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            ★ オリジナル問題解答 《第21回》 ★

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                           PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  行政法

   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■   オリジナル問題 解説
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  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第107号に掲載してある。

 ☆ メルマガ第107回はこちら
                      ↓
   http://archive.mag2.com/0000279296/index.htm
 
 
   
  ★ 参考図書
 
     行政法入門 藤田宙靖 著 ・ 行政法読本 芝池義一 著

    ・有斐閣発行 

 
  ※ 本問については、メルマガ第107号 ■ 過去問 解説欄も
  参照されたい。
   
    なお、今回も前回に引き続き、「・・・いくつあるか」方式の
  問題になっているが、最も正確な理解・知識をためすには最適で
  あると思われるこの方式を採用した。
  

 ▲ 各肢の検討 


  ○ 肢ア・イについて

   個別法の中に、損失補償に関する規定がない場合とある場合につ
  いて、考察すると、次のようになる。

   前者である、個別法の中に損失補償に関する規定がない場合には、
  肢アのとおり「憲法に直接基づいて損失補償を請求することが可能
  だと解されている」が、この損失補償の訴訟は実質的当事者訴訟
 (行政事件訴訟法4条後段)に該当する。

   個別法の中に、損失補償に関する規定がある後者の場合には、
    その代表例としての土地収用法が規定する損失補償に関する訴
    訟は、形式的当事者訴訟(行政事件訴訟法4条前段)に該当す
    る。

   その根拠については、メルマガ107号で詳しく説明した。

   以上の記述に従えば、肢アが「実質的当事者訴訟」に該当し、
    肢イが「形式的当事者訴訟」に該当するので、ア・イとも誤り
    である。

 
  ○ 肢ウについて

    免職処分は、行政処分であるから、行政処分については、取
     消訴訟でのみ争うことができるという取消訴訟の排他性の原則
     により、取消訴訟を提起する必要があるし仮の救済をを得るた
   めには、執行停止を求めなければならない(行政事件法44条
     のズバリ適用)。

    換言すれば、本案訴訟が取消訴訟であるときは、仮の救済は
      執行停止であり、公務員としての地位の保全を求める仮処分を
      申請できない。

    以上の記述に従えば、本肢では、処分の取消しの訴えを提起
      なくてはならず(行政事件訴訟法3条2項)、仮処分申請は許
      されず、執行停止を求めなくてはならないので、前段・後段と
      も誤りである。

 

     ○ 肢エについて
 
    免職処分が無効である場合は、取消訴訟の排他性が働かないた
      め、当事者訴訟を提起し、公務員としての身分を求めることがで
      きる(行政事件訴訟法4条後段の実質的当事者訴訟)。

    これに対し、無効確認訴訟(行政事件訴訟法3条第4号)によ
      り免職処分の無効の確認を裁判所に求める方法がある。

     前者である当事者訴訟においては、メルマガ107号で検討
       したように、行政事件訴訟法44条の解釈上、仮処分申請がで
       きるかどうか争いがある。しかし、執行停止制度を利用できる
       のは、後者の無効確認訴訟の場合である(行政事件訴訟法38
    条3項・25条)。

    したがって、本案が実質的当事者訴訟である場合に執行停止の
      申立てができるとする本肢は、誤りである。
         
   
   ○ 肢オについて

        行政事件訴訟法第41条第1項は、取消訴訟の拘束力について
      定めた同法33条1項を準用しているので、実質的当事者訴訟に
   おける原告勝訴の判決は、その事件について、関係行政機関をも
   拘束する。

        本肢は、以上の記述に反するので、誤りである。

        
 -----------------------------------------------------------------
    
   以上のとおり、本問は、各肢全部誤っているので、正解は5である。   

 -----------------------------------------------------------------


  ▲ 付 言

   本問については、答えが合ったかどうかということよりも、メル
    マガ107号解説も参照することにより、、当事者訴訟とその他の
  訴訟形態(仮処分・執行停止も含む)との複雑な関係について、こ
  の機において、充分に納得がゆくように把握されることが肝要だと
  思う。


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

 【運営サイト】http://examination-support.livedoor.biz/
       
 【E-mail】<fujimoto_office1977@yahoo.co.jp>
 
 ▽本文に記載されている内容は無断での転載は禁じます。
 
 ▽免責事項:内容には万全を期しておりますが、万一当サイトの内容を
       使用されたことによって損害が生じた場合でも、
       一切責任を負いかねますことをご了承ください。

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           ★ オリジナル問題解答 《第15回 》 ★

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                      PRODUCED BY 藤本 昌一
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  【テーマ】  憲法/民法

   
    
