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        ★ 過去問の詳細な解説  第 96 回  ★

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                        PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  行政法
   
    
  【目次】    問題・解説

           
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 ■行政法・ 平成22年度・問題8
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   A市は、風俗営業のための建築物について、条例で独自の規制基準を
 設けることとし、当該基準に違反する建築物の建築工事については市長が
 中止命令を発しうることとした。この命令の実効性を担保するための手段
 を条例で定める場合、法令に照らし、疑義の余地なく設けることのできる
 ものは、次の記述のうちどれか。

  1 当該建築物の除去について、法律よりも簡易な手続で代執行を実施
  する旨の定め。

  2  中止命令の対象となった建築物が条例違反の建築物であることを公
   表する旨の定め。

  3  中止命令を受けたにもかかわらず建築工事を続行する事業者に対し
     て、工事を中止するまでの間、1日について5万円の過料を科す旨の
   定め。

  4  市の職員が当該建築物の敷地を封鎖して、建築資材の搬入を中止さ
   せる旨の定め。

  5 当該建築物により営業を行う事業者に対して1千万円以下の罰金を
   科す旨の定め。
 

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 ■ 解説
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  ○ 序説


  本問は、全体として、論点が把握し難いが、単純化すれば、その基準
  になるのは、主に行政代執行法第1条・同法2条および地方自治法14
 条3項である。各肢について検討する。


 ◎ 各肢の検討

  
  ● 肢 1


  条例に基づき、行政庁命じられた義務については代執行ができる(行政
  代執行法第2条第1項カッコ書きにおいて、条例を明示している)。
  したがって、市長の中止命令に反する当該建築物の除去義務は、代替
 作為義務であるから、代執行できる。

  しかし、法律よりも簡易な手続で代執行を実施する旨の規定を条例で
  設けることは、二重の意味で許されない。

  第一には、「法律の範囲内で条例を制定することができる」とする憲
 法の規定に反する(憲法94条なお地方自治法14条1項)。

  第二には、行政代執行法第1条に反する。当該規定の趣旨は以下のと
  おりである。

    地方公共団体に関して言えば、その「行政庁は、行政代執行法の規
 定により代執行ができるし、さらに、個別の法律の規定があれば、そ
 の法律で定められている強制執行を行うことができる。しかし、その
  反面、条例によって強制手段を創設することはできない。」(読本
 139頁)

  つまり、条例によって、簡易な手続による代執行を定めることは、条
 例による強制手段の創設に連なる。

     疑義の余地なく設けることはできない。

 
   ● 肢 3・4について(説明の便宜上、肢2を後に回す)

 
     ★ 強制執行制度

   原則→ 「行政代執行」(行政代執行法2条)


   別の法律の定め→「直接強制」・「執行罰」・「滞納処分」
  (同法1条)
 
 
  執行罰というのは、「義務を履行しない義務者に対して心理的
  強制を加えるために、金銭的な罰を科する方法である」(読本
 132頁))から、肢3がこれに該当する。

  行政上の直接強制とは、「義務者の身体や財産に直接に実力を
  行使して義務を履行させるという方法である」(読本132頁)
 から、4がこれに該当する。

  肢1第二で明らかにしたように、条例によって、強制手段を
  創設できないのであるから、執行罰(肢3)、直接強制(肢4)
 という強制手段の創設を条例で設けることはできない。

   
  いずれも、疑義の余地なく設けることのできるには該当しな
 い。


   ● 肢2


  公表とは、行政が持っている情報を公表することがである。
  
  本肢では、行政処分に従わない者に対する制裁(間接的強制
 手段)としての公表が対象になっているが、この公表というの
 は、刑罰とは異なり、比較的軽い措置である。

  ここにいう公表は、強制執行ではないので、条例で定めても
 前記肢3・4のように、「条例によって、強制手段を創設した」
 ことにはならない。

  また、行政手続条例において、その実効性を確保するために、
 公表の規定を置くことは望ましい(行政手続法46条参照)。
 
  (以上、前掲書参照)

  以上の記述に従えば、本肢は、「疑義の余地なく設けること
 のできるもの」に該当するので、本肢が正解である。


  ● 肢5

  地方自治法第14条第3項によれば、、条例違反の行為に対
 し、その条例中に百万円以下の罰金の規定しか設けられない。

  したがって、本肢の定め疑義の余地なく設けることはでき
 ない。

 
 ▲ 付言


  各肢を素早く比較して、直感的に肢2の「公表」を正解とし、
 あと、時間が余れば、前述した論拠を考察するのも一方法かも
 しれない。
  
  肢1~4の論拠の考察は、結構高度で、それなりに時間がか
 かると思料するから。

 
 
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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

 【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
       
 【E-mail】<fujimoto_office1977@yahoo.co.jp>
 
 ▽本文に記載されている内容は無断での転載は禁じます。
 
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         ★ 過去問の詳細な解説  第89回  ★

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                             PRODUCED BY 藤本 昌一
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   【テーマ】

      憲法=内閣と独立行政委員会

      すでに、サイト憲法問題(統治機構)第4回において、掲載済
     みですが、常にその解説が不適切であったことが気になっていま
     した。この機会にその点も改め、改めて解説を行うことにします。
      
       なお、本試験では、近時、憲法に関しては、「考えさせる問題」
     の出題が顕著ですが、この問題もその傾向に沿うものであって、
   今回は、じっくりと取り組んでほしいと思います。
  
  【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
     現在、販売されている 行政書士試験直前予想問題【平成22年度版】
   は、時宜にかなった企画だったせいでしょうか、たくさんの方々に購入
  頂きつつあり、深謝いたしております。
 

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  この問題集は、長年の本試験研究の成果を踏まえ、私が渾身の力をふ
  りしぼり、以下の意図をもって作成したものですが、そのことが公にな
 り多くの購入者を今もなお、いただいていますことは、光栄であります。
 
  
 1、本試験と同じ形式を採用し、実際にも、来る本試験との重なりを期
    待しました。

 2、特に、【解説欄】に勢力を注ぎ、関連する事項に極力言及し、応用
    力が養成されるようにこころがけました。

 3、89回にもわたる当該「サイト」欄と連動させることにより、体系
    的理解を助けることを目的にしました。

  
  最後にわたしの目下の最大の望みは、1人でも多くの方が、本誌を活用
 され、直前に迫りつつある本試験で合格の栄誉に輝かれることであります。
  
  
 
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 ■ 平成19年度・問題4
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   国家公務員法102条1項が、その禁止対象とする「政治的行為」の
 範囲の確定を、独立行政委員会である人事院にゆだねていることの是非
 をめぐっては、次のようにさまざまな意見があり得る。それらのうち、
 内閣が行う高度に政治的な統治の作用と、一般の国家公務員による行政
 の作用とは質的に異なるという見地に基づく意見は、どれか。

 1 憲法が「行政権はすべて内閣に属する」と規定しているにもかかわ
   らず、公務員の人事管理を内閣のコントロールが及ばない独立行政委
   員会にゆだねるのは、違憲である。

 2 公務員の政治的中立性を担保するためには、「政治的行為」の確定
  それ自体を政治問題にしないことが重要で、これを議会でなく人事院
 にゆだねるのは適切な立法政策である。

 3 人事院の定める「政治的行為」の範囲は、同時に国家公務員法に
   よる処罰の範囲を定める構成要件にもなるため、憲法の予定する立
  法の委任の範囲を超えており、違憲である。

 4 国家公務員で人事官の弾劾訴追が国会の権限とされていることから、
   国会のコントロールが及んでおり、人事院規則は法律の忠実な具体化
  であるといえる。

 5 行政各部の政治的中立性と内閣の議会に対する政治的責任の問題は
   別であり、内閣の所轄する人事院に対して国会による民主的統制が
   及ばなくても、合憲である。

 

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■ 解説
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 ◆ 参考文献

  憲法  芦部 信喜 著  岩波書店 

 ◆ 総 説

  サイト4号における解説は、初期のものであったこともあり、
  肩に力が入りすぎていると同時に、適切でないところも散見さ
 れる。

 ☆サイト4回はこちら↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/70949.html

  また、本問自体、殊更に難問にする意図も見え隠れしていて、
 必ずしもし題意が明確とはいえないところもあるので、正解を
 導けなくても、他の基本に忠実な問題で、点数を稼げばよいと
 いえる。

  しかし、この問題文の中には、重要な論点が提示されている
  ので、ここで、本問を検討することは、本試験に向け、意味のあ
  ることと思う。

 
 ◆  論点の提示

   1 「行政権は、内閣に属する」(憲法65条)のである。
    そこで、行政権を行使する人事院は、内閣から多かれ少
   なかれ独立して活動している行政委員会に属するので、そ
      の合憲性が問題になる。

  2 人事院の行使する行政権に基づく任務をみた場合、その
      中立性を要求される人事行政と、内閣が行う高度に政治的
      な統治作用とに分かれる。

  3 前者は、本問でいう「一般の国家公務員による行政作用」
      に属するのに対して、後者は、本問でいう人事院に委ねられ
   た国家公務員に対する「その禁止対象とする『政治的行為』
   の範囲の確定」に属する。

