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               ★ 【過去問解説第105回】 ★

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                              PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】 行政法=行政不服審査法
    
  【目 次】 過去問・解説
              
    
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 ■ 平成24年度・問題15
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  行政不服審査法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

 1 審査請求が法定の期間経過後にされたものであるとき、その他不
 適法であるときは、審査庁は、棄却裁決を行う。

 2 処分についての審査請求に理由があるときは、審査庁は、当該処
  分の取消しのみならず、処分庁に代わって一定の処分を行うことが
  できる。

 3 不作為についての審査請求に理由があるときは、審査庁は、当該
  不作為庁に対しすみやかに申請に対するなんらかの行為をすべきこ
  とを命ずるとともに、裁決でその旨を宣言する。

 4 不作為について異議申立てがなされた場合、不作為庁は、当該異
 議申立てが不適法でない限り、不作為の違法を確認する決定を行う
 かうか、 異議申立てを棄却する決定を行う。

 5 事情裁決は、行政事件訴訟法の定める事情判決と同様、処分が違
  法であるときに一定の要件の下で行われるものであって、処分が違
  法ではなく、不当であるにとどまる場合において行われることはな
  い。


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 ■  解説 
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 ★  参考文献

  行政法入門 藤田宙靖 著 ・ 行政法読本 芝池義一 著

    ・有斐閣発行
 
 
 ◆ 本問のポイント

   各肢いずれにおいても、条文知識が試されているので、特に
 行審法においては、条文を丁寧に読むことが求められている。

 ◆  各肢の検討

 
 ○ 肢1について。

  行審法40条1項では、本肢の場合には、審査庁は、裁決で
 却下する。

  行政上の不服申立ての場合にも、行政訴訟の場合の訴訟要件
 に対応する不服申立要件を満たしていない不服申立ては、本案
 の審理をしてもらうことができず、いわゆる門前払い(却下)
 をされてしまうのであるが(前掲入門237頁)、本肢はこれ
 に該当する。

  これに対し、棄却裁決とは、本案に理由がないときに行われ
 るものである(40条2項)。

  したがって、本肢は正しくない。

  なお、これらに対応する決定については、47条1項・2項
 を参照すること。


 ○ 肢2について。

  処分についての審査請求に理由があるときは、審査庁は、当該
 処分を取消す(40条3項)。この場合には、裁決の拘束力に基
 づき、、処分庁は、裁決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分
 をしなければならない(43条1項・2項)のであって、審査庁
 が、処分庁に代わって一定の処分を行うことができるのではない。

  したがって、本肢は正しくない。

  なお、審査庁が処分庁の上級行政庁であるときは、審査庁は、
 裁決で当該処分を変更できることに注意(40条5項)。

  さらに、事実行為については、審査庁は処分庁に対し撤廃を命
 じ、その旨を宣言し、また同様に変更を命じ、その旨宣言するこ
 とにも注目(40条4項・5項)。

  ※ 決定における処分の取消し・変更は、47条3項をみよ。
   また事実行為の撤廃・変更については、47条4項をみよ。

 
  ○ 肢3について。

  51条3項の条文どおりであり、本肢は正しい。

  なお、51条1項・2項の審査請求の却下・同請求の棄却に
 ついても、注意。

 
  ※ 51条3項については、次の記述を参考にされたい(前掲
   書入門237頁参照)
 
    不服申立てについては、裁判所でなく行政機関が裁断を行
   うものであるということから、私人がもらえる(主張できる)
   決定や裁決の内容が、訴訟の場合に裁判所からもらえる判決
   の内容より少し広いものになることが、注目されてよいでし
   ょう。たとえば、不作為の違法確認訴訟(行訴法3条5項)
   の場合には、裁判所の司法機関としての性格から、行政庁
   の不作為に対しては、はなはだ消極的なコトロールしかで
   きなかったわけですが、不作為の審査請求の場合には、審
   査庁は、訴訟の場合のようにただ不作為が違法であること
   を確認するにとどまるのではなく、さらに積極的に、不作
   為庁に対して「すみやかに申請に対するなんらかの行為を
   すべきこと命ずる」ことができる、とされています(行政
   不服審査法51条3項)。


 ○ 肢4について。

    50条2項によれば、不作為庁は、当該異議申立てが不適法で
  ない限り、一定期間内に申請に対するなんらかの行為をするか、
 または書面で不作為の理由を示さなければならないことになって
 いるので、これに反する肢4の記述は正しくない。

  なお、不作為の異議申立がなされた場合には、認容するにも
 棄却するにも、「なんらかの行為をする」(認容)・「書面
 で不作為の理由を示」す(棄却)のであって、決定を行わない
 ことに注意せよ。

  決定をするのは、同条1項に基づく不適法による却下のみで
 ある。

  
  ※ 過去問平成22年度問題15肢4において、行政不服審
   査法における手続の終了に関する記述として、正しいもの
   として、次の分章がある。 
   
   不作為に関する異議申立てが適法になされた場合、不作為庁は、
  一定の期間内に、申請に対する何らかの行為をするかまたは書面
  で不作為の理由を示さなければならない。


  ○ 肢5について。

  事情裁決は、40条6項に規定があり、事情判決は、行訴法3
 1条1項に規定がある。
  
    事情判決は、裁判所が、行政処分が違法であることを認めなが
 ら、行政処分を取り消すことが公共の福祉に適合しない場合に、
 原告の請求を棄却するという判決であるのに対して、事情裁決と
 は、審査庁が行政処分が違法または不当であることを認めながら、
 行政処分を取り消しまたは撤廃することが公共の福祉に適合しな
 い場合に、審査請求人の請求を棄却するするという裁決である。

  以上の記述に従えば、事情裁決は、事情判決とは異なって、処
 分が違法ではなく、不当である場合にも行われることになるので、
 本肢は正しくない。

  
  ※ 参考事項

  (1)事情裁決と事情判決の以上の差異は、裁判所が審理で
    きるのは、行政処分の違法性であるのに対し、行政上の
    不服申立ての場合には、行政不服審査法1条1項に規定
    されるように、その適用対象が「行政庁の違法又は不当
    な処分」であることに起因することに注意せよ。

  (2)事情判決においては、裁判所は、判決主文において、
    処分が違法であることを宣言しなければしなければなら
    ない(行訴法31条)のに対して、事情裁決では、審査
    庁は、裁決で処分が違法または不当であることを宣言し
    なければならない(行審法40条6項)。

  (3) 事情裁決の規定は、処分についての異議申立ての決定
    ・再審査請求にも準用されていることに注意せよ(48
    条・56条)。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

   本問では、正しいのは肢3であるから、正解は3である。

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 【発行者】 司法書士藤本昌一
 
  ▽本文に記載されている内容の無断での転載は禁じます。
 
  ▽免責事項:内容には万全を期しておりますが、万一当サイトの内容を
       使用されたことによって損害が生じた場合でも、
       一切責任を負いかねますことをご了承ください。
       
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            ★ オリジナル問題解答 《第55回 》★

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                    PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】 行政法
    
  【目次】   解説
   
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 ■   オリジナル問題 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  
 
 
    問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第154号掲載してある。
 
 
 ☆ メルマガ第154回はこちら
           ↓
   http://archive.mag2.com/0000279296/index.htm
 

 ☆ 参照書籍

    行政法読本 芝池 義一著・行政法入門 藤田 宙靖著
  /有斐閣

 
 
 ◆ 各肢の検討


  
   ○ 肢1について

   行政不服審査法34条2項以下。行政事件訴訟法25条2項以下。
 
    正しい。


   
   ○ 肢2について

   正しい。行審法34条4項。行訴法25条4項。ただし、厳密に
    言うと、前者では、義務的でなくなり、後者では することができ
    なくなる という違いがあるように思われる(○ 肢4について
   ※(b)参照)

     審査庁も裁判所も、執行停止にあたり、「本案について理由がない
  とみえるとき」に該当するかどうかを判断する

  
  
   ○ 肢3について

    行審法34条2項。正しい。行訴法25条2項によれば、「申立て
  によ」る。


 
  
   ○ 肢4について

    審査庁が処分庁の上級庁である場合には、3のとおり、執行停止の
     要件は緩和されているが、「審査庁が処分庁の上級庁でない場合につ
     いても、裁判所が執行停止する場合よりはその要件が緩和されている」
   (入門)
  
  (1) 審査庁の場合は、「必要があると認めるときは」が要件になって
    いる(行審法法34条3項)。
  
 (2)裁判所の場合は、「重大な損害」「緊急の必要」が要件になって
   いる(行訴法法25条2項)。
 
   したがって、要件は同じではなくて、緩和されているので、本肢は
  誤りである。
 
 
  ※(a) ただし、次の点に注意せよ。審査庁の場合にも、「重大な
            損害」等がが掲げられているが(行審法法34条4項)、こ
            れは、義務的であるための要件である。裁判所の場合が、執
            行停止発動の要件であるのとは、異なる。

            
                             執行停止可 ○   不可 ×
              
                           
               審査庁     裁判所
    
  「必要があると認める」   ○       ×

 
   「重大な損害等」      ○(義務的)  ○(発動の要件)

 
   以上を総括して、「入門」より、以下の文章を記しておく。
 
  「行政上の不服申立てのばあいには、争いを裁断するのは裁判所では
  なくて行政機関ですから、不服申立てに対する審査も、いわば、行政
   組織内部でのコントロールとしての性格を持つことになります。そう
   だとすると、取消訴訟のばあいには、司法権としての裁判所の立場上、
  そうかんたんに認められなかった例外としての執行停止も、かなり
   ゆるやかに認めてもよい、ということになるのでしょう。」 

