、これを
   無視した出題には疑問が残る。また、本問では連帯保証となっているの
   にこれが利いておらず、連帯に特有な論点がないことにも疑問が残る。

 

 ★ 参考文献

  民法三 内田 貴 著・東京大学出版会
   
    民法 2 ・ 我妻栄/有泉亨著・勁草書房
  
 

 

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      ★ 過去問の詳細な解説  第93回 ★

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 【テーマ】 行政法 

   
  【目次】   問題・解説

           
   
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 ■ 平成22年度 問題44(記述式)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  
  Y組合の施行する土地区画整理事業の事業地内に土地を所有していたX
 は、Yの換地処分によって、従前の土地に換えて新たな土地を指定された。
  しかし、Xは、新たに指定された土地が従前の土地に比べて狭すぎるた
 め、換地処分は土地区画整理法に違反すると主張して、Yを被告として、
 換地処分の取消訴訟を提起した。審理の結果、裁判所は、Xの主張のとお
 り、換地処分は違法であるとの結論に達した。しかし、審理中に、問題の
 土地区画整理事業による造成工事は既に完了し、新たな土地所有者らによ
 る建物の建設も終了するなど、Xに従前の土地を返還するのは極めて困難
 な状況となっている。この場合、裁判所による判決は、どのような内容の
 主文となり、また、このような判決は何と呼ばれるか。40字程度で記述
 しなさい。

 

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 ■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  

  ○ 参考文献

 「行政法入門」 藤田 宙靖著 ・「行政法読本」 芝池 義一著
  
  いずれも有斐閣発行

 ◆ 行政事件訴訟法・条文

  (特別の事情による請求の棄却)
  第31条 取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、
  これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合に
  おいて、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程
  度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取
  り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、
  請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文に
  おいて、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならな
  い。

    2項以下省略

 ★ ズバリ、本問の解答

  1 問題文の事例が、この条文の要件に該当することを素早く見抜く。

  2 この条文に基づいて行われる判決のことを「事情判決」という。

  3 条文から本問に関連する箇所を抜粋すると、「請求を棄却」・
   「当該判決の主文において、処分・・・が違法であることを宣言」
   となる。

    1・2・3を総合すると、
                      ・
   条文の処分を「換地処分」と具体的に言い換えて、設問に答えると、
  
   ◎ 主文では、換地処分が違法であることを宣言し、請求を棄却する。
     この判決は、事情判決という。  

     44字。

  
 ☆ 「事情判決」の知識を明確にするため、前記○ 参考文献「入門」
   から抜粋

   (事情判決)とは、裁判所が、行政処分が違法であることを認め
  めながら、行政処分を取り消すことが公共の福祉に適合しない場合
  に、原告の請求を棄却するという判決である。従って、請求棄却判
           ・・
  決の一種であるが、特殊なものである。行政事件訴訟法31条に規
  定がある。 ー中略ー     この事情判決は、行政処分が違法
  であるけれども公共の福祉のためにそれを取り消さないもので、も
     ・・・                       ・
  ともと例外的な制度であるから、事情判決が行われることはそう頻
  ・・・・・・・・・・
  繁にあるわけではない。

  《藤本 加入・ ここから著者は、ズバリ、本問の事例説明に相当
   する内容を展開されている。》

   事情判決が行われる一つのケース土地区画整理事業である。
   土地区画整理事業とは、街づくりの一つの方法で、一定の地域にお
  いて、土地の区画を整理することを本来の目標とするものである。そ
  の過程で換地処分というものが行われる。これにより、例えばAさん
  は、それまで持っていた土地とは別のところに土地を取得することに
  なる。Aさんがこの換地処分に不服があり、取消訴訟を提起したとす
  る。その後、判決までに何年かの時間がかかることがあるが、その間、
  土地区画整理事業を終えた土地で新しい街づくりが進んでいることで
  あろう。その場合、裁判所が、Aさんに対する換地処分が違法である
  と考えても、もしその換地処分を取り消すと、せっかく進んでいる街
  づくりをご破算にしなければならない。そのようなことはあまりにも
  もったいない、公共の福祉に適合しないと考えると、裁判所は、事情
  判決を下すことが許されるのである。


 △ 参考事項

  憲法問題

  最大判昭和51年4月14日判決によれば、衆議院議員定数不均衡事
 件において、「・・約5対1の較差は、・・選挙権の平等の要求に違反
 すると判断し、配分規定は全体として違憲の瑕疵を帯びる、と判示した。
 しかし、選挙の効力については、選挙を全体として無効にすることによ
 って生じる不当な結果を回避するため、行政事件訴訟法31条の定める
 事情判決の法理を『一般的な法の基本原則に基づくもの』と解して適用
 し、選挙を無効とせず違法の宣言にとどめる判決を下した」(芦部信喜
 著・岩波書店 参照)。

