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          ★ 過去問の詳細な解説  第83回  ★

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                         PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】 民法 

    【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
     本年9月末頃を目途に、過去問の分析に加え、近時の傾向も取り
  入れた「オリジナル模擬試験問題」(有料)を発行する予定をして
   います。
     とくに、関連部分に言及した解説にも力を込め、よりよいものを
   目差して、目下準備中です。


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 ■ 平成21年度 問題 29
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    Aに対して債務を負うBは、Aのために、自己が所有する土地に抵当
  権を設定した(他に抵当権者は存在しない)。この場合における抵当権
  の消滅に関する次のア〜オの記述のうち、民法の規定および判例に照ら
  し、妥当なものの組合せはどれか。

  
  ア  Aの抵当権が根抵当権である場合において、Bが破産手続開始の
     決定を受けたときは、被担保債権は確定して満足し、根抵当権は確
     定的に消滅する。

 イ Aの抵当権が根抵当権である場合において、元本が確定した後に、
  Bから土地の所有権をCが、極度額に相当する金額をAに支払い、
  根抵当権の消滅請求をしたときは、確定した被担保債権の額が極度
    額を超えていたとしても、Aの根抵当権は、確定的に消滅する。

  ウ BがAに対し、残存元本に加えて、最後の2年分の利息および遅
  延損害金を支払った場合には、Aの抵当権は、確定的に消滅する。

  エ  第三者Cが、土地の所有権を時効によって取得した場合には、A
    の抵当権は、確定的に消滅する。

  オ  第三者Cが、BのAに対する債務の全額を弁済し、その弁済と同
    時にAの承諾を得ていた場合には、CはAに代位することができる
    が、抵当権は、確定的に消滅する。

 
  1 ア・ウ

    2 ア・エ

  3 イ・エ

  4 イ・オ

  5 ウ・オ

 
 
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 ■ 解説
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 ☆ 参照書籍

    民法 1 勁草書房


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      A

   ↓  抵当権
  
   土地 B所有
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 ◆ 各肢の検討

  
   ● 肢アについて

      民法398条の20第1項第4号によると、当該事由は、根抵当権
    の元本の確定事由となる。

     本件根抵当権の債務者であり、根抵当権設定者であるBが破産手続
   開始の決定を受けているからである。

   しかし、その効果として、根抵当権が確定的に消滅するのではない。

  「根抵当権の確定とは、その時点において存在する元本だけが担保
   され、その後に生ずる元本は担保されなくなること、根抵当権が
   いわば流動性を失い特定の債権を担保するものとなることである。」
  (前掲書)。

     本肢は、妥当でない。

  ● 肢イについて  
 
    民法第398条の22第1項の規定する根抵当権の消滅請求のとおり
   であり、妥当である。

  
    ☆ 参考事項
  
    本肢は第三取得者の例であるが、同条同項によれば、他に物上
   保証人・賃借権を取得した者も消滅請求できる。

   それでは、次の場合はどうであるか。

    AがBに対し、根抵当権を設定する以前において、Bから当該土
    地を賃借したCが、その土地の上に登記した建物を有しているとき
  は、元本確定後、消滅請求できるか。

   この事例は、同条同項で規定される「第三者に対抗することがで
   きる賃借権を取得した第三者」に相当するので、消滅請求可である。
 
   建物保護ニ関スル法律によると、土地の賃借人がその土地の上に
   登記した建物を有するときは、土地の賃借権はその登記なくても、
   これをもって第三者に対抗できるのである。

    この建物保護法までは、射程距離であろう。

         
   ● 肢ウについて
 
     民法375条の規定は、後順位者に対して、優先弁済を主張する
  場合の制限であるから、他に抵当権者が存在しない本肢の場合には、
    最後の2年分の利息および遅延損害金に限らず、残存元本に加えて、
  全額を弁済しなければ、Aの抵当権は確定的に消滅しない。

   本肢は妥当でない。

   これは、設問の(他に抵当権者は存在しない)という記述が、
   伏線として、きっちりと利いている。


   ● 肢エについて

    民法397条によれば、債務者または抵当権設定者以外の者が、
   抵当不動産について取得時効に必要な条件を具備する占有をした
   ときは、抵当権はこれによってこれによって消滅する(前掲書)。

   したがって、第三者Cが土地の所有権を時効によって取得した
  場合には、Aの抵当権は、消滅する。

   本肢は、妥当である。

   なお、以下の記述に注意。

     抵当権が消滅するのは、「取得時効は原始取得として完全な所有権
   を取得させるものだからである。債務者および抵当権設定者について
   この原則を制限したのは、みずから債務を負担し、またはみずから抵
   当権の負担を受けた者について取得時効による抵当権の消滅を認める
   のは不穏当だからである」(前掲書)。

   したがって、債務者が物上保証人所有の不動産を時効取得したと
   したとしても、抵当権は消滅しない。

  ☆ 参考事項

   その他、抵当権が独立に時効消滅する例として、次のオリジナル
  問題の肢と解答を参考にされたい(有料メルマガから転載)。

  (事例は本問と同様)

   Aの債権が、時効中断により20年経過しても消滅時効にかから
  ない場合、Bから土地の所有権を取得したCが、20年後に抵当権
  の消滅時効を援用したときは、抵当権は確定的に消滅する。

   ≪解説≫

  Aの債権が、10年で時効消滅すれば(民法167条1項)、
 これを担保するAの抵当権も消滅する。しかし、時効中断により
 (民法147条)20年以上に時効期間が延びた場合、396条
  の適用を受ける。
 
   その解釈としては、以下のように解される。
 
    債務者・抵当権設定者以外の抵当不動産の第三取得者・後順位抵当権者
   との関係では、抵当権は債権から独立して20年の消滅時効にかかる。
  (大判昭和15・11・26)
  
   20年の根拠は、民法167条2項。
 
   本肢では、Bは第三取得者に該当するので、本肢は正しい。

   
  ● 肢オについて

     本肢では、Cは、弁済と同時にAの承諾を得ているので、民法49
     9条 により代位できる。
 
     弁済による代位の効果として、その債権の効力および担保として
   債権者の有する一切の権利が、求償権の範囲内において、代位弁済
     者に移転する(民法501条)。

     したがって、本肢では、Aの抵当権は、Cに移転するので、確定
   的に消滅しない。

       本肢は妥当でない。

      なお、「弁済をするについて正当な利益を有する者」の弁済の場合
  には、債権者の承諾を得なくても当然に法定代位をする(民法500条
  ・同499条参照)ことにに注意。

     したがって、たとえば物上保証人・抵当不動産の第三取得者・
  保証人・連帯保証人などについては、債権者の同意がなくても代位
  する。

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   妥当であるのは、イとエであるから、正解は、3である。

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 ◆  付 言

    本問では、設問によれば「・・判例に照らし」となっているが、
  いずれの肢も、条文の忠実な解釈によって、正解が得られる。

 

 


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

 【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
       
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    ★ 過去問の詳細な解説《第2コース》第66回 ★

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         PRODUCED by 藤本 昌一
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  【テーマ】 行政不服審査に関する問題点

     
  【目次】   問題・解説


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■ 問題 平成21年度問題15
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   次の記述のうち、行政不服審査法に関する問題点として、次の
 解説文中の空欄 A に挿入すべきでないものはどれか。  


   1962(昭和37)年制定の現行行政不服審査法は、それ以前
 の訴願法と比べれば、権利救済制度として大きく改善されたが、
 現在では、 A  という問題点も指摘されている。また、
 1993 (平成5)年の行政手続法の制定や2004(平成16)
 年の行政事件訴訟法改正などとの関係で、見直しが必要だと考え
 られるようになった。このため、行政不服審査法の抜本的な改正が
 検討されることとなったのである。

 1 行政不服審査法によらない不服申立ての仕組みが多数あるため、
  一般国民にとってわかりづらく、利用しづらい制度になっている

 2 取消訴訟を提起するためには不服申立てに対する裁決または
   決定を経ることが原則とされているため、権利救済の途が狭め
   られている

 3 審理にかなり時間を要しているのが実態であるため、簡易迅速
   という特色が生かされていない

 4 行政権の自己審査であるため、審理手続の運用において公平さに
  欠けるところが多い

 5 不服申立て期間が短いため、権利救済の機会が狭められている
 
  (なぜか、本問では、各肢についてすべて、文末の 。 が省略
   されているが、特別の意味があるとは思われない)

 

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■ 解説
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 ☆ 参照書籍

    行政法読本 芝池 義一著・行政法入門 藤田 宙靖著
  /有斐閣

 
 ◆   ズバリ、本問については、以下に記述する「自由選択主義」と
  いう1点を知っていれば、容易に正解に達する。順序として、
    正解の肢2から解説を行う。

 ◆   各肢の検討

   肢2について。

   かつて、本講座では、根本問題・用語解説と題して、該当部分の
 解説も行った(サイト38回参照)。

 ◇第38回
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/814527.html
 
 以下において、再説する。

 ○不服申立ての前置

 「訴願前置主義」  
  
   昭和37年に現在の行政事件訴訟法が制定される前の制度である。
  行政庁に対して、異義などができる場合には、それを行ってから
  でなければ処分の取消訴訟を起こすことはできない。

 「自由選択主義」
 
   行政上の不服申立てを先にするかいきなり訴訟を提起するか、両者
  を平行して行うかすべて私人の自由な選択に任せるべきである。
    行政事件訴訟法8条1項が規定する現在の制度。

   同法8条1項ただし書きは、例外を認めている。個別の法が例外を
  定めている場合がたいへん多くなっていて、「その結果、現実には
 不服申立ての前置という要件がふたたび取消訴訟の重要な訴訟要件
  となってしまっているということを否定できない状況」(入門220
 頁)である。

   以上のとおり、現行法では、末尾のような問題点があるにせよ、
 「自由選択主義」が原則であるから、本肢は、現行法に対する問題点
 にはなりえない。
  Aに挿入すべきものとしては、本肢が正解である。

 ○ 類似の過去問の肢

  行政事件訴訟法によれば、取消訴訟は、必ず審査請求を経てからで
 なければ提起することはできない。
 (平成12年問11肢4)
 
  正しくない。
  
  
   審査請求できる処分については、それについての裁決を経ること
 なく取消訴訟を提起することはできないとするのが行政事件訴訟法
  の原則であるが、審査請求から3か月を経過しても裁決がなされ
 ないときは、裁決を経ることなく取消訴訟を提起できる。
  (平成18年問17肢3)

  正しくない。

  前半が正しくないことで勝負はつくが、この際、後半についても、条文
 知識を整理しておきたい。
  
  個別の法が不服申立ての前置を認めている場合には、当該記述は妥当
 する(行訴法8条2項1号)。本肢の前半を修正すれば、「正しい」へ
  と即座に移行する。
  このように遊ぶことも、過去問を解く妙味と言えよう。
  みなさま、「余裕」デスヨ!!

