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               ★ オリジナル問題解答 《第2回 》 ★

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                         PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  行政法
   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 行政法・オリジナル問題 解説
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】第88号
 に掲載してある。

  メルマガ第88回はこちら↓
 http://archive.mag2.com/0000279296/index.html

 
 ▲ 問題1

  ★  本問については、サイト29回 参照

     第29回はコチラです↓
   http://examination-support.livedoor.biz/archives/683845.html


  ★ 各肢の検討

    アについて

    到達によって、標準処理期間は、進行を開始するのが、原則
  であるが、形式的要件に適合しないとして、申請者に対して
    補正指導をしている間は、その進行を停止するというのが、通
    例の取扱いであって、本肢は妥当でない。

   本肢は、行手法6条・7条の組み合わせによる。

  イについて

   6条によると、標準処理期間は、申請がその事務所に到達した時
    点から進行する。この点は、7条に関しても同じことが言えるが、
    申請を受け取っておきながら、正式に受理していないことを理由に
   「預かり」とか「返戻」という措置とることを許さないことにしたと
   いう当該立法の経緯 からしても、受理を当該期間の基準とすること
   は、明からな誤りである。 (読本参照)


    ウについて

      後者は、法的義務であるから妥当でない(7条参照)。


  エについて

   妥当である(6条・9条)。

  
  オについて

   6条末尾の記載により、妥当である。


----------------------------------------------------------------

   以上により、正解は2である。

---------------------------------------------------------------


 ▲ 問題 2
  
 
 ◆ サイト30回に掲載の平成18年度過去問・問題11及び解説参照

 

   第30回はコチラです↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/683857.html

 
  ◆ 各肢の検討

  ○ アについて

   平成21年度問題11の肢4の以下の記述をみてほしい。

   聴聞において、当事者が利害関係者の参加を求めたにもかかわらず、
  行政庁がこれを不許可とした場合には、行政不服審査法に基づく不服
  申立てをすることができる。

  ×である

   条文は、行手法17条1項・同法27条1項である。
   つまり、同法17条1項に違反する違法な処分(行審法1条の行政
   庁の違法処分に該当する)は、行手法27条1項により、行審法による
  不服申立てをすることはできない。

  同様に行手法18条1項の文書等の閲覧規定に反する行政庁の処分も
  また、行審法の不服申立ての対象にならない。

  以上、本肢は正しい。

 ○ イについて

  聴聞を経てなされた不利益処分については、行政不服審査法に基づく
 異議申立てはできないが、弁明の機会付与の不利益処分にはこうした
 制限がないので、本肢は正しい(27条2項・29条以下にはこうした
 規定もなく、準用もされていない)。

  しかし、27条2項によれば「審査請求」はできることになっている
 ことに注意。
 「異議申立て」は処分庁に対する不服申立てであるから(不服審査法
 3条2項)、聴聞という丁寧な手続を経た処分が覆る可能性がほとんど
 ないことが立法趣旨である。

  以上、本肢は正しい。


 ○ ウについて

  行手法29条と同法20条の比較。なお、同法20条3項の審理の
 非公開原則に注意。これについては、学者の批判がある。

  以上、本肢も正しい。

 ○ エについて
              ・・・・・・・・・
  丁寧な手続である聴聞は、許認可を撤回したり 資格 または地位
  を 剥奪するといった相手方に重大な不利益を与える不利益処分に
 ついて行われる。これが「特定不利益処分」であり、行手法13条
 1項1号に列挙されている。
   この不利益処分には、行政法学上の取消しと撤回の双方が含まれる
 (同旨・平成21年度問題11・肢2)。

  以上に反する本肢は妥当でない。


 ○ オについて

  行政庁が、相手方から、申請により求められた許認可等を拒否する
 処分は、申請に対する処分(行手法2条3号)であるから、不利益処
  分に該当しないので、聴聞ないしは弁明が実施されることはない

  以上に反する本肢は、妥当でない。


 --------------------------------------------------------------

  以上によれば、妥当でないのは、エとオであるから、正解は4である

---------------------------------------------------------------

 

 ◆  付 言

   エとオの対比を通じて、「特定不利益処分」の概念をはっきりと把握
 することが肝要だ!

  一度行政庁がした許認可を取り消したり、撤回するのが、「特定
 不利益処分」であり、申請者から求められた許認可を拒否するのは、
 それが、いかに申請者の重大な利益に関わることであっても、
「不利益処分」ではなく、「申請に対する処分」である。

   以上は、行政手続法の根幹をなすものであり、過去問でも繰り返し
 問われている。混同しないように!


 また、アとイの混同も回避すべき。
 
   アは、聴聞の手続そのものに対する不服。イは、聴聞・弁明を経て
 なされた不利益処分に対する不服申立ての問題。

 

 

  参考書籍 
  
 行政法入門 藤田 宙靖著・ 行政法読本 芝池 義一 /有斐閣

 

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

 【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
       
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               ★ オリジナル問題解答 《第1回 》 ★

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                            PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  行政法
   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 行政法・オリジナル問題 解説
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】第87号
 に掲載してある。

  ★ メルマガ第87回はこちら↓
 http://archive.mag2.com/0000279296/index.html

 
▲ 問題1   

    ★  総 説
 
   A

   地方公共団体の行政に関して、行政手続法の適用が除外される範囲
   (3条3項)
   
   イ 行政処分・届出→(地方公共団体の機関が定める)条例・規則に
              基づくもの。

   ロ 行政指導→すべてのもの。

 
   ハ 命令等の制定→すべてのもの

 
  注 条例は、地方議会が定める。規則には、地方公共団体の長つまり
  都道府権知事や市町村長が定めるものと教育委員会などの委員会が
    定めるものがある(憲法94条、地方自治法14条1項、15条1項、
  138条の4 2項)。その規則には規程も入る(地自法138条の4 2項
    行手法2条1号)
  上記の「命令等の制定」にある「命令」とは、条例は含まず、規程
    を含む規則が該当する。


  B

  行政処分・行政指導

  イ 3条1項の適用除外類型

   他の法律で定めるのは当然であって、特別の定めではない。

  ロ 3条1項に該当しない類型

   他の法律に特別の定めがあって、行政手続法の規定に抵触する場合
  には一般法と特別法の関係に立ち、他の法律優先(法1条2項)

  届出

   当然ロに該当するため、他の法律が優先。法1条2項には、「届出に
  関する手続」が明確に掲げてある。


 ★ 各肢の検討

     1について。

    法3条3項によれば、総説・Aロに従い、行政指導については、
   行政手続法第4章の行政指導の規定の非適用ということになる。

    これに対して、地方公共団体の機関がする行政処分については、

    行政手続法は、法律に基づく地方公共団体の行政処分には原則
      として適用される。 

        つまり、地方公共団体の機関がする行政処分であって、その根拠
   となる規定が条例または規則に置かれているものでないものについ
   ては、行政手続法が適用される。 
   
   
    したがって、本肢は、「行政指導」には該当しない。誤りである。

   
   2について。

    本肢は、総説B・ロに該当し、1条2項に基づき、他の法律が
   優先する場合が想定されている。
    この場合、たとえば、生活保護法29条の2で、処分について、
   12条と14条を除いて、行手法を適用しない旨規定している。
    したがって、行手法の一部適用を認めることもできる。

    本肢は、誤りである。

   3について。

    3条3項によれば、総説Aイに基づき、根拠が法律の場合、適用
   される。

    本肢は、誤りである。

     
   4について。

    3条3項によれば、総説Aハに基づき、地方公共団体の機関が定
   めるすべての命令に関し、行手法は適用されない。

   本肢は、誤りである。

   
   5について。

        行政手続条例とは

       行手法の適用のないつまり法3条3項により適用除外になる地方
     公共団体の行う「処分・行政指導・届出・規則・規程については
     地方公共団体が『行政運営における公正の確保と透明性の向上を
     図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。』こと
     になっており、(法46条)」(読本)これに基づいて、多くの
     地方公共 団体が制定しているのが、行政手続条例と呼ばれる。

       この手続条例においては、行手法と同一内容の行政手続条例の
   制定を求めているのではない。むしろ、法の趣旨にのっとり
   その地方公共団体の独自性を生かした方向での条例の制定が
   望まれる。

   したがって、行政手続条例が、地方公共団体における行政手続に
  ついて、行政手続法と異なる内容の定めをすることも許されない
  わけではない。

   本肢は、正しい。
 
------------------------------------------------------------------
  
   以上、正しいのは、5であるから、本問の正解は、5である。

------------------------------------------------------------------

  
 ▲ 問題 2 
 

 ◆  総説
 
   (読本219頁図表をアレンジした)
 
                  1 意見陳述手続             

          2 基準設定

         3 理由提示

          4  文書閲覧
    
          
               (前記1 2 3 4に対応)
                                   ↓
               
               1    2    3     4

  ☆  申請に対する処分       

              なし   審査基準  あり    なし
            (ただし       (拒否処分
              公聴会)      について)
                      
 ☆ 不利益処分                   


 (1)「特定不利益処分」   聴聞   処分基準    あり     あり
         
   
                     
 
 (2)「その他の不利益     弁明   処分基準  あり     なし
     処分」


   
 注        

  a 行政処分は、「申請に対する処分」(第2章・2条2号、3号)と
 「不利益処分」(第3章・2条4号)に分かれる。

  b 意見陳述手続については、「申請に対する処分」につき、10条
   の公聴会の規定があるだけで、申請者の意見陳述手続はない。

  c 「不利益処分」における意見陳述手続については、(1)1の聴聞
   を経る場合と(2)1の弁明の機会の付与を経る場合に分かれる。
  
    このうち、丁寧な手続である聴聞は、許認可を撤回したり 資格
   または地位を剥奪するといった相手方に重大な不利益を与える
   不利益処分について行われる。これが(1)の「特定不利益処分」
   であり、13条1項1号に列挙されている。
    