  
 ▲ 付 言

 1 本問は、前記抜粋の文章にもあるように、特殊・例外的・頻繁でな
  いこと等からすれば、普段の勉強では軽視しがちな分野かもしれない。
   抗告訴訟を正面から問う出題からみれば、支流に属するのかもしれ
  ない。

 2 「事情判決」に焦点を合わせた準備をしていれば、容易に正解が導
     きだされたとは思うが、この論点を外せば、お手上げという向きも
     あるかもしれない。

  3  しかし、参考事項にもあるように、憲法問題としても、重要なテー
  マであるから、お手上げではすまされないかもしれない。

 4  市販の「直前模試」の類をみると、ズバリこの問題が、記述式とし
   て呈示されているところからすれば、試験委員の手の内が読まれてい
   た可能性もあろう。

  

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        ★ 過去問の詳細な解説  第 91 回  ★

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                         PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  民法
   
     ー過去問に関して、登記にまつわる諸問題・その2−
     
     平成10年度以降の登記のからむ肢を順次とりあげ、解説を行い
   ます。本試験準備の有力な武器になることを祈念します。

    
 
  【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
      現在、販売されている 行政書士試験直前予想問題【平成22年度版】
    につきましては、現在もなお、たくさんの方々に購入頂きつつあり、深
   謝いたしております。

 

   ◆藤本式直前行政書士試験予想問題【平成22年度版】はこちら!
           ↓↓↓
  http://www.examination-support.com/2010/

 

      私といたしましては、来るべき本試験と類似する良問に絞った選りす
   ぐりのオリジナル問題を作成・呈示させていただいたつもりであります。

    ひとりでも多くの方が、本誌を活用されることにより、本年度の試験
   に合格されることを祈念いたします。
 


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
■  問題集(過去問の出典は省略)・○×を付すること

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 1 A所有の甲地がBに売却され、さらに善意のCに売却された後、AB
  間の売買契約が詐欺を理由に取り消された場合、Aは登記なくしてCに
   取消しを対抗することができる。(  )
  
 2 A所有の甲地がBに譲渡されたが甲地には賃借人Cがいた場合、Bは
  登記なくしてCに対抗することができる。(   )

 3 A所有の甲地がBに譲渡されたが甲に不法占拠者Cがいた場合、Bは
  登記なくしてCに対抗することができる。(    )

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
■  解説集(判例に関しては、三省堂発行の平成22年度 模範六法
       から引用≪模 、、条1、2、3・・・で表す≫)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ◎ 1について

  民法96条3項によれば、詐欺による意思表示の取消しは善意の第
 三者に対抗できないのであるから、Aは登記の有無にかかわらず、C
 に対抗できない。   ×

 ◆ 発展問題

 a 詐欺による取消しに際して、Cが第三者として保護されるためには
  登記を要するか。ここで問題になるのは、対抗要件としての登記では
  なく、資格要件としての登記であることに注意する必要がある。

   もし、この資格要件としての登記を要するということになればどう
  なるか、皆様、よく考えて欲しい。Aが詐欺による取消しを理由にB
  の登記を抹消して自己に回復すれば、もはや、Cは自己に登記を移転
  できないのだから、善意の第三者であるCは保護されない。
   したがって、この場合、AはCに登記がないことを理由にCに対し
  取消しを対抗できることになる。

   「登記必要説の根拠は、96条3項は詐欺にあった被害者の犠牲に
  において、取引安全のため善意の第三者を保護しようというのである
  から、保護される第三者は、権利の確保のためになしうることを全て
  して、ほぼ確定的に権利を取得したといえる程度まで達している必要
  があるのではないか、特に、第三者より先に表意者が登記を回復して
                  (注)
  しまったような場合、いくら善意・無過失の第三者でも、その登記の
  抹消まで要求することを認めるのは行き過ぎではないか、という判断
  である。」(内田 民法一)
 
    なお、一般には、判例(最判昭和49年9月26日)は、登記不要
     説に立っているいるとされるが、内田氏は、登記を不要とする当該判
   決の説示には、事案の関係から、先例としての価値に疑問を呈してお
   られる(前掲書)。

