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             ★ オリジナル問題解答 《第30回》 ★

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                      PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  会社法

   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■   オリジナル問題 解説
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   問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第116号掲載してある。

 
 ☆ メルマガ第116回はこちら
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   http://archive.mag2.com/0000279296/index.htm
 
 
   
 ★  参考文献

    会社法 神田秀樹 著 ・ 弘文堂
 
  リーガルマインド
  会社法 弥永真生 著 ・ 有斐閣

 
 ● 各肢の検討

   
  ○ アについて

      会社法は定款で定めることを条件として、すべての株式または
  一部の種類の株式の譲渡について会社の承認を要するという形で
  株式の譲渡の制限を認めている(107条1項1号・108条1
  項4号・107条2項1号・108条2項4号)。

     しかし、相続その他の一般承継による株式の取得については、
  定款において、当該会社の承認を要する旨の定めをすることがで
  きない(なお、134条4項参照、株式会社は、そのような者の
  請求による株主名簿の記載を拒むことはできない)。

    ただし、株式会社は、当該株式会社の株式が譲渡制限株式である
    場合に限り、当該株式の取得者に対して当該株式を当該株式会社に
    売り渡すことができる旨を定款で定めることができる(174条)。

 
                             
   被相続人     当該株式会社の株式の相続        取得者(相続人)
    A-------------------------↓-------------------------B
                譲渡制限株式

                     売渡しの請求 ↑
 
                         当該株式会社

     以上の記述に照らせば、本肢は妥当である。
       


  ※ 参考事項

   

 1 平成23年度 本試験問題38 肢 1 (メルマガ116号に
    おいて解説)は、妥当でないものとして、以下のとおり記述する。 

   株式会社は、合併および会社分割などの一般承継による株式の取
   得について、定款において、当該会社の承認を要する旨の定めをす
   ることができる。

   ここで吸収合併を例にとれば(新設合併、吸収分割、新設分割も
    これに準じる)、合併の対価として、消滅会社の株主は持株数に応
    じて存続会社の株式が与えられ、存続会社の株式の取得をするが、
    これに対して当該会社である存続会社の定款において、承認を要す
    る旨の定めをすることができるかどうかは、およそ問題にならない
    と思う。
   
    ×       ○
   消滅会社    存続会社      

    ↓

   株主=存続会社の株式の取得者

   
   これは、合併等の組織再編の過程において処理される問題であっ
    て、定款において、当該会社(存続会社)の承認を要する旨の定め
    をすることが問われるものではないと思う。換言するなら、107
    条1項1号などの適用外の問題であると思う。

   これに対して、本肢における相続その他の一般承継については、
  107条1条1号にいう譲渡に相続が含まれないので、当該会社
   の承認を要する旨の定めをすることができないということでピッ
     タリくる!!

   したがって、さきに掲げた平成23年度の肢は、本来は、つぎの
    ように改められるべきであろう。
   
   株式会社は、相続などの一般承継による株式の取得について、定
    款において、当該会社の承認を要する旨の定めをすることができる。

 2 本肢の場合には、自己株式を取得することができる場合に該当す
    る(155条6号)が、自己株式の取得については、後述する。


  ○ イについて

  承認を受けないでなされた譲渡制限株式の譲渡は、当該株式会社に対
  する関係では効力を生じないが、譲渡の当事者間では有効であるという
 という点については、判例 (最判昭和48・6・15民集27−6−
 700)がある。

  判例(最判昭和63・3・15判時1273−124、最判平成9・
 9・9判時1618−138)《前掲 神田 会社法第14版)は、こ
  れを進めて、本肢のとおり、会社は必ず譲渡前の株主を株主として取
  り扱わなければならないとする。

  
    以上の記述によれば、本肢は判例に照らし、妥当である。

  
  なお、当該株式の譲受け人が、譲渡の当事者間では有効であるというこ
 とを生かしたければ、当該株式会社に対し、当該株式を取得したことにつ
 いて、承認請求をし、承認を受け、その者の請求により、当該株式会社の
 株主名簿に記載してもらい、株式の譲渡について、株式会社に対抗するこ
 とである(137条以下・134条2号・133条・130条1項)。


 ○ ウについて

    株式会社が特定の株主から自己株式を取得する場合には、株主総会
  の特別決議を要する(156条1項・309条2項2号)が、子会社
  から自己株式を取得する場合は、取締役会設置会社にあっては、取締
  役会の決議で足りる。ただし、非取締役会設置会社では、株主総会の
  決議を要するが、この場合は、普通決議で足りる(163条・156
  条1項・309条1項・なお、309条2項2号( )内参照)。         
                  
    
 以上の記述に照らせば、本肢は妥当である。

 

 ※ 参考事項

    1 自己株式とは「株式会社が有する自己の株式」と定義されて
     いる(113条4項)。会社が自社の株式(自己株式)を取得
     するとその結果その株式は自己株式となる。会社法は、株式会
     社が自己株式を取得できる場合を規定する(155条・本肢の
     場合は、同条3号である)《前掲 神田・会社法》

    2 自己株式は出資の払戻しとなり、また会計上自己株式の資産
     性を認め配当規制をしないと債権者を害する等の弊害があるこ
      とが指摘されている(その他の弊害が前掲書神田96頁に3個
     掲載されているが、ここでは省略する)。
    
        3  子会社の定義は、2条3号に規定がある。要するに、親会社
     によって、総株主の議決権の過半数を所有される株式会社を子
          会社という。なお、親会社の定義は、2条4号に規定がある。


 ○ エについて

       親会社をAとし、事業譲渡の譲渡会社をBとし、譲受会社である子
     会社をCとすると、CがBの有するAの株式を譲り受けると、子会社
     であるCが、親会社Aの株式を取得することになり、子会社による親
     会社株式取得の規制に服するようにもみえる(135条1項)。
       しかし、本肢の場合には、135条2項1号の規定する例外事由に
      該当することになるが、135条3項の適用を受けることになる。
   
   
     譲渡会社      事業譲渡        譲受会社
     B---------------------------------------C
                                            (子会社)
     ↓所有
     
    A会社株式
  (親会社)

       
    以上の記述によれば、本肢は、会社法の規定に照らし、妥当で
   ある。
  
  
   ※ 参考事項

   1 前述したように、子会社による親会社の株式取得は原則的に禁
    止されているが(135条1項)、「子会社株式は親会社の資産
    に含まれるから、子会社による親会社株式取得は資本充実(会社
    財産確保)の点から問題がある・・子会社に対する支配力・・
    株価操作や投機的行為・・などの弊害を生ずるおそれがある」
    (前掲リーガルマインド 会社法 65頁)

   2 他の会社の事業の全部の譲渡については、譲渡会社・譲受会社
        いずれにおいても、株主総会の特別決議が必要になる(467条
        1項1号・3号・309条2項11号)。


  ○ オについて

     吸収合併においては、合併後の存続会社が、合併により消滅する会
     社の権利義務を承継することになる(2条29号)。

    本肢において、存続会社をAとし、消滅会社をBとすると、BがAの
   株式を所有していたとすると、合併により、AはBの権利を承継するこ
   とにより自己株式を取得することになる。


                吸収合併
    消滅会社B--------------------------------存続会社A
    
    ↓所有                  ↓
  
   A株式---------------------------------→自己株式

  
  本肢の場合は、155条11号に該当するので、自己株式を取得する
 ことができるが、「相当の時期にその有する自己会社株式を処分しなけ
 ればならない 」という規制はない。
  このような規制があるのは、子会社による親会社株式の取得の場合で
 ある(135条2項)。

  したがって、本肢は、会社法の規定に照らして、妥当でない。

  なお、吸収分割の場合も、本肢に準じて考察できる。

 

---------------------------------------------------------------
 
  妥当でないのは、オのみであるので、本問は、1が正解である。
 
---------------------------------------------------------------

 
 ● 付 言


  本問では、過去問形式に従えば、「妥当でないものはどれか」と問
 われオ(通常は5)が正解ということになるであろう。しかし、本講
 座では、練習のために、正確な知識を試される本形式によった。今の
 段階では、答えが合った、違ったは問題でなく、すこしでも正確な知
 識を取得するように努めるべきだと思う。
  

 

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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           ★ オリジナル問題解答 《第26回》 ★

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  【テーマ】  行政法

   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■   オリジナル問題 解説
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   問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第112号掲載してある。

 
 ☆ メルマガ第112回はこちら
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  ★ 参考図書
 
    行政法入門 藤田宙靖 著 ・ 行政法読本 芝池義一 著

    ・有斐閣発行

  ● 各肢の検討

 
  ○ アについて

      本肢は、平成23年度 問題8 ・肢2(メルマガ第112号
  参照)を参考にしたものである。
  
    いわゆる「宝塚市パチンコ条例事件判決」(最判平14年7月
    9日民集56巻6号1134頁)は、によれば、最高裁は、以下
  のように判決している。

    国または地方公共団体がもっぱら行政権の主体として(つまり
     公権力の行使の主体として)行政上の義務の履行を求める訴訟は、
     そういったことを認める特別の法律の規定がない限り許されない。