    これに該当しない(2)の「その他の不利益処分」においては、
   略式手続である弁明の機会の付与の手続が採用される。
  (13条1項2号・29条以下)

  以上を総括すると、 行政手続法上、聴聞を経る処分が、(1)
  の「特定不利益処分」に該当し、弁明の機会の付与を経る処分が
(2)の「その他の不利益処分」に該当することになる。


 ◆  各肢の検討
 

 ○ 1について

  5 条と12条参照。逆であり、誤。

  なお、審査基準が法的義務であり、処分基準が努力義務であることに注意。
 処分基準の公表は、悪用されるおそれがあるあるため、努力義務にとどまる。

 ○ 2について

  申請に対する処分については、申請者の意見陳述手続の規定はなく、
 10条に公聴会の定めがあるだけである。 誤。

 ○ 3について

  不利益処分のうち、特定不利益処分(13条1項1号)は聴聞の実施。
 その他の不利益処分には、29条以下の弁明の機会の付与が行われる。
 
 正しい。

 ○ 4について

  申請に対する処分のうち、理由の提示が義務づけられているのは、
 拒否処分だけである(8条)。誤。

 ○ 5について

  文書閲覧の制度が、申請に対する処分に適用がないのは、そのとおり。
 不利益処分については、聴聞を伴う特定不利益処分にのみ、当該制度
 が適用される。その他の不利益処分には、これは、適用されない。
 
 誤り。


  正解は3である。

 

 ◆  参考書籍 
  
 行政法入門 藤田 宙靖著・ 行政法読本 芝池 義一 /有斐閣


  ★ サイト25回参照↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/615913.html

     


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         ★ 過去問の詳細な解説  第95回 ★

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【テーマ】  民法


【目次】    問題・解説

            余禄          
     

 

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 ■ 平成22年度・問題46(記述式)
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   以下の【相談】に対して、[  ]の中に適切な文章を40字程度で
 記述して補い、最高裁判所の判例を踏まえた【回答】を完成させなさい。


 【相談】

  私は、X氏から200万円を借りていますが、先日自宅でその返済に関
 してX氏と話し合いをしているうちに口論になり、激昂したX氏が投げた
 灰皿が、居間にあったシャンデリア(時価相当150万円相当)に当たり、
 シャンデリアが全損してしまいました。X氏はこの件については謝罪し、
 きちんと弁償するとはいっていますが、貸したお金についてはいますぐに
 でも現金で返してくれないと困るといっています。私としては、損害賠償
 額を差し引いて50万円のみ支払えばよいと思っているのですが、このよ
 うなことはできるでしょか。

 【回答】

   民法509条は「債務不法行為によって生じたときは、その債務者は、
 相殺をもって債権者に対抗することができない。」としています。その
 趣旨は、判例によれば[     ]ことにあるとされています。ですか
 ら今回の場合のように、不法行為の被害者であるあなた自身が自ら不法
 行為にもとづく損害賠償債権を自動債権として、不法行為による損害賠
 償債権以外の債権を受動債権として相殺することは、禁止されていませ
 ん。

  


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  


 ●  序論


  1 本問においては、全体として考察すれば、【相談】内容に目を通す
   必要がない。

   【回答】欄において、「今回の場合ように 不法行為の被害者・・
   が自ら不法行為にも とづく損害賠償債権を自動債権として、不法行為
   による損害賠償債権以外の債権を受動債権として相殺することは、禁止
   されていません」として、相談内容を要約したものが呈示されているか
   らである。

    したがって、わざわざ、時間を費やして、以下のように図示して、
   【相談】内容を解明する必要性に乏しい。


             ・
                       X

        
         200万円    150万円
          
         ↓ 貸金債権   ↑ 損害賠償債権

        (受動債権)   (自動債権)
             
                      私
                        ・

   2 ここでいう判例とは、「本条≪民法509条》は、不法行為に基
    づく損害賠償債権を自動債権とする相殺までも禁止する趣旨ではな
    い。(最判昭42・11・30民集28−9−2477)」

     模範六法 1059頁 509条 1 ▽ 参照

     一般的知識としては、通常このあたりまでの認識はあるであろう。
          
     しかし、
     
          このことを本問の解答として、記載しても、蛇足であるから、点数
    にはならない。

 ◎ ズバリ回答としては、

    前記最高裁判所の要旨を要約したものとなるであろう。
    
  
    その要旨

    民法第509条は、不法行為の被害者をして現実の弁済により損害の填補
   をうけしめるとともに、不法行為の誘発を防止することを目的とするもの
   であり、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし、不法行為による
   損害賠償債権請求権以外の債権を受働債権として相殺をすることまでも
   禁止するものではないと解するのが相当である


    その要約としての本問の回答

   --------------------------------------------

    不法行為の被害者に現実の弁済に
    よる損害の填補をうけさせるとと
    もに不法行為の誘発を防止する。

                45字

    ---------------------------------------------


 ○ 付言

  
   1 ズバリ回答をゲットしようとすれば、この問題を予想し、予め、最高裁判所
   図書館もしくは国立国会図書館所蔵の「最高裁判所民事判例集第21巻9号2
  477頁」を見て、暗記した希有な者に限られるであろう。

  2 それでは、判例の暗記という観点を離れて、標準的な法律書を基に本問を
   考察してみてみよう。

   民法509条によって、不法行為債権を受動債権として相殺が禁じられる
  のは、「不法行為の債務は必ず現実に弁済させようとする趣旨である」から
  である。

   もう一つは、仕返しを回避するためである。分かりやすく言えば、頭をぼこ
  にした相手に対し、自分も相手のかしらを同程度にボコボコにして帳消しにし
  ようとすることが許されないのである。
   あるいは、「任意に履行履行しない債務者に対して債権者が自力救済その他の
  不法行為をしたうえで、それによって相手方が取得する損害賠償債権を受動債
  権として相殺をもって対抗するようなことを許さないというねらいも含んでいる。」
             ・
   したがって、受験者の頭の隅に「現実弁済」とか「自力救済の禁止」という
  言葉が浮かべば、さきの最高裁の判例の要旨を知らなくても、何とか正解に達
  する可能性が開けてくるのである。

   以下は、【余禄】欄に譲る。

   
 ▲ 参考事項

  以下の判例あるので、参考までに掲げておく。

  双方の過失に基づく同一交通事故による物的損害の賠償債権相互間でも、
 相殺は許されない。(最判昭49・6・28 民集28−5−666)

 《22年度模範六法・民法509条 2 ▽ 》

  当該判決の判旨によれば、「民法509条の趣旨は、不法行為の被害者に
                       ・
 現実の弁済によって損害の填補を受けさせること等にあるから、およそ不
 法行為による損害賠償債務を負担している者は、被害者に対する不法行為に
 よる損害賠償債権を有している場合であっても、被害者に対しその債権をも
 って対等額につき相殺により右債務を免れることは許されないものと解する
 のが相当である」。
 

  
 ★ 参考文献

  民法 2 ・ 我妻栄/有泉亨著・勁草書房
   
    


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  ■ 余禄・先生と美里さんの会話(メルマガ配信から抜粋)

     《平成22年度問題 46 を巡って》

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 永宗美里さんの紹介

 花の独身・28歳・瞳がきらきら輝き、活発・行政書士受験歴2回・
 3回目に挑戦中。

 先生の事務所に勤務・先生の姪にあたるが、事務所内では、伯父を
 先生と呼ぶ。
--------------------------------------------------------------
 
 
              どちらが先生?
              ーーーーーーーー
                 

 先生「平成22年度・問題46については、当日どう回答した?」

 美里「あまり答えたくありませんが、・・・【相談】の事例を読めば、
    受動債権が 貸金債権であって、不法行為による債権ではありま
       せんので、民法509条に照らして、相殺が可能だと考えまし
       た。」

 先生「それは、当然だ。例の最高裁の判決要旨は知らなかったんだね」

 美里「今では、その存在は分かっていますが、試験日には、その要旨に
    ついて、全然頭にありませんでした」
 
 先生「それも当然だ。その点、君は悪くない。それを知っていろという
    のは要求過多だ。それでは、なにを書いた?」

 美里「はい、509の立法趣旨として、不法行為の被害者に実際に弁済
    する必要があるから、相殺が禁止されていることは知っていまし
    たので、この場合は、自動債権が損害賠償債権ですから、相殺可
    と思い、そのことを書きました」
 
 先生「それはそれで、正しい」

 美里「でもね、先生。『不法行為の被害者に現実に弁済する必要がある』
    と書くと、空欄が半分なんです。仕方がないから、これに続けて、
   『・・・から、不法行為による債権を自動債権とするのは可』と
    かなんとか、書いたと思います。」

 先生「後半が蛇足だ」

 美里「分かってます。これは、まずいと思って、書いたんですから・・
    蛇足だと思って、空欄を埋めただけですから」

 先生「『自力救済の禁止』という文言は浮かばなかったんだな」

 美里「ちらりと、頭をかすめましたが、事例をみれば、受動債権が不法
   行為ではないわけですから、自力救済は関係ないと思ったんです」

 先生「なるほど。しかし、いまは、そのからくりはわかっているね」
   
 美里「先生。わたしが説明いたしますわ。まかせてください」

 先生「君が先生だ!どうぞ」

 美里「つまりですね。【相談]の事例によっても、受動債権が不法行為
    でなくて、貸金債権であることがポイントですね。【回答】でも、
   『不法行為による・・債権以外の債権を受動債権として』相殺可
   となっていますよね」
 