    最後に、当該説に立っても、本肢において、「 Aは登記なくして
   Cに取消しを対抗することができる。」とするのは、×である。
  
   注 内田説によると、96条3項の「規定も権利外観法理の一環で
   あるから、94条2項の解釈論と同様、無過失を要求すべきだろ
   う。」とされる。


      ★ 参考事項

    民法545条1項によれば、解除にも第三者保護規定が設けられて
   いるが、判例によれば、第三者が保護されるには登記を要するとされ
   ていることに注意!!(最判昭33・6・14 摸545条 13)。

 
  b  AB間の売買契約が詐欺を理由に取り消された後に、Bが善意のCに
  売却した場合には、Bを起点とする二重譲渡があったのと同じであるか
  ら、対抗問題となり、登記の先後で優劣を決するのが通説判例である
  (大判昭17・9・30 96条 3・177条 3)。

  しかし、現在では、94条2項類推説が有力に主張されているため、
 むしろ、この説の方が通説とも言えることに注意する必要がある。

  当該論点に立脚したオリジナル問題を末尾に掲げておく。

 
 ◎ 2について 

   他人に賃貸している土地を譲り受けた者は、その所有権の取得に
  つき登記を経ない限り、賃料不払いによる解除を賃借人に主張する
  ことはできない。(最判昭49・3・19 摸六 605条 9)
   
   土地の賃借人として賃借上に登記ある建物を有する者は、その
  土地の所有権の得喪につき、本条の第三者にあたる。(大判昭8・
  5・9 前記判例 177条 22)

   いずれの判例に照らしても、本肢において、Bは登記なくして
  賃借人Cに対抗できないという結論になる。 ×


   ★ 参考事項

   後の判例における「土地の賃借人として賃借上に登記ある建物
  を有する者」に注目されたい。

   民法605条によれば、不動産賃貸借の対抗力として登記を要
  する。したがって、旧所有者から賃借した者が新所有者に当該賃
  借権を対抗するためには、登記を要する。

   しかし、 

   建物保護法によると、土地の上に登記した建物を有するときは、
  土地の賃貸借はその登記がなくても、これをもって第三者に対抗
  することができる(このあたりまでは、本試験の射程距離だ!!)。

   以上のとおり、賃借人側から新所有者に対抗できるのかという
  視点から捉えると、賃借人に土地の賃借権の登記もなく、賃借上
  の建物の登記もない場合は、新所有者に賃借権を対抗できない。
   
   この場合、本肢3でいえば、対抗力としての登記を有しない賃
  借人Cは、民法177条の第三者にあたらないことになるので、
  Aは登記なくしてCに対抗できることになる。本肢では、Cが
  対抗力を有していることが前提になっているのだろう。

   
  
  ◎ 3について 

    何らの権原なく不動産を占有する不法占有者は、本条にいう
  「第三者」に該当せず、これに対しては登記がなくても所有権
   の取得を対抗しうる。(最判昭25・12・19 摸六 177
   条  21)

    当該判例に照らせば、本肢は○

  ★ 関連事項

  
   平成21年度記述式問題 46から。

   XはA所有の甲建物を購入したが未だ移転登記は行ってはいない。
  現住甲建物にはAからこの建物を借り受けたYが居住しているが、
  A・Y間の賃貸借契約は既に解除されている。XはYに対して建物
  の明け渡しを求めることができるか。

   【解説】

   本問におけるYは、本肢3における不法占拠者Cとは異なるが、
  賃貸借契約が解除された後も建物を占有する者であるから、前記
  判例に照らせば、何らの権原なく不動産を占有する不法占有者に
  該当するため、、民法177条にいう「第三者」に該当せず、こ
  れに対しては登記がなくても所有権の取得を対抗しうることにな
  る。

   従って、XはYに対して建物の明け渡しを求めることができる。

   本問は、記述式の解答として、判例によれば、「第三者」の
  範囲をどのように定義しているかを40字程度にまとめる作業を
  求めるものであった。

   判例(大連判明41・12・15 摸177条 20)は、
  以下のように判示する。

   本条(民法177条)の第三者とは、当事者もしくはその包括
  承継人ではないすべての者を指すのではなく、不動産物権の得喪
  および変更の登記欠缺を主張するにつき正当の利益を有する者を
  いう。

   従って、正解は、以上の文言を40字程度で表現して、呈示
  することなのであった。必ずしも容易な作業ではない。
  
   「不動産物権の得喪および変更の登記欠缺」という言葉が、手
   元に資料のない状態においては、すっとはでてこないであろう。

   一例を示せば、以下のような表現では、どうであろうか。

   第三者とは、不動産物権変動の登記を欠いていることを主張
   するのに正当な利益を有する者  
          
    41字
   


  ★  末尾 

  《問題》

   AからBに不動産の売却が行われた後に、AがBの詐欺を
 理由に売買契約を取り消したにもかかわらず、Bがこの不動
 産を善意のCに転売してしまった場合において、第三者 (C)
 の取り扱いについては、二つの立場がある。