 
 ◆  その他の肢について
 
 ○ 肢1・3・4・5等の問題点があるため、行政不服審査法改正案が
    上程されたが、衆議院解散で審議未了廃案となった。
   
   いずれ、この法案が成立すれば、我々は、この法律を勉強しなければ
   ならないことになる。

 肢1について

  行審法1条2項によると、「行政上の不服申立て」については、個別の
 法で定め得るので、行審法によらない不服申立ての仕組みが多数あること
 になる。

 ○ 類似の過去問

 「不服申立て」に関する法律の定めは、行政不服審査法にしか存在して
 いない。
 (平成14年問15肢1)

  正しくない。

   法は、不服申立制度全般について統一的、整合的に規律することを
 目的とするので、別に個別の法令で特別な不服申立制度を規定すること
 はできない。(平成20年問15 肢4)

  正しくない。


 肢3・4・5について。

   行審法に関し、以上の問題点があることに注目せよ!!

   なお、5について、行審法に不服申立て期間の定めがある。
   (面倒であれば、飛ばしてもらっても差し支えないかもしれない)

 14条1項・45条・53条→第1回目の不服申立は60日以内、
 2度目の申立て30日以内

 14条3項→この1年の期間は、異議申立ておよび再審査請求にも
 準用(48条・56条)

  前者の60日・30日の期間は天災その他「やむをえない理由」
 があるとき、後者の1年の期間は「正当な理由」があるときは、
 「この限りではない」(14条1項但書・3項但書・48条・
 56条)。

 (以上、読本259頁参照)
  
  
 ◆ 付 言

   問題文の中で、平成16年の行政事件訴訟法改正についてふれられ
 いるが、、当該テーマに基づいて出題された過去問として、平成17
 年度・問題16および平成18年度・問題18がある。
 
  これら問題については、サイト41回で解説がされているので、
  参照されたい。

 ◇第41回
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/854713.html


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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  ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第56回 】★      
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【テーマ】 「行政調査」「行政計画」・次回に続く。


【目次】  問題・解説

 

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 ■ 平成20年度・同21年度過去問
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 ○ 平成20年度問題26

   行政調査に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しい
 ものはどれか。

 1 保健所職員が行う飲食店に対する食品衛生法に基づく調査の手続は、
   行政手続法の定めるところに従って行わなければならない。

 2 税務調査については、質問検査の範囲・程度・時期・場所等について
   法律に明らかに規定しておかなければならない。

 3 警察官職務執行法2条1項の職務質問に付随して行う所持品検査は、
  検査の必要性・緊急性があれば、強制にわたることがあったとしても
  許される。

 4 自動車検問は国民の自由の干渉にわたる可能性があるが、相手方の
   任意の協力を求める形で、運転手の自由を不当に制約するものでなけれ
   ば、適法と解される。

 5 税務調査の質問・検査権限は、犯罪の証拠資料の収集などの捜査のため
   の手段として行使することも許される。

 

 ○ 平成21年度問題8

   行政計画に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

 1 土地利用を制限する用途地域などの都市計画の決定についても、侵害
   留保説によれば法律の根拠が必要である。

 2 広範な計画裁量については裁判所による十分な統制を期待することが
   できないため、計画の策定は、行政手続法に基づく意見公募手続の対象
   となっている。

 3 計画策定権者に広範な裁量が認められるのが行政計画の特徴であるので、
   裁判所による計画裁量の統制は、重大な事実誤認の有無の審査に限られる。

 4 都市計画法上の土地利用制限は、当然に受忍すべきとはいえない特別の
   犠牲であるから、損失補償が一般的に認められている。

 5 多数の利害関係者に不利益をもたらしうる拘束的な計画については、
  行政事件訴訟法において、それを争うための特別の訴訟類型が法定
   されている。

 

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 ■ 解説
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 ● 参考図書

 行政法読本・芝池義一著 行政法入門・藤田宙靖著 / 有斐閣発行 
 
 
 ● 序論

  平成20年度までは、「行政調査」「行政計画」が正面から問われる
 ことはなかった。しかし、ここ2年続けて、この分野からの出題になった
 のが、近年の本試験の特徴である。
   みなさまが所持されている教科書でも、とくに後者については、記述の
 ないもの、前者についても簡単な記述に留まるものが大半であるように
 思われる。本試験では、このように隙間を突いてくることもある。
  留意すべきである。
 
   しかし、この分野に目を向けてみれば、実際には、重要論点が存在する
 のである。


 ● 本論

  両試験につき、本物の(正しくて、妥当な)肢を捜すという観点にたてば、
 基本的事項を把握さえしていれば、出題意図に沿って、正解をあてることは、
 それほど困難なことではない。

 まず、「行政調査」と「行政計画」の共通性が問題になる。これらは、
 権力的に行われることもあれば、非権力に行われることもある。また、法行為
 に当たるものもあれば、事実行為に当たるものもある(読本)。

 「行政計画」について、国民の土地利用を制限する用途地域の決定のように、
 権力的な法行為には、法律の根拠が必要であることが自然に導かれる。
  
  平成21年度問題8の正解は、肢1である。

 「行政調査」が権力的に行われる強制調査(相手方の抵抗を排して行うことが
 できる調査)は、原則的に裁判官の令状を要するという基本知識さえあれば、
 平成20年度 の問題についても、自然に解答が導かれる。

  平成20年度問題26について、
 
 肢3の強制にわたることは許されず、肢4の任意の自動車検問が許されること
 になり、肢3は誤りで、肢4が正しいことになり、肢4が正解である。
 逐一、判例を知っている必要はない。

 それでは、それぞれについて、各肢を検討しておく。

 ○ 平成20年度問題26

   全体的考察
  
   行政調査とは、行政による情報の収集活動を指す(読本)。以下の肢は全部
 この概念に相当することを明確にしよう。
 
  この行政調査は、行政処分などの個別行為を行うに当って行われる場合と
 行政処分を行うかどうかとは無関係に情報収集を行う場合があるが、以下の
 肢はいずれも、前者が問題になっている。

  各肢の検討

  肢1について。誤り。

   これは、ズバリ、行手法3条1項14号の適用除外の問題である。
 
 「・・資料提出や出頭を命じる調査は、行政処分の形式で行われるもの
  であり、(注)一種の不利益処分として行政手続法を適用することも
 可能であるが、行政手続法は、『情報の収集を直接の目的してされる
 処分・・』を適用除外している(行手法3条1項14号)。」
 (読本)

 注・ ここでいう「行政処分の形式で行われる」というのは、冒頭で述べた、
「行政調査」が権力的に法行為として行われ得ることに照応することに注意
 せよ。


 肢2について。誤り。

  これは、行政調査についての事前の手続として、事前の通知や理由の開示
 が必要かどうかが、論点になったものである。
 
 「最高裁判所は、所得税法上の質問検査に関し、実定法上特段の定めのない
 実施の細目については、税務職員の合理的な選択に委ねられているものとし、
 『実施の日時場所の事前通知、調査の理由および必要性の個別的、具体定な
 告知のごときも、質問検査を行ううえの法律上一律の要件とされているもの
 ものではない』としている」(最高裁判所1973(昭和48)年7月10日決定=
 荒川民商事件)。(読本)

  本肢が、当該決定に基づいて出題されていることは疑いない。
 しかし、本決定は、実定法に定めがない場合でも、手続上、税務職員は、
 本肢に掲げてあるような細目を事前に通知しなくてはならないかどうか
 が争点になり、それは、税務職員の合理的な選択に任されているという
 判断が示されたのである。本肢が当決定に反するという出題意図であると
 すれば、設問の仕方がおかしいようにも思う。
  
  もし個別法において、行政庁職員に対して、調査の事前手続として、
 事前の通告等が義務づけられていれば、その者はその手続に従わなければ
 ならないことに注意せよ。立法例はある(読本参照)。

  いずれにせよ、誤り。

 肢3について。誤り。

   これは、最判昭和53・6・20からの出題である。以下に判旨を掲げて
 おく。

   職務質問に付随して行う所持品検査は、所持人の承諾を得て、その限度に
 おいて行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたら
 ない限り、所持品検査の必要性、緊急性、これによって侵害される個人の法益
 と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況の下で相当
 と認められる限度で許容される場合がある。

  この問題は、一般の「行政法」の教科書では、「刑事訴訟法の教科書など
 における説明に譲ることにしたい。」(読本)とされているところでもあり、
 一般の受験生に対し、当該判決の知識まで問うのは要求過多とも思われる。

 しかし、
 強制にわたる場合には、憲法第35条2項による裁判官の令状を要すると
 いうこと(前述したとおり)が、頭に入っていれば、本肢の「強制にわたる
 ことがあったとしても許される。」が誤りであることが分かる。

