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★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 10回 】★
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2009/2/9
PRODUCED by 藤本 昌一
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【テーマ】 民法・物権変動と登記
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■ 過去問を中心とした「物権変動と登記」 問題と解説(その2)
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◆ 今回も前回に引き続き「物権変動と登記」をテーマにして、
過去10年間の過去問を題材に、問題提出と解説を行います。
過去問の肢の出典を省くのも、前回同様です。
以下、○か×かで答えてください。
[問題1]
A所有の甲地がBに譲渡されたが甲地には不法占拠者Cがいた場合、
Bは登記なくしてCに対抗することができる。
[解説]
甲地
譲渡
A−−−−−−−B 登記なし Bは登記なくしてCに対抗する
↓ ことはできるか。
C
不法占拠者
前回は、登記なくして対抗できる第三者として、背信的悪意者
について、 勉強しましたが、これも同列に論じることができます。
不法占有者は、登記しなければ、所有権を対抗することができない
第三者に該当せず、177条の「第三者」ではありません。
したがって、Bは登記なくして、Cに対抗できます。そのため、
Bは、登記がなくてもCに対し、土地の明渡しを請求し、損害賠償
を請求することができます(709条)。
本問は○です。
これには判例があります(最判昭和25・12・19・・H21模六法
177条 21 1003頁)。
なお、以上に関連した判例があります。
土地上に無権限で家屋を所有する者に対して、土地所有者が
明け渡しを求めるには、現実の家屋の所有者を相手方とすべきで、
家屋所有者が所有権を他人に譲渡して登記上譲渡人の所有名義
のままとなっていても、譲渡人に対しては明渡しを請求できない
(最判昭和35・6・17・・・H平21模六法 177条 63 1005頁)。
登記名義
譲渡
家屋所有者―――――――現実の家屋の所有者
||
↓ 無権限 ◎土地所有者の明渡の相手方
(登記名義が基準にならない)
土地所有者
本試験において、肢の一つとして出題される可能性あり。
要注意です。しかし、明渡の相手方は現実の所有者という
のは、当たり前のような気もしますが・・・。
[問題2]
A所有の甲地がBに売却され、さらに善意のCに売却された後、
AB間の売買契約が詐欺を理由に取り消された場合、Aは登記
なくしてCに取消しを対抗することができる。
甲地
(1) (2) ( )内の数字は時系列
売却 転売 における順序を示す。
A−−−−−−−B−−−−−C
善意 登記の有無不明
(3)
詐欺を理由に売買
契約を取り消し
● たとえば、Aが制限行為能力・強迫を理由に取り消した場合、
時系列が上記の場合と同じ(転売後に取り消し)とき、それぞれ
Cに移転登記登記が行われた場合であっても、AはCに対して
Cの善意・悪意を問わず、登記の抹消・目的物の返還を求める
ことができる。121条の取り消しにより、一度生じた物権変動が
遡及的に復帰するからである。この場合には、Aは登記なくして
Cに対抗できる。取り消しによって生ずる物権変動をあらかじめ
登記させることは不可能だからである(前掲書)。
強迫による取消しは、登記なしに取消し前の第三者に対抗できる
という判例(大判昭和4・2・20・・・H21模六177条 2 1002頁)
がある。
しかし、ここから本題であるが、詐欺を理由とする取消しの場合
は、善意の第三者には対抗できない(96条3項)ので、AはCに
取消しを対抗でない。
したっがて、Aは登記なくしてCに取消しを対抗することが
できるとする本問は、×です。
● 次に、善意のCが保護されるには、Cに登記を要するか
という問題があります。この問題では、Cの登記の有無は
明らかになっていません。
このことをズバリ問うてきたのが、平成20年度の問題です。
(20年度の問題のみは、出典を明確にしますと、問題29
肢 1です)。
その肢1では、次の内容において、妥当かどうかの判断を
求めています。
1 AからBに不動産の売却が行われ、BはさらにCに転売した
ところ、AがBの詐欺を理由に売買契約を取り消した場合に、
Cは善意であれば、登記を備えなくても保護される。
これは、さきほどから検討している本問2と事例は同一ですね。
今度は、善意のCの側から、保護されるには、登記を要するか
ということを問題にしています。
学説はわかれ、判例もはっきりと登記不要説に立っているとは
言い難いと説明されている(内田 貴・民法1)なかでの
出題ですが、出題者は、判例に照らし、善意のCが保護される
には登記を具備する必要がないという答えを求めています。
したがって、この肢1は妥当なのです。
ここでは、議論に深入りしないで、判例は「登記不要」と
していると覚えておくことです。
平成20年度の問題が難しくなったというゆえんは、このあたり
にもあります。
[問題3]
次の記述において、Cの立場に立場からみた場合、判例に照らし、
妥当といえるか。
AからBに不動産の売却が行われた後に、AがBの詐欺を理由に
売買契約を取り消したにもかかわらず、Bがこの不動産をCに
転売してしまった場合に、Cは善意であっても登記を
備えなければ保護されない。
[解説]
これも平成20年度の問題ですので、出典を明らかにしますと、
問題29 肢 2 です(設問を修正していますが・・)。
この問題と[問題2]との違いは、時系列の順序が異なりますね。
(1) (3)
売却 転売
A−−−−−−B−−−−−−C
(2) 善意
詐欺を理由に売買
契約取り消し
[問題2]がAの取り消し前の転売であったのに対して、
こちらは、Aの 取り消し後の転売です。
この場合には、AとCは対抗関係に立ち、先に登記をした方
が優先することになります。177条の適用です。
判例もあります(大判昭和17・9・30・・・H21模六
177条 3 1002頁)
イ ロ
移転登記の抹消 登記 移転登記
A−−−−−−−−−B−−−−−−C
この場合、Aの立場からすると、イの抹消登記がなければ、
Cに対抗できませんし、Cの立場からすると、ロの移転登記
がなければ、Aに対抗できません。
本問は、Cの立場からの出題ですので、Cは善意であっても
登記を備えなければ保護されないことになりますね。
したがって、本問は、○です。
なお、本問のCは、「善意であっても」となっていますが、
ここは、対抗関係の場面なのですから、善意・悪意を問わず
登記を備えれば、Cが優先すると思われますが、みなさん
はどう思われますか。このことを明確にした教科書は、私
がざっと見る限り、ありませんでした。
なお、最初に述べたAが制限行為能力・強迫の場合(もう、
忘れた!では、困りますよ)では、取り消しが転売後で
あれば、Cの善意・悪意を問わず、取り消しをCに対抗
可。また、本問のように、転売が取り消し後の場合には、
Cの善意・悪意を問わず、登記を具備したCは、Aに
対抗でき、Aに優先で,イイですね。
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