 ◆ 各肢の検討


  ○ 1について。

   本肢は、人事院の行う人事行政のみに焦点を置いて、これが
  違憲であるするのであるから、二つの作用が質的に異なってい
  るという見地に基づいていない。

  ○ 2について。

   本肢は、「政治的行為の確定」という「高度の統治作用」
  のみに焦点を合わせて、合憲であるというのであるから、
  二つの作用が質的に異なるという見地に基づいていない。

  ○ 3について。

   本肢は、「政治的行為」の範囲の確定のみを問題とし、違憲
    とするので、同様に二つの作用が質的に異なるという見地に基
  づいていない。

  注 本肢の内容の説明

   ここでは、具体的に何を言っているのか(学者の論争としては、
  ポピユラーな題)を説明すると、以下のとおりである。

  特に「国家公務員による処罰の範囲を定める構成要件」という
 ことが分かり難いところであるが、たとえば、刑法の殺人罪を例
 にとると、処罰の範囲を定める犯罪の内容である「人を殺す」と
  いうことが構成要件である。。
  人事院の定める「政治的行為」の中味もまた、禁止事項であって、
 違反すれば処罰されることになるので、、「処罰の範囲を定める
 構成要件」ということになる。
  そして、憲法第73条6項但し書きによると、法律の委任がなけ
  れば、人を罰することができないのに、法律の委任なしに、人事院が、
 人事院規則で勝手に国家公務員を処罰することは、違憲である。
  以上が本肢の趣旨である。

  ○ 4について。

  本肢は、人事院規則で、人事院が「政治的行為」の範囲を確定
  することのみを問題にし、合憲説をとるものであるから、同様に
 二つの作用が質的に異なるという見地に基づいていない。

  ○ 5について。

   本肢では、国会による民主的統制がポイントになる。

   行政権が内閣に属するということは、内閣における、行政権
  の行使についての国会に対する連帯責任(66条3項)を通じ
  て、人事院に対して、国会による民主的統制が及んでいる必要
    がある。
   したがって、行政各部の政治的中立性の要請を根拠に内閣
   から独立した人事院が人事行政を行うことは違憲である疑いが
  ある。

     これに対して、「政治的行為の確定」という内閣が行う高度
 に政治的な統治の作用は、そもそも国会の民主的な統制になじま
 ないから、内閣から独立した人事院に委ねても合憲である。

  以上の見地は、内閣が行う高度に政治的な作用(「政治的行為」
 の確定)と、一般の公務員による行政作用(行政各部の政治的中立
 性の要請される人事行政)とは質的に異なるということに基づくも
 のである。

   しかし、本肢の記述はいかにも舌足らずであるとともに、不明確
 であり、本肢から前述した趣旨を読み取れというのは無理である。

 そのことが、殊更、本問を難問にしているように思えてならない。

  いずれにせよ、結論としては、1〜4と5との比較検討により、
 本肢を正解にせざるを得ない。


 ◆ 付 言

  本問に関しては、1ないし4の肢は、人事院ないし 行政独立
 委員会の合憲性に関する重要な見解であるので、本問の検討を通
 じて、むしろ、これらを正確に把握することの方が肝要であると
 思う。


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 ■ 平成21年度・問題7
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   衆議院と参議院の議決に一致がみられない状況において、クローズ
 アップされてくるのが両院協議会の存在である。日本国憲法の定めに
 よると、両院協議会を必ずしも開くかなくてもよいとされている場合
 は、次のうちどれか。

 1 衆議院が先議した予算について参議院が異なった議決を行った場合

 2 内閣総理大臣の指名について衆参両院が異なった議決を行った場合

 3 衆議院で可決された法律案を参議院が否決した場合

 4  衆議院が承認した条約を参議院が承認しない場合

 5 参議院が承認した条約を衆議院が承認しない場合
   
 
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■ 解説
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  ◆ 総説

  衆議院の議決が優先される事項

  1 予算の議決(60条2項)

  2 条約の承認(61条)

  3 内閣総理大臣の指名(67条2項)

  ◎ いずれも参議院が異なった議決をした場合は、両院協議会
   を開催。それでも意見が一致しない場合は、衆議院の議決が
   国会の議決に。

    1・2は30日間 3は10日間 参議院が議決しない
   ときも衆議院の議決が国会の議決に。


  4 法律案の議決(59条2項・同条4項)

  ◎ 衆議院が可決し、参議院がそれと異なった議決をするか、
   60日以内に議決しなかった場合、衆議院の3分の2以上
   の多数で再可決すると成立。

   ★ 参考事項

   衆議院だけが持つ権限

  1 予算を先に審議する(60条1項)

  2 内閣不信任案決議ができる(69条)

 
 ◆ 各肢の検討

  ● 総説1・2・3◎によれば、肢1・2・4・5においては、両院
   協議会を必ず開かなくてはならない。

   これは、憲法上開く必要があり、これを必要的両院協議会という
   (憲法1 清宮四郎 有斐閣)。

  ●  総説4◎によれば、肢3では、両院協議会を必ず開かなくても
   よい。

    しかし、法律案の議決にあたり、衆議院が開くことを要求した
      場合、または参議院が要求し、衆議院がそれに同意した場合も開
   かれる(憲法59条3項・国会法84条)。これを任意的両院協
      議会という(前掲書)。


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   以上によれば、両院協議会を必ずしも開かなくてもよいとされている
 場合(任意的両院協議会)は、肢3であるので、3が正解である。

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  ◆ 付 言

  さきに提示した過去問との比較でいえば、同じ点数なのであるから、
 本問で着実に加点するこが大切である。さきの過去問が当たれば、
  もっけの幸いといえるのかもしれない。


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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 50回 】★      
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 2009/8/12


             
             PRODUCED by  藤本 昌一
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【テーマ】民法・相殺
 

【目 次】問題・解説 
           
      

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■ 問題
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 平成20年度過去問

 問題 34

 相殺に関する次のア〜ウの記述のうち、相殺の効力が生じるものを
 すべて挙げた場合、民法の規定および判例に照らし、妥当なものは
 どれか。

 ア AがBに対して平成20年5月5日を弁済期とする300万円
  の売掛代金債権を有し、BがAに対して平成20年7月1日を
 弁済期とする400万円の貸金債権を有している。この場合に、
  平成20年5月10日にAがBに対してする相殺。

 イ AがBに対して平成18年5月5日を弁済期とする300万円の
  貸金債権を有していたところ、平成18年7月1日にAがBに対して
  暴力行為をはたらき、平成20年7月5日に、Aに対してこの暴力行為
 で被った損害300万円の賠償を命ずる判決がなされた。
 この場合に、平成20年7月5日にAがBに対してする相殺。

 ウ A銀行がBに対して平成19年7月30日に期間1年の約定で
  貸し付けた400万円の貸金債権を有し、他方、BがA銀行に
  対して平成20年7月25日を満期とする400万円の定期預金
 債権を有していたところ、Bの債権者CがBのA銀行に対する
  当該定期預金債権を差し押さえた。
 この場合に、平成20年8月1日にA銀行がBに対してする相殺。

 
 1 ア・イ

 2 ア・ウ

 3 イ

 4 イ・ウ

 5 ウ
 

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■ 解説
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 参照書籍

 民法三 内田 貴著 東京大学出版会・民法2 一粒社 
 

 (1)総説

    相殺を為す適した状態を相殺適状という。本問のア・イ・ウの
  3事例は相殺適状にあるかどうかが問われている。
  
    相殺適状であるためには、次の4つの条件を満たす必要がある。
  第1に、「二人互に」債務を負担すること(505条1項本文)。
    第2に、両債務が「同種の目的」を有すること(505条1項本文)。
    第3に、両債務が弁済期にあること(505条1項本文)
  第4は、本問とは直接関係ないので、省く。
  (内田・民法)

 (2)各肢の検討
 

 アについて
          

     300万円の売掛代金債権・弁済期H20・5・5

               自働債権(相殺するAの債権)
         −−−−−−−−−−→
             A                    B
         ←−−−−−−−−−−−     
         受働債権(Aの債務・相手方Bの債権)
      
      400万円の貸金債権・弁済期H20・7・1


     ◎ H20・5・10⇒AがBに対してする相殺

   A・Bが「二人互に」債務を負担し、両債務が金銭債務であるから、
 「同種の目的」を有するので、第1・第2の条件を満たす。
   しかし、本肢は、両債務が弁済期にあることという第3の条件を満
  たして いない。AがBに対して相殺を行ったH20・5・10時点
 では受働債権の弁済期が到来していない。「もっとも、相殺するほう
  のAの債権(自働債権)は必ず弁済期に達していることが必要とする
  が、相殺されるほうのBの債権(受働債権)は、弁済期に達していな
  くとも、Aが期限の利益を放棄できるとき(136条参照)はなお相殺
 することができる。」(民法 2)
  本肢は、この場合に相当するので、相殺の効力が生じるものに該当し、
  妥当なものである。
  なお、両債権額は、対等額で消滅するから、BからAに対する100
  万円の債権が残ることになる。


  イについて
      
     300万円の貸金債権・弁済期H18・5・5
                 
         自働債権 
       −−−−−−−−−−−−→
      A                      B
       ←−−−−−−−−−−−−    
         受働債権
     