 肢4について。正しい。
 
  これは、最高裁判所昭和55年9月22日決定からの出題である。

   当該判決によると、自動車の一斉検問は、警察法2条1項が
「交通の取締」を警察の職務としていることを根拠にしているが、
 本肢のとおり、「任意」であって、強制力を伴わなければ、
「一般的に許容されるべき」としている。したがって、本肢は正しい。

 肢3と肢4の対照

  肢3は、警察官職務執行法2条1項を見れば分かるように、犯罪
 にかかわる職務質問に付随する所持品検査であるのに対して、肢4は、
 犯罪とは関係なく無差別に行われる検問であるあるから、かりに任意で
 あっても、この自動車検問自体が「法律の留保の原則」(注)に違反
 して違法ではないかという問題がある(読本参照)。

  注 「行政の行為のうち一定の範囲のものについては、行為の着手自体が
  行政の自由ではなく、その着手について法律の承認が必要であると
    考えられている。この一定の行為について法律の承認(つまり授権)
  が必要である、という原則を『法律の留保の原則』と呼ぶ。」(読本)。

   これについては、前述したとおり、最高裁判所は、警察法の規定する
「交通の取締」を根拠にしているが、学者はそれにはかなり無理がある
 として「『法律の留保の原則』の見地からは、一斉検問を正面から授権
 する規定を法律(道路交通法になろう)の中に設けることがあるべき
 解決策といえる。」(読本)としている。

  
   肢5について。誤り。

  
   これも普段考えたことのない問題であろう。一読しただけでは、題意も
 掴み難い。

  つまり、税務署が取得した課税調査情報を国税局が行う国税犯則取締り
  に用いることは許容されるか(読本)、という問題である。
  
  ここでいう課税調査情報というのは、肢5のいう税務調査の質問・検査
  権限の行使という「行政調査」によって得られた情報である。
  
  これについては、所得税法234条2項・法人税法156条の規定が参考
  になる。いずれにおいても、「(税務調査)による質問又は検査の権限は、
  犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」と規定する。
  これは、「犯罪の証拠資料の収集などの捜査のための手段として行使
  することは許されない」ことを意味する。判例がこのような違法な行為
  を認める筈もない。
  
  判例とは、最決平16・1・20であるが、当該行政庁の行政調査が、
 「捜査のための手段として行使されたことにはならない」と判断された
   ということである。ここではそれ以上判例に深入りしない。

   平成21年度の「行政計画」は次号に続く。

 

 ● 付言

   肢3・4の事案について、 裁判所は、事後的に警察官の行政調査が、
「任意」だったか「強制」だったのかを判断することになるが、その
 個別行為における両者の境界の画定は困難であろうと推定される。

  もし、あなたがこの講座を学んだ後に、ご自分の運転する自動車が
 一斉検問の対象になったとすれば、さまざまな思いが去来するだろう。
  そのとき、「行政法」的観点からみて、はたして、その 警察官は、
  確りとした意識のもとに公務を遂行しているかどうか。質問してみる
 のも面白いかもしれない。ただし、公務執行妨害罪で強制的に連行
  されないようにご用心を!!!


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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第52回 】★      
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 2009/8/18


             
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【テーマ】株式会社の資金調達方法
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題
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 平成20年度過去問・問題39

   甲株式会社(以下、甲会社という)の資金調達に関する次の文章
 の空欄(ア)〜(キ)に当てはまる語句の組合わせとして、正しい
 ものはどれか。なお、以下の文章中の発言・指摘・提案の内容は、
 正しいものとする。


   東京証券取引所に上場する甲会社は、遺伝子研究のために必要な
 資金調達の方法を検討している。甲会社取締役会において、財務
 担当の業務執行取締役は、資金調達の方法として株式の発行、
 (ア)の発行、銀行借入れの方法が考えられるが、銀行借入れの
 方法は、交渉の結果、金利の負担が大きく、新規の事業を圧迫
 することになるので、今回の検討から外したいと述べた。次に
 株式の発行の場合には、甲会社の経営や既存株主に対する影響
 を避けるために、(イ)とすることが望ましいのであるが、会社
 法は(ウ)について(イ)の発行限度額を定めているため、十分
 な量の資金を調達できないことが見込まれると指摘した。社外
 取締役から、発行コストを省くという観点では、(エ)を処分する
 方法が考えられるという意見が出された。

   これに対して、財務担当の業務執行役は、株式の発行価格が、
 原則として資本金に計上されるのに対して、(エ)の場合は、
 その価格はその他(オ)に計上されるという違いがあると説明
 した。こうした審議に中で、甲会社代表取締役は、(ア)の発行
 であれば、経営に対する関与が生じないこと、(ア)を(カ)付
 とし、(キ)額を(カ)の行使価格に充当させるものとして発行
 すれば、(キ)に応じるため資金を甲会社が準備する必要ななく、
 現段階では、有利な資金調達ができるだろうと提案した。

 
1 ア 社債 イ 議決権のない株式 ウ 公開会社 エ 金庫株式
   オ 資本準備金 カ 新株予約金 キ 払戻し

 2 ア 債券 イ 議決権のない株式 ウ 上場会社 エ 金庫株式
     オ 資本剰余金  カ 取得請求権 キ 払戻し

 3 ア 社債 イ 議決権のない株式 ウ 公開会社 エ 自己株式
   オ 資本剰余金 カ 新株予約権 キ 償還

 4 ア 債券 イ 配当請求権のない株式 ウ上場会社 エ 募集株式
     オ 資本準備金 カ 買取請求権 キ 払戻し

 5 ア 社債 イ 配当請求権のない株式 ウ 公開会社 エ 自己株式
   オ 利益準備金 カ 取得請求権 キ 償還
 
 

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■ 解説
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 ▽ 参考書籍

 会社法 神田 秀樹 著 ・弘文堂   リーガルマインド 会社法
 
  弥永真生著 著・有斐閣


 ア について

   株式会社における外部からの資金調達手段としては、(1)株式の
 発行 (2)「社債の発行」 (3)銀行借入れ その他企業間信用が
 考えられる。したがって、アは、「社債」である。ここで正解は、1・
 3・5に絞られる。

 イについて

   議決権制限種類株式とは、株主総会の全部または一部の事項について
 議決権を行使することができない株式をいう(108条1項3号)。(神田
 会社法)
   とくに総会のすべての事項について議決を有しない株式(完全無議決
 権株式)≪神田会社法≫を発行すれば、旧経営陣ないし既存株主の支配
 関係の維持に役立つ。したがって、株式発行の場合は、甲会社の経営や
 既存株主に対する影響を避けるために、「議決権のない株式」とする
 ことが望ましい。イは、「議決権のない株式」である。
   ここで、5が除かれ、1と3に絞られる。

 ウについて

   会社法は、「公開会社」では、議決権制限株式の総数は発行済株式総数
 の2分の1を超えてはならないとしている(115条)ので、ウは「公開会社」
 である。ここでは、1・3いずれを選択しても、「公開会社」になり、決め
 手にはならない。

 エについて

   199条1項によると、「その処分する『自己株式』を引き受ける者
  の募集」は、新株発行と同じ手続による。新株を発行すると、株券の
 発行を要するが、「自己株式」の処分の場合は不要である。したがって、
  発行のコストを省くという観点では、「自己株式」を処分する方法が
  が考えられることになり、エは「自己株式」である。
    なお、1のエに 当たる「金庫株」も一応考慮の対象になる。金庫株とは、
 会社が自己株式を期間制限なくその金庫に入れておくことから命名された
(神田 参照)ものであり、この金庫株は、弊害があったため、禁止されて
 いたのを平成13年6月改正により、「金庫株の解禁」が行われたのである。
  したがって、ここでは、「金庫株式」でも意味が通じないことはないが、
 法律用語としては、「自己株式」の処分が正しい。さらに、後に続く記述
 では、「自己株式」の価格の計上が問題になっているので、「自己株式」
 が確定的になるのである。

  ここで3に確定するのであるが、このあたりまで順調に来れば、時間の
 節約のため、3として後は見ないで、最後に時間あれば、後半部分を確認
 するのも一策である。

 オについて

   新株発行では資本金の額が増加する(445条1項〜3項)が、自己株式の
 処分益は分配可能額に含まれる(その他資本剰余金」。(神田会社法)
  しかし、このあたりは相当の高度な知識を要する。
  したがって、株式の発行価格が資本金に計上されるのに対して、自己株式
 の場合は、その価格はその他「資本剰余金」(オ)に計上されるということ
 になる。

 カ・キについて

   こうした審議の中で、・・・・・という最後の記述を全体としてみて
 みよう。このあたりで、皆さんは不安に襲われるのではないか。会社法
 にそんなに時間かけられないよ。助けてくれ!! しかし、本試験では
 会社法から確実に4問は出題されている。苦手意識を持って投げてしまえば、
 失う代償は大きい。少しの辛抱だ。じっくりと、一定の時間をかけて論点
 の理解に挑むという意欲が大切だ。だれでも会社法にはてこずっている。

  私も現に、「しんぼう」がパソコンで漢字では出てこず、辞書を引き、
「てこづる」 か「てこずる」かでまた辞書を開いている。

  本題に入る。
 
  社債とは、会社の債務であり、社債権者は会社に対する債権者であって、
 会社の経営に対する関与が生じない。次に、新株予約権付社債(2条22号)
 について、新株予約権を行使されると、会社は、新株予約権者に対して、
 新株を発行する義務を生じる(236条以下)。
  新株予約権の行使は、あらかじめ定めた一定の期間(行使期間)内に
 あらかじめ定めた一定の金額(行使価格)の払込みをすることによって
 行う(神田会社法)。
  社債については、会社は、発行時に定めた条件で元本の返済(償還)
 と利息の支払いをしなければならない(2条23号・676条特に4号の償還
 に注目)。
  そこで、新株予約権付社債の発行にあたり、償還額を新株予約権の
 行使価格に充当させるものとすれば、償還に応じるための資金を会社
 が準備する必要がない。