  甲説(判例の考え方)

  「民法177条の対抗問題の視点を導入する立場」

  乙説(判例に反対する考え方)

  「民法94条2項の類推適用という手段を導入する立場」

   次の記述のうち、乙説の考え方に立つものの組み合わせ
 はどれか。

 
 ア Cがさきに登記をすれば、Aに優先する。

 イ Cが保護されるためには、登記は不要である。
 
 ウ  第三者(C)の善意・悪意や過失の有無を考慮した
   きめこまやかな調整ができる。
 
 エ Aの取り消しの時点で、BからAに所有権の復帰
    があったかのように扱うことができる。

 オ  取り消しによる復帰的変動というのは擬制であって、
  取り消しの効果である遡及効に適合しない。


 1 ア・イ・ウ   
 
 2 イ・ウ・エ   
 
 3 イ・ウ・オ

 4 ア・オ

 5 イ・エ

 
 《解説》

   この事例は、取り消し後の転売ですから、AとCは対抗関係に
  立つというのが、甲説です。
 
    しかし、近時の有力説(乙説)は、94条2項の類推適用説を
 採用します。

      売却  登記   転売
   A−−−−−−B−−−−−−C
      取り消し    94条2項
      121条    登記の外観を信頼した
     初めから無効   第三者保護

  AとBに通謀があったとは言えないため、虚偽表示が適用される
 事例とは言えませんが、「取消後に放置された実体関係に合わない
 登記の外観を信頼した第三者保護」という「権利外観法理」に従っ
 て、94条を類推適用をしようというのが、その主張の骨子です。

  以上のとおり、甲説が前者の対抗関係説ともいうべきものであり、
 後者が乙説の94条2項の類推適用説であることが明らかになりま
 した。

 

 アについて。

 AとCと先に登記した方が優先するというのは、
 「対抗問題」の甲説です。

 イについて

  94条2項の善意の第三者として保護されるには、登記
 を要しないというのが通説です。これは、乙説です。

 ウについて。

  94条2項には無過失は要求されていませんが、権利外観法理
 に従えば、無過失であることを要する、などの議論があります。
 これは、乙説です。

 エについて。

   このように、所有権の復帰(移転)があったと扱うことに
 を前提にした場合に初めて対抗問題とすることができる。
 甲説の立場です。

 オについて。

   取り消しの効果である遡及効(始めから無効)を前提にする
 のは、94条類推適用の乙説です。
 
 
 したっがて、乙説は、イ・ウ・オであり、正解は3です。

 

  ★ 参考文献

  民法 一 内田 貴著  東京大学出版会 発行 

 

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   近時の民法の問題は、難化傾向にありまた事例問題としての出題である
  ため複雑化しているので、本講座においても、過去問の各肢を素材に応用
 力を養成するようにこころがけた。

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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 【E-mail】<fujimoto_office1977@yahoo.co.jp>
 
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       ★ 過去問の詳細な解説  第90回  ★

           =90回達成記念号=

       皆様に励まされて、ここまで到達いたしました。

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  【テーマ】 民法
   
     ー過去問に関して、登記にまつわる諸問題・その1ー
     
     平成10年度以降の登記のからむ肢を順次とりあげ、解説を行い
   ます。本試験準備の有力な武器になることを祈念します。

    みなさま各人が工夫を凝らした勉学を進めるための一助となる当
   サイトもまた、独自性が求められることは当然であると思料されま
   す。 
 

  【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】      

      現在、販売されている 行政書士試験直前予想問題【平成22年度版】
    につきましては、現在もなお、たくさんの方々に購入頂きつつあり、深
   謝いたしております。

      私といたしましては、来るべき本試験と類似する良問に絞った選りす
   ぐりのオリジナル問題を作成・呈示させていただいたつもりであります。

    ひとりでも多くの方が、本誌を活用されることにより、本年度の試験
   に合格されることを祈念いたします。

 

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■  問題集(過去問の出典は省略)・○×を付すること

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 1 権利能力なき社団Aが不動産を買い受けた場合において、Aは、法人
  に準じて扱われるので、登記実務上、A名義の登記が認められる。(  )

