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            ★ オリジナル問題解答 《第31回 》 ★

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                    PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  民法

   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■   オリジナル問題 解説
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 ★ 参考書籍 
  
  民法一 内田 貴 著・東京大学出版会
   
   民法 1 ・ 我妻栄/有泉亨著・勁草書房

   
 
  
 ● 各肢の検討

   
 ○ アについて

   CがBの時効完成前に譲渡を受けた場合には、BとCは当事者の
 関係に立ち、CがBの時効完成後に譲渡を受けた場合には、両者は、
 対抗関係に立つというのが、判例の考え方である。

    判例は、そこを基軸 にして、前者ではBは、登記なくして取得
  時効 による所有権取得をCに対抗できるとし、後者では、Bは登
  記なくして所有権をCに対抗できないとした。

    本肢の事例は、後者に該当するため、本来は、Bは登記なくして
  所有権をCに対抗できない。

  しかし、判例は、177条の適用に当たり、背信的悪意者には、登
 記なくしても、所有権を対抗できるとするが、本肢の事例について、
 判例 (最判平18・1・17民集601−1−27)は、Cを背信的
 悪意者と認めた。

  したがって、Bは登記なくして所有権をCに対抗できるので、本肢
 は妥当である。

 

 ○ イについて

  これは、物上保証人が担保する債権が時効中断によって時効消滅し
 ない場合、担保物権たる抵当権はどうなるかという問題である。

  この場合、担保物権における付従性の原則(消滅における付従性)
 により、その担保する債権が時効消滅しない間は独立に消滅時効に
 かからない。

    本肢では、以下のとおり、時効中断が生じているので、Bが債務
  者になっている債権の消滅時効は完成していない。したがって、A
  は時効の完成を主張して抵当権の抹消を請求できないので、本肢は
  妥当である。 
 
 
  時効中断

     消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する
   (166条1項)から、債務の弁済期から進行する。本件では、
       弁済期から12年経過しているので、時効消滅する(167条)
    はずであるが、3年前の債務の承認による時効中断のため、
    その時から10年間は時効消滅しない(147条3号、157
    条1項)。
   
    なお、148条によると、時効の中断は、当事者及びその承継
   人の間においてのみ、その効力を有するとあり、物上保証人に中
   断の効果が生じないのではないかという疑問もあるが、当事者で
   あるBに時効中断の効果が及ぶため、Bの債務が消滅しない以上、
   担保権の付従性により、Aが時効の完成を主張することは許され
    ない。判例(最判平7・3・10判時1525―59)も同旨で
   ある。しかし、本肢は、判例を知らなくても、理論的に解ける問
   題である。
   
    ※ 参考事項

   396条との関係

     これは、その担保する債権が時効消滅しない間であっても、
      抵当権が独立に消滅することを定めているので、消滅における付
      従性の原則の例外である。

    しかし、債務者及び抵当権設定者には、本条の例外規定の適用
   はないので、本件における物上保証にあっては、その担保する債
   権が時効消滅しない間は独立に消滅にかからないという原則に従
   うのである。

    それでは、本条はどのような場合に適用されるか。これについ
   ては、以下のとおりである。

   「たとえば第三取得者または他の債権者に対する関係においては、
    債権が消滅時効にかからない場合においても、(抵当権は)独
    立に消滅時効にかかるものとされる(396条)。その時効期
    間は20年である(167条2項)。債権は一般に10年で消
    滅時効にかかるから(167条1項)、右の事例は債権につい
    て時効の中断の行われた場合に生ずるわけである。」(前掲・
    民法 1)


 ○ ウについて

   145条の時効の援用権者については、判例は、広く包含する立場
 に立って、時効によって取得した所有権に基づいて権利を取得した者
 も援用権者として認める。この見地からすれば、本肢事例にみるよう
 に、C所有の甲地を時効によって取得するBから地上権の設定を受け
 たAには、Bの取得時効の援用権があることになる。つまり、この場
 合Bが援用しなければ、Aは独自にBの取得時効を援用して、Cに対
 し、甲地の上に地上権を有することを主張できることになる(前掲
 民法 1 参照)。

  したがって、以上の記述に反する本肢は妥当でない。

  ※ 参考事項

   (1) 本肢事案に相当する判例があるのか、どうかは、参考文
      献の記述では明らかではない。
       なお、過去問(平成21年度問題28 Bの相談 )で
      も問われた次の判旨に基づく判例(最判昭44・7・15
      民集23−8−1520)があることに注意せよ。

       土地の所有権を時効取得すべき者から、その土地上に同
                      ・・・・・
      人の所有する建物を賃借しているにすぎない者は、右土地
                  ・・・・・・・・・・・・・
      の取得時効の完成によって直接利益を受ける者ではないか
      ら、右土地の取得時効を援用することはできない(・・・
      ・・は筆者が付した)。

   (2) 本肢では、甲地の時効取得者であるBが、Aに地上権を
      設定させているのであるから、162条にいう占有は代理
      占有であることに注意(181条)。
 

 ○ エについて

    167条2項によれば、所有権は消滅時効にかからない。以上を
  前提にした下記判決がある。

   不動産の譲渡による所有権移転請求権は、右譲渡によって生じ
  た所有権移転に付随するものであるから、所有権移転の事実が存
  する限り独立して消滅時効にかかるものではないと解すべきであ
  る(最判昭51・5・25民集30−4−554)。

   したがって、Aは、Bを相続したCに対して、所有権移転登記
  を求めることができるので(896条参照)、本肢は妥当でない。

   なお、過去問(平成21年度問題28 Cの相談 )でも問わ
  れた次の判旨に基づく判例(最判平7・6・9判時1539−6
  8)があることに注意せよ。

   遺留分権利者が減殺請求によって取得した不動産の所有権に基
  づく登記手続請求権は時効によって消滅することはない。


  ○ オについて

   Aが、抵当不動産について、162条1項の要件を満たす占有をし
 たことにより、所有権を時効取得した場合には、Aが債務者でもなく、
 抵当権の設定者でもなければ、抵当権はこれによって消滅する(39
 7条)。取得時効は原始取得として完全な所有権を取得させるものだ
 からである(前掲 民法 1)。

  なお、本肢では、Aは、債務者でもなく、また、Bが抵当権設定者
  であって、Aは、抵当権設定者でないことが前提になっているので、
 397条の適用を受ける適格がある。

   以上の記述に照らし、本肢は妥当である。

 ※ 参考事項

  過去問(平成21年度 問題29 肢エ)において、以下の出題が
 されている。

  Aに対して債務を負うBは、Aのために、自己が所有する土地に抵
 当権を設定した場合において、

  第三者がCが、土地の所有権を時効によって取得した場合には、A
 の抵当権は、確定的に消滅する。

  -----------------------------------------------------------
   本肢では、Cは、債務者でもなく、抵当権設定者でもないため、
  397条が適用される。本肢は妥当である。
  -------------------------------------------------------------

 
 ● 本問では、ウとエが妥当でないので、2が正解である。  
 

 
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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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             ★ オリジナル問題解答 《第29回》 ★

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                     PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  会社法

   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■   オリジナル問題 解説
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   問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
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   ★  参考文献

    会社法 神田秀樹 著 ・ 弘文堂
 
  リーガルマインド
  会社法 弥永真生 著 ・ 有斐閣

 
  【問題1】

   
  ○ アについて

   発起設立は、設立の企画者であり設立事務の執行者である発起
    人が設立の際に発行する株式(設立時発行株式)のすべてを引き
    受け、会社成立後の当初株主になる形態の設立方法(会社法25
    条1項1号)。

    募集設立は、発起人は設立の際に発行する株式の一部だけを引
   き受け、残りについては発起人以外の者に対して募集を行い、そ
   のような発起人以外の者が株式の引受けを行い、発起人とそのよ
   うな者とが会社成立後の当初株主になる設立方法(法25条1項
   2号)。
 

    発起設立は、発起人の出資の履行(34条)後,発起人だけで設
   立時取締役等の選任を行い(38条以下)選任された設立時取締
   役等が、設立経過の調査を行う(46条・93条)。

    募集設立にあっては、発起人の出資履行(34条)・設立時募集
   株式の引受人による払込(63条)後、 創立総会(設立時株主≪設
   立時に株主となる株式 引受人≫からなる議決機関)が招集され、そ
   こで、設立時取締役等の選任を行い(88条)、定められた設立経
   過等の調査を行う(93条2項・96条)。

   以上の記述から以下のようにいえる。

   募集設立は、発起人だけで当初の出資をまかなうことが困難な大
   規模な株式会社を設立するのに適してるといえるが、反面、発起設
   立にはない株主の募集や創立総会の手続を必要とする点で面倒であ
   る。

  本肢は妥当である。


  《以上は、神田会社法から抜粋》

 

   ○ イについて

  
    設立時募集株式の引受人が払込をしなかった場合は、当然に失権
  する(63条3項)。当然失権することの意味は、条文にあるとお
  り、「設立時募集株式の株主となる権利を失う」ことである。
 
  発起人が払込をしなかった場合は、失権予告付で払込みを催告し、
  払 込がなければ引受人を失権させる(36条)。

  以上のとおり、発起人が払込をしなかった場合にも、失権する。

  本肢は妥当でない。
 

  
  ○ ウについて

  会社設立に際しては、現物出資者が発起人に限られるというのは、
 次のとおり条文解釈によって導かれる(前掲書リーガル参照)。

  34条と63条とを対照。

  34条1項では、発起人の現物出資に関する規定があるのに、63
  条の設立時募集株式の引受人には、現物出資を想定した規定はない。

   212条1項2号・2項において、会社成立後の募集株式の引受人の
 責任に関し、現物出資財産に不足を生じた場合について規定しているが、
 設立時募集株式の株式引受人に関しては、これに相当する規定がない。