  以上の理解があれば、カが「新株予約権」であり、キが「償還」
 であることは明らかである。

   以上正解は、3である。

 

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 50回 】★      
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 2009/8/12


             
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【テーマ】民法・相殺
 

【目 次】問題・解説 
           
      

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■ 問題
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 平成20年度過去問

 問題 34

 相殺に関する次のア〜ウの記述のうち、相殺の効力が生じるものを
 すべて挙げた場合、民法の規定および判例に照らし、妥当なものは
 どれか。

 ア AがBに対して平成20年5月5日を弁済期とする300万円
  の売掛代金債権を有し、BがAに対して平成20年7月1日を
 弁済期とする400万円の貸金債権を有している。この場合に、
  平成20年5月10日にAがBに対してする相殺。

 イ AがBに対して平成18年5月5日を弁済期とする300万円の
  貸金債権を有していたところ、平成18年7月1日にAがBに対して
  暴力行為をはたらき、平成20年7月5日に、Aに対してこの暴力行為
 で被った損害300万円の賠償を命ずる判決がなされた。
 この場合に、平成20年7月5日にAがBに対してする相殺。

 ウ A銀行がBに対して平成19年7月30日に期間1年の約定で
  貸し付けた400万円の貸金債権を有し、他方、BがA銀行に
  対して平成20年7月25日を満期とする400万円の定期預金
 債権を有していたところ、Bの債権者CがBのA銀行に対する
  当該定期預金債権を差し押さえた。
 この場合に、平成20年8月1日にA銀行がBに対してする相殺。

 
 1 ア・イ

 2 ア・ウ

 3 イ

 4 イ・ウ

 5 ウ
 

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■ 解説
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 参照書籍

 民法三 内田 貴著 東京大学出版会・民法2 一粒社 
 

 (1)総説

    相殺を為す適した状態を相殺適状という。本問のア・イ・ウの
  3事例は相殺適状にあるかどうかが問われている。
  
    相殺適状であるためには、次の4つの条件を満たす必要がある。
  第1に、「二人互に」債務を負担すること(505条1項本文)。
    第2に、両債務が「同種の目的」を有すること(505条1項本文)。
    第3に、両債務が弁済期にあること(505条1項本文)
  第4は、本問とは直接関係ないので、省く。
  (内田・民法)

 (2)各肢の検討
 

 アについて
          

     300万円の売掛代金債権・弁済期H20・5・5

               自働債権(相殺するAの債権)
         −−−−−−−−−−→
             A                    B
         ←−−−−−−−−−−−     
         受働債権(Aの債務・相手方Bの債権)
      
      400万円の貸金債権・弁済期H20・7・1


     ◎ H20・5・10⇒AがBに対してする相殺

   A・Bが「二人互に」債務を負担し、両債務が金銭債務であるから、
 「同種の目的」を有するので、第1・第2の条件を満たす。
   しかし、本肢は、両債務が弁済期にあることという第3の条件を満
  たして いない。AがBに対して相殺を行ったH20・5・10時点
 では受働債権の弁済期が到来していない。「もっとも、相殺するほう
  のAの債権(自働債権)は必ず弁済期に達していることが必要とする
  が、相殺されるほうのBの債権(受働債権)は、弁済期に達していな
  くとも、Aが期限の利益を放棄できるとき(136条参照)はなお相殺
 することができる。」(民法 2)
  本肢は、この場合に相当するので、相殺の効力が生じるものに該当し、
  妥当なものである。
  なお、両債権額は、対等額で消滅するから、BからAに対する100
  万円の債権が残ることになる。


  イについて
      
     300万円の貸金債権・弁済期H18・5・5
                 
         自働債権 
       −−−−−−−−−−−−→
      A                      B
       ←−−−−−−−−−−−−    
         受働債権
     
     300万円の損害賠償(H18・7・1暴力行為) 

               (H20・7・5判決)

     
    ◎ H20.7・5⇒AがBに対してする相殺

   本肢は(1)総説で述べた相殺適状にあるが、受働債権が不法行為に
 よって生じたものであるとき(509条)に該当する。これは、相殺適状
 が存するにもかかわらず相殺の許されない場合に該当する。
 このような相殺が許されないのは、「不法行為の債務は必ず現実に弁済
 させようとする趣旨である。さらに、任意に履行しない債務者に対して
 債権者が自力救済その他の不法行為をしたうえで、それによって相手方
 が取得する損害賠償権を受働債権として相殺をもって対抗するような
 ことを許さないというねらいも含んでいる。したがって、両債権がともに
 不法行為に基づくものであるときにも相殺を許さないと解されている
 (最判昭和49・6・28・・)。なお、不法行為によって生じた債権を自動
 債権とする相殺は自由である(最判昭和42・11・30・・)。

   したがって、本肢は、相殺の効力が生じないので、妥当なものではない。

 

 ウについて。
      H19・7・30貸付

      400万円の貸金債権・弁済期H20・7・30
         
           自働債権
           −−−−−−−−−−−−−→
          A銀行                     B
        ←−−−−−−−−−−−−−
           受働債権
      
      400万円の定期預金債権・弁済期H20・7・25
                   (満期)
                             ↑

         Bの債権者C 差し押さえ

        
     ◎ H20・8・1 A銀行がBに対してする相殺


   民法511条の文言に従えば、A銀行がBに対してする相殺は、効力
 を生ずる。支払の差止めを受けた第三債務者A銀行は、差し押さえ後
 に取得した債権による相殺をもって差押権者Cに対抗できないが、本
 事例では、A銀行のBに対する自働債権は、差押前から保持されている
 から、Aは相殺をもって、Cに対抗できることになる。

   これに対して、弁済期の先後によって、相殺の可否を決しようとする
 立場がある。本事例のように、受働債権の弁済期が先に到来するなら、
 AはさきにBに弁済しなくてはならなかったのであるから、差し押さえ
 をしたCに対して、相殺を対抗できないことになる。この立場によると、
 もし、自働債権の弁済期が受働債権の弁済期より先に到達すれば、Aは、
 自己の債務について期限の利益を放棄できる(136条・定期預金の場合、
 期限までの約定利息を付ければ期限の利益を放棄できる≪大判昭和9年
 9月15日・・≫ため、Aは相殺をもって、Cに対抗できるが、本事例は
 これに該当しない。本事例では、Aは、H20・7・30以降まで受働
 債権の債務を遅滞しない限り相殺適状にならないのだから、そのような
 相殺への期待は保護に値いせず、相殺をもって対抗できない(内田・
 民法)。この立場に立つのが制限説である。

   しかし、判例は無制限説に立つ。「差押え前から反対債権(自働債権)
 を有していた債務者は反対債権の弁済期が被差押債権(受動債権)の弁済
 期より後であっても、・・・両債権が相殺適状に達すれば相殺をもって
 差押債権者に対抗できる。判例は、初めは対抗できないとしていたが、
 後に対抗できるとした(最大判昭和45・6・2・・・)。」(民法2)

   したがって、本肢のH20・8・1のA銀行がBに対してする相殺
 は、Cに対抗できるので、相殺の効力の生じる妥当なものである。

 
 注 ここでは、判例の立場にたてば、債務者が差押え前から保持して
    いた債権である限り、弁済期の先後を問わず、差押え債権者に対抗
    できると覚えておけばよい。これは、結果的には、冒頭の511条
    の文言に忠実な解釈になる。
   この解釈の背景には次のような思考があることに注意せよ。
   「債務者が差押え前から保持していた地位を受働債権の差押え
  という一事によって侵害すべきでない。」
   「相殺は担保的機能をを果すことを認識する必要がある。」
  (銀行は、貸付金の担保的機能を果たすために、定期預金との相殺
  に期待している・筆者注)(民法 2)。


   以上のとおり妥当なものは、アとウであるから、正解は2である。
   


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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第48回 】★      
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 2009/8/4


             
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【テーマ】会社と取締役との利益相反行為
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題
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 平成19年度過去問・問題39

   取締役会設置会社の代表取締役Aが、取締役会の承認を得て、会社
 から金銭の貸付を受けた場合に関する次の記述のうち、誤っている
 ものはどれか。

 1 取締役会の承認を得て金銭の貸付を受けた場合であっても、Aは、
   事後にその貸付に関する重要な事実を取締役会に報告しなければ
   ならない。

 2 Aが自ら会社を代表してA自身を借主とする契約を締結することは、
  自己契約に当たるため、他の取締役が会社を代表しなければならない。

 3 Aが代金の返済を怠った場合には、取締役会で金銭の貸付を承認
  した他の取締役は、Aと連帯して会社に対する弁済責任を負う。

 4 Aへの金銭貸付に関する承認決議に参加した他の取締役は、取締
   役会の議事録に当該貸付について異議をとどめなければ、決議に
   賛成したものと推定される。

 5 金銭の貸付を受けたAの損害賠償責任は、株主総会の特別決議に
   よっても一部免除することができない。
 

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■ 解説
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 ▽ 参考書籍

 会社法 神田 秀樹 著 ・弘文堂   リーガルマインド 会社法
 
  弥永真生著 著・有斐閣


 1・2について、その関連部分を含めて、まとめて解説する。

 本問の設例は、356条1項2号の利益相反行為(取締役・会社間の
 取引)に該当する。この場合は、取締役と会社の直接取引に該当する。

 ア例

   (代表取締役A)
   取締役会設会社ーーーーーーーーーーーーーー A
          会社から金銭の貸付を受ける
          (本問の場合)