 先生「裏から言えば・・・・」

 美里「(みなまで言うなと制するように・・)受動債権が不法行為で
    ある場合には、自力救済禁止、判例によれば、「不法行為誘発
    防止」のため、相殺不可であるから、そのことも[  ]欄に
    記載しておく必要があるということですね」

 先生「Exactly! 最後に一言。じっくりこの問題をながめて
    ほしい。【回答】欄の記載だけで回答できる。かえって、【相談】
    の事例にひっぱられると、現実弁済しか念頭にうかばないことに
    なる。もうひとつ・・・・」 
             
      
       ↓    続き( 一週間後・・)

 

          
           二丁拳銃と二刀流
       ーーーーーーーーー


 美里「先生、もうひとつとはなんですの。1週間も待たされたんです
    もの。先生あんまり勿体ぶらないで!」

 先生「そんなつもりはない。ただ誌面の都合でそうなっただけだ。
    つまり、私の言いたかったことは、この問題の採点基準につい
    てだ。前に掲げた最高裁判所の判例(最判昭42・11・30)
    の判旨を機械的に当てはめて、そのとおりかどうかを基準にし
    てほしくないということだ」

 美里「そうですね。『現実弁済』のほか、『自力救済の禁止』『仕返し
    の禁止』でもいいわけですよね。現実の弁済による損害の填補
       とか、不法行為の誘発防止でなければ、減点というのは、お笑
         ・
    い草ですよね!}

 先生「君も八つ当たり気味だね。そんな草は見たこともないが・・。
    いずれにしても、採点者が、この事案を咀嚼し、柔軟に対処
    できるかどうかが鍵だと思うな」

 美里「例えば、『不法行為の被害者に現実の弁済をさせるとともに、
    自力救済を禁止する』(33字)でもいいわけですよね」

 先生「私には、減点の対象が見当たらない。自力救済・・が仕返し
    の禁止であっても、一向にかまわないじゃないか」

 美里「わたし、古い西部劇で、二丁拳銃で、一度に同時に二人を殺す
   場面見ていて、この問題を連想しましたわ」

 先生「なるほど、正面の敵は、現実弁済の自動債権だ」

 美里「横には、自力救済禁止という敵ですね」

 先生「面白いね。敵は、不法行為の衣を被っている。・・それでは、
    チャンバラ映画の二刀流は、どうだ」

 美里「先生、同じことですわ。蛇足です」

 先生「(むっとして・・)もう止めておこう」

 

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

 【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
       
 【E-mail】<fujimoto_office1977@yahoo.co.jp>
 
 ▽本文に記載されている内容は無断での転載は禁じます。
 
 ▽免責事項:内容には万全を期しておりますが、万一当サイトの内容を
       使用されたことによって損害が生じた場合でも、
       一切責任を負いかねますことをご了承ください。

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         ★ 過去問の詳細な解説  第 94 回  ★

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                      PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  民法
   
    
  【目次】    問題・解説

           
 
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 ■  平成22年度問題45(記述式)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   Aは、Bから金銭を借り受けたが、その際、A所有の甲土地に抵当権が
 設定されて、その旨の登記が経由され、また、Cが連帯保証人となった。
 その後、CはBに対してAの債務の全部の全部を弁済し、Cの同弁済後に、
 甲土地はAからDに譲渡された。この場合において、Cは、Dを相手に
 して、どのような権利の確保のために、どのような手続を経た上で、ど
 のような権利を行使することができるか。40字程度で記述しなさい。
 
  
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  

  ● 図示
                    B 債権者兼抵当権者

         ↓     ↓

    C 連帯保証人    A 債務者兼抵当権設定者

                         甲土地 →  第三取得者 D

 ○ ポイント

    1 連帯保証人Cの債務者Aに対する求償権

    「CはBに対してAの債務の全部を弁済し」たのだから、Cは、
    Aに対して求償権を有する(459条以下・ただし、連帯は問題
       にしなくてよい))。

   2 弁済者CによるBの有する抵当権の行使(500条 ただし、
    Cは≪連帯≫保証人であるから、法定代位になることに注意!
    ・501条本文)

     弁済による代位または代位弁済により、弁済者Cの求償権を
    確実にするため、弁済を受けた債権者Bの有する抵当権を代位
    できるのである。

   3 代位の付記登記

    ア 「保証人の弁済後に第三取得者が生じたときは第三取得者の
         出現前に代位の付記登記をしておかなければ、保証人は第三
         取得者に対して代位できない(501条但書1号・「あらか
         じめ」とはこのような趣旨と解されている)。保証人が弁済
         したから抵当権は実行されないと思って買った第三取得者を
         保護するためである」【後掲 内田民法 参照】。

    イ 弁済の後、付記登記前に、第三取得者を生じたときは、もは
     や代位の付記登記はできない(昭和11・5・19)

    ウ 第三取得者の出現後に保証人が弁済したときは、付記登記は
     不要とされる(昭和41年11月18日)。抵当権付で不動産
         を取得した第三取得者は、もともと抵当権の負担を覚悟してい
     るべきだからである。【後掲 内田民法 参照】。

 

        B Cの代位          時の順序
                 
                 ア 弁済→付記登記→Dの出現
        ↓
                 イ  弁済→Dの出現→付記登記不可

                 ウ Dの出現→弁済→付記登記不要
    C   A  →  D  

    弁済
 

  
  ◎ 本問の解答


      本問の事例は、前記 ○ ポイント 3 イ によれば、付記登記
   不可に該当する。
            ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・
    本問において、「求償権の確保のため、代位の付記登記手続を経た
   ・・ ・・・・・・・・・・・・・・
   上で、抵当権を行使することができる」という解答を求めるならば、
   事例自体を 前記 ○ ポイント 3 ア に変更しなくてはならな
   い。

    つまり、付記登記に関していえば、
    
    Cの弁済後に、甲土地がAからDに譲渡される前に、Cはどのよう
   な手続きを経る必要があるかということが問われなくてはならない。

    もし、

     弁済後、第三取得者Dが出現すれば、この後、付記登記はできないの
    だから、付記登記は、Dの出現前に行うことは当然の前提であるという
       のであれば、正解は前述した、・・・・・・・ということになる。

    しかし、
   
    前述したように、時の順序は本問では重要な論点であるのに、これを
   無視した出題には疑問が残る。また、本問では連帯保証となっているの
   にこれが利いておらず、連帯に特有な論点がないことにも疑問が残る。

 

 ★ 参考文献

  民法三 内田 貴 著・東京大学出版会
   
    民法 2 ・ 我妻栄/有泉亨著・勁草書房
  
 

 

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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      ★ 過去問の詳細な解説  第92回 ★

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                                  PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】 民法
   
     ー過去問に関して、登記にまつわる諸問題・その3(終)−
     
     平成10年度以降の登記のからむ肢を順次とりあげ、解説を行い
   ます。本試験準備の有力な武器になることを祈念します。
    
    試験日直前になりましたので、今回は過去問の抜粋をして、締め
   とさせていただきます。
    
 
  【目次】   問題・解説


    【直前予想問題】

   現在販売中の行政書士試験直前予想問題【平成22年度版】につきまし
  ては、多数の読者に恵まれ、深謝しております。

 

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   この問題・解説集は、本試験直前対策として、現時点における最適・最
  良を目差して、わたしが作成したものであり、残部に限りはありませんの
  で、まだ購入されていない方はぜひお買い上げいただき、この期間中、本
  誌を伴侶としていただき、本試験合格の栄誉に輝かれることを祈念いたし
  ます。 

           
   
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
■  問題集(過去問の出典は省略)・○×を付すること

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 1 Aの所有する甲土地につきAがBに対して売却した後、Aが重ねて
  甲土地を背信的悪意者Cに売却し、さらにCが甲土地を悪意者Dに売
  却した場合に、第一買主Bは、背信的悪意者Cからの転得者であるD
  に対して登記をしていなくても所有権の取得を対抗できる。(  )

 2 Aの所有する甲土地につきAがBに対して売却したが、同売買契約
  が解除され、その後に、甲土地がBからCに売却された場合に、Aは、
  Cに対して、Cの善意悪意を問わず、登記をしなくしては所有権の復
   帰を対抗することはできない。(    )

 3 Aの所有する甲土地につきAがBに対して遺贈する旨の遺言を死亡
  した後、Aの唯一の相続人Cの債権者DがCに代位してC名義の所有
  権取得登記を行い、甲土地を差し押さえた場合に、Bは、Dに対して
  登記をしていなくても遺贈による所有権の取得を対抗できる。(   )

 4 遺産分割前に共同相続人の一人Dから相続財産に属する不動産につ
  いて共有持分を譲り受けた第三者Hは、登記がなくても他の共同相続
  人B・C・Eに共有持分の取得を対抗することができる。(   )
 


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
■  解説集(判例に関しては、三省堂発行の平成22年度 模範六法
       から引用≪模 、、条1、2、3・・・で表す≫)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 1 不動産二重売買における背信的悪意者からの転得者は、その者自身
  が第一買主との関係で背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該
  不動産の所有権取得をもって第一買主に対抗することができる(最判
  平8・10・29 摸 177条 33)。×

    末尾 オリジナル問題 1 参照

 2  解除をした売主と解除後の第三者である買主から当該不動産を取
  得した者は、対抗関係に立ち、第三者の善意悪意にかかわらず、登
  記の先後により優劣を決する(最判昭35・11・29 摸
  177条  4) ○ 
  

