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★ 【過去問・解説 第112回】 ★
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PRODUCED BY 藤本 昌一
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【テーマ】 会社法
【目 次】 過去問・解説
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■ 平成25年度 過去問 問題 40
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会社法上の公開会社における資金調達に関する次の記述のうち、
会社法の規定に照らし、正しいものはどれか。
1 特定の者を引受人として募集株式を発行する場合には、払込金
額の多寡を問わず、募集事項の決定は、株主総会の決議によらな
ければならない。
2 株主に株式の割当てを受ける権利を与えて募集株式を発行する
場合には、募集事項の通知は、公告をもってこれに代えることが
できる。
3 募集株式一株と引換えに払い込む金額については、募集事項の
決定時に、確定した額を決定しなければならない。
4 会社が委員会設置会社である場合には、取締役会決議により、
多額の借入れの決定権限を執行役に委任することができる。
5 募集社債の払込金額が募集社債を引き受ける者に特に有利な金
額である場合には、株主総会の決議によらなければならない。
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■ 解説
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◆ 論点
本問は、会社法上の公開会社における資金調達が主題になっ
ているが、各肢の記述に照らして、論点を抽出する。
★ その1
株式会社における外部資金調達手段の主流は、(1)株
式発行(2)借入れ (3)社債発行 であるが、本問では
これらのすべてがとりあげられている。
(1)に該当するのが、肢1・2・3であり、(2)に該当
するのが、肢4であり、(3)に該当するのが肢5である。
本問に関しては、以上の三つの分類に従って、考察を進める
のが至当である。
★ その2
本問では、公開会社が対象になっているが、これが問題にな
る主たるものは、前記(1)における新株発行の場合において、
募集事項の決定を株主総会の決議によるべきか、取締役会決議
で足りるかが検討される場合である。
◆ 各肢の検討
肢1・2・3では、通常の新株発行が対象になっているが、そ
の概念ないし条文上の構造については、条文や教科書をみただけ
では正確に把握し難いので、私なりに整理して提示したい。
(1)通常の新株発行は、実務上、株主割当て・公募・第三者
割当ての三つに分類される。
公募⇒新株を不特定多数の者に発行する場合
第三者割当て⇒特定の者(通常は一人)に発行する場合
(株主以外の者の者への発行という意味で「第三者」割当
てと呼ばれてきたようであるが、実際には割当てを受け
る者は株主である場合が多い)。
(以上は、後掲書参照)
(2)会社法上において、当該通常の株式発行をどのように規定
しているだろうか。その条文上の構造が重要な視点になる。
一言でいえば、本肢で主題になっている募集事項の決定に
関しては、会社法は、199条〜202条の間に、「株主割
当て」・「公募」・「第三者割当て」が詰め込まれているた
め、会社法に接するわれわれは、混乱を生ずるのである(混
乱を生ずる者が悪いのか、混乱を生じさせた者がわるいのか
という問題である。特定秘密保護法の制定にも繋がるが・・)。
まず、非公開会社においては、原則である「株主割当て」
を規定した202条を切り離して独自に考察するべきである。
株主割当てとは、202条1項・2項が規定するように、
株主に割当てを受ける権利を与えて、既存株主に平等に割当
てる方法である。
この場合には、202条5項によれば、199条1項・5
項が適用されるだけであって、そのほかはすべて自前の20
2条で処理されるのである。ここが、重要なポイントになる。
これに対して、公募・第三者割当てに関しては、199条
〜201条が全面的に適用される。
以上の前提知識を前提にして、以下1〜3の各肢を検討する。
◎ 考察の順序からすれば、最初に肢2を考察する。
ここでは、「株主に株式の割当てを受ける権利を与えて募
集株式を発行する場合」が問題になっているので、「株主割
当て」に関する202条が適用される。
≪もっとも、本問では、公開会社が対象になっているが、非
公開会社において、原則とされている「株主割当て」を公開
会社においても採用できることに留意すべきである(202
条1項・202条3項3号等参照≫
本肢における「募集事項の通知」は、当然「株主割当て」に
関する202条が適用されることになるので、同条4項の通知
の規定が適用される。この場合には、公開会社に適用される2
01条4項は適用されないので、募集事項の通知は、公告をも
ってこれに代えることができない(202条5項参照)。
本肢は、正しくない。
◎ 次に、肢1を考察する
もう一度、前記(1)(2)を読み返してほしい。
(1)では、特定の者を引受人として募集株式を発行する場合
には、第三者割当てに該当すると記述されている。
(2)では、第三者割当てに関しては、199条〜201条が
全面的に適用されると記述されている。
本肢では「特定の者を引受人として募集株式を発行する場合」
であるから、第三者割当てに該当し、公開会社が対象となる本
問においては、201条1項が適用される。したがって、募集
