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              ★ オリジナル問題解答 《第61回》★

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                 PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】 民法(債権)
   
  【目次】   解説              
   
   問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第161号掲載してある。
  
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■ 解説
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 ★ 参照書籍

  民法 2 勁草書房 / 民法二 内田貴著  東京大学出版会
 
 
 【問題1】  賃貸借


 ● 総 説

    ○ 賃借権の譲渡

   賃借人が賃貸人の承諾を得て賃借権を譲渡したときは、賃借人は
    契約関係を脱退し、賃貸人と譲受人との間に賃貸借が継続する。

  ○ 転貸

   賃借人が賃貸人の承諾を得て転貸したときは、賃貸人と賃借人と
    の間には従前の関係が継続し、賃借人と転借人との間には新たに賃
    貸借関係が生ずる。

  
  ○ 無断譲渡・転貸の効果

   全然無効なのではなく、賃借人と譲受人または転借人との間では
  有効であって、ただ賃貸人に対抗できない。

   これらについては、賃貸人は賃貸借を解除できる。


  以上、民法612条参照。前掲書 参照。


  ○ 各肢の検討

   はじめに
     
      アとエにおいては、転貸が問題になっており、ウとオでは、賃借権
  の譲渡が問題になっている。

   

   ▲ アについて

    賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した
   場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に
   対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の
   履行不能により終了すると解するのが相当である(最判平成9年2月
   25日民集51−2―398)・)。

     妥当である。

   ちなみに、本判決は、平成21年度問題33において、引用された。

   △ イについて

    参照条文 608条2項。
   
       賃借人が賃借建物に付加した増・新築部分が、賃貸人に返還さ
   れる以前に、賃貸人、賃借人いずれの責めにも帰すべきでない事
   由により滅失したときは、特段の事情のない限り、右部分に関す
   る有益費償還請求権は消滅する(最判昭和48・7・17民集27
   7―798)。

        以上の判例に反する本肢は妥当でない。

   ちなみに、本判決は、平成21年度問題32肢エで主題にされた。

   
   ▼ ウについて


    本肢のポイントとして、

    AとBが夫婦関係にあり、協働して経営していた店舗をAが相続し、
   併せて土地の賃借権も相続した場合には、AはCに対して当該賃借権
   を当然対抗できる。

    本件の場合、Aが内縁の妻であるというだけで、Cが賃借権の無断
   譲渡を理由に土地の賃貸借の解除をすることは、Aにとり酷である。

    判例は、当該「借地権譲渡は、これについて賃貸人の承諾がなくて
   も、賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場
   合にあたり」賃貸人による当該土地の賃借権の解除は許されないと判
      示した(最判昭和39・6・30民集18−5―991))。

    したがって、この判決の趣旨に沿う本肢は、妥当である。 

     ● エについて

    肢アとの対比によれば、A・B間の賃貸借契約の解除が賃借人A
      の債務不履行ではなく、合意解除であるという違いがある。

    この場合については、賃貸借契約が合意解除されても、転貸借に
      は影響はなく、転借人の権利は消滅しないとする判決がある(大判
   昭和9・3・7民集13−278)。

    したがって、この判決に従えば、Bは当該賃貸借契約の解除をC
   に対抗できないとになるので、本肢は妥当でない。

    なお、本肢との対比からすれば、Aが賃借権を放棄した場合には、
   BはそれをCに対抗することはできないことになる(398条・
   538条類推)。


  ◎ オについて

       賃借権の譲渡または転貸を承諾しない賃貸人は、賃貸契約を解除
     しなくても、譲受人または転借人に対して明渡しを求めることがで
   きる(最判昭和26・5・31民集5−6−359)。

   無断譲渡・無断転貸の場合には、賃貸人は原賃借との間の賃貸借
    を解除して、賃借人・譲受人・転借人のすべてに対して明渡しを請
  求できるできるだけではなく、原賃借人との間の賃貸契約をそのま
  まにして、譲受人・転借人に対して明渡請求をすることもできるの 
  である(前掲書 参照)

   本肢は妥当である。
   

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   以上、妥当でないのは、イとエであるから、正解は3である。

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 【問題2】  請負


  ◆ 各肢の検討

   ア・イは、請負の目的物の所有権の帰属に関して、請負人帰属説に
  立つ判例の見解の成否が問われているである。

   
  ◎ アについて
  
   判例は、請負人帰属説に立ちながらも、注文者が材料を提供した
    場合には、注文者に帰属するとする(大判昭7・5・9民集11−
  824)。
   この場合には、加工(246条1項ただし書き)の適用はない、

   したがって、本肢は前段は正しいが、後段は誤りであり、全体と
    して、誤りである。

   ☆ 過去問の検討

    建物新築の請負契約に当たり、注文者が材料の全部を供給した
      場合には、特約の有無にかかわらず、注文者に所有権が帰属する。
    (1998年問31・肢1)