  設立時

  34条1項→発起人の現物出資の規定あり。○
  63条1項→設立時募集株式の引受人に現物出資の規定なし×

  設立後

  212条1項2号・2項→募集株式の引受人に現物出資の規定あり○

   ◎ 会社成立に際しては、現物出資が発起人に限られる。

 しかし、会社成立後の募集株式の発行の際には、現物出資者の資格に
 ついて制限はない。

  本肢は妥当である。

 
  ○ エについて

     発起人・設立時募集株式の引受人の失権があった場合、他の出資者
   により出資された財産の価格が定款で定めた「設立に際して出資され
   る財産の価格またはその最低額」(27条4号)を満たしているとき
   は、設立手続を続行できる。
   しかし、失権により発起人が1株も権利を取得しなくなるような場
   合には、法25条2項に反するので、設立無効事由となる。

      本肢は、以上の記述に反するので、妥当でない。

  ○ オについて

   現物出資者は、金銭以外の出資者である(28条1項)。

  財産引受は、発起人が、 設立中の会社のために、株式引受人または
  第三者との間で会社成立後に財産を譲り受けることを約することである
 (28条2号)。

  財産引受については、当該定義から、相手方である譲渡人は、第三者
 でもよいということになる。

   いずれも、目的物を過大に評価して会社の財産的基礎を危うくしては
 ならないため、法28条の変態設立事項として、厳格な規制が設けられ
 ている。

  他方財産引受けは、通常の売買契約であるから、会社成立後は、一般
  の業務執行になる。
   会社成立後の募集株式の発行の際、現物出資に関する規制がある
(207条など)のに対して、募集株式の発行等の関連では、財産引受け
 にあたる制度はない。

   以上のとおり、財産引受けは、会社成立後は、通常の業務執行であって、
 会社成立後の募集株式の発行に際しては、財産引受けにあたる制度はない。

   本肢は、妥当である。


----------------------------------------------------------------
 
 以上、妥当であるのは。ア・ウ・オであるから、3が正解である。
 
----------------------------------------------------------------

 
  【問題2】


  
 ○ アについて

  発起人は、会社の設立の企画者であって、設立事務を執行し、会社の
 成立を目指す(神田会社法)のであるから、設立時取締役が、設立中の
 会社のすべての業務を行う権限を有するものではない。

  設立時取締役(会社の設立に際して取締役となる者)の設立中の業務
  は、以下のとおり、一定ものである。

   法46条1項・93条1項の設立事項の調査である。募集設立にあって
 は、 当該調査結果の創立総会への報告を行う(93条2項)。

   以上の記述に反するので、本肢は妥当でない。


  ○ イについて
 
    発起人とは、会社の設立の企画者として定款に署名または記名押印
(いわゆる電子署名を含む)をした者である(定款に発起人として署
 名した者は、実質的には会社設立の企画者でなくても法律上は発起人
 とされる一方、定款に発起人として署名しない者は、実質的には会社
 設立 の企画者であったとしても法律上は発起人ではない)。
 (神田会社法)

   ただし、「[定款に発起人として署名しない者は発起人ではないが、
 株式募集に関する文書等に賛助者等として自己の氏名を掲げること等
 を承諾した者(擬似発起人という)は、発起人と 同様の責任を負う
(103条2項)」。(前掲書)

  以上の記述に反するので、本肢は妥当でない。

 
 ○ ウについて
  
     発起人は、募集株式の払込期日または払込期間経過後、遅滞なく、
  創立総会を招集しなければならない(65条1項)。

  設立時取締役等は、創立総会で選任される(88条)。

  以上の記述に反する本肢は、妥当でない。
  
 
 ○ エについて

   
  【問題1】○アで述べたとおりであり、本肢は妥当である。


 ○ オについて

  
  設立の第1段階は、発起人による定款の作成(26条1項)である。

   定款の作成とは、株式会社の組織と活動に関する根本規則を実質的
 に確定し、これを形式的に記載するか、または電磁的記録することを
 意味する。
   定款の方式について は、発起人が署名または記名押印(いわゆる電子
 署名でもよい)することに加えて(26条1項・2項)、公証人の認証が
 必要である(30条1項)。この認証は、定款の内容を明確にして後日
 の紛争や不正行為を 防止するためであるが、その後に定款を変更する
 場合には認証は不要とされ ている。(前掲書)

  最初の定款を「原始定款」というが、公証人の認証を要するするのは、
「原始定款」のみと覚えておくとよい。

   以上のとおり、定款の変更には、公証人の認証は要しないので、本肢
 は妥当である。


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 以上のとおり、妥当であるのは、エ・オであるから、正解は2である。

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一
 
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             ★ オリジナル問題解答 《第16回 》 ★

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                    PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  憲法

   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 憲法オリジナル問題 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  
 
  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第102号に掲載してある。

 
 ☆ メルマガ第102回はこちら↓
  
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 ◆ 参考文献
   
   憲法 芦部 信喜 著  岩波書店


 
 ▲  問題 1

     ◆ 総説

        衆議院の解散決定権については、内閣にその決定権があるこ
    とについては争いはない。

        しかし、これについては、憲法69条のほかの他の条文に明
    文がないため、諸説ある。

       1 憲法69条限定説とも言うべきもので、衆議院の不信任決
     議が可決された場合にのみ、内閣が衆議院を解散できるとい
     うもの。
              
        (条文)
 
          憲法69条・内閣は、衆議院で不信任の決議を可決し、又は
    信任 の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散さ
    れない限 り、 総辞職しなければならない。

          しかし、内閣に自由な解散権を認めるのが、大勢である。

        2 内閣に自由な解散権を求める根拠として、憲法の全体の構造
         (権力分立制・議院内閣制を持ち出す)に求めるもの。

        3  憲法7条の内閣の「助言と承認」は、本来形式的・儀礼的行
     為に対して、行うことが要求されるが、解散などの場合には、
     この「助言と承認」の中には内閣の実質的決定を含むという考
     え方。

  
           この考え方には、「助言と承認」のなかに内閣の実質決定を
     含まないもの(原則)と含むもの(例外)を併存させるという
         問題点もあるが、現に実務では、この7条説により、内閣に自
         由な解散権が 認められている。
            
        (注)なお、7条2号の「国会の召集」についても、この3と
             同様の 考え方に立ち、内閣に実質的決定権を認める。
 
        (注)憲法53条の臨時会には、内閣の召集の決定権が明記さ
             れてい るが、52条の常会、54条の特別会には、内閣
             に召集権のあることが規定されていない。


       ◆ 各肢の検討

        1について

       69条限定説に限定説(A説)に対する批判である。

      2について

       これは、総説2からして、内閣に自由な解散を認めるという
        B説の論 拠である。

        3について

       総説3記述のとおり、慣習化しているのは、B説である。

      4について

      総説3記述のとおり、これはB説の考え方である。

      5について

       総説3において、B説では、実質的決定を含む場合とそう
     でない 場合を併存させることとなるという問題点が指摘さ
        れている。
       したがって、本肢は、B説の問題点であるから、A説から
        B説に対する批判となりうるものであって、B説からA説に
        対する批判としては妥当ではない。


   --------------------------------------------------------------------

        以上により、本問は5が正解である。

   ------------------------------------------------------------------


 ▲  問題 2


        肢1について

     「もっとも、7条により内閣に自由な自由な解散権が認めら
         れるとしても、解散は国民に対して内閣が信を問う制度である
         から、それにふさわしい理由が存在しなければならない」
      (前掲書)
      
          したがって、当該見解を採用しても、内閣の解散権には限界
        がないとはいえないので、本肢は妥当である。

    肢2について

     既述したとおり(本欄  ▲  問題 1 ◆ 総説 3)、当
    該見解を採用した場合には、本肢のような問題点があるので、
    本肢は妥当である。

    肢3について

     憲法69条限定説には、本肢のような問題点があるので、本
        肢は、妥当である。

    肢4について

     内閣の解散権の行使が、憲法の全体的構造に反する場合には、
    解散は許されないので、内閣の解散権に限界がある。
     したがって、本肢は妥当でない。

    肢5について

     「衆議院の解散決議による解散も可能だという説もあるが、
          自律的解散は、多数者の意思によって、少数者の議員たる
          地位が剥奪されることになるので、明文の規定がない以上、
          認められない」(前掲書)。

      したがって、通説によれば、衆議院の解散決議による解
          散は許されないことになる。本肢は妥当である。

    
------------------------------------------------------------------

           以上により、本問は4が正解である。

 -----------------------------------------------------------------

 
 
 ▲  問題 3

 
 ア 憲法58条は、国会の自律権について定めている。

 「自律権とは、懲罰や議事手続など、国会または各議院の内部
  事項については自主的に決定できる機能のことを言う。判例
  は、国会内部での議事手続について裁判所は審査できないと
   している。」(前掲書)

   ここでいう判例とは、最大判昭和37・3・7民集16−
 3−445) 警察法改正無効事件であり、本肢のように判示
 した。

  したがって、本肢は妥当である。

 
 イ 最大判昭和35・6・8民集14−71206 苫米地事
  件では、解散事由及び閣議決定の方式の問題いずれについて
   も、統治行為に該当するた め、 裁判所の審査権は及ばない
   としている。
 