     300万円の損害賠償(H18・7・1暴力行為) 

               (H20・7・5判決)

     
    ◎ H20.7・5⇒AがBに対してする相殺

   本肢は(1)総説で述べた相殺適状にあるが、受働債権が不法行為に
 よって生じたものであるとき(509条)に該当する。これは、相殺適状
 が存するにもかかわらず相殺の許されない場合に該当する。
 このような相殺が許されないのは、「不法行為の債務は必ず現実に弁済
 させようとする趣旨である。さらに、任意に履行しない債務者に対して
 債権者が自力救済その他の不法行為をしたうえで、それによって相手方
 が取得する損害賠償権を受働債権として相殺をもって対抗するような
 ことを許さないというねらいも含んでいる。したがって、両債権がともに
 不法行為に基づくものであるときにも相殺を許さないと解されている
 (最判昭和49・6・28・・)。なお、不法行為によって生じた債権を自動
 債権とする相殺は自由である(最判昭和42・11・30・・)。

   したがって、本肢は、相殺の効力が生じないので、妥当なものではない。

 

 ウについて。
      H19・7・30貸付

      400万円の貸金債権・弁済期H20・7・30
         
           自働債権
           −−−−−−−−−−−−−→
          A銀行                     B
        ←−−−−−−−−−−−−−
           受働債権
      
      400万円の定期預金債権・弁済期H20・7・25
                   (満期)
                             ↑

         Bの債権者C 差し押さえ

        
     ◎ H20・8・1 A銀行がBに対してする相殺


   民法511条の文言に従えば、A銀行がBに対してする相殺は、効力
 を生ずる。支払の差止めを受けた第三債務者A銀行は、差し押さえ後
 に取得した債権による相殺をもって差押権者Cに対抗できないが、本
 事例では、A銀行のBに対する自働債権は、差押前から保持されている
 から、Aは相殺をもって、Cに対抗できることになる。

   これに対して、弁済期の先後によって、相殺の可否を決しようとする
 立場がある。本事例のように、受働債権の弁済期が先に到来するなら、
 AはさきにBに弁済しなくてはならなかったのであるから、差し押さえ
 をしたCに対して、相殺を対抗できないことになる。この立場によると、
 もし、自働債権の弁済期が受働債権の弁済期より先に到達すれば、Aは、
 自己の債務について期限の利益を放棄できる(136条・定期預金の場合、
 期限までの約定利息を付ければ期限の利益を放棄できる≪大判昭和9年
 9月15日・・≫ため、Aは相殺をもって、Cに対抗できるが、本事例は
 これに該当しない。本事例では、Aは、H20・7・30以降まで受働
 債権の債務を遅滞しない限り相殺適状にならないのだから、そのような
 相殺への期待は保護に値いせず、相殺をもって対抗できない(内田・
 民法)。この立場に立つのが制限説である。

   しかし、判例は無制限説に立つ。「差押え前から反対債権(自働債権)
 を有していた債務者は反対債権の弁済期が被差押債権(受動債権)の弁済
 期より後であっても、・・・両債権が相殺適状に達すれば相殺をもって
 差押債権者に対抗できる。判例は、初めは対抗できないとしていたが、
 後に対抗できるとした(最大判昭和45・6・2・・・)。」(民法2)

   したがって、本肢のH20・8・1のA銀行がBに対してする相殺
 は、Cに対抗できるので、相殺の効力の生じる妥当なものである。

 
 注 ここでは、判例の立場にたてば、債務者が差押え前から保持して
    いた債権である限り、弁済期の先後を問わず、差押え債権者に対抗
    できると覚えておけばよい。これは、結果的には、冒頭の511条
    の文言に忠実な解釈になる。
   この解釈の背景には次のような思考があることに注意せよ。
   「債務者が差押え前から保持していた地位を受働債権の差押え
  という一事によって侵害すべきでない。」
   「相殺は担保的機能をを果すことを認識する必要がある。」
  (銀行は、貸付金の担保的機能を果たすために、定期預金との相殺
  に期待している・筆者注)(民法 2)。


   以上のとおり妥当なものは、アとウであるから、正解は2である。
   


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第42回 】★      
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 2009/7/16


             
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【テーマ】国家賠償法
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題・解説
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 ● 参考書籍

  行政法入門・藤田 宙靖  行政法読本・芝池 義一
 ともに有斐閣発行

 ● 国家賠償に関する過去問につき、各テーマごとに類似問題を掲げた。
   ○×で答えよ。(例により、一々出典を明らかにしない)。
 
 A 公権力の行使


 【問題】

 
 a群
 
 1 国家賠償法第1条に規定する「公権力の行使」は権力的な行政作用
   に限られ、公立学校における教師の教育活動は「公権力の行使」には
  当たらないとするのが判例の立場である。

 以下もすべて判例の立場からして○か×を問うもの。

 2 公立学校のプールにおける飛込みで事故が起きた場合、国家賠償法
   1条にいう「公権力の行使」とは、「行政庁の処分その他公権力の
  行使に当たる行為」を意味するから、国家賠償法1条は適用 されず、
    民法上の不法行為 として損害賠償を求めることになる。

 3 公立学校における教員の教育活動は、行政処分ではなく体罰等の
  事実行為であっても国家賠償法での公権力の行使にあたる。  

 4 国家賠償法における公権力の概念は非常に広く、法的行為のみならず、
  警察官による有形力の行使の行使等の事実行為をも対象とするが、教育 
  活動や公共施設管理などのサービス行政に関わる行為など民法709条
   の不法行為責任を問うことができる場合については、国家賠償法に基づ
  く責任をとうことはできない。

 b群

 1 国家賠償法第1条第1項に規定する「公権力の行使」は、行政作用に
   限られ、立法作用及び司法作用は含まれない。

 2 裁判官がした争訟の裁判については、当該裁判官の単なる過失では
  なく、違法又は不当な目的をもって裁判をしたなどの特別の事情が
  なければ国 の賠償責任の問題は生じないとするのが判例の立場で
  ある。

 以下もすべて判例の立場からして○か×を問うもの。

 3 国家賠償法は、国・公共団体の個別具体的な公権力の行使の行使に関
   する賠償責任であるから、執行権としての行政機関の行為が対象となる。
  これに対して、議会の立法は抽象的な法規範を定めるものであり、個別
   具体的に個人の権利を侵害するものではないので、そもそも国家賠償法
   に基づく賠償責任の対象とはならない。

 4 裁判官の裁判過程における行為は、司法作用にかかわる行為なので、
   「公権力の行使」には該当しない。

 5 国会議員の立法過程における行為は、国の統治作用にかかわる行為な
  ので、「公権力の行使」には該当しない。 

 c群
 
 以下すべて、判例の立場から○か×を問うもの。
 
 1 国家賠償法は国・公共団体の不法行為責任にかかる一般法であること
   から、国公立病院の医療過誤に関する責任も、民法709条以下の不法
   行為責任に関する法理は適用されることなく、国家賠償法第1条が適用
   される。

 2 国家公務員の定期健康診断における国嘱託の保健所勤務医師による
   検診は、医師の一般的診断行為と異ならない行為なので、「公権力の
   行使」には該当しない。

 3 国による国民健康保険上の被保険者資格の基準に関する通知の発出
   は、行政組織内部の行為なので、「公権力の行使」には該当しない。

 4 勾留されている患者に対して拘置所職員たる医師が行う医療行為は、
  部分社会内部の行為なので、「公権力の行使」には該当しない。

 

 【解説】

 Aa群

 1について

  国公立学校での学校事故については、最高裁判所は、そこでの教育
 活動を「公権力の行使」と見て、国家賠償法1条1項の適用があると
 している。昭和62年2月6日判決は、理由を示していないが、このこと
 をきっぱりと明言しているので、おそらく国公立学校での学校事故には
 同条1項を適用する実務は今後もかわらないであろう(但し、学校事故
 のうち物的設備の欠陥による事故については、同法2条が適用される)。
(読本) ×

 2について

  1と類似 ×

 3について

  1と2に類似 ○

 4について

   前述のとおり、教育活動のような非権力的公行政は「公権力の行使」と
 解する(広義説)のが最高裁の立場。×


 
 Ab群

 1について

  立法権および司法権の行使も国家賠償法1条1項の「公権力の行使」に
 当たる。×

 2について

  判例の立場は、裁判官に対し国家賠償責任が肯定されるには、本肢に
 いう「特別の事情」を要する(最判昭57・3・12・・H21模範六法383頁 
 42)のであり、○

 3について

 1で述べたとおり、立法権も賠償責任の対象になるので、×。
 しかし、例外的に、国会議員の立法行為等が、違法の評価を受けること
 に注意(最大判平17・9・14…H21模六 382頁 5)。

 4・5について

 これらは、いずれも、平成20年度の肢であるが、それ以前の過去問
 1・2・3により、いずれも×は明白である。

 
 Ac群

 1について

  国公立病院での医療事故については、民法の規定を適用するという
 実務が、最高裁判所昭和36年2月16日判決=東大病院梅毒輸血事件以来
 定着している(但し、予防接種被害については、国家賠償法1条1項が
 適用されている。東京高等裁判所平成4年12月18日判決)。(読本)
   以上により×。