 
    当該判決に照らし、本肢は妥当である。

 

  ○ イについて

   本肢は、平成23年度 問題8 ・肢4(メルマガ第112号
  参照)を参考にしたものである。

      行政手続法上、 聴聞・弁明の機会の付与の対象にとされてい
   るのは、処分のうち「不利益処分」であるが、法的拘束力のない
   公表は、「不利益処分」に該当しない。したがって、聴聞はもち
   ろん、「弁明の機会の付与」の対象とされるということはあり得
   ない。

    したがって、以上の記述に従えば、本肢は妥当でない。

  
   ※ 参考事項

    行政手続法上、「弁明の機会の付与」の対象とされている処
   分について。

     処分については、申請に対する処分と不利益処分があるが、
    聴聞の対象になるのは、不利益処分のうちの特定不利益処分
    に限られる(行政手続法第二章・第三章・特に第13条第1
    項第一号イ〜ニ各号)。
    
     これに対し、「弁明の機会の付与」の対象になるのは、
    不利益処分のうちの特定不利益処分以外のものに限られる
    ことに注意(行政手続法第13条第1項第二号・第29条
    以下)。

   ○ ウについて

    本肢は、平成23年度 問題8 ・肢5(メルマガ第112号
   参照)を参考にしたものである。

       「二重処罰の禁止」 は、憲法39条が規定する「重ねて刑事上
      の責任を問はれない」ことを意味すると解されるところ、課徴金
      は、刑罰とは異なる行政上の不利益措置であるから、課徴金と刑
      罰の併科が、「二重処罰の禁止」に抵触することはない。

        以上の記述に従えば、本肢は妥当である。

  
  ○ エについて

        執行罰とは、義務を履行しない義務者に対して心理的強制を加
   えるために、金銭的な罰を科する方法であるが、行政上の強制執
   行の1種類であるから、罰金などの刑罰を併科することが二重処
   罰の禁止に抵触することはなく、許される。

    これに反する本肢は妥当でない。

  ○ オについて

   ここでは、平成21年度問題42・同18年度43(いずれも多
  岐選択式)について、実際に穴埋めを果したえで、本肢と関連する
  ところを抜粋する。

   ▲ 平成21年度

   行政上の義務違反に対し、一般統治権に基づいて、制裁として科
  せられる罰を行政罰という。
  
   行政罰には、行政上の義務違反に対し刑法典に刑名のある罰を科
  すものと、行政上の義務違反ではあるが、軽微な形式的違反行為に
  対し科す行政上の秩序罰とがある。

   秩序罰としては、届出義務違反などに科される過料がある。

   
   ▲ 平成18年度

   ・・行政上の義務の履行確保手段には、間接的強制手段として、
   行政罰がある。その中で秩序罰は、届出、通知、登記等の義務
   を懈怠した場合などに科される罰である。

   
    本肢は、前段は妥当であるが、最後尾の科料が過料であるべ
   きである。科料は刑事罰である(刑法9条参照)。本肢は妥当
   でない。

   ※ 参考事項

   1 平成21年度の文言を要約、図示すると、以下のとおりで
    る。

         
           行政刑罰
    行政罰=
           行政上の秩序罰

   
   2 平成21年度は、行政罰を「制裁として科される罰」として、
    捉えているが、平成18年度は、行政罰を「行政上の義務の履
    行確保手段」としての「間接的強制手段」とみている。
     本肢もまた、後者と同様の立場に立っている。

      3 行政刑罰と秩序罰の手続の違いについては、本欄《第25回》
    で述べたが、再説しておく。


     過料は、刑法に定められている「刑(罰)」ではありません
    から、刑法総則の規定は適用されないと考えられていますし
   (参照、同法8条)、また、その手続も、行政刑罰のばあいの刑
    事訴訟法によるのではなくて、法令に特別の定めがないかぎり、
      「非訴訟事件手続法」161条以下が定めているところによって
       おこなわれるものとされます。また、過料は、そもそも裁判所に
       ゆくことなく行政行為によって一方的に科されることもあります。
       たとえば地方自治法に定める過料がそのよい例です(参照 地方
       自治法15条2項、149条3号、231条の3第3項、255
       条の3など)

       《以上、入門から抜粋》

    
    なお、以上の理解のもとに、もう1度、平成21年度問題42
   全体を読み返せば、スッキリとするであろう。

    
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     本問では、妥当なものは、アとウであるから、正解は2である。

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            ★ オリジナル問題解答 《第22回》 ★

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  【テーマ】  民法

   
    
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 ■   オリジナル問題 解説
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第108号に掲載してある。

 
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  ★ 参考図書
 
     民法 1・ 我妻栄/有泉亨著・勁草書房
 

 
 ◆ 図示
 
  
     A

     ↓ 抵当権《登記》

    甲土地(所有者B)→ C(第三取得者)
                《登記》

  ◆ 論点
 
 
 (1)前者の場合について。

   ズバリ本問前者では、396条の適用の問題になる。すなわち、
  前者のCは、債務者・抵当権設定者以外の抵当不動産の第三取得者
  に該当するため、この者との関係では、抵当権はその担保する債権
  から独立して時効消滅に係る。
   その時効期間は、20年である(167条2項)。

   ※ 参考事項

    ア 前記本文の記述は、396条の解釈によって、自然に導
     くことができるが、同趣旨の判例があることに注意(大判
     昭15・11・26民集19ー2100)。

    イ 396条について、もう少し分析してみると、以下のと
     おりである。
      
      担保物権はその担保する債権が時効消滅しない間は独立
     に消滅時効にかからないのが原則である。抵当権は債務者
     および抵当権設定者に対する関係においてはその原則に従
     うが、前記本文に明らかなように、その他の者である第三
     取得者・後順位権者などの他の債権者に対する関係におい
     ては、債権が消滅時効にかからない間においても、独立に
     消滅時効にかかるものとされるのである。

    ウ 本問の事例では、「被担保債権について時効中断を生じ
     た場合」に限定している それは、以下のような趣旨を含
     むものであることに注意すべきである。

      債権は一般に10年で消滅時効にかかるから(167条
          1項)、本事例のように抵当権が20年で時効消滅するの
          は、債権について時効中断の行われた場合に生ずることに
          なる(147条以下・特に157条参照)。

  (2)後者の場合について

    ズバリ本問後者では、397条の適用の問題になる。すなわち、
      後者のCも、債務者または抵当権設定者以外の者に該当するため、
      Cが抵当不動産について取得時効に必要な条件を具備する占有を
      したときは、抵当権はこれによって消滅する(397条)。

    本事例では、Cは無効であることに善意無過失であった場合に
      該当するので、その時効期間は、10年である(162条2項)。
     
   ※ 参考事項

    ア 397条について、もう少し分析してみると、以下のとお
     りである。  
     
     取得時効は原始取得として完全な所有権を取得させるものだ
        から抵当不動産について取得時効が完成した場合には、抵当権
        を消滅させることにしたのである。また、債務者または抵当権
        設定者を例外としたのは、「みずから債務を負担し、またはみ
        ずから抵当権の負担を受けた者について取得時効による抵当権
        の消滅を認めるのは不穏当だからである」(前掲書)。

    イ 162条2項の適用については、「善意・無過失」である
           ことが要件になっているが、そこで言う「善意」とは、占
           有者が自分の所有に属すると信ずることであり、「 無過失」
          とはこのように信じることについて過失のないことを意味す
     る。
      本事例では、売買に無効原因があるため、所有権は移転し
     ていないが、Cがそのことを知らなかったというのであるか
     ら、以後、甲土地を占有するCは当該土地が自分の所有に属
     すると信じていたのであり、そのように信じることに過失が
     なかったとされているので、本事例では、その点について、
     162条2項適用の要件を満たしていることになる。

  
   ◆ 解答例

    前に掲げた(1)(2)の本文を要約すると、本問の回答例が
   導かれることになる。以下、その過程を示しながら、最後に解答
   例を示すことにする。

    問題文は、「それぞれの場合において、CはAに対して、どの
   ような根拠に基づき、いかなる請求をすればよいか」ということ
   であるから、その質問内容に添って忠実に答えなくてはならない。

    まず、前者の場合については、CはA対して、Aが20年抵当
   権を行使しないことを根拠にして、抵当権の消滅を主張すればよ
   い(厳密には145条の時効の援用である)。

    次に、後者の場合については、Cが平穏に、かつ、公然と甲土
   地を占有したことを根拠にして、所有権の時効取得を主張する
  (前記と同様に145条の時効の援用をする)ことにより、抵当権
   の消滅を主張することになる。

    以上について、文言を省略して、解答例を示すと、以下のとお
   りである。
   
 
   Aが20年抵当権の不行使ため、抵当権の消滅時効。Cが10年甲
      占有のため、所有権の取得時効。(45字)
     