  【目次】    解説

              
   
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 ■ 憲法オリジナル問題 解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  
 
  問題は、メルマガ・【行政書士試験独学合格を助ける講座】
 第101号に掲載してある。

 
 ☆ メルマガ第101回はこちら↓
   http://archive.mag2.com/0000279296/index.htm
 


  ▲  問題 1

    

  ◆ 参考文献
   
  憲法 芦部 信喜 著  岩波書店


 
 ◆ 総説

  憲法における、「公共の福祉」の用法としては、人権について、

  「『公共の福祉』による制約が存する旨を一般的に定める方式をとって
  いる。
  すなわち、12条で、国民は基本的人権を『公共の福祉のために』利
  用する責任を負うと言い、13条で国民の権利については、『公共の福
 祉 の福祉に反しない限り』国政の上で最大の尊重を必要とすると定める。
    また、経済的自由(職業の自由、財産権)については、『公共の福祉』
  による制限がある旨をとくに規定している(22条・29条)」
 
  (前掲書 96頁)

  以上は、「公共の福祉」に関しての出発点であるから、明確に把握
  しておく必要がある。


  ◆ 各肢の検討

   
      順序不同で、要点を整理しながら、解説を進める。

   ◎ [A説]は、「憲法12条・13条の『公共の福祉』は、人権の外
    にあって、それを制約することのできる一般的原理である」とする。

   この説は、「一般に、『公共の福祉』の意味を・・抽象的な最高
   概念として捉えているので、法律による人権制限が容易に肯定され
   るおそれがすくなくな」いので、 ア  のようにいえる。

   (前掲書 97頁)
   
   ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
   ア は、「A」説に対する、問題点の指摘として、妥当である。

  注 「法律の留保」
   
   ここでは「法律に基づくかぎり権利・自由の制限・侵害は可能と
    いう意味で使われ」ている。

      (前掲書 20頁)

   [A説]によると、22条・29条の「公共の福祉」は、特別の
    意味をもたないことになる。なぜならば、前述した一般的原理で
    ある「公共の福祉」によって、22条・29条の権利も制限され
    るからである。

   ・・・・・・・・・・・・・・・ 
   したがって、オ  は妥当でない。

   オは、[B説]に対する問題点である。

  
  
 ◎  [B説]によれば、「公共の福祉」によって制約が認められ人権は、
  その旨が明文で定められている経済的自由権等に限られるので、12
    条・13条は、訓示的・倫理的な規定であるにとどまる(前掲97
  頁参照)。

   以上のとおり、「13条を倫理的な規定であるとしてしまうと、それ
      ( 注)
  を新しい人権をを基礎づける包括的な人権条項と解釈できなくなるので
    はないか」という問題点が生じる。 
   
           (前掲書 98頁)
   
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
   したがって、イは、B説に対する、問題点の指摘として、妥当である。

  注 「新しい人権」

    13条の規定する「個人尊重の原理に基づく幸福追求権は、憲法に
      に列挙されていない人権の根拠となる一般的かつ包括的な権利であり、
   この幸福追求権によって基礎づけられる個々の権利は、裁判上の救済
      を受けることのできる具体的権利である、と解されるようになったの
      である。判例も具体的権利性を肯定している。」

     参考・最大判 昭和44・12・14・・京都府学連事件

     (前掲書  116頁)


 ◎ [C説]によれば、「この原理は、自由権を各人に公平に保障する
  ための制約を根拠づける場合には、必要最小限度の規制のみを求め
   (自由国家的公共の福祉)、社会権を実質的に保障するために自由権の
   規制を根拠づける場合には、必要な限度の規制を認めるもの(社会国
  家的公共の福祉)としてはたらく。」

    
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  したがって、エは、[C]説の問題点の指摘として、妥当である。


  ウはについては、イ欄で詳述したように、[B]説に対する問題点であ
  って、[C]説に対する問題点ではない。
  [C]説は、憲法規定を問題にせず、「公共の福祉」はすべての人権に
 論理必然的に内在するというのであるから、12条・13条を訓示的
  規定であるとみる必要はない。

   
  ・・・・・・・・・・・・・
  したがって、ウは妥当でない。

  
    以上により、ウとオが妥当でないので、5が正解である。


  ◆ 付 言

   以上の3説の対比は、少し厄介であるが、基本的人権に関する
   基礎知識に属するので、この際、面倒がらずに、要点を把握して
  おく必要がある。


  
 
 
 ▲  問題 2

 

 
 ◆ 参考図書

   民法 1 内田 貴著 財団法人 東京大学出版会

   民法1 勁草書房


  ◆ 本問の検討

  はじめに、 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 13回 と連
  動しているので、こちらを通読願いたい。
 