   末尾 オリジナル問題 2 参照

 3  甲から乙への不動産の遺贈による所有権移転登記未了の間に、甲
  の共同相続人の一人の債権者が当該不動産の相続分の差押えの申立
  をし、その旨の登記がされた場合、当該債権者は、本条(177条)
  の第三者にあたる(受遺者は登記なしに遺贈を当該債権者に対抗で
  きない)。(最判昭39・3・6 摸 177条 25)×

   なお、本肢は、判例とは異なり、単独相続の事例であるが、結論
  は同一であることに注意せよ。

 4 不動産の共有者の一員が自己の持分を譲渡した場合における譲受 
  人以外の他の共有者は本条(177条)にいう第三者に該当する。
  ( 最判昭46・6・18 摸 177条 26)

   したがって、共有持分を譲受けた者は、登記なくして、共有相続人
  に対抗できない。  ×

 

 ◆ 末尾

  
 《問題1》

  最高裁判所は、「不動産二重売買における背信的悪意者からの
 転得者は、その者自身 が第一買主との関係で背信的悪意者と評
 価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって第一
 買主に対抗することができる。」という見解に立っている。
 
  上記の最高裁判所の見解は、いかなる考えを前提としたものと
 いえるか。 40字程度で記述しなさい。
 
  なお、具体的事例としては、Aの所有する土地につきAがBに
 対して売却した後、Aが重ねてその土地を背信的悪意者Cに売
 却し、さらにCがその土地を背信的悪意者でないDに売却し、
 Dが登記を得た場合を想定し、記述にあたっては、ABCDを
 使用すること。

 
 
 《問題2》


  売買契約の解除と登記に関する次の記述のうち、判例の趣旨
  に照らして、妥当でないものはどれか。


 1 AからBに不動産の売却が行われたが、Bに代金不払いが生じ
   たため、AはBに対し相当に期間を定めて履行を催告したうえで、
   その売買契約を解除した。解除後にBからその不動産を買い受け
   たCに対し、Aは、登記 なくしては所有権の復帰を対抗できない。

  2  AからBに不動産の売却が行われたが、その後A・Bの売買契
    約が合意解除された。解除後にBからその不動産を買い受けたC
    に対し、Aは、登記なくしては所有権の復帰を対抗できない。

  3 AからBに不動産の売却が行われ、BはこれをさらにCに転売
    したところ、A・Bの売買契約がA・Bにより合意解除された場
    合に、Cは善意であれば登記を備えなくても保護される。

  4 AからBに不動産の売却が行われ、BはこれをさらにCに転売
    したところ、Bに代金不払いが生じたため、AはBに対し相当の
    期間を定めて履行を催告したうえで、その売買契約を解除した場
    合に、Cは善意であっても登記を備えなければ保護されない。

  5 AからBに不動産の売却が行われ、BはこれをさらにCに転売し
    たところ、A・Bの売買契約が解除され、BからAに所有権移転登
    記が復帰した場合には、Cが善意であっても保護されない。


 
 《解説》

  
 ◎ 問題 1


  ■ ポイントは、背信的悪意者Cの所有権取得が無効であれば、
     Dも所有権を取得しないため、Dに登記があっても、Bに所
     有権の取得を対抗できないということ(逆に言うなら、Bは、
     登記なくしても、無権利者Dには所有権を対抗できる=無効
     はだれでも主張可。登記なくしても可)。
 
      しかし、最高裁判所は、DはBに対抗できるとしているのだ
    から、その考えの前提として、AからCに有効に所有権が移転
    し、CからDへの所有権移転も有効であるということが是認さ
    れなくてはならない。

   ■ そこで、最高裁判所の考えの前提について、その解答例を
      示すと以下のようになる。


      Cが背信的悪意者であっても、AからCに所有権が移転して
    いるため、Dも所有権を有している。 44字

 


 ◎ 問題 2

 

  法定解除=合意解除

 
       解除前の転売      ・   解除後の転売

    A−−−C        A−−−−C
           ↓
          保護されるには
      登記要         対抗関係
        
    ●結局、先に登記           ●先に登記した
    した方が優先           方が優先

 

 1について。

   法定解除であり、解除後の転売であるから、AとCは対抗関係。
 Aは、登記なくして対抗できない。

 妥当。

 2について。

   合意解除であり、解除後の転売であるから、AとCは対抗関係。
 Aは、登記なくして対抗できない。

 妥当。

 3について。

   合意解除であり、解除前の転売であるから、Cが保護されるには
 Cに登記必要。
 
 妥当でない。正解。

 4について。

   法定解除であり、解除前の転売であるから、Cが保護されるには
 Cに登記必要。

 妥当。

 5について。

   法定解除か合意解除か不明。どちらでも同じであるから、詮索する
 要なし。解除前の転売であるから、Cに登記必要。Aがさきに登記
 したのだから、Aが優先。

 妥当。

   なお、以前に、詐欺による取り消し前の善意の第三者(96条3項)は、
 登記を要しないという判例があるといいましたね。この5との対比で
 いいますと、AがBの詐欺を理由に取り消し、登記もAに復帰して
 いても、取り消し前の善意の第三者が優先するということなんですね。
 解除前の第三者と同様、保護されるには、登記が必要とした方がよい
 のではないかとも思いますが、皆さんはどう考えられますか。


  以上 3 が正解

 

 

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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        ★ 過去問の詳細な解説  第 91 回  ★

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                         PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  民法
   
     ー過去問に関して、登記にまつわる諸問題・その2−
     
     平成10年度以降の登記のからむ肢を順次とりあげ、解説を行い
   ます。本試験準備の有力な武器になることを祈念します。

    
 
  【目次】   問題・解説

           
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      私といたしましては、来るべき本試験と類似する良問に絞った選りす
   ぐりのオリジナル問題を作成・呈示させていただいたつもりであります。

    ひとりでも多くの方が、本誌を活用されることにより、本年度の試験
   に合格されることを祈念いたします。
 


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
■  問題集(過去問の出典は省略)・○×を付すること

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 1 A所有の甲地がBに売却され、さらに善意のCに売却された後、AB
  間の売買契約が詐欺を理由に取り消された場合、Aは登記なくしてCに
   取消しを対抗することができる。(  )
  
 2 A所有の甲地がBに譲渡されたが甲地には賃借人Cがいた場合、Bは
  登記なくしてCに対抗することができる。(   )

 3 A所有の甲地がBに譲渡されたが甲に不法占拠者Cがいた場合、Bは
  登記なくしてCに対抗することができる。(    )

 

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■  解説集(判例に関しては、三省堂発行の平成22年度 模範六法
       から引用≪模 、、条1、2、3・・・で表す≫)

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 ◎ 1について

  民法96条3項によれば、詐欺による意思表示の取消しは善意の第
 三者に対抗できないのであるから、Aは登記の有無にかかわらず、C
 に対抗できない。   ×

 ◆ 発展問題

 a 詐欺による取消しに際して、Cが第三者として保護されるためには
  登記を要するか。ここで問題になるのは、対抗要件としての登記では
  なく、資格要件としての登記であることに注意する必要がある。

   もし、この資格要件としての登記を要するということになればどう
  なるか、皆様、よく考えて欲しい。Aが詐欺による取消しを理由にB
  の登記を抹消して自己に回復すれば、もはや、Cは自己に登記を移転
  できないのだから、善意の第三者であるCは保護されない。
   したがって、この場合、AはCに登記がないことを理由にCに対し
  取消しを対抗できることになる。

   「登記必要説の根拠は、96条3項は詐欺にあった被害者の犠牲に
  において、取引安全のため善意の第三者を保護しようというのである
  から、保護される第三者は、権利の確保のためになしうることを全て
  して、ほぼ確定的に権利を取得したといえる程度まで達している必要
  があるのではないか、特に、第三者より先に表意者が登記を回復して
                  (注)
  しまったような場合、いくら善意・無過失の第三者でも、その登記の
  抹消まで要求することを認めるのは行き過ぎではないか、という判断
  である。」(内田 民法一)
 
    なお、一般には、判例(最判昭和49年9月26日)は、登記不要
     説に立っているいるとされるが、内田氏は、登記を不要とする当該判
   決の説示には、事案の関係から、先例としての価値に疑問を呈してお
   られる(前掲書)。

    最後に、当該説に立っても、本肢において、「 Aは登記なくして
   Cに取消しを対抗することができる。」とするのは、×である。
  
   注 内田説によると、96条3項の「規定も権利外観法理の一環で
   あるから、94条2項の解釈論と同様、無過失を要求すべきだろ
   う。」とされる。


      ★ 参考事項

    民法545条1項によれば、解除にも第三者保護規定が設けられて
   いるが、判例によれば、第三者が保護されるには登記を要するとされ
   ていることに注意!!(最判昭33・6・14 摸545条 13)。

 
  b  AB間の売買契約が詐欺を理由に取り消された後に、Bが善意のCに
  売却した場合には、Bを起点とする二重譲渡があったのと同じであるか
  ら、対抗問題となり、登記の先後で優劣を決するのが通説判例である
  (大判昭17・9・30 96条 3・177条 3)。

  しかし、現在では、94条2項類推説が有力に主張されているため、
 むしろ、この説の方が通説とも言えることに注意する必要がある。

  当該論点に立脚したオリジナル問題を末尾に掲げておく。

 
 ◎ 2について 

   他人に賃貸している土地を譲り受けた者は、その所有権の取得に
  つき登記を経ない限り、賃料不払いによる解除を賃借人に主張する
  ことはできない。(最判昭49・3・19 摸六 605条 9)
   
   土地の賃借人として賃借上に登記ある建物を有する者は、その
  土地の所有権の得喪につき、本条の第三者にあたる。(大判昭8・
  5・9 前記判例 177条 22)

