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            ★ オリジナル問題解答 《第35回 》 ★

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                    PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  民法(債権法)

   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■   オリジナル問題 解説
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   問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第121号掲載してある。

 
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  ★ 参考書籍 
  
  民法二 内田 貴 著・東京大学出版会
   
   民法 2 ・ 我妻榮/有泉亨/川井健 著・勁草書房 
   

 

   ○ アについて
  

 (1)問題意識

   判例を通じて、贈与について、どのような場合に契約を
  撤回することができるかが問われている。

 (2)民法の規定・判例

   書面によらない贈与は、履行しない部分を各当事者において
  撤回することができる(550条)。
   
   本肢においては、履行が終わったのかどうかが問題になる。
  判例は、「該不動産の所有権移転登記が経由されたときは、該
  不動産の引渡しの有無を問わず、贈与の履行を終わったものと  
  解すべきである。」としている(最判昭40・3・26民集1
  9ー2ー526)。

   ◎ 本肢は、上記判例に反するので妥当でない。

 
 (3)参考事項

   未登記建物については、引渡しによって、履行を終わったも
  のとされる(最判昭31・1・27民集10−1−1)。


 ○ イについて

  (1)売買の予約とはどのような概念であり、どのような場合に
    用いられるか。仮登記との関係。   

     図示

            556条1項・売買の一方の予約
            売買予約完結権=所有権移転請求権保全
           (完結権の行使によって、売買は成立する)
     
     売主   ←  買主

          ←  第2の買主

   
   売買予約は、売買ではないので、買主は、所有権移転の本登
  記はできないが、所有権移転請求権保全の仮登記ができる。
   この仮登記をしておけば、その後にその不動産につき物権を
  取得した者(図示の第2の買主)に対抗することができる。
  
   ※ 仮登記は仮登記のままでは登記の本体的効力を有しないが、
    後に本登記された場合に、その順位は仮登記の順位による。
     電磁的記録としては、仮登記のさいに事項欄に残しておい
    た余白に本登記がなされるので、仮登記のさいに記録された
    ものがそのまま本登記の番号になるのであるから、順位番号
    欄には記録すべきことはないことになる。

  (2)以上の仮登記をした場合に、売買予約完結権の譲渡は、所
    有権移転請求権を移転することになるが、判例は、以下のよ
    うに述べる。
     
     この完結権の譲渡を予約義務者その他の第3者に対抗する
    ためには、仮登記に権利移転の付記登記をすればは足り、債
    権譲渡の対抗要件を具備する必要はない(最判昭35・11
    ・24民集14−13−2853)。

     ◎ 本肢は、上記判例に反するので、妥当でない。
    

     ※

     a 所有権移転請求権の移転は、所有権の移転ではないの
      で主登記(独立登記)ではなく、その仮登記の付記登記
      による。
     b 所有移転請求権は、債権であるので、467条の規定
      する対抗要件を要するのではないかという問題意識が、
      本肢・判例にあることに注意!

     c(1)(2)を通じて、登記制度として、仮登記と本登
      記・付記登記と主登記(独立登記)について、分類が行
      われているが、この際、これら概念を把握することも民
      法学習の一環だと思う。

  ○ ウについて

  (1)問題意識

     賃借権の譲渡や賃貸物の転貸がなされた場合の法律関係につ
    いて、賃貸人の賃借人に対する解除が判例によって制限される
    場合について問われている。

     (2)賃借人が賃借権の譲渡・または賃借物の転貸をするには、賃
    貸人の承諾を要する(612条1項)。
     賃借人が無断譲渡・転貸を行うことにより、賃貸人の承諾を
    得ずに賃借物を第3者に使用・収益させたときは、賃貸人は賃
    貸借契約を解除できる(612条2項)。
  (3)しかし、判例は、本肢のとおり述べて、賃貸人の解除を制限
    した(最判昭28.9・25民集7−9−979)。
     換言すると「民法がこの解除権を認めるのは無断転貸等が個
    人的信頼を基礎とする賃貸借関係では『背信的行為』に当たる
    からであると解し、形式的には無断転貸等に当たる場合でも背
    信的行と認めるに足らない特段の事情がるときは、賃貸人の解
    除権は発生しない」(前掲民法2323頁)。