          その他・会社から財産譲り受け
          ・会社に財産を譲渡する

    本問のような取締役会設置会社では、代表取締役Aは、その取引
  について重要な事実を開示して取締役会の事前の承認を受けなければ
  ならない(356条1項2号・365条1項)。この場合は、Aはみずから
 当事者として、自己のために、会社と取引をし、その会社を代表する
  ことになる。これは、民法108条の「同一の法律行為について、
 相手方の代理人に なる」という自己契約に該当し、本来は、会社の
  利益を害するおそれがあるため、許されないが、前記承認があれば、
 許されることとしたのである(356条2項)。したがって、2は誤り
 であり、他の取締役が会社を代表する のではなく、Aが当該会社
 を代表し得る。ズバリ、2が誤りであって、これが、正解である。

   1については、365条2項が、本肢のとおり、当該取引後の
 取締役会へ の報告を規定しているので、正しい。

 関連事項

 イ例

  (代表取締役A)
    取締役会設置会社ーーーーーーーーーーーーーー取締役B
            金銭の貸付を受けるなど
            ア例と同じ直接取引

  この場合は、ア例と異なり、取引の当事者であるAみずから会社を
 代表するのではなく、取引当事者Bとは異なる他の取締役Aが会社を
 代表する場合に該当する。この場合も、取締役会の承認を要する
 356条1項2号の利益相反行為に該当する。会社の利益を害する
 おそれがある点では、ア例と同じだからである。

 ウ例

  債権者ーーーーーーーーーーーーーー取締役A

      ーーーーーーーーーーーーAの債務の保証・債務引受
                   取締役会設置会社
                   (代表取締役A)

   この場合は、会社・取締役間の直接取引ではなく、会社が取締役の
             ・・・・・・・・・・・
 債務につき、取締役の債権者に対して保証や債務引受をする間接取引
 に該当する。このような間接取引もまた、会社の利益が害されるおそれ
 があるため、取締役会の承認を要する(356条1項3号・365条)。本例
 では、債務者である取締役Aが会社を代表して債権者との間で保証契約
 を行うことになっているが、イ例でみたように、取締役Bの債務をAが
 会社を代表して保証を行う場合も含む。

 
 3について

   Aが金銭の返済を怠って、会社に損害を生じたときは、423条3項
 1号によってAが責任を負うとともに、同条同項3号により、当該承認
 決議に賛成した取締役も会社に対して弁済責任を負う。これらの者は
 連帯責任である(430条)。なお、条文によると、任務を怠ったものと
 推定されることになっているから、過失のなかったことを立証すれば、
 責任を免れる(過失責任)。しかし、直接取引をしたAは、無過失
 責任を負う(428条)。本当にうまくなっていますね。当事者と単なる
 賛成者では、責任の度合が異なる。

 4について

   369条5項のとおりであり、正しい。この者も賛成したと推定さ
 れ反対の事実を証明しない限り、肢3と同様、Aと連帯して弁済責任
 を負う。

  5について

   株主総会の特別決議によって、取締役等役員の責任の一部を免除する
 ことができる(425条・309条2項7号)が、直接取引した当事者たるAは
 当該規定の適用を受けないので、本肢は正しい。
 


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第46回 】★      
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 2009/7/29


             
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【テーマ】株式会社の機関等
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題
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  平成19年度・問題38

  株式会社の機関等に関する次の記述のうち、誤っているものは
 どれか。

 1 株主総会の招集手続および決議方法を調査するため、総会検査役
   が選任されることがある。
 
 2 取締役が6名以上で、1名以上の社外取締役がいる会社は、特別
  取締役を取締会決議で選定することができる。
 
 3 委員会設置会社の業務を執行し代表権を有する執行役は、指名
   委員会が指名する候補者の中から株主総会で選任される。
 
 4 会計参与は、会計監査人と異なる会社役員であり、取締役と共同
   して計算書類等を作成する。
 
 5 取締役会または監査役を設置していない株式会社も設立すること
   ができる。


 
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■ 解説
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 ▽ 参考書籍

 会社法 神田 秀樹 著 ・弘文堂   リーガルマインド 会社法
 
  弥永真生著 著・有斐閣


 △ 会社法については、制度なり機関の設けられた根拠について、考察
   しておくと、応用力がつき、本試験において、正解を導くための武器
   になり得るであろう。

  平成19年度過去問

 1について

   総会検査役の定めは、306条に規定がある。本肢は、306条1項
  の条文どおりであり、正しい。

  以下、今後のため、要点をかかげておく。

    総会検査役の設けられた根拠
      経営権に関する争いがあり、(株主)総会の混乱が予想される場合
  等に、総会の招集手続と決議方法の公正を調査し、決議の正否について
  の証拠を保全するために認められた制度である(神田会社法)。

     裁判所に対し、検査役の選任の申立てをなし得る者
       会社または少数株主である。306条2項以下に細かい規定が
  あるが、これは省いてもよいだろう。
   これは、要するに、少数株主の要件が定めてある。(飛ばしても
    よいが、 一応説明しておく)
   公開会社以外の会社の場合には、引き続き6箇月の保有期間要件は
  課されていない。
   総株主から除く株主として、取締役会設置会社以外では、完全無議
    決権株式を有する株主だけを対象にすればよい。
  (リーガル)
  注 以上の点にもそれぞれ理由があり、それは、教科書にも載ってい
  ないため、私なりに考察したが、深入りを避けるために省く。
   公開会社・取締役設置会社・完全無議決権株式の用語説明は、今後、
    これらが主題になった場合に譲る。

   その仕組み(これは、把握しておくべきであろう)

   検査役は、調査の結果を裁判所に報告し、裁判所は必要があれば
  改めて取締役に総会を招集させることができ、この総会で前の総会
 の手続の瑕疵が是正される。(307条1項1号の定めるところで
 あり、検査役制度の主題)

  307条1項2号は、「・・総会招集に多大な費用や時間を要する
 ことになるため、総会の招集を行わずに検査役の調査結果を開示する
 制度を認める必要がある」(リーガル)ために設けられ規定である。

   307条2項・3項は、取締役の開示・調査、報告義務である。


 2について

   特別取締役による取締役会決議の認められる要件は、373条1項
 1号・2号において、本肢のとおり規定されているので、正しい。

   以下に要点を記す。

  当該制度の概要
     この制度は、取締役会のメンバーの一部を特別取締役としてあら
   かじめ選定しておき、取締役会で決定すべき事項のうちで迅速な
   意思決定が必要と考えられる重要な財産の処分・譲受けと多額の
   借財(362条4項1号 2号)について特別取締役により決議し、それ
   を取締役会決議とすることを認める制度である。(神田会社法)

   
  その要件等373条1項の解釈
     369条1項は、通常の取締役会決議であるから、その例外が
    認められる。取締役会設置会社は、2条7号に規定されている。
  通常、定款の定めによって置かれる(326条2項)。取締役会決議
    が問題になっているから、ここでは、取締役会設置会社が対象に
  なる。
     1号が要件になっているのは、迅速な意思決定が必要なのは、
  大規模な会社であるためである。
   2号については、意志決定が特別取締役に委任されるため、社外
    取締役が1名以上の会社とすることによって、取締役会の監督機能
    を強化する必要がある。ただし、特別取締役は、社外取締役である
    必要はない。(神田会社法)

  注 社外取締役の概念を把握しておく必要がある。2条15号が
   規定するところである。現在及び過去において、子会社を含めて
   その会社の一定の役員等になっていない者である。執行役は、
      肢3で登場する。問題になるのは、業務執行取締役である。
   363条1項によれば、取締役会設置会社において、1号の代表
   取締役の外に2号に選定業務執行取締役(取締役会において、
   業務執行取締役として選定された者)が掲げられている。これら
      以外の取締役に業務執行権限を付与することも禁止されるわけ
   ではない。(神田会社法)。社外取締役の関係では、この最後の者
   も、除かれるのである(2条15号 ()内)。
    
    373条2項・3項
      2項は、招集手続についての条文引用について、「特別取締役」に
    合わせたに過ぎないが、複雑になる。それならば、言い換えをしないで、
  修正後の条文を載せてもらえば、すっきりすると思うが、それは、駄目
    なのだろうか。
   3項は、取締役会の監督機能の確保のため報告させることにしたもの
    である。

 3について

   委員会設置会社の執行役は、取締役会の決議によって選任される(402条
 2項)ので、本肢は誤りである。

   要点

   委員会設置会社の概要(神田会社法)
    
   取締役会と会計監査人を置く会社は、定款により委員会設置会社
    となることを選択することができる。条文としては、327条1項
  3号。327条5項。326条2項。
   
      必要な機関としては、1指名委員会 2監査委員会 3報酬委員会
   (2条 12号)4一人または数人の執行役である。なお、当該委員会では、
   監査委員会がその役割を果たすので、監査役を置くことはできない
  (327条4項)。

      取締役会の役割は、基本的事項の決定と委員会メンバーおよび執行役
  の選任等の監督機能が中心。各委員会(社外取締役がメンバーの過半数
  を要す  ≪400条3項≫)が監査・監督というガバナンスの重要な地位を
    占める。

      監督と執行が制度的に分離している。業務執行は執行役が担当し、
  会社を代表する者も代表執行役である。業務の意思決定も大幅に
    執行役に委ねられる。

 
   執行役
     当該会社と執行役の関係は委任関係である(402条3項)。
   執行役は、広汎な範囲の業務執行を行う(418条)。
   本肢の主題である選任は、取締役会の選任による(402条・なお1項も)。
 
  各委員会
  404条以下に規定があるが、本肢に現れた指名委員会の権限は、
 404条1項 のとおりであり、執行役候補者の指名は、真っ赤な嘘で
 あり、かすってもいない。

 4について

  会計参与は、取締役(委員会設置会社では執行役)と共同して、計算
 書類等を作成する者である。(374条前段・6項)。
   会計監査人は、計算書類等の監査(会計監査)をする者である(396条
 1項前段)。以上本肢のとおりであり、正しい。