   いずれの判例に照らしても、本肢において、Bは登記なくして
  賃借人Cに対抗できないという結論になる。 ×


   ★ 参考事項

   後の判例における「土地の賃借人として賃借上に登記ある建物
  を有する者」に注目されたい。

   民法605条によれば、不動産賃貸借の対抗力として登記を要
  する。したがって、旧所有者から賃借した者が新所有者に当該賃
  借権を対抗するためには、登記を要する。

   しかし、 

   建物保護法によると、土地の上に登記した建物を有するときは、
  土地の賃貸借はその登記がなくても、これをもって第三者に対抗
  することができる(このあたりまでは、本試験の射程距離だ!!)。

   以上のとおり、賃借人側から新所有者に対抗できるのかという
  視点から捉えると、賃借人に土地の賃借権の登記もなく、賃借上
  の建物の登記もない場合は、新所有者に賃借権を対抗できない。
   
   この場合、本肢3でいえば、対抗力としての登記を有しない賃
  借人Cは、民法177条の第三者にあたらないことになるので、
  Aは登記なくしてCに対抗できることになる。本肢では、Cが
  対抗力を有していることが前提になっているのだろう。

   
  
  ◎ 3について 

    何らの権原なく不動産を占有する不法占有者は、本条にいう
  「第三者」に該当せず、これに対しては登記がなくても所有権
   の取得を対抗しうる。(最判昭25・12・19 摸六 177
   条  21)

    当該判例に照らせば、本肢は○

  ★ 関連事項

  
   平成21年度記述式問題 46から。

   XはA所有の甲建物を購入したが未だ移転登記は行ってはいない。
  現住甲建物にはAからこの建物を借り受けたYが居住しているが、
  A・Y間の賃貸借契約は既に解除されている。XはYに対して建物
  の明け渡しを求めることができるか。

   【解説】

   本問におけるYは、本肢3における不法占拠者Cとは異なるが、
  賃貸借契約が解除された後も建物を占有する者であるから、前記
  判例に照らせば、何らの権原なく不動産を占有する不法占有者に
  該当するため、、民法177条にいう「第三者」に該当せず、こ
  れに対しては登記がなくても所有権の取得を対抗しうることにな
  る。

   従って、XはYに対して建物の明け渡しを求めることができる。

   本問は、記述式の解答として、判例によれば、「第三者」の
  範囲をどのように定義しているかを40字程度にまとめる作業を
  求めるものであった。

   判例(大連判明41・12・15 摸177条 20)は、
  以下のように判示する。

   本条(民法177条)の第三者とは、当事者もしくはその包括
  承継人ではないすべての者を指すのではなく、不動産物権の得喪
  および変更の登記欠缺を主張するにつき正当の利益を有する者を
  いう。

   従って、正解は、以上の文言を40字程度で表現して、呈示
  することなのであった。必ずしも容易な作業ではない。
  
   「不動産物権の得喪および変更の登記欠缺」という言葉が、手
   元に資料のない状態においては、すっとはでてこないであろう。

   一例を示せば、以下のような表現では、どうであろうか。

   第三者とは、不動産物権変動の登記を欠いていることを主張
   するのに正当な利益を有する者  
          
    41字
   


  ★  末尾 

  《問題》

   AからBに不動産の売却が行われた後に、AがBの詐欺を
 理由に売買契約を取り消したにもかかわらず、Bがこの不動
 産を善意のCに転売してしまった場合において、第三者 (C)
 の取り扱いについては、二つの立場がある。

  甲説(判例の考え方)

  「民法177条の対抗問題の視点を導入する立場」

  乙説(判例に反対する考え方)

  「民法94条2項の類推適用という手段を導入する立場」

   次の記述のうち、乙説の考え方に立つものの組み合わせ
 はどれか。

 
 ア Cがさきに登記をすれば、Aに優先する。

 イ Cが保護されるためには、登記は不要である。
 
 ウ  第三者(C)の善意・悪意や過失の有無を考慮した
   きめこまやかな調整ができる。
 
 エ Aの取り消しの時点で、BからAに所有権の復帰
    があったかのように扱うことができる。

 オ  取り消しによる復帰的変動というのは擬制であって、
  取り消しの効果である遡及効に適合しない。


 1 ア・イ・ウ   
 
 2 イ・ウ・エ   
 
 3 イ・ウ・オ

 4 ア・オ

 5 イ・エ

 
 《解説》

   この事例は、取り消し後の転売ですから、AとCは対抗関係に
  立つというのが、甲説です。
 
    しかし、近時の有力説(乙説)は、94条2項の類推適用説を
 採用します。

      売却  登記   転売
   A−−−−−−B−−−−−−C
      取り消し    94条2項
      121条    登記の外観を信頼した
     初めから無効   第三者保護

  AとBに通謀があったとは言えないため、虚偽表示が適用される
 事例とは言えませんが、「取消後に放置された実体関係に合わない
 登記の外観を信頼した第三者保護」という「権利外観法理」に従っ
 て、94条を類推適用をしようというのが、その主張の骨子です。

  以上のとおり、甲説が前者の対抗関係説ともいうべきものであり、
 後者が乙説の94条2項の類推適用説であることが明らかになりま
 した。

 

 アについて。

 AとCと先に登記した方が優先するというのは、
 「対抗問題」の甲説です。

 イについて

  94条2項の善意の第三者として保護されるには、登記
 を要しないというのが通説です。これは、乙説です。

 ウについて。

  94条2項には無過失は要求されていませんが、権利外観法理
 に従えば、無過失であることを要する、などの議論があります。
 これは、乙説です。

 エについて。

   このように、所有権の復帰(移転)があったと扱うことに
 を前提にした場合に初めて対抗問題とすることができる。
 甲説の立場です。

 オについて。

   取り消しの効果である遡及効(始めから無効)を前提にする
 のは、94条類推適用の乙説です。
 
 
 したっがて、乙説は、イ・ウ・オであり、正解は3です。

 

  ★ 参考文献

  民法 一 内田 貴著  東京大学出版会 発行 

 

---------------------------------------------------------------

   近時の民法の問題は、難化傾向にありまた事例問題としての出題である
  ため複雑化しているので、本講座においても、過去問の各肢を素材に応用
 力を養成するようにこころがけた。

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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 ▽免責事項:内容には万全を期しておりますが、万一当サイトの内容を
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       ★ 過去問の詳細な解説  第90回  ★

           =90回達成記念号=

       皆様に励まされて、ここまで到達いたしました。

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  【テーマ】 民法
   
     ー過去問に関して、登記にまつわる諸問題・その1ー
     
     平成10年度以降の登記のからむ肢を順次とりあげ、解説を行い
   ます。本試験準備の有力な武器になることを祈念します。

    みなさま各人が工夫を凝らした勉学を進めるための一助となる当
   サイトもまた、独自性が求められることは当然であると思料されま
   す。 
 

  【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】      

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    につきましては、現在もなお、たくさんの方々に購入頂きつつあり、深
   謝いたしております。

      私といたしましては、来るべき本試験と類似する良問に絞った選りす
   ぐりのオリジナル問題を作成・呈示させていただいたつもりであります。

    ひとりでも多くの方が、本誌を活用されることにより、本年度の試験
   に合格されることを祈念いたします。

 

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■  問題集(過去問の出典は省略)・○×を付すること

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 1 権利能力なき社団Aが不動産を買い受けた場合において、Aは、法人
  に準じて扱われるので、登記実務上、A名義の登記が認められる。(  )

 2 AがBに対しAの所有する不動産を売却した後に、同不動産を重ねて
  Cにも売却した場合において、B、Cのうち、同不動産の引渡しまたは
  登記の移転を先に受けた方がその所有権を取得する。(  )  
  
 3 AがB所有の土地をCに売却した場合、
  
     所有権者Bが自らA名義で登記をして虚偽の外形を積極的に作出し、
  そのまま放置していた場合には、Bは、Aを所有者だと信頼して買っ
  たCに対抗できない。(  )

 4 A所有の甲地につきBの取得時効が完成した後に、Aが甲地をCに
   譲渡した場合、Bは登記なくしてCに対抗できる。(  )
 
 5 A所有の甲地がBに譲渡され、さらにAB間の譲渡の事実を知って
  いるCに譲渡されてCに所有権移転登記がされた場合、Bは登記な
  くしてCに対抗することができる。(  )

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
■  解説集(判例に関しては、三省堂発行の平成22年度 模範六法
       から引用≪模 、、条1、2、3・・・で表す≫)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 1 最判昭47・6・2・・権利能力なき社団の資産たる不動産について
  は、社団の代表者が、社団の構成員全員の受託者たる地位において、個
  人の名義で所有権の登記をすることができるにすぎず、社団を権利者と
  する登記をし、または、社団の代表者である旨の肩書を付した代表者個
  人名義の登記をすることは、許されないものと解すべきである(摸33
  条5)。  ×
  
   なお、前記判例は、次のように判示していることにも注意せよ!