 2 AがBに対しAの所有する不動産を売却した後に、同不動産を重ねて
  Cにも売却した場合において、B、Cのうち、同不動産の引渡しまたは
  登記の移転を先に受けた方がその所有権を取得する。(  )  
  
 3 AがB所有の土地をCに売却した場合、
  
     所有権者Bが自らA名義で登記をして虚偽の外形を積極的に作出し、
  そのまま放置していた場合には、Bは、Aを所有者だと信頼して買っ
  たCに対抗できない。(  )

 4 A所有の甲地につきBの取得時効が完成した後に、Aが甲地をCに
   譲渡した場合、Bは登記なくしてCに対抗できる。(  )
 
 5 A所有の甲地がBに譲渡され、さらにAB間の譲渡の事実を知って
  いるCに譲渡されてCに所有権移転登記がされた場合、Bは登記な
  くしてCに対抗することができる。(  )

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
■  解説集(判例に関しては、三省堂発行の平成22年度 模範六法
       から引用≪模 、、条1、2、3・・・で表す≫)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 1 最判昭47・6・2・・権利能力なき社団の資産たる不動産について
  は、社団の代表者が、社団の構成員全員の受託者たる地位において、個
  人の名義で所有権の登記をすることができるにすぎず、社団を権利者と
  する登記をし、または、社団の代表者である旨の肩書を付した代表者個
  人名義の登記をすることは、許されないものと解すべきである(摸33
  条5)。  ×
  
   なお、前記判例は、次のように判示していることにも注意せよ!

   権利能力なき社団の資産たる不動産につき、登記簿上所有名義人
  となった代表者がその地位を失い、これに代わる新代表者が選任さ
  れたときは、新代表者は、旧代表者に対して、当該不動産につき自
  己の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求めることができ
  る(同じく摸33条5)。


  2 民法177条によれば、不動産に関する物権の変動の対抗要件は、
  登記である。引渡しは、対抗要件にならない。 ×

  3 民法94条の虚偽表示に該当するには、相手方と通謀することを要
  するが、不動産の真実の所有者がBであるにもかかわらずBの意思に
  基づいてA名義の登記がなされている場合、この不実の登記につきA
  の承諾がなくても本条が類推適用されるというのが、判例(最判昭
  45・7・24 同旨最判昭50・4・25)である。
   したがって、同条2項の適用により、Bは、Aを所有者だと信頼し
  た善意の第三者Cに対抗できない(摸94条23)。  ○

   なお、前記判例は、以下のように判示していることに注意。

   Aから当該不動産を悪意で譲り受けた丙は保護されないが、丙から
  さらに当該不動産を譲り受けた丁は当該不実の登記につき善意である
  限り本条2項の第三者として保護される。

   これは、権利外観法理の現れとして、登記に限らず、権利の外形を
  信頼した第三者の保護一般について問題となること注目すべきである。

 4 CがBの時効完成前に譲渡を受けた場合には、BとCは当事者の関
  係 に立ち、CがBの時効完成後に譲渡を受けた場合には、両者は、
  対抗関係に立つというのが、判例の考え方である(最判昭41・11・
  22 最判昭42・7・21 摸177条 12・14)。

   本肢では、BとCは後者における、対抗関係に立つので、民法177
  条により、Bは登記がなければCに甲地の所有権を対抗できない。

   ×
  
   末尾において、本肢に関連する○×問題を掲げておく。

  5  判例は古くから、177条の第三者は悪意者でもよいとしている
   から、登記がなくては対抗できない者に悪意の第三者を含むとして
   いる。したがって、Bは登記なくしてCに対抗できない。×

    なお、背信的悪意者については、末尾エ 参照。


  
  ◎ 末尾


  ア A所有の甲地につきBの取得時効完成前において、CがAから甲地を
        譲受けて移転登記を経由した場合、Bは時効完成後において、登記なく
        してCに対抗できない。(  )

    イ A所有の甲土地につきBの取得時効が完成し、その間にAの側に何ら
       変動がなければ、Bは登記なくしてAに対抗できる。(  )

    ウ A所有の甲地につきBの取得時効完成前において、CがAから甲地を
        譲受けて所有権を取得し、Bの時効完成後に移転登記を経由した場合、
        Bは登記なくしてCに対抗できない。(  )

    エ A所有の甲地につきBの取得時効が完成した後に、CがAから甲地を
        譲受けて移転登記を経由した場合、Cが背信的悪意者にあたる場合は、
        Bは登記なくしてCに対抗できる。(  )

