━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第53回 】★      
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
            
----------------------------------------------------------
 2009/8/26


             
             PRODUCED by  藤本 昌一
----------------------------------------------------------
 
【テーマ】株式会社の設立・株式
 

【目 次】問題・解説 
           
      
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 問題
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
  ○ 株式会社の設立

 (1)  平成17年度・問題32

   株式会社の設立に関する次の記述のうち、誤っているものはいくつ
 あるか。
 

 ア 定款に発起人として署名していない場合であっても、株式募集の
  文書において賛同者として氏名を掲げることを承諾した者は、発起
  人と同一の責任を負う。

 イ 発起人が会社の成立を条件として成立後の会社のために一定の
  営業用の財産を譲り受ける契約をする場合には、譲渡の対象となる
 財産、その価格、譲渡人の氏名ならびにこれに対して付与する
 株式の種類および数を定款に記載または記録しなければならない。

 ウ 設立に際して作成される定款は、公証人の認証を受けなければ
  効力を有しないが、会社成立後に定款を変更する場合は、公証人
  の認証は不要である。


 エ 募集設立の場合には、発起人以外の者が、設立に際して発行され
  る株式の全部を引き受けることができる。

 オ 設立に際して発行される株式については、その総数の引受けならび
   に発行価格の全額の払込および現物出資の目的となる財産の全部
   の給付が必要である。


 1 一つ

 2  二つ

 3 三つ

 4 四つ

 5 五つ
 
 
 
 ○ 株式

 
 (2)平成16年度・問題33

  
   株式に関する次の記述のうち、正しいものの組合せはどれか。


 ア 株式発行の際、株式の実際の払込額(現物出資の場合は給付額)
  の 総額の2分の1を超えない額については、資本に組み入れず
  に資本準備金とすることができる。

 イ 完全無議決権株式は、利益配当に関して優先的な内容を有する株式
   としてのみ発行することができる。

 ウ 株式の引受けによる権利の譲渡は、会社に対してその効力を生じない。

 エ 株式の分割を行う場合には、株主総会の特別決議によるその承認が
   必要である。

 オ 自己株式を取得した場合には、相当の時期に当該自己株式を処分
   または消却 しなければならない。

 
 1 ア・ウ

 2 ア・エ

 3 イ・エ

 4 イ・オ

 5 ウ・オ
 


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━   

 ▽ 参考書籍

 会社法 神田 秀樹 著 ・弘文堂   リーガルマインド 会社法
 
  弥永真生著 著・有斐閣
 

 (1)平成17年度・問32

   平成17年度行政書士試験は、平成17年4月1日現在施行されて
 いる法令に関して出題されていると思われる。平成17年制定の会社
 法は、平成18年5月1日施行であるから、本問は、その狭間にあって、
 旧商法の条文 が基準になっていると思われる。本問については、現行
 の会社法に照らして正誤の判断をすることにした。そのため、整合性を
 保持できない場合には、私が問題を改めた。


 アについて

   擬似発起人に関する問題である。「定款に発起人として署名しない者
 は発起人ではないが、株式募集に関する文書等に賛助者等として自己の
 氏名を掲げること等を承諾した者(擬似発起人という)は、発起人と
 同様の責任を負う(103条2項)」(神田会社法)。

 正しい。

 
 イについて

   財産引受け(28条2号)の問題である。発起人が会社のため会社の成立
 を条件として特定の財産を譲り受ける旨の契約をいう。これは、通常の
 売買契約であって、現物出資(28条1号)とは異なるから、付与する株式
 数を定款で定める必要はない。譲渡の対象となる財産、その価格、譲渡人
 の氏名を定款に記載することで足りる(28条2号)。

 誤りである。

  財産引受については、第2・44回イの解説および第1・29号オリジ
 ナル【問題1】イの解説でふれた。

 ウについて

  設立の第1段階は、発起人による定款の作成(26条1項)である。定款
 の作成 とは、株式会社の組織と活動に関する根本規則を実質的に確定し、
 これを形式的に記載するか、または電磁的記録することを意味する。
  定款の方式について は、発起人が署名または記名押印(いわゆる電子
 署名でもよい)することに加えて(26条1項・2項)、公証人の認証が
 必要である(30条1項)。この認証は、定款の内容を明確にして後日
 の紛争や不正行為を 防止するためであるが、その後に定款を変更する
 場合には認証は不要とされ ている(神田会社法)。
  最初の定款を「原始定款」というが、公証人の認証を要するするのは、
「原始定款」のみと覚えておくとよい。