   本肢は、妥当でない。

 
 ウ   最判昭和52・3・15民集31−2−234 富山大学
  事件によれば、単位授与(認定)行為は、特段の事情の事情
  のない限り、司法審査の対象 にならないと判示したのに対し
  て、本肢の場合には、以下のように判示した。
 
   学生が専攻科修了の要件を充足したにもかかわらず、大学が
    その認定をしなときは(認定には格別教育上の見地からの専門
    的な判断を要しない)、一般市民としての有する公の施設を利
    用する権利を侵害されるので、司法審査の対象となる。

  本肢は、以上の記述に反するので、妥当でない。

 
 エ 最判昭和63・12・20 共産党袴田事件によれば、判例の
   趣旨は、このとおりである。
 

   本肢は妥当である。

 
 オ 最判昭和56・4・7民集35−3−443 「板まんだら」
  事件は、以下のように判示して、裁判所の審査の対象にならない
   とした。
 
      訴訟が当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係に関する
    訴訟 であっても、信仰の対象の価値ないし宗教上の教義に関
    する判断は請求の当否を決するについての前提問題にとどまる
    とされていても、それが訴訟の帰すうを左右する必要不可欠の
    ものであり、紛争の核心となっている場合には、その訴訟は・・
    法律上の訴訟にあたらない。

  
   以上の判示に反する本肢は、妥当でない。


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  妥当であるのは、アとエであるから、正解は1である。

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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           ★ オリジナル問題解答 《第15回 》 ★

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                      PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  憲法/民法

   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 憲法オリジナル問題 解説
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第101号に掲載してある。

 
 ☆ メルマガ第101回はこちら↓
   http://archive.mag2.com/0000279296/index.htm
 


  ▲  問題 1

    

  ◆ 参考文献
   
  憲法 芦部 信喜 著  岩波書店


 
 ◆ 総説

  憲法における、「公共の福祉」の用法としては、人権について、

  「『公共の福祉』による制約が存する旨を一般的に定める方式をとって
  いる。
  すなわち、12条で、国民は基本的人権を『公共の福祉のために』利
  用する責任を負うと言い、13条で国民の権利については、『公共の福
 祉 の福祉に反しない限り』国政の上で最大の尊重を必要とすると定める。
    また、経済的自由(職業の自由、財産権)については、『公共の福祉』
  による制限がある旨をとくに規定している(22条・29条)」
 
  (前掲書 96頁)

  以上は、「公共の福祉」に関しての出発点であるから、明確に把握
  しておく必要がある。


  ◆ 各肢の検討

   
      順序不同で、要点を整理しながら、解説を進める。

   ◎ [A説]は、「憲法12条・13条の『公共の福祉』は、人権の外
    にあって、それを制約することのできる一般的原理である」とする。

   この説は、「一般に、『公共の福祉』の意味を・・抽象的な最高
   概念として捉えているので、法律による人権制限が容易に肯定され
   るおそれがすくなくな」いので、 ア  のようにいえる。

   (前掲書 97頁)
   
   ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
   ア は、「A」説に対する、問題点の指摘として、妥当である。

  注 「法律の留保」
   
   ここでは「法律に基づくかぎり権利・自由の制限・侵害は可能と
    いう意味で使われ」ている。

      (前掲書 20頁)

   [A説]によると、22条・29条の「公共の福祉」は、特別の
    意味をもたないことになる。なぜならば、前述した一般的原理で
    ある「公共の福祉」によって、22条・29条の権利も制限され
    るからである。

   ・・・・・・・・・・・・・・・ 
   したがって、オ  は妥当でない。

   オは、[B説]に対する問題点である。

  
  
 ◎  [B説]によれば、「公共の福祉」によって制約が認められ人権は、
  その旨が明文で定められている経済的自由権等に限られるので、12
    条・13条は、訓示的・倫理的な規定であるにとどまる(前掲97
  頁参照)。

   以上のとおり、「13条を倫理的な規定であるとしてしまうと、それ
      ( 注)
  を新しい人権をを基礎づける包括的な人権条項と解釈できなくなるので
    はないか」という問題点が生じる。 
   
           (前掲書 98頁)
   
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
   したがって、イは、B説に対する、問題点の指摘として、妥当である。

  注 「新しい人権」

    13条の規定する「個人尊重の原理に基づく幸福追求権は、憲法に
      に列挙されていない人権の根拠となる一般的かつ包括的な権利であり、
   この幸福追求権によって基礎づけられる個々の権利は、裁判上の救済
      を受けることのできる具体的権利である、と解されるようになったの
      である。判例も具体的権利性を肯定している。」

     参考・最大判 昭和44・12・14・・京都府学連事件

     (前掲書  116頁)


 ◎ [C説]によれば、「この原理は、自由権を各人に公平に保障する
  ための制約を根拠づける場合には、必要最小限度の規制のみを求め
   (自由国家的公共の福祉)、社会権を実質的に保障するために自由権の
   規制を根拠づける場合には、必要な限度の規制を認めるもの(社会国
  家的公共の福祉)としてはたらく。」

    
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  したがって、エは、[C]説の問題点の指摘として、妥当である。


  ウはについては、イ欄で詳述したように、[B]説に対する問題点であ
  って、[C]説に対する問題点ではない。
  [C]説は、憲法規定を問題にせず、「公共の福祉」はすべての人権に
 論理必然的に内在するというのであるから、12条・13条を訓示的
  規定であるとみる必要はない。

   
  ・・・・・・・・・・・・・
  したがって、ウは妥当でない。

  
    以上により、ウとオが妥当でないので、5が正解である。


  ◆ 付 言

   以上の3説の対比は、少し厄介であるが、基本的人権に関する
   基礎知識に属するので、この際、面倒がらずに、要点を把握して
  おく必要がある。


  
 
 
 ▲  問題 2

 

 
 ◆ 参考図書

   民法 1 内田 貴著 財団法人 東京大学出版会

   民法1 勁草書房


  ◆ 本問の検討

  はじめに、 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 13回 と連
  動しているので、こちらを通読願いたい。
 
 ☆サイト13回はコチラです↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/257325.html 

  サイト13回の検討結果をまとめると、以下のようになる。
   


         法定解除=合意解除


       解除前の転売      ・   解除後の転売

    A−−−C        A−−−−C
           ↓
          保護されるには
      登記要         対抗関係
        
   ●結局、先に登記           ●先に登記した
    した方が優先           方が優先

 

 1について。

  法定解除であり、解除後の転売であるから、AとCは対抗関係。
 Aは、登記なくして対抗できない。

   妥当。


 2について。

  合意解除であり、解除後の転売であるから、AとCは対抗関係。
 Aは、登記なくして対抗できない。

 妥当。


 3について。

  合意解除であり、解除前の転売であるから、Cが保護されるには
 Cに登記必要。

 妥当でない。正解。


 4について。

  法定解除であり、解除前の転売であるから、Cが保護されるには
 Cに登記必要。

 妥当。

 5について。

  法定解除か合意解除か不明。どちらでも同じであるから、詮索する
 要なし。解除前の転売であるから、Cに登記必要。Aがさきに登記
 したのだから、Aが優先。

 妥当。


   以上正解は、3である。

 

 
 ▲  問題 3

 

  ◆ 参考図書

  民法 1 内田 貴 著  財団法人 東京大学出版会


 ◆ サイト・民法【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 10回  
    の発展問題である。

  ◇サイト第10回はこちらです↓
   http://examination-support.livedoor.biz/archives/227992.html

  ◆ 総説

  判例によれば、AによるBの詐欺を理由にした取り消し(96条1項)
  後の転売については、Aと買主Cは対抗関係に立たち、先に登記した方が
 優先することになる。177条の適用である。

   しかし、近時の有力説は、94条2項の類推適用説を採用する。

      売却  登記   転売
   A−−−−−−B−−−−−−C
  取り消し    94条2項
  121条    登記の外観を信頼した
  初めから無効  第三者保護


  AとBに通謀があったとは言えないため、虚偽表示が適用される事例
  とは言えないが、「取消後に放置された実体関係に合わない登記の外観
 を信頼した第三者保護」という「権利外観法理」に従って、94条を2
  項類推適用しようというのが、その主張の骨子である(前掲書)。 

  以上のとおり、A説が前者の対抗関係説ともいうべきものであり、
 後者がB説の94条2項の類推適用説であることが明らかになった。


 このことを前提に以下において、各肢を検討する。

 ◆ 各肢の検討


  ○ アについて。

   AとBと先に登記した方が優先するというのは、「対抗問題」のA説
  である。

   ○  イについて

    94条2項の善意の第三者として保護されるには、登記を要しないと
  いうのが通説である。これは、B説である。

   ○ ウについて。

    94条2項には無過失は要求されていないが、権利外観法理に従
     えば、無過失であることを要する、などの議論がある。
   これは、B説である。

    ○ エについて。

    このように、所有権の復帰(移転)があったと扱うことにを前提にした
   場合 に初めて対抗問題とすることができる。A説の立場である。
  
    ○  オについて。

     取り消しの効果である遡及効(始めから無効)を前提にするのは、94条
  2項類推適用のB説である。

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   したっがて、B説は、イ・ウ・オであり、正解は3である。

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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              ★ オリジナル問題解答 《第14回》 ★

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          PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  民法
   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 民法オリジナル問題 解説
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第100号に掲載してある。

 
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  ▲ 問題 1

     
 Aの相談について

  昭和37・4・20によると、無権代理人が本人を単独相続し、
  本人と代理人の資格が同一人に帰するに至った場合は、本人が自ら
  法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じると解される。