事項の決定は、取締役会の決議によることになる(199条1
項・2項参照)。
したがって、第三者割り当ての場合、募集事項の決定は、株
主総会の決議によらなければならないとする本肢は正しくない。
※ 参考事項
(a)本肢の会社が取締役会設置会社でない場合には、取締役
会の決議によることができないという疑問については、
公開会社は、取締役会が必要という規定(327条1項1
号)によって、一蹴できる。
(b) 非公開会社の募集事項の決定は、株主総会の特別決議に
による(199条1項・2項 309条2項5号・前記
◆ 論点 ★ その2 参照)。ことにも留意をされたい。
(c)本肢では「払込金額の多寡を問わず」と記述されている
ことが気になるが、199条1項2号は、払込金額の多寡
によって区別を設けていない。したがって、非公開会社で
は、株主総会の決議によりまた公開会社では、取締役会の
決議により、それぞれ「募集事項」の一つである払込金額
をその金額の多寡を問わず、決定することになる(なお、
200条による募集事項の決定の委任の場合には、株主総
会では払込金額の下限だけ定めればよい)。
(d)201条1項では、199条3項に規定する場合を除き
となっているが、それは、第三者割当てにせよ、公募にせ
よ新株を「特に有利な払込金額」で発行する場合には、公
開会社においても、取締役会の決議では足りず、株主総会
の特別決議を要することを意味する(既存株主に株式を平
等に割り当てる「株主割当て」に関しては、既述したとお
り、202条が適用されるのであって、ここでは、除外さ
れるのは当然である)。
また、当該有利発行の場合には、株主総会で有利発行を
必要を必要する理由を説明することを要する(199条
3項)。
◎ 最後に肢3を検討する。
たとえば、公開会社において公募で株式発行する場合、19
9条1項2号の募集株式一株と引換えに払い込む金額について、
既存の株主の利益を害しないため、公正でなければならず、株式
の時価を基準としなければならない。このように、市場価格のあ
る株式を公正な価格で発行する場合は取締役会決議では「公正な
価格による払込みを実現するために適当な払込金額の決定の方法
を定めることができる」(201条2項)。
以上のとおり、公開会社では、発行価格について、募集事項の
決定時に、確定した額を決定しなくてもよい場合もあるので、本
肢は正しくない。
◎ 4の検討
本肢は、取締役会設置会社が委員会設置会社である場合とそうで
ない会社である場合における取締役会の権限の委任については、両
者で明確な違いがある。条文を対比すると、362条4項と416
条4条本文の各条である。当該論点が把握されていれば、本肢は、
正解に達する。
すなわち、
(1)取締役会は業務執行を決定する(362条2項1項)。その
業務執行のうち、一定の法定事項のほか重要な業務執行は、必
ず取締役会で決定しなければならず、定款によってもその決定
を代表取締役にゆだねることができないという趣旨を明確にし
たのが、362条4項である。本肢では、その法定事項である
多額の借財(362条4項2号)がとりあげられている。
(2)これに対して、委員会設置会社の取締役会に適用される41
6条4項本文によれば、同条ただし書に列挙されている事項を
除いて、業務執行の決定の権限を執行役に委任することができ
る。416条4項ただし書には、362条4項は列挙されてい
ないので、委員会設置会社は、取締役会決議により、362条
4項2号の多額の借財の決定権限を執行役に委任することがで
きる。
以上(2)に照らせば、本肢は、正しい。
※ 参考事項
委員会設置会社では、業務執行決定の権限を執行役に委任する
ことができるが、取締役に委任することはできない。実際には、
募集株式発行や社債の募集などを含めて業務決定のほとんどすべ
が執行役に委任されることになると思われる。
委員会設置会社では、執行役は、取締役会決議により委任され
た業務執行の決定をし《その範囲は前記のとおり広汎である》、
業務執行をする(418条)。また、取締役会決議で代表執行役
が選定されるが、その者が対外的代表権を有する(420条)。
これに対して、委員会設置会社の取締役会はの機能は、監督が
中心となるため、その権限も原則として基本事項の決定・執行役
の選任監督等に限定される(以上は後掲書参照)。
◎ 5の検討
新株を「特に有利な払込金額」で発行する場合には、公開会社
においても、取締役会の決議では足りず、株主総会の特別決議を
要する(◎肢1※参考事項(d)参照)。
しかし、募集社債ではそのような規定はないため、取締役会が
決定する(会社法第362条4項5号・676条1項)。
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以上によれば、正しいのは肢4であるから、4が正解である。
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◆ 付 言
本問については、各肢に深入りすればするほど、混乱を生じる。
難問だ!と思う。
◎ 4の検討 ※ 参考事項に記述してある委員会設置会社の
機関の特質について、その一端でも頭にあれば、肢4が正しいら
しいと渡りをつけて、ゴチャゴチャした他の肢を無視して、4を
選択すれば、それでよいのだ ともいえる。
ただし、本問の解説に際しては、過去問を素材とした体系的知
識の習得いう本講座の趣旨に沿って、詳しい説明を行った。厖大
な時間を要した。筆者としては、みなさまの熟読を望む。
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【発行者】 司法書士藤本昌一
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