 2・3・4について

   これらは、難問であると思えば、いずれも平成20年度の同一問題
 の中の肢三つである。行政書士合格講座>行政書士試験の過去問分析
 のサイトを引くと、2は、最判昭和57・4・1 3は、最判平成16・1
 ・15 4は、最判平成17・12.8の判決文がその出典であるとのことで
 る。しかし、いずれも、模範六法にも掲載されてない。
   したがって、無数にある判決の中で、これらの判決について、受験
 前に頭に入れておくことは、至難の技である。この肢の中に○がある
 として、どれを○にすべきかで考えてみよう。
   1で見たとおり、国公立病院での医療事故については、民法の規定
 を適用するという実務が定着している。これに準じて、2が○。
 そのとおりです!! したがって、3 4は×。

   3については、「公表が『公権力の行使』に当たるとして国家賠償法
 1条1項を適用する裁判例もあるが、民法を適用する裁判例もある」
 (読本)
   そして、3は、実は、「公権力の行使」には該当しないとする判決
 であるが、その理由とする「行政組織内部の行為なので」というところ
 が×だ!!!というのである。(前掲サイト解説参照)。当該実務の
 担当者が研究熱心で、この判決文を隅々まで読んでいたとして、
 初めて正解に達するという筋合いの問題だ。

 4については、拘置所職員たる医師による医療行為は、3と比較する
 と「公権力の行使」と見るのも自然である。

 

  
  B 公務員

 
 【問題】


 1 国家賠償法第1条第1項に規定する「公務員」は、国家公務員法又は
   地方公務員法に基づく公務員に限られ、公庫、公団などのいわゆる特殊
   法人の職員は含まれない。

 2は、判例に照らした場合○か×で答えよ
 
 2 国家賠償法の責任は、公務員の違法な公権力の行使についての制度で
  あることから、行為者は国家公務員法もしくは地方公務員法上の常勤の
   公務員であることを要する。これに対し、一時的に公務を行う非常勤
   公務員の行為に起因する損害は、民法の不法行為責任の対象となり、
   国家賠償責任の対象外である。  

 
 【解説】

  国家賠償法1条1項を見ると、加害者が正規の公務員であることが
 公権力行使責任が認められるための要件であるように見える。しかし、
 裁判例ではそうは考えられていない。加害行為が行政の仕事、つまり
 公務であればよいと考えることができる。(読本)
   したがって、特殊法人の職員であっても、公務に従事していれば、
 法1条1条1項の「公務員」に該当する。1は×。
   以上の趣旨に従えば、判例は、一時的に公務を行う非常勤公務員
 を法1条の「公務員」とみるので、この者の行為に起因する損害は、
 国家賠償責任の対象である。2も×。


  C 公務関連行為・外形主義

 
 【問題】


 1 国家賠償法第1条第1項に規定する「公務員がその職務を行うに
  ついて」には、公務員が私人として行った行為は、それが客観的に
  みて職務行為の外形を備えている場合には、含まれる。 

  以下、判例に照らした場合、○か×で答えよ。

 2 非番の警察官が、管轄区域外で犯罪を行った場合でも、それが職務
   執行に名を借りて行ったものである以上、当該警察官の行為は国家賠
   償法第1条にいう職務の遂行につきなされた違法な公権力の行使であり、
   当該警察官の所属する地方公共団体が賠償責任を負う。95−5

 3 職務を行うについてという要件の範囲は非常に広く、勤務時間外に
  行われた、公共団体にとってはおよそ直接監督することのできない、
   職務とは 関わりのない行為でも、それが制服を着用していたり、公務
  であることを騙ったりして、外見上職務であるように見えれば、国家
   賠償法上の職務関連行為として認定されることがある。

 4  公務員が主観的には職務権限行使の意思を有しなかったとしても、
  客観的に職務行為の外形を備える行為であれば、国家賠償法第1条
   の職務を行うについてという要件をみたし、損害が発生している場合
   には、国または公共団体は損害賠償責任を負担する。

 5 警察官でない者が、公務執行中の警察官であるかのような外観を
   装い、 他人を殺傷した場合、当該被害者ないしその遺族は、いわゆる
   外形理論 により国又は公共団体に対して国家賠償法1条に基づき損害
   賠償を求めることができる。

 
 【解説】

  国家賠償法1条1項の「公務員が、その職務を行うについて」という
 規定は、加害行為が厳密に公務そのものに該当しない場合であっても公務
 との間に一定の関連性を持つ行為(公務関連行為)による被害についても
 公権力行使責任が認められるという意味である。(読本)
   最高裁判所はその適用の場面として、「客観的に職務執行の外形をそな
 える行為」について、国・公共団体の賠償責任を認めるという外形主義の
 考え方をとる。(読本)判例としては、最判昭31・11・30・・(H21模
 六法382頁 20)がある。
  
   したがって、1は○。2も外形主義の考え方であって、○。3も○。
 4も○。

   この外形主義による国・公共団体の賠償責任が認められるためには、
 加害公務員が正規の公務員でなければならないし、また加害行為はその
 公務員の職務の範囲内でなければならないとするのが定説である。
  したがって、正規の公務員でない者が警察官を装って私人に損害を
 与えても、都道府県の責任は認められない。(読本)
   5は、この場合に該当するので、外形理論により、損害賠償を求める
 ことはできない。×。

  また公務員ではあるが警察官ではない者が警察官を装って損害を与えた
 場合も都道府県の責任は認められないことにも注意せよ(読本)。

 

 D  国賠違法と取消訴訟

 

 【問題】


 1 違法な行政庁の処分に対し国家賠償請求訴訟を提起して勝訴する
   ため には、あらかじめ当該処分に対して取消訴訟または無効確認
   訴訟を提起し、取消しないし無効確認の判決を得て、当該処分が
   違法であることを確定しておかなければならない。

 2 行政事件訴訟法は、行政庁が取消訴訟の対象となる処分をする
  場合には、当該処分の相手方に対し、取消訴訟と併せて国家賠償法
  1条に基づいて国家賠償訴訟を提起することができる旨教示する義務
  を規定している。   

 3は、判例に照らして、○か×で答えよ。

 3 行政処分の違法性を理由とする国家賠償法上の訴えを提起するに
   あたって は、その前提としてあらかじめその行政処分の取消または
   無効確認の判決を得ておく必要はない。   

 
 【解説】

  1と3については、本講座では何度もとりあげている。基本は、行政
 処分の公定力が働く範囲を拡大させないためという目的があるが、再説
 しない。第2コース第36回A肢5解説・参照。
   1が×であり、3が○である。なお、1は直近の平成20年度の肢
 である。

  2については、行政事件訴訟法が定めているのは、取消訴訟等の提起
 に関する事項の教示であって、国家賠償法の提起の教示は含まれていない。
 (行政事件訴訟法46条)。考えてみると、行政事件訴訟法の定めである
 から、自らの法律によって規定される訴訟類型に限るのは当然であろう。
  惑はされてはならない。×
  ちなみに、本肢も20年度の肢である。
 


  E 加害公務員の特定の要否

 
 【問題】


 以下、判例に照らして、○か×で答えよ。

 1 国家賠償法第1条の責任は、公務員の違法な公権力の行使があった
   場合について国・公共団体が代位する責任であることから、違法な
   公権力の行使がなされたとしても、その公権力の行使者たる公務員
   が特定されない場合には、国家賠償責任が成立することはない。

 2 国家賠償法1条に定める公共団体の責任とは、公共団体自体の責任
  を問うものではなく、加害公務員の責任を代位するといういわゆる
 代位責任であるから、具体的に損害を与えた加害公務員の特定が常に
  必要とされる。


 
 【解説】

  「代置責任説は、公権力行使責任を、加害者である公務員が負うべき
 賠償責任を国・公共団体が代位したものと捉える。この説によると、国・
 公共団体の賠償責任が認められるためには、加害公務員を特定しその
 公務員に過失があったことを証明する必要があると言えそうである。
   他方、自己責任説(公権力責任を本来的に国・公共団体が負うべき
 責任として理解しようとする説)に立つとこの必要性はない。ここに、
 代置責任説と自己責任説の対立の一つの意味があると言える。
   もっとも、今日では、・・過失は客観的に捉えられ、組織過失・・が
 認められるようになっているので、代位責任説に立っても、加害公務員
 を特定してその公務員に過失があったことを証明する必要はないだろう。
 (読本)。判例も同様の立場に立つ。最判昭57・4・1・(H21模六385頁 
  95)

   1・2は、いずれも、代位責任説に引っ張られたたものであり、判例
 では加害公務員の特定を要しないとするから、1・2とも×。

 

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第37回 】★      
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 2009/6/17


             
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【テーマ】代執行
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題
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 平成10年度過去問

 問題35

  行政代執行法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

 1 代執行の対象となる義務は、法令又は行政処分に基づく代替的作為
   義務及び不作為義務である。

 2 代執行をするには、常に、あらかじめ戒告及び代執行令書による
   通知を行わなければならない「

 3 代執行のために現場に派遣される執行責任者は、その者が執行責任者
  たる本人であること示すべき証票を携帯しなければならず、代執行を
  行う際には、必ずこれを呈示しなければならない。