 
  ※(b) ついでにいっておくと、

   審査庁においては、「本案について理由がないとめるときは」義務
   的でなくなるのに対して(行審法34条4項)、裁判所においては、
 「本案について理由がないとめるときは」執行停止をすることができな
 くなるのである(行訴法25条4項)。

   さらに、「仮の義務付け・仮の差止め」では、「本案について理由
  があるとみえるとき」が、積極的要件になっている(行訴法37条の
  5第1項)。

  
 
 ○ 肢5について

   正しい。
 
  内閣総理大臣の異議は、行政事件訴訟法25条の取消訴訟の場合
(無効等確認の訴を含む・38条3項による 準用)及び 仮の義務付け・
 仮の差止めの場合(37条の5第4項による準用)である(27条)こ
 とを明確に把握しておくこと。

  内閣総理大臣の異議という制度は、行政不服審査法にはない。


------------------------------------------------------------------

  本問では、肢4が誤りであるので、正解は、4である。 


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  ◆ 付 言
  
   本問の肢4の解説にみられるように、条文に忠実に条文を丁寧に読
  むいわば条文主義という観点もまた、本試験によって要請されている
  と私は思料します。

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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            ★ オリジナル問題解答 《第46回 》★

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                      PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】 行政法

    
  【目次】   解説
              
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 ■   オリジナル問題 解説
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第142号掲載してある。
 
 ☆ メルマガ第142回はこちら
           ↓
   http://archive.mag2.com/0000279296/index.htm
 

 [問題1]


  ● 行政上の「強制執行」とは、、 「行政処分」 によって課され
  た義務を義務者が履行しない場合に課されるものである。

   したっがて、(ア)には、強制執行が入り、(イ)には、
  行政処分が入る。

   ちなみに、(ア)群にある「行政強制」とは、強制執行制度
  間接的強制制度 即時強制 全部を総称するものであることに
  注意!!

   また、(イ)群にある「行政立法」は、行政処分と同様、権力
    的行為であり、法行為でって同類である。
    しかし、行政立法は、「不特定多数のひとびとを対象とした
  一般的・抽象的なものであって、特定の私人を対象とした個別的・
  具体的なものものでは」ない(入門141頁)から、強制執行と
  結びつかないことに注意!!
  
   次に、即時強制については、以下の記述を参照されたい。

      直接強制に類似する実力行使として、「即時強制」がある。
  これは、法令や行政行為等によってひとまず私人に義務を課し、
  その自発的な履行を待つのでなく、いきなり行政主体の実力が
  行われるのを特徴とする。「義務の履行強制を目的とするもの
  でないことを特徴とする。」(入門183頁)

      したがって、(ウ)には、直接強制ではなく「即時強制」が入る。
   
   また、後述するように、「行政調査」と「即時強制」を分かつの
  は「強制」であるから、(エ)には「強制」が入る。

  
  -------------------------------------------------------------  

    以上によれば、4が正解である。

  -------------------------------------------------------------

 

 [問題2] 


 ●  要点
   
  行政法学で特に「行政調査」というばあいには、行政機関の行う調査
  のすべてをいうのではなく、そのなかでも以下のようなものを指すとさ
  れる。
  
  「行政機関が私人に対して質問や検査をしようとするばあいで、私人
   がこれに自発的に応じないばあいには、なんらかのかたちでの公権
   力の行使がおこなわれる可能性があるもの」

  これらの「行政調査」のうち、なんらかの調査の目的でおこなわれる
  行為であっても、直接に身体や財産に手をかけるようなケースは、「即
 時強制」の方に入る。

   (以上 入門185頁)

 
 ●  各肢の検討
  
 
 ○ アについて
 
   妥当である。

  「行政上の即時強制については(行政上の代執行とは異なり)一般法は
   存在せず、従ってまた、ここで説明すべき一般的仕組みも存在しない。
  
   行政機関が行政上の即時強制を行うについては、法律の授権が必要
 である。そして、行政機関としては、法律の授権が存在すれば、授権
  を行う法律の定めるところに従って即時強制を行えば足りる

 (読本 143頁)

 ○ イについて
 
  さきに述べた要点によれば、相手方の任意の協力を求めて行われる自動車
 検問は、「即時強制」に該当しないであろう。

  妥当でない。

 
  ○   ウについて

   妥当でない。

   実際上、即時強制に際して、司法機関の令状ないし許可状をとることが
 必要であることとされている例は個別法にある(出入国管理及び難民認定
 法31条・警察官職務執行法3条3項)。

  「ただ、こういうことを一般的に定めている法律はないので、そこで、
  こういうような規定がないばあいについても(憲法の規定からして≪※
  注1≫)裁判所がまったくかかわることなしのこなわれた即時強制・行
  政調査≪※注2≫は違法となるのではないか、という問題があるわけで
  す」(入門 187頁)

   ※ 注 1 憲法35条

  ※  注 2 [問題3] 肢ウ 参照

 

 ○ エについて 

  本肢のような継続的な性質を有する即時強制は、行政上の不服申立て
 の対象となる(行審法2条1項に明記)。取消訴訟も提起できるだろう
 (読本143頁)。

  妥当でない。

 ○ オについて

  義務の賦課なくいきなり強制が加えられるのが、即時強制の特徴である
 から、本肢は、即時強制に該当する。

  
  妥当である。

 ---------------------------------------------------------------------- 
   
     アとオが妥当であるので、2が正解である。

 -----------------------------------------------------------------------

  

 [問題3]


 ● 本問は、[問題2]とは異なった観点に立脚していることに注意せよ。

  [問題2]では、行政調査のうち強制行為については、「即時強制」に
  該当するとした。
  
    これに対して、本問では、「行政調査」全体について、強制行為
 (権力的)に該当するものとそうでない(非権力的)ものが存在する
   ことを認めたうえで、それぞれの規制を考察しようとするものである。
  
  むしろ、現在では、この手法が普通であろうと思われる。

 ● 各肢の検討

 
 ○ 肢アについて

  前記の観点に立てば、行政調査は、いずれの場合にも行われる。

  妥当でない。


 ○ 肢イについて

  これは、ズバリ、行手法3条1項14号の適用除外の問題である。

 「・・資料提出や出頭を命じる調査は、行政処分の形式で行われ
 るものであり、一種の不利益処分として行政手続法を適用するこ
 とも可能であるが、行政手続法は、『情報の収集を直接の目的し
 てされる処分・・』を適用除外している(行手法3条1項14号)。」
 (読本191頁)。

 妥当でない。


 ○ 肢ウについて

   ここでの論点は、以下のとおりである(読本190頁以下参照)


    行政手続においても、個別法において、憲法35条2項の令状
   主義が採用されている場合がある。

   「そこで問題になるのは、令状主義について法律に規定がない場
     合に、憲法35条2項の令状主義の適用があるかということで
     ある。」
    本来この規定は、刑事責任を追及する刑事上の手続に適用され
   るものだからである。

    最高裁判所大法廷は、1972(昭和47)年11月22日判決
 =川崎民商事件において、本肢のように述べて、「強制の性格の調
 査について憲法35条2項の令状主義の要請の及ぶ余地を認めた・・」

  妥当である。

  なお、当該判決は、よく引用される重要なものである。
   

  ○ 肢エについて。 

   これは、最高裁判所昭和55年9月22日決定からの出題である。

   当該判決によると、自動車の一斉検問は、警察法2条1項が「交通
 の取締」を警察の職務としていることを根拠にしているが、「任意」
 であって、強制力を伴わなければ、「一般的に許容されるべき」とし
 ている。

  この一斉検問は、犯罪にかかわる職務質問に付随する所持品検査に
 対して、犯罪とは関係なく無差別に行われる検問であるあるから、か
 りに任意であっても、この自動車検問自体が「法律の留保の原則」(注)
 に違反して違法ではないかという問題がある。

  注 「行政の行為のうち一定の範囲のものについては、行為の着手
     自体が行政の自由ではなく、その着手について法律の承認が必
     要であると考えられている。この一定の行為について法律の承
     認(つまり授権)が必要である、という原則を『法律の留保の
     原則』と呼ぶ。」

    これについては、前述したとおり、最高裁判所は、警察法の規定
  する「交通の取締」を根拠にしているが、学者はそれにはかなり無
  理があるとして「『法律の留保の原則』の見地からは、一斉検問を
  正面から授権する規定を法律(道路交通法になろう)の中に設ける
  ことがあるべき解決策といえる。」としている。

   (以上、読本58頁を参照した)

    以上の記述に従えば、本肢の見解は、最高裁判所の判決に反する
  ものといえる。

  妥当でない。


 ○ 肢オについて

  本問肢ウの川崎民商事件では、「所得税法の質問検査権については、
 それが『直接物理的な強制を認めるものでなく、検査を拒んだものに
 対する罰則による間接的強制をおこなうものであることにすぎないこ
 と』」(入門187頁)を理由に、令状主義による強制調査の適用外
 とした。
 
  したがって、肢オの罰則を伴う間接的強制を最高裁判所は、容認して
 いる。

  肢オは誤りである。


  換言すると、この場合、裁判所の令状がなくても違憲・違法とはいえ
 ないのは、直接物理的な強制ではなく、罰則による間接的強制をおこな
 うものだからである、というものである。

 ----------------------------------------------------------------

   本問においては、ア・イ・エ・オが妥当でないので、4が正解である。
  

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   ★  参考文献

  行政法入門 藤田宙靖 著 ・ 行政法読本 芝池義一 著

    ・有斐閣発行


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

 【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
 
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              ★ オリジナル問題解答 《第8回 》 ★