   ◆ 付言

     本問については、1、20年間抵当権を行使しないこと 
    2、抵当権の消滅時効 3、10年間甲土地を占有 4、
    所有権の取得時効 という4つのポイントが記載されてい
    れば、満点ないしはそれに近い点数を稼ぎだすことができ
    るであろう。

     なお、過去問としては、第三者が、抵当不動産の所有権
    を時効 によって取得した場合には、当該抵当権は確定的に
    消滅する(397条)という肢が、妥当なものとして呈示
    されている(平成21年度問題29肢エ)。
  

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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             ★ オリジナル問題解答 《第18回 》 ★

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  【テーマ】  会社法

   
    
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
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 ★ 参考文献
   
  会社法 弘文堂 / 会社法入門 岩波新書 ・ 神田秀樹著

 
 
 ▲  問題 1

 
 ○ 1について

  本肢は、取締役等の第三者に対する損害賠償責任を規定した会
 社法429条からの出題である。

   本条の趣旨

  取締役等がその任務に違反した場合には、本来は会社に対する
  関係で責任を負うにすぎないが、その結果、株主や会社債権者が
  損害を受ける場合を想定し、会社法は、取締役等に会社以外の第
  三者に対する特別の責任を認めたものである(前掲書 会社法)。

  429条1項の前身である改正前商法266条ノ3第1項につ
  いて、最高裁の大法廷判決(最大判昭和44・11・26民集
  23−11−2150)は、取締役の任務懈怠と第三者の損害の
  因果関係について、本肢のように判示しているので、本肢は正し
  い。

  なお、当該判決は、重要判例であるので、その他の判示事項に
  も目を通しておくべきである。

    ちなみに、当該取締役の責任は、第三者に対する責任であるか
   ら、総株主の同意があっても免除できないのは当然である
  (424条参照)。

 
 ○ 2について

    本肢は、847条が規定する株主代表訴訟からの出題である。

   本条の趣旨

  株主代表訴訟とは、
  
  「取締役等の責任は本来会社自身が追及すべきものであるが、
    取締役間の同僚意識などからその責任追及が行われない可能
    性があり、その結果会社すなわち株主の利益が害されるおそ
    れがある。そこで、会社法は、個々の株主に、みずから会社
    のために取締役等に対する会社の権利を行使し訴えを提起す
    ることを認め、この訴訟は『株主代表訴訟』と呼ばれる」

   代表訴訟の対象になるのは、

   取締役等の責任追及(423条1項)・「違法な利益供与が
    なされた場合の利益供与がなされた場合の利益供与を受けた者
    からの利益の返還(120条3項参照)・不公正価格での株式
   ・新株予約権引受の場合の出資者からの差額支払い(212条
   1項・285条1項)である(847条1項)。」
  
  (以上は前掲書)

    本肢では、その対象になっているのは、取締役等の責任追及
  (423条1項)である。

   原告適格として、公開会社以外の会社では6箇月の要件はなく、
  単独株主でよい(847条1項・3項)が、委員会設置会社以外
    の監査役の設置されていない会社が、非公開会社に該当すること
    については、メルマガ104号《   ■  過去問 ・解説 
    ● 総説  B 》 に譲る。

   ただし、その手続として、原則は、会社にその訴えを提起する
    ことを請求することを要するが、その待機期間である60日の期
    間の経過により株式会社に回復することができない損害を生ずる
    おそれがある場合には、株主は代表訴訟を提起できる。

   以上のとおり、直ちに訴えを提起することができる場合がある
    ので、本肢は誤りである。本肢が正解である。


 ○ 3について

   本肢は、株主の権利としての株主の監督是正権・単独株主権に
    該当する取締役等の違法行為差止権が問われている(360条)。

   論点は二つある。

   その一つは、監査役又は委員会が設置されている株式会社は、
    公開会社である場合と非公開会社があるが、本肢の会社は非公
    開会社であるとされているので、行使前6か月の保有期間の要
    件のない単独株主が当該違法行為差止権を行使できる(360
    条2項)。

   その二つは、360条1項によれば、「著しい損害」が生ず
    るおそれがあれば、当該請求ができるが、同条3項によれば、
    監査役設置会社又は委員会設置会社は、「回復することができ
    ない損害」がおそれがある場合にしか、株主は当該請求ができ
    ない。
   その理由は、監査役設置会社又は委員会設置会社では、「著
    しい損 害」が生じるおそれがある場合には、監査役または監査
    委員が差止請求をする権限を有するからである。

   以上により、本肢は正しい。

 
 ○ 4について

   取締役等の責任は、423条1項の任務懈怠が原則であるが、
   特別のルールとして、同条2項において、本肢を内容とする規
   定が規定されているので、本肢は正しい。

 
 ○ 5について

  本肢もまた、423条の任務懈怠の原則に対して、特別ルール
  として規定されたものを列挙したものである。条文を掲げると、
  428条1項・120条4項(  )書き・462条第1項 
  第2項となる。
  
  本肢は正しい。

  その他の特別ルールとしては、利益相反取引をした場合は、取締
  役等について任務懈怠が推定される(423条3項)

 -----------------------------------------------------------------

  以上、誤っている肢は、2であるから、正解は2である。


-------------------------------------------------------------------
   

  ▲  問題 2


  ○ 肢アについて

  328条1項によれば、委員会設置会社以外の大会社で公開会社
 は監査役会を置かなければならないことになっているので、本肢の
 前段は、設置強制であって、「できる」ということではない。
  なお、327条4項参照。ここでいう「監査役」には当然「監査
 役会」も含む。

  また、326条2項によれば、株式会社は、定款の定めによって、
 任意に監査役・監査役会を設置できるので、それ以外の会社では、
「監査役会を置くことはできない」とする本肢は、この点でも正しく
 ない。

  本肢は、正しくない。

  なお、本肢では、以下の重要論点が伏在していることに注意せよ!

   これ(『大会社かつ公開会社』は監査役会設置が義務づけられ
    るの)は、改正前商法で認められていたことでもあり、上場会社
    などの大規模会社ではこのパターンに属することになる。問題は、
   『大会社かつ非公開会社』について、会社法では監査役会をを設
    置 しない道が開かれたことに意義が ある。改正前商法では、大
    会社は必ず監査役会を置かなければならなかったのを改めたので
    ある。例えば、100パーセント子会社などで規模が大きいため
    に大会社に該当するような会社は結構存在するが、そのような会
    社の場合は、 定款で全部株式譲渡制限を定めれば、つまり、非
    公開会社になれば、監査役会を置かなくてもよくなったのである。
    335条3項・390条3項によれば、監査役設置会社では、
    監査役3名以上、半数以上は社外監査役 1名以上は、常勤監査
    役であることが要求されるが、 非公開会社になれば、そのよう
    な負担から解放されるのである (メルマガ104号・余禄欄)。

 ○ 肢イについて

  327条2項により正しい。
   
     本肢では、以下の「余禄欄」参照

 
 美里「はい。327条2項本文では、取締役会設置会社は、(委員
       会設置会社を除いて)監査役を置かなくてはならないことに
       なっていますが、これは監査役会 が設置さ れていても監査
       役が置かれていること相違ありませんから、監査役会設置会
       社を含む 趣旨ですね。しかし、同条ただ し書きでは、公開
       会社でない、会計参与設置会社では監査役を置かなくてもよ
       いのですね」

 先生「すべての会社では、会計参与の設置は任意に可能であるから、
       取締役会+会計参与というパターンはある。しかし、このパ
       ターンが許されるのは、公開会社ではないことのほかに大会
       社でない ことが要求される。大会社の定義は、2条6号に
       規定されているから、これをみておくとよい。それでは、こ
       の大会社でないことはどこから導かれるか?」

 美里「ううん!・・328条2項によれば、公開会社でない大会社
       は、会計監査人設置会社でなくてはなりません。そして、3
       27条3項によれば、会計監査人設置会社は監査役設置会社
       でなくて はなりません。だから、監査役の設置をしなくて
       もよいのは、大会社以外になります」
 
 先生「つまり、取締役会+監査役(監査役会を含む)の例外として、
       取締役会+ 会計参与のパターンが許されるのは、非公開会社
       であって 非大会社である場合にしか許されないことになる。
       改正前商法では、株式会社においては、常に、取締役会+監
       査役が要求されていたが、 会社法が認めるその例外措置に
       ついては、このように限定したものになっていることに注意
       する必要がある・・・・・・・・・」

 ○ 肢ウについて

  監査役の権限

   原則・監査役は、取締役(会計参与設置会社では会計参与を
            含む)の職務の執行を監査する機関である(381条
             1項)。したがって、その職務と権限は、会計の監査
            をを含む業務全般の監査に及ぶ(会計監査を除いた部
            分を「業務監査」と呼ぶこともある)。(前掲会社法)

   例外・公開会社以外の会社(監査役設置会社または会計監査
            人設置会社を除く)では、定款で、監査役の監査権限
            の範囲を会計監査に限定することが認められる
            (389条1項)。

       本肢は、例外の389条1項(  )がきに反する
      ので、正しくない。

 ○ 肢エについて

  本肢は、335条3項の規定どおりであり、正しい。
  「その半数以上」とあるのは、過半数でないことに注意!