 ☆サイト13回はコチラです↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/257325.html 

  サイト13回の検討結果をまとめると、以下のようになる。
   


         法定解除=合意解除


       解除前の転売      ・   解除後の転売

    A−−−C        A−−−−C
           ↓
          保護されるには
      登記要         対抗関係
        
   ●結局、先に登記           ●先に登記した
    した方が優先           方が優先

 

 1について。

  法定解除であり、解除後の転売であるから、AとCは対抗関係。
 Aは、登記なくして対抗できない。

   妥当。


 2について。

  合意解除であり、解除後の転売であるから、AとCは対抗関係。
 Aは、登記なくして対抗できない。

 妥当。


 3について。

  合意解除であり、解除前の転売であるから、Cが保護されるには
 Cに登記必要。

 妥当でない。正解。


 4について。

  法定解除であり、解除前の転売であるから、Cが保護されるには
 Cに登記必要。

 妥当。

 5について。

  法定解除か合意解除か不明。どちらでも同じであるから、詮索する
 要なし。解除前の転売であるから、Cに登記必要。Aがさきに登記
 したのだから、Aが優先。

 妥当。


   以上正解は、3である。

 

 
 ▲  問題 3

 

  ◆ 参考図書

  民法 1 内田 貴 著  財団法人 東京大学出版会


 ◆ サイト・民法【 過去問の詳細な解説≪第2コース≫ 第 10回  
    の発展問題である。

  ◇サイト第10回はこちらです↓
   http://examination-support.livedoor.biz/archives/227992.html

  ◆ 総説

  判例によれば、AによるBの詐欺を理由にした取り消し(96条1項)
  後の転売については、Aと買主Cは対抗関係に立たち、先に登記した方が
 優先することになる。177条の適用である。

   しかし、近時の有力説は、94条2項の類推適用説を採用する。

      売却  登記   転売
   A−−−−−−B−−−−−−C
  取り消し    94条2項
  121条    登記の外観を信頼した
  初めから無効  第三者保護


  AとBに通謀があったとは言えないため、虚偽表示が適用される事例
  とは言えないが、「取消後に放置された実体関係に合わない登記の外観
 を信頼した第三者保護」という「権利外観法理」に従って、94条を2
  項類推適用しようというのが、その主張の骨子である(前掲書)。 

  以上のとおり、A説が前者の対抗関係説ともいうべきものであり、
 後者がB説の94条2項の類推適用説であることが明らかになった。


 このことを前提に以下において、各肢を検討する。

 ◆ 各肢の検討


  ○ アについて。

   AとBと先に登記した方が優先するというのは、「対抗問題」のA説
  である。

   ○  イについて

    94条2項の善意の第三者として保護されるには、登記を要しないと
  いうのが通説である。これは、B説である。

   ○ ウについて。

    94条2項には無過失は要求されていないが、権利外観法理に従
     えば、無過失であることを要する、などの議論がある。
   これは、B説である。

    ○ エについて。

    このように、所有権の復帰(移転)があったと扱うことにを前提にした
   場合 に初めて対抗問題とすることができる。A説の立場である。
  
    ○  オについて。

     取り消しの効果である遡及効(始めから無効)を前提にするのは、94条
  2項類推適用のB説である。

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   したっがて、B説は、イ・ウ・オであり、正解は3である。

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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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examination_support at 10:29コメント(0) 

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         ★ 過去問の詳細な解説  第89回  ★

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   【テーマ】

      憲法=内閣と独立行政委員会

      すでに、サイト憲法問題(統治機構)第4回において、掲載済
     みですが、常にその解説が不適切であったことが気になっていま
     した。この機会にその点も改め、改めて解説を行うことにします。
      
       なお、本試験では、近時、憲法に関しては、「考えさせる問題」
     の出題が顕著ですが、この問題もその傾向に沿うものであって、
   今回は、じっくりと取り組んでほしいと思います。
  
  【目次】   問題・解説

           
    【ピックアップ】     
 
     現在、販売されている 行政書士試験直前予想問題【平成22年度版】
   は、時宜にかなった企画だったせいでしょうか、たくさんの方々に購入
  頂きつつあり、深謝いたしております。
 

   ◆藤本式行政書士試験直前予想問題【平成22年度版】はこちら
          ↓↓↓
   http://www.examination-support.com/

  
  この問題集は、長年の本試験研究の成果を踏まえ、私が渾身の力をふ
  りしぼり、以下の意図をもって作成したものですが、そのことが公にな
 り多くの購入者を今もなお、いただいていますことは、光栄であります。
 
