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★ 【過去問解説第101回 】 ★
ワンポイント・レッスン その2
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PRODUCED BY 藤本 昌一
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【テーマ】 行政法/行政処分 その3
★ 本試験では、瞬時にポイントを掴み、正解を
導くことが要請されるので、今回は、そのポイ
ントに絞り込み、コンパクトに解説するように
試みた。
★ ただし、後半部分の各肢の検討では、詳細な
解説もおこなった。
【目 次】 過去問・解説
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■ 平成22年度・問題16
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(1)平成22年度・問題16
次のア〜オの訴えのうち、抗告訴訟にあたるものの組合せはどれか。
ア 建築基準法に基づき私法人たる指定確認検査機関が行った建築確
認拒否処分の取消しを求める申請者の訴え。
イ 土地収用法に基づく都道府県収用委員会による収用裁決において
示された補償額の増額を求める土地所有者の訴え。
ウ 土地収用法に基づく都道府県収用委員会による収用裁決の無効を
前提とした所有権の確認を求める土地所有者の訴え。
エ 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に基づき
許可を得ている原子炉施設の運転の差止めを運転者に対して求める
周辺住民の訴え。
オ 住民基本台帳法に基づき、行政機関が住民票における氏名の記載
を削除することの差止めを求める当該住民の訴え。
1 ア・イ
2 ア・オ
3 イ・ウ
4 ウ・エ
5 エ・オ
(2)平成13年度・問題11
行政事件訴訟法が定める「抗告訴訟」ではないものは、次のうち
どれか。
1 処分の取消しの訴え
2 無効等確認の訴え
3 不作為の違法確認の訴え
4 当事者訴訟
5 裁決の取消しの訴え
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■ 解説
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◆ 本問(1)のポイント
本問については、三つの正確な知識があれば、即座に正解に
達する。
○ イの訴訟は、形式的当事者訴訟の代表例である。
○ ウの訴訟は、民事訴訟である「争点訴訟」の典型例である。
○ エについては、抗告訴訟である差止め訴訟は、行政庁の処
分を対象とするものであるから、運転者(事業者)に対して
原子炉施設の運転の差止めを求める訴えは、抗告訴訟ではな
い。
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イ・ウ・エいずれも、抗告訴訟に該当しないのであるから、
抗告訴訟にあたるもの組合せは、ア・オ以外にはありえない
ので、2が正解である。
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◆ 本問(2)の解答
.
1 抗告訴訟(行政事件訴訟法第3条2項)
2 抗告訴訟(行訴法第3条4項)。
3 抗告訴訟(行訴法第3条5項)。
4 抗告訴訟ではない(行訴法第2条、4条)。
5 抗告訴訟(行訴法第3条3項)。
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抗告訴訟でないのは、4の当事者訴訟であるので、正解は4である。
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なお、その他の抗告訴訟として、義務付けの訴え(行訴法3条6号)
・差止めの訴え(行訴法3条6号)がある。
以上で、ワンポイント・レッスン 終了
◆ 本問(1)の各肢の検討
● アについて
行訴法3条1項によれば、「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力
の行使に関する不服の訴訟をいうとされるが、本肢における私法
人たる指定確認検査機関は、行訴法11条2項にいう公共団体に
所属しない「行政庁」と判断し、本肢の機関を被告として取消訴
訟が提起できると考えるのが妥当である。
本肢は、抗告訴訟にあたる。
※ 参考事項
当該機関に被告適格を認める建築基準法の細かい規定の探索は
無用であろう。
行訴法11条の被告適格に関する過去問として、平成21年度
問題16がある。
● イについて
以下の記述を参照されたい(後掲書 読本270頁)。
土地所有者がその損失補償に不服がある場合には、本来は収
用委員会を被告として取消訴訟を提起しなければならないはず
である。
ところが、土地収用法133条3項は、損失補償に関する訴
訟は、損失補償の当事者、つまり土地所有者と土地所有権を取
得し補償の義務を負担する起業者との間で行われるべきものと
している。(行訴法4条1項の『当事者間の法律関係を確認し
又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりそ
の法律関係の当事者の一方を被告とする』ものという・筆者
加筆)定義は、このような損失訴訟を指している。この損失
補償に関する訴訟は、本来は取消訴訟であるべきところ、法
律の規定により当事者訴訟とされているので「形式的当事者
訴訟」と呼ばれている。
以上のとおり、本肢は、形式的当事者訴訟であって、抗告
訴訟ではない。