  以上のとおり、当然有効となるので、Aは当該無権代理行為を追
 認拒絶できない(民法113条参照)。
 
 「できません」に該当する。 

 
 Bの相談について                              

    本人が追認しないまま死亡し、無権代理人が他の相続人とともに本
 人を共同相続した場合に、その相続分について無権代理行為が当然有
 効となるかについて、

  最判平51・21は以下のとおり判示する。

  他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理
  人の相続分においても、当然に有効となるものではない。

  したがって、母の追認がなければ、Bの2分の1の相続分に相当す
 る部分について、本件連帯保証契約が有効になったことを前提とした
 貸金請求に対して、Bは支払いを拒絶できる。

  「できます」に該当する。

 
 Cの相談について
  
    本人が無権代理人を相続した場合に、本人は無権代理人が行った行為
 の無効を主張できるかについて、

 Aの相談でも掲げた最判昭37・4・20は、以下のとおり判示する。

   無権代理人が本人を相続した場合においては、自らした無権代理行為
 につき本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反
 するから、右無権代理行為は相続と共に当然有効となる解するのが相当
 であるけれども、本人が無権代理人を相続した場合は、これと同様に論
 ずることはできない。後者の場合においては、相続人たる本人は被相続
 人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義に反するところはない
 から、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効とな
 るものではないと解するのが相当である。

  したがって、Cは、当然有効として、家屋の明渡し等を求める相手方
 に対し、これを拒否できる。


  「できます」に該当する。
  


 Dの相談について

  最判平10・7・17によると、本人が無権代理行為の追認を拒絶し
 た後に死亡し、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、有効
 になるもではないと解するにが相当であるとした。

  この場合には、本人の追認拒絶により、無権代理行為の無効が確定し
 たからである。Aの相談では、本人が追認拒絶をしないまま にして、
 無権代理人が本人を単独相続した場合、当然有効となるとしたものであ
 り、その違いに注意する必要がある。

 Dの場合には、当然有効になるもではないので、履行を拒絶できる。

   「できます」に該当する。

 

  Eの相談について
               
  
  最判昭63・3・1によると、無権代理人を本人とともに相続した
 者が、その後さらに本人を相続した場合には、その者は本人の資格で
 無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく、本人が自ら法律行為をし
 たのと同様の法律上の地位ないし効果を生じるとしている。

   したがって、Eは、本人の資格に基づいて、追認拒絶できない
  ため、当該無権代理行為は有効になるので、本件土地の意移転登記
  の抹消を請求できない。

  「できません」に該当する。
 
-----------------------------------------------------------------
  
  以上、「できません」に該当するのは、AとEであるから、2が
  正解である。

-------------------------------------------------------------------

 

 ▲ 問題 2


 ★ 総 説  
   
   遺贈とは、遺言者による財産の無償譲与である。

    遺贈には包括遺贈と特定遺贈とがある(964条)。前者は、積極
   ・消極の財産を包括する相続財産の全部またはその分数的的部分ない
     し割合による遺贈であり(たとえば相続財産の2分の1、または4割
     がその例)、後者は、特定の具体的な財産的利益の遺贈である(勁草
     民法3)。

   ★  各肢の検討

   
  ○ 1・2について

   「包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する」ものとされる
  (990条)。したがって、遺言で定められた割合の相続分を有す
   る相続人が一人ふえたと考えればよい(勁草民法3)。

   したがって、遺贈の承認・放棄についても、相続に関する915
  条ないし940条の適用があり、遺贈の承認・放棄に関する986
  条および987条の適用はない。

    包括受遺者=915条1項 であり、肢1は妥当である。

   包括受遺者に適用されない986条は、特定遺贈において適用され
   るので、肢2も妥当である。

 
  ○ 3・5について

   以下は、包括・特定を問わず、遺贈に共通することに注意!

   受遺者は、遺言が効力を生じた時、つまり遺言者が死亡した時に
    生存していなければならない(同時存在の原則)。
   
   遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合には、受遺者たる地位
    の承継(一種の代襲受遺)は認められないから、結局その効力は生
    じない(994条1項)。

   したがって、この場合、受遺者の相続人がその財産を承継すると
    ことはないので、5は妥当でない。

   次に、胎児は遺贈に関してもすでに生まれたものとみなされる
  (965条・886条)ので、胎児に遺贈することができる。

   3は妥当である。

   ☆ 参考事項

    肢5について、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合
   には、受遺者の相続人はその財産を承継しないが、遺言中に
   特に受遺者の相続人に承継を認める旨を表示してあれば、
   (これを補充遺贈という)それに従うということに注意。

    なお、この補充遺贈のない場合には、受遺者が受けるべき
      であったものは、遺贈者の相続人に帰属するのである(99
   5条)。

     (以上は、勁草 民法 3 参照)

  ○ 4について

   本肢は、特定の不動産の遺贈であるから、特定遺贈になる。
   
   以下の判例がある。

   甲から乙への不動産の遺贈による所有権移転登記未了の間
  に、甲の共同相続人の1人の債権者が当該不動産の相続分の
  の差押えの申立てをし、その旨の登記がされた場合、当該債
  権者は、民法177条の第三者にあたる(受遺者は登記なし
  に遺贈を当該債権者に対抗できない。(最判昭39・3・6
  ・・・・・)

   以上の判例に従えば、本肢は妥当である。


------------------------------------------------------------

 本問については、妥当でないのは、5であるので、5が正解である。

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              ★ オリジナル問題解答 《第8回 》 ★

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                         PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  行政法
   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 民法・行政法・オリジナル問題 解説
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   問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第94号に掲載してある。

 ★ メルマガ第94回はこちら↓
   http://archive.mag2.com/0000279296/index.htm
 


  ◆ 総説

  
  行政訴訟は、主観訴訟と客観訴訟に分かれる

 
 ○ 主観訴訟=権利保護の制度・つまり救済の制度。

  
    抗告訴訟と当事者訴訟に分かれる。

    「抗告訴訟」=取消訴訟・無効等確認訴訟・不作為の違法確認
           ・義務付け訴訟・差止訴訟


     「当事者訴訟」=実質的当事者訴訟・形式的当事者訴訟

 

 ○ 客観訴訟=権利救済のためでなく、国・公共団体の違法行為を
                是正し、その活動の適法性を確保することを目的と
                する。


     「民衆訴訟」・「機関訴訟」


 (前掲書・読本 266頁の図表を参考にした)

 
 ◆ 各肢の検討


  ○ 1・2について

   
    以下の記述を参照されたい。
 
 --------------------------------------------------------------
 
    行訴法4条前段規定は、「形式的当事者訴訟」である。
  これに対比されるのが同条後段の「実質的当事者訴訟」である。 

  いずれも、総説の「当事者訴訟」に含まれる。
 
   以下において、「形式的当事者訴訟」について説明する。
  
    まず、条文の意味するところは、難解であるが、「本来は取消訴
   訟であるべきところ、法律の規定により当事者訴訟とされているの
   で『形式的当事者訴訟』と呼ばれている。」(読本270頁)

  「この訴訟の代表例は、土地収用の場合において土地所有者に支払
   われる損失補償に関する争いである。損失補償は、都道府県に設
   けらている収用委員会の裁決によって定められるが、、裁決は
   行政処分であり・・従って土地所有者がその損失補償に不服がある
   場合には、本来収用委員会を被告として取消訴訟を提起しなければ
   ならないはずである。ところが、土地収用法133条2項は、損失
  補償に関する訴訟は、損失補償の法律関係の当事者つまり、土地
   所有者と土地所有権を取得し補償の義務を負担する起業者との間
   で行われるべきものとしている。」(読本270頁)

 
    これに対して、行訴法4後段の「実質的当事者訴訟」に関しては、
  最大判H17・9・14を参照すべきである。

   在外国民が「次回の衆議院の総選挙における小選挙区選出議員の
 選挙および参議院の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、
 在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票できる地位にあ
 ること」の確認を求める訴えは「公法上の法律関係に関する訴え」
 として確認の利益が肯定され適法である。

 (入門211頁以下・読本337頁以下)

  なお、この他、当該訴訟の例として、「公務員の身分の確認を求
 める訴訟や公務員の俸給の支払を求める訴訟などがこれに該当する。」
 とされる(読本 269頁)

 
  ☆  関連事項

   過去問 平成19年度・問題19をみよ!!