  関連事項

     会計参与の設置(2条8号)は、任意である(326条2項)。これに
   対し、大会社(2条6号)および委員会設置会社は、会計監査人を
  置くことが強制される(327条5項・328条・2条11号後段はその
   強制を示す)。

 5について

   すべての株式会社は、株主総会以外の機関として、取締役を置かなく
 てはならない(326条1項)。わたし達が実務上よく扱うケースとして、
 一人会社がある。株主が一人で、その者が取締役になる場合である。
   まさに個人万能を示す好例ではある。原則として、取締役会・
 監査役の設置は任意である(326条2項)。現在の会社法のもとでは、
 小規模ないし零細企業が大多数を占める状況下、圧倒的に、株主と
 取締役だけの会社が多い。本肢は、正しい。

   関連事項

     一人会社の株主総会について、以下の判例がある。
     株主が1人の会社では、その者が望めば、招集手続は不要でいつでも
   どこでも株主総会を開催できると解すべきである(最判昭和46・6・24)

     少しややこしいが、取締役会設置会社(2条7号)と監査役設置会社
 (2条9号)については、以下の点に注意する必要がある。
  
     公開会社(全部株式譲渡制限のない会社または一部株式譲渡制限の
   ない会社つまり全部株式譲渡制限会社以外の会社・2条5項)は、
   取締役 会の設置が義務づけられている(327条1項1号)。
  
   委員会設置会社が、取締役会の設置を義務づけられているのは、
  前述したとおりである(327条1項3号)。

   取締役会設置会社は、監査役の設置が義務づけられている(327条
 2項)。ただ、委員会設置会社は取締役会設置会社であるが、前述した
  とおり、監査役を置いてはならない(327条2項()内。327条4項)。
   ただし、取締役会設置会社が、公開会社でなく、会計参与を置いて
 いる場合には、監査役をおかなくてもよい(327条2項ただし書き)。

     機関が交錯して、何とも複雑ですが、現行の会社法の機関設計の
 選択肢がこうなっている以上、あきらめるしかない。ただしこのあたりが、
  今後の本試験の射程距離になるのかどうかは、皆様の判断におまかせする。
   

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第37回 】★      
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 2009/6/17


             
             PRODUCED by  藤本 昌一
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【テーマ】代執行
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題
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 平成10年度過去問

 問題35

  行政代執行法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

 1 代執行の対象となる義務は、法令又は行政処分に基づく代替的作為
   義務及び不作為義務である。

 2 代執行をするには、常に、あらかじめ戒告及び代執行令書による
   通知を行わなければならない「

 3 代執行のために現場に派遣される執行責任者は、その者が執行責任者
  たる本人であること示すべき証票を携帯しなければならず、代執行を
  行う際には、必ずこれを呈示しなければならない。

 4 代執行は、行政庁が自ら行う以外に、業者等の第三者に義務者のなす
  べき行為を行わせることも可能である。

 5 代執行に要した費用の徴収については、原則として文書をもってその
   納付を命じなければならないが、口頭で命じることができる。


 平成17年度過去問

  問題12

  行政代執行法に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

 1 行政代執行法の定める手続要件は、憲法上の要請と解されている
  ので、個別の法律で簡易代執行を認めることはできない。

 2 行政代執行法では、代執行の前提となる命令等の行政処分がすで
   に文書で告知されているので、戒告を改めて文書で行う必要はない。

 3 行政代執行では、緊急の必要性が認められ正規の手続をとる暇が
   ない場合には、代執行命令書による通知手続を経ないで代執行する
   ことができる。

 4 行政代執行は、義務者の義務不履行をその要件として、その意に
   反して行われるので、行政代執行手続においても、行政手続法上
   の不利益処分の規定が適用される。

 5 行政代執行法は、法令違反の是正が目的とされているから、義務
   の不履行を放置することが著しく公益に反しない場合であっても、
   代執行が可能である。


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■ 解説
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 △ 参考書籍は、35回に掲載した。

 △ 本問は、前回の「強制執行」において、やりのこしたところを
   今回実行した。

 本問の検討

 平成10年度

 1について

  行政代執行法第2条によると、他人が代わってなすことのできる行為
 に限られているので、各種の営業停止命令、立入の禁止などの不作為
 義務は対象にならない。「代替的作為義務を命ずる場合にだけ代執行は
 行われ得る」(入門)と覚えておけばよい。

 正しくない。

 2について

  法3条3項において、戒告及び代執行令書による通知を要しない場合
 の定めがある。「常に」ではない。

 正しくない。

 3について

  法4条では、「要求があるときは、何時でもこれを呈示しなければ
 ならない」とある。「必ず」ではない。

 正しくない。

 4について

  法2条では、「又は第三者をしてこれをなさしめ」とある。

 本肢が正しい。正解。

 
 5について

  法5条では、費用納付命令は文書によることになっている。「口頭」
 ではない。なお、義務者が納付しない場合には、国税の滞納処分の例
 によって、強制執行がなされることも知っておくとよい。

 正しくない。

 
 平成17年度

 1について

  まず、行政代執行法の定める手続が、憲法上の要請であるかどうかと
 いうのも即答しにくい。一応、次のように考えるのが、正当であろう。
  行政行為には自力執行力があるので、法律の授権があれば(つまり
「法律による行政の原理」に従い)、行政庁は強制執行ができる。
  したがって、代執行法という法律で手続的要件が定められていれば、
 行政庁は本来有する自力執行力によって強制執行できる。このことは、
 憲法上の要請ではないということを出題者は言いたかったのだろう。
 しかし、一面において、「法律による行政の原理」は、憲法上の
 要請ともいえる。ここは、よく分からぬままで保留。
 後段の簡易代執行というのも分かりにくい。代執行法第1条は、原則
 として、執行は代執行によると定めているだけで、別に法律で簡易な
 執行方法の創設も認めていると解すると、後段は誤り。

 妥当でない。

 
 2について

  法3条1項によれば、「予め文書で戒告しなければならない」と定
 めている。

 妥当でない。

 3について

  法3条3項に規定がある。7年前の平成10年度肢2と重なることに
 注意。

 妥当である。正解。

 4について

  行政手続法2条2号、4号を適用すると、行政代執行は、行政庁の
 公権力の行使であり、不利益処分に該当するようにみえるが、2条
 4号ただし書き イによって除かれるので、不利益処分の規定は
 適用されない。

 妥当でない。

 5について

 法2条の一文に照らすと、義務の不履行を放置することが著しく
 公益に反しない場合は、執行ができないと読める。
  なお、当該規定について(前段の「他の手段によってその履行を
 確保することが困難であり」との規定を含めて、)次のような指摘
 がある(読本)。

  この規定は、代執行という強制力の行使をできるだけ制限しようと
 しようとするものであることは明らかだが、その具体的な意味は
 はっきりしない。


 妥当でない。
 

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第35回 】★      
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 2009/6/9


             
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【テーマ】行政上の強制執行およびこれに関連する事項
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題
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 1

 平成18年度過去問

 問題43

  行政上の義務の履行確保手段に関する次の文章の空欄ア〜エに当て
 はまる言葉を、枠内の選択肢(1〜20)から選びなさい。

  行政代執行法によれば、代執行が行われるのは、 ア  の場合に
 限られれるので、その他の義務の履行確保については、別に法律で
 定めることを必要とする。例えば、代執行以外の義務の履行確保手段
 の一つとして   イ  が挙げられるが、これは、義務者の身体又は
 財産に直接実力を行使して、義務の履行があった状態を実現するもの
 である。
  イ  に類似したものとして、 ウ   がある。 ウ  も、
 直接私人の身体又は財産に実力を加える作用であるが、義務の履行強制
 を目的とするものでないところにその特徴がある。  ウ  の 例と
 しては、警察官職務執行法に基づく保護や避難等の措置などが挙げられ
 る。
  さらに行政上の義務の履行確保手段には、間接的強制手段として、
 行政罰がある。その中で  エ  は、届出、通知、登記等の義務を
 け怠した場合などに科される罰である。


  1 反則金       2 課徴金
  3 直接強制      4 法定受託事務
    5 執行罰       6 自治事務
  7 秩序罰       8 即時強制
    9 金銭給付義務   10 行政刑罰
  11 機関委任事務   12 直接執行
  13 自力執行     14 非代替作為義務
 15 間接強制     16 滞納処分
  17 代替的作為義務  18 職務命令違反
  19 不作為義務    20 延滞金

 
 
 2

  平成16年度過去問

  問題10

  行政機関が行う次のような行為のうち、行政法理論上、「即時強制」
 にあたるものは、いくつあるか。

 ア 建築規制法規に違反する建築物として除去命令が出ているにも
   かかわらず 義務者が自主的に除去しないため、行政の職員が義務者
  に代わって除去する行為

 イ 営業許可に付された条件の履行を促す行政指導を無視したまま営業
  を継続 している業者を継続している業者の氏名を行政庁が公表する
  行為

 ウ 建築規制法規に違反する建築する建築物の所有者からの給水申し込
  みを市長 が拒否する行為

 エ 車両が通行する公道上に寝ころんだまま熟睡している泥酔者の安全
  を確保するため、警察官がその者を警察署に運び保護する行為

 オ 火災の発生現場において消防士が、延焼の危険のある近隣の家屋を
  破壊してそれ以上の延焼を防止する行為

 1 一つ

 2  二つ

 3  三つ

 4 四つ

 5 五つ

 
 3

 
 平成10年度過去問

 問題 36

  行政罰に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

 1 行政罰と執行罰にはいくつの相違点があるが、過去の行政上の義務
   違反に対する制裁として科される点では共通している。

 2 公務員の懲戒免職処分は、行政刑罰の一種である。

 3 行政罰は、地方公共団体の自治立法である条例により科すことはでき
   ない。

 4 行政刑罰は、違反行為者だけでなくその使用者や事業主にも科される
   ことがあり、法人も、事業主として処罰されることがある。

 5 行政上の秩序罰も、行政罰の一種であるため、刑事訴訟法に定める
   手続によって科される。


 4

  以上A・B・Cに関連する肢を過去問から選定したもの。○×で答えて
 ください。なお、各肢が過去問のいずれに該当するかの指摘は省く。

 
 ● 行政上の強制執行のうち執行罰は、行政法上の義務の履行を強制する   
   ために科する罰であるから、過去の義務違反に対する制裁としての
  行政 罰と併科することができる。ー(1)