   権利能力なき社団の資産たる不動産につき、登記簿上所有名義人
  となった代表者がその地位を失い、これに代わる新代表者が選任さ
  れたときは、新代表者は、旧代表者に対して、当該不動産につき自
  己の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求めることができ
  る(同じく摸33条5)。


  2 民法177条によれば、不動産に関する物権の変動の対抗要件は、
  登記である。引渡しは、対抗要件にならない。 ×

  3 民法94条の虚偽表示に該当するには、相手方と通謀することを要
  するが、不動産の真実の所有者がBであるにもかかわらずBの意思に
  基づいてA名義の登記がなされている場合、この不実の登記につきA
  の承諾がなくても本条が類推適用されるというのが、判例(最判昭
  45・7・24 同旨最判昭50・4・25)である。
   したがって、同条2項の適用により、Bは、Aを所有者だと信頼し
  た善意の第三者Cに対抗できない(摸94条23)。  ○

   なお、前記判例は、以下のように判示していることに注意。

   Aから当該不動産を悪意で譲り受けた丙は保護されないが、丙から
  さらに当該不動産を譲り受けた丁は当該不実の登記につき善意である
  限り本条2項の第三者として保護される。

   これは、権利外観法理の現れとして、登記に限らず、権利の外形を
  信頼した第三者の保護一般について問題となること注目すべきである。

 4 CがBの時効完成前に譲渡を受けた場合には、BとCは当事者の関
  係 に立ち、CがBの時効完成後に譲渡を受けた場合には、両者は、
  対抗関係に立つというのが、判例の考え方である(最判昭41・11・
  22 最判昭42・7・21 摸177条 12・14)。

   本肢では、BとCは後者における、対抗関係に立つので、民法177
  条により、Bは登記がなければCに甲地の所有権を対抗できない。

   ×
  
   末尾において、本肢に関連する○×問題を掲げておく。

  5  判例は古くから、177条の第三者は悪意者でもよいとしている
   から、登記がなくては対抗できない者に悪意の第三者を含むとして
   いる。したがって、Bは登記なくしてCに対抗できない。×

    なお、背信的悪意者については、末尾エ 参照。


  
  ◎ 末尾


  ア A所有の甲地につきBの取得時効完成前において、CがAから甲地を
        譲受けて移転登記を経由した場合、Bは時効完成後において、登記なく
        してCに対抗できない。(  )

    イ A所有の甲土地につきBの取得時効が完成し、その間にAの側に何ら
       変動がなければ、Bは登記なくしてAに対抗できる。(  )

    ウ A所有の甲地につきBの取得時効完成前において、CがAから甲地を
        譲受けて所有権を取得し、Bの時効完成後に移転登記を経由した場合、
        Bは登記なくしてCに対抗できない。(  )

    エ A所有の甲地につきBの取得時効が完成した後に、CがAから甲地を
        譲受けて移転登記を経由した場合、Cが背信的悪意者にあたる場合は、
        Bは登記なくしてCに対抗できる。(  )

  
  《解答》


   ★  アについて

   前記判例理論によれば、B・Cは当事者の関係に立つので、Bは
  登記なくして、Cに対抗できる。  ×

  ★ イについて。
 
   土地の占有者Bの側に、たとえば162条の1項の要件が備わり、その
  間、所有者Aの側に何らの変動がなければ、Aは第三者ではないから、B
  は登記がなくてもAに対して所有権の取得を主張し、移転登記の請求がで
  きる。

  A・Bは当事者の関係に立つので、当然だともいえる。

   ○
 
  ★ ウについて。
 
    アの肢では、時効完成前に所有権を取得し、移転登記も経由した場合
  であるが、この肢では、時効完成後に移転登記を経由した場合である
 
  どのように考えるべきであろうか。

  この場合には、CがBの時効完成前に所有権を取得した時点において、
  BとCは当事者の関係に立つのであり、時効完成後にCが登記をした
 からといって、BとCが対抗関係に立つと考えるべきではない。

  不動産の時効取得者は、時効完成後に登記を経由した当該譲受人に登記
 なくして、所有権を対抗しうるとする判例がある(最判昭和42・7・21
 摸177条 13) 
 
  したがって、BはCに対し、登記なくして所有権を対抗できるのであり、
  
  ×

  ★ エについて。

  所有権の移転を受けたと同視される時効取得者と所有権の移転を受けて
 登記を備えた者が対抗する場合であるから、177条の適用により「背信的
 悪意者」論がもちだされて、当然と言えるのかもしれない。

  Cが 背信的悪意者であれば、Bは登記なくしてCに対抗できる。
 
  これについても判例があり、判例は、背信的悪意者を以下のように
  捉えている。

 (最判平成18・1・17摸177条 35 162条 38)

  BとCを登場させる。

  Cが、当該不動産の譲渡を受けた時に、Bが多年にわたり当該不動産
 を占有している事実を認識しており、Bの登記の欠缺を主張すること
 が信義に反するものと認められる事情が存在するときは、Cは背信的
 悪意者にあたる。

  したがって、本肢は、Bは登記なくしてCに対抗できる場合に
 あたる。

   ○

 

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         ★ 過去問の詳細な解説  第88回  ★

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  【テーマ】 会社法=株式会社の取締役
  
     

    【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
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  この問題集は、長年の本試験研究の成果を踏まえ、私が渾身の力をふ
  りしぼって作成したものであり、その作成意図を列記いたしますと、下
  記のとおりであります。
  
 1、本試験と同じ形式を採用し、実際にも、来る本試験との重なりを期
    待しました。

 2、特に、【解説欄】に勢力を注ぎ、関連する事項に極力言及し、応用
    力が養成されるようにこころがけました。

 3、88回にもわたる当該「サイト」欄と連動させることにより、体系
    的理解を助けることを目的にしました。

  
  本試験直前のこの時期に、以上の特徴を有するこの問題集を活用され
  ることにより、みなさまの一人でも多くの方々が、合格の栄冠に輝かれ
  ることを期待してやみません。

 

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■ 平成15年度 問題34(一部改変)

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   株式会社の取締役に関する次の記述のうち、誤っているものはいくつ
 あるか。


 1 定款をもってしても取締役の資格を株主に限定することはできない。

 2 株主総会は、正当の事由がなければ、任期満了前に取締役を解任す
  ることはできない。

  3 取締役の解任によって欠員が生じた場合、必要があるときは、利害
    関係人の請求により、裁判所は一時取締役の職務を行うべき者を選任
  することができる。

 4 取締役が取締役会の承認を得ないで自己のために会社の営業の部類
  に属する取引を行った場合、取引の時から1年を経過するまでは、取
  取締役会は、その取引を会社のためにしたものとみなすことができる。

 5 取締役が、取締役会の承認を受けて会社を代表して他の取締役に金
  銭を貸し付けた場合であっても、その取締役はまだ弁済のない額につ
  いて弁済する責任を負う。

  
  1 一つ

 2 二つ

 3 三つ

 4 四つ

 5 五つ 


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ☆ 参考書籍

   会社法  神田 秀樹  ・ 弘文堂

 ☆ 問題文一部改変について

   本問題出題当時においては、旧商法が適用されていたが、これに
    会社法を適用すると、複数の誤りが生じるため、「誤っているもの
  はどれか」とする問題文について、該当部分を改変した。

   なお、各肢の記述は原文のままである。


 ◆ 各肢の検討

  ○ 1について。

   
   取締役など役員は株主総会の決議によって選任される(会社法329
  1項)。


   旧商法適用時においては、定款で、取締役を株主に限定することは、
    許されなかった(旧商法254条2項)。


   会社法のもとでも、定款で、取締役の資格を株主に限定することは許さ
  れないが、公開会社以外の会社は別である(331条2項)。

      以上のとおり、公開会社以外の会社は限定が許されるので、誤りで
    ある。

   なお、公開会社においても、株主を取締役に選任することはもちろん
    認められ、実際にもそのような場合が多いことに注意。
  (前掲書 170頁)

 
  ○ 2について。

   株主総会は、その決議で、いつでも、理由をとわず、取締役など役員
  《329条1項( )内》を解任することができる(339条1項)。

  正当な理由なく解任した場合は、会社は損害賠償しなければならない。
   (339条2項)。

   以上により、株主総会は、正当な理由がなくても、任期満了前に取締
   役を解任できるので、本肢は誤りである。


  ○  3について。

   終任により法定のまたは定款所定の役員の員数が欠ける結果になった
    場合には、後任の役員を選任しなければならないが(976条22号参
  照)、任期満了または辞任により退任した役員は、後任者が就任するま
  で引き続き役員としての権利義務を有する(346条1項)。

   しかし、それが不適当な場合とその他の事由(解任等)による場合は、
    裁判所に請求して一時役員としての職務を行う者(「仮」取締役等と呼
  ぶが、権限は普通の取締役等と同じ)を選任してもらうことができる
  (346条2項・3項)。
  《前掲書》
   
   以上からすれば、取締役の解任の場合、仮取締役を選任することがで
    きるので、正しい。

  ○ 4について。

  本肢は、旧商法における、取締役の競業避止規制違反があった場合の
 介入権の規定である(旧商法264条3項).

  会社法では、当該介入権の規定は廃止されている。

  会社法のもとでは、次のようになっている。

  取締役会設置会社では、競業取引について、取締役会の承認を得なかっ
  た場合(356条1項1号・365条1項)、その取締役は会社に対して
  損害賠償を負い(423条1項・2項)、また取締役解任の正当事由にな
  りうる(339条)。

  以上に対して、取締役会設置会社以外では株主総会で承認する(356
 条1項1号)。
 
  《前掲書参照》

  以上からすれば、本肢は誤りとなる。


 ○ 5について。

  本肢については、サイト48回を参照されたい。

 ★サイト48回はこちら↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/919396.html

  会社から金銭の貸付を受けた取締役の行為は、、356条1項2号の
 利益相反行為に該当する。取締役会設置会社にあっては、取締役会の承
 認を要する(365条)が、当該承認を得た金銭の貸付けであっても、
  会社に損害を生じた場合は、その取締役・代表取締役は会社に対して
  損害賠償責任を負う(423条1項・3項)。
   
  金銭の貸付を受けたことによって、直接取引をした取締役が無過失
  責任を負うのは当然としても(356条第1項2号・423条3項1号・
 428条)、本肢における代表取締役も過失責任を負う(423条3項
 2号・3号)。

  以上により、会社を代表した取締役も、まだ弁済のない額についての
  弁済をする責任を負うので、本肢は正しい。

  注・細かくなるが、旧商法では、直接取引をした取締役以外の取締役
       の責任も無過失責任であったが、会社法では、過失責任化された。
     したがって、本肢において、出題当時、当該取締役の弁済責任
      は無過失責任であったが、現在では過失責任となっていることに
      注意せよ!!
  