  行政事件訴訟法4条の当事者訴訟に当たるものの組合せとして
 正しいものとして、次の肢が挙げられている。

  ア  土地収用法に基づいて、土地所有者が起業者を被告として
  提起する損失補償に関する訴え

 オ 日本国籍を有することの確認の訴え


 アが、形式的当事者訴訟であり、オが、実質的当事者訴訟である。

 -------------------------------------------------------------
 
  以上の記述に照らせば、1・2いずれも、妥当である。

  

 
 ○ 3について

   
    以下の記述を参照されたい。

  ---------------------------------------------------------------- 

    地方自治法242条の2に定める「住民訴訟」は、行訴法5条
  が規定する民衆訴訟である(総説・○客観訴訟「民衆訴訟」参照)。

   
   選挙に関する訴訟は公職選挙法(203条以下)で定められ、
   これもまた、民衆訴訟である(総説参照)。
  
  
   次の指摘に注意。

   「選挙に関する訴訟は公職選挙法(203条以下)で定められ、
    住民訴訟は地方自治法(242条の2)で定められている。
    行政事件訴訟法5条の規定は、それらの訴訟を行政訴訟に
    組み込むという意味を持っている」(読本271頁)
 
----------------------------------------------------------------
 
    以上の記述に照らせば、本肢は正しい。


 ○ 4について

  「義務付けの訴え」(行訴法3条6項)は、抗告訴訟に該当する
  行訴法3条1項・総説○主観訴訟「抗告訴訟」参照」

  抗告訴訟に該当するので、本肢は誤りである。

 ○ 5について
               
        行訴法6条の機関訴訟(総説・○客観訴訟「機関訴訟」)に
   いては、「法律が定めている場合に限り、法律で認められた者
      だけが提起することができる。その理由は、行政機関が法人格
   を持たず、権利義務の主体ではないことである。行政組織内部
      の紛争はその 内部で解決すべきであるという観念も作用して
   いるであろう」(読本271頁)

   したがって、本肢は正しい。

 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 以上によれば、妥当でないのは、4であるから、正解は4である。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 
 ☆ 本問については、サイト69回を参照されたい。

 ◆サイト第69回はこちら↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/1355589.html

 
 
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      ★ 過去問の詳細な解説  第93回 ★

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         PRODUCED BY 藤本 昌一
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 【テーマ】 行政法 

   
  【目次】   問題・解説

           
   
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 ■ 平成22年度 問題44(記述式)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  
  Y組合の施行する土地区画整理事業の事業地内に土地を所有していたX
 は、Yの換地処分によって、従前の土地に換えて新たな土地を指定された。
  しかし、Xは、新たに指定された土地が従前の土地に比べて狭すぎるた
 め、換地処分は土地区画整理法に違反すると主張して、Yを被告として、
 換地処分の取消訴訟を提起した。審理の結果、裁判所は、Xの主張のとお
 り、換地処分は違法であるとの結論に達した。しかし、審理中に、問題の
 土地区画整理事業による造成工事は既に完了し、新たな土地所有者らによ
 る建物の建設も終了するなど、Xに従前の土地を返還するのは極めて困難
 な状況となっている。この場合、裁判所による判決は、どのような内容の
 主文となり、また、このような判決は何と呼ばれるか。40字程度で記述
 しなさい。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  

  ○ 参考文献

 「行政法入門」 藤田 宙靖著 ・「行政法読本」 芝池 義一著
  
  いずれも有斐閣発行

 ◆ 行政事件訴訟法・条文

  (特別の事情による請求の棄却)
  第31条 取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、
  これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合に
  おいて、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程
  度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取
  り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、
  請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文に
  おいて、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならな
  い。

    2項以下省略

 ★ ズバリ、本問の解答

  1 問題文の事例が、この条文の要件に該当することを素早く見抜く。

  2 この条文に基づいて行われる判決のことを「事情判決」という。

  3 条文から本問に関連する箇所を抜粋すると、「請求を棄却」・
   「当該判決の主文において、処分・・・が違法であることを宣言」
   となる。

    1・2・3を総合すると、
                      ・
   条文の処分を「換地処分」と具体的に言い換えて、設問に答えると、
  
   ◎ 主文では、換地処分が違法であることを宣言し、請求を棄却する。
     この判決は、事情判決という。  

     44字。

  
 ☆ 「事情判決」の知識を明確にするため、前記○ 参考文献「入門」
   から抜粋

   (事情判決)とは、裁判所が、行政処分が違法であることを認め
  めながら、行政処分を取り消すことが公共の福祉に適合しない場合
  に、原告の請求を棄却するという判決である。従って、請求棄却判
           ・・
  決の一種であるが、特殊なものである。行政事件訴訟法31条に規
  定がある。 ー中略ー     この事情判決は、行政処分が違法
  であるけれども公共の福祉のためにそれを取り消さないもので、も
     ・・・                       ・
  ともと例外的な制度であるから、事情判決が行われることはそう頻
  ・・・・・・・・・・
  繁にあるわけではない。

  《藤本 加入・ ここから著者は、ズバリ、本問の事例説明に相当
   する内容を展開されている。》

   事情判決が行われる一つのケース土地区画整理事業である。
   土地区画整理事業とは、街づくりの一つの方法で、一定の地域にお
  いて、土地の区画を整理することを本来の目標とするものである。そ
  の過程で換地処分というものが行われる。これにより、例えばAさん
  は、それまで持っていた土地とは別のところに土地を取得することに
  なる。Aさんがこの換地処分に不服があり、取消訴訟を提起したとす
  る。その後、判決までに何年かの時間がかかることがあるが、その間、
  土地区画整理事業を終えた土地で新しい街づくりが進んでいることで
  あろう。その場合、裁判所が、Aさんに対する換地処分が違法である
  と考えても、もしその換地処分を取り消すと、せっかく進んでいる街
  づくりをご破算にしなければならない。そのようなことはあまりにも
  もったいない、公共の福祉に適合しないと考えると、裁判所は、事情
  判決を下すことが許されるのである。


 △ 参考事項

  憲法問題

  最大判昭和51年4月14日判決によれば、衆議院議員定数不均衡事
 件において、「・・約5対1の較差は、・・選挙権の平等の要求に違反
 すると判断し、配分規定は全体として違憲の瑕疵を帯びる、と判示した。
 しかし、選挙の効力については、選挙を全体として無効にすることによ
 って生じる不当な結果を回避するため、行政事件訴訟法31条の定める
 事情判決の法理を『一般的な法の基本原則に基づくもの』と解して適用
 し、選挙を無効とせず違法の宣言にとどめる判決を下した」(芦部信喜
 著・岩波書店 参照)。

  
 ▲ 付 言

 1 本問は、前記抜粋の文章にもあるように、特殊・例外的・頻繁でな
  いこと等からすれば、普段の勉強では軽視しがちな分野かもしれない。
   抗告訴訟を正面から問う出題からみれば、支流に属するのかもしれ
  ない。

 2 「事情判決」に焦点を合わせた準備をしていれば、容易に正解が導
     きだされたとは思うが、この論点を外せば、お手上げという向きも
     あるかもしれない。

  3  しかし、参考事項にもあるように、憲法問題としても、重要なテー
  マであるから、お手上げではすまされないかもしれない。

 4  市販の「直前模試」の類をみると、ズバリこの問題が、記述式とし
   て呈示されているところからすれば、試験委員の手の内が読まれてい
   た可能性もあろう。

  

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

 【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
       
 【E-mail】<fujimoto_office1977@yahoo.co.jp>
 
 ▽本文に記載されている内容は無断での転載は禁じます。
 
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         ★ 過去問の詳細な解説  第89回  ★

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                             PRODUCED BY 藤本 昌一
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   【テーマ】

      憲法=内閣と独立行政委員会

      すでに、サイト憲法問題(統治機構)第4回において、掲載済
     みですが、常にその解説が不適切であったことが気になっていま
     した。この機会にその点も改め、改めて解説を行うことにします。
      
       なお、本試験では、近時、憲法に関しては、「考えさせる問題」
     の出題が顕著ですが、この問題もその傾向に沿うものであって、
   今回は、じっくりと取り組んでほしいと思います。
  
  【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
     現在、販売されている 行政書士試験直前予想問題【平成22年度版】
   は、時宜にかなった企画だったせいでしょうか、たくさんの方々に購入
  頂きつつあり、深謝いたしております。
 

   ◆藤本式行政書士試験直前予想問題【平成22年度版】はこちら
          ↓↓↓
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  この問題集は、長年の本試験研究の成果を踏まえ、私が渾身の力をふ
  りしぼり、以下の意図をもって作成したものですが、そのことが公にな
 り多くの購入者を今もなお、いただいていますことは、光栄であります。
 
  
 1、本試験と同じ形式を採用し、実際にも、来る本試験との重なりを期
    待しました。

 2、特に、【解説欄】に勢力を注ぎ、関連する事項に極力言及し、応用
    力が養成されるようにこころがけました。

 3、89回にもわたる当該「サイト」欄と連動させることにより、体系
    的理解を助けることを目的にしました。

  
  最後にわたしの目下の最大の望みは、1人でも多くの方が、本誌を活用
 され、直前に迫りつつある本試験で合格の栄誉に輝かれることであります。
  
  
 
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 ■ 平成19年度・問題4
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   国家公務員法102条1項が、その禁止対象とする「政治的行為」の
 範囲の確定を、独立行政委員会である人事院にゆだねていることの是非
 をめぐっては、次のようにさまざまな意見があり得る。それらのうち、
 内閣が行う高度に政治的な統治の作用と、一般の国家公務員による行政
 の作用とは質的に異なるという見地に基づく意見は、どれか。

 1 憲法が「行政権はすべて内閣に属する」と規定しているにもかかわ
   らず、公務員の人事管理を内閣のコントロールが及ばない独立行政委
   員会にゆだねるのは、違憲である。

 2 公務員の政治的中立性を担保するためには、「政治的行為」の確定
  それ自体を政治問題にしないことが重要で、これを議会でなく人事院
 にゆだねるのは適切な立法政策である。

 3 人事院の定める「政治的行為」の範囲は、同時に国家公務員法に
   よる処罰の範囲を定める構成要件にもなるため、憲法の予定する立
  法の委任の範囲を超えており、違憲である。

 4 国家公務員で人事官の弾劾訴追が国会の権限とされていることから、
   国会のコントロールが及んでおり、人事院規則は法律の忠実な具体化
  であるといえる。

 5 行政各部の政治的中立性と内閣の議会に対する政治的責任の問題は
   別であり、内閣の所轄する人事院に対して国会による民主的統制が
   及ばなくても、合憲である。