  なお、監査役会は、少なくても一人は常勤の監査役を選定しな
  けれ ばならない(390条3項)ことにも注意。

 ○ 肢オについて

  取締役会を置かない場合には、監査役会設置会社にも委員会設置
  会社になることもできない(327条1項2号・3号)ので、本肢
  は正しくない。

 ----------------------------------------------------------------

    以上により、正しいのは、イとエであるから、正解は3である。
    
------------------------------------------------------------------   
 
 
 ▲  問題 3

 
 1について

   公開会社の定義(2条5号)はすこし、ややこしいが、要するに、
 全部株式譲渡制限会社以外の会社である。このような公開会社は、
 327条1項1号によって取締役会設置会社であることが義務づけ
 られている。ちなみに、 この場合、取締役は3名以上であることを
 要する(331条4項)。正しい。

 2について

   327条1項3号により、取締役会設置会社は、委員会設置会社を
 選択できる。ただし、委員会設置会社は、監査役を置くことができ
 ない(327条4項)ので、監査役を置いた取締役会設置会社は、
 委員会設置会社を選択できない。本肢は正しい。
 
 3について

   327条2項によると、委員会設置会社を除いて、取締役会設置
 会社は、監査役を置かなければならない。ただし、公開会社でなく
 て、会計参与を置いている取締役会設置会社は、監査役を置く必要
 はない。なお、当該会社は、大会社以外であることを要する。
  
  その論拠については、前記 ▲  問題 2 ○ 肢イ について
 参照

 本肢は正しい。

 
 4について

    3のとおり、取締役会設置会社は、委員会設置会社を除いて、原
  則として、監査役を置かなくてはならないが、 監査役を置いたた
  め、取締役会設置が義務づけられることはない。
 
   本肢が誤りであり、正解である。

  ただし、監査役会設置会社の場合には、取締役会設置が義務づけ
 られる(327条1項2号)ことに注意。


 5について

  すべての株式会社は、株主総会と取締役が最少限度必要である
(295条以下・236条)が、取締役会または監査役を設置して
  いなくても設立できる。

  本肢は正しい。

 
------------------------------------------------------------------
 

  本問では、誤っているのは4であるから、正解は4である。


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              ★ オリジナル問題解答 《第11回 》 ★

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  【テーマ】  民法
   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 民法オリジナル問題 解説
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第97号に掲載してある。

 
 ☆ メルマガ第97回はこちら↓
   http://archive.mag2.com/0000279296/index.htm
 


 ▲ 問題1

  
  ☆  参照文献

   民法 2  勁草書房


  ◆ 各肢の検討

  
  ○  アについて

     受任者は委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、
       事務を処理すべきである(644条)。

    対価の有無もしくは多少を問わずにこの義務が認められると
      ころに信任関係に基づく委任の本質が現れる(大判大正10・
      4・23・・)。

    したがって、無償の受任者も善管注意義務を負うので、本肢
      は妥当でない。

    ★ 参考事項

     善良な管理者の注意とは、社会人の一般人として取引上要
        求さされる程度の注意。

     自己の財産に対するのと同一の注意とは、その人の注意能
        力を標準としてその人が普通に用いる注意の程度を示す。
                ↓
     
     注意の程度を軽減し責任を軽くするのを妥当とする特殊な
        場合にだけこの程度の注意を標準とする(659条・無償の
        受寄者827条・親権者)。
   
    (前掲書)
 
  ○ イについて

    委任者は、受任者に対して、委任によって損害を被らせない
      ようにする義務がある。そのような委任者の義務として費用前
      払いの義務(649条)がある。

    本肢は妥当である。

  ○ ウについて

    原則→委任は信任関係に立つものであるから、受任者はみずか
              ら事務を処理すべきである。

    例外→任意代理人の復人権の規定を類推して、同一の条件と責
              任のもとに復委任を許すのが至当(104条・105条)。
       判例・通説もこのように解する(前掲書)。

     本肢では、104条の類推により、やむを得ない事由があるとき
    は、第三者をして代わって事務を処理させることができるので、妥
    当でない。

  ○ エについて

    委任契約において、報酬の特約があるときは(648条1項)、
   履行の中途で終了したときでも、本肢の場合には、報酬請求がで
   きる(648条3項)。なお、この点が請負と異なるところであ
     る。

   本肢は妥当である。

  
    ○ オについて

   650条3項が規定する委任者の損害賠償義務は、委任者の責に
  帰すべものかどうかを問わない無過失賠償責任である。
  
   本肢は妥当でない。

------------------------------------------------------------------

   妥当であるのは、イとエであるから、正解は3である

-----------------------------------------------------------------  

  ◆ 付 言

  委任契約に関しては、委任の特質を念頭において、本試験直前に
  条文を読み込んでおくとよい。

 


  ▲ 問題2


  ☆ 参考書籍

   民法2  勁草書房 ・ 民法二 内田貴著  東京大学出版会

 
  ◆ 各肢の検討

   ア・イは、請負の目的物の所有権の帰属に関して、請負人帰属説に
  立つ判例の見解の成否が問われているである。

   
  ◎ アについて
  
   判例は、請負人帰属説に立ちながらも、注文者が材料を提供した
    場合には、注文者に帰属するとする(大判昭7・5・9・・・)。
   この場合には、加工(246条1項ただし書き)の適用はない、

   したがって、本肢は前段は正しいが、後段は誤りであり、全体と
    して、誤りである。

   ☆ 過去問の検討

    建物新築の請負契約に当たり、注文者が材料の全部を供給した
      場合には、特約の有無にかかわらず、注文者に所有権が帰属する。
    (1998年問31・肢1)

    上記判例は「特約がない限り、原始的に注文者に所有権が帰属
      する」としているので、「特約の有無にかかわらず」ではない。

    ×

  ◎ イについて

    建築請負では、注文者の土地の上に請負人が材料を提供して建物
   を建築するのが通常である。
   
    この場合には、請負人が所有権を取得し、引渡によって注文者
   に移転することになる(大判大正3年・12・26・・)。

    以上が、請負人帰属説の骨子である。

    しかし、請負人の材料提供の場合でも、特約があれば、竣工と
   同時に注文者の所有となるというのが、判例である(大判大正
   5・12・3・・)。

    したがって、本肢は正しい。
   
   ☆ 参考事項

    請負人の材料提供の場合のおける、特約について、以下の判例
      が注目される。

    注文者が代金の全部または大部分を支払っている場合には、特
     約の存在が推認され、特段の事情のない限り、建物所有権は完成と
     同時原始的に注文者に帰属する(大判昭和18・7.20・・最判
     昭和44・9・12・・)。

    以上の判例を基準に出題された2002年問29 肢5。

   最高裁判例によれば、仕事完成までの間に注文者が請負代金の大部
  分を支払っていた場合でも、請負人が材料全部を供給したときは、完
    成した仕事の目的物である建物の所有権は請負人に帰属する。

   本肢は、上記判例に照らし、×


   学説の多数は、以下のとおり、注文者帰属説に立つ。

   目的物の所有権に関しては、むしろ当事者の通常の意識を尊重して、
    完成と同時または工事の進捗に応じて注文者に帰属すると考えるべき
    である。


  (以上、前掲書 内田 貴著 参照)

 
  ◎ ウについて

    請負人の担保責任として、瑕疵修補請求権および損害賠償請求権が
    ある。両者の関係は以下のとおりである。

   瑕疵修補請求権→相当の期間を定めて修補できるのを原則とするが、
   瑕疵が重要でなく、しかもその修補に過分の費用を要するときは、
   損害賠償請求権があるだけである(634条1項)

   損害賠償請求権→瑕疵の修補とともにまた修補に代えて、常に請求
   できる(634条2項)。

   (前掲書 民法 2)


      当該瑕疵修補に代わる損害賠償請求権については、本肢のとおり
  の判例がある(最判平9・7・15・・)ので、本肢は正しい。

   
   ☆  関連する過去問について

     請負契約の履行に当たり生じた瑕疵の修補に代わる注文者の
    損害賠償請求権と請負人の報酬請求権は相殺することができる。
   (1998年問31・肢3)

     前記判例は、両者は同時履行の関係にあり、相互に現実の履行
    をなすべき特別の利益はないとして、相殺を認めた。(533条
    ・505条)

     ○


     完成した仕事の目的物である建物に瑕疵があった場合、注文者
    は修補か、損害賠償のいずれかを選択して請負人に請求すること
    ができるが、両方同時に請求することはできない(2002年
    問29・肢5)。