 4 代執行は、行政庁が自ら行う以外に、業者等の第三者に義務者のなす
  べき行為を行わせることも可能である。

 5 代執行に要した費用の徴収については、原則として文書をもってその
   納付を命じなければならないが、口頭で命じることができる。


 平成17年度過去問

  問題12

  行政代執行法に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

 1 行政代執行法の定める手続要件は、憲法上の要請と解されている
  ので、個別の法律で簡易代執行を認めることはできない。

 2 行政代執行法では、代執行の前提となる命令等の行政処分がすで
   に文書で告知されているので、戒告を改めて文書で行う必要はない。

 3 行政代執行では、緊急の必要性が認められ正規の手続をとる暇が
   ない場合には、代執行命令書による通知手続を経ないで代執行する
   ことができる。

 4 行政代執行は、義務者の義務不履行をその要件として、その意に
   反して行われるので、行政代執行手続においても、行政手続法上
   の不利益処分の規定が適用される。

 5 行政代執行法は、法令違反の是正が目的とされているから、義務
   の不履行を放置することが著しく公益に反しない場合であっても、
   代執行が可能である。


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■ 解説
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 △ 参考書籍は、35回に掲載した。

 △ 本問は、前回の「強制執行」において、やりのこしたところを
   今回実行した。

 本問の検討

 平成10年度

 1について

  行政代執行法第2条によると、他人が代わってなすことのできる行為
 に限られているので、各種の営業停止命令、立入の禁止などの不作為
 義務は対象にならない。「代替的作為義務を命ずる場合にだけ代執行は
 行われ得る」(入門)と覚えておけばよい。

 正しくない。

 2について

  法3条3項において、戒告及び代執行令書による通知を要しない場合
 の定めがある。「常に」ではない。

 正しくない。

 3について

  法4条では、「要求があるときは、何時でもこれを呈示しなければ
 ならない」とある。「必ず」ではない。

 正しくない。

 4について

  法2条では、「又は第三者をしてこれをなさしめ」とある。

 本肢が正しい。正解。

 
 5について

  法5条では、費用納付命令は文書によることになっている。「口頭」
 ではない。なお、義務者が納付しない場合には、国税の滞納処分の例
 によって、強制執行がなされることも知っておくとよい。

 正しくない。

 
 平成17年度

 1について

  まず、行政代執行法の定める手続が、憲法上の要請であるかどうかと
 いうのも即答しにくい。一応、次のように考えるのが、正当であろう。
  行政行為には自力執行力があるので、法律の授権があれば(つまり
「法律による行政の原理」に従い)、行政庁は強制執行ができる。
  したがって、代執行法という法律で手続的要件が定められていれば、
 行政庁は本来有する自力執行力によって強制執行できる。このことは、
 憲法上の要請ではないということを出題者は言いたかったのだろう。
 しかし、一面において、「法律による行政の原理」は、憲法上の
 要請ともいえる。ここは、よく分からぬままで保留。
 後段の簡易代執行というのも分かりにくい。代執行法第1条は、原則
 として、執行は代執行によると定めているだけで、別に法律で簡易な
 執行方法の創設も認めていると解すると、後段は誤り。

 妥当でない。

 
 2について

  法3条1項によれば、「予め文書で戒告しなければならない」と定
 めている。

 妥当でない。

 3について

  法3条3項に規定がある。7年前の平成10年度肢2と重なることに
 注意。

 妥当である。正解。

 4について

  行政手続法2条2号、4号を適用すると、行政代執行は、行政庁の
 公権力の行使であり、不利益処分に該当するようにみえるが、2条
 4号ただし書き イによって除かれるので、不利益処分の規定は
 適用されない。

 妥当でない。

 5について

 法2条の一文に照らすと、義務の不履行を放置することが著しく
 公益に反しない場合は、執行ができないと読める。
  なお、当該規定について(前段の「他の手段によってその履行を
 確保することが困難であり」との規定を含めて、)次のような指摘
 がある(読本)。

  この規定は、代執行という強制力の行使をできるだけ制限しようと
 しようとするものであることは明らかだが、その具体的な意味は
 はっきりしない。


 妥当でない。
 

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第35回 】★      
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 2009/6/9


             
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【テーマ】行政上の強制執行およびこれに関連する事項
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題
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 1

 平成18年度過去問

 問題43

  行政上の義務の履行確保手段に関する次の文章の空欄ア〜エに当て
 はまる言葉を、枠内の選択肢(1〜20)から選びなさい。

  行政代執行法によれば、代執行が行われるのは、 ア  の場合に
 限られれるので、その他の義務の履行確保については、別に法律で
 定めることを必要とする。例えば、代執行以外の義務の履行確保手段
 の一つとして   イ  が挙げられるが、これは、義務者の身体又は
 財産に直接実力を行使して、義務の履行があった状態を実現するもの
 である。
  イ  に類似したものとして、 ウ   がある。 ウ  も、
 直接私人の身体又は財産に実力を加える作用であるが、義務の履行強制
 を目的とするものでないところにその特徴がある。  ウ  の 例と
 しては、警察官職務執行法に基づく保護や避難等の措置などが挙げられ
 る。
  さらに行政上の義務の履行確保手段には、間接的強制手段として、
 行政罰がある。その中で  エ  は、届出、通知、登記等の義務を
 け怠した場合などに科される罰である。


  1 反則金       2 課徴金
  3 直接強制      4 法定受託事務
    5 執行罰       6 自治事務
  7 秩序罰       8 即時強制
    9 金銭給付義務   10 行政刑罰
  11 機関委任事務   12 直接執行
  13 自力執行     14 非代替作為義務
 15 間接強制     16 滞納処分
  17 代替的作為義務  18 職務命令違反
  19 不作為義務    20 延滞金

 
 
 2

  平成16年度過去問

  問題10

  行政機関が行う次のような行為のうち、行政法理論上、「即時強制」
 にあたるものは、いくつあるか。

 ア 建築規制法規に違反する建築物として除去命令が出ているにも
   かかわらず 義務者が自主的に除去しないため、行政の職員が義務者
  に代わって除去する行為

 イ 営業許可に付された条件の履行を促す行政指導を無視したまま営業
  を継続 している業者を継続している業者の氏名を行政庁が公表する
  行為

 ウ 建築規制法規に違反する建築する建築物の所有者からの給水申し込
  みを市長 が拒否する行為

 エ 車両が通行する公道上に寝ころんだまま熟睡している泥酔者の安全
  を確保するため、警察官がその者を警察署に運び保護する行為

 オ 火災の発生現場において消防士が、延焼の危険のある近隣の家屋を
  破壊してそれ以上の延焼を防止する行為

 1 一つ

 2  二つ

 3  三つ

 4 四つ

 5 五つ

 
 3

 
 平成10年度過去問

 問題 36

  行政罰に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

 1 行政罰と執行罰にはいくつの相違点があるが、過去の行政上の義務
   違反に対する制裁として科される点では共通している。

 2 公務員の懲戒免職処分は、行政刑罰の一種である。

 3 行政罰は、地方公共団体の自治立法である条例により科すことはでき
   ない。

 4 行政刑罰は、違反行為者だけでなくその使用者や事業主にも科される
   ことがあり、法人も、事業主として処罰されることがある。

 5 行政上の秩序罰も、行政罰の一種であるため、刑事訴訟法に定める
   手続によって科される。


 4

  以上A・B・Cに関連する肢を過去問から選定したもの。○×で答えて
 ください。なお、各肢が過去問のいずれに該当するかの指摘は省く。

 
 ● 行政上の強制執行のうち執行罰は、行政法上の義務の履行を強制する   
   ために科する罰であるから、過去の義務違反に対する制裁としての
  行政 罰と併科することができる。ー(1)

 ● 行政の強制執行のうち直接強制は、義務の不履行を前提とせず、直接
  に人の身体又は財産に実力を加え、行政上必要な状態を実現する作用    
   である。ー(2)

 ● 代執行などの行政上の強制執行と、行政罰はその目的を異にするから
   同一の義務違反に対し、強制執行と行政罰を併用することは可能である。  
   ー(3)

 ● 即時強制は公権力の行使であるから、公定力を有し、私人は権限ある      
  機関にその取消し・差止めを求める以外の方法で、これに抵抗すること
   はできない。ー(4)

 ● 行政庁が私人に対し強制を加えるためには、事前に私人に対し作為    
   義務を課していることが必要であり、目前急迫の障害に対処するのは
  刑法上の正当業務行為である場合に限られる。ー(5)

  以下の記述は、行政処分により課された義務を履行しない者に関する記述
 である。○×で。


 ● 義務不履行者には刑事罰が科されることが原則であり、罰則の間接   
   強制により行政処分の実効性が確保される。ー(6)

 ● 義務不履行者には、執行罰としての過料が科されることとなっており、
   金銭的な負担を通じて行政処分の実効性が確保されることが原則である。 
  ー(7)

 ● 義務不履行者に対しては、行政強制、罰則の間接強制などによる実効性
   の確保が図られるが、統一的な仕組みが設けられているわけではない。  
   ー(8)