   
     ◎ 以上により、本肢は、妥当である。

  
   ※ 当該判例を主題にした過去問(平成20年問題45・記述式)
    は、下記のとおりである。

       不動産の賃貸借において、賃料の不払い(延滞)があれば、賃貸人
   は、賃借人に対して相当の期間を定めてその履行を催告し、もし
   その期 間内に履行がないときには、賃貸借契約を解除することが
   できる。また、賃借人が、賃貸人に無断で、賃借権を譲渡、また
   は賃借物を転貸し、その譲受人や転借人に当該不動産を使用また
   は収益させたときには、賃貸人は、賃貸借契約を解除することが
   できる。ただ、上記の、賃料支払いの催告がなされた場合や、譲
   渡・転貸についての賃貸人による承諾が得られていない場合でも、
   賃貸人による解除が認められない場合がある。それはどのような
   場合かについて、40字程度で記述しなさい。


    回答例

    賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足らな
      い特段の事情がある場合。     (40字)

    《出題を見越して、確り暗記をしておかないと、すらすらと回
        答できないであろう。『背信行為』と言う文言が決め手になる
    のかもしれない。なお、本題は、今後とも、形をかえて、出題
    される可能性はある。》


  ○ エについて

   
  
   ◎ 判例は、本肢のとおり、述べているので、本肢は妥当である
   (最判昭53・7・10民集32−5−868)。
   
    登記義務者からのその書類の返還の求めに応じれば、登記権利
      者への登記手続が不能になるから、これに応じた司法書士には、
      善管注意義務違反があり、債務不履行責任を負うことになるとい
      うのが当該判決の帰結である(644条・415条)
    なお、この場合には、651条1項の規定は働かないであろう。

  ○ オについて


  (1) 問題意識

         建物建築請負契約(632条)において、完成した建物の所有
    権の帰属に関する判例の考え方とこれに関する学説の主要な見
        解について本肢・解説を通じて、把握することが重要である。

  (2)請負人が全部の材料の全部をを提供する通常の場合については、
    判例は、完成した物も請負人の所有権に属し、普通には引渡しに
    よって注文者に移転するとして、請負人帰属説に立っている(大
    判大3・12・26民録20−1208)。
     通説もこの立場にたっている。
     しかし、判例は、注文者が全部の材料を提供した場合には、完
    成した物は最初から注文物に属するとする(大判昭7・5・9
    民集11−824)。したがって、本肢は、前段は妥当である。
     しかし、246条1項ただし書の加工の適用はないと解すべ
    きである(前掲民法2 359頁)というのが通説であるから、
    後段は妥当でない。

     ◎ 本肢は全体として妥当でない。

    ※ 参考事項

         ア 上記大正3年判決・昭和7年判決とも、特約を許すことに
      注意せよ。
      大正3年判決は「当事者間に別段の意思表示がない限り、建
     物の所有権は、引き渡しの時に、注文者に移転する」としてい
     る。昭和7年判決もまた、「特約がない限り、原始的に注文者
     に所有権が移転する」としている。
      後者に関して、以下の過去問があることに注意。
     
      建物新築の請負契約に当たり、注文者が材料の全部を供給し
     た場合には、特約の有無にかかわらず、注文者に所有権が帰属
     する(平成10年問題31肢1)。

      本肢は「特約の有無にかかわらず」という点が誤っている。

    イ 特約に関連する判決・過去問を以下に列記しておくので、参
     照されたい。

    (ア)注文者が代金の全部または大部分を支払っている場合には、
      特約の存在が推認され、特段の事情のない限り、建物所有権
      は完成と同時に原始的に注文者に帰属する(最判昭44・9
      ・12判時572−25)

       以上の判例を基準に出題された過去問

      最高裁判例によれば、仕事完成までの間に注文者が請負代金の
          大部分を支払っていた場合でも、請負人が材料全部を供給したと
          きは、完成した仕事の目的物である建物の所有権は請負人に帰属
          する(平成14年問題29肢5)

       本肢は、上記判例に反し、妥当でない。
 
    (イ)契約が中途で解約された場合には出来高部分は注文者の所有と
      するとの条項があるときは、請負人が材料を提供したとしても
      注文者に出来形部分の所有権が帰属する(最判平成5・10・
      19民集47−8−5061)。
 

    ウ 以下の記述も把握されておきたい。

    (ア)請負人帰属説に対して、「しかし、近年、学説では、完成し
      たときから所有権は引渡しをまつことなく直ちに注文者に帰属
      するという注文者帰属説が有力になりつつある」(民法2 3
      58頁)。
    (イ)両当事者が材料の一部ずつを供するときは加工の規定によっ
      て所有権の帰属を定めるのを原則とする(246条2項参照)。
      《民法2・359頁》

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  本問は、ア・イ・オが妥当でないので、3が正解である

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一
 
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