---------------------------------------------------------------- 

  以上誤っているのは、1・2・4であるから、正解は3である。 
  
---------------------------------------------------------------- 
   
   

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                 ★ 過去問の詳細な解説  第87回  ★

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  【テーマ】 民法・催告
  
     

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  問題」【平成22年度版】《有料》が、もう間もなく、発行されます
  ので、みなさま、よろしくお願いします。


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 ■ 平成21年度 問題30
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   催告に関する次のア〜オの各事例のうち、民法の規定および判例に
 照らし、正しいものの組合わせはどれか。

 ア  Aは成年被保佐人であるBとの間で、Bの所有する不動産を購入す
    る契約を締結したが、後日Bが制限行為能力者であることを知った。
  Aは1ケ月以上の期間を定めて、Bに対し保佐人の追認を得るべき
    旨を催告したが、所定の期間を過ぎても追認を得た旨の通知がない。
   この場合、その行為は追認されたものとみなされる。

  イ  CはDとの間で、C所有の自動車を、代金後払い、代金額150万
  円の約定でDに売却する契約を締結した。Cは自動車の引き渡しを完
  了したが、代金支払期日を経過してもDからの代金の支払いがない。
  そこでCはDに対して相当の期間を定めて代金を支払うよう催告したが、
    期日までに代金の支払いがない。この場合、C・D間の売買契約は法
  律上当然に効力を失う。

 ウ  Eは知人FがGより100万円の融資を受けるにあたり、保証(単純
    保証)する旨を約した。弁済期後、GはいきなりEに対して保証債務の
    履行を求めてきたので、Eはまずは主たる債務者に催告するよう請求し
    した。ところがGがFに催告したときにはFの資産状況が悪化しており、
    GはFから全額の弁済を受けることができなかった。この場合、EはG
    が直ちにFに催告していれば弁済を受けられた限度で保証債務の履行を
    免れることができる。

  エ Hは甲建物を抵当権の実行による競売により買い受けたが、甲建物に
  は、抵当権設定後に従前の所有者より賃借したIが居住している。Hは
    Iに対し、相当の期間を定めて甲建物の賃料1ケ分分以上の支払いを催告
    したが、期間経過後もIが賃料を支払わない場合には、Hは買受け後6
    ケ月を経過した後、Iに対して建物の明け渡しを求めることができる。

  オ Jは、自己の所有する乙土地を、その死後、世話になった友人Kに無
  償で与える旨の内容を含む遺言書を作成した。Jの死後、遺言の内容が
    明らかになり、Jの相続人らはKに対して相当の期間を定めてこの遺贈
    を承認するか放棄するかを知らせて欲しいと催告したが、Kからは期間
    内に返答がない。この場合、Kは遺贈を承認したものとみなされる。

 
 1 ア・イ

 2 ア・ウ

 3 イ・エ

 4 ウ・オ

 5 エ・オ

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 
 ☆ 参照書籍

   民法 2・3   勁草書房
 

  ◆ 各肢の検討

 
  ○ 肢アについて

   本肢は、20条の制限行為能力者の相手方の催告権に関する条文
    の適用問題である。

   この場合は、被保佐人であるBに対する催告であるから、20条
   4項が適用適用される。
   すなわち、被被保佐人がその期間内に保佐人の追認を得た旨の通
  知を発しないときは、当該不動産の売買契約を取り消したものとみ
  なすことになる。したがって、これに反する本肢は誤りである。

   ★ 参考事項

    制限行為能力者とは、未成年者・成年被後見人・被保佐人・
      被補助人をいう(20条1項)。

    これら制限無能力者に対する催告権の効果に一定のルールがあ
      るので、把握しておきたい。
   
   1 制限行為能力者が行為能力者となった後に、その者に対する
    催告に確答なし→ 追認 (20条1項)

    2 ただし、だれかの同意を得るなどの特別の方式を要する場合
    その方式を具備した通知を発しない→取り消し(20条3項)

   3 法定代理人・保佐人・補助人に対しては、1・2と同様で
      ある(20条2項)。

    4 被保佐人・被補助人に対する催告に通知なし→取り消し(20
      条4項)=本肢の事例
   ≪成年被後見人は含まれないことに注意・9条によれば、成年被
    後見人に関しては、日常生活に関する行為は有効であると同時
    にその他の行為は、常に取り消すことができるので、追認の余
    地はなく、催告は想定し難いからである。≫


   ○ 肢イについて

   本肢は、541条の契約解除の要件を満たすので、Cは、Dに対
  して相当の期間を定めて代金を支払うよう催告したが、期日までに
    代金の支払いがない場合には、Cは、Dに対して、C・D間の売買
    契約を解除できる。

   したがって、この場合、C・D間の売買契約は法律上当然に効力
    を失うのではなく、契約の有効を前提として、売買契約を解除でき
    ることになるので、本肢は誤りである。

   ★ 参考事項

   1 同時履行の抗弁との関係について

    この場合、DがCに対して、自動車の引き渡しについて、533
   条の同時履行の抗弁権を有すると、Cは自動車の引き渡しという債
   務の履行を提供しなくては、契約の解除をできないことになる。
    しかし、本事例では、代金後払いの約定でCは自動車の引き渡し
   を完了しているので、同時履行の抗弁は考慮しなくてもよい。

   2 応用問題について

    履行遅滞による解除権と同時履行の抗弁の関係について、メルマ
      ガ有料版第7号において、オリジナル問題を出題したので、末尾に
   正誤を問う当該肢と解説を転載しておく。

 
   ○  肢ウについて

   本肢は、催告の抗弁に関する452条・455条の条文適用問題で
    ある。そのまま条文を適用すればよいが、ただし、454条で連帯保
  証に適用されないことになっていることに注意する必要がある。
   本肢では、(単純保証)であるとされているので、条文どおりであ
  り、正しい。


   ★ 参考事項


   保証債務はその従たる性質から、債権者に対して第二次的の地位に
    あり、主たる債務者の履行しないときに、はじめて履行すればよいの
  が常である(446条1項参照)。
   これを保証債務の補充性というが、その法律的な現れの一つとして、
  催告の抗弁権があることになる。

   もう一つが、検索の抗弁権である(453条・455条)。これも
  また、連帯保証には適用されない(454条)

   以上により、連帯保証には、補充性はないことになる。

  (以上、前掲書2参照)


   なお、検索の抗弁について、以下の判例に注目

  「検索の抗弁のためには、主債務者の執行容易な若干の財産の存在の
   証明があれば足り、これによって得られる弁済が債権全額に及ぶこ
      との証明を要しない。」(大判昭8・6・13・・・)

  
   ○ 肢エについて

        本肢は、抵当権設定後における抵当権者に対抗できない賃借権者
  (競売の手続開始前から使用又は収益する者)の引き渡しの猶予に関
     する395条の適用事例である。
    本件では、同条2項の適用により、同条1項の6ケ月の猶予がない
   場合に相当する。

   以上に反する本肢の記述は誤りである。

  
  ○ 肢オについて

   受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告について規定する987条
  の条文適用問題である。

   本事例では、987条の適用により、「承認したものとみなされる」
  ので、本肢は正しい。

   
   ★ 参考事項

 
  遺贈とは、遺言による財産の無償贈与である。

  遺贈には包括遺贈と特定遺贈がある(964条)。
  
  前者は、積極・消極の財産を包括する相続財産の全部またはその分数的
  部分ないし割合による遺贈であり(たとえば相続財産の2分の1、または
 4割がその例)、後者は、特定の具体的な財産的利益の遺贈である。
 
  両者はその効力において全く異なることを注意すべきである。

 (以上、前掲書3参照) 

  本件では、特定の土地を無償贈与するというのであるから、以上の記述
 に関しては、「特定贈与」であることを、この際、はっきり認識する必要
  がある。

  したがって、

  包括遺贈は、相続人と同一の権利義務を有する(990条)ので、遺贈
 の承認・放棄についても、相続に関する915条ないし940の適用があ
                               ・・・
 り、本件の「特定遺贈」の承認・放棄に適用される986条および987条
  は適用されないことに注意せよ!