 ● 義務不履行者に対し義務履行を確保するためには、行政機関は裁判所に 
   出訴して司法的執行に委ねなければならない。ー(9)
 

 
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■ 解説
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 ▽ 参考書籍 行政法入門 藤田宙靖著 行政法読本 芝池義一著
   ともに有斐閣発行
 

 ▽ 1の平成18年度の過去問について。

 本問のポイント

 A 行政上の強制執行としては、まず、行政代執行がある。これは、
  行政代執行法に規定がある。義務者がその義務を自発的に履行
  しないならば、 行政庁が代わってその行為をやってしまって
 (または第三者にこれをやらせてしまって)その代わり、そのために
 かかった費用を、あとで義務者から取り立てようという制度である
(入門)。
 
 同法1条によれば、この方法が、行政上の強制執行の原則である。
 2条では、限定がなされていて、「他人が代わってなすことのできる行為」
(代替的作為義務)に限られる。

 B 別に法律で定めるもの(代執行法1条の原則以外)としての、行政上の
 強制 執行に該当するのが、行政上の直接強制である。
   これは、結核患者が入所を拒んだら、強制的に療養所に送りこむような
 ことである。ただし、法律にこれを許す規定がないので、以上のことは
 できないことに注意。現在の法律で直接強制が認められているのは、ごく
 わずかである。

 C 直接強制に類似したものとして、消化活動のための土地・家屋への立ち
 入り・処分、酔っ払いの保護などの即時強制がある。

 D 間接強制制度として、行政罰を課するものがある。これは、刑法上の
  刑事罰を課する「行政刑罰」と過料を課する「秩序罰」に分かれる。

 本問の検討

  ポイントA によれば、代執行が行われるのは、「代替作為義務」に
 限られる ので、アには 17 が入る。

  次に、別に法律で定める、「義務者の身体又は財産に直接実力を行使
 して、義務の履行があった状態を実現する」強制執行は、Bの「直接強制」
 であるから、イには、3 が入る。

 さらに、直接強制に類似する実力行使として、Cの「即時強制」がある。
 これは、法令や行政行為等によってひとまず私人に義務を課し、その
 自発的な履行を待つのでなく、いきなり行政主体の実力が行われる(入門)
 のを特徴とする。したがって、「義務の履行強制を目的とするものでない
 ことを特徴とする」 ウ には、8が入る。

  最後に、エ に入るものとして、Dによれば、過料を課する「秩序罰」が
 相当である。エ には 7 が入る。

 正解 アー17 イー3 ウー8 エー7
                                   

 
 ▽ 2の平成16年度過去問について。

 
 アについて

  これは、代執行である。1のポイントA参照。

 イについて

  これは、間接的強制手段としての「公表」である。法的拘束力はないが、
 現実に実効性がある手段である(入門)。

 ウについて

 これも、間接的強制手段の一つである「サ-ビスの拒否」である。

 エ オ について

 1のポイント C ないし即時強制の説明参照。エ・オとも「即時強制」
 に該当。

 正解は2 

 
 
 ▽ 3の 平成10年度過去問について。

 1について

  行政罰については、1 ポイントDで説明したとおり、行政罰は、
 間接的手段により、強制執行をしたのと同じような効果をもたらす
 ものであり、行政法によって課せられた義務に対して制裁として行われる
 処罰である。これに対し、執行罰は、行政罰が間接強制制度であるのと
 異なり 直接強制と並ぶ行政上の強制執行の一つである。
  この執行罰というのは、義務を履行しない義務者に対して心理的強制を
 加えるために、金銭的な罰を科するという方法である(戦前は、この方法
 も一般的 に認められていたが、戦後は砂防法という法律で残っているだけ
 である)。《入門》
  行政罰が過去の義務違反に対する制裁として科されるという点は正しいが、
 執行罰は、金銭的な罰を科するという方法によって、義務を履行させると
 いう 強制執行の一つであるので、その点において、行政罰と異なる。

 誤りである。

 2について

  公務員の懲戒免職処分は、行政刑罰の一種ではない。行政刑罰とは、刑法
 上の刑罰(刑法9条に規定がある)を科するのであり、典型例として、道路
 交通法による酒気帯び運転等に該当し、懲役・罰金に処せられる場合である。
 (117条の2以下)

 誤りである。


 3について

  地方公共団体は、条例で一定の範囲において、行政罰を科することができる。
 (地方自治法14条3項)。

 誤り。

 4について

  これは、行政刑罰ないし秩序罰(過料)を通じて、刑法の分野においても、
 よく出題される。違反行為者のほか、使用者・法人(罰金)にも刑罰を科
 せられるのを両罰規定という。知っておくべきである。

 正しい。


 5について

 行政刑罰を科する手続が、刑事訴訟法の定めるところであるのに対し、
 過料を科する手続が非訟事件手続法に定められている。このように
 機械的に覚えておけばよい。
  また、過料は、地方自治法により、行政行為によって一方的に科される
 こともあるということも知っておくとよい(パラパラと条文。15条2項
 ・149条3号・231条の3 3項・255条の3 など)(入門)

 したがって、本問の正解は4である。


 ▽ 4の関連問題

 
 (1)について

  それぞれは、強制執行としての執行罰と間接強制執行としての行政罰と
 いう違いがあり、併科することができる。

 ○

 (2)について

  1ポイントB・Cにより、これは、直接強制の説明ではなく、即時強制
 の説明である。

 ×

 (3)について

 (1)の趣旨からしても、併用は可能である。

 ○

 (4)について

  これは、行政行為の効力としての公定力の説明である。事実行為である
 即時行為が違法であれば、拒否すればよい。


(5)について

  即時強制の具体例として、 目前の障害を除くという緊急の必要からして、
 相手方である私人に義務を命じているひまのない場合にも、消化活動の
 ための土地の使用等が許される。したがって、事前に私人に対し作為義務
 を課していることは必要でない。刑法上の正当業務行為は、私人間の関係
 に適用されても、直ちに行政行為には適用されないので、正当業務である
 場合のみ即時強制が許されることにはならない。


 (6)について

  義務を履行しないもの者に対しては、強制執行(代執行・執行罰・
 直接強制)が原則であり、刑事罰の科される行政罰は、間接強制
 制度である。「原則」が誤っている。

 ×


 (7)について

  3の平成10年度 1について で述べたとおり、執行罰としての
 金銭的な罰を科する方法は、砂防法に規定があるだけであるから、原則
 とは言えない。

 ×


 (8)について

  行政強制(行政上の強制執行)については、行政代執行法のほか個々
 の法律によって規定されている。
  また、行政罰による間接強制も個々の法律で定められている。したがって、
 統一的な仕組みが設けられているわけではない。

 ○


 (9)について

  強制執行としては、代表例としての代執行のほか、行政庁が自力執行力
 を有する。したがって、行政機関が裁判所に出訴して、民事法上の手続
 による強制執行を利用することは、原則として許されない。

 ×


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 29回 】★      
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 2009/5/12


             
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【テーマ】標準処理期間
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題・解説
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 ▲ 参照書籍 行政法読本 芝池義一著 行政法入門 藤田宙靖著
  ともに有斐閣発行

 ▲ 本コーナーでは、標題に掲げたテーマに絞り、過去問の肢を参照
   しながら、解説を進める。なお、各肢が過去問のいずれかに該当
   するかの指摘は省くことにする。

  ready!   解答は○×で表示する。

 
《問題》

 
 ◎ 行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分 
   をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるように努めなければ
   ならない。ー(1)
 
 ◎ 行政手続法において、「申請に対する処分」の手続として、次の
  のものは、義務的と定められている。ー(2)

 
    標準処理期間を定めた場合におけるその公表


 ◎ 標準処理期間は、行政庁が申請を正式に受理した時点から進行する。
 ー(3)

 ◎ 標準処理期間は、許認可等について諾否いずれの処分を行う場合で
  あっても、その応答をするまでに通常要すべき標準的な期間とされる。
 ー(4)

 ◎ 標準処理期間には、申請に対する補正指導の期間は含まれず、その
   間は標準処理期間の進行は停止するというのが通例の取扱いとされて
   いる。ー(5)

 ◎ 標準処理期間には、行政庁が申請に際して行うことがある事前指導の
   期間は算入されない。ー(6)

 ◎ 標準処理期間は、審査の進行状況や処分の時期の見通しについて
   申請者から問い合わせがあったときに、行政庁がその回答を準備する
  期間も含む。ー(7)


 

 《解説》

 1 ポイント

 a 「標準処理期間」とは、申請がその事務所に到達してから当該申請に
  対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間をいう。

 b 適用の対象となる行政処分は、「申請に対する処分」(行手法第2章)
  である。

 c 6条に規定されていて、この期間を定めるように努めるとともに、
   これを定めたときは、これを公表することが義務づけられている。

 注 これは、手続の迅速化を目的とした規定であり、同様の目的を有する
  規定としては、7条・9条がある(いずれも前回28回に登場)。
  

 2 各肢の検討

 (1)について。

 6条の条文どおりであり、正しい。努力義務にとどまっていることに注意。
 もし、「・・・定めなけれねばならない」となっていれば、×
 努力義務である点について、「行政庁がこれをやらなかったからといって、   
 ただちに違法だ、ということにはならないのですが、それでも、こういう
 ことが法律の明文で定められたということは、行政庁に対し、これまでに
 ない事実上の圧力を加えることになるでしょう」という指摘がある(入門)。