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                         PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  行政法
   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 民法・行政法・オリジナル問題 解説
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   問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第94号に掲載してある。

 ★ メルマガ第94回はこちら↓
   http://archive.mag2.com/0000279296/index.htm
 


  ◆ 総説

  
  行政訴訟は、主観訴訟と客観訴訟に分かれる

 
 ○ 主観訴訟=権利保護の制度・つまり救済の制度。

  
    抗告訴訟と当事者訴訟に分かれる。

    「抗告訴訟」=取消訴訟・無効等確認訴訟・不作為の違法確認
           ・義務付け訴訟・差止訴訟


     「当事者訴訟」=実質的当事者訴訟・形式的当事者訴訟

 

 ○ 客観訴訟=権利救済のためでなく、国・公共団体の違法行為を
                是正し、その活動の適法性を確保することを目的と
                する。


     「民衆訴訟」・「機関訴訟」


 (前掲書・読本 266頁の図表を参考にした)

 
 ◆ 各肢の検討


  ○ 1・2について

   
    以下の記述を参照されたい。
 
 --------------------------------------------------------------
 
    行訴法4条前段規定は、「形式的当事者訴訟」である。
  これに対比されるのが同条後段の「実質的当事者訴訟」である。 

  いずれも、総説の「当事者訴訟」に含まれる。
 
   以下において、「形式的当事者訴訟」について説明する。
  
    まず、条文の意味するところは、難解であるが、「本来は取消訴
   訟であるべきところ、法律の規定により当事者訴訟とされているの
   で『形式的当事者訴訟』と呼ばれている。」(読本270頁)

  「この訴訟の代表例は、土地収用の場合において土地所有者に支払
   われる損失補償に関する争いである。損失補償は、都道府県に設
   けらている収用委員会の裁決によって定められるが、、裁決は
   行政処分であり・・従って土地所有者がその損失補償に不服がある
   場合には、本来収用委員会を被告として取消訴訟を提起しなければ
   ならないはずである。ところが、土地収用法133条2項は、損失
  補償に関する訴訟は、損失補償の法律関係の当事者つまり、土地
   所有者と土地所有権を取得し補償の義務を負担する起業者との間
   で行われるべきものとしている。」(読本270頁)

 
    これに対して、行訴法4後段の「実質的当事者訴訟」に関しては、
  最大判H17・9・14を参照すべきである。

   在外国民が「次回の衆議院の総選挙における小選挙区選出議員の
 選挙および参議院の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、
 在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票できる地位にあ
 ること」の確認を求める訴えは「公法上の法律関係に関する訴え」
 として確認の利益が肯定され適法である。

 (入門211頁以下・読本337頁以下)

  なお、この他、当該訴訟の例として、「公務員の身分の確認を求
 める訴訟や公務員の俸給の支払を求める訴訟などがこれに該当する。」
 とされる(読本 269頁)

 
  ☆  関連事項

   過去問 平成19年度・問題19をみよ!!

  行政事件訴訟法4条の当事者訴訟に当たるものの組合せとして
 正しいものとして、次の肢が挙げられている。

  ア  土地収用法に基づいて、土地所有者が起業者を被告として
  提起する損失補償に関する訴え

 オ 日本国籍を有することの確認の訴え


 アが、形式的当事者訴訟であり、オが、実質的当事者訴訟である。

 -------------------------------------------------------------
 
  以上の記述に照らせば、1・2いずれも、妥当である。

  

 
 ○ 3について

   
    以下の記述を参照されたい。

  ---------------------------------------------------------------- 

    地方自治法242条の2に定める「住民訴訟」は、行訴法5条
  が規定する民衆訴訟である(総説・○客観訴訟「民衆訴訟」参照)。

   
   選挙に関する訴訟は公職選挙法(203条以下)で定められ、
   これもまた、民衆訴訟である(総説参照)。
  
  
   次の指摘に注意。

   「選挙に関する訴訟は公職選挙法(203条以下)で定められ、
    住民訴訟は地方自治法(242条の2)で定められている。
    行政事件訴訟法5条の規定は、それらの訴訟を行政訴訟に
    組み込むという意味を持っている」(読本271頁)
 
----------------------------------------------------------------
 
    以上の記述に照らせば、本肢は正しい。


 ○ 4について

  「義務付けの訴え」(行訴法3条6項)は、抗告訴訟に該当する
  行訴法3条1項・総説○主観訴訟「抗告訴訟」参照」

  抗告訴訟に該当するので、本肢は誤りである。

 ○ 5について
               
        行訴法6条の機関訴訟(総説・○客観訴訟「機関訴訟」)に
   いては、「法律が定めている場合に限り、法律で認められた者
      だけが提起することができる。その理由は、行政機関が法人格
   を持たず、権利義務の主体ではないことである。行政組織内部
      の紛争はその 内部で解決すべきであるという観念も作用して
   いるであろう」(読本271頁)

   したがって、本肢は正しい。

 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 以上によれば、妥当でないのは、4であるから、正解は4である。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 
 ☆ 本問については、サイト69回を参照されたい。

 ◆サイト第69回はこちら↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/1355589.html

 
 
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               ★ オリジナル問題解答 《第1回 》 ★

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  【テーマ】  行政法
   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 行政法・オリジナル問題 解説
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】第87号
 に掲載してある。

  ★ メルマガ第87回はこちら↓
 http://archive.mag2.com/0000279296/index.html

 
▲ 問題1   

    ★  総 説
 
   A

   地方公共団体の行政に関して、行政手続法の適用が除外される範囲
   (3条3項)
   
   イ 行政処分・届出→(地方公共団体の機関が定める)条例・規則に
              基づくもの。

   ロ 行政指導→すべてのもの。

 
   ハ 命令等の制定→すべてのもの

 
  注 条例は、地方議会が定める。規則には、地方公共団体の長つまり
  都道府権知事や市町村長が定めるものと教育委員会などの委員会が
    定めるものがある(憲法94条、地方自治法14条1項、15条1項、
  138条の4 2項)。その規則には規程も入る(地自法138条の4 2項
    行手法2条1号)
  上記の「命令等の制定」にある「命令」とは、条例は含まず、規程
    を含む規則が該当する。


  B

  行政処分・行政指導

  イ 3条1項の適用除外類型

   他の法律で定めるのは当然であって、特別の定めではない。

  ロ 3条1項に該当しない類型

   他の法律に特別の定めがあって、行政手続法の規定に抵触する場合
  には一般法と特別法の関係に立ち、他の法律優先(法1条2項)

  届出

   当然ロに該当するため、他の法律が優先。法1条2項には、「届出に
  関する手続」が明確に掲げてある。


 ★ 各肢の検討

     1について。

    法3条3項によれば、総説・Aロに従い、行政指導については、
   行政手続法第4章の行政指導の規定の非適用ということになる。

    これに対して、地方公共団体の機関がする行政処分については、

    行政手続法は、法律に基づく地方公共団体の行政処分には原則
      として適用される。 

        つまり、地方公共団体の機関がする行政処分であって、その根拠
   となる規定が条例または規則に置かれているものでないものについ
   ては、行政手続法が適用される。 
   
   
    したがって、本肢は、「行政指導」には該当しない。誤りである。

   
   2について。

    本肢は、総説B・ロに該当し、1条2項に基づき、他の法律が
   優先する場合が想定されている。
    この場合、たとえば、生活保護法29条の2で、処分について、
   12条と14条を除いて、行手法を適用しない旨規定している。
    したがって、行手法の一部適用を認めることもできる。

    本肢は、誤りである。

   3について。

    3条3項によれば、総説Aイに基づき、根拠が法律の場合、適用
   される。

    本肢は、誤りである。

     
   4について。

    3条3項によれば、総説Aハに基づき、地方公共団体の機関が定
   めるすべての命令に関し、行手法は適用されない。

   本肢は、誤りである。

   
   5について。

        行政手続条例とは

       行手法の適用のないつまり法3条3項により適用除外になる地方
     公共団体の行う「処分・行政指導・届出・規則・規程については
     地方公共団体が『行政運営における公正の確保と透明性の向上を
     図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。』こと
     になっており、(法46条)」(読本)これに基づいて、多くの
     地方公共 団体が制定しているのが、行政手続条例と呼ばれる。

       この手続条例においては、行手法と同一内容の行政手続条例の
   制定を求めているのではない。むしろ、法の趣旨にのっとり
   その地方公共団体の独自性を生かした方向での条例の制定が
   望まれる。

   したがって、行政手続条例が、地方公共団体における行政手続に
  ついて、行政手続法と異なる内容の定めをすることも許されない
  わけではない。

   本肢は、正しい。
 
------------------------------------------------------------------
  
   以上、正しいのは、5であるから、本問の正解は、5である。

------------------------------------------------------------------

  
 ▲ 問題 2 
 

 ◆  総説
 
   (読本219頁図表をアレンジした)
 
                  1 意見陳述手続             

          2 基準設定

         3 理由提示

          4  文書閲覧
    
          
               (前記1 2 3 4に対応)
                                   ↓
               
               1    2    3     4

  ☆  申請に対する処分       

              なし   審査基準  あり    なし
            (ただし       (拒否処分
              公聴会)      について)
                      
 ☆ 不利益処分                   


 (1)「特定不利益処分」   聴聞   処分基準    あり     あり
         
   
                     