------------------------------------------------------------ 
 
    以上のとおり、ウとオが正しいので、正解は4である。

------------------------------------------------------------ 

  
 ◎ 末尾記載の応用問題
 
  【肢】

   AはBとの間で、A所有の自動車を代金額120万円の約定でB
  に売却する契約を締結した。Aは、引き渡し期日を過ぎても、約束
  の引き渡し場所に、自動車を引き取りに来ないBに対して、自動車
  の引き渡しの準備を完了したことを通知するとともに、相当の期間
  を定めて代金を支払うよう催告したが、期日までに 代金の支払い
  がない。この場合、AはA・B間の売買契約を解除できる。

    【解説】

    関係する条文数は、6つである。主題は、履行遅滞による解除権と
  同時履行の抗弁である。
 
 それでは、順次検討する。

 1 民法573条によれば、自動車の引き渡し期日を定めたときは、
    代金の支払いについても同一の期限を付したものと推定される。
   この場合における代金の支払い場所は、その引き渡し場所で
   である(民法574条)。

   したがって、Bは、引き渡し場所において代金を支払う義務が
  ある。

   2 以上に従えば、代金の支払いを遅滞する(民法412条1項)
   Bに対して、Aは民法541条1項に基づき、相当の期間を定
   めて履行の催告をしたうえで、契約の解除をすることができる。
    しかし、本肢の場合、Bの代金支払いは、自動車の引き渡し
   と同時履行であるから、Bには民法533条の同時履行の抗弁
   権がある。
    このように、相手方が同時履行の抗弁権を有する場合には、
     解除しようとする者は、自分の債務を提供しておかなければ
   解除できない。「厳格な理論からいえば、解除しようとする者
     は、催告後の相当期間の間中この提供をしつづけなければなら
     ないことになる。」(勁草書房 2)

  3 しかし、この場合には、民法493条の規定に従えば、その
     提供の方法は、本肢のように、自動車の引き渡しの準備を完了
   したことを通知することで足りるので、相当の期間を定めて
   代金を支払うように催告した後に行う本件の解除は有効である。
   (大判大14・12・3が同旨)

    したがって、本肢は正しい。

  

   
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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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         ★ 過去問の詳細な解説  第86回  ★

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                        PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】 会社法

    【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
     本年9月末頃を目途に、過去問の分析に加え、近時の傾向も取り
  入れた「オリジナル模擬試験問題」(有料)を発行する予定をして
   います。
     とくに、関連部分に言及した解説にも力を込め、よりよいものを
   目差して、目下準備中です。

  《以上の予告につきまして、やむなく10月にずれ込みましたが、
 もう間もなく、発行いたしますので、よろしくお願いいたします。》

 

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 ■ 平成18年度・問題39
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   会社の合併に関する次のア〜オの記述のうち、正しいものの組合せは
 どれか。


  ア 会社が合併するには、各当事会社の株主総会の特別決議による承認
    を要するが、存続会社に比べて消滅会社の規模が著しく小さい場合に
    は、各当事会社は株主総会を省略することができる。

  イ 合併の各当事会社は、会社債権者に対して、合併承認に異議があれ
  ば一定の期間内に述べるように官報に公告し、かつ電子公告した場合
  であっても、知れたる債権者には個別催告する必要がある。

  ウ 合併決議前に反対の意思表示をし、かつ合併決議に反対した株主は、
  合併承認決議が成立した場合には、株式買取請求権を行使することが
    できる。

  エ 会社の合併が違法である場合に、各当事会社の株主、取締役等、また
    は合併を承認しなかった債権者は、その無効を合併無効の訴えによって
  のみ主張することができ、合併無効の判決が確定した場合には、将来に
    向かってのみその合併は無効となる。

  オ 会社の合併により、消滅会社の全財産が包括的に存続会社に移転する
    ため、財産の一部を除外することは許されないが、消滅会社の債務につ
    いては、消滅会社の債権者の承諾が得られれば、存続会社は消滅会社の
    債務を引き継がないとすることも可能である。

 
  1 ア・エ

   2 ア・オ

  3  イ・ウ

  4  イ・エ

  5  ウ・エ
   

 
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 ■ 解説
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 ☆ 参照書籍

     会社法  神田 秀樹 著   株式会社 弘文堂

 
 ◆  各肢の検討

 
  ○ 肢アについて

    会社の合併とは、2つ以上の会社が契約によって1つの会社に
     合体することである(会社法748条参照)

    その2つの場合

    ★  吸収合併(2条27号)
   
     当事会社の一つが存続して他の消滅する会社を吸収する場合

    ★ 新設合併(2条28号)

        当事会社のすべてが消滅して新しい会社を設立する場合

   
   本肢では、存続会社と消滅会社が対比されているのであるから、
    吸収合併が問題にされていいる。

     この場合、消滅会社・存続会社いずれにおいても、合併契約で
   定めた効力発生日の前日までに、各当事会社において、株主総会
   の特別決議を得ることを要する(消滅会社は783条・存続会社
   は795条・特別決議は309条2項12号)。

   しかし、略式合併・簡易合併の場合には、当事会社の一方におい
  て、総会決議は不要であるが、

     本肢に記載してある「存続会社に比 べて消滅会社の規模が著しく
   小さい場合には」、各当事会社において、総会決議不要とする規定
   は、会社法上存在しない。

   したがって、本肢は正しくない。


--------------------------------------------------------------
 
      吸収合併については、存続会社ないしは消滅会社の株主総会が
  ・・
  省略されることがあることが知るに止め、以下の細かい仕組みは、
  ・・
  省略してもよいのかもしれぬ。

   なお、新設合併においては、株主総会の決議省略はない(804
    条1項)。
 

 ◎ 参考事項

   略式合併とは?

    存続会社が特別支配会社である場合には、吸収合併の消滅
   会社において、株主総会決議不要(784条1項本文)


    消滅会社が特別支配会社である場合には、吸収合併の存続
      会社において、株主総会決議不要(796条1項本文)

     
     なお、いずれにおいても、その例外があって、総会決議を
        省略できない場合があるが、その場合には言及しない(784
    条1項ただし書・796条1項ただし書)。

      注 特別支配会社とは90%の親会社等を意味する(468条
    1項 参照)


      簡易合併とは?

    吸収合併の存続会社において総会決議不要
 
    すなわち、合併対価の額(簿価)が存続会社の純資産額の20
   パーセント以下の割合の場合において、存続会社の総会決議不要
   とされている(796条3項・これにも総会決議を省略できない
   例外がある796条3項ただし書)。

 -------------------------------------------------------------------

  
  ○ イについて
         

   合併の各当事会社は、会社債権者異議手続を行う(吸収合併の消滅
  会社は789条・存続会社は799条・新設合併の消滅会社は810
  条)。

   その手続において、各当事会社は、異議のある債権者は一定の期間
  内に述べるように官報に公告し、「知れている債権者」には格別に催
  告しなければならない(789条1項、2項・799条1項、2項・
  810条1項、2項)。

   ただし、官報に加えて日刊新聞による公告または電子公告をも行っ
  た場合には知れている債権者に対する個別催告は不要である(789
  条3項・799条3項・810条3項《平成16年改正≫)。

   本肢は、最後尾の記述に反するので、正しくない。
   
      しかし、私は、本肢に関しては、他の重要論点を外し、細かいこと
  を問うているという印象を有する。
  

   ○ ウについて

   反対株主には株式買取請求権が認められる。その要件は、本肢記載の
  とおりである(吸収合併の消滅会社785条2項1号イ、存続会社は
  797条2項1号イ、新設会社の消滅会社は806条2項1号)。

   本肢は正しい。


  ○ エについて

   「・・合併手続に瑕疵があれば、本来であれば無効であるが、その
    解決を一般原則にゆだねると法的安定性を害するので、会社法は、
       合併無効の訴えを用意し、合併無効の主張を制限する一方、無効
       の効果を画一的に確定し、その遡及効を否定する」(前掲書)。

     828条は無効事由を明記していないが、重大な手続違反が
        無効事由になると解されている(前掲書参照)。

     本肢は、単に「会社の合併が違法である場合」としていて、
        この点、疑問であるが、とくにこだわらないことにする。

         原告適格は、一定の者に限られるが(828条2項7号・8号)、
    各当事会社の株主等、本肢に掲げられた者はすべて含まれる。

    無効判決の効果として、第三者にも効力が及ぶ(対世効)と同時
      に遡及効が否定される(838条・839条)。 したがって、
   その効果としては、将来に向かってのみ生じる。

    以上の記述に照らすと、本肢は正しい。

  
  ○ オについて

    本問は、消滅会社の財産が存続会社に移転するとしているので、
      吸収合併の問題である。

    合併により存続会社は消滅会社の権利義務を包括的に承継する
       (750条1項)。したがって、消滅会社の権利義務はすべて一括
   して法律上当然に移転し、個々の権利義務について個別の移転行為
   は不要である。契約によりその一部について移転を留保することは
      できない(前掲書)。

    したがって、存続会社は消滅会社の債務を引き継がないとする
   ことはできないので、本肢は正しくない。


   ◎  参考事項

    新設合併においても、新設会社は消滅会社の権利義務を包括的に
      承継する(754条1項)ので、同様に、新設会社が消滅会社の債務
      を引き継がないとすることはできない。

      
    この債務引き継ぎについて、事業譲渡ではどうなるかを考察してみよ
   う。サイト81回の復習となる。

    事業譲渡の場合には、事業に属する個々の資産については個別に
   移転手続をする必要があり、債務を移転する場合、免責的債務引受
   けとするためには、一般原則に従って債権者の承諾が必要である。
    存続会社が、包括的に消滅会社の債務を承継するのとは、根本的
      に異なる。

    また、以上のような債務引受けがなされなかった場合でも、譲渡
      会社の商号を使用した場合、その譲受会社も債務を引き継ぐが、この
      場合であっても、当然に譲受会社の責任が消滅するのではない(22
      条1項・3項なお、23条1項・2項)。

   《以上のように、各事項に連動性を持たせ、体系的理解に努めよう
        とするのが、本講座の目的でもある≫

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー   
 
  以上によれば、ウとエが正しいので、正解は5である。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ◆ 付 言

  会社の合併には、吸収合併と新設合併があり、各肢において、いずれ
 の場合を問題にしているのか、ないしは、いずれかを問わず、共通の問
  題としているのかという観点も大切である。

  アとオは、吸収合併 ・ イとウとエは、共通。


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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 ▽免責事項:内容には万全を期しておりますが、万一当サイトの内容を
       使用されたことによって損害が生じた場合でも、
       一切責任を負いかねますことをご了承ください。

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