    上記判例は「特約がない限り、原始的に注文者に所有権が帰属
      する」としているので、「特約の有無にかかわらず」ではない。

    本肢は、誤りである。

  ◎ イについて

    建築請負では、注文者の土地の上に請負人が材料を提供して建物
   を建築するのが通常である。
   
    この場合には、請負人が所有権を取得し、引渡によって注文者
   に移転することになる(大判大正3年・12・26民録20・1
   208)。

    以上が、請負人帰属説の骨子である。

    しかし、請負人の材料提供の場合でも、特約があれば、竣工と
   同時に注文者の所有となるというのが、判例である(大判大正
   5・12・13民録22−2417)。

    したがって、本肢は正しい。
   
   ☆ 参考事項

    ○ 請負人の材料提供の場合のおける、特約について、以下の判
     例が注目される。

     注文者が代金の全部または大部分を支払っている場合には、特
       約の存在が推認され、特段の事情のない限り、建物所有権は完成と
        同時原始的に注文者に帰属する(大判昭和18・7.20民集22
       ―660、最判昭和44・9・12判時572−25)。

      以上の判例を基準に出題された2002年問29 肢5。

       最高裁判例によれば、仕事完成までの間に注文者が請負代金の大
    部分を支払っていた場合でも、請負人が材料全部を供給したときは、
    完成した仕事の目的物である建物の所有権は請負人に帰属する。

   
          本肢は、上記判例に照らし、妥当でない。

       ○  その他の判例においても、以下のとおり、所有権が注文者に帰
     属すると解するものがある。

      建物建築の注文者が工事の進行に応じて請負代金を分割払いし
          た場合には、引渡しをまつまでもなく完成と同時に原始的に注文
          者に帰属すると解している(最判昭和44・9・12判時572
          号25頁)。

      契約が中途で解約された場合には出来形部分は注文者の所有と
          する条項があるときは、請負人が材料を提供したとしても注文者
          に出来形部分の所有権が帰属する(最判平成5・10・19民集
          47巻8号5061頁)。
   

   ○ 学説の多数は、以下のとおり、注文者帰属説に立つ。

    目的物の所有権に関しては、むしろ当事者の通常の意識を尊重して、
     完成と同時または工事の進捗に応じて注文者に帰属すると考えるべき
     である。


     ◎ ウについて
 
    請負人の担保責任として、瑕疵修補請求権および損害賠償請求権が
    ある。両者の関係は以下のとおりである。

   瑕疵修補請求権→相当の期間を定めて修補できるのを原則とするが、
   瑕疵が重要でなく、しかもその修補に過分の費用を要するときは、
   損害賠償請求権があるだけである(634条1項)

   損害賠償請求権→瑕疵の修補とともにまた修補に代えて、常に請求
   できる(634条2項)。

   (前掲書 民法 2)


      当該瑕疵修補に代わる損害賠償請求権については、本肢のとおり
  の判例がある(最判平9・7・15・・)ので、本肢は正しい。

   なお、634条2項・533条参照。
  

    ☆  関連する過去問について

     請負契約の履行に当たり生じた瑕疵の修補に代わる注文者の
    損害賠償請求権と請負人の報酬請求権は相殺することができる。
   (1998年問31・肢3)

     前記判例は、両者は同時履行の関係にあり、相互に現実の履行
    をなすべき特別の利益はないとして、相殺を認めた。(634条
    2項・533条・505条)

      本肢は、妥当である。


     完成した仕事の目的物である建物に瑕疵があった場合、注文者
    は修補か、損害賠償のいずれかを選択して請負人に請求すること
    ができるが、両方同時に請求することはできない(2002年
    問29・肢5)。

     前記記述に照らし、注文者の選択によるのでもなく、両方同時
    に請求できる。

     本肢は、妥当でない。


  ◎ エについて

    判例によれば、本事例において、「注文者が期日に報酬を提供
   しないときでも、請負人は当然遅滞の責めに任ずべきものである。」
    (大判大正13・6・6民集3−265)とする。

    したがって、本肢は誤りである。


     ☆ 関連する過去問

    請負人が約定期日までに仕事を完成できず、そのために目的物
   の引渡しができない場合でも、報酬の提供がなければ、履行遅滞
   とならない(1998年問31・肢5)。

     前記判例によれば、履行遅滞になるので、本肢は妥当でない。

   ◎ オについて

   本肢は、ウで掲げた請負人の担保責任である瑕疵修補請求権・
  損害賠償請求権と並ぶ契約の解除権に関する問題である。

  契約請求権→瑕疵が重要なもので、これがため契約の目的を達する
 ことができないときにだけ解除できる。ただし、修補の可能なときは
 まずこれを請求すべきものと解さねばならない。のみならず、建物そ
 の他の土地の工作物の請負においては、解除は許されないことに注意
  すべきである(635条)。
  (前掲書 民法2 )
  