 ○

 
 (2)について。

 定めるのは、努力義務であるが、これを定めたときは、法的に義務付け
 られていることに注意。

 ○

 (3)について。

 6条によると、標準処理期間は、申請がその事務所に到達した時点から
 進行する。この点は、7条に関しても同じことが言えるが、申請を受け
 取っておきながら、正式に受理していないことを理由に「預かり」とか
「返戻」という措置とることを許さないことにしたという当該立法の経緯
 からしても、受理を当該期間の基準とすることは、明からな誤りである。
 (読本参照)


 ×


 (4)について。

 上記1ポイントbで述べたとおり、適用される「処分」は、「申請に対
 する処分」であるから、許認可等について諾否いずれの処分も含む
(2条3号)。
 
 注 拒否処分(8条参照)は、許認可の否に該当するが、諾に該当する
  のが、許認可処分である。

 ○


 (5)(6)(7)について。

 
   (6)事前指導(33条)
                   標準処理期間
  申請  ----------到達------------------→

                       (5)補正を求める(7条)
                     ↓
                  進行の停止

                          (7)9条の回答準備
 


 

 (5)到達によって、標準処理期間は、進行を開始するのが、原則
  であるが、形式的要件に適合しないとして、申請者に対して
    補正指導をしている間は、その進行を停止するというのが、通例
  の取扱いとするものであって、妥当性があり、正しい。

(6)事前指導は、申請到達前のことであるから、標準処理期間に算入
    され ないのは、当然である。

 (7)行政庁の当該回答は、努力義務とされているから、その回答の
  準備期間 は、標準処理期間に含めるべきである。

  したがって、(5)(6)(7)はすべて○。

 

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 21回 】★      
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 2009/4/6


             
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【テーマ】行政法・行政立法その1
 

【目 次】問題・解説 
           
      
 
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■ 問題
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 (平成20年度過去問)

 問題 9

 各種の行政立法に関する次のア〜エの記述について、その正誤の組合
 わせを示している次の1〜5のうち、正しいものはどれか。


 ア 政令は、憲法73条6号に基づき、内閣総理大臣が制定するもので、
  閣議決定を経て成立し、天皇によって公布される。
 
 イ 内閣府令は内閣府の長である内閣総理総理大臣が制定し、省令は
   各省大臣がその分担管理する事務について制定するが、複数の省に
   またがる共管事項については、内閣府令の形式をとらなければ
   ならない。

 ウ 国税庁、林野庁、社会保険庁など、各省の外局として設置され、
   庁の名称を持つ組織の長である各庁長官は、その機関の所掌事務
   について、公示を必要とする場合においては、告示を発することが
   できる。

 エ 公正取引委員会、公害等調整委員会、中央労働委員会などの委員会
   は、庁と同様に外局の一種とされるが、合議体であるため、独自の
   規則制定権は与えられていない。 


    ア  イ ウ エ
 
 1 正  誤 正 誤

 2  誤  正  誤 正

 3  正 誤 正 正 

 4  誤 誤 正 誤
 
 5 正 誤 誤 正

 

 


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■ 解説
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 ▲ 参照書籍・行政法入門 藤田宙靖著 行政法読本 芝池義一著
 

 ▲  問題の所在

 法は、立法機関による国会によってつくられるが(憲法41条)、
 行政機関によってもつくられる。この行政立法は、命令と呼ばれる。
 この命令は、これを制定する権限を持つ機関がなんであるかの
 違いによって 区別されている(形式からする区別)が、その区別
 に関しての知識を問うのが本問である。

 ▲  本題

 アについて

 まず、内閣が定めるのが、「政令」である。政令は、憲法73条
 6条に基づき、内閣が制定することになっており、内閣総理大臣
 ではないので、これは誤。なお、「閣議を経て成立し、天皇・公布」
 というのは、次の条文により正しい。内閣法4条1項。憲法7条1号。

 したがって、全体として誤。

 イについて

 内閣府の長としての内閣総理大臣が定めるのが「内閣府令」(内閣設置法
 7条3号)であり、各省の大臣が定めるのが「省令」(国家行政組織法
 12条1項)である。これは、正。
 しかし、後段の共管事項については、不明(知らないのがあたりまえ!)
 したがって、正誤を保留とせざるを得ない。

 保留
 
 ウについて

 各大臣、各委員会、および各庁長官がその機関の所掌事務について公示
 するために用いるのが「告示」である(国家行政法14条1項) から、
 これは、正。前段では、各庁長官があがっていて、その組織の説明が
 されているが、それは、特に問題なしとみて差し支えないだろう。

 したがって、全体として、正。

 注
 また、前記機関等がその機関の所掌事務について下命またはまたは伝達
 するために、所管の諸機関および職員に対して発する「訓令・通達」
 という形式が、国家行政組織法によって定められている(14条2項)。
 この命令形式も重要であり、過去問にも出題されており、本講座でも
 今後ふれることがあるだろう。

 エについて

 ここに掲げられた各委員会ならびに先の各庁長官が定める(13条1項)
 ものが、ふつう「外局規則」と呼ばれるもである。したがって、各委員会
 にも独自の規則制定制定権はある。

 したがって、誤。

 注
 その他に、国家行政組織法が適用されない会計検査院および人事院
 (これらをふつう「独立行政機関」とよんでいます)の定める規則
 として、べつに「会計検査院」および「人事院規則」があることに
 注意すべきである。

 
 ▲ 体系的理解
 
 各肢をバラバラにせず、 以上述べた観点にしたがって、体系的知識
 として取得したうえで、ノートにされるなどして勉強を進められるのが
 望ましい。

 ▲ 正解の導出 

 イを保留にしても、ア・ウ・エの組合わせ誤・正・誤を導くのは、4
 しかない。正解は4である。ちなみに、イの共管事項については、
 法務省令をとるということらしく、イの肢は誤りである。

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 【発行者】 司法書士 藤本 昌一

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 16回 】★      
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 2009/3/16


             
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【テーマ】 

【目 次】 1 民法
           
      2 解説


 
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■ 民法・問題
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 (平成19年度過去問)

 問題33

 AはBから中古車を購入する交渉を進めていたが、購入条件について
 ほぼ折り合いがついたので、Bに対して書面を郵送して購入の申込み
 の意思表示を行った。Aは、その際、承諾の意思表示について「8月
 末日まで」と期間を定めて申し入れていたが、その後、契約の成否に
 について疑問が生じ、知り合いの法律家Cに相談を持ちかけた。次の
 ア〜オのAの質問のうち、Cが「はい、そのとおりです。」と答える
 べきものの組み合わせは、1〜5のどれか。

 ア 「私は、申込みの書面を発送した直後に気が変わり、今は別の車
   を買いたいと思っています。Bが承諾の意思表示をする前に撤回
   すれば、契約は成立しなかったということになるのでしょうか。」

 イ 「Bには 『8月末日までにはご返事をいただきたい』と申し入れ
   ていたのですが、Bの承諾の意思表示が私に到達したのは9月2日
   でした。消印を見るとBはそれを9月1日に発送したことがわかり
   ました。そこで私は、これを新たな申込みがなされたものとみなし
   て承諾したのですが、契約は成立したと考えてよいでしょうか。」

 ウ 「Bからは8月末を過ぎても何の通知もありませんでしたが、
   期間を過ぎた以上、契約は成立したと考えるべきでしょうか。
  実は最近もっとよい車を見つけたので、そちらを買いたいと
  思っているのですが。」

 エ 「Bは、『売ってもよいが、代金は車の引渡しと同時に一括して
   支払ってほしい』といってきました。Bが売るといった以上、契約
   は成立したのでしょうが、代金一括払いの契約が成立したという
   ことになるのでしょうか。実は私は分割払いを申し入れていたの
   ですが。」

 オ 「Bの承諾の通知は8月29日に郵送されてきました。私の不在
   中に配偶者がそれを受け取り私のひきだしにしまい込みましたが、
   そのことを私に告げるのをうっかり忘れていましたので、私がその
   通知に気がついたのは9月20日になってからでした。私は、Bが
   車を売ってくれないものと思って落胆し、すでに別の車を購入して
   しまいました。もう、Bの車は要らないのですが、それでもBとの
   売買契約は成立したのでしょうか。」

 
 1 ア・ウ
 2 イ・エ
 3 イ・オ
 4 ウ・エ
 5 エ・オ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 ▼ 本問の解説に際しては、一粒社 民法1・2 を参照した。

 

 図示
                 中古車
  「8月末日まで」と承諾期間
   の定めのある申込み(書面の郵送)
   ↑
  A―−−−−−−−−−−―−→B
                        ↓ 
                         承諾

 基本的知識

 1 契約は、申込みと承諾という二つの意思表示の一致によって成立。
 
 2 申込みは、原則に従い、到達主義。

 条文
(隔地者に対する意思表示)

 民法第97条第1項 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に
 到達した時からその効力を生じる。