 
 (2)「その他の不利益     弁明   処分基準  あり     なし
     処分」


   
 注        

  a 行政処分は、「申請に対する処分」(第2章・2条2号、3号)と
 「不利益処分」(第3章・2条4号)に分かれる。

  b 意見陳述手続については、「申請に対する処分」につき、10条
   の公聴会の規定があるだけで、申請者の意見陳述手続はない。

  c 「不利益処分」における意見陳述手続については、(1)1の聴聞
   を経る場合と(2)1の弁明の機会の付与を経る場合に分かれる。
  
    このうち、丁寧な手続である聴聞は、許認可を撤回したり 資格
   または地位を剥奪するといった相手方に重大な不利益を与える
   不利益処分について行われる。これが(1)の「特定不利益処分」
   であり、13条1項1号に列挙されている。
    
    これに該当しない(2)の「その他の不利益処分」においては、
   略式手続である弁明の機会の付与の手続が採用される。
  (13条1項2号・29条以下)

  以上を総括すると、 行政手続法上、聴聞を経る処分が、(1)
  の「特定不利益処分」に該当し、弁明の機会の付与を経る処分が
(2)の「その他の不利益処分」に該当することになる。


 ◆  各肢の検討
 

 ○ 1について

  5 条と12条参照。逆であり、誤。

  なお、審査基準が法的義務であり、処分基準が努力義務であることに注意。
 処分基準の公表は、悪用されるおそれがあるあるため、努力義務にとどまる。

 ○ 2について

  申請に対する処分については、申請者の意見陳述手続の規定はなく、
 10条に公聴会の定めがあるだけである。 誤。

 ○ 3について

  不利益処分のうち、特定不利益処分(13条1項1号)は聴聞の実施。
 その他の不利益処分には、29条以下の弁明の機会の付与が行われる。
 
 正しい。

 ○ 4について

  申請に対する処分のうち、理由の提示が義務づけられているのは、
 拒否処分だけである(8条)。誤。

 ○ 5について

  文書閲覧の制度が、申請に対する処分に適用がないのは、そのとおり。
 不利益処分については、聴聞を伴う特定不利益処分にのみ、当該制度
 が適用される。その他の不利益処分には、これは、適用されない。
 
 誤り。


  正解は3である。

 

 ◆  参考書籍 
  
 行政法入門 藤田 宙靖著・ 行政法読本 芝池 義一 /有斐閣


  ★ サイト25回参照↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/615913.html

     


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         ★ 過去問の詳細な解説  第95回 ★

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【テーマ】  民法


【目次】    問題・解説

            余禄          
     

 

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 ■ 平成22年度・問題46(記述式)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  
   以下の【相談】に対して、[  ]の中に適切な文章を40字程度で
 記述して補い、最高裁判所の判例を踏まえた【回答】を完成させなさい。


 【相談】

  私は、X氏から200万円を借りていますが、先日自宅でその返済に関
 してX氏と話し合いをしているうちに口論になり、激昂したX氏が投げた
 灰皿が、居間にあったシャンデリア(時価相当150万円相当)に当たり、
 シャンデリアが全損してしまいました。X氏はこの件については謝罪し、
 きちんと弁償するとはいっていますが、貸したお金についてはいますぐに
 でも現金で返してくれないと困るといっています。私としては、損害賠償
 額を差し引いて50万円のみ支払えばよいと思っているのですが、このよ
 うなことはできるでしょか。

 【回答】

   民法509条は「債務不法行為によって生じたときは、その債務者は、
 相殺をもって債権者に対抗することができない。」としています。その
 趣旨は、判例によれば[     ]ことにあるとされています。ですか
 ら今回の場合のように、不法行為の被害者であるあなた自身が自ら不法
 行為にもとづく損害賠償債権を自動債権として、不法行為による損害賠
 償債権以外の債権を受動債権として相殺することは、禁止されていませ
 ん。

  


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  


 ●  序論


  1 本問においては、全体として考察すれば、【相談】内容に目を通す
   必要がない。

   【回答】欄において、「今回の場合ように 不法行為の被害者・・
   が自ら不法行為にも とづく損害賠償債権を自動債権として、不法行為
   による損害賠償債権以外の債権を受動債権として相殺することは、禁止
   されていません」として、相談内容を要約したものが呈示されているか
   らである。

    したがって、わざわざ、時間を費やして、以下のように図示して、
   【相談】内容を解明する必要性に乏しい。


             ・
                       X

        
         200万円    150万円
          
         ↓ 貸金債権   ↑ 損害賠償債権

        (受動債権)   (自動債権)
             
                      私
                        ・

   2 ここでいう判例とは、「本条≪民法509条》は、不法行為に基
    づく損害賠償債権を自動債権とする相殺までも禁止する趣旨ではな
    い。(最判昭42・11・30民集28−9−2477)」

     模範六法 1059頁 509条 1 ▽ 参照

     一般的知識としては、通常このあたりまでの認識はあるであろう。
          
     しかし、
     
          このことを本問の解答として、記載しても、蛇足であるから、点数
    にはならない。

 ◎ ズバリ回答としては、

    前記最高裁判所の要旨を要約したものとなるであろう。
    
  
    その要旨

    民法第509条は、不法行為の被害者をして現実の弁済により損害の填補
   をうけしめるとともに、不法行為の誘発を防止することを目的とするもの
   であり、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし、不法行為による
   損害賠償債権請求権以外の債権を受働債権として相殺をすることまでも
   禁止するものではないと解するのが相当である


    その要約としての本問の回答

   --------------------------------------------

    不法行為の被害者に現実の弁済に
    よる損害の填補をうけさせるとと
    もに不法行為の誘発を防止する。

                45字

    ---------------------------------------------


 ○ 付言

  
   1 ズバリ回答をゲットしようとすれば、この問題を予想し、予め、最高裁判所
   図書館もしくは国立国会図書館所蔵の「最高裁判所民事判例集第21巻9号2
  477頁」を見て、暗記した希有な者に限られるであろう。

  2 それでは、判例の暗記という観点を離れて、標準的な法律書を基に本問を
   考察してみてみよう。

   民法509条によって、不法行為債権を受動債権として相殺が禁じられる
  のは、「不法行為の債務は必ず現実に弁済させようとする趣旨である」から
  である。

   もう一つは、仕返しを回避するためである。分かりやすく言えば、頭をぼこ
  にした相手に対し、自分も相手のかしらを同程度にボコボコにして帳消しにし
  ようとすることが許されないのである。
   あるいは、「任意に履行履行しない債務者に対して債権者が自力救済その他の
  不法行為をしたうえで、それによって相手方が取得する損害賠償債権を受動債
  権として相殺をもって対抗するようなことを許さないというねらいも含んでいる。」
             ・
   したがって、受験者の頭の隅に「現実弁済」とか「自力救済の禁止」という
  言葉が浮かべば、さきの最高裁の判例の要旨を知らなくても、何とか正解に達
  する可能性が開けてくるのである。

   以下は、【余禄】欄に譲る。

   
 ▲ 参考事項

  以下の判例あるので、参考までに掲げておく。

  双方の過失に基づく同一交通事故による物的損害の賠償債権相互間でも、
 相殺は許されない。(最判昭49・6・28 民集28−5−666)

 《22年度模範六法・民法509条 2 ▽ 》

  当該判決の判旨によれば、「民法509条の趣旨は、不法行為の被害者に
                       ・
 現実の弁済によって損害の填補を受けさせること等にあるから、およそ不
 法行為による損害賠償債務を負担している者は、被害者に対する不法行為に
 よる損害賠償債権を有している場合であっても、被害者に対しその債権をも
 って対等額につき相殺により右債務を免れることは許されないものと解する
 のが相当である」。
 

  
 ★ 参考文献

  民法 2 ・ 我妻栄/有泉亨著・勁草書房
   
    


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  ■ 余禄・先生と美里さんの会話(メルマガ配信から抜粋)

     《平成22年度問題 46 を巡って》

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 永宗美里さんの紹介

 花の独身・28歳・瞳がきらきら輝き、活発・行政書士受験歴2回・
 3回目に挑戦中。

 先生の事務所に勤務・先生の姪にあたるが、事務所内では、伯父を
 先生と呼ぶ。
--------------------------------------------------------------
 
 
              どちらが先生?
              ーーーーーーーー
                 

 先生「平成22年度・問題46については、当日どう回答した?」

 美里「あまり答えたくありませんが、・・・【相談】の事例を読めば、
    受動債権が 貸金債権であって、不法行為による債権ではありま
       せんので、民法509条に照らして、相殺が可能だと考えまし
       た。」

 先生「それは、当然だ。例の最高裁の判決要旨は知らなかったんだね」

 美里「今では、その存在は分かっていますが、試験日には、その要旨に
    ついて、全然頭にありませんでした」
 
 先生「それも当然だ。その点、君は悪くない。それを知っていろという
    のは要求過多だ。それでは、なにを書いた?」

 美里「はい、509の立法趣旨として、不法行為の被害者に実際に弁済
    する必要があるから、相殺が禁止されていることは知っていまし
    たので、この場合は、自動債権が損害賠償債権ですから、相殺可
    と思い、そのことを書きました」
 
 先生「それはそれで、正しい」

 美里「でもね、先生。『不法行為の被害者に現実に弁済する必要がある』
    と書くと、空欄が半分なんです。仕方がないから、これに続けて、
   『・・・から、不法行為による債権を自動債権とするのは可』と
    かなんとか、書いたと思います。」

 先生「後半が蛇足だ」

 美里「分かってます。これは、まずいと思って、書いたんですから・・
    蛇足だと思って、空欄を埋めただけですから」

 先生「『自力救済の禁止』という文言は浮かばなかったんだな」

 美里「ちらりと、頭をかすめましたが、事例をみれば、受動債権が不法
   行為ではないわけですから、自力救済は関係ないと思ったんです」

 先生「なるほど。しかし、いまは、そのからくりはわかっているね」
   
 美里「先生。わたしが説明いたしますわ。まかせてください」

 先生「君が先生だ!どうぞ」

 美里「つまりですね。【相談]の事例によっても、受動債権が不法行為
    でなくて、貸金債権であることがポイントですね。【回答】でも、
   『不法行為による・・債権以外の債権を受動債権として』相殺可
   となっていますよね」
 