 正しい。

 エについて

   募集設立は、発起人は設立の際に発行する株式の一部だけを引き受け、
 残りについては発起人以外の者に対して募集を行い、そのような発起人
 以外の者 が株式の引受けを行い、発起人とそのような者とが会社成立後
 の当初株主になる形態の設立方法をいう(25条1項2号)《神田会社法》。
 つまり、常に(発起人が設立時発行株式すべてを引き受ける発起設立
 ≪251項1号≫の場合も含めて)各発起人は、設立時株式を一株以上引き
 受けなければならないのである(25条2項)。

 誤りである。


 オについて

  「 旧商法において、設立に際して発行する株式総数が定款の絶対的記載
 事項であり、会社を成立させるためには、定款に定められた設立時発行
 株式のすべてが引き受けられ払込みが為されることを要した」(非公開
 会社のための新会社法・商事法務)。本肢は旧商法に基づいている。
 「 会社法では、失権者が出て引受のない株式があった場合でも、原始
 定款に定めた『設立に際して出資される財産の価格又はその最低額』
(27条4号)以上の出資がなされているときは、そのまま設立手続を続ける
 ことができるものとなった」(前掲書)。44回ウの解説を参照して、
 当該個所を確りと頭に入れておく要あり。

 会社法を基準にすれば、誤りである(旧商法に基づく出題当時は正し
 かった が・・・)。

 なお、本肢では、「発行価格」がその基準として用いられているが、
 それは 旧商法時代に通用していたものであって、現在では株式の実際
 の払込額が基準になっていることに注意する必要がある(445条1項・
 神田会社法)。


 以上誤りは、イ・エ・オの三つであるから、3が正解である。


 (2)平成16年度・問33

   本問もまた、旧商法の条文に基づいて出題されているため、会社法に
 適合するように改めた。なお、旧商法と比較して、新会社法でどのよう
 に改められたかを知ることは、会社法の重要論点探索の端緒になる。

 アについて

   本肢においても、(1)オと同様「発行価格」が基準とされていた
 ので、その文言を会社法に適合するように改めた。
  資本金の額は、原則は株式の実際の払込額(現物出資の場合は給付額)
 の総額であるが(445条1項)であるが、株式発行の際にその2分の1
 までの 額(払込剰余金)は、資本金としないことが認められ(445条2項)、
 その場合には、それは資本準備金としなければならない(445条3項)
(神田会社法)。

 以上に照らせば、本肢は正しい。


 イについて

   議決権制限種類株式とは、株主の全部または一部の事項について議決権
 を行使できない株式をいう(108条1項3号)。
  平成13年11月改正前の商法は、定款で株主総会のすべての事項に
 ついて議決を有しないと定めた株式のみを認め、配当優先株式について
 のみ無議決権株式とすることを認めていた。
  平成13年11月改正は、総会のすべての事項について議決を行使
 できない株式だけでなくその一部の事項についてだけ議決権を行使で
 きないような種類も認めることとし、これら「議決権制限株式」は、
 配当優先株式についてだけ でなく、普通株式等についても発行できる
 とした。会社法はこれを引き継いでいる(前掲書)。

 以上に照らせば、本肢は、平成13年改正前の商法を基準とした
 ものであって、会社法に基づけば、誤りである。

 ウについて

   会社法は、原則として株式の自由譲渡性を認めるが(127条)、その例外
 として、法律による株式の譲渡の制限がある。本肢は時期による制限の例
 である。
   会社成立前または新株発行前の株式引受人の地位(権利株)の譲渡は、
 当事者間では有効であるが、会社には対抗できない≪発起設立・35条1項
 募集設立・63条2項 新株発行・208条4項≫。(神田会社法)

   以上によれば、本肢は正しい。


 関連事項

    株券発行前の株式譲渡
   
    株券発行会社では、会社成立後または新株発行後でも株券発行前
   における株式の譲渡は、当事者間では有効であるが、会社との関係
     では効力が否定される(128条2項)。会社法は、株券発行会社に
   ついては、会社との法律関係を簡明に処理するため株式を有価証券化
     することを求めるため、それまでの間に株式が譲渡されたのでは会社
     との関係では困るからである。
       しかし、会社が遅滞なく株券を発行しないなど会社に帰責事由がある
     ような場合には、株式の譲渡を認めないのは不合理であるので、判例上、
     当事者間の意思表示で株式の譲渡ができ、会社はその効力を否定する
     ことはできず、会社は譲受人を株主として取り扱わなければならない
     と認められている(最大判昭47・11・8・・・)(神田会社法)。