 3 承諾には特例が設けられ、発信主義。

 条文

(隔地者間の契約の成立時期)

 民法第526条第1項 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に
 成立する。

 アについて。

 上記原則に従えば、Bが承諾の意思表示を発信する前であれば、
 契約は成立していないのであるから、申込みの撤回は許されるはずだ。
 しかし、一度申込みをした以上、相手方の考慮期間を尊重して、
 みだりに撤回を許すべきではない(申込みの拘束力)。

 条文

 民法第521条第1項 承諾の期間を定めてした契約の申込みは、
 撤回することができない。

 したがって、「8月末日まで」と承諾期間を定めて申し込んだ場合
 には、8月末日まで撤回は許されないので、申込の書面を発送した
 直後の撤回は許されず、アは誤り。

イについて。
 
 条文
 
 民法第522条第1項 前条第1項(承諾の期間を定めてした契約)の
 申込みに対する承諾の通知が同項の(承諾)期間の経過後に到達した
 場合であっても、通常の場合にはその期間内に到達すべき時に発送
 したものであること知ることができるときは、申込者は、遅滞なく、
 相手方に対してその延着の通知を発しなければならない。ただし、
 その到達前に遅延の通知を発したときは、この限りでない。
 
 第2項 申込者が前項本文の延着の通知を怠ったときは、承諾の
 通知は、前条第1項(承諾)の期間内に到達したものとみなす。

 民法第521条第2項 申込者が前項(承諾の期間を定めてした契約)
 の申込みに対して同項(承諾)の期間内に承諾の通知を受けなかった
 ときは、その申込みは、その効力を失う。
 
 1 521条2項は、申込みの承諾適格について規定したものである。
  本来、承諾の発信主義により、承諾を発信すれば、契約は成立する
  はずであるが、承諾期間の定めのある申込みに対しては、その
  期間内に承諾の通知が到達しなかったときは、申込みが効力を失う
  ため、承諾適格がなくなる。したがって、承諾期間の8月末日を
   過ぎ、9月2日に承諾の通知の到達した本事例では、本来から言えば、
  Bの承諾の通知の効力は生じず、契約は、成立しない。
 
 2 しかし522条1項、2項によれば、Aにおいて、通常の場合には、
  Bが、期間内に到達すべき時に発送したものであると知れる時は、
    遅延の通知を発しないと、契約が成立することになる。
 
  3 本事例では、承諾の通知を受領したAは、消印により、
  承諾期間を過ぎた9月1日にBが発送したことがわかったという
    のであるから、Aは特に遅延の通知を発しなくても、契約不成立
  という結論になる。
 
  4 しかし、以下の条文により、Aは、Bの当該承諾の通知を新たな
  申込みとみなして、承諾の発信をすれば、契約は成立する。

 条文

(遅延した承諾の効力) 
 
 民法第523条 申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことが
 できる。

 
 承諾期間の定めのある申込みを総括すると、次のとおりになる。

 
 申し込み         承諾
 A←―――――――――――B

 (1) 8月末日までにBの承諾の通知の到達→Bの承諾の発信により、
   契約成立。

  (2)8月末日後の到達→通常8月末日以前到達予定の場合は、Aが
     遅延の通知を 発しない=Bの発信により契約成立・Aが遅延
   の通知をする=契約不成立

 (3)8月末日後の到達→通常どおり8月末日後に到達の場合は、
   契約不成立。しかし、Aにおいて、新たな承諾とみなすこと
   ができる(本問の事例)。

  本問は、(3)により、Cが「はい、そのとおりです。」と答える。

 
 ウについて。

 前述した521条2項により、申込が効力を失ったことになるので、
 契約不成立。Aの申込みが効力を失うことにより、Bに承諾適格が
 なくなるのである。

 ウは誤り。

 
 エについて。
 
 もともとAは、分割払いを申し入れていたのをBが代金の一括払いを
 いってきたのであるから、次の条文により、Bは申込みの拒絶とともに
 新たな申込みをしたものとみなすことになる。契約は成立したことに
 ならない。

 エは誤りである。

 条文
 
 民法第528条 承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えて
 これを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みを
 したものとみなす。


 オについて。

 到達とは意思表示が相手方の了知しうべき状態におかれること。
 郵便受箱に投入され、または同居の家族や雇人に手交されれば足りる。
 相手方がこれを読むことを要しない(最判昭和36・4・20・・最判昭和
 43・12・17・・)。
 相手方の家族等が正当の理由なく受領を拒んだときには、到達があった
 とみてよい(大判昭和11・2・1・・)。(前掲書1)
 以上の判例の標準に照らせば、本問では、Aの不在中にその配偶者が
 受け取っているので、Bの承諾の通知は、承諾の期間内に到達したこと
 になり、AB間の売買契約は成立したことになる。

 Cが「はい、そのとおりです。」と答える。

 
 Cが「はい、そのとおりです。」と答えるべき組合わせは、イとオ
 であり、正解は3となる。

 

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 12回 】★      
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 2009/2/16

             
             PRODUCED by  藤本 昌一
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【テーマ】 民法・物権変動と登記


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■ 過去問を中心とした「物権変動と登記」 問題と解説(その3)
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 ◆ 今回も前回に引き続き「物権変動と登記」をテーマにして、
 過去10年間の過去問を題材に、問題提出と解説を行います。
 
 過去問の肢の出典を省くのも、いままで同様です。

 以下、○か×かで答えてください。


 [問題1]


 A所有の甲地につきBの取得時効が完成した後に、Aが甲地を
 Cに譲渡した場合、Bは登記なくしてCに対抗できる。


 [解説]

                  ( )内の数字は、
 甲地                時系列の順序を示す。
   
          (1)       
          時効完成  162条・20年間ないし10年間
  A----------B        の占有継続により取得時効
                   完成=所有権取得。    
      (2)           
      譲 渡
   ----------C

 
 ア 144条によると、時効の効力は、その起算日にさかのぼるため、
 Bは占有開始時において、所有権を取得したことになります。

 イ しかし、177条により、Bは取得時効にる不動産所有権を
 第三者に対抗するには、登記をしなければならないことになります。

 ウ 本問におけるCは、時効完成後、当該不動産につき旧所有者
 から所有権を取得した者に該当しますが、この者も、177条の
 第三者に該当します。

 エ 以上の原理は、177条の典型的適用例である二重売買の場合
 と同じことですね。

 オ 判例もあります(最判昭和33・8・28・・H21模六 177条
 14 1003頁)。

 以上から、Bは登記なくしてCに対抗できないので、本問は、
 ×です。

 なお、市販の解説書をみますと、「判例があります」で事足れり
 
 としていますが、理屈とか原理が先行すると思います。判例
 は、原理適用の結果なのです。判例がありますではなくて、
 判例もありますという勉強をしよう。

 
 [問題2]


 Aの所有する甲土地につきAがBに対して売却し、B
 は、その後10年以上にわたり占有を継続して現在に
 至っているが、Bが占有を開始してから5年が経過した
 ときにAが甲土地をCに売却した場合に、Bは、Cに
 対して登記をしなくては時効による所有権の取得を対抗
 することはできない。

 
 甲土地       ( )内は前記同様順序
          
    

    売却    10年以上占有継続   
                (2)
 A----------B 162条 取得時効完成
                 =所有権取得

        (1)
     5年 売却 
 A   ----C


 イ 本問では、いくつか気になることがあります。
 
 ここで、時効を除外して考えますと、二重売買になり、
 BはCに対して登記なくしては所有権を対抗できません。
 
 しかし、本問では、 売買が無効となったため、Bは時効
 を主張しているのでしょう。ここでは、10年の占有継続が
 問題になっていますから、162条2項の適用が適用され、Bが
 売買契約の瑕疵について、善意無過失であったと思われます。

 ロ ここから、本題です。だから、皆さんは、イの余計な
 考察は省略して、ズバリここから突入してください。
 [問題1」が、時系列からして、Bの時効完成後にCに譲渡
 されたのに対して、本問は、Bの時効期間進行の中途にCに
 譲渡されています。この場合どのように考えるかについては、
 難しい問題がありますので、この場合は、判例が頼りです。

 判例を、上記事例をあてはめますと、

 時効期間進行の中途にAからCへの譲渡があり、登記がなされ、
 その後にBの時効期間が満了した場合にも、Cは時効による
 権利変動の当事者であるから、Bは登記なくしてこれに対抗
 できる。(最判昭和35・7・27ほか多数・・一粒社 民法 1)

 要点が二つあります。
 
 一つには、[問題1]では、BとCが177条の対抗関係に立つ
 ため、Cに登記を要するのに対して、本問では両者が当事者
 の関係に立つため、Cに登記を要しないことになります。

 二つには、本問では、Cに登記が具備されても、BはCに
 対抗できます。

 したっがて、本問では、BはCに対し登記なくして、時効
 による所有権取得を対抗できることになりますので、×です。

 ハ 本問は、二重売買において、引き渡しを受けた未登記の
 第一の買主が、占有を継続し、時効を主張することにより、
 登記を具備した第2の買主(本来177条により、優先)
 に対抗し得ることの不当性が問題になる事例ですが、深入り
 する必要はありません。問題意識としては、大切ですが・・。


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