 先生「裏から言えば・・・・」

 美里「(みなまで言うなと制するように・・)受動債権が不法行為で
    ある場合には、自力救済禁止、判例によれば、「不法行為誘発
    防止」のため、相殺不可であるから、そのことも[  ]欄に
    記載しておく必要があるということですね」

 先生「Exactly! 最後に一言。じっくりこの問題をながめて
    ほしい。【回答】欄の記載だけで回答できる。かえって、【相談】
    の事例にひっぱられると、現実弁済しか念頭にうかばないことに
    なる。もうひとつ・・・・」 
             
      
       ↓    続き( 一週間後・・)

 

          
           二丁拳銃と二刀流
       ーーーーーーーーー


 美里「先生、もうひとつとはなんですの。1週間も待たされたんです
    もの。先生あんまり勿体ぶらないで!」

 先生「そんなつもりはない。ただ誌面の都合でそうなっただけだ。
    つまり、私の言いたかったことは、この問題の採点基準につい
    てだ。前に掲げた最高裁判所の判例(最判昭42・11・30)
    の判旨を機械的に当てはめて、そのとおりかどうかを基準にし
    てほしくないということだ」

 美里「そうですね。『現実弁済』のほか、『自力救済の禁止』『仕返し
    の禁止』でもいいわけですよね。現実の弁済による損害の填補
       とか、不法行為の誘発防止でなければ、減点というのは、お笑
         ・
    い草ですよね!}

 先生「君も八つ当たり気味だね。そんな草は見たこともないが・・。
    いずれにしても、採点者が、この事案を咀嚼し、柔軟に対処
    できるかどうかが鍵だと思うな」

 美里「例えば、『不法行為の被害者に現実の弁済をさせるとともに、
    自力救済を禁止する』(33字)でもいいわけですよね」

 先生「私には、減点の対象が見当たらない。自力救済・・が仕返し
    の禁止であっても、一向にかまわないじゃないか」

 美里「わたし、古い西部劇で、二丁拳銃で、一度に同時に二人を殺す
   場面見ていて、この問題を連想しましたわ」

 先生「なるほど、正面の敵は、現実弁済の自動債権だ」

 美里「横には、自力救済禁止という敵ですね」

 先生「面白いね。敵は、不法行為の衣を被っている。・・それでは、
    チャンバラ映画の二刀流は、どうだ」

 美里「先生、同じことですわ。蛇足です」

 先生「(むっとして・・)もう止めておこう」

 

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        ★ 過去問の詳細な解説  第85回  ★

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  【テーマ】 民法 

    【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
     本年9月末頃を目途に、過去問の分析に加え、近時の傾向も取り
  入れた「オリジナル模擬試験問題」(有料)を発行する予定をして
   います。
     とくに、関連部分に言及した解説にも力を込め、よりよいものを
   目差して、目下準備中です。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 平成21年度・問題28
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  
   時効に関する次のA〜Eの各相談に関して、民法の規定および判例に
 照らし、「できます」と回答しうるものの組合せはどれか。


 Aの相談「私は13年前、知人の債務を物上保証するため、私の所有す
  る土地・建物に抵当権を設定しました。知人のこの債務は弁済期から
  1 1年が経過していますが、債権者は、4年前に知人が債務を承認して
  いることを理由に、時効は完成していないと主張しています。民法によ
  れば、時効の中断は当事者及びその承継人の間においてのみその効力を
 有するとありますが、私は時効の完成を主張して抵当権の抹消を請求で
  きますか。」


  Bの相談「私は築25年のアパートを賃借して暮らしています。このア
  パートは賃貸人の先代が誤って甲氏の所有地を自己所有地と認識して建
  てしまったものですが、これまで特に紛争になることもなく現在に至っ
  ています。このたび、甲氏の相続人乙氏が、一連の事情説明とともにア
  パートからの立ち退きを求めてきました。私は賃貸人が敷地の土地を時
  効取得したと主張して立ち退きを拒否できますか。」


 Cの相談「30年程前に私の祖父が亡くなりました。祖父は唯一の遺産
  であった自宅の土地・建物を祖父の知人に遺贈したため、相続人であっ
  た私の父は直ちに遺留分を主張して、当該土地・建物についての共有持
  分を認められたのですが、その登記をしないまま今日に至っています。
 このたび父が亡くなり、父を単独相続した私が先方に共有持分について
  の登記への協力を求めたところ、20年以上経過しているので時効だと
 いって応じてもらえません。私は移転登記を求めるころはできますか。」


  Dの相談「私は他人にお金を貸し、その担保として債務者の所有する土地 
  ・建物に2番抵当権の設定を受けています。このたび、1番抵当権の被
  担保債権が消滅時効にかかったことがわかったのですが、私は、私の貸金
  債権の弁済期が到来していない現時点において、この事実を主張して、私
  の抵当権の順位を繰り上げてもらうことができますか。」


 Eの相談「叔父は7年ほど前に重度の認知症になり後見開始の審判を受け
  ました。配偶者である叔母が後見人となっていたところ、今年2月10日
  にこの叔母が急逝し、同年6月10日に甥の私が後見人に選任されました。
  就任後調べたところ、叔父が以前に他人に貸し付けた300万円の債権が
  10年前の6月1日に弁済期を迎えた後、未回収のまま放置されているこ
  とを知り、あわてて本年6月20日に返済を求めましたが、先方はすでに
  時効期間が満了していることを理由に応じてくれません。この債権につい
  て返還を求めることができますか。」
   

  1 Aの相談とBの相談

  2 Aの相談とCの相談

  3 Bの相談とDの相談

  4 Cの相談とEの相談

 5 Dの相談とEの相談
 

 

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 ■ 解説
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   ◆ 参考書籍

  民法 1  勁草書房

 
  
   ◆ 各肢の検討


  ● Aの相談について

  これは、物上保証人が担保する債権が時効中断によって時効消滅しな
 い場合、担保物権たる抵当権はどうなるかという問題である。

  この場合、担保物権における付従性の原則(消滅における付従性)に
  より、その担保する債権が時効消滅しない間は独立に消滅時効にかから
 ない。
 
  本件では、私は、時効の完成を主張して抵当権の抹消を請求できない。

  したがって、「できます」と回答しうるものではない。

  以上、本件では、付従生の原則が頭にあれば、すっと、正解に達する。
  

   ★ 参考事項
 
  
  (1) 時効中断

     消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する
   (166条1項)から、債務の弁済期から進行する。本件では、
       弁済期から11年経過しているので、時効消滅する(167条)
    はずであるが、4年前の債務の承認による時効中断のため、
    その時から10年間は時効消滅しない(147条3号、157
    条1項)。以上により本件では、現在、当該債権の時効は完成
       していないことが前提になっている、

     本件では、時効中断の効力が及ぶ範囲が問題とされているが
   (148条)、当事者間に中断の効果が及びそのため、当該債権
       の時効が完成していないことになるだけの話である。結論に変
    わりはない。このよな文言に惑わされてはならない。

    (2) 396条との関係

     これは、その担保する債権が時効消滅しない間であっても、
      抵当権が独立に消滅することを定めているので、消滅における付
      従性の原則の例外である。

    しかし、債務者及び抵当権設定者には、本条の例外規定の適用
   はないので、本件における物上保証にあっては、その担保する債
   権が時効消滅しない間は独立に消滅にかからないという原則に従
   うのである。

    それでは、本条はどのような場合に適用されるか。これについ
   ては、以下のとおりである。

   「たとえば第三取得者または他の債権者に対する関係においては、
    債権が消滅時効にかからない場合においても、(抵当権は)独
    立に消滅時効にかかるものとされる(396条)。その時効期
    間は20年である(167条2項)。債権は一般に10年で消
    滅時効にかかるから(167条1項)、右の事例は債権につい
    て時効の中断の行われた場合に生ずるわけである。」(前掲書)


     ● Bの相談について
                 ・・・
        145条によれば、時効は、当事者が援用することを要する。
                  ・・・
    本件では、当事者である先代から賃貸人の地位を引き継いだ
      現在の賃貸人が、当該土地の取得時効を主張することは問題ない
     (162条1項)。

    本件のポイントは、当該土地を敷地とする建物の賃借人である
     私が、援用権者である賃貸人が時効を援用しない場合に、当該土
   地の所有権の取得時効取得時効を援用できるかということである。

   以下の判例がある。

   土地の所有権を時効取得すべき者から、その土地上に同人の所有
    する建物を賃借しているに過ぎない者は、右土地の取得時効の完成
  によって直接利益を受ける者ではないから、右土地の取得時効を援
    用することはできない(最判昭和44・7・15・・)。

   したがって、「私は賃貸人が敷地の土地の時効取得をしたとし
  て立ち退きを拒否『できます』」と回答しうるものではない。

  
   ★ 参考事項

    その他、争点になる点は、以下のとおりである。

  (1) 本件では、当該土地について、先代の賃貸人の占有を相続
    した原賃借人が両者合わせて25年間「特に紛争になること
    もなく」すなわち、「平穏に、かつ、公然と」占有を継続し
        ているので、162条1項の適用が前提になっている。
     なお、当該占有は賃借人による占有であるので、代理占有
    であることに注意せよ(181条)。