     前記記述に照らし、注文者の選択によるのでもなく、両方同時
    に請求できる。

     ×


  ◎ エについて

    判例によれば、本事例において、「注文者が期日に報酬を提供
   しないときでも、請負人は当然遅滞の責めに任ずべきものである。」
    (大判大正13・6・6・・)とする。

    したがって、本肢は誤りである。


     ☆ 関連する過去問

    請負人が約定期日までに仕事を完成できず、そのために目的物
   の引渡しができない場合でも、報酬の提供がなければ、履行遅滞
   とならない(1998年問31・肢5)。

     前記判例によれば、履行遅滞になるので、×

   ◎ オについて

   本肢は、ウで掲げた請負人の担保責任である瑕疵修補請求権・
  損害賠償請求権と並ぶ契約の解除権に関する問題である。

  契約の解除権→瑕疵が重要なもので、これがため契約の目的を達す
  ることができないときにだけ解除できる。ただし、修補の可能なと
  きはまずこれを請求すべきものと解さねばならない。のみならず、
  建物その他の土地の工作物の請負においては、解除は許されないこ
  とに注意 すべきである(635条)。
 
    (前掲書 民法2 )
  
   
     本肢は、請負の目的物が建物であるから、注文者は解除できない。
  したがって、誤りである。


-----------------------------------------------------------------

  正しいのは、イとウであるから、正解は4である。
   
-----------------------------------------------------------------

 
 ◆ 付 言

   請負については、見過ごされがちであるが、重要論点満載であるので、
  注意されたい。

 

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              ★ オリジナル問題解答 《第9回 》 ★

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  【テーマ】  民法
   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 民法 オリジナル問題 解説
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    問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第95号に掲載してある。

 
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  ▲  問題 1
 

  ★ 総説
                                


 (1)

                  連帯保証→保証人が主たる債務者
                 と連帯することを保証契において
                 約束した場合
   1,000万円
 B---------------→A      
         主たる債務者
                  共同保証→数人の保証人が同一
          C・D     の主たる債務を保証する関係
         連帯保証人
         共同保証人


 (2) 

   C・Dの共同保証人が、連帯保証人でない場合

 

    ◎(1)は、連帯保証と共同保証をからめた問題である。
   これを(2)と比較した場合の検討が本問である。


 ★ 各肢の検討


  ○ 肢アについて

    民法457条は、普通の保証にも連帯保証にも適用されるので
  債務の承認による時効中断の効力(147条3号)は、いずれの
  場合も、保証人C・Dに及ぶ。
 
   主たる債務者に生じた事由は、保証人に及ぶのが原則。
 しかし、時効は各別に進むのが原則。

   そこで、民法は、債権者の立場を考慮して、時効中断の効力は保証
 人に及ぶとして、立法的に解決。
   以上の思考過程は、大切である。
 
    誤り。


 ○ 肢イについて

   保証人に生じた事由は、主たる債務者に影響を及ぼさないのが原則。
 しかし、連帯保証に関しては、458条・434条により、主たる
 債務者に及ぶ。
 
   したがって、普通の保証では、Aに対して、請求による時効中断の
 効力が生じないが、連帯保証では、その効力が及ぶ(民法147条
 1号)。
 
   誤り。
 

 
  ○  肢ウについて

  この問題は、普通の保証、連帯保証を問わず、「保証」の特質から
  論じられる問題。
 
  主たる債務者について生じた事由は、保証人についても効力を生じる
 という付従性の原則からすれば、Aの時効の利益の放棄(146条)の
  効果はC・Dに対しても及ぶようにも思える。

  しかし、時効は各当事者について別々に進行すべきだという原則に照
  らせば、Aが時効の利益を放棄しても、C・Dの債権消滅時効の進行は、
 各別に進行することになる。
  
  判例もまた、以下のとおり判示する。

  主債務者が時効利益を放棄しても、保証人に効力を及ぼさない
    (大判大5・12・25)。

  また、民法448条の法意からすれば、従来の保証人の負担が、
  主債務者の時効利益の放棄により加重されるべきでないといえる。

  したがって、本肢は正しい。

  
 ○ 肢エについて

   その前提として、共同保証人が主たる債務者に対して求償することは
  当然であるので、CがAに求償することは問題ない。

   問題は、連帯保証人間の求償であるが、465条1項(各保証人が
   全額を弁済すべき特約とは共同保証人が連帯保証人でである場合も
   含む取扱である) の適用により、共同保証人間の求償も認めら
  れている。
  
    なお、普通の保証でも、適用条文が異なるだけで、共同保証人
   間の求償が認められている(465条2項・462条)。

   いずれの場合も求償できるので、本肢は正しい。


 ○  肢オについて
 
   普通の共同保証では、各保証人は債務額を全保証人間に平分して
   その一部を保証することになっている(456条)。これを保証人の
   分別の利益という。

   しかし、連帯保証は、この分別の利益を持 たないことを特徴に
   している。

     保証人間に連帯の特約があるとき、主たる債務の目的が不可分な
   ときは分別の利益はない。
   この場合と同様、判例は、連帯保証人が数人あるときも、保証人
   間において、分別の利益を有しないものとした(大判大6・4・28)。

   従って、連帯保証では、Cは1,000万円を返済する義務があるが、
    普通の保証では、分別の利益があるので、平分した額500万円を支払
    えば足りる。

   本肢は誤りである。

 
 《参考事項》

   問題が複雑になるので、ここは飛ばしてもらってもよいが、以下の
   記述に注目せよ!

  連帯保証人が数人ある場合は、各保証人は分別の利益を有しないが、
  保証人間に連帯の特約があるか、商法511条2項の適用がある場合
  でなければ、連帯債務ないしこれに準ずる法律関係は生じない。
  したがって、債権者が保証人の一人の債務を免除しても、他の連帯
  保証人の債務には何の効果も及ぼさないとされる(最判昭和43・11
  15)(勁草書房 2)。(民法437条)


   以上、妥当であるのは、ウ・エであるから、正解は4である。
 

 

 ▲  問題 2
 
  
   ◆ それぞれ長文になっているが、ポイントを押さえれば、正解を導く
   くのは、困難なことではない。各肢について、要点を解説する。


  ◆ 各肢の検討

 
  ○ Aの相談

   時効を援用することのできる者は、時効によって債務を免れた者
  である。これが、本来、民法145条の「当事者」の意味である。

   この当事者について、判例はかつて一般的に狭く解していたが、
  「これらの義務に基づいて義務を免れる者を広く包含する」。
 (勁草書房)
  
  この見地からすれば、物上保証人も、自分の負担する抵当権の
  基礎としての債務の消滅時効を援用して、抵当権を消滅させる
  ことができる(最判昭和42・10・27 最判昭和43・9・26)。

  以上の理解さえがあれば、この問題は正解しうる。

    「できます」に該当する。


 注 関連事項


 (1) 民法166条1項・167条1項により、債権は、権利を
      行使することができる時から10年間行使しないときに時効
   消滅するから、本肢においては、当該債務は、弁済期から
   12年経過になっている。

(2) 民法147条の時効の中断事由があれば、時効は成立しない
    ので、本肢において、その該当事実がないことが記されている。
 

 ○ Bの相談

   民法167条2項によれば、所有権は消滅時効にかからない。
  以上を前提とした下記判決がある

  不動産の譲渡による所有権移転登記請求権は、右譲渡によって生
 じた所有権移転に付随するものであるから、所有権移転の事実が
  存する限り独立して消滅時効にかかるものではないと解すべきで
 ある(最判昭和51・5・25)。

  したがって、私は、知人を相続した乙氏に対して、移転登記を
 求めることはできる。

 関連事項

  同旨判決として、以下のものがある。

  遺留分権利者が減殺請求によって取得した不動産の所有権に基づく
  登記手続請求権は時効によって消滅することはない(最判H7・6・9)。

  これを主題に出題されたのが、平成21年度問題28の「Cの相談」
  である。

  ここで、この判例と「Cの相談」をよく対照されれば、最近の
  本試験の特徴を把握できるであろう。

 
 ○ Cの相談

    本肢は、民法第158条第1項の条文適用問題である。
 
 平成21年11月20日が時効の期間の満了日であるが、その前の
  6箇月以内の間に父に成年後見人がいない。後見人である母が同年
  7月10日死亡したため、後見が終了しているからである。
  この場合には、娘である私が後見人に就任した時から6箇月を
  経過するまでの間は、時効が停止する。私は、同年11月25日
  後見人に就任し、今年の1月20日に返済を求めているから、
 時効停止期間中の返還請求であるから、本肢は「できます」に
  該当する。

 ○ Dの相談

   「Aの相談」と連動する。

  抵当不動産の第3取得者も、自分の負担する抵当権の基礎としての
 債務の消滅時効を援用して、抵当権を消滅させることができる(最
  判昭和48・12・14)
 
 「できます」に該当する。

 その他の解説は、「Aの相談」に譲る。

 ○ Eの相談
 
   本肢は、民法162条1項の取得時効の援用の問題である(民法
145条)。
 
  なお、本肢では、2点に注意すべきである。一つは、土地の時効
 取得者が私に地上権を設定させていたのであるから、162条に
 いう「占有」は、代理占有である(民法181条)
 