  
  《解答》


   ★  アについて

   前記判例理論によれば、B・Cは当事者の関係に立つので、Bは
  登記なくして、Cに対抗できる。  ×

  ★ イについて。
 
   土地の占有者Bの側に、たとえば162条の1項の要件が備わり、その
  間、所有者Aの側に何らの変動がなければ、Aは第三者ではないから、B
  は登記がなくてもAに対して所有権の取得を主張し、移転登記の請求がで
  きる。

  A・Bは当事者の関係に立つので、当然だともいえる。

   ○
 
  ★ ウについて。
 
    アの肢では、時効完成前に所有権を取得し、移転登記も経由した場合
  であるが、この肢では、時効完成後に移転登記を経由した場合である
 
  どのように考えるべきであろうか。

  この場合には、CがBの時効完成前に所有権を取得した時点において、
  BとCは当事者の関係に立つのであり、時効完成後にCが登記をした
 からといって、BとCが対抗関係に立つと考えるべきではない。

  不動産の時効取得者は、時効完成後に登記を経由した当該譲受人に登記
 なくして、所有権を対抗しうるとする判例がある(最判昭和42・7・21
 摸177条 13) 
 
  したがって、BはCに対し、登記なくして所有権を対抗できるのであり、
  
  ×

  ★ エについて。

  所有権の移転を受けたと同視される時効取得者と所有権の移転を受けて
 登記を備えた者が対抗する場合であるから、177条の適用により「背信的
 悪意者」論がもちだされて、当然と言えるのかもしれない。

  Cが 背信的悪意者であれば、Bは登記なくしてCに対抗できる。
 
  これについても判例があり、判例は、背信的悪意者を以下のように
  捉えている。

 (最判平成18・1・17摸177条 35 162条 38)

  BとCを登場させる。

  Cが、当該不動産の譲渡を受けた時に、Bが多年にわたり当該不動産
 を占有している事実を認識しており、Bの登記の欠缺を主張すること
 が信義に反するものと認められる事情が存在するときは、Cは背信的
 悪意者にあたる。

  したがって、本肢は、Bは登記なくしてCに対抗できる場合に
 あたる。

   ○

 

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         ★ 過去問の詳細な解説  第 84  回  ★

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  【テーマ】 会社法 

    【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
     本年9月末頃を目途に、過去問の分析に加え、近時の傾向も取り
  入れた「オリジナル模擬試験問題」(有料)を発行する予定をして
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     とくに、関連部分に言及した解説にも力を込め、よりよいものを
   目差して、目下準備中です。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 平成18年度・問題38
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
   株主総会に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当
 でないものはどれか。

 1 招集権者による株主総会の招集の手続を欠く場合であっても、株主
   全員がその開催に同意して出席したいわゆる全員出席総会において、
   株主総会の権限に属する事項について決議したときには、この決議は
   株主総会の決議として有効に成立する。

 2 株主総会において議決権を行使する代理人を株主に限る旨の定款の
   規定は、株主総会が第三者により撹乱されることを防止して、会社の
   利益を保護する趣旨にでた合理的理由による相当程度の制限であって、
   有効である。

 3 株主は、自己に対する株主総会の招集手続に瑕疵がなくとも、他の
   株主対する招集手続に瑕疵がある場合には、株主総会の決議取消の訴
   えを提起することができる。

 4 株主総会の決議取消しの訴えを提起した場合において、その提訴期
  間が経過した後であっても、新たな取消事由を追加して主張すること
   ができる。

 5 株主総会の決議の内容自体に法令または定款違背の瑕疵がなく、単
   に決議の動機または目的において公序良俗に反する不法がある場合は、
  その株主総会の決議は無効とならない。  
   

 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ☆ 参照書籍

     会社法   神田 秀樹著   弘文堂

 ◆ 各肢の検討

  
  ○ 1について

    株主総会は、取締役が株主を招集して開催する(296条3項)。

    ただし、最判昭和60・12・20・・によれば、本肢で記述さ
   れている「全員出席総会」(代理人でも可とされていることに注意)
     おいては、招集の必要はないとされた。

    したがって、当該決議は、株主総会の決議として有効に成立する
      ので、本肢は妥当である。

    ★ 関連事項

     平成14年改正は、議決権を行使できる株主全員が同意した
 場合には、招集手続なしで開催できることを明文で認め、会社
        法もこれを引き継でいる(300条本文。なお同ただし書)。
    《前掲書》
 

  ○ 2について

   株主は代理人により議決権を行使できる(310条1項前段)。

   多くの会社では、定款で代理人の資格を株主である旨を限定し
    ているが、最判昭和43・11・1・・は、本肢で記述されてい
  る合理的理由があるとして、代理人を株主に限るという定款の規
  定は、有効であるとした。

   したがって、本肢は、妥当である。

   ★ 関連事項

    次の判例にも注意!