   (2)本件においては、当該賃借人は、時効の援用権が認められ
       なかったのであるが、当事者以外において、時効によって取
    得される権利に基づいて権利を取得した者も広く援用権者に
    含まれるとする判例の立場からは、次の記述が参考になる。

   「この見地からは、取得時効についてみると、たとえばAの所
    有地を時効によって取得するBから地上権等の設定を受けた
        CにはBの取得時効の援用権がある。つまり、この場合Bが
        援用しなければ、Cは独自にBの取得時効を援用して、Aに
        対し、当該の土地の上に地上権等を有することを主張できる
        ことになる。」(前掲書)

         以上の理からすれば、

     時効取得される土地の賃借人(当該地上の建物の所有者)も
    また、援用権者に含まれることになるであろう。

     本件と以上の事例を比較すれば、

     時効の完成によって直接利益を受けるのかどうかが、時効の
        援用権者の範囲に関する判例の基準になるのであろう。


  
   ● Cの相談について

     167条2項によれば、所有権は消滅時効にかからない。

   以上を前提にした判決がある。

   遺留分権利者が減殺請求によって取得した不動産の所有権に基づく
   登記手続請求権は時効によって消滅することはない(最判H7・6・9
  ・・)。

   この判決を本件に照らすと、本件における先方の言い分である「20
   以上経過しているので時効だ」というのは、妥当でないので、私は移転
  登記を求めることは「できます」と回答しうる。

  
   ★ 参考事項


   (1) 本件では、祖父による知人の受遺者に対する遺贈に関する父の
     遺留分請求は、共有持分2分の1について認められることになる
     (1028条2号・1031条)。

    (2) つぎに、所有権が時効消滅しないことに関連する判決(最判
      昭和51・11・8・・)があるので、以下にその判旨を掲げ
      ておく。
     
      不動産の譲渡による所有権移転登記請求権は、右譲渡によって
     生じた所有権移転に付随するものであるから、所有権移転の事実
     が存する限り独立して消滅時効にかかるものではないと解すべき
     である。

  
  ● Dの相談について

   本件は、消滅時効の援用権者に関する問題である。

   判例は、145条の当事者に該当しなくても、時効によって消滅した
  時効の完成によって、利益を受ける者も広く援用権者に包含する。

   しかし、本件に関しては、以下の判例がある。

  「後順位抵当権者は先順位抵当権者の被担保債権の消滅時効を援用する
      ことができない」(最判平11・10・21・・・)

   したがって、本件において、私は1番抵当権の被担保債権の消滅時効
  を援用して「私の抵当権の順位を繰り上げてもらうことが『できます』」
    と回答しうるものではない。

   
   ★ 本題に関しては、以下の記述を参照せよ。

   「連帯保証人(439条参照)や保証人(大判大正4・12・11・・)
 は、直接の当事者として主たる債務の消滅時効を援用できるとされて
    いるが、物上保証人や抵当不動産の第三取得者(最判昭和48・12・
        14・・・)も、自分の負担する抵当権の基礎としての債務の消滅時
    効を援用して、抵当権を消滅させることができる。」(前掲書)

  
  ● Eの相談について

   本件は158条の規定する成年被後見人と時効の停止の問題である。

   本件において、158条1項前段を適用すれば、成年被後見人である
    叔父の法定代理人である成年後見人がないときは、成年後見人に付され
    た叔母の死亡によって成年後見が終了した今年の2月10日から甥の私
    が成年後見人選任された同年6月10日の間である(7条・8条参照)。

   他方叔父が以前に貸し付けた債権の時効が完成したのは、弁済期から
  10年経過した今年の6月1日ということになる(167条1項)。

   したがって、時効の期間満了前6箇月以内の間に成年後見人がない
   ときに該当するため、私が後見人に就職した時から6箇月を経過するま
   での間は、時効は完成しないことになる(158条1項後段)。

   以上、本件においては、私が成年後見人に選任されてから10日後
   の6月20日に債権について返還を求めることは「できます」と回答し
   うる。

 
   なお、本件は単純な158条の条文適用の問題であるが、この条文
    自体がなじみの薄いものであるため、即座に回答を導くのは困難であ
    ると思われる。

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   「できます」と回答しうるものは、Cの相談とEの相談であるから、
 4が正解である。 

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  ◆  付 言

  事案における事実関係を素早く把握し、簡潔な構成へと再構成する訓練
  が望まれる。

  逆に、参考事項に掲げられた判例などを素材にして、ご自分で事実関係
  を構築し、それぞれに、相談内容を作成してみるのも一考であろう。

   

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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         ★ 過去問の詳細な解説  第 84  回  ★

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  【テーマ】 会社法 

    【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
     本年9月末頃を目途に、過去問の分析に加え、近時の傾向も取り
  入れた「オリジナル模擬試験問題」(有料)を発行する予定をして
   います。
     とくに、関連部分に言及した解説にも力を込め、よりよいものを
   目差して、目下準備中です。


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 ■ 平成18年度・問題38
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
   株主総会に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当
 でないものはどれか。

 1 招集権者による株主総会の招集の手続を欠く場合であっても、株主
   全員がその開催に同意して出席したいわゆる全員出席総会において、
   株主総会の権限に属する事項について決議したときには、この決議は
   株主総会の決議として有効に成立する。

 2 株主総会において議決権を行使する代理人を株主に限る旨の定款の
   規定は、株主総会が第三者により撹乱されることを防止して、会社の
   利益を保護する趣旨にでた合理的理由による相当程度の制限であって、
   有効である。

 3 株主は、自己に対する株主総会の招集手続に瑕疵がなくとも、他の
   株主対する招集手続に瑕疵がある場合には、株主総会の決議取消の訴
   えを提起することができる。

 4 株主総会の決議取消しの訴えを提起した場合において、その提訴期
  間が経過した後であっても、新たな取消事由を追加して主張すること
   ができる。

 5 株主総会の決議の内容自体に法令または定款違背の瑕疵がなく、単
   に決議の動機または目的において公序良俗に反する不法がある場合は、
  その株主総会の決議は無効とならない。  
   

 
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 ■ 解説
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 ☆ 参照書籍

     会社法   神田 秀樹著   弘文堂

 ◆ 各肢の検討

  
  ○ 1について

    株主総会は、取締役が株主を招集して開催する(296条3項)。

    ただし、最判昭和60・12・20・・によれば、本肢で記述さ
   れている「全員出席総会」(代理人でも可とされていることに注意)
     おいては、招集の必要はないとされた。

    したがって、当該決議は、株主総会の決議として有効に成立する
      ので、本肢は妥当である。

    ★ 関連事項

     平成14年改正は、議決権を行使できる株主全員が同意した
 場合には、招集手続なしで開催できることを明文で認め、会社
        法もこれを引き継でいる(300条本文。なお同ただし書)。
    《前掲書》
 

  ○ 2について

   株主は代理人により議決権を行使できる(310条1項前段)。

   多くの会社では、定款で代理人の資格を株主である旨を限定し
    ているが、最判昭和43・11・1・・は、本肢で記述されてい
  る合理的理由があるとして、代理人を株主に限るという定款の規
  定は、有効であるとした。

   したがって、本肢は、妥当である。

   ★ 関連事項

    次の判例にも注意!

    定款で議決行使の代理人資格を株主に限定している会社が、
      株主である地方公共団体または会社の職員または従業員に議
      決権を代理行使させても、違法ではない(最判昭和51・
   12・24・・・)。

    次の点と混同しないように!!

    定款で取締役の資格を株主に限定することはできない[公開
     会社は別](331条2項)。

 
  ○ 3について

    株主総会の招集通知もれは、831条1項1号により、株主総会
   の決議取消の訴えの取消事由になる。

   招集通知が他の株主になされず自分に来ている場合に取消しの訴
    えを起こせるかについては、株主は自分にとっての瑕疵だけを問題
    にできるとしてこれを否定する見解も有力であるが、これを肯定す
    るのが多数説・判例である(最判昭和42・9・28・・・)。
  (前掲書)
   

   以上の記述に照らせば、本肢は、妥当である。

 
  ○ 4について

   判例(最判昭和51・12・24・・)株主総会決議取消しの訴え
    を提起した後、831条1項の期間経過後に新たな取消事由を追加主
    張することは許されない。

   本肢は、以上の判例に反するので、妥当でない。

  
  ○ 5について

   830条2項の決議無効確認の訴えの無効事由については、本肢の
    記述どおりの判例がある(最判昭和35・1・12・・)。

   本肢は妥当である。


   ---------------------------------------------------------

       以上、妥当でないのは、4であるから、4が正解である。
   

   ---------------------------------------------------------

  注・判例に関しては、判決時期からして、旧商法の条文が該当する
    が、すべて会社法の該当条文を掲げた。

 


 ◆ 付 言

  
  すべての判例について、正確な知識がなくても、各肢の比較衡量に
  より正解を導くことができるだけの「会社法」の素養を身に着けてお
  きたい。

  そのためには、過去問等の各肢を検討しながら、できるだけ多くの
 問題に接することが大切である。おそらくは、その過程において、
  素養を獲得できると思う。

  あわただしい、条文の走り読みや薄い教科書の通読だけでは、会社
  法の膨大な量からして、点数を稼ぎだすのは困難かもしれない。 
 
 


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               ★ 過去問の詳細な解説  第79回  ★

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  【テーマ】   民法 

    【目次】     問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
     本年9月初頭には、過去問の分析に加え、近時の傾向も取り入
   れた「オリジナル模擬試験問題」(有料)を発行する予定をして
  います。
     とくに、関連部分に言及した解説にも力を込め、よりよいもの
   を目差して、目下準備中です。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ A・平成21年度 問題 27
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  
  代理に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当な
 ものはどれか。