 

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■ 解説
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 ◆ 参考文献

  憲法  芦部 信喜 著  岩波書店 

 ◆ 総 説

  サイト4号における解説は、初期のものであったこともあり、
  肩に力が入りすぎていると同時に、適切でないところも散見さ
 れる。

 ☆サイト4回はこちら↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/70949.html

  また、本問自体、殊更に難問にする意図も見え隠れしていて、
 必ずしもし題意が明確とはいえないところもあるので、正解を
 導けなくても、他の基本に忠実な問題で、点数を稼げばよいと
 いえる。

  しかし、この問題文の中には、重要な論点が提示されている
  ので、ここで、本問を検討することは、本試験に向け、意味のあ
  ることと思う。

 
 ◆  論点の提示

   1 「行政権は、内閣に属する」(憲法65条)のである。
    そこで、行政権を行使する人事院は、内閣から多かれ少
   なかれ独立して活動している行政委員会に属するので、そ
      の合憲性が問題になる。

  2 人事院の行使する行政権に基づく任務をみた場合、その
      中立性を要求される人事行政と、内閣が行う高度に政治的
      な統治作用とに分かれる。

  3 前者は、本問でいう「一般の国家公務員による行政作用」
      に属するのに対して、後者は、本問でいう人事院に委ねられ
   た国家公務員に対する「その禁止対象とする『政治的行為』
   の範囲の確定」に属する。

 ◆ 各肢の検討


  ○ 1について。

   本肢は、人事院の行う人事行政のみに焦点を置いて、これが
  違憲であるするのであるから、二つの作用が質的に異なってい
  るという見地に基づいていない。

  ○ 2について。

   本肢は、「政治的行為の確定」という「高度の統治作用」
  のみに焦点を合わせて、合憲であるというのであるから、
  二つの作用が質的に異なるという見地に基づいていない。

  ○ 3について。

   本肢は、「政治的行為」の範囲の確定のみを問題とし、違憲
    とするので、同様に二つの作用が質的に異なるという見地に基
  づいていない。

  注 本肢の内容の説明

   ここでは、具体的に何を言っているのか(学者の論争としては、
  ポピユラーな題)を説明すると、以下のとおりである。

  特に「国家公務員による処罰の範囲を定める構成要件」という
 ことが分かり難いところであるが、たとえば、刑法の殺人罪を例
 にとると、処罰の範囲を定める犯罪の内容である「人を殺す」と
  いうことが構成要件である。。
  人事院の定める「政治的行為」の中味もまた、禁止事項であって、
 違反すれば処罰されることになるので、、「処罰の範囲を定める
 構成要件」ということになる。
  そして、憲法第73条6項但し書きによると、法律の委任がなけ
  れば、人を罰することができないのに、法律の委任なしに、人事院が、
 人事院規則で勝手に国家公務員を処罰することは、違憲である。
  以上が本肢の趣旨である。

  ○ 4について。

  本肢は、人事院規則で、人事院が「政治的行為」の範囲を確定
  することのみを問題にし、合憲説をとるものであるから、同様に
 二つの作用が質的に異なるという見地に基づいていない。

  ○ 5について。

   本肢では、国会による民主的統制がポイントになる。

   行政権が内閣に属するということは、内閣における、行政権
  の行使についての国会に対する連帯責任(66条3項)を通じ
  て、人事院に対して、国会による民主的統制が及んでいる必要
    がある。
   したがって、行政各部の政治的中立性の要請を根拠に内閣
   から独立した人事院が人事行政を行うことは違憲である疑いが
  ある。

     これに対して、「政治的行為の確定」という内閣が行う高度
 に政治的な統治の作用は、そもそも国会の民主的な統制になじま
 ないから、内閣から独立した人事院に委ねても合憲である。

  以上の見地は、内閣が行う高度に政治的な作用(「政治的行為」
 の確定)と、一般の公務員による行政作用(行政各部の政治的中立
 性の要請される人事行政)とは質的に異なるということに基づくも
 のである。

   しかし、本肢の記述はいかにも舌足らずであるとともに、不明確
 であり、本肢から前述した趣旨を読み取れというのは無理である。

 そのことが、殊更、本問を難問にしているように思えてならない。

  いずれにせよ、結論としては、1〜4と5との比較検討により、
 本肢を正解にせざるを得ない。


 ◆ 付 言

  本問に関しては、1ないし4の肢は、人事院ないし 行政独立
 委員会の合憲性に関する重要な見解であるので、本問の検討を通
 じて、むしろ、これらを正確に把握することの方が肝要であると
 思う。


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 ■ 平成21年度・問題7
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   衆議院と参議院の議決に一致がみられない状況において、クローズ
 アップされてくるのが両院協議会の存在である。日本国憲法の定めに
 よると、両院協議会を必ずしも開くかなくてもよいとされている場合
 は、次のうちどれか。

 1 衆議院が先議した予算について参議院が異なった議決を行った場合

 2 内閣総理大臣の指名について衆参両院が異なった議決を行った場合

 3 衆議院で可決された法律案を参議院が否決した場合

 4  衆議院が承認した条約を参議院が承認しない場合

 5 参議院が承認した条約を衆議院が承認しない場合
   
 
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■ 解説
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  ◆ 総説

  衆議院の議決が優先される事項

  1 予算の議決(60条2項)

  2 条約の承認(61条)

  3 内閣総理大臣の指名(67条2項)

  ◎ いずれも参議院が異なった議決をした場合は、両院協議会
   を開催。それでも意見が一致しない場合は、衆議院の議決が
   国会の議決に。

    1・2は30日間 3は10日間 参議院が議決しない
   ときも衆議院の議決が国会の議決に。


  4 法律案の議決(59条2項・同条4項)

  ◎ 衆議院が可決し、参議院がそれと異なった議決をするか、
   60日以内に議決しなかった場合、衆議院の3分の2以上
   の多数で再可決すると成立。

   ★ 参考事項

   衆議院だけが持つ権限

  1 予算を先に審議する(60条1項)

  2 内閣不信任案決議ができる(69条)

 
 ◆ 各肢の検討

  ● 総説1・2・3◎によれば、肢1・2・4・5においては、両院
   協議会を必ず開かなくてはならない。

   これは、憲法上開く必要があり、これを必要的両院協議会という
   (憲法1 清宮四郎 有斐閣)。

  ●  総説4◎によれば、肢3では、両院協議会を必ず開かなくても
   よい。

    しかし、法律案の議決にあたり、衆議院が開くことを要求した
      場合、または参議院が要求し、衆議院がそれに同意した場合も開
   かれる(憲法59条3項・国会法84条)。これを任意的両院協
      議会という(前掲書)。


-------------------------------------------------------------

   以上によれば、両院協議会を必ずしも開かなくてもよいとされている
 場合(任意的両院協議会)は、肢3であるので、3が正解である。

-------------------------------------------------------------

  ◆ 付 言

  さきに提示した過去問との比較でいえば、同じ点数なのであるから、
 本問で着実に加点するこが大切である。さきの過去問が当たれば、
  もっけの幸いといえるのかもしれない。


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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                 ★ 過去問の詳細な解説  第87回  ★

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  【テーマ】 民法・催告
  
     

    【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
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  問題」【平成22年度版】《有料》が、もう間もなく、発行されます
  ので、みなさま、よろしくお願いします。


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 ■ 平成21年度 問題30
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   催告に関する次のア〜オの各事例のうち、民法の規定および判例に
 照らし、正しいものの組合わせはどれか。

 ア  Aは成年被保佐人であるBとの間で、Bの所有する不動産を購入す
    る契約を締結したが、後日Bが制限行為能力者であることを知った。
  Aは1ケ月以上の期間を定めて、Bに対し保佐人の追認を得るべき
    旨を催告したが、所定の期間を過ぎても追認を得た旨の通知がない。
   この場合、その行為は追認されたものとみなされる。

  イ  CはDとの間で、C所有の自動車を、代金後払い、代金額150万
  円の約定でDに売却する契約を締結した。Cは自動車の引き渡しを完
  了したが、代金支払期日を経過してもDからの代金の支払いがない。
  そこでCはDに対して相当の期間を定めて代金を支払うよう催告したが、
    期日までに代金の支払いがない。この場合、C・D間の売買契約は法
  律上当然に効力を失う。

 ウ  Eは知人FがGより100万円の融資を受けるにあたり、保証(単純
    保証)する旨を約した。弁済期後、GはいきなりEに対して保証債務の
    履行を求めてきたので、Eはまずは主たる債務者に催告するよう請求し
    した。ところがGがFに催告したときにはFの資産状況が悪化しており、
    GはFから全額の弁済を受けることができなかった。この場合、EはG
    が直ちにFに催告していれば弁済を受けられた限度で保証債務の履行を
    免れることができる。

  エ Hは甲建物を抵当権の実行による競売により買い受けたが、甲建物に
  は、抵当権設定後に従前の所有者より賃借したIが居住している。Hは
    Iに対し、相当の期間を定めて甲建物の賃料1ケ分分以上の支払いを催告
    したが、期間経過後もIが賃料を支払わない場合には、Hは買受け後6
    ケ月を経過した後、Iに対して建物の明け渡しを求めることができる。

  オ Jは、自己の所有する乙土地を、その死後、世話になった友人Kに無
  償で与える旨の内容を含む遺言書を作成した。Jの死後、遺言の内容が
    明らかになり、Jの相続人らはKに対して相当の期間を定めてこの遺贈
    を承認するか放棄するかを知らせて欲しいと催告したが、Kからは期間
    内に返答がない。この場合、Kは遺贈を承認したものとみなされる。

