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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第32回 】★      
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 2009/5/26


             
             PRODUCED by  藤本 昌一
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【テーマ】行政行為の撤回と取消し
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題・解説
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 ▼ 参照書籍 行政法読本 芝池義一著 行政法入門 藤田宙靖著

 ▼ 本コーナでは、標題に掲げたテーマに絞り、過去問の肢を参照
   しながら、解説を進める。例により、各肢が過去問のいずれに
   該当するかの指摘は省く。

 ready!  解答は○×で表示する。            


 ≪問題1≫


 ● 行政行為の撤回をなし得るのは、処分庁又は裁判所である。
   ー(1)

 ● 行政行為の撤回は、処分庁が、当該行政行為が違法になされた
  ことを理由にその効力を消滅させる行為であるが、効力の消滅
  が将来に向かってなされる点で職権取消と異なる。ー(2)

 ● 行政行為の撤回とは、有効に成立した行政行為について、その
   その成立に瑕疵があることを理由として、遡及的にその効力を
   失わしめることをいう。ー(3) 

 ● 公務員の懲戒免職処分は、当該公務員の個別の行為に対して
   その責任を追及し、公務員に制裁を課すものであるから、
   任命行為の職権取消にあたる。ー(4)  64−3

 
 ≪解説≫

 1 総説

 ポイント A

 行政行為の取消しと撤回の違い

 イ  行政行為の取消しは、行政行為成立時の違法性を理由に取り消す
 ものであり、効果としては、原則として遡及効あり(行政行為の効果
 を行政行為時にさかのぼって失わせる)。

 ロ 行政行為の撤回とは、行政行為が行われた後に発生した事情
(事後的事情・後発的事情)を理由として、当該行政行為を破棄
 することを言う。効果としては、遡及効なし。

 ハ 法律の中では、撤回は「取消し」と表現されている。


 

 ● 理由    
 
 イ 成立時の違法性 
                        ロ 事後的・後発的事情
 
 行政行為(行政処分)--------------------→取消し(ハ参照)
                        ←--------------------

 ● 効果              イ  遡及効


 ポイント B

 行政行為の取消しの種別

 イ 職権取消し
 
  行政庁が行政行為の違法性を認めた場合におこなわれる。
 
  当該職権取消しをなしうるのは、行政庁(処分庁)のみである。


 ロ 争訟取消し

  行政行為には「公定力」があるから、行政行為は一応有効なものと
 して通用する。したがって、相手方や第三者がこの行政行為の存在
 を否定するためには、行政上の不服申立てをしたり、取消訴訟を提起
 して、その行政行為を散り消してもらう必要がある。
  これらが、「争訟取消し」である。

 当該「争訟取消し」をなしうるのは、訴訟については裁判所であり、
 行政不服申立てについては、行政庁である。


 2 各肢の検討

  (1)について

  行政行為の撤回とは、当該行政行為を破棄することであるから(1Aロ)、
 処分庁のみがなし得る。  

 ×
 
 なお、職権取消しは行政庁(処分庁)(1Bイ)、争訟取消しのうち、
 訴訟は裁判所、行政不服申立ては、行政庁(処分庁に限らない)である
 (1Bロ)。

  (2)について

 行政行為の撤回は、事後的事情を理由になされるものであり、効力は
 将来に向かってなされるから(1Aロ)、前段は誤りであり、後段は
 正しい。全体として、誤り。

  ×

  なお、処分庁が、違法を理由に取り消すのは、職権取消である
(1Bイ)。 

  (3)について

  これは、取消しについての説明であり、誤り。

  ×

 (4)について

  公務員の任命行為という行政行為について、その後に発生した懲戒
 事由を理由に破棄するものであるから、撤回に該当する(1Aロ)。
  誤り。

  ×

 


  ≪問題2≫

 
 ● 現行法令の規定を基にした次の記述のうち、行政法学上、行政
   行為の「取り消し」にあたるものには○、そうでないものには
  ×をせよ
 
 1 都道府県知事は、旅館業法8条に基づき、営業者に対して、旅館業 
   の営業許可を取り消すことができる。
  
 (参考)旅館業8条「都道府県知事は、営業者が、この法律若しくは
   この法律に基づく処分に違反したときは、又は第三条第二項に該当
   するに至ったときは、同条第一項の許可を取り消し、又は期間を定
   めて営業の停止を命ずることができる。(以下略)。

 2 市町村長等は、消防法上の危険物の製造所の所有者、管理者または
   占有者が、同法に基づき当該製造所について発せられた移転等の
  命令に違反したときは、当該製造所の設置許可を取り消すことが
   できる。
  
 3 国土交通大臣は、浄化槽を工場において製造しようとする者に
  対して行う認定の基準となる浄化槽の構造基準が変更され、既に
  認定を受けた浄化槽が当該変更後の浄化槽の構造基準に適合しない
  と認めるときは、当該認定を取り消さなければならない。
 
 4 一級建築士がその業務に関して不誠実な行為をしたとき、免許
   を与えた国土交通大臣は、免許を取り消すことができる。
 
 5 国土交通大臣または都道府県知事は、建設業の許可を受けてから
   一年以内に営業を開始しない場合、当該許可を取り消さなければ
   なければならない。

 6 国家公務員(職員)に対する懲戒処分について不服申立てが
   なされた場合、事案の調査の結果、その職員に処分を受ける
   べき事由のないことが判明したときは、人事院は、その処分
   を取り消さなければならない。


 ≪解説≫

  法律の中では、「取り消し」と表現されているが、 行政学上
 行政行為の撤回に該当するものがある(前記1A)。
                       ・・・・・
  行政行為の撤回は、瑕疵なく成立した行政行為を後発的事情
 を理由に破棄することであり(前記1Aロ)、本問の1から
 5はすべてこれに該当する。
   ・・・・
 1は後発的事情を理由とする営業許可の撤回。
 
 2もまた、同じく、消防法上の危険物の製造所の設置許可の撤回。

 3も、同じく、浄化槽の製造の認定の撤回。

 4も、同じく、一級建築士の免許の撤回。

 5も、同じく、建設業の許可の撤回。

 1から5までまとめて×

  これらは、長文であるが、判断基準は単純明快であるから、さっと
 みて、×を選択するのが賢明か。

 6について。

  公務員に対する懲戒処分という行政行為について、成立時に違法性
 があるため、当該行政行為(処分)を取り消すのであるから、行政学
 上の「取り消し」に該当する(前記1Aイ)。

 ○

 注
 1 当該取消しは、前記1Bのその種別に従えば、「争訟取消し」に
   該当する。
 2 取り消しには、遡及効があるため、たとえば、懲戒に基づく減給
   処分がなされていたとすれば、取り消しにより最初から懲戒がなか
   ったことになるので、減給措置は救済される。撤回だとすると、
 撤回後の将来に向かって効力を生じることになるので、減給は救済
  されない。


 ≪問題3≫
 

 ● 授益的行政行為については、これを取り消すことによって当該 
   行政行為の相手方の権利又は利益を侵害することにならない場合
   に限り、取り消すことができる。ー(1)

 ● 行政行為の職権取消は、私人が既に有している権利 や法的地位 
   を変動(消滅)させる行為であるから、当該行政行為の根拠法令
   において個別に法律上の根拠を必要とする。ー(2)

 ● 行政行為の職権取消は、行政活動の適法性ないし合目的性の回復
   を目的とするものであるが、私人の信頼保護の要請等との比較衡量
   により制限されることがある。ー(3)                             
  

  ≪解説≫

  本問(1)(2)(3)を通じて問題になるのは、前記1Bの種別に
 従えば、職権取消しである。これは、行政庁が自ら、行政行為の違法
 性を認めた場合に行われる。

 (1)について。

  授益的行政行為については、前回(20回・オリジナル問題2・肢ウ)
 において説明したが、ここで再説しておく。
 
「 侵害処分とは、その相手方の権利や利益を侵害するものであるから、
 申請によらず、職権によって行われる。これに対し、申請に基づいて
 行われる処分のほとんどは、その性質上授益処分である(読本)。
  行手法の復習になるが、前者が不利益処分であり、後者が申請に対する
 処分である。建築確認が授益処分であるのに対して、税務署の課税処分
 が侵害処分の典型である。」(前回、「授益処分」が「受益処分」と
 誤っていたので、ここで謹んで訂正をする。なるほど、行政庁が利益を
 授けるのであるから、「受」けるではなくて、「授」であるべき。この
 ような使い分けをする母国語の微妙さにしばし感心)

 注 授益的行政行為と授益処分は同義である。

  ここで、建築確認(授益的行政行為の典型)を例にとると、行政庁が
 後から当該建築確認の違法性を認めて取り消しをすれば、必ず、「当該
 行政行為の相手方の権利又は利益を侵害することになる」から、この肢
 は、事実上、授益処分についての「職権取消し否認説」に立っている
 ことになる。しかし、この説は、次のように批判される(読本)。
 「法治主義の原則から生じる違法状態の解消よりも、相手方の被る
 であろう不利益を重視するものであって・・・一面的な考え方」である。
  職権取消しを肯定する説は、次のように述べる(読本)。
  「授益処分については、行政処分の違法性がどの程度か、職権取消し
 をすれば相手方に生じる不利益はどの程度のものか、不利益を緩和する
 措置をとることができないかどうか、といったことを総合的に考慮して
 職権取消しが認められるどうか判断すべきである。」

  以上のとおり、本問は微妙な問題であるが、相手方の利益などを侵害
 すれば、取り消しができないとするのは、一面的であり、相手方の権利
 を侵害しても、総合的判断により取り消し得るというのが正しい。

 ×

 (2)について。

  私人が既に有している権利などを消滅させるという点から、ここで
 取り上げられている職権取消しも(1)同様、授益処分が対象になって
 いる。ちなみに侵害処分であると、課税処分を例にとれば、分かるように
 その取消は、相手方の利益になることであるから、行政庁が違法性を
 認めて職権取消しを行うのに一々法律の授権を要しないという回答は、
 すっと出てくる。しかし、授益処分である建築確認であっても、もと
 もと行政庁に処分権限が与えられているから、改めて法律の授権を
 要しないで、職権取り消しができる。ただし、(1)でみたように
 その職権取消に制限があることになる。

 ×

 
(3)について。

  行政行為の職権取消は、「行政庁が行政行為の違法性を認めた場合に
 おこなわれる」(前記1Bイ)のであるから、「行政行為の適法性の
 回復を目的とする」という前段は正しい。しかし、授益処分の職権取消
 については、相手方の信頼を侵害することになるから、全体的な考察
 による比較衡量が重要になる。後段も正しい。これは(1)での議論
 そのものないしはその裏返しである。

 ○

 

 ≪問題4≫

 ● 行政行為に撤回権が留保されている場合は、当該行政行為の撤回は、
   無制限に行うことができる。ー(1)                  

 ● 審査請求に対して裁決を行った行政庁は、当該裁決後に当該審査請求
   に係る行政行為に新たに違法又は不当な事由を発見しても、当該裁決
   を取り消すことができない。ー(2)                               


 
 ≪解説≫ 

 
 (1)について。

  行政行為の付款として、「公益上必要がある場合には当該行政処分を
 取り消す(撤回する)」旨が定められていることがある。これが撤回権の
 留保である(読本)。これは「例文である」という指摘や「行政裁量
 の限界を超える付款は違法である」という記述(読本)からすると、
 無制限行使を認める本肢は、明らかに誤りである。
  端的に言うと、撤回とは、一端与えた免許(自動車の運転など)を
 取り上げることであるから、常に合理的理由を要する。
  ごちゃごちゃ言ったが、これは、常識からしても、

 ×


 (2)について

 
  これについては、前回(31回第2コース)で説明した不可変更力
(確定力)について、再説しておく。

  これは、行政行為を行った行政庁がみずから、一度行った行為を取消す
 ことは(職権取消し)はできない、という効果のことである。これは、
 ほかの効力とは異なり、行政行為の中の特定の種類のものにだけこの
 効力がある。この効力は、裁判判決に一般に認められるものであって、
 裁判に対する国民の信頼確保のために、一度くだした判決をみずから
 これを取消すことを許さないとしたものである。
 これと同じように、行政行為の中でも特に異議申立てに対する決定、
 審査請求に対する裁決など、その性質の上で裁判判決に似たような
 目的を持つものには、このような効力が認められる、ということが、
 判例・学説の上で認められている(入門)。

 ○

 

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

 【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
       
 【E-mail】<fujimoto_office1977@yahoo.co.jp>
 
 ▽本文に記載されている内容は無断での転載は禁じます。
 
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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第31回 】★      
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 2009/5/19


             
             PRODUCED by  藤本 昌一
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【テーマ】行政行為の効力
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題
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 A

 平成11年度過去問 

 問題34

 行政行為の効力に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
 

 1 行政行為は公定力は有するから、その成立に重大かつ明白な
   瑕疵があるばあいでも正当な権限を有する行政庁又は裁判所
   により取り消されるまでは一応有効であり、何人もその効力
   を否定することはできない。

 2 行政行為で命じた義務が履行されない場合は、行政行為の有
   する執行力の効果として、行政庁は、法律上の根拠なくして
   当然に当該義務の履行を強制することができる。

 3 行政行為は不可争力を有するから、行政行為に取り消しうべき
   瑕疵がある場合でも、行政事件訴訟法に定める出訴期間の経過後
   は、行政庁は、当該行政行為を取り消すことはできない。

 4 行政行為の不可変更力は、行政行為の効力として当然に認めら
   れるものではなく、不服申立てに対する裁決又は決定など一定の
   行政行為について例外的に認められるものである。

 5 違法な行政行為により損害を受けた者は、当該行政行為の取消し
   又は無効確認の判決を得なければ、当該行政行為の違法性を理由に
  国家賠償を請求することはできない。


 B
 

 平成16年度過去問

 問題9

 行政行為の効力に関する次の文章の(ア)〜(エ)を埋める語の組合わ
 せとして、最も適切なものはどれか。


  行政行為の効力の一つである(ア)は、行政行為の効力を訴訟で争う
 のは取消訴訟のみとする取消訴訟の(イ)を根拠とするというのが今日
 の通説である。この効力が認められるのは、行政行為が取消しうべき
 (ウ)を有している場合に限られ、無効である場合には、いかなる訴訟
 でもその無効を前提として、自己の権利を主張できるほか、行政事件
 訴訟法も(エ)を用意して、それを前提とした規定を置いている。


   (ア)  (イ)   (ウ)  (エ)

 1 公定力  拘束力   違法性  無名抗告訴訟

 2 不可争力 排他的管轄 瑕疵      無名抗告訴訟

 3 不可争力 先占    違法性  客観訴訟

 4 公定力  排他的管轄 瑕疵   争点訴訟

 5 不可争力 拘束力   瑕疵   争点訴訟   

  
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■ 解説
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 ▲ 参照した書籍 行政法読本 芝池 義一著・行政法入門 藤田 宙靖
   発行・ともに有斐閣 

 
 A 平成11年度過去問

  以下、行政行為の諸効力を説明するが、その都度、各肢に関連する部分
 に触れるとき、正誤の回答を示すことにする。

  行政行為には、私人の法律行為とは違った、行政行為の公権力性を特徴
 づける特別の効力がある。順次、列挙する。

 (1)(自力)執行力

  民事法においては、「自力救済の禁止」の原則があるので、訴えを起
 こして裁判所の助力を得てはじめて、強制執行ができる。しかし、
 行政庁は、裁判所に訴えを起こさずに、直接自分の力で強制執行できる
 のである。これが、執行力である。

  しかし、「法律による行政の原理」によれば、行政は法律の根拠が
 なければ、このような公権力を行使することはできない。したがって、
 法律がとくに明文で行政庁に強制執行を許している場合でないと、
 このような行為ができないことになる。
  以上の点から、「行政庁は、法律上の根拠なくして当然に当該義務
 の履行を強制することができる」とする 2 は誤りである。

 2は正しくない。

  それでは、次の記述は正しいか。

  相手方である私人が、その行政行為に対して不服申立てや抗告訴訟
  を起こして争っているばあいでも、なお原則として自力執行する
  ことは妨げられない。

  答えは、正。自力執行の効力による。行政不服審査法34条1項・
  行政事件訴訟法25条1項に規定あり(入門)

 (2)不可争力(形式的確定力)

  これは、法律上定められた不服申立期間・出訴期間が過ぎてしまう
 ことによって、もはや行政行為の効果を私人が争うことができない
 という原則である。したがって、「違法」または「不当」な行政行為
 (これを「瑕疵ある行政行為」という)であっても、この「不可争力」
 により、前記期間を過ぎると、私人は、その効力を争うことができなく
 なるのである。
 
 3 における、「不可争力」の説明自体は正しい。しかし、これは、
 私人が効力を争うことできないことを意味するので、行政庁が行政行為
 の瑕疵を認めて、「職権取消し」を行うことはできる。その行政庁の
 行為が「不可争力」に反するするものではない。

 3は正しくない。


 (3)公定力

  特定の機関が特定の手続によって取消す場合を除き、いっさいの者は、
 一度なされた行政行為に拘束されるという効力をいう。
                        ・・
 したがって、「違法な行政行為も取消されるまでは原則として有効で
          ・・
 ある」ことになる。原則論からいえば、 1 の「行政行為は公定力
 を有するから、正当な権限を有する行政庁又は裁判所により取り消さ
 れるまでは一応有効であり、何人もその効力を否定することはできない」
 という例外部分を除いた記述は正しい。
 しかし、違法な行政行為も有効であるというのは、「法律による行政の
 原理」からすれば例外になるので、「公定力」の働く範囲を必要以上に
 拡大させない必要がある。そこから、違法ないしは不当な行政行為である
 瑕疵ある行政行為に関して、取り消しうべき行政行為(原則論に従うもの)
 と瑕疵が重大明白である場合に分類する考え方が台頭してくる。
  判例・有力な学説は、「『瑕疵ある行政行為は、原則として取り消しう
 べき行政行為にとどまるが、その瑕疵が重大明白であるばあいには、
 行政行為 は無効になる』という公式を立ててきました」(入門)。
 無効であるという ことになれば、「取り消されるまでは一応有効であ」
 るという原則論は通用しなくなるため、いつでも誰でもその効果を否定
 できる。したがって、1 においては、「その成立に重大かつ明白な
 瑕疵がある場合でも」というところが誤っている。

  1は正しくない。


 5 もまた、「公定力」を拡大させないという考え方に立った場合、
   その肢は正しいのかどうかが問われている。「公定力」という観点
   からすると、違法な行政行為も一応有効であることになる。そうすると、
   当該行政行為の違法性を理由に国家賠償を行う場合にも、あらかじめ
   当該行政行為の取消し等の判決を得て違法であることが確定していな
  ければならないことになる。しかし、そこまで、「公定力」を拡大
   すべきではない。当該国家賠償請求訴訟において、違法性を判断して
   もらえばよいといことになる(同旨の判決もあるようである。最判
   S36・4・21・・)。この見解に反する 5 は誤りである。
  
   5は正しくない。

 
 (4)不可変更力(確定力)

  これは、行政行為を行った行政庁がみずから、一度行った行為を取消す
 ことは(職権取消し)はできない、という効果のことである。これは、
 ほかの効力とは異なり、行政行為の中の特定の種類のものにだけこの
 効力がある。この効力は、裁判判決に一般に認められるものであって、
 裁判に対する国民の信頼確保のために、一度くだした判決をみずから
 これを取消すことを許さないとしたものである。
 これと同じように、行政行為の中でも特に異議申立てに対する決定、
 審査請求に対する」裁決など、その性質の上で裁判判決に似たような
 目的を持つものには、このような効力が認められる、ということが、
 判例・学説の上でみとめられている(入門)。

 4は以上の趣旨に沿うものであり、正しい。


 正解は、4である。


 B 平成16年度過去問

 
 (1) 導入部分


「入門」と「読本」を参照しながら、具体例をあげて説明する。

  収用委員会の収用裁決によって、先祖代々の土地が国際空港建設
 のため起業者(成田国際空港株式会社)にとられて しまったという
 例を考える。

  この場合、もとの土地の所有者がこの収用裁決という行政行為が
 違法であるので、この土地を取り返したいと考えた場合、どうすれば
 よいのかというのがここでテーマとなる。
 
 土地の旧所有者を甲・現所有者である起業者を乙とする。
 
 
 一つの方法《民事法(民法や民事訴訟法)の適用を原則とする》

  甲は乙を被告として、裁判所に土地の返還を求める訴え(民事訴訟)
 を提起する。そしてその際、甲から乙への権利変動は無効であると
 いうことを主張し、その理由づけとして、収用裁決は違法である、
 ということを主張すればよい。

 二つ目の方法≪「違法な行為も取り消されるまでは原則として有効
 である」という「公定力」を基本とする》

  甲は、まず行政庁(収用委員会)が所属する都道府県を被告として、
 収用裁決の取消訴訟をX裁判所に提起し、そこで収用裁決を取り消して
 もらい、そのうえではじめて、べつに、乙(起業者)を被告とした
 民事訴訟をY裁判所に対して提起する。

 注 正確に言うと、取消訴訟の前に、行政上の不服申立ての手続が
   あるが、その点は省略した。

  学説・判例は、一致して、二つ目の方法を採用する。なぜかというと、
 行政行為は民法上の法律行為とは違って、それ自体が取消訴訟(不服
 申立て省略)によって取り消されていないかぎり、原則としてほかの
 訴訟(民事訴訟)ではその訴訟の裁判所(Y)を拘束するのであって、
 当該のY裁判所は、かりに審理の中でこの行政行為が違法であるという
 判断に達したとしても、これを有効なものとして扱わなければなければ
 ならない、とされてきたからである≪最判S30・12・26≫(入門)。

  ここで、Aの平成11年度の(3)で定義した公定力を参照して
 ほしい。
 「特定の機関が特定の手続によって取り消すばあいを除き、いっさいの
 者は、一度なされた行政行為に拘束されるという効力」

  つまり、さきの例でいえば、X裁判所(特定の機関)が行政行為の
 取消訴訟(抗告訴訟)という(特定の手続)によって取り消すばあいを
 除き、民事訴訟を遂行するY裁判所においても、一度なされた行政行為
 を有効なものとして扱わなければならない。

 注 抗告訴訟とは、「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」
   (行訴法3条1項)である。


(2) 本問の具体的検討

  まず、「行政行為の効力を訴訟で争うのは取消訴訟のみとする」という
 部分に注目したい。さきの導入部分において、土地の返還を求める
 Y裁判所 における民事訴訟では、収用裁決という「行政行為の効力」
 を争うことはできない、それは、別の手続である「取消訴訟」(X裁判所)
 でしか争うこと はできない、と説明した。これは、この部分を言い換えた
 だけであるから、ここでは、行政行為の効力の一つである「公定力」が
 テーマになっていることが分かる。
 
 (ア)に該当するのは、公定力である。

 その根拠である(イ)については、他の民事訴訟での審理を許されず、
 取消訴訟 のみで行政行為の効力を争うことができるというのであるから、
(イ)群の文言 のなかでは、断然、排他的管轄が該当する。

 (イ)は、排他的管轄である。


 (ウ)については、Aの(3)で説明した「公定力を拡大させない」ための
 無効の行為を参照すれば、瑕疵が入る。

 (ウ)に該当するのは、瑕疵である。


 (エ)で問題になるのは、瑕疵が重大明白である場合、訴訟における、無効
 の主張方法ということである。
  一つには「行政処分によって土地所有権を奪われたという事件では、
 民事訴訟で 土地所有権の返還を請求し、その先決問題として行政処分の
 当然無効の認定を求めることもできる。」(読本)そのほかにも、行政事件
 訴訟法は「無効等 確認の訴え」を法定し(3条4項)そして(エ)に該当する
 行政処分の効力を争点と民事訴訟を用意している。これが、争点訴訟と呼ば
 れるのである。45条に特則が設けられている。

 (エ)は、争点訴訟である。


 したがって、本問の正解は、4である。


(3)波及的問題。

  まだあるのかい!!という声が聞こえてきそうであるが、行政法の勉強は
 我慢比べという面もあるので、辛抱してほしい。また、本試験出題見込み
 あり。
                      ・・・・・
 「公定力」が働く範囲を拡大させないためには、刑事訴訟の先決問題
 として行政行為の適法性・違法性が問題になる場合には、当該刑事
 訴訟において、その審理を行うべきである(入門参照)。

 ○か×か。○である。
             ・・・・
  (1)(2)で述べたのは、民事訴訟の先決問題として行政行為の適法性
 が問題になるケースであった。これに対し、刑事訴訟の場合というのは、
 即座に想定し兼ねるから、これは少し高度な問題といえるかもしれない。
  たとえば、刑法95条の公務執行妨害罪においては、違法な公務執行
 (行政行為)に対する妨害行為は、公務執行妨害罪にならないのでは
 ないかということが議論されている。ここまで言えば、皆さんは、
 お分かりになるでしょう。そうです。この場合にも、行政行為の効力
 を訴訟で争うのは取消訴訟のみとする公定力が働くのかどうかという
 問題である。公定力が働かなければ、当該刑事裁判において、先決
 問題として、公務(行政行為)の適法性・違法性を審理することが
 できることになる。本当は、「・・審理できる」という問題にした
 かったが、実務・学説の大勢がどうなっているのか調べる余裕が
 ないので、前述のような問題になったしだいである。

 

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 30回 】★      
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 2009/5/12
             
             PRODUCED by  藤本 昌一

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【テーマ】聴聞と弁明の機会の付与
 

【目 次】問題・解説 
           
      
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■ 問題
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 ▲ 平成14年度過去問・問題14

 
 次のうち、行政手続法上、聴聞を経る処分の手続には認めらても、
 弁明の機会の付与を経る処分の手続には認められていない手続的
 保障は、いくつあるか。

 ア 予定される不利益処分の内容等の通知

 イ 処分基準の設置

 ウ 不利益処分の理由の提示

 エ 参加人の関与

 オ  文書閲覧権

 
 1 一つ

 2 二つ

 3 三つ

 4 四つ

 5 五つ


▲ 平成18年度過去問・問題11

 
 行政手続法における聴聞と弁明に関する次の記述のうち、妥当な
 ものはどれか。

 1 弁明は、行政庁が口頭ですることを認めたときを除き、書面の
  提出によってするのが原則であるが、聴聞は、口頭かつ公開の
   審理によるのが原則である。

 2 聴聞においては、処分の相手方以外の利害関係人にも意見を
   述べることが認められることがあるが、弁明の機会は、処分
  の相手方のみに与えられる。

 3 聴聞は、不利益処分をなす場合にのみ実施されるが、弁明の
   機会は、申請者の重大な利益に関わる許認可等を拒否する処分
   をなす場合にも与えられる。

 4 聴聞を経てなされた不利益処分についいては、行政不服審査法
   による異議申立てや審査請求をすることはできないが、弁明の
   機会を賦与したに過ぎない不利益処分については、こうした制限
   はない。

 5 聴聞の相手方については、聴聞の通知があったときから処分が
   なされるまでの間、関係書類の閲覧を求める権利が認められるが、
   弁明の機会を賦与される者には、こうした権利は認められない。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 解説
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 ▲ 参照書籍は、第2コース第2回に掲げた。

 
 ▲ 平14年度過去問

 A ポイント
                               

 不利益処分             1   2    3  4   5   

 (1)「特定不利益処分」 聴聞・処分基準・理由・参加人・文書
         
   
                     
 
 (2)「その他の不利益   弁明 ・処分基準・理由・ なし ・なし 
     処分」


 a 行政処分は、「申請に対する処分」(第2章・2条2号、3号)と
 「不利益処分」(第3章・2条4号)に分かれる。

 b 意見陳述手続については、「申請に対する処分」につき、10条
   の公聴会の規定があるだけで、申請者の意見陳述手続はない。

 c 「不利益処分」における意見陳述手続については、(1)1の聴聞
  を経る場合と(2)1の弁明の機会の付与を経る場合に分かれる。
   このうち、丁寧な手続である聴聞は、許認可を撤回したり 資格
   または地位を剥奪するといった相手方に重大な不利益を与える
   不利益処分について行われる。これが(1)の「特定不利益処分」
   であり、13条1項1号に列挙されている。
     これに該当しない(2)の「その他の不利益処分」においては、
   略式手続である弁明の機会の付与の手続が採用される。
  (13条1項2号・29条以下)

 B 以上の点を前提とし、なお引き続き、Aのポイントを参考にして、
   本問の解説を行う。

  本問にいう「行政手続法上、聴聞を経る処分」が、A図の(1)
  の「特定不利益処分」に該当し、「弁明の機会の付与を経る処分」が
(2)の「その他の不利益処分」に該当することになる。したがって、
 ここでは、(1)の「特定不利益処分」には認められても、(2)の
「その他の不利益 処分」には認められていない手続的保障についての
 質問であることが 分かる。以下、順次検討する。

 アについて。

 (1)(2)1について。

 予定される不利益処分の内容等の通知については、聴聞(15条1項
 1号) にも弁明(30条1号)にも認められている。

 イについて。

 (1)(2)2について。

 処分基準の設定は、通則として12条に規定があり、不利益処分
 全体に認められているから、(1)の「特定不利益処分」にも
(2)の「その他の不利益処分」にも認められている。

 ウについて。

 (1)(2)3について。

 不利益処分の理由の提示は、通則として、14条に規定があり、イと
 同様に(1)にも(2)にも認められている。

 エについて。

(1)(2)4について。

 参加人の関与は、聴聞に規定があり(17条)、弁明には規定がなく、
 聴聞の準用もない(31条)ので、(1)には認められ、(2)には
 認められない。設問に該当する。

 オについて。

 (1)(2)5について。

 文書閲覧権は、聴聞に規定があり(18条)、弁明には規定なく、準用
 がないので、エと同様、設問に該当する。

 したがって、設問に該当するのは、エトオの二つであり、2が正解。

 
 総括

  法律は、無味乾燥な条文の羅列ではない。法律は、条文を通じて、
 思想を語り、根拠を語り、政策を表明し、合理性を追求するものである。
 条文操作 を通じて、これらの真理ないし心髄の一端に触れることを喜び
 としなければならない。受験を通じてでも、このような体験は可能である。
  なお、ここで示したAのポイント図は、一例に過ぎない。みなさんも、
 それぞれ、工夫をして、自分なりの条文理解に役立つ整理法を考えて
 みるのも一考だ。

 

 ▲ 平成18年度過去問

 1について。

 29条1項により、弁明については、正しい。聴聞については、原則として、
 非公開であり(20条6項)、妥当でない。原則非公開については、学者
 から批判のあることが、頭の隅にあれば、正解に達しやすい。

 2について。

 17条の規定する参加人関与は、聴聞にしか認められない。したがって、
  29条の弁明は、処分の相手方にしか認められない。妥当である。
  聴聞=参加人と覚えておけば、この問題を解けるし、平成14年度を正解
  に導くのに役立つ。その根拠についても、みなさんなりに考えておけば、
  当該知識は、より強固になる。

 3について。

 これについては、さきの平成14年度の復習に尽きる。
 
 10条・「申請に対する処分」につき、申請者に意見陳述手続はない。
 したがって、許認可等を拒否する処分=「申請に対する処分」につき
 弁明の機会が与えられることはない。

 弁明の機会=不利益処分のうち「特定不利益処分」を除いた他の処分
 (29条以下) である。

 妥当でない。

 なお、「聴聞は、不利益処分をなす場合にのみ実施される」というのは、
 限定つきであるが、妥当げある。すなわち、聴聞=不利益処分のうち、
 「特定不利益処分」である。

 4について。

 聴聞を経てなされた不利益処分については、行政不服審査法に基づく
 不服申立てはできないが、弁明の機会付与の不利益処分にはこうした
 制限がないという大枠の文言は正しい(27条2項・29条以下にはこう
 した規定もなく、準用もされていない)。しかし、27条2項をよく
 見ると、「異議申立て」ができないだけだから、「審査請求」はできる
 ことになり、結局妥当でないことになる。「異議申立て」は処分庁に
 対する不服申立てであるから(不服審査法3条2項)、聴聞という丁寧
 な手続を経た処分が覆る可能性がほとんどないことが立法趣旨であろう。
 しかし、大枠は正で、細かくみると誤というのはドウカナというのが
 率直な感想!!

 5について。

 これについても、大枠は正しい。文書閲覧権が聴聞の相手方に認めら
 られて、弁明の相手方に認められないのは、再説するまでもなく、正
 しい。しかし、細かく条文を見ると、18条では、「処分がなされる
 までの間」ではなく、「聴聞が終結する時までの間」となっていて、
 誤りである。これも、問題としては、ドウカナの類。


 2が妥当で正解。


 総括

 4・5が紛らわしく、2に確信が持てるかどうかが勝負!!

 

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 20回 】★      
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 2009/4/6


             
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【テーマ】行政法・行政行為の分類 

【目 次】問題・解説 
           
      

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■ 問題
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 (平成19年度過去問)

 問題 8

 次のア〜オに挙げる行政行為のうち、私人の法律行為の法的効果を
 完成させる効果を有するもので、行政行為の分類上、「認可」とさ
 れるものはいくつあるか。

 ア 電気事業法に基づいて経済産業大臣が行う電気事業の「認可」

 イ ガス事業法に基づいて経済産業大臣が一般ガス事業者に対して
   行う供給約款の「認可」

 ウ 銀行法に基づいて内閣総理大臣が行う銀行どうしの合併の「認可」

 エ 建築基準法に基づいて建築主事が行う建築「確認」

 オ 農地法に基づいて農地委員会が行う農地の所有権移転の「許可」
 

 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 解説
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▲ 行政行為の分類は、結構複雑ですから、基本的事項をきっちりと
 把握しておく必要があります。

 本問では、許可・特許・認可の違いをはっきりさせる必要があります。

 1 まず、法律で「許可」という文言が使用されていても、性質上
 というか理論上「認可」に該当する場合があり、また「許可」という
  言葉が、法律上使用されていても、理論上は「特許」に該当する場合
 もあります。ここでは、理論上「認可」に該当するのは、どれかという
  ことですから、法律で使われている文言にかかわらず、理論上,「認可」
 に相当するものを確定しなくてはならないことになります。

 2 ここで、「許可」と「認可」の違いをはっきりさせましょう。
「許可」と「認可」の違いを把握するために、表を作ります。


      
       (1)命令的行為――――――(3)「許可」

 行政行為

      (2)形成的行為――――――(4)「認可」

 
 A (3)の「許可」は、(1)の命令的行為のなかに入りますが、
  まず、(1)の命令的行為とは何かが問題です。
 B (1)の命令的行為とは、「私人が事実としてある行動をすること
 (しないこと)」自体を規制の対象にする行政行為ということになり
 ます。

 C (3)の営業「許可」を例にとって、説明してみましょう。飲食業
 にせよ、薬屋にせよ、こういった商売は、かってにやってはいけない
  ことになっています。これは、事実上一定の行為してはならないと
  いう「禁止」です。この禁止というのも、行政主体による命令ですから、
(1)の命令的行為 に該当し、イでいう(しないこと)に該当します。

 D (3)の営業「許可」というのは、ウのの禁止を解除する
 (つまり、営業をしてもよいという許可を与える)ということです。
  これは、私人が営業することを許可することに該当するわけですから、
 許可というのは、イでいう、「私人が事実としてある行動をすること」
  自体を規制の対象にする行政行為ということになります。

 E 以上みたように、許可と禁止は、許可が禁止の解除というように、
  全く正反対の概念ですから、前記の表につき、以下のように付加します。

  行政行為――――(1) 命令的行―――――(3)「許可」×禁止
 
 ×は正反対を表す。

 F 次の(4)の認可」は(2)の形成的行為に入りますが、これは、
(1)の命令的行為が私人の事実としての行動を規制するのと異なって、
 私人が行う行動の法的効果をコントロ−ルの対象とする行政行為です。

 G この形成的行為の中に入るのが、ここで焦点になる「認可」です。
  認可というのは、問題8の本文にかかげてあるとおり、「私人の
  法律行為の法的効果を完成させる効果を有するもの」です。
       
 その典型例は、オに該当する農地法に基づいて農業委員会が行う農地の
 所有権移転の「許可」です。

 ここでも、農地法上では、「許可」となっていますが、理論上では、
「認可」に該当することに注意しなくてはなりません。

 さて、本文を本件に適用しますと、行政主体である農業委員会が、私人
 の法律行為の法的効果を完成させるということが認可に該当します。

 次の図をみてください。

              農業委員会の許可
               ↓
                    農地の売買(所有権移転)
          A――――――――――――B
 
 
 法律行為というのは、売買契約などの契約を意味しますから、AとBの農地
 の売買 の法的効果である所有権移転を完成させることが、「私人の
 法律行為 の法的効果」を完成させることになります。農地法3条1項では、
 AとBとが農地の売買を行うには、農業委員会の許可を受けなくてはならない
 ことになっていますし、同条の4項では、この許可をうけないでした行為は
 効力を生じないことになっています。
 つまり、農業委員会の許可は、「私人の法律行為の法的効果を完成させる
 効果を有するもので、行政行為の分類上、『認可』とされるもの」の一つ
 に該当することになります。

 
 あと、認可に該当する肢はどれかを選定する必要があるのですが、要するに、
 その基準は、私人の法律行為(契約)の法的効果を完成させる効果を有する
 もの であることになります。
 そうすると、まずイの一般ガス事業者がガス利用者との 間で行う供給約款が
 問題になります。

 次の図をみてください。

            経済産業大臣の認可 
              ↓ 
             ガス供給約款
 一般ガス事業者―――――――――一 一般利用者
            

 ここでいう約款というのも、契約の一種であって、その内容が、
 企業側によって、一方的、定型的に定められるもので、ガス利用者は、
 従属的立場でこれに従わざる得なくなるものです。ここでは、経済
 産業大臣が、消費者保護の立場に立って、約款の効力を判断すると
 いうのですから、この「認可」は文字どおり、理論的にも「認可」
 ということになります。したがって、この供給約款の認可もまた、
「認可」の一つということになります。

 次に問題になるのは、ウの銀行どうしの合併の「認可」です。

 次の図をみてください。

 


         内閣総理大臣の認可
               ↓
             合併
       銀行―――――――――銀行
 
 合併も合併契約という一つの契約であり、認可がなければ、認可の効力は
 生じないのですから、ここでいう「認可」も文字通り、理論上、行政行為
 の分類からは、「認可」に相当します。

 以上の思考ないし論理過程をとりますと、イとウとオが「認可」に該当し、
「認可」に該当するものは、三つで、3が正解になります。

 それでは、あと残りのアとエをみてみましょう。

 説明の便宜上、エの建築「確認」からみてみましょう。
 いままで述べてきたのは、法律行為的行政行為であるが、「確認」は
 準法律行為的行政行為であるという議論がありますが、ここでは、これ
 には立ち入りません。
 私は、この建築「確認」というのは、準法律行為的行政行為ではなく、
 法律行為的行政行為のなかの、上で述べた(1)命令的行為に相当する
(3)の「許可」に該当すると思います。私人が建築物を建築する場合
 において、建築確認申請をして「確認」を得れば、事実上、建物を建築
 できる のは、営業許可申請をして、事実上、一定の営業ができるのと
 同じことだからです。以前から、「認可」は、私人の行う行為の法的効果
 をコトロ−ルをすると言いましたが、これが、「許可」との違いです。
 かりに「許可」を受けないで、営業した(薬を売ったり、飲食させた)
 としても、これらの個々の行為が法的効力を失うということはありません。
「許可」を受けないで営業すれば、罰則の適用による処罰を受けるだけです。
 建築確認を受けないで、建築した場合にも、罰則の適用があるにしても、
 建築業者との間での建築請負契約が無効になるということはないのだろう
 と思います。

 最後に残ったのが、アの経済産業大臣が行う電気事業の「許可」です。
 これは、文言の上では、「許可」となっていますが、理論上は「特許」に
 該当します。「特許」というのは、「私人に直接、特定のの排他的・独占的
 な権利を与えたり、または、私人と行政主体との間に包括的な権利関係を
 設定する行政行為」と定義されていますが、要するに、本来国民が有して
 いない権利や地位を特別に許可して与えることです。鉱業許可が代表的な
「特許」の例ですが、これは、行政主体が、もともと国が持っている
 地下埋蔵物を採掘する権利(いわゆる「鉱業権」)を私人に与えるという
 ことです(これは、鉱業法という法律によって、定められています)。
   
 アの電気事業の「許可」も、経済産業大臣の許可があってはじめて公的事業
 を営む法的地位ないし権利が与えられることになりますので、鉱業許可と
 同様に「特許」に該当します。

 最後に一つだけ、付言しておきます。
 特許というのは、私人に権利ないしは法的地位をあたえることになります
 から、形成的行為になりますので、2に掲げた分類からゆきますと、
 以下の図のようになります。ここでは、許可の反対の禁止も入れておきます。


      命令的行為―――――許可×禁止

 行政行為            
                       ― 特許
      形成的行為―――――|
                      ― 認可


 以上は、藤田宙靖「行政法入門」を参照した。
 

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 【発行者】 司法書士 藤本 昌一

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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第9回 】★      
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 2009/2/2

             
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【テーマ】 民法・物権変動と登記

 

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■ 過去問を中心とした「物権変動と登記」 問題と解説(その1)
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 ◆ 今回は、過去に何度も出題されている「物権変動と登記」を
 テーマにして、過去10年間の過去問を題材に、問題と解説を行い
 ます。
 なお、ここでは、引用する肢が、何年度の過去問のどの肢に該当
 するかを一々明らかにする手間を省きます。

 なお、このテーマは、とても一回に収まりきれないし、また、
 じっくりと取り組むべきであると思われますので、連載とします。


  以下、○か×か、が問題になります。
 
 
〔問題1〕

 A所有の甲地がBに譲渡され、さらにAB間の譲渡の事実
 を知っているCに譲渡されてCに所有権移転登記がされた場合、
 Bは登記なくしてCに対抗することができる。

 
 [解説]


  
 
 甲地
          (1)     ( )内の数字は順序を
  A─ ─ ─ B       示す。
   \     
     \    (2)        悪意は譲渡の事実を
      \   C    (3)   知っていることを示す。
          悪意   登記                
 
 これは、民法177条が適用される典型的な例です。

 この条文解釈における要点を示します(一粒社・民法 1
 参照)。

 
 ● 本問の甲土地の所有権移転が「不動産の物権の得喪」に
 該当することには問題がないと思います。

 
 ● 次に、条文における「第三者」には、ア 登記なしでは
 対抗できない「第三者」と、イ 登記なしでも対抗できる
「第三者」があるということです。
 
 これは、大審院判決(大連判明治41・12・15・・)によって
 認められた理論であり、今日では通説になっています。

 その区別する基準として、さきの大審院判決は、「登記の欠缺
 ヲ主張スル正当ナ利益ヲ有スル」第三者という理論構成をしました。
 
 本問の「Bは登記なくしてCに対抗することができる」かどうか
 という設問に則してみてゆきますと、Cにおいて、Bが登記を欠く
 ことを主張し得る正当な利益を有する第三者に該当するかどうか
 ということです。これに該当するときは、アの場合に当たり、
 Bは登記なくしてCに対抗できません。
 逆に、Cがこれに該当しないときは、イの場合にあたり、Bは登記
 なくしてCに対抗することができます。

 この両者の関係について、[一言でいえば、同一不動産について、
 結局において互いに相容れない権利を有する者である」(前掲書)。

 本問では、A・B間とA・C間とどちらも有効な売買契約であり
 (どちらも債権であり、先に成立したものに優先的効力なし)、
 BとCは、同一不動産に相容れない権利を有するものであって、
 B は登記なくしてCに対抗できないことになります。

 ● 最後に、Cが悪意である点が問題になる。つまり、悪意の
 第三者であるC対しては、Bは登記なくして、対抗できるの
 ではないかということです。この点については、悪意の第三者
 に対しても、登記なくしては、対抗できないというのが通説です。
 その論拠としては、次のように、言われています。
  「・・登記がない限り、その不動産に関してに関して取引関係に
 たった第三者に対しては、原則としてその善意悪意を問題とせず
 に対抗できないとすることが、不動産取引の整一簡明を期する
 ゆえんである。」(前掲書)要するに、行為者の内心を問題にせず、
 登記の有無によって決着しようというのが、通説の立場だという
 ことになります。

 以上述べたところにより、Bは登記なくしてCに対抗する
 ことはできなくなり、結局、さきに登記をしたCが、B
 に優先することになりますので、1の肢は×になります。


 
〔問題2〕

 Aの所有する甲土地につき、AからBに対して売却された後、
 Aから、重ねて背信的悪意者Cに売却されてCに所有権移転
 登記がされた場合、、第一買主Bは、背信的悪意者Cに
 対して、登記をしていなくても所有権の取得を対抗できる。
(過去問の肢を修正しています)


 [解説]

 
  甲土地

  A ─ ─  B
   \
     \
       \
         C 登記

          背信的悪意者


 ▲ 本問は、前の問題と比べると、Cが悪意者だったのが、
 背信的悪意者になったのみで、移転の順序にも変わりは
 ありません。そのことを前提にします。

 ▲ 前の問題では、悪意の第三者に対しては登記なくして
 対抗できなかったが、背信的悪意者には、登記なくして対抗
 できるできるというのが、ポイントになります。
 ということは、さきの大審院判決の基準に照らしますと、
 背信的悪意者とは「登記ノ欠缺ヲ主張スル正当ノ利益ヲ有スル」
 第三者ではないということになります。平たく言えば、単に
 「知っている」という度合を超えて、より背信の要素が強いため、
 この者に対しては、登記なくしても対抗できるということに
 なります。
 
 ▲ この「背信的悪意者」という概念は、大審院の基準に当てはめ
 をした最高裁判所によって確立されたものです。判旨は、以下の
 とおりです。

 実体上物権変動があった事実を知る者において右物権変動について
 登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が
 ある場合には、このような背信的悪意者は、登記の欠缺を主張する
 について正当な利益を有しない(最判昭和31・4・24・・・)

 要するに、繰り返しになりますが、単なる悪意を超え、背信の度合
 が, 強度のものです。
 具体例としては、「ABの不動産の売買に立ち会ったCがBの未登記
 に乗じてAよりこの不動産を買い受け移転登記を得たような場合」
 が相当します(前掲書)。

  以上述べたところにより、Bは登記なくしてCに所有権の取得
  を対抗できることになりますので、2の肢は、○です。

 

 〔問題3〕


 Aの所有する甲土地につきAがBに売却した後、Aが重ねて甲土地
 を背信的悪意者Cに売却し、さらにCが甲土地を悪意者Dに売却
 した場合に、第一買主Bは、背信的悪意者Cからの転得者であるD
 に対して登記をしていなくても所有権の取得を対抗できる。


  [解説]

 
 ▼ この肢は、過去問の完全な復元です。問題2が当該問題の修正
 だったのです。この問題は、問題2に悪意者の転得者が付加された
 だけですね。

 ▼ 図示してみます。

   甲土地

   A ─ ─ ─ B
    \
      \
       \  C ─ ─ ─ ─ ─ D
         (背信的悪意者)  (悪意者)
                    登記の有無は不明


 ▼ まず、問題2の回答からして、Bは登記なくして、背信的悪意者C
 に対し、所有権の取得を対抗できることまではいいですね。ここで、
 その理屈を考えてみますと、(1)もともと、AB間の売買契約も、
 AC間の売買契約も有効なんです。(2)ただ、C個人が背信的
 悪意者であるために、Bは登記なくしてCに対抗できるという
 ことです。
 そのポイントが押さえられていれば、Cから売却を受けたDの立場
 は明確です。もともと、AC間の売買は有効ですから、CDの売買
 も有効です。Cが背信的悪意者であるというのは、Cの個人的事情
 であって、Cを離れた以上、もう関係ありません。
 ただし、今度は、D個人が、AB間の売買について、背信的悪意者
 であれば、BはDに対して、登記なくして、対抗できますが、Dが
 AB間の売買の存在を知っている(悪意)だけでは、Bは登記
 なくしてDに対抗できません。

 したがって、本問は×です。

 ▼ 本事例には、判例があります(最判平成8・10・29・・・・
 H21模範六177条 33 1003頁)。わたしは、この判旨を
 なぞりながら、自分なりに説明しただけです。みなさんも,
 ご自分なりの理屈で、この論理を頭に叩きこんでください。
 
 なお、本肢と同様の問題が、過去問 平成15年度問40において、
 記述式として、出題されていますので、ご注意ください。過去問
 では、同じ問題が肢の一つとして、あるいは独立の問題として、
 出題されているのですね。

 ▼ 本問では、登記の有無については、ふれられていません。
 BにもDにも登記がないときは、有効な売買が二つ成立していて、
 BもDもお互いに対抗できません。どちらか先に、登記をした方
 が、結局優先することになります。
 わたしは、この場合を以下のように、イメージします。

 AB間は点線でつながっている。ACD間も点線でつながっている。
 BかDかいずれか、早くボタンを押した方が、(真赤な)直線で
 つながる。そのボタンが、登記なのです。まるで早押しクイズ
 みたいですね。ただ、登記の方は、ボタンを押しただけで、
 改めてクイズに答えなくても、勝ちです。

 次回に続く。


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   ★【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第8回 】★      
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 2009/1/27

             
             PRODUCE by  藤本 昌一
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【テーマ】 民法・総則

【目 次】 1 民法・総則(無権代理に相続がからむ)
      
      2 解説


 
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■ 民法総則・問題(無権代理と相続))
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 (平成20年度過去問)

 問題 28
 
 
 Aの子Bが、Aに無断でAの代理人としてA所有の土地をCに売却する
 契約を結んだ。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定
 および判例に照らし、妥当なものはどれか。


 1 CはAが追認した後であっても、この売買契約を取り消すことが
できる。

 2 Bが未成年者である場合、Aがこの売買契約の追認を拒絶した
 ならば、CはBに対して履行の請求をすることはできるが、損害賠償
 の請求をすることはできない。

 3 Aがこの売買契約の追認を拒絶した後に死亡した場合、BがAを
 単独相続したとしても無権代理行為は有効にはならない。

 4 Aが追認または追認拒絶をしないまま死亡してBがAを相続した
 場合、共同相続人の有無にかかわらず、この売買契約は当然に
 有効になる。

 5 Cが相当の期間を定めてこの売買契約を追認するかどうかをAに
 対して回答するよう催告したが、Aからは期間中に回答がなかった
 場合、Aは追認を拒絶したものと推定される。
 

 

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■ 解説
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 ◎ 状況把握
 
   
 A所有の土地--------Aの子B------C

 
本人   無権代理人  売買契約
   AーーーーーB−−−−−ーーーC

 ○ BがAに無断でAの代理人としてA所有の土地をCに売却するのは、
 無権代理。(子が、委任状を偽造して親の代理人として、不動産を
 売却するのは、実務上よく生じる事例)

 条文
      
 (無権代理)
                                  ・・
 民法113条1項・代理を有しない者が他人の代理人としてした契約は、
 本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
(親子は他人じゃない、などと、余計なことを考えないこと。
 ここでは、無権代理人たる者以外の者という意味)

 追認・本人は、無権代理人の行為によって、何らの法律効果を
 受けないが、この追認により、代理権があったと同様の効果を生
 じさせることができる。(実際にも、本人にとって、有利だと後
 から分かったなら、追認する方が得。実務上は、親子間で実際に
 代理権の付与があったかどうかは微妙。親は後から、自分の得に
 なれば、追認・不利なら、黙秘して、無権代理により効果を
 受けないということもありがち)


 1と5について。

 無権代理の相手方であるCの取消権は、本人であるAが追認しない
 間である(民法115条本文)から、CはAが追認した後は、取り消
 すことはできない。相手方の取消権は、本人の追認する可能性を
 なくすることだから、本人が追認してしまえば、その可能性をなく
 することもできない。
 
 1の肢は、妥当でない。

 関連事項
 
 (1)相手方が悪意であった(無権代理であることを知っていた)
 場合には、取消権を持たない(115条ただし書き)。

 (2) 相手方には、取消権のほかに催告権が認められている
 (114条)。相手方は本人に対して催告をして法律関係を確定
 させることができる。この相当の期間を定めてする催告に
 対して、回答がなかった場合には、追認を拒絶したものと
 みなされる。

 肢5では、追認を拒絶したものと「推定」されるとなって
 いますが、法文上は「みなす」となっています。
 
 したがって5も妥当ではありません。
 
 みなすは反証を許さないのであって、
 そこが、推定と異なります。
 この点は、「基礎法学」の問題として、過去問平成10年度
 問題47肢1において、問われています。
 
 なお、この催告権は、(1)と異なって、悪意 の相手方にも
 認められていることに注意。

 (以上は、一粒社 民法1参照)

 (3)反対に、相手方が取り消した後、本人は、追認ができるか。
 否であろう。相手方の取り消しは、本人の追認の可能性を
 なくすることだから。


 2について。

 117条2項後段により、履行請求、損害賠償請求もできない。
 この肢は、前回(第3号)のオリジナル問題 問題3の肢4
 と重なりますね。


 
 3と4について。

 これらは、無権代理と相続がテーマになっているので、同時に
 解説することにします。
 
 
 まず、判決(最判昭和37・4・20 模範六法 113条 6 989頁
 前段部分)によりますと、「無権代理人が本人を相続した場合
 には、その無権代理行為は相続とともに当然有効となる」と
 しています。
 つまり、もともと、無権代理人Bは、本人Aの代理人として、
 売買契約を結んだのですから、Aが死亡してAを相続した以上、
 はじめから代理権のある者が行為したのと同視すべきである
 というのが、判例の立場です。考え方としては、Bは、相続
 により本人の追認拒絶権を引き継ぎ、これを行使して、契約
 を無効にするということもできそうです。
 しかし、判例は、信義則上、無権代理人に対し、そのような
 行為を認めませんでした。
 
 
 本人の死亡
 
 ×本人の追認拒絶権を引き継がない。

 ○無権代理人の契約=代理権のある者が行為したのと同視
  
 これを基本判例(当然有効説)として、肢3と4をみて
 みましょう。

 肢3

 BがAを単独相続した場合において、基本判例は、当然有効と
 みますが、これは、本人が追認も追認拒絶もしないままに死亡
 した場合です。生前に、本人Aが追認拒絶していた(113条)
 場合には、無効に確定しこれを、Bが引き継ぐと考えると、
 「無権代理行為が有効になるものではない」ということに
 なります。判例(最判平10・7・17 模六 113条 989頁)
 は、この考えに立ちます。

 したがって、3は妥当であり、これが正解です。
 
 
 なお、本人が生前に追認していた場合には、どうなる
 でしょう。
 この場合には、当然有効ですね。

 

 肢4

 これは、Aが追認または追認拒絶をしないまま死亡した
 場合ですから、基本判例の事例ですが、基本判例が単独
 相続であるのに対し、これは、共同相続の場合です。

 図示します。


 単独相続(基本判例)             

 
             売買契約当然有効
 
 本人A      無権代理人 BーーーーC


 
 
 共同相続
                売買契約当然に有効にならない
                (相続分に相当する部分)
 
 本人A           無権代理人 B−−−−−C
                                 D
                                 E

                  ※BDEは共同相続人

 
 以上の共同相続を判例(最判平5・1・21 模六 113条 9)
 にあてはめますと、下記のとおりです。

 無権代理人Bが、本人Aを、他の共同相続人D・Eとともに
 共同相続した場合、無権代理行為の追認は、共同相続人
 全員B・D・Eが共同して行う必要があるので、無権代理人
 Bの相続分に相当する部分についても無権代理行為が
 当然に有効となることはない。

 つまり、単独相続の場合には、追認があったのと同様の
 効果が認められるが、共同相続の場合には、全員が共同
 して追認を行う必要があることが重視されたのであろう。

 したがって、共同相続人のある場合には、この売買契約
 は当然に有効とならないので、肢4は妥当でない。

 最後に、本問とは直接関係ないですが、さきに掲げた
 基本判例(模六・113条 6)の後段部分が問題
 になります。
 
 それは、「本人が無権代理人を相続した場合」です。
 この場合には「被相続人の無権代理行為は本人の相続に
 より、当然には有効とはならない」ということです。
 つまり、本人は、無権代理人を相続しても、なお、
 追認を拒絶できるということなのでしょう。

 今回は、折角作成した原稿を操作ミスで飛ばしてしまい、
 やり直しに時間がかかりました。その意味では、これは、
 苦心の作です(笑)
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 過去問の詳細な解説について


過去問の詳細な解説とは、過去10年間に行政書士試験に出題された
過去問に対して、私の独自の視点も交えまして詳細な解説を加えていく方法を取ります。

ただ、昨今の行政書士試験は、暗記だけで合格できるような試験ではなく、
法律の深い理解をしていくことが合格するためには
必要になってきますので、少しでもお役に立てれば幸いです


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