  もうひとつは、本肢の中の、これまで紛争になることもなかった
 という記載により、162条の「平穏・公然」が示されている。

   しかし、以上の点は、本肢の前提になっているのであるから、
 実際の本試験では、こだわる必要はない。
 
  本題に移る。

   民法145条の援用の当事者を広く包含するという立場からは、
 以下のように論述される。

 「この見地からは、取得時効につてみると、たとえばAの所有地を
 時効によって取得するBから地上権等の設定を受けたCにはBの
 取得時効の援用権がある。つまり、この場合Bが援用しなければ、
 Cは独自にBの取得時効を援用して、Aに対し、当該の土地の上
 に地上権等を有することを主張できることになる。」(勁草書房)

 
  本肢は、この論述と同じ事案であるから、私は独自に甲氏の取得
 時効を援用して、乙氏の相続人である丙氏に対し、当該土地の上
 に地上権を有することを主張できることになる

 私は土地の明け渡しを拒否「できます」となる。

 関連事項

  この地上権が、賃借権であっても、おそらくは結論は変わらない
 だろう。しかし、平成21年度問題28「Bの相談」のように、
 アパートの賃借となると、時効取得の主張は認められないことに
 なる。

   つまり、当該土地に建物に家を建てた者と当該土地の上に建って
 いる家を借りた者との違いだ!!

   以上のとおり、本問は、いずれも「できます」に該当するので、
 正解は5である。

 ◆ 付言

  いずれについても、素早く事実関係を把握し、論点の抽出・
 ないし適格な条文の適用にに到達しうるよう、日々訓練を行う
 ことが 望まれる。


  ◎ 以上参考書籍 
  
  民法 ・内田 貴 著・東京大学出版会
   
   民法  ・ 我妻栄/有泉亨著・勁草書房

 


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

 【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
       
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 ▽本文に記載されている内容は無断での転載は禁じます。
 
 ▽免責事項:内容には万全を期しておりますが、万一当サイトの内容を
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              ★ オリジナル問題解答 《第3回 》 ★

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                         PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  行政法
   
    
  【目次】    解説

              
   
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■ 行政法・オリジナル問題 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  
 
 
   問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第89号に掲載してある。

 ◆第89号はこちら↓
http://archive.mag2.com/0000279296/20110207150232000.html
 
 ★ 参考書籍 
  
  行政法入門 藤田 宙靖著・ 行政法読本 芝池 義一 /有斐閣

 

 ◆  問題 1


  ▼ 各肢の検討


   ○ アについて。

  最高裁判所は、行政手続法の行政指導の定義に依拠しながら、「一般
 に、行政機関は、その任務ないし所掌事務の範囲内において、一定の
 行政目的を実現するため、特定の者に一定の作為又は不作為を求める
 指導、勧告、助言等をすることができ」る、と判示している(前掲
 読本57頁)。
 
  したがって、アは正しい。

 注
 1 上にいう判決とは、1955(平成7)年2月22日のロッキード
   事件丸紅ルート大法廷判決のことである。
 
 2 定義は、行手法2条6号。行政指導の一般原則の規定は32条1項 。
 
 3 行政機関の任務と所掌事務は、各省の設置法などで規定されている。
 
    環境省設置法は、「環境省は、地球環境保全・・・・・その他の
 環境の保全を図ることを任務とする。」というように環境省の
「任務」を一般的に定め、その具体的内容を「所掌事務」として25項目
 にわたり列挙している。
  ちなみに、最多の所掌事務を誇るのは128項目の国土交通省。次いで
 110項目の厚生労働省。(読本57頁以下)

  ○ イについて。

   アで述べたとおり、「行政機関の任務または所掌事務の範囲」
 において、行政指導が行われるのであり、行政指導については、
 法律ないし条例の授権を要しない。
  また、行政手続条例において、 行政指導について、条例の授権
 を要すると定めることは許されない。
 
  したがって、本肢は妥当でない。

 注
   地方公共団体の行う行政指導には、行手法の規定が適用されないので、
 行政手続条例が定められ、その規定に従うことになる。(法3条3項・
 46条)しかし、その規定において、行政指導に条例の授権を要すると
 定めることは許されないのである。

 

  ○  ウについて。

  ア・イで述べたところで明らかなように、、行政指導は、各省設置法に
 基づく任務ないし所掌事務の範囲で事実上行われる(行手法2条6号・
 32条1項)。

 一般に、法的拘束力を有しないとされている。本肢は妥当である。
 
 
  ○ エについて 

   行政指導の一般原則として、行政指導における不利益取扱いの禁止が
 行手法に規定されている(32条2項)。
 

  問題は、本肢の後段部分である。これは、農業従事者に対する減反の
 行政指導が念頭にあるものと思われる。行政指導に従った者は補助金
 をもらうことができるが、その指導に従わなかった者は、補助金を
 もらえないことが、後者に対する「不利益取扱い」になるのではないか
 という問題である。これについては、行政実務上では、「行政手続法が
 禁止しているのは、『行政指導に従わない者に対する不利益措置』であり
 『行政指導に従った者に対する優遇措置』は別である」という説明が
 なされているようである。(読本160頁)。

   当該行政指導は、不利益取扱いに含まれないとすべきである
 から、本肢は妥当でない。

 
  ○ オについて


   ここでは、行手法33条の規定に関する説明を提示する。

 
 「 建築確認の申請でよく問題になるが、適法な申請であっても、
 当該マンヨンの建築に際し、近隣の苦情のため、適法な申請で
 あっても、その建築確認を受理せず、留保したままで、行政指導
 を続けるということがある。
  この場合において、「『申請者が当該行政指導に従う意思が
 ない旨を表明した』場合には、行政指導を続けることによって
『申請者の 権利の行使を妨げて』はならない、つまり申請者が自己
 の欲する申請をすることを妨げてはならない」ということになる。
(読本161頁)
 つまり、建築確認を受理しなければならないことになる。
 
  なお、このような事案に対して、最高裁判所は、建築確認の
 留保が違法になるための要件の一つとして、「行政指導に対する
 建築主の不協力が社会社会通念上正義の観念に反するものと
 いえるような特別の事情が存在しない」ことを挙げている
(最判昭和60年7月16日)
  
   つまり、近隣住民が当該マンションの建築により受忍の
 限度を超える苦痛を蒙る場合には、適法な建築確認を留保して、
 住民の立場に立って、行政指導を継続することが適法になる
 のであろう。このような行政指導(ほかにも地方公共団体が環境
 保全のなどのために事業者に対する行政指導がある)は、地方公共
 団体によって行われるために、「地方公共団体の行政手続条例では、
 行政指導を尊重すべきことを定めたり、行政指導を広げる規定が
 おかれることがある。」(読本161頁)

 行手法46条にも注意せよ!

  この規定は行手法と同一内容の行政手続条例の制定を求めて
 いるのではない。むしろ法の趣旨にのっとりその地方公共団体
  の独自性を生かした方向での条例の制定が望まれる。

 以上により本肢は妥当である。

 
   以上妥当でないのは、イ・エであるから、正解は3である。


   ▼ 付 言

   最高裁判所の判例もあり、重要論点を含むのは、とりわけ
 オの肢ないしその解説であると、私は思う。

 

 ◆  問題 2

  
  ☆   参照サイト  行政法・審査基準 第27回

     第27回はコチラです↓
   http://examination-support.livedoor.biz/archives/640603.html


   ▲ 総 説

     審査基準とは

      「申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定め
     に従って判断するために必要とされる基準」である(行手法2条8
     号ロ)。

    処分基準とは

   「不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかに
  についてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準」
    である(行手法2条8号ハ)。

   裁量基準

     これらは、「法律で裁量権が認められ、または政令・省令などにも
   十分に具体的な規定がない場合に、行政庁に行政裁量の基準つまり裁
  量基準を作らせ、それを手がかりに審査をするという方法である。」

 ( 前掲読本76頁等参照 )

  ▲ 各肢の検討 

 
    ◎ 肢アについて 
  

  審査基準は、行政立法の一つである。
  
  その行政立法には、2種類がある。その一つが「法規命令」であって、
 これは、法的拘束力を有する。
 もう一つは、「行政規則」であって、法的拘束力を有しない。
 
  審査基準は、「行政規則」に該当する

  したがって、本肢の「処分が違法となることはない」という記述は
 正しい。

 この場合には、憲法14条の平等原則違反に反し、違法となることが
 あるので、本肢の後段の記述も正しい。

 本肢は、全体として、正しい。

   
  ☆ 参考事項

  (1)平成19年度過去問 問題12・肢ウに注目!

