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       ★ 過去問の詳細な解説《第2コース》第60回 ★
      
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 【テーマ】 弁済供託
         

 【目次】   問題・解説


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 ■ 問題 平成13年度問題10
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   弁済供託に関する次の記述のうち、最高裁判所の見解として
 妥当なものはどれか。
 
 1 弁済供託は、弁済者の申請により供託官が債権者のために
   供託物を受け入れ管理することを内容とする民法上の寄託契約
   の性質を有するから、弁済者からの供託金払戻請求は、民法上
   の寄託物返還請求である。

 2 供託官が供託金払戻請求を理由がないとして却下した行為は、
   行政処分であり、これを不服とする場合の訴訟形式は行政事件
   訴訟の方法によるべきである。

 3 供託金払戻請求権の消滅時効は、公法上の金銭債権についての
   5年である。

 4 供託金払戻請求権の時効は、供託官において、その請求権が
   行使されることを客観的に知ることができる供託のときから
   進行する。

 5 供託官が供託金払戻請求を理由がないとして却下しても、
  審査請求することはできない。

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 ■ 解説
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 ▲ 参照書籍 民法 2 勁草書房  
  

 ● 序論
  
  本問は、「供託」を通じて、公法・私法・民法・行政法
 (行政処分/行政事件訴訟法/行政手続法・供託法)にまたがる
 幅広い問題です。  
 
 ● 本論(各肢の検討)

 
  肢1・2について

   この際、弁済供託・寄託契約・供託金払戻請求・寄託物返還
 請求の概念を把握 しておくべきである。
 
   さらに、本肢にその文言はないが、(債権者の)供託金還付
 請求が問題になる。


 (1)民法上、寄託(657条)によって、寄託者による返還請求
  (662条・663条)が生じる。

  (2) (弁済)供託もまた、民法上、供託によってその効力が生じ
  (494条)、弁済者に供託金払戻請求(496条)が生じる。
    
   ここで、具体的にいかなる場合に供託がなされるかをみておく
  必要がある。
   
   家主(債権者)が大幅な家賃の値上げ請求をし、借主(債務者)
  の従来の家賃を受領しない場合、家賃債務を免れるため、借主
  は供託できる(民法494条)。
   
   この場合、債権者は供託された家賃を受領する受領権限を
    有する。
 
   家主は、翻意して、従来の家賃でよいと思って受領する場合も
    あれば、裁判において、値上げした家賃の妥当性を争いながら、
    とりあえず、その一部でよいと思って受領する場合もある(注)。

   注・「金額に争いのある債権について、供託金額が債権者の
        主張額に足らない場合でも、債権者が別段の留保なしに
    その供託金を受領したときは、その債権の全額に対する
        弁済供託の効力を認めたものと解される(最判昭和33
        .12・18)。」ことに注意《前掲書》。
    
        以上は、供託の主たる効果である、債権者の供託金還付
   請求権である。

   しかし、借主はいつでも供託した家賃を取戻すことができる。
  (民法496条)。この場合には、借主の家賃債務が復活する。
   これが、弁済者による供託金払戻請求権である。

  (3)供託は、寄託契約と異なり、私人間の行為ではなく、供託官
      に対する申請によって行われ、これに対する供託官の応答は、
   行政処分である。

   本肢1・2に対し、正確に解答するためには、以上(1)〜(3)
 の前提知識を要する。

 注目
 
 《市販の問題集によると、本問の難易度は、難となっているが、
 本肢解答の前提知識として、これら要素が凝縮されていると考えると、
 確かにそのとおりであろう。しかし、ひとつ一つを精査してゆけば、
 自ずと結論に達する。時間に余裕のあるある今の時期に難問に
 じっくりと取り組んでおくのも意味のあることだと思う》
 

 それでは、肢1を具体的に検討する。

 民法494条の供託と同657条の寄託を対比すると、次の
 文章は、正しい。このまま覚えておくとよい(判例通説)。

   弁済供託は、弁済者の申請により供託官が債権者のために
 供託物を受け入れ管理すること内容とする民法上の寄託契約
 の性質を有する。

   しかし、供託金払戻請求(前者)が、民法上の寄託物返還請求
(後者)と同じかと言えば、実質は預けた物を返せという請求で
 あっても、前者は、供託官の行政処分を求める申請である
(行手法 第2章・申請に対する処分 参照)のに対し、後者は、
 私法上の契約から生じる請求権であるという違いがある。