 
 1 ア・イ

 2 ア・ウ

 3 イ・エ

 4 ウ・オ

 5 エ・オ

 

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 ■ 解説
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 ☆ 参照書籍

   民法 2・3   勁草書房
 

  ◆ 各肢の検討

 
  ○ 肢アについて

   本肢は、20条の制限行為能力者の相手方の催告権に関する条文
    の適用問題である。

   この場合は、被保佐人であるBに対する催告であるから、20条
   4項が適用適用される。
   すなわち、被被保佐人がその期間内に保佐人の追認を得た旨の通
  知を発しないときは、当該不動産の売買契約を取り消したものとみ
  なすことになる。したがって、これに反する本肢は誤りである。

   ★ 参考事項

    制限行為能力者とは、未成年者・成年被後見人・被保佐人・
      被補助人をいう(20条1項)。

    これら制限無能力者に対する催告権の効果に一定のルールがあ
      るので、把握しておきたい。
   
   1 制限行為能力者が行為能力者となった後に、その者に対する
    催告に確答なし→ 追認 (20条1項)

    2 ただし、だれかの同意を得るなどの特別の方式を要する場合
    その方式を具備した通知を発しない→取り消し(20条3項)

   3 法定代理人・保佐人・補助人に対しては、1・2と同様で
      ある(20条2項)。

    4 被保佐人・被補助人に対する催告に通知なし→取り消し(20
      条4項)=本肢の事例
   ≪成年被後見人は含まれないことに注意・9条によれば、成年被
    後見人に関しては、日常生活に関する行為は有効であると同時
    にその他の行為は、常に取り消すことができるので、追認の余
    地はなく、催告は想定し難いからである。≫


   ○ 肢イについて

   本肢は、541条の契約解除の要件を満たすので、Cは、Dに対
  して相当の期間を定めて代金を支払うよう催告したが、期日までに
    代金の支払いがない場合には、Cは、Dに対して、C・D間の売買
    契約を解除できる。

   したがって、この場合、C・D間の売買契約は法律上当然に効力
    を失うのではなく、契約の有効を前提として、売買契約を解除でき
    ることになるので、本肢は誤りである。

   ★ 参考事項

   1 同時履行の抗弁との関係について

    この場合、DがCに対して、自動車の引き渡しについて、533
   条の同時履行の抗弁権を有すると、Cは自動車の引き渡しという債
   務の履行を提供しなくては、契約の解除をできないことになる。
    しかし、本事例では、代金後払いの約定でCは自動車の引き渡し
   を完了しているので、同時履行の抗弁は考慮しなくてもよい。

   2 応用問題について

    履行遅滞による解除権と同時履行の抗弁の関係について、メルマ
      ガ有料版第7号において、オリジナル問題を出題したので、末尾に
   正誤を問う当該肢と解説を転載しておく。

 
   ○  肢ウについて

   本肢は、催告の抗弁に関する452条・455条の条文適用問題で
    ある。そのまま条文を適用すればよいが、ただし、454条で連帯保
  証に適用されないことになっていることに注意する必要がある。
   本肢では、(単純保証)であるとされているので、条文どおりであ
  り、正しい。


   ★ 参考事項


   保証債務はその従たる性質から、債権者に対して第二次的の地位に
    あり、主たる債務者の履行しないときに、はじめて履行すればよいの
  が常である(446条1項参照)。
   これを保証債務の補充性というが、その法律的な現れの一つとして、
  催告の抗弁権があることになる。

   もう一つが、検索の抗弁権である(453条・455条)。これも
  また、連帯保証には適用されない(454条)

   以上により、連帯保証には、補充性はないことになる。

  (以上、前掲書2参照)


   なお、検索の抗弁について、以下の判例に注目

  「検索の抗弁のためには、主債務者の執行容易な若干の財産の存在の
   証明があれば足り、これによって得られる弁済が債権全額に及ぶこ
      との証明を要しない。」(大判昭8・6・13・・・)

  
   ○ 肢エについて

        本肢は、抵当権設定後における抵当権者に対抗できない賃借権者
  (競売の手続開始前から使用又は収益する者)の引き渡しの猶予に関
     する395条の適用事例である。
    本件では、同条2項の適用により、同条1項の6ケ月の猶予がない
   場合に相当する。

   以上に反する本肢の記述は誤りである。

  
  ○ 肢オについて

   受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告について規定する987条
  の条文適用問題である。

   本事例では、987条の適用により、「承認したものとみなされる」
  ので、本肢は正しい。

   
   ★ 参考事項

 
  遺贈とは、遺言による財産の無償贈与である。

  遺贈には包括遺贈と特定遺贈がある(964条)。
  
  前者は、積極・消極の財産を包括する相続財産の全部またはその分数的
  部分ないし割合による遺贈であり(たとえば相続財産の2分の1、または
 4割がその例)、後者は、特定の具体的な財産的利益の遺贈である。
 
  両者はその効力において全く異なることを注意すべきである。

 (以上、前掲書3参照) 

  本件では、特定の土地を無償贈与するというのであるから、以上の記述
 に関しては、「特定贈与」であることを、この際、はっきり認識する必要
  がある。

  したがって、

  包括遺贈は、相続人と同一の権利義務を有する(990条)ので、遺贈
 の承認・放棄についても、相続に関する915条ないし940の適用があ
                               ・・・
 り、本件の「特定遺贈」の承認・放棄に適用される986条および987条
  は適用されないことに注意せよ!

------------------------------------------------------------ 
 
    以上のとおり、ウとオが正しいので、正解は4である。

------------------------------------------------------------ 

  
 ◎ 末尾記載の応用問題
 
  【肢】

   AはBとの間で、A所有の自動車を代金額120万円の約定でB
  に売却する契約を締結した。Aは、引き渡し期日を過ぎても、約束
  の引き渡し場所に、自動車を引き取りに来ないBに対して、自動車
  の引き渡しの準備を完了したことを通知するとともに、相当の期間
  を定めて代金を支払うよう催告したが、期日までに 代金の支払い
  がない。この場合、AはA・B間の売買契約を解除できる。

    【解説】

    関係する条文数は、6つである。主題は、履行遅滞による解除権と
  同時履行の抗弁である。
 
 それでは、順次検討する。

 1 民法573条によれば、自動車の引き渡し期日を定めたときは、
    代金の支払いについても同一の期限を付したものと推定される。
   この場合における代金の支払い場所は、その引き渡し場所で
   である(民法574条)。

   したがって、Bは、引き渡し場所において代金を支払う義務が
  ある。

   2 以上に従えば、代金の支払いを遅滞する(民法412条1項)
   Bに対して、Aは民法541条1項に基づき、相当の期間を定
   めて履行の催告をしたうえで、契約の解除をすることができる。
    しかし、本肢の場合、Bの代金支払いは、自動車の引き渡し
   と同時履行であるから、Bには民法533条の同時履行の抗弁
   権がある。
    このように、相手方が同時履行の抗弁権を有する場合には、
     解除しようとする者は、自分の債務を提供しておかなければ
   解除できない。「厳格な理論からいえば、解除しようとする者
     は、催告後の相当期間の間中この提供をしつづけなければなら
     ないことになる。」(勁草書房 2)

  3 しかし、この場合には、民法493条の規定に従えば、その
     提供の方法は、本肢のように、自動車の引き渡しの準備を完了
   したことを通知することで足りるので、相当の期間を定めて
   代金を支払うように催告した後に行う本件の解除は有効である。
   (大判大14・12・3が同旨)

    したがって、本肢は正しい。

  

   
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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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        ★ 過去問の詳細な解説  第85回  ★

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                         PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】 民法 

    【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
     本年9月末頃を目途に、過去問の分析に加え、近時の傾向も取り
  入れた「オリジナル模擬試験問題」(有料)を発行する予定をして
   います。
     とくに、関連部分に言及した解説にも力を込め、よりよいものを
   目差して、目下準備中です。


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 ■ 平成21年度・問題28
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   時効に関する次のA〜Eの各相談に関して、民法の規定および判例に
 照らし、「できます」と回答しうるものの組合せはどれか。


 Aの相談「私は13年前、知人の債務を物上保証するため、私の所有す
  る土地・建物に抵当権を設定しました。知人のこの債務は弁済期から
  1 1年が経過していますが、債権者は、4年前に知人が債務を承認して
  いることを理由に、時効は完成していないと主張しています。民法によ
  れば、時効の中断は当事者及びその承継人の間においてのみその効力を
 有するとありますが、私は時効の完成を主張して抵当権の抹消を請求で
  きますか。」


  Bの相談「私は築25年のアパートを賃借して暮らしています。このア
  パートは賃貸人の先代が誤って甲氏の所有地を自己所有地と認識して建
  てしまったものですが、これまで特に紛争になることもなく現在に至っ
  ています。このたび、甲氏の相続人乙氏が、一連の事情説明とともにア
  パートからの立ち退きを求めてきました。私は賃貸人が敷地の土地を時
  効取得したと主張して立ち退きを拒否できますか。」


 Cの相談「30年程前に私の祖父が亡くなりました。祖父は唯一の遺産
  であった自宅の土地・建物を祖父の知人に遺贈したため、相続人であっ
  た私の父は直ちに遺留分を主張して、当該土地・建物についての共有持
  分を認められたのですが、その登記をしないまま今日に至っています。
 このたび父が亡くなり、父を単独相続した私が先方に共有持分について
  の登記への協力を求めたところ、20年以上経過しているので時効だと
 いって応じてもらえません。私は移転登記を求めるころはできますか。」