   審査基準に違反して申請を拒否する処分をしても、その理由
    だけで処分が違法となることはないが、他の申請者と異なる
    取扱をすることになるため、比例原則違反として、違法となる
    ことがある。

      ×

   比例原則違反ではない。平等原則違反である。

   (2)処分を行う際の裁量基準(処分基準)の「平等原則」をズバリ
   問うたものとして、平成19年度過去問・問題42がある。

     ☆ サイト23回参照

     第23回はコチラです↓
    http://examination-support.livedoor.biz/archives/592220.html

 
  ◎ 肢イについて

   
    本問は、題意が掴みにくい。
  
  平成21年度問題11・肢エにおいて、以下の肢が出題された。

   「 審査基準には、法律に基づき処分の要件を定める政省令は含まれ
  ない。」

    ○ である。

   行手法2条8号イ・ロが手がかりになる。
    まず、イの法律に基づく命令が、「法律に基づき処分の要件を定める
  政省令」に該当する。
  次に、ロには、審査基準が掲げてある。

  イとロが並列して列記されている以上、イには、ロは含まれないことに
   なり正しい。それにしても、なんとも紛らわしい記述である。

  端的に言えば、政省令は、「法規命令」であり、審査基準は、「行政
  規則」であるから、両者は厳然と区別される。


  本肢に戻ろう。ハには、処分基準が掲げらているので、審査基準も処分
 基準も、政省令には含まれないので、本肢は誤りである。

 
   ◎ 肢ウについて

   行手法5条1項と同法12条1項の対比から、審査基準が法的義務と
  されるのに対して、処分基準の設定が努力義務であって、逆である。

  本肢は誤りである。

 
   ☆ 参考事項

  (1) それぞれの公表義務についても、同様に、審査基準が法的義務
     であり(5条2項)、処分基準が努力義務である(12条1項)。

  (2) 行手法5条1項の「・・・とする」文言は、通例は義務づけを
     回避するために用いられるものであるが、処分基準の「・・・・
     努めなければならない」という文言と比較すると、審査基準の
     設定を行政庁に原則として義務づけるものと解釈するのが自然
     である。」(読本220頁参照)

  (3) 処分基準の公表が努力義務にとどまるのは、「処分基準を公表
         すると、場合によっては、違反すれすれの行為が行われたり、処分
         を巧妙に免れる脱法行為が行われたりすることがあることに配慮し  
         たためである。」(読本225頁)。

 
 
  ◎ 肢エについて

       肢ア・エで述べたとおり、両者とも、行政規則に該当するので、
   正しい。

 
   ◎ 肢オについて

      行手法法2条8号ロ・ハによれば、審査基準も処分基準も、 同法39
   条1項のいう「命令等」に該当する。
    したがって、両者を設定するには、行政庁は、原則として、意見公募
 手続 を実施しなければならないが、同法39条4項各号に該当するときは、
  これを実施しなくてもよいとされる。

  以上によれば、本肢は、明らかに誤りである。

 

  本問は、アとエが正しいので、正解は1である。
 

 

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               ★ オリジナル問題解答 《第1回 》 ★

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  【テーマ】  行政法
   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 行政法・オリジナル問題 解説
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】第87号
 に掲載してある。

  ★ メルマガ第87回はこちら↓
 http://archive.mag2.com/0000279296/index.html

 
▲ 問題1   

    ★  総 説
 
   A

   地方公共団体の行政に関して、行政手続法の適用が除外される範囲
   (3条3項)
   
   イ 行政処分・届出→(地方公共団体の機関が定める)条例・規則に
              基づくもの。

   ロ 行政指導→すべてのもの。

 
   ハ 命令等の制定→すべてのもの

 
  注 条例は、地方議会が定める。規則には、地方公共団体の長つまり
  都道府権知事や市町村長が定めるものと教育委員会などの委員会が
    定めるものがある(憲法94条、地方自治法14条1項、15条1項、
  138条の4 2項)。その規則には規程も入る(地自法138条の4 2項
    行手法2条1号)
  上記の「命令等の制定」にある「命令」とは、条例は含まず、規程
    を含む規則が該当する。


  B

  行政処分・行政指導

  イ 3条1項の適用除外類型

   他の法律で定めるのは当然であって、特別の定めではない。

  ロ 3条1項に該当しない類型

   他の法律に特別の定めがあって、行政手続法の規定に抵触する場合
  には一般法と特別法の関係に立ち、他の法律優先(法1条2項)

  届出

   当然ロに該当するため、他の法律が優先。法1条2項には、「届出に
  関する手続」が明確に掲げてある。


 ★ 各肢の検討

     1について。

    法3条3項によれば、総説・Aロに従い、行政指導については、
   行政手続法第4章の行政指導の規定の非適用ということになる。

    これに対して、地方公共団体の機関がする行政処分については、

    行政手続法は、法律に基づく地方公共団体の行政処分には原則
      として適用される。 

        つまり、地方公共団体の機関がする行政処分であって、その根拠
   となる規定が条例または規則に置かれているものでないものについ
   ては、行政手続法が適用される。 
   
   
    したがって、本肢は、「行政指導」には該当しない。誤りである。

   
   2について。

    本肢は、総説B・ロに該当し、1条2項に基づき、他の法律が
   優先する場合が想定されている。
    この場合、たとえば、生活保護法29条の2で、処分について、
   12条と14条を除いて、行手法を適用しない旨規定している。
    したがって、行手法の一部適用を認めることもできる。

    本肢は、誤りである。

   3について。

    3条3項によれば、総説Aイに基づき、根拠が法律の場合、適用
   される。

    本肢は、誤りである。

     
   4について。

    3条3項によれば、総説Aハに基づき、地方公共団体の機関が定
   めるすべての命令に関し、行手法は適用されない。

   本肢は、誤りである。

   
   5について。

        行政手続条例とは

       行手法の適用のないつまり法3条3項により適用除外になる地方
     公共団体の行う「処分・行政指導・届出・規則・規程については
     地方公共団体が『行政運営における公正の確保と透明性の向上を
     図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。』こと
     になっており、(法46条)」(読本)これに基づいて、多くの
     地方公共 団体が制定しているのが、行政手続条例と呼ばれる。

       この手続条例においては、行手法と同一内容の行政手続条例の
   制定を求めているのではない。むしろ、法の趣旨にのっとり
   その地方公共団体の独自性を生かした方向での条例の制定が
   望まれる。

   したがって、行政手続条例が、地方公共団体における行政手続に
  ついて、行政手続法と異なる内容の定めをすることも許されない
  わけではない。

   本肢は、正しい。
 
------------------------------------------------------------------
  
   以上、正しいのは、5であるから、本問の正解は、5である。

------------------------------------------------------------------

  
 ▲ 問題 2 
 

 ◆  総説
 
   (読本219頁図表をアレンジした)
 
                  1 意見陳述手続             

          2 基準設定

         3 理由提示

          4  文書閲覧
    
          
               (前記1 2 3 4に対応)
                                   ↓
               
               1    2    3     4

  ☆  申請に対する処分       

              なし   審査基準  あり    なし
            (ただし       (拒否処分
              公聴会)      について)
                      
 ☆ 不利益処分                   


 (1)「特定不利益処分」   聴聞   処分基準    あり     あり
         
   
                     
 
 (2)「その他の不利益     弁明   処分基準  あり     なし
     処分」


   
 注        

  a 行政処分は、「申請に対する処分」(第2章・2条2号、3号)と
 「不利益処分」(第3章・2条4号)に分かれる。

  b 意見陳述手続については、「申請に対する処分」につき、10条
   の公聴会の規定があるだけで、申請者の意見陳述手続はない。

  c 「不利益処分」における意見陳述手続については、(1)1の聴聞
   を経る場合と(2)1の弁明の機会の付与を経る場合に分かれる。
  
    このうち、丁寧な手続である聴聞は、許認可を撤回したり 資格
   または地位を剥奪するといった相手方に重大な不利益を与える
   不利益処分について行われる。これが(1)の「特定不利益処分」
   であり、13条1項1号に列挙されている。
    
    これに該当しない(2)の「その他の不利益処分」においては、
   略式手続である弁明の機会の付与の手続が採用される。
  (13条1項2号・29条以下)

  以上を総括すると、 行政手続法上、聴聞を経る処分が、(1)
  の「特定不利益処分」に該当し、弁明の機会の付与を経る処分が
(2)の「その他の不利益処分」に該当することになる。


 ◆  各肢の検討
 

 ○ 1について

  5 条と12条参照。逆であり、誤。

  なお、審査基準が法的義務であり、処分基準が努力義務であることに注意。
 処分基準の公表は、悪用されるおそれがあるあるため、努力義務にとどまる。

 ○ 2について

  申請に対する処分については、申請者の意見陳述手続の規定はなく、
 10条に公聴会の定めがあるだけである。 誤。

 ○ 3について

  不利益処分のうち、特定不利益処分(13条1項1号)は聴聞の実施。
 その他の不利益処分には、29条以下の弁明の機会の付与が行われる。
 
 正しい。

 ○ 4について

  申請に対する処分のうち、理由の提示が義務づけられているのは、
 拒否処分だけである(8条)。誤。

 ○ 5について

  文書閲覧の制度が、申請に対する処分に適用がないのは、そのとおり。
 不利益処分については、聴聞を伴う特定不利益処分にのみ、当該制度
 が適用される。その他の不利益処分には、これは、適用されない。
 