  
 1、本試験と同じ形式を採用し、実際にも、来る本試験との重なりを期
    待しました。

 2、特に、【解説欄】に勢力を注ぎ、関連する事項に極力言及し、応用
    力が養成されるようにこころがけました。

 3、89回にもわたる当該「サイト」欄と連動させることにより、体系
    的理解を助けることを目的にしました。

  
  最後にわたしの目下の最大の望みは、1人でも多くの方が、本誌を活用
 され、直前に迫りつつある本試験で合格の栄誉に輝かれることであります。
  
  
 
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 ■ 平成19年度・問題4
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   国家公務員法102条1項が、その禁止対象とする「政治的行為」の
 範囲の確定を、独立行政委員会である人事院にゆだねていることの是非
 をめぐっては、次のようにさまざまな意見があり得る。それらのうち、
 内閣が行う高度に政治的な統治の作用と、一般の国家公務員による行政
 の作用とは質的に異なるという見地に基づく意見は、どれか。

 1 憲法が「行政権はすべて内閣に属する」と規定しているにもかかわ
   らず、公務員の人事管理を内閣のコントロールが及ばない独立行政委
   員会にゆだねるのは、違憲である。

 2 公務員の政治的中立性を担保するためには、「政治的行為」の確定
  それ自体を政治問題にしないことが重要で、これを議会でなく人事院
 にゆだねるのは適切な立法政策である。

 3 人事院の定める「政治的行為」の範囲は、同時に国家公務員法に
   よる処罰の範囲を定める構成要件にもなるため、憲法の予定する立
  法の委任の範囲を超えており、違憲である。

 4 国家公務員で人事官の弾劾訴追が国会の権限とされていることから、
   国会のコントロールが及んでおり、人事院規則は法律の忠実な具体化
  であるといえる。

 5 行政各部の政治的中立性と内閣の議会に対する政治的責任の問題は
   別であり、内閣の所轄する人事院に対して国会による民主的統制が
   及ばなくても、合憲である。

 

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■ 解説
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 ◆ 参考文献

  憲法  芦部 信喜 著  岩波書店 

 ◆ 総 説

  サイト4号における解説は、初期のものであったこともあり、
  肩に力が入りすぎていると同時に、適切でないところも散見さ
 れる。

 ☆サイト4回はこちら↓
 http://examination-support.livedoor.biz/archives/70949.html

  また、本問自体、殊更に難問にする意図も見え隠れしていて、
 必ずしもし題意が明確とはいえないところもあるので、正解を
 導けなくても、他の基本に忠実な問題で、点数を稼げばよいと
 いえる。

  しかし、この問題文の中には、重要な論点が提示されている
  ので、ここで、本問を検討することは、本試験に向け、意味のあ
  ることと思う。

 
 ◆  論点の提示

   1 「行政権は、内閣に属する」(憲法65条)のである。
    そこで、行政権を行使する人事院は、内閣から多かれ少
   なかれ独立して活動している行政委員会に属するので、そ
      の合憲性が問題になる。

  2 人事院の行使する行政権に基づく任務をみた場合、その
      中立性を要求される人事行政と、内閣が行う高度に政治的
      な統治作用とに分かれる。

  3 前者は、本問でいう「一般の国家公務員による行政作用」
      に属するのに対して、後者は、本問でいう人事院に委ねられ
   た国家公務員に対する「その禁止対象とする『政治的行為』
   の範囲の確定」に属する。

 ◆ 各肢の検討


  ○ 1について。

   本肢は、人事院の行う人事行政のみに焦点を置いて、これが
  違憲であるするのであるから、二つの作用が質的に異なってい
  るという見地に基づいていない。

  ○ 2について。

   本肢は、「政治的行為の確定」という「高度の統治作用」
  のみに焦点を合わせて、合憲であるというのであるから、
  二つの作用が質的に異なるという見地に基づいていない。

  ○ 3について。

   本肢は、「政治的行為」の範囲の確定のみを問題とし、違憲
    とするので、同様に二つの作用が質的に異なるという見地に基
  づいていない。

  注 本肢の内容の説明

   ここでは、具体的に何を言っているのか(学者の論争としては、
  ポピユラーな題)を説明すると、以下のとおりである。

  特に「国家公務員による処罰の範囲を定める構成要件」という
 ことが分かり難いところであるが、たとえば、刑法の殺人罪を例
 にとると、処罰の範囲を定める犯罪の内容である「人を殺す」と
  いうことが構成要件である。。
  人事院の定める「政治的行為」の中味もまた、禁止事項であって、
 違反すれば処罰されることになるので、、「処罰の範囲を定める
 構成要件」ということになる。
  そして、憲法第73条6項但し書きによると、法律の委任がなけ
  れば、人を罰することができないのに、法律の委任なしに、人事院が、
 人事院規則で勝手に国家公務員を処罰することは、違憲である。
  以上が本肢の趣旨である。