    定款で議決行使の代理人資格を株主に限定している会社が、
      株主である地方公共団体または会社の職員または従業員に議
      決権を代理行使させても、違法ではない(最判昭和51・
   12・24・・・)。

    次の点と混同しないように!!

    定款で取締役の資格を株主に限定することはできない[公開
     会社は別](331条2項)。

 
  ○ 3について

    株主総会の招集通知もれは、831条1項1号により、株主総会
   の決議取消の訴えの取消事由になる。

   招集通知が他の株主になされず自分に来ている場合に取消しの訴
    えを起こせるかについては、株主は自分にとっての瑕疵だけを問題
    にできるとしてこれを否定する見解も有力であるが、これを肯定す
    るのが多数説・判例である(最判昭和42・9・28・・・)。
  (前掲書)
   

   以上の記述に照らせば、本肢は、妥当である。

 
  ○ 4について

   判例(最判昭和51・12・24・・)株主総会決議取消しの訴え
    を提起した後、831条1項の期間経過後に新たな取消事由を追加主
    張することは許されない。

   本肢は、以上の判例に反するので、妥当でない。

  
  ○ 5について

   830条2項の決議無効確認の訴えの無効事由については、本肢の
    記述どおりの判例がある(最判昭和35・1・12・・)。

   本肢は妥当である。


   ---------------------------------------------------------

       以上、妥当でないのは、4であるから、4が正解である。
   

   ---------------------------------------------------------

  注・判例に関しては、判決時期からして、旧商法の条文が該当する
    が、すべて会社法の該当条文を掲げた。

 


 ◆ 付 言

  
  すべての判例について、正確な知識がなくても、各肢の比較衡量に
  より正解を導くことができるだけの「会社法」の素養を身に着けてお
  きたい。

  そのためには、過去問等の各肢を検討しながら、できるだけ多くの
 問題に接することが大切である。おそらくは、その過程において、
  素養を獲得できると思う。

  あわただしい、条文の走り読みや薄い教科書の通読だけでは、会社
  法の膨大な量からして、点数を稼ぎだすのは困難かもしれない。 
 
 


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          ★ 過去問の詳細な解説  第83回  ★

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  【テーマ】 民法 

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 平成21年度 問題 29
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  
    Aに対して債務を負うBは、Aのために、自己が所有する土地に抵当
  権を設定した(他に抵当権者は存在しない)。この場合における抵当権
  の消滅に関する次のア〜オの記述のうち、民法の規定および判例に照ら
  し、妥当なものの組合せはどれか。

  
  ア  Aの抵当権が根抵当権である場合において、Bが破産手続開始の
     決定を受けたときは、被担保債権は確定して満足し、根抵当権は確
     定的に消滅する。

 イ Aの抵当権が根抵当権である場合において、元本が確定した後に、
  Bから土地の所有権をCが、極度額に相当する金額をAに支払い、
  根抵当権の消滅請求をしたときは、確定した被担保債権の額が極度
    額を超えていたとしても、Aの根抵当権は、確定的に消滅する。

  ウ BがAに対し、残存元本に加えて、最後の2年分の利息および遅
  延損害金を支払った場合には、Aの抵当権は、確定的に消滅する。

  エ  第三者Cが、土地の所有権を時効によって取得した場合には、A
    の抵当権は、確定的に消滅する。

  オ  第三者Cが、BのAに対する債務の全額を弁済し、その弁済と同
    時にAの承諾を得ていた場合には、CはAに代位することができる
    が、抵当権は、確定的に消滅する。

 
  1 ア・ウ

    2 ア・エ

  3 イ・エ

  4 イ・オ

  5 ウ・オ

 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ☆ 参照書籍

    民法 1 勁草書房


--------------------------------------------------------------
      A

   ↓  抵当権
  
   土地 B所有
---------------------------------------------------------------

  
 ◆ 各肢の検討

  
   ● 肢アについて

      民法398条の20第1項第4号によると、当該事由は、根抵当権
    の元本の確定事由となる。

     本件根抵当権の債務者であり、根抵当権設定者であるBが破産手続
   開始の決定を受けているからである。

   しかし、その効果として、根抵当権が確定的に消滅するのではない。

  「根抵当権の確定とは、その時点において存在する元本だけが担保
   され、その後に生ずる元本は担保されなくなること、根抵当権が
   いわば流動性を失い特定の債権を担保するものとなることである。」
  (前掲書)。