  また、実質的にみても、後者にあっては、寄託者は、いつでも
  返還を求めることができる(民法662条)のに対し、前者では
  債権者が供託を受諾した等のときは、払戻ができない(同496条)
 という違いがある。

   したがって、肢1は、前段は正しいが、後段は、誤りであるから、
  全体として妥当でない。

  
  肢2については、前述したところにより、当該却下処分は行政
  処分であり、これに対して行政事件訴訟を提起できるのは当然で
  ある。(最判昭和45・7・15)

   もし、払戻請求=寄託物返還請求であるとすれば、国を被告と
 して、民事訴訟を提起すべきことになる。念のため。


   肢3について

   会計法30条において、国の金銭債権または国に対する債権は、
 5年で時効消滅すると定められていることは、一応、行政法の
 基礎知識として押さえておくべきであろう。

  そうすると、供託金払戻請求権は、国に対する債権に該当するため、
 本肢は正しいようにも思える。

 しかし、判例は、弁済供託は、民法上の寄託契約の性質を有する
(肢1参照)ことを理由に、民法167条1項を適用し、10年が
 消滅時効期間となると解している(最判昭和45・7・15)。

 結局、本肢は誤りである。

   当該判例を知らなかったとした場合、公法上の債権は、すべて
 5年で 時効消滅するものではない。その性質によるという知識
 さえあれば、肢2の確実性のとの対比から、本問の誤りの可能性
 を推定できるであろう。

 要するに、判例を知らなければ、アウトではない。論理を積み
 重ねることの大切さを知るべきである。

 
   肢4について

  判例(前掲)は、つぎのように判示。

   弁済供託における供託物の取戻請求権の消滅時効は供託の基礎と
 となった債務について紛争の解決などによってその不存在が確定
 するなど供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時から進行
 する。

  これも、供託と時効の基礎知識が前提になる。
 
 (1)民法166条1項によると、消滅時効の開始時期は「権利を
  行使することができる時」である。
   前述したように、供託金払戻請求は、原則として、供託した
  時から行うことができる(496条)ので、その消滅時効も
  供託した時から進行するようにも思える。

   以上が本肢の立場であるが、前述の判例は異なる。

 (2)当該判例の言わんとするところは、以下のとおりである

       たとえば、紛争のある債務について、債務者が債務を免れる
     ため供託したが、後に裁判によって、供託の基礎になった債務
     が不存在とされた場合にはじめて、その時から当該取戻請求権
   の時効が進行する。
   
       さきに掲げた家賃については、この場合には相当しないが、
   たとえば、互いの話し合いで妥当な金額が決まり、供託期間
      中の家賃も含めて、借主が家主に全部持参した場合、供託の
   基礎になった債務が不存在になったため、このときから
   供託金取戻請求権の時効が進行する。

    考えてみれば、以上の点は、当然のことである。供託に
   よって債務を免れるのは、債権者の供託金還付請求権の行使
   を前提にしているのであるから、債務者としては、通常は、
   紛争が解決するまでは、債権者の当該請求権の行使を妨げる
   供託金の取戻を行わないからである。したがって、この間も
   取戻請求権の時効が進行するとするのは、債務者にとって、
   酷である。

       以上により、本肢は、判例に反するので、誤り。

    この場合においても、判例を知らなくても、論理の積み重ね
   により、正解を導き得る。

  肢5について

  供託官の供託金払戻請求の却下処分は、行政処分である(肢2)
 ので、行政庁に不服申立てができる。
  
  本件では、行政不服審査法1条2項により、他の法律により特別
  の定めがある場合に相当し、監督法務局または地方法務局の長に
 審査請求できることになっている(供託法1条の4)。

    したがって、本肢も誤りである。

 
  以上により、正解は、2である。

 
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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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       ★過去問の詳細な解説《第2コース》第58回★
      