 
  1 Aは留守中の財産の管理につき単に妻Bに任せるといって海外へ単
  身赴任したところ、BがAの現金をA名義の定期預金としたときは、
    代理権の範囲外の行為に当たり、その効果はAに帰属しない。

  2  未成年者Aが相続により建物を取得した後に、Aの法定代理人であ
    る母Bが、自分が金融業者Cから金銭を借りる際に、Aを代理して行
    ったCとの間の当該建物への抵当権設定設定契約は、自己契約に該当
    しないので、その効果はAに帰属する。

  3 A所有の建物を売却する代理権をAから与えられたBが、自らその
    買主となった場合に、そのままBが移転登記を済ませてしまったとき
    には、AB間の売買契約について、Aに効果が帰属する。

  4 建物を購入する代理権をAから与えられたBが、Cから建物を買っ
    た場合に、Bが未成年者であったときでも、Aは、Bの未成年者であ
    ることを理由にした売買契約の取消しをCに主張することはできない。

  5 Aの代理人Bが、Cを騙してC所有の建物を安い値で買った場合、
    AがBの欺罔行為につき善意無過失であったときには、B自身の欺罔
    行為なので、CはBの詐欺を理由にした売買契約の取消しをAに主張
    することはできない。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ B・ 平成11年度 問題 27
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  

   民法上の代理に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。


 1 任意代理人は、本人の許諾又はやむを得ない事由がなければ復代理
  人を選任することはできないが、法定代理人は、本人の許諾を必要と
   せず、その責任において復代理人を選任することができる。

 2 同一の法律行為について、相手方の代理人となり、又は当事者双方
   の代理人となることは、いかなる場合であっても許されない。

 3 代理権は、本人の死亡により消滅するが、代理人の死亡、若しくは
   破産手続開始の決定又は代理人が後見開始の審判を受けたこと、若し
   くは保佐開始の審判を受けたことによっても消滅する。

 4 無権代理人が契約をした場合において、相手方は、代理権のないこ
   とを知らなかったときに限り、相当の期間を定め、当該期間内に追認
   するかどうか確答することを本人に対して催告することができる。

 5 表見代理が成立する場合には、本人は、無権代理人の行為を無効で
   あると主張することができないだけでなく、無権代理人に対して損害
   賠償を請求することもできない。 

  

 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  

  ◆  参照書籍

     勁草書房 民法 1
 

  ◆    AとBの問題の対比

   奇しくも、本試験において、10年間をおいて、問題27という同一
  番号で、代理に関して問われている。

   両者を比較して歴然としているのは、前者が、具体的事例に民法の条
   文を適用させるのに対して、後者は主に、単なる条文知識を問うのが主
   力であるということである。

   したがって、正確な条文知識を前提に、実践的な問題の処理能力を鍛
 錬することが、将来の民法に関する対策である。

  以上から、従来型に加えて、新傾向の問題をしっかりと解くことが肝要
  であると結論づけられる。


  ◆ A・平成21年度 問題

 
  ★ 各肢の検討

  
   ○ 肢1について
        
                   
             Aの現金をA名義の定期預金にした
  
   本人A---------妻B

   条文 103条2号

    本条は、代理権が授与されたことは明らかだがその範囲が特に定
      められなかなかった場合についての基準を明らかにしている。本肢
      の場合、財産管理について「単に任せる」となっているので、本条
   に該当する。
    
    この場合、民法103条2号によると「物または権利の性質を変
   じない範囲でそれを利用して収益をはかる行為(利用行為)」は許
      される。

    本肢では、現金を定期預金としたというのであるから、当該利用
      行為に該当するので、代理権の範囲内の行為に当たり、その効果は
      Aに帰属する。

    本肢は、誤りである。

     ☆ 参考事項

      (1)同じ利用行為でも、銀行預金を個人の貸金にするの
        は、危険の度合が大きくなり、性質を変ずるものでこ
        こ含まれない。

      (2)その他権限内の行為として ア 財産の現状を維持
                 する行為(保存行為・103条1号) イ さきの
                 利用行為と同じ範囲で使用価値または交換価値を増
                 加する行為(改良行為)がある。
    
      (以上 前掲書 参照)


   ○  肢2について
         

     A(未成年者)

        ↓代理行為 建物に対する抵当権設定契約    
     
     B(法定代理人)-----------------------C(金融業者)


            条文 民法826条

        親権を行う母(B)とその子(A)との利益が相反する
             行為(Bの借金のために、Aの所有不動産に抵当権を設定
             する行為)については、家庭裁判所で選任された特別代理
             人が代理行為を行うことになっているから、BがAを代理
       するのは、(818条・824条参照)、無権代理になる。

        したがって、Aに効果が帰属しないので、本肢は妥当
              でない。

        なお、本件は、A・B間の法律行為について、BがAを
              代理するという自己契約ではないが、実質的にみて、利益
              が相反するのである。、「自己契約に該当しないので、そ
              の効果はAに帰属する」と言う文言に惑わされないように。

 


    ○ 肢3について
 
                  
        本人A------------代理人兼買主 B

  
    条文 108条

    本肢は、本条の禁止する自己契約に該当し、同条ただし書きに
      も相当しないので、Aに効果が帰属しない。

      同条の禁止する自己契約も双方代理も、「代理の理論からみて
    不可能なわけではない。しかし、このような行為を無条件で許す
   と本人の利益が不当に害されるおそれがある。そこで民法は原則
      としてこれを禁じた。」(前掲・勁草書房)

     本肢は妥当でない。

 

      ○ 肢4について


       未成年者  
  
       本人A--------代理人B----------相手方C

      条文 102条

     本条の意味するところは、未成年者の行った代理行為も相手方C
    との関係では完全に有効であって、民法5条2項に基づ いて、取り
     消しうるものではない、とうことである。

     その理由→「代理人はみずから行為するものであるが、その効果
    はすべて本人が受けるのであるから、代理行為が判断を誤って行わ
   れても代理人自身は少しも損害を被らない。・・・未成年者が代理
   人であっては本人は損失を被ることになるかもしれない。しかし
    それは本人がこの者を代理人に選んだのであるから自業自得である。」
   (前掲 勁草書房)

      したがって、Aは、Bの未成年であることを理由にした売買契
    約の取消しをCに主張することはできないので、本肢は妥当であ
   る。
    
   ☆ 発展問題

    この場合に未成年者が本人との間の委任契約を取り消して
      はじめからなかったことにすると(5条・121条参照)、
   これに伴う授権行為も翻ってその効力を失うことになれば、
      どうなるか。
    そうすると、すでになされた代理行為も無権代理行為にな
      って、相手方が不測の損害を生じ、102条の趣旨が生かさ
      れなくなる。そのため、学者は、委任契約の取消しは過去の
      代理関係に影響しない、すなわち、代理関係は将来に向かっ
      て消滅するが、すでになされた代理行為には影響しないと解
      することによって、その不都合を解消しようとしている。
   (前掲書 参照)

 

   ○ 肢5について


                 詐欺 
   
    本人A-------代理人B---------相手方C

    条文 101条1項

      代理行為は代理人自身の行為である。本人の行為とみな
          されるのではない。詐欺というような、法律効果に影響
     を及ぼす法律行為の瑕疵の有無はことごとく代理人に自
          身について定めるべきであって、本人について定めるべ
          きではない。(前掲書・参照)
    
     したがって、本肢において、本人であるAが善意無過失
    であっても代理人Bから欺罔行為を受けたCは、Bの詐欺
        を理由に当該売買契約を取り消すことができる(民法96
        条1項)。

          以上の記述に反する本肢は、妥当でない。


 
         以上からして、正解は4である。
 


         
   ◆ A・平成11年度 問題
 
  
   ○  肢1について

    民法104条と106条の対比により、正しい。しかも、
   これが、正解である。実に、あっさりとしたものである。


     ○  肢2について

       民法108条のただし書きにより、正しくない。


   ○ 肢3について

        民法111条1項2号には、保佐開始の開始の審判をを受け
      たこと(11条参照)は、掲げられていない。 正しくない。

    ○ 肢4について

      民法114条によれば、悪意の相手方にも催告権が認められる。
   正しくない。

     なお、悪意の相手方には取消権が認められないことに注意
     (115条)。

  ○  肢5について   

      前段については、109条・110条・111条の規定の基づき
      本人は無効を主張できないが、この場合、本人が、無権代理人に対
   して、債務不履行ないし不法行為に基づき損害賠償を請求できるの
      は、当然である(415条・709条)。


      正解は、1である。

 
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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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          ★ 過去問の詳細な解説  第78回  ★

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  【テーマ】
  
      会社法 

    【目次】   問題・解説

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 ■ 平成21年度 問題37
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  
   株式会社の定款に関する次の記述のうち、会社法の規定および判例に
 照らし、妥当なものはどれか。

 1 会社設立時に株式会社が発行する株式数は、会社法上の公開会社の
    場合には、発行可能株式総数の4分の1を下回ることができないため、
  定款作成時に発行可能可能株式総数を定めておかなければならないが、
    会社法上の公開会社でない会社の場合には、発行株式数について制限
    がなく、発行可能株式総数の定めを置かなくてもよい。

  2 株式会社は株券を発行するか否かを定款で定めることができるが、
    会社法は、株券を発行しないことを原則にしているので、株券を発行
    する旨を定款に定めた会社であっても、会社は、株主から株券の発行
  を請求された段階で初めて株券を発行すれば足りる。

  3  株主総会は株主が議決権を行使するための重要な機会であるため、
  本人が議決権を行使する場合のほか、代理人による議決権行使の機会
    が保障されているが、会社法上の公開会社であっても、当該代理人の
  資格を株主に制限する旨を定款に定めることができる。