     本肢は、妥当でない。

  ● 肢イについて  
 
    民法第398条の22第1項の規定する根抵当権の消滅請求のとおり
   であり、妥当である。

  
    ☆ 参考事項
  
    本肢は第三取得者の例であるが、同条同項によれば、他に物上
   保証人・賃借権を取得した者も消滅請求できる。

   それでは、次の場合はどうであるか。

    AがBに対し、根抵当権を設定する以前において、Bから当該土
    地を賃借したCが、その土地の上に登記した建物を有しているとき
  は、元本確定後、消滅請求できるか。

   この事例は、同条同項で規定される「第三者に対抗することがで
   きる賃借権を取得した第三者」に相当するので、消滅請求可である。
 
   建物保護ニ関スル法律によると、土地の賃借人がその土地の上に
   登記した建物を有するときは、土地の賃借権はその登記なくても、
   これをもって第三者に対抗できるのである。

    この建物保護法までは、射程距離であろう。

         
   ● 肢ウについて
 
     民法375条の規定は、後順位者に対して、優先弁済を主張する
  場合の制限であるから、他に抵当権者が存在しない本肢の場合には、
    最後の2年分の利息および遅延損害金に限らず、残存元本に加えて、
  全額を弁済しなければ、Aの抵当権は確定的に消滅しない。

   本肢は妥当でない。

   これは、設問の(他に抵当権者は存在しない)という記述が、
   伏線として、きっちりと利いている。


   ● 肢エについて

    民法397条によれば、債務者または抵当権設定者以外の者が、
   抵当不動産について取得時効に必要な条件を具備する占有をした
   ときは、抵当権はこれによってこれによって消滅する(前掲書)。

   したがって、第三者Cが土地の所有権を時効によって取得した
  場合には、Aの抵当権は、消滅する。

   本肢は、妥当である。

   なお、以下の記述に注意。

     抵当権が消滅するのは、「取得時効は原始取得として完全な所有権
   を取得させるものだからである。債務者および抵当権設定者について
   この原則を制限したのは、みずから債務を負担し、またはみずから抵
   当権の負担を受けた者について取得時効による抵当権の消滅を認める
   のは不穏当だからである」(前掲書)。

   したがって、債務者が物上保証人所有の不動産を時効取得したと
   したとしても、抵当権は消滅しない。

  ☆ 参考事項

   その他、抵当権が独立に時効消滅する例として、次のオリジナル
  問題の肢と解答を参考にされたい(有料メルマガから転載)。

  (事例は本問と同様)

   Aの債権が、時効中断により20年経過しても消滅時効にかから
  ない場合、Bから土地の所有権を取得したCが、20年後に抵当権
  の消滅時効を援用したときは、抵当権は確定的に消滅する。

   ≪解説≫

  Aの債権が、10年で時効消滅すれば(民法167条1項)、
 これを担保するAの抵当権も消滅する。しかし、時効中断により
 (民法147条)20年以上に時効期間が延びた場合、396条
  の適用を受ける。
 
   その解釈としては、以下のように解される。
 
    債務者・抵当権設定者以外の抵当不動産の第三取得者・後順位抵当権者
   との関係では、抵当権は債権から独立して20年の消滅時効にかかる。
  (大判昭和15・11・26)
  
   20年の根拠は、民法167条2項。
 
   本肢では、Bは第三取得者に該当するので、本肢は正しい。

   
  ● 肢オについて

     本肢では、Cは、弁済と同時にAの承諾を得ているので、民法49
     9条 により代位できる。
 
     弁済による代位の効果として、その債権の効力および担保として
   債権者の有する一切の権利が、求償権の範囲内において、代位弁済
     者に移転する(民法501条)。

     したがって、本肢では、Aの抵当権は、Cに移転するので、確定
   的に消滅しない。

       本肢は妥当でない。

      なお、「弁済をするについて正当な利益を有する者」の弁済の場合
  には、債権者の承諾を得なくても当然に法定代位をする(民法500条
  ・同499条参照)ことにに注意。

     したがって、たとえば物上保証人・抵当不動産の第三取得者・
  保証人・連帯保証人などについては、債権者の同意がなくても代位
  する。

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   妥当であるのは、イとエであるから、正解は、3である。

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 ◆  付 言

    本問では、設問によれば「・・判例に照らし」となっているが、
  いずれの肢も、条文の忠実な解釈によって、正解が得られる。

 

 


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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 【E-mail】<fujimoto_office1977@yahoo.co.jp>
 
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