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 【テーマ】 行政強制
         

 【目次】   問題・解説


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■ 問題 平成21度問題10
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   行政強制に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

 1 法律の委任による条例に基づき行政庁により命ぜられた行為に
  ついては、行政代執行法は適用されない。
 
 2 義務の不履行があった場合、直接に義務者の身体や財産に実力
   を加えることを即時強制という。

 3 執行罰は、制裁的要素を有するため、同一の義務違反に対して
  複数回にわたり処することはできない。

 4 強制徴収手続は、租税債務の不履行のみならず、法律の定がある
   場合には、その他の金銭債権の徴収についても実施される。

 5 行政上の即時強制については、行政代執行法にその手続に関する
  通則的な規定が置かれている。


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■ 解説
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 △ 参考書籍 

 行政法入門・藤田 宙靖著  行政法読本・芝池 義一/有斐閣
 

 (1)全体的考察

   サイト35号の記述にしたがえば、本問はほぼ解答できる。
 ◆第35号はコチラ↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/768156.html
  
  さらに本年6月9日に配信したオリジナル問題23号をこなして
 いれば、本年のこの本試験問題は、完璧に正解に達し得たと思わ
  れる。

  
  (2)各肢の検討

 
 肢1について

   本肢は、行政上の強制執行制度において、原則な執行方法
 である行政代執行について、地方公共団体との関係をテーマ
 にしたものである。

 行政代執行法第2条(  )内には、条例も掲げられている
 ので、条例または条例に基づき行政庁より命ぜられた行為
 についても代執行できる。
 したがって、本肢のように「法律の委任による条例」の場合
 も「法律の委任によらない条例」の場合であっても、行政
 代執行法の適用により、代執行できる。

 以上、本肢は誤りである。

 
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   以上のテーマは、重要であるので、前記オリジナル問題23号
 の[問題3]の問題・解説を掲げておく。

 この際、関連問題として、確り頭に叩き込む要あり。

         ↓

 [問題3]

  地方公共団体と行政上の強制制度に関する次の記述のうち、正しい
 ものはどれか。

 1 公害防止条例で有害物質の排出基準を定め、それに違反している
  工場に対する操業停止命令の制度を設けたうえで、それを強制する
  ための執行罰を条例で導入することは許される。

 2 自然環境保全条例で、自然環境保全地域に違法に設けられた
 工作物についての除去命令の定めがある場合、相手方がそれに
  従わなければ、行政代執行法に基づき代執行を行うことができる。

 3 過料は、非訟事件手続法の規定に基づき、裁判所によって
 科されるので、地方公共団体の長がこれを一方的に科すこと
  はできない。

 4 条例により過料を科すことはできても、行政刑罰を科すことは
 できない。

 5 国税には、滞納処分手続が定められているが、地方公共団体
 の場合において、地方税には、そのような手続の定めはない。

  
 
 [解説]
 
 本問は「読本」と「入門」に従った。これは、難問に属する。正誤
 にこだわらず、ここで正確な知識を得るように努めるのが肝要と思う。

 1 行政代執行法第1条の問題。同条は、地方公共団体の行政庁に
   あっても、個別の法律があればその法律で認められている強制執行
   を行うことを容認する。しかし、法律によらず、条例によって
   強制執行手段を創設することはできない(読本)。
  本肢は、前段は正しいが、執行罰を条例で導入することはできない
 ので、後段は誤り。

  誤り
                    
 2 行政代執行法第2条は、「法律(・・・条例を含む・・)により
  直接命ぜられ」た行為について、代執行を認めている。したがって、
  カッコ書において条例を明示しているので、条例に基づく義務に
  ついても代執行できる(読本)

   正しい

 3 行政刑罰を科する手続が、刑事訴訟法の定めるところであるのに
  対し、過料を科する手続が非訟事件手続法に定められている。
  このように機械的に覚えておけばよい。
    また、過料は、地方自治法により、行政行為によって一方的に科
    される こともあるということも知っておくとよい(パラパラと
    条文。15条2項・149条3号・231条の3 3項・255条の3 など)
   (入門)