  Dの相談「私は他人にお金を貸し、その担保として債務者の所有する土地 
  ・建物に2番抵当権の設定を受けています。このたび、1番抵当権の被
  担保債権が消滅時効にかかったことがわかったのですが、私は、私の貸金
  債権の弁済期が到来していない現時点において、この事実を主張して、私
  の抵当権の順位を繰り上げてもらうことができますか。」


 Eの相談「叔父は7年ほど前に重度の認知症になり後見開始の審判を受け
  ました。配偶者である叔母が後見人となっていたところ、今年2月10日
  にこの叔母が急逝し、同年6月10日に甥の私が後見人に選任されました。
  就任後調べたところ、叔父が以前に他人に貸し付けた300万円の債権が
  10年前の6月1日に弁済期を迎えた後、未回収のまま放置されているこ
  とを知り、あわてて本年6月20日に返済を求めましたが、先方はすでに
  時効期間が満了していることを理由に応じてくれません。この債権につい
  て返還を求めることができますか。」
   

  1 Aの相談とBの相談

  2 Aの相談とCの相談

  3 Bの相談とDの相談

  4 Cの相談とEの相談

 5 Dの相談とEの相談
 

 

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 ■ 解説
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   ◆ 参考書籍

  民法 1  勁草書房

 
  
   ◆ 各肢の検討


  ● Aの相談について

  これは、物上保証人が担保する債権が時効中断によって時効消滅しな
 い場合、担保物権たる抵当権はどうなるかという問題である。

  この場合、担保物権における付従性の原則(消滅における付従性)に
  より、その担保する債権が時効消滅しない間は独立に消滅時効にかから
 ない。
 
  本件では、私は、時効の完成を主張して抵当権の抹消を請求できない。

  したがって、「できます」と回答しうるものではない。

  以上、本件では、付従生の原則が頭にあれば、すっと、正解に達する。
  

   ★ 参考事項
 
  
  (1) 時効中断

     消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する
   (166条1項)から、債務の弁済期から進行する。本件では、
       弁済期から11年経過しているので、時効消滅する(167条)
    はずであるが、4年前の債務の承認による時効中断のため、
    その時から10年間は時効消滅しない(147条3号、157
    条1項)。以上により本件では、現在、当該債権の時効は完成
       していないことが前提になっている、

     本件では、時効中断の効力が及ぶ範囲が問題とされているが
   (148条)、当事者間に中断の効果が及びそのため、当該債権
       の時効が完成していないことになるだけの話である。結論に変
    わりはない。このよな文言に惑わされてはならない。

    (2) 396条との関係

     これは、その担保する債権が時効消滅しない間であっても、
      抵当権が独立に消滅することを定めているので、消滅における付
      従性の原則の例外である。

    しかし、債務者及び抵当権設定者には、本条の例外規定の適用
   はないので、本件における物上保証にあっては、その担保する債
   権が時効消滅しない間は独立に消滅にかからないという原則に従
   うのである。

    それでは、本条はどのような場合に適用されるか。これについ
   ては、以下のとおりである。

   「たとえば第三取得者または他の債権者に対する関係においては、
    債権が消滅時効にかからない場合においても、(抵当権は)独
    立に消滅時効にかかるものとされる(396条)。その時効期
    間は20年である(167条2項)。債権は一般に10年で消
    滅時効にかかるから(167条1項)、右の事例は債権につい
    て時効の中断の行われた場合に生ずるわけである。」(前掲書)


     ● Bの相談について
                 ・・・
        145条によれば、時効は、当事者が援用することを要する。
                  ・・・
    本件では、当事者である先代から賃貸人の地位を引き継いだ
      現在の賃貸人が、当該土地の取得時効を主張することは問題ない
     (162条1項)。

    本件のポイントは、当該土地を敷地とする建物の賃借人である
     私が、援用権者である賃貸人が時効を援用しない場合に、当該土
   地の所有権の取得時効取得時効を援用できるかということである。

   以下の判例がある。

   土地の所有権を時効取得すべき者から、その土地上に同人の所有
    する建物を賃借しているに過ぎない者は、右土地の取得時効の完成
  によって直接利益を受ける者ではないから、右土地の取得時効を援
    用することはできない(最判昭和44・7・15・・)。

   したがって、「私は賃貸人が敷地の土地の時効取得をしたとし
  て立ち退きを拒否『できます』」と回答しうるものではない。

  
   ★ 参考事項

    その他、争点になる点は、以下のとおりである。

  (1) 本件では、当該土地について、先代の賃貸人の占有を相続
    した原賃借人が両者合わせて25年間「特に紛争になること
    もなく」すなわち、「平穏に、かつ、公然と」占有を継続し
        ているので、162条1項の適用が前提になっている。
     なお、当該占有は賃借人による占有であるので、代理占有
    であることに注意せよ(181条)。

   (2)本件においては、当該賃借人は、時効の援用権が認められ
       なかったのであるが、当事者以外において、時効によって取
    得される権利に基づいて権利を取得した者も広く援用権者に
    含まれるとする判例の立場からは、次の記述が参考になる。

   「この見地からは、取得時効についてみると、たとえばAの所
    有地を時効によって取得するBから地上権等の設定を受けた
        CにはBの取得時効の援用権がある。つまり、この場合Bが
        援用しなければ、Cは独自にBの取得時効を援用して、Aに
        対し、当該の土地の上に地上権等を有することを主張できる
        ことになる。」(前掲書)

         以上の理からすれば、

     時効取得される土地の賃借人(当該地上の建物の所有者)も
    また、援用権者に含まれることになるであろう。

     本件と以上の事例を比較すれば、

     時効の完成によって直接利益を受けるのかどうかが、時効の
        援用権者の範囲に関する判例の基準になるのであろう。


  
   ● Cの相談について

     167条2項によれば、所有権は消滅時効にかからない。

   以上を前提にした判決がある。

   遺留分権利者が減殺請求によって取得した不動産の所有権に基づく
   登記手続請求権は時効によって消滅することはない(最判H7・6・9
  ・・)。

   この判決を本件に照らすと、本件における先方の言い分である「20
   以上経過しているので時効だ」というのは、妥当でないので、私は移転
  登記を求めることは「できます」と回答しうる。

  
   ★ 参考事項


   (1) 本件では、祖父による知人の受遺者に対する遺贈に関する父の
     遺留分請求は、共有持分2分の1について認められることになる
     (1028条2号・1031条)。

    (2) つぎに、所有権が時効消滅しないことに関連する判決(最判
      昭和51・11・8・・)があるので、以下にその判旨を掲げ
      ておく。
     
      不動産の譲渡による所有権移転登記請求権は、右譲渡によって
     生じた所有権移転に付随するものであるから、所有権移転の事実
     が存する限り独立して消滅時効にかかるものではないと解すべき
     である。

  
  ● Dの相談について

   本件は、消滅時効の援用権者に関する問題である。

   判例は、145条の当事者に該当しなくても、時効によって消滅した
  時効の完成によって、利益を受ける者も広く援用権者に包含する。

   しかし、本件に関しては、以下の判例がある。

  「後順位抵当権者は先順位抵当権者の被担保債権の消滅時効を援用する
      ことができない」(最判平11・10・21・・・)

   したがって、本件において、私は1番抵当権の被担保債権の消滅時効
  を援用して「私の抵当権の順位を繰り上げてもらうことが『できます』」
    と回答しうるものではない。

   
   ★ 本題に関しては、以下の記述を参照せよ。

   「連帯保証人(439条参照)や保証人(大判大正4・12・11・・)
 は、直接の当事者として主たる債務の消滅時効を援用できるとされて
    いるが、物上保証人や抵当不動産の第三取得者(最判昭和48・12・
        14・・・)も、自分の負担する抵当権の基礎としての債務の消滅時
    効を援用して、抵当権を消滅させることができる。」(前掲書)

  
  ● Eの相談について

   本件は158条の規定する成年被後見人と時効の停止の問題である。

   本件において、158条1項前段を適用すれば、成年被後見人である
    叔父の法定代理人である成年後見人がないときは、成年後見人に付され
    た叔母の死亡によって成年後見が終了した今年の2月10日から甥の私
    が成年後見人選任された同年6月10日の間である(7条・8条参照)。

   他方叔父が以前に貸し付けた債権の時効が完成したのは、弁済期から
  10年経過した今年の6月1日ということになる(167条1項)。

   したがって、時効の期間満了前6箇月以内の間に成年後見人がない
   ときに該当するため、私が後見人に就職した時から6箇月を経過するま
   での間は、時効は完成しないことになる(158条1項後段)。

   以上、本件においては、私が成年後見人に選任されてから10日後
   の6月20日に債権について返還を求めることは「できます」と回答し
   うる。

 
   なお、本件は単純な158条の条文適用の問題であるが、この条文
    自体がなじみの薄いものであるため、即座に回答を導くのは困難であ
    ると思われる。

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   「できます」と回答しうるものは、Cの相談とEの相談であるから、
 4が正解である。 

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  ◆  付 言

  事案における事実関係を素早く把握し、簡潔な構成へと再構成する訓練
  が望まれる。

  逆に、参考事項に掲げられた判例などを素材にして、ご自分で事実関係
  を構築し、それぞれに、相談内容を作成してみるのも一考であろう。

   

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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