  株主の会社に対する権利行使

   株券発行会社では、株式を譲渡するには、譲渡当事者間では株券の
  交付が必要十分条件であるが(128条1項本文)、会社との関係では、
  株式を譲り受けた者は株主名簿上の名義を自己の名義に書き換えてもらう
  必要がある(130条1項・2項)。
  これに対して、株券不発行会社では、株主名簿上の名義書き換えが
  株式譲渡の 会社および第三者に対する対抗要件である(130条1項)
   なお、株券不発行の場合、譲渡当事者間では、株式の譲渡は意思表示
  で効力が生じると解される。(以上前掲書)

 以下の条文に注目

  130条2項においては、株券発行会社においては、株主名簿上の名義
 書き換え が株式譲渡の会社に対する対抗要件であることが規定されている。
   ここでは、第三者に対する対抗要件は、株式の交付であることが前提に
 なっている。
  130条1項は、株券不発行会社に関するものであって、、原則的規定に
 なって いる。
   214条では、会社は原則として株券を発行しないものとし、株券の発行
 を定款で定めた場合に限って株券を発行することとした。

   しかし、130条1項・2項の規定のしかたは、もってまわった言い方で混乱
 を生じる。株券発行会社は・・・・・。 株券不発行会社は・・・・・。という
 ように、なぜ、単純な規定にできないのだろう。

 エについて

   株式の分割とは、既存の株式を細分化して従来の株式よりも多数の株式
 とすることである(183条)。新株がいわば無償で発行されることになるので、
 既存の株主に対してその持株数に応じて交付されなければならない。既存株主
 の利益に実質的影響が少ないので、取締役会設置会社では取締役会決議で行う
 ことが できる。 (183条2項)(神田会社法)取締役会設置会社以外では、
 株主総会決議による(183条2項)が、これは309条1項の普通決議でよい。
 特別決議とは、309条2項に列挙されてある一定の重要な事項の決議であって、
 より厳格な決議要件になっている。ここには、183条の株式分割は掲げられて
 いない。
 なお、309条3項・4項は、特殊の決議と呼ばれることに注意せよ。

 したがって、株式分割は、特別決議でないので、本肢は誤りである。

 オについて

   旧商法では、自己株式の取得は、例外的な場合を除いて禁止されていた。
 また、取得した自己株式の保有期間を制限していたが、平成13年6月
 改正は、「金庫株の解禁」といわれるように、金庫株(会社が自己株式を
 期間制限なくその金庫に入れておくこと)を認めるための改正も行われた。
 会社法は、金庫株の解禁を引き継ぐとともに、自己株の取得についても
 改正を加え、全体として規制を整理しなおした(神田会社法参照)。

  したがって、本肢は、平成13年改正前の金庫株解禁前の旧商法に
 基づいているので、誤っている。

 注 金庫株については、52回解説エ参照。
     
     旧商法時代、自己株式が厳格に規制されていた実状は、名著(会社法
   ・鈴木竹雄著 弘文堂)によって、名文で記されているので、参考に
   されたい。現在にも通じるのだと思う。

   「・・(自己株式の取得を)自由に認めると、株主に出資を払い戻した
    のと実質的に同様の結果を生じ会社の財産的基礎を危うくするほか、会社
    が自己株式によって投機を行い一般の者を害する等の弊害があるので、法
    は政策的見地からこのように禁止したのである。そのためこのような弊害
    のない場合には自己株式の取得を認めてもさしつかえないが、その場合でも
   自己株式の保有状態をできるだけ早く解消することが要求されている210条 
    211条)。」


 本問は、ア・ウが正しい肢であるので、正解は1である。
 
 
 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 【発行者】司法書士 藤本 昌一

 【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
       
 【E-mail】<fujimoto_office1977@yahoo.co.jp>
 
 ▽本文に記載されている内容は無断での転載は禁じます。
 
 ▽免責事項:内容には万全を期しておりますが、万一当サイトの内容を
         使用されたことによって損害が生じた場合でも、
         一切責任を負いかねますことをご了承ください。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


examination_support at 21:47コメント(0)トラックバック(0) 
記事検索
  • ライブドアブログ