   誤り

 4 地方自治法第14条3項によれば、行政刑罰、過料いずれも一定の
   範囲内において科すことができる。

  誤り

 5 地方公共団体の場合については、地方税法で、国税の徴収手続に
   ほぼのっとった滞納処分手続が採用されている(条文省略)。
  (入門)

   誤り

 したがって、正解は2である。

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 肢2について

 強制執行の原則が代執行であるのに対して、行政代執行法は、別に
 法律で定めることを許容している。これに該当するものとして、行政
 上の「直接強制」がある。

   これが、本肢でいう、 「義務の不履行があった場合、直接に義務者
 の身体や財産に実力を加えること」である。

  サイト35号の解説を引用しよう。

 「別に法律で定めるもの(代執行法1条の原則以外)としての、
  行政上の強制執行に該当するのが、行政上の直接強制である。
  
 これは、結核患者が入所を拒んだら、強制的に療養所に送りこむ
 ようなことである。ただし、法律にこれを許す規定がないので、
 以上のことはできないことに注意。現在の法律で直接強制が認めら
 れているのは、ごくわずかである。

   直接強制に類似したものとして、消化活動のための土地・家屋へ
 の立ち入り・処分、酔っ払いの保護などの即時強制がある。」

 「 即時強制の具体例として、 目前の障害を除くという緊急の必要
   からして、相手方である私人に義務を命じているひまのない場合
  にも、消化活動のための土地の使用等が許される。したがって、
  事前に私人に対し作為義務を課していることは必要でない」

   以上により、本肢は、行政強制のうち、義務の不履行があった
 場合の強制執行の一つである「直接強制」の説明であることが
  分かる。

 これに対して、行政強制である「即時強制」は、義務の不履行が
 あった場合に義務の履行を目的とする強制執行ではない。

  本肢は誤りである。
 

 肢3について

   執行罰は、行政上の強制執行の一つであり、「義務を履行しない
 義務者に対して心理的強制を加えるために、金銭的な罰を科する
  という方法である。」
 (読本)。
  本肢の説明は、法律違反の行為に対する制裁を目的として行わ
   れる処罰すなわち、行政罰に関するものである。
  
    したがって、本肢は誤りである。

  ここでは、以下の2点を指摘しておく。


  1 わが国では、戦前では、執行罰も一般的に認められていたが、
   戦後では砂防法という法律で残っているだけである。(読本)

  2 執行罰は、行政罰と異なり、行政上の強制執行であるのだから、
     「義務の不履行が継続する限り、過料を繰り返し科すことができ」
   る。(LEC・行政書士合格基本書)

 肢4について。

   前記オリジナル問題[問題3]肢5と解説を参照せよ。

  そこでは、国税と地方税の「滞納処分手続」について述べられている。

   本肢はこれに関連した問題である。

  以下の記述が念頭にあれば、本肢は正しいことが分かる。

  「・・金銭納付義務の不履行に対しては、強制的徴収の方法がある。
     これは、正式には『行政上の強制徴収」と言う。典型的な例は、
   税金を自主的に納付しない場合に行われるものである。一般的
   に言うと、金銭納付義務が履行されない場合に行われるもので
     ある。法律上は、『滞納処分』と呼ばれている。差押え、差押
     えられた物件の公売といったプロセスがとられる。」
  (読本)


 肢5について。

    肢2でみたように、即時強制は、行政上の強制執行の種類に該当
  しないので、強制執行の原則である「行政代執行法」に即時強制
  の手続に関する通則的な規定が置かれることはない。

  誤りである。

    以上により、正解は、4である。

 (3)総括

   行政上の強制執行の種類として、1 行政上の代執行 2 執行罰
 
 3 行政上の直接強制 4 行政上の強制徴収の4種類がある。

   本問では、以上4種類がすべて登場するとともに、一部において、
 行政上の即時強制・行政罰と対比するという構成になっている。
 

 ※(注)
   行政強制一般については、用語の混乱を生じがちであるが、
   後日、オリジナル問題を通じて、有料メルマガにおいて、
   その整理を果たしたい。


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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