 ● 行政の強制執行のうち直接強制は、義務の不履行を前提とせず、直接
  に人の身体又は財産に実力を加え、行政上必要な状態を実現する作用    
   である。ー(2)

 ● 代執行などの行政上の強制執行と、行政罰はその目的を異にするから
   同一の義務違反に対し、強制執行と行政罰を併用することは可能である。  
   ー(3)

 ● 即時強制は公権力の行使であるから、公定力を有し、私人は権限ある      
  機関にその取消し・差止めを求める以外の方法で、これに抵抗すること
   はできない。ー(4)

 ● 行政庁が私人に対し強制を加えるためには、事前に私人に対し作為    
   義務を課していることが必要であり、目前急迫の障害に対処するのは
  刑法上の正当業務行為である場合に限られる。ー(5)

  以下の記述は、行政処分により課された義務を履行しない者に関する記述
 である。○×で。


 ● 義務不履行者には刑事罰が科されることが原則であり、罰則の間接   
   強制により行政処分の実効性が確保される。ー(6)

 ● 義務不履行者には、執行罰としての過料が科されることとなっており、
   金銭的な負担を通じて行政処分の実効性が確保されることが原則である。 
  ー(7)

 ● 義務不履行者に対しては、行政強制、罰則の間接強制などによる実効性
   の確保が図られるが、統一的な仕組みが設けられているわけではない。  
   ー(8)

 ● 義務不履行者に対し義務履行を確保するためには、行政機関は裁判所に 
   出訴して司法的執行に委ねなければならない。ー(9)
 

 
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■ 解説
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 ▽ 参考書籍 行政法入門 藤田宙靖著 行政法読本 芝池義一著
   ともに有斐閣発行
 

 ▽ 1の平成18年度の過去問について。

 本問のポイント

 A 行政上の強制執行としては、まず、行政代執行がある。これは、
  行政代執行法に規定がある。義務者がその義務を自発的に履行
  しないならば、 行政庁が代わってその行為をやってしまって
 (または第三者にこれをやらせてしまって)その代わり、そのために
 かかった費用を、あとで義務者から取り立てようという制度である
(入門)。
 
 同法1条によれば、この方法が、行政上の強制執行の原則である。
 2条では、限定がなされていて、「他人が代わってなすことのできる行為」
(代替的作為義務)に限られる。

 B 別に法律で定めるもの(代執行法1条の原則以外)としての、行政上の
 強制 執行に該当するのが、行政上の直接強制である。
   これは、結核患者が入所を拒んだら、強制的に療養所に送りこむような
 ことである。ただし、法律にこれを許す規定がないので、以上のことは
 できないことに注意。現在の法律で直接強制が認められているのは、ごく
 わずかである。

 C 直接強制に類似したものとして、消化活動のための土地・家屋への立ち
 入り・処分、酔っ払いの保護などの即時強制がある。

 D 間接強制制度として、行政罰を課するものがある。これは、刑法上の
  刑事罰を課する「行政刑罰」と過料を課する「秩序罰」に分かれる。

 本問の検討

  ポイントA によれば、代執行が行われるのは、「代替作為義務」に
 限られる ので、アには 17 が入る。

  次に、別に法律で定める、「義務者の身体又は財産に直接実力を行使
 して、義務の履行があった状態を実現する」強制執行は、Bの「直接強制」
 であるから、イには、3 が入る。

 さらに、直接強制に類似する実力行使として、Cの「即時強制」がある。
 これは、法令や行政行為等によってひとまず私人に義務を課し、その
 自発的な履行を待つのでなく、いきなり行政主体の実力が行われる(入門)
 のを特徴とする。したがって、「義務の履行強制を目的とするものでない
 ことを特徴とする」 ウ には、8が入る。

  最後に、エ に入るものとして、Dによれば、過料を課する「秩序罰」が
 相当である。エ には 7 が入る。

 正解 アー17 イー3 ウー8 エー7
                                   

 
 ▽ 2の平成16年度過去問について。

 
 アについて

  これは、代執行である。1のポイントA参照。

 イについて

  これは、間接的強制手段としての「公表」である。法的拘束力はないが、
 現実に実効性がある手段である(入門)。

 ウについて

 これも、間接的強制手段の一つである「サ-ビスの拒否」である。

 エ オ について

 1のポイント C ないし即時強制の説明参照。エ・オとも「即時強制」
 に該当。

 正解は2 

 
 
 ▽ 3の 平成10年度過去問について。

 1について

  行政罰については、1 ポイントDで説明したとおり、行政罰は、
 間接的手段により、強制執行をしたのと同じような効果をもたらす
 ものであり、行政法によって課せられた義務に対して制裁として行われる
 処罰である。これに対し、執行罰は、行政罰が間接強制制度であるのと
 異なり 直接強制と並ぶ行政上の強制執行の一つである。
  この執行罰というのは、義務を履行しない義務者に対して心理的強制を
 加えるために、金銭的な罰を科するという方法である(戦前は、この方法
 も一般的 に認められていたが、戦後は砂防法という法律で残っているだけ
 である)。《入門》
  行政罰が過去の義務違反に対する制裁として科されるという点は正しいが、
 執行罰は、金銭的な罰を科するという方法によって、義務を履行させると
 いう 強制執行の一つであるので、その点において、行政罰と異なる。

 誤りである。

 2について

  公務員の懲戒免職処分は、行政刑罰の一種ではない。行政刑罰とは、刑法
 上の刑罰(刑法9条に規定がある)を科するのであり、典型例として、道路
 交通法による酒気帯び運転等に該当し、懲役・罰金に処せられる場合である。
 (117条の2以下)

 誤りである。


 3について

  地方公共団体は、条例で一定の範囲において、行政罰を科することができる。
 (地方自治法14条3項)。

 誤り。

 4について

  これは、行政刑罰ないし秩序罰(過料)を通じて、刑法の分野においても、
 よく出題される。違反行為者のほか、使用者・法人(罰金)にも刑罰を科
 せられるのを両罰規定という。知っておくべきである。

 正しい。


 5について

 行政刑罰を科する手続が、刑事訴訟法の定めるところであるのに対し、
 過料を科する手続が非訟事件手続法に定められている。このように
 機械的に覚えておけばよい。
  また、過料は、地方自治法により、行政行為によって一方的に科される
 こともあるということも知っておくとよい(パラパラと条文。15条2項
 ・149条3号・231条の3 3項・255条の3 など)(入門)

 したがって、本問の正解は4である。


 ▽ 4の関連問題

 
 (1)について

  それぞれは、強制執行としての執行罰と間接強制執行としての行政罰と
 いう違いがあり、併科することができる。

 ○

 (2)について

  1ポイントB・Cにより、これは、直接強制の説明ではなく、即時強制
 の説明である。

 ×

 (3)について

 (1)の趣旨からしても、併用は可能である。

 ○

 (4)について

  これは、行政行為の効力としての公定力の説明である。事実行為である
 即時行為が違法であれば、拒否すればよい。


(5)について

  即時強制の具体例として、 目前の障害を除くという緊急の必要からして、
 相手方である私人に義務を命じているひまのない場合にも、消化活動の
 ための土地の使用等が許される。したがって、事前に私人に対し作為義務
 を課していることは必要でない。刑法上の正当業務行為は、私人間の関係
 に適用されても、直ちに行政行為には適用されないので、正当業務である
 場合のみ即時強制が許されることにはならない。


 (6)について

  義務を履行しないもの者に対しては、強制執行(代執行・執行罰・
 直接強制)が原則であり、刑事罰の科される行政罰は、間接強制
 制度である。「原則」が誤っている。

 ×


 (7)について

  3の平成10年度 1について で述べたとおり、執行罰としての
 金銭的な罰を科する方法は、砂防法に規定があるだけであるから、原則
 とは言えない。

 ×


 (8)について

  行政強制(行政上の強制執行)については、行政代執行法のほか個々
 の法律によって規定されている。
  また、行政罰による間接強制も個々の法律で定められている。したがって、
 統一的な仕組みが設けられているわけではない。

 ○


 (9)について

  強制執行としては、代表例としての代執行のほか、行政庁が自力執行力
 を有する。したがって、行政機関が裁判所に出訴して、民事法上の手続
 による強制執行を利用することは、原則として許されない。

 ×


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第34回 】★      
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 2009/6/3


             
             PRODUCED by  藤本 昌一
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【テーマ】行政手続法の定める聴聞
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題・解説
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 ▽ 参考書籍は、33回に掲載した。ここでは、主に「読本」によった。

第33回はコチラ↓
http://examination-support.livedoor.biz/archives/749377.html

 
 ▽ 本講座における「行政手続法」編で遣り残した「聴聞」について、
   今回実行することにした。

 
 ▼ 本コーナでは「聴聞」に絞り、過去問の肢を参照しながら、解説
   を進める。例により、各肢が過去問のいずれに該当するかの指摘
   は省く。

 ready! 解答は○×で表示する。

 

 《問題1》
 
 ● 行政庁は、公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、
   聴聞の手続を執ることができないときは、当該不利益処分の   
   名あて人となるべき者について、弁明の機会の付与のための
   手続を執らなければならない。
 