※ 参考事項
土地収用法に基づく形式的当事者訴訟の仕組みを具体的
に説明する。
◎ 本件では、A県収用委員会が、起業者であるB市の申
請に基づき、同市の市道の用地として、2000万円の
損失補償によってX所有の土地を収用する旨の収用裁決
(権利取得裁決)をなした場合を想定する。
申請者 B市(起業者)
↓
本件土地所有権を奪う権限権限を有する者
A県知事とA県収用委員会
↓
↓ 裁決
↓
X (土地所有者)
○ 本来的には、土地所有権を奪われるXとの関係では
A県が補償の義務を負い、起業者B市はA県に対して
補償額相当の金員を支払う義務を負うことになるはず
であるが、土地収用法では、損失補償の義務を負うの
は、収用により土地所有権を取得することになる起業
者B市である(68条)。
○ 補償額に争いがある場合には、「土地収用において
は、補償額の決定は(A県)収用委員会の裁決によっ
て行われるが、この裁決は行政処分であるから、本来
は補償額に不服があればこの裁決を争うべきである。
しかし法律(土地収用法)は、補償額に関する訴訟
は、起業者と土地所有者との間で行われることにして
いる(133条3項)。これは、形式的当事者訴訟の
代表例である」(読本 418頁)。
○ 「・・この条文(筆者注・行訴法第4条)は、当事
者訴訟の中にふたつの種類のものがある、というこ
とを定めていることがわかります。そのうちのひと
つは、はじめの方(前段)で定めている『当事者間
の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関
する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者
の一方を被告とする』であるわけですが、このタイ
プの当事者訴訟を、ふつう『形式的当事者訴訟』と
よんでいます。この『形式的』ということの意味は、
・・・この訴えが実質的にみると『公権力の行使に
対する不服の訴訟』つまり『抗告訴訟』としての
性質を持っているのだけれども、法形式の上では対
等な当事者の間での訴訟というかたちになっている、
ということなのです」(後掲書 入門208頁以下)。
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なお、本件において、Xが土地の収用そのものを
違法として争う場合には、収用裁決の取消しを求め
ることになるが、この訴訟は、A県収用委員会の所
属するA県を被告として、収用裁決の取消訴訟を提
起することになることに注意せよ(行訴法3条2項
・11条1項1号)。
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★ 本件は、過去問平成23年度・問題16から引用
した。
● ウについて
本肢でも、「A県収用委員会が、起業者であるB市の申請に
基づき、同市の市道の用地として、2000万円の損失補償に
よってX所有の土地を収用する旨の収用裁決(権利取得裁決)
をなした場合を想定」して、説明する。
・・
A県収用委員会の収用裁決が無効であるので、Xが土地を
取り返したい場合には、収用裁決に瑕疵があって取消しを求
める場合とは異なって、収用裁決という行政処分には公定力
もないため、抗告訴訟を起こしたうえで、その後、A市を被
告として、土地の返還を請求する等の民事訴訟を提起する必
要はない。
その観点から、行訴法36条をみると、収用裁決という処
分それ自体の「無効確認の訴え」という抗告訴訟(行訴法第
3条第4項)を起こすというのはよけいなまわり道だから、
それはできないことにして、もっぱら直接「土地の返還を請
求する」といった民事訴訟で争うことしかできないとするの
が同条の趣旨であるといえる。
つまり、36条にいう「現在の法律関係に関する訴え」が
「土地の返還を請求する」といった民事訴訟のことであり、
本肢に照らせば、(Xが、B市に対して)所有権の確認を
求める民事訴訟のことである。
こういった場合のことを特に「争点訴訟」とよぶ。この
争点訴訟というのは、民事訴訟であって、当該訴訟のなか
で、行政処分の無効を争点とすることができるということ
である(行訴法45条参照)。
したがって、本肢は、民事訴訟である「争点訴訟」であ
って、抗告訴訟ではない。
本肢の解説は、入門198頁以下を参照した。
● エについて
◆ 本問(1)のポイントで述べた「抗告訴訟である差止
め訴訟は、行政庁の処分を対象とするものであるから、
運転者(事業者)に対して原子炉施設の運転の差止めを
求める訴えは、抗告訴訟ではない」ことに付加すると、
(1)本肢は、民事訴訟である。(2)行訴法3条7項
の定義の規定を参照せよ ということである。
● オについて
行政機関が住民票における氏名の記載を削除することが、
行訴法3条7号にいう「差止めの訴え」の対象となる処分
にあたるかということは、普段考えたことのないテーマで
あるが、他の肢との比較により、肯定すべきことになるの
であろう。
下級審による判例があるようであるが、その知識まで要
求されているとすれば、要求過多であると思う。
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本問の正解は、前述したとおり、2である。
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★ 参考文献
行政法入門 藤田宙靖 著 ・ 行政法読本 芝池義一 著
・有斐閣発行
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【発行者】 司法書士藤本昌一
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