  4 取締役会は、取締役が相互の協議や意見交換を通じて意思決定を行
    う場であるため、本来は現実の会議を開くことが必要であるが、定款
    の定めにより、取締役の全員が書面により提案に同意した場合には、
    これに異議を唱える者は他にありえないため、当該提案を可決する旨
    の取締役会の決議があったものとみなすことができる。

  5 取締役会設置会社は監査役を選任しなければなっらないが、会社法
    上の公開会社でない取締役会設置会社の場合には、会計監査人設置会
    社であっても、定款で、監査役の監査権限を会計監査に限定すること
    ができる。
  
 
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 ■ 平成21年度 問題 40
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
   取締役会の選任および解任に関する次の記述のうち、正しいものは
 どれか。


  1 すべての株式会社は、定款において、取締役の資格として当該
    株式会社の株主である旨を定めることができる。

  2  取締役の辞任により員数が欠けた場合、当該取締役は、直ちに
    取締役としての地位を失うのでなく、新たな取締役が就任するま
  での間は、引き続き取締役としての権利義務を有する。

  3 解任された取締役であっても、正当な事由なく解任された場合
    には、新たな取締役が就任するまでの間は、当該取締役は引き続
    き取締役としての権利義務を有する。

  4 利害関係人の申立により裁判所が一時取締役を選任した場合、
    当該一時取締役が株式会社の常務に属しない行為をするには、裁
    判所の許可が必要である。

  5 取締役が法令もしくは定款に違反する行為をし、当該行為によ
    って株式会社に著しい損害を生じるおれがある場合には、株主は
  直ちに当該取締役の解任の訴えを提起することができる。

 

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 ■ 解 説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
   ■   参考図書

   会社法  神田 秀樹 著   弘文堂

 
   ■   平成21年度 問題37

 
     ◆   各肢の検討

  
   ○ 肢1について
  
   
      ここでは、以下の二つのルールを把握していればよい。

   その1・発行可能株式総数は、27条1項1号〜5号と並んで定款の
       絶対的記載事項であるが、他と異なり、定款認証時には、不
       要で、会社成立時までに発起人全員の同意で定めることが認
              められる(37条1項なお、2項も参照)。

          以上は、公開会社・公開会社でない場合に共通である。

   その2・公開会社では、「設立時発行株式の総数」は発行可能株式総
              数の4分の1以上でなければならない(37条3項)。いわ
              ゆる4倍ルールが働くのは、公開会社のみである。

           この二つのルールが把握されていれば、以下のabcが判明
              する。
 
     a 4倍ルールは妥当であるとしても、
 
     b 公開・公開でない場合を問わず、定款作成時に発行可能株式
       総数を定めておかなくてもよいので、これに反する記述は妥当
             でない。

        c 公開会社でない場合には、発行可能株式総数の定めを置かなく
           ても よいというのは、デタラメである。

          以上により、本肢は妥当でない。 
 

         ☆ 参考事項
 
    (1) 絶対的記載事項⇒定款に必ず記載しなければならない事項を
       いう。その記載がないと定款全体が無効になる。

     (2) 公開会社⇒2条5号に定義ある。要するに全部株式譲渡制限
       会社以外の会社である。会社法上は、上場会社を意味しないこ
            とに注意!

       (3) 授権株式制度⇒会社が将来発行する予定の株式の数(これが、
       ここでいう「発行可能株式総数」である)を定款で定めておき
     (37条1項・2項)、その「授権」の範囲内でか会社が取締役
           会決議等により適宜株式を発行することを認める制度。
      
             会社法の採用する制度である。

       (以上、前掲書 39頁・62頁参照)

 
  ○ 肢2について

      ここでは、以下の2点が把握されていればよい。   

   その1・会社法上、会社は原則として株券を発行しないものとし、株券
       の発行を定款で定めた場合に限って株券を発行することにした
      (214条)。
 
  
   その2・このような株券発行会社は、遅滞なく株券を発行しなければな
       らないのが原則であるが(215条1項)、
       公開会社でない株券発行会社には、本肢のような例外が認めら
       れる(215条4項・平成16年改正による)。

                                 ・・
      以上のとおり、株券の発行を定款で定めれば、株券の発行が原則
     であることが念頭にあれば、本肢が妥当でないのは明らかである。

  ○ 肢3について

   
   「株主は代理人により議決権を行使できる(310条前段)。多くの会社で
  は、定款で代理人の資格を株主に限定しているが、そのような限定は許さ
  れると 解されている(最判昭和43.11.1・・・)。」
      (前掲書 156頁) 

   したがって、公開会社の場合においても、限定が許されることはない
    とはいえない。

   判例もあり、この点について、確りとした知識があれば、他を無視し
  ても本肢を正解とすることができる。


   ☆ 参考事項

   (1) 定款で議決権行使の代理人資格を株主に限定している会社が、
           株主である地方公共団体または会社の職員または従業員に議決権
           を代理行使させても、違法ではない(最判昭和51・12・24
           ・・・)。

       (2) 関連するものとして、
     
      定款で取締役の資格を株主に限定することは許されない[公開会社
     以外は別](331条2項)。

  
   ○  肢4について 

     370条の条文と本肢を対比すれば、原則的には妥当である。
   しかし、同条( )書きに反する。
 
    本肢は、妥当でない。しかし、本肢をみていて、出題の不適切さに
   やるせなさを感じるのは、私だけであるのか。

  
    ☆ 参考事項

    「改正前商法では、決議は適法に開催された取締役会での決議でなけ
      ればならず、書面による決議や持ち回り決議は認められなかった(最
      判昭和44・11・27・・・)」(前掲書180頁)。
   
     しかし、会社法では、定款で定めれば、取締役会 開催の省略を認め
    たのである。

  ○ 肢5について

   本肢は、正確に理解しようとすれば、難しいが、順序立てて、説明して
    おく.


     公開会社は取締役会が必要であるが(327条1項1号)、公開会社
   でない会社であっても、定款の定めにより、取締役会を任意に置くことが
   できる(326条2項)。

   したがって、「会社法上の公開会社でない取締役会設置会社の場合」は、
  存在し得る。

    取締役会設置会社は、原則として、監査役を置かなければならない
 (327条2項)。

  以上から、公開会社でない会社-----取締役会-------監査役 という線
  が成立する。


  そこから、条文は、389条1項に飛ぶ。

  そこでは、原則として、公開会社以外の会社では、定款で、監査役の監査
  権限の範囲を(業務全般の監査≪381条1項≫のうち)会計監査に限定す
  ることが認められる(389条1項)。
                            (注)
  しかし、その例外として、同条同項の括弧書きにおいて、会計監査人
  設置会社《監査役会設置会社も》 が掲げられているので、本肢にあっ
 ては、「会計監査に限定することができない」ことになる。

  これも、最終的には、389条1項の(  )書きからの出題である。

   
  本肢は、以上の記述に反するので、妥当でない。

 
   注 会計監査人の規定は、337条以下にある。

 
------------------------------------------------------------
  以上妥当であるのは、3であるから、これが正解である。
--------------------------------------------------------------

 ★ 付 言

   本問を概観すると条文の細かい規定を問うものであり、要求過多の
    面がある。
   肢3については、基本判例もあり、ズバリ、ここで、わたりがつけ
  られるとよいのだが・・・。
  

 
  ■   平成21年度 問題40

    ◆   各肢の検討

  
   ○ 肢1について

    定款で、取締役の資格を株主に限定することは許されないが、公開
     会社以外の会社は別である(331条2項)。

      以上のとおり、公開会社以外の会社は限定が許されるので、誤りで
    ある。

   なお、公開会社においても、株主を取締役に選任することはもちろん
    認められ、実際にもそのような場合が多いことに注意。
  (前掲書 170頁)


   ○ 肢2について 

    346条1項によれば、取締役の欠員の場合の処置として、正しい。

    当該規定の役員は、取締役のほか、会計参与及び監査役である
     (329条1項)。

   本肢が正解である。

    なお、この間、退任の登記もできないことに注意。
     (最判昭和43・12・24・・・)
    (前掲書 174頁)

  ○ 肢3について
 
    346条1項によれば、後任者が就任するまで引き続き取締役
   としての権利義務を有するのは、任期満了または辞任により退任
   した場合である。

    解任の場合には、裁判所に請求して一時取締役として職務を
   行う者(仮取締役)を選任してもらうことができる。
  (346条2項・3項)。

    本肢は誤りである。

  ○ 肢4について

   肢3の仮取締役の権限は、普通の取締役と同じであるから、
    裁判所の許可は不要である。誤りである。

  
  ○ 肢5について 

   会社法854条が規定する役員の解任の訴は、以下のとおり規定
  する。
   
   株主総会において、取締役に対する解任の決議が成立しなかった
   場合でも、その取締役が不正の行為をしたとき、または法令・定款
    に違反する重大な事実があったときは、少数株主は、30日以内に
  その取締役の解任の訴えを提起することができる。 

   したがって、株主は直ちに当該取締役の解任の訴えを提起するこ
    とができるのではない。

   本肢は誤りである。

   ☆ 参考事項

  (1) 当該解任の訴は、株主総会で多数が得られず解任決議が成立
       しなかったときに、少数株主にその修正を求める制度であるこ
     とに注意!(前掲書 174頁)。
    
     (2) 少数株主に株主総会の招集権あることに注意!(297条)

     通常、少数株主は、総会の招集を求め、総会で解任決議が成功
       しなかったときに、解任の訴えを提起する(前掲書 174頁)

  
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        以上により、本問の正解は、2である。
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