 
 《解説》

  問題1から以下6までのテーマは、行政手続法における意見
 陳述手続である。これについては、以前の講座(第2コース
 第30回・第1コース第19号問題3)で説明したが、重要
 な概念であるので、以下の表示に従い、再説しておく。

 

 

 行手法による意見陳述手続(広義の「聴聞」)


          同法のいう「聴聞」=狭義の「聴聞」=
          かなり丁寧な手続であるので、「正式聴聞」
          と呼ぶ。
 広義の「聴聞」


          「弁明の機会の付与」=簡単に「弁明手続」

 

  行手法第3章の「不利益処分」欄でいう「聴聞」は、狭義の「聴聞」
 であり、丁寧な手続である「正式聴聞」であって、広義の「聴聞」に
 属する「弁明の機会の付与」(略して、「弁明手続」)とは区別される。
  このような、行手法全体を見渡した仕組みを確りと把握しておくこと
 は、大切である。

  次に、「正式聴聞」の対象になるのが、「特定不利益処分」と いわれ
 るもので、行手法13条1項1号に列挙されている。許認可や免許の
 撤回のほか、法人の役員の解任を命じるといった処分がある。そして、
 この特定不利益処分に該当しない不利益処分について弁明手続が行われる
 (行手法13条1項2号)。(読本)

  以下に掲げる一連の問題の対象は、「正式聴聞」であるが、これは、
 行手法の中核をなすもであるので、過去問で繰り返し出題されている。

  前置きが長くなったが、本問の検討に入る。

  前述の仕組みが頭にはいっておれば、本問の解答に達する。「聴聞」
 と「弁明の機会の付与」とはその対象となる処分が異なるから、「聴聞」
 の手続を執ることができないとき、弁明手続が執られることはない。
  13条2項1号によれば、この場合には、聴聞の手続を経ないで処分
 を行うことができる。かりにこの条文を知らなくても、解答可か。

 本問は×


 《問題2》

 ● 聴聞手続は行政庁の通知によって開始される。通知文書には、
   予定される不利益処分の内容、聴聞期日、場所等が必ず記載
   されていなければならない。ー(1)

 ● 不利益処分の名あて人となるべき者の所在が判明しない場合 
   には、行政庁は聴聞の通知や掲示を省略することができる。
   ー(2)


 《解説》

 事前通知の問題


(1)について。

  15条1項により○

 (2)について。

 15条3項後段により、掲示を要する。×

 
 《問題3》

 ● 聴聞の主宰者の決定は、不利益処分の名あて人となるべき者
  (当事者)が聴聞の通知を受けた後、当事者と行政庁との合議 
   によってなされる。ー(1)

 ● 聴聞は行政庁が指名する職員その他政令で定める者が主宰する。
   この場合に、行政庁が指名しうる職員の範囲については 特に
  明文の制限はないので、その実質的な当否はともかく、当該
  不利益処分に関与した担当者を主宰者として指名することも 
  不可能ではない。ー(2)

 ● 聴聞の期日における審理は非公開が原則である。しかし、
   行政庁が相当と認めるときは、その裁量により公開して行う 
   ことができる。ー(3)

 ● 文書閲覧請求権に基づき、当事者が行政庁に資料の閲覧を
   求めた場合であっても、正当な理由が認められる場合には、
   行政庁はその閲覧を拒むことができる。ー(4)       

 
 《解説》

 聴聞の手続に関する条文問題

 (1)について。

  19条1項により×

(2)について。

  19条1項により、○。しかし、実務上は、処分に直接関与した
 者は避けられ、総務や法務を担当する職員が選ばれているようで
 ある。

 (3)について。

 20条の条文解釈により、○

 (4)について。

 18条 とくに後段のとおり。○


 《問題4》

 
 ● 聴聞手続の主宰者は、期日ごとに聴聞の審理の経過を記載
  した聴聞調書を作成し、また聴聞終結後は報告書を作成する。
  しかし、これらの文書には当事者の主張を整理して記載する
   ことが求められているだけで、主宰者の意見を記載すること
   は許されていない。ー(1)

 ● 聴聞の主宰者は、弁明または聴聞の審理の経過を記載した 
   調書を作成し、当該調書において、不利益処分の原因となる
   事実に対する当事者および参考人の陳述の要旨を明らかに
   しなければならない。ー(2)
 
 ● 聴聞の主宰者は、聴聞の期日における審理が行われた場合  
  には各期日毎に聴聞調書を作成しなければならない。但し、
   当該審理が行われなかった場合には、聴聞の終結後速やかに
   作成しなければならないー(3)

 ● 聴聞の主宰者は、聴聞の期日毎に、前回作成した聴聞調書 
   を当事者または参考人に示し、その内容に異議がないかどう
   か確認しなければならない。当事者または参考人は、聴聞調書
   の内容に異議があるときは、直ちに行政庁に対し異議申立て
   することができる。ー(4)

 ● 聴聞の主宰者は、聴聞の終結後速やかに、不利益処分の原因   
   となる事実に対する当事者の主張に理由があるかどうかについて
   の意見を記載した聴聞裁定書を作成し、聴聞調書とともに行政庁
   に提出しなければならない。ー(5)

 ● 当事者または参考人は、行政庁の許可を得て、聴聞裁定書の 
   閲覧を請求することができる。ー(6)

 《解説》

  証書と報告書などに関する規定


(1)について。

   全体として、24条に照らせば、前段は正しいが、後段につき、
 主宰者の意見を記載した報告書の作成が許されているので(3項)
 、×。

(2)について。

  24条1項の調書作成は、聴聞のみである。弁明手続には、調書・
 報告書の制度はない。×

 (3)について。

  24条2項のとおり。○

(4)について。

  行手法には、前段の確認の定めはない。また、調書の閲覧を求める
 ことはできても(24条4項)、行政庁に対し異議申立てをすること
 はできない(主宰者の行う調書の記載が、27条1項における処分に
 該当するとすれば、本条違反になる)。後の取消訴訟において、
 調書の誤りを争うことになるのであろう。なお、「参考人」
 の規定は、 行手法上、ない。×

 (5)について。

  24条3項によれば、「報告書」の作成・提出が規定されているのみで、
「聴聞裁定書」に関する定めはない。×

 (6)について。

  24条3項によれば、「参考人」ではなくて、「参加人」が「聴聞
 裁定書」ではなく「調書」と「報告書」の閲覧を求めることができる
 ことになっている。×

 

  ≪問題5≫

 
 ● 行政庁は、聴聞の終結後に生じた事情にかんがみ必要があると
   認めるときは、聴聞を主宰する者に対し、不利益処分の原因と  
   なる事実に対する当事者等の主張に理由があるかどうかについて
   の意見を記載した報告書を返戻して聴聞の再開を命ずることが
   できる。ー(1) 

 ● 行政庁は不利益処分の決定をするときは、聴聞調書の内容等を
   十分に参酌しなければならない。これは単にそれを参考に供する
   ということだけを意味するのでなく、行政庁が聴聞調書に掲げら
   れていない事実に基づいて判断することは原則として許されない
   ことを意味する。ー(2)

 ● 聴聞の主宰者が聴聞の結果作成される報告書に当事者等の主張に
   理由があるとの意見を記載した場合には、行政庁が報告書のに反
   して不利益処分をすることは許されない。ー(3)

 
 《解説》

  26条の処分における参酌

 (1)について。
 
  25条に聴聞の再開の規定がある。
  26条によれば、行政庁は、聴聞主宰者の意見を十分に参酌
 しなければならないことになっている。聴聞終結後に生じた
 事情については、主宰者の意見が反映されていないので、聴聞
 の再開を命ずべきとしたのであろう。○

 (2)について。

  これは、26条の解釈として妥当なものとして、頭に入れて
 おく必要がある。○

 (3)について。

  26条により、「十分に参酌」しなければならないが、主宰者
 の意見に拘束されるのではなく、行政庁が常に報告書の記載に
 反して不利益処分をすることが許されない というわけではない
 ので、×。微妙な問題ではあるが、以上の趣旨からすると、(2)
 との間に矛盾はない。

 

 《問題6≫


 ● 聴聞を経て行政庁が行った不利益処分について、聴聞に参加した
   当事者は、当該処分について行政不服審査法による異議申立てを
   することができる。


 《解説》

  明らかに27条2項本文に反する。異議申立ては処分庁に対して、
 なされるから、聴聞という丁寧な手続を執った不利益処分が覆される
 ことはないことを考慮したものであろう。×


 ▼ 最後に過去問をアレンジしないで、呈示する。


  平成12年度過去問・問題14

  行政上の聴聞手続における当事者の権利として、主宰者の許可が
 なければ行使できないものは、次のうちどれか。

 1 文書等の閲覧権

 2 行政庁職員に対する質問権

 3  聴聞調書・報告書の閲覧権

 4 陳述書の提出権

 5 代理権の選任権


 《解説》

 行手法20条2項の規定に基づき、当事者は、以下の権利を有すると
 される(読本)。「意見陳述権」、「証拠提出権」「質問権」である。
  そのほかに、「文書閲覧権」(18条1項)も有するので、全部で4つ
 の権利を有する。
  
 本問に則してみていくと、1の文書閲覧権は18条1項に規定がある。
 3の聴聞調書・報告書の閲覧権は24条4項に規定があり、これも文書
 閲覧権である。条文上、主宰者の許可を要しない。
            ・・
  2の質問権は、主宰者の許可を要する(20条2項)。「この権利が認めら
 れたことによって、行政庁の職員の説明は、通り一遍のもので終わること
 はできなくなった」(読本)とされる。

  4の陳述書の提出権は、20条2項の意見陳述権に相当し、具体的には
 21条1項に規定があるが、いずれの条文も許可を要件にしていない。

  5の代理人の選任権は、16条1項にに規定があるが、これも許可が
 要件になっていない。

  以上により、正解は2である。

 

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