  ○ 4について。

  本肢は、人事院規則で、人事院が「政治的行為」の範囲を確定
  することのみを問題にし、合憲説をとるものであるから、同様に
 二つの作用が質的に異なるという見地に基づいていない。

  ○ 5について。

   本肢では、国会による民主的統制がポイントになる。

   行政権が内閣に属するということは、内閣における、行政権
  の行使についての国会に対する連帯責任(66条3項)を通じ
  て、人事院に対して、国会による民主的統制が及んでいる必要
    がある。
   したがって、行政各部の政治的中立性の要請を根拠に内閣
   から独立した人事院が人事行政を行うことは違憲である疑いが
  ある。

     これに対して、「政治的行為の確定」という内閣が行う高度
 に政治的な統治の作用は、そもそも国会の民主的な統制になじま
 ないから、内閣から独立した人事院に委ねても合憲である。

  以上の見地は、内閣が行う高度に政治的な作用(「政治的行為」
 の確定)と、一般の公務員による行政作用(行政各部の政治的中立
 性の要請される人事行政)とは質的に異なるということに基づくも
 のである。

   しかし、本肢の記述はいかにも舌足らずであるとともに、不明確
 であり、本肢から前述した趣旨を読み取れというのは無理である。

 そのことが、殊更、本問を難問にしているように思えてならない。

  いずれにせよ、結論としては、1〜4と5との比較検討により、
 本肢を正解にせざるを得ない。


 ◆ 付 言

  本問に関しては、1ないし4の肢は、人事院ないし 行政独立
 委員会の合憲性に関する重要な見解であるので、本問の検討を通
 じて、むしろ、これらを正確に把握することの方が肝要であると
 思う。


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 ■ 平成21年度・問題7
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   衆議院と参議院の議決に一致がみられない状況において、クローズ
 アップされてくるのが両院協議会の存在である。日本国憲法の定めに
 よると、両院協議会を必ずしも開くかなくてもよいとされている場合
 は、次のうちどれか。

 1 衆議院が先議した予算について参議院が異なった議決を行った場合

 2 内閣総理大臣の指名について衆参両院が異なった議決を行った場合

 3 衆議院で可決された法律案を参議院が否決した場合

 4  衆議院が承認した条約を参議院が承認しない場合

 5 参議院が承認した条約を衆議院が承認しない場合
   
 
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■ 解説
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  ◆ 総説

  衆議院の議決が優先される事項

  1 予算の議決(60条2項)

  2 条約の承認(61条)

  3 内閣総理大臣の指名(67条2項)

  ◎ いずれも参議院が異なった議決をした場合は、両院協議会
   を開催。それでも意見が一致しない場合は、衆議院の議決が
   国会の議決に。

    1・2は30日間 3は10日間 参議院が議決しない
   ときも衆議院の議決が国会の議決に。


  4 法律案の議決(59条2項・同条4項)

  ◎ 衆議院が可決し、参議院がそれと異なった議決をするか、
   60日以内に議決しなかった場合、衆議院の3分の2以上
   の多数で再可決すると成立。

   ★ 参考事項

   衆議院だけが持つ権限

  1 予算を先に審議する(60条1項)

  2 内閣不信任案決議ができる(69条)

 
 ◆ 各肢の検討

  ● 総説1・2・3◎によれば、肢1・2・4・5においては、両院
   協議会を必ず開かなくてはならない。

   これは、憲法上開く必要があり、これを必要的両院協議会という
   (憲法1 清宮四郎 有斐閣)。

  ●  総説4◎によれば、肢3では、両院協議会を必ず開かなくても
   よい。

    しかし、法律案の議決にあたり、衆議院が開くことを要求した
      場合、または参議院が要求し、衆議院がそれに同意した場合も開
   かれる(憲法59条3項・国会法84条)。これを任意的両院協
      議会という(前掲書)。


-------------------------------------------------------------

   以上によれば、両院協議会を必ずしも開かなくてもよいとされている
 場合(任意的両院協議会)は、肢3であるので、3が正解である。

-------------------------------------------------------------

  ◆ 付 言

  さきに提示した過去問との比較でいえば、同じ点数なのであるから、
 本問で着実に加点するこが大切である。さきの過去問が当たれば、
  もっけの幸いといえるのかもしれない。


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 【発行者】司法書士 藤本 昌一

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