   
    本肢は、請負の目的物が建物であるから、注文者は解除できない。
 したがって、誤りである。


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  正しいのは、イとウであるから、正解は4である。
   
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 【問題3】

 
  ◆ 各肢の検討

  ○  アについて

     受任者は委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、事務
      を処理すべきである(644条)。

    対価の有無もしくは多少を問わずにこの義務が認められるとこ
   ろに信任関係に基づく委任の本質が現れる(大判大正10・4・
   23・・)。

    したがって、無償の受任者も善管注意義務を負うので、本肢は妥
   当でない。

    ★ 参考事項

     善良な管理者の注意とは、社会人の一般人として取引上要求さ
        される程度の注意。

     自己の財産に対するのと同一の注意とは、その人の注意能力を
    標準としてその人が普通に用いる注意の程度を示す。
                ↓
     
     注意の程度を軽減し責任を軽くするのを妥当とする特殊な場合
    にだけこの程度の注意を標準とする(659条・無償の受寄者
    827条・親権者)。
   
    (前掲書)
 
  ○ イについて

    委任者は、受任者に対して、委任によって損害を被らせないよう
      にする義務がある。そのような委任者の義務として費用前払いの義
      務(649条)がある。

    本肢は妥当である。

  ○ ウについて

    原則→委任は信任関係に立つものであるから、受任者はみずから
              事務を処理すべきである。

    例外→任意代理人の復代理人の規定を類推して、同一の条件と責任
       のもとに復委任を許すのが至当(104条・105条)。
       判例・通説もこのように解する(前掲書)。

    本肢では、104条の類推により、やむを得ない事由があるとき
   は、第三者をして代わって事務を処理させることができるので、妥
   当でない。

  ○ エについて

   委任契約において、報酬の特約があるときは(648条1項)、
  履行の中途で終了したときでも、本肢の場合には、報酬請求がで
  きる(648条3項)。なお、この点が請負と異なるところである。

   本肢は妥当である。

  ○ オについて

   650条3項が規定する委任者の損害賠償義務は、委任者の責に
  帰すべものかどうかを問わない無過失賠償責任である。
  
   本肢は妥当でない。

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   妥当であるのは、イとエであるから、正解は3である

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 【問題4】   債権者代位権の転用

  判例は、Xが土地の賃借権について対抗要件を備えていれば、 
 不法占有者に対して、土地の明渡を請求できることを認める
 (最判昭28・12・18民集7−12−1515)。)

  また、Xが土地の引渡しを受けていれば、占有回収の訴えに
  より、不法占有者に対して、土地明渡請求ができる(200条
 1項)。

  しかし、本問では、Xは、土地の引渡しを受けず、対抗要件
 も備えていないので、423条の債権者代位権の行使の可否
 が問題になる。判例は、債務者の無資力を要件としない、「債
 権者代位権の転用」を肯定している。

  また、本問では、賃借権を保全するための代位の目的である
 権利を明確にしなくてはならないが、ここでは、所有物を奪わ
 れた場合の所有物返還請求権を挙げることができる、

  以上の記述に従って、解答例として、以下のとおり提示し得
 る。
 
  
   XはYに対して、当該土地賃借権を保全するため、


    Aに代位してAの有する所有物返還請求権
    を行使し、土地の明け渡しを請求できる。

      38字
 
   本問では、「代位」「所有物返還請求権」「明け渡し請求」
  が明確に呈示されることがポイントになるであろう。


    ※ 

 (1)土地の賃借権に関する対抗要件については、本問では、
   賃借権の登記が挙げられているが(民法605条)、そ
   のほかに借地権者が登記されている建物を所有する場合
   にも当該土地の賃借権の対抗力が認められる(借地借家
   法10条1項)ことに注意する必要がある。

 (2)423条の債権者代位権の行使に関し、判例は、債務
   者の無資力を要件としない、「債権者代位権の転用」を
   肯定している旨前述したが、当該判例の要旨を以下に掲
   げる。

   その1 特定物に関する債権を保全するために代位権を
   行使するためには、債務者が無資力である必要はない
  (大判明43.7・6民録16−537)。

   その2 建物賃借人は、賃貸人に代位して、建物の不法
   占拠者に対して、直接自己に明渡しをなすべきことを請
   求しうる(最判昭29.9・24民集8−9−1658)。
    この判例の重要ポイントは「直接自己に明渡し」が可
   能ということである。
 
 (3)代位の目的である権利について、さきに、所有物返還
   請求権を挙げたが、本問では、所有物の支配状態を妨害
   された場合の所有物妨害除去請求権を掲げることもでき
   るであろう。

 (4)本問は、過去問の5肢択一式を参考に問題を組み立て
   たが、実際にも、択一式を解くばあいに、各肢について
   論拠を考察しておけば、記述式に対して、応用が効くで
   あろう。


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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