 誤り。


  正解は3である。

 

 ◆  参考書籍 
  
 行政法入門 藤田 宙靖著・ 行政法読本 芝池 義一 /有斐閣


  ★ サイト25回参照↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/615913.html

     


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        ★ 過去問の詳細な解説  第 96 回  ★

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  【テーマ】  行政法
   
    
  【目次】    問題・解説

           
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 ■行政法・ 平成22年度・問題8
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   A市は、風俗営業のための建築物について、条例で独自の規制基準を
 設けることとし、当該基準に違反する建築物の建築工事については市長が
 中止命令を発しうることとした。この命令の実効性を担保するための手段
 を条例で定める場合、法令に照らし、疑義の余地なく設けることのできる
 ものは、次の記述のうちどれか。

  1 当該建築物の除去について、法律よりも簡易な手続で代執行を実施
  する旨の定め。

  2  中止命令の対象となった建築物が条例違反の建築物であることを公
   表する旨の定め。

  3  中止命令を受けたにもかかわらず建築工事を続行する事業者に対し
     て、工事を中止するまでの間、1日について5万円の過料を科す旨の
   定め。

  4  市の職員が当該建築物の敷地を封鎖して、建築資材の搬入を中止さ
   せる旨の定め。

  5 当該建築物により営業を行う事業者に対して1千万円以下の罰金を
   科す旨の定め。
 

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 ■ 解説
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  ○ 序説


  本問は、全体として、論点が把握し難いが、単純化すれば、その基準
  になるのは、主に行政代執行法第1条・同法2条および地方自治法14
 条3項である。各肢について検討する。


 ◎ 各肢の検討

  
  ● 肢 1


  条例に基づき、行政庁命じられた義務については代執行ができる(行政
  代執行法第2条第1項カッコ書きにおいて、条例を明示している)。
  したがって、市長の中止命令に反する当該建築物の除去義務は、代替
 作為義務であるから、代執行できる。

  しかし、法律よりも簡易な手続で代執行を実施する旨の規定を条例で
  設けることは、二重の意味で許されない。

  第一には、「法律の範囲内で条例を制定することができる」とする憲
 法の規定に反する(憲法94条なお地方自治法14条1項)。

  第二には、行政代執行法第1条に反する。当該規定の趣旨は以下のと
  おりである。

    地方公共団体に関して言えば、その「行政庁は、行政代執行法の規
 定により代執行ができるし、さらに、個別の法律の規定があれば、そ
 の法律で定められている強制執行を行うことができる。しかし、その
  反面、条例によって強制手段を創設することはできない。」(読本
 139頁)

  つまり、条例によって、簡易な手続による代執行を定めることは、条
 例による強制手段の創設に連なる。

     疑義の余地なく設けることはできない。

 
   ● 肢 3・4について(説明の便宜上、肢2を後に回す)

 
     ★ 強制執行制度

   原則→ 「行政代執行」(行政代執行法2条)


   別の法律の定め→「直接強制」・「執行罰」・「滞納処分」
  (同法1条)
 
 
  執行罰というのは、「義務を履行しない義務者に対して心理的
  強制を加えるために、金銭的な罰を科する方法である」(読本
 132頁))から、肢3がこれに該当する。

  行政上の直接強制とは、「義務者の身体や財産に直接に実力を
  行使して義務を履行させるという方法である」(読本132頁)
 から、4がこれに該当する。

  肢1第二で明らかにしたように、条例によって、強制手段を
  創設できないのであるから、執行罰(肢3)、直接強制(肢4)
 という強制手段の創設を条例で設けることはできない。

   
  いずれも、疑義の余地なく設けることのできるには該当しな
 い。


   ● 肢2


  公表とは、行政が持っている情報を公表することがである。
  
  本肢では、行政処分に従わない者に対する制裁(間接的強制
 手段)としての公表が対象になっているが、この公表というの
 は、刑罰とは異なり、比較的軽い措置である。

  ここにいう公表は、強制執行ではないので、条例で定めても
 前記肢3・4のように、「条例によって、強制手段を創設した」
 ことにはならない。

  また、行政手続条例において、その実効性を確保するために、
 公表の規定を置くことは望ましい(行政手続法46条参照)。
 
  (以上、前掲書参照)

  以上の記述に従えば、本肢は、「疑義の余地なく設けること
 のできるもの」に該当するので、本肢が正解である。


  ● 肢5

  地方自治法第14条第3項によれば、、条例違反の行為に対
 し、その条例中に百万円以下の罰金の規定しか設けられない。

  したがって、本肢の定め疑義の余地なく設けることはでき
 ない。

 
 ▲ 付言


  各肢を素早く比較して、直感的に肢2の「公表」を正解とし、
 あと、時間が余れば、前述した論拠を考察するのも一方法かも
 しれない。
  
  肢1~4の論拠の考察は、結構高度で、それなりに時間がか
 かると思料するから。

 
 
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         ★ 過去問の詳細な解説  第 94 回  ★

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  【テーマ】  民法
   
    
  【目次】    問題・解説

           
 
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 ■  平成22年度問題45(記述式)

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   Aは、Bから金銭を借り受けたが、その際、A所有の甲土地に抵当権が
 設定されて、その旨の登記が経由され、また、Cが連帯保証人となった。
 その後、CはBに対してAの債務の全部の全部を弁済し、Cの同弁済後に、
 甲土地はAからDに譲渡された。この場合において、Cは、Dを相手に
 して、どのような権利の確保のために、どのような手続を経た上で、ど
 のような権利を行使することができるか。40字程度で記述しなさい。
 
  
 
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 ■ 解説
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  ● 図示
                    B 債権者兼抵当権者

         ↓     ↓

    C 連帯保証人    A 債務者兼抵当権設定者

                         甲土地 →  第三取得者 D

 ○ ポイント

    1 連帯保証人Cの債務者Aに対する求償権

    「CはBに対してAの債務の全部を弁済し」たのだから、Cは、
    Aに対して求償権を有する(459条以下・ただし、連帯は問題
       にしなくてよい))。

   2 弁済者CによるBの有する抵当権の行使(500条 ただし、
    Cは≪連帯≫保証人であるから、法定代位になることに注意!
    ・501条本文)

     弁済による代位または代位弁済により、弁済者Cの求償権を
    確実にするため、弁済を受けた債権者Bの有する抵当権を代位
    できるのである。

   3 代位の付記登記

    ア 「保証人の弁済後に第三取得者が生じたときは第三取得者の
         出現前に代位の付記登記をしておかなければ、保証人は第三
         取得者に対して代位できない(501条但書1号・「あらか
         じめ」とはこのような趣旨と解されている)。保証人が弁済
         したから抵当権は実行されないと思って買った第三取得者を
         保護するためである」【後掲 内田民法 参照】。

    イ 弁済の後、付記登記前に、第三取得者を生じたときは、もは
     や代位の付記登記はできない(昭和11・5・19)

    ウ 第三取得者の出現後に保証人が弁済したときは、付記登記は
     不要とされる(昭和41年11月18日)。抵当権付で不動産
         を取得した第三取得者は、もともと抵当権の負担を覚悟してい
     るべきだからである。【後掲 内田民法 参照】。

 

        B Cの代位          時の順序
                 
                 ア 弁済→付記登記→Dの出現
        ↓
                 イ  弁済→Dの出現→付記登記不可

                 ウ Dの出現→弁済→付記登記不要
    C   A  →  D  

    弁済
 

  
  ◎ 本問の解答


      本問の事例は、前記 ○ ポイント 3 イ によれば、付記登記
   不可に該当する。
            ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・
    本問において、「求償権の確保のため、代位の付記登記手続を経た
   ・・ ・・・・・・・・・・・・・・
   上で、抵当権を行使することができる」という解答を求めるならば、
   事例自体を 前記 ○ ポイント 3 ア に変更しなくてはならな
   い。

    つまり、付記登記に関していえば、
    
    Cの弁済後に、甲土地がAからDに譲渡される前に、Cはどのよう
   な手続きを経る必要があるかということが問われなくてはならない。

    もし、

     弁済後、第三取得者Dが出現すれば、この後、付記登記はできないの
    だから、付記登記は、Dの出現前に行うことは当然の前提であるという
       のであれば、正解は前述した、・・・・・・・ということになる。

    しかし、
   
    前述したように、時の順序は本問では重要な論点であるのに、これを
   無視した出題には疑問が残る。また、本問では連帯保証となっているの
   にこれが利いておらず、連帯に特有な論点がないことにも疑問が残る。

 

 ★ 参考文献

  民法三 内田 貴 著・東京大学出版会
   
    民法 2 ・ 我妻栄/有泉亨